Handout「自由主義、市場原理、価値観」

⾃由主義、市場原理、価値観
⼭⽥雅⼤
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1 市場化の波とそれに対する態度
市場
何かを交換取引したい⼈たちが互いに⾒つけ取引条件を交渉する場
技術の進歩が可能にする取引の例
• 臓器移植のために必要な臓器の売買
• 額のスペースを宣伝⽤に売る
• ⾏列に⾃分の代わりに並んでもらうために時間給で⼈を雇う
市場化への 3 つの態度
サンデル 市場の過度な濫は共同体の維持に必要な価値観の衰退を引き起こすため、市場の発達・発展は
法的に規制されなければならない。
功利主義 ⾃由な市場は限りある資源、労⼒や時間をもっとも効率よく分配する機能を持つ。いまだ基本
的な⾐⾷住すら満たされていない⼈々が億単位でいる状況では明⽩な悪である。ここではこの考え
⽅についてはこれ以上触れない
⾃由主義 ⼈は何をするか⾃分で決める権利を持ち、この権利を守るのが国家の最も重要な使命である。
サンデルが問題視する⼤抵の市場は容認されなければならない。
2 共同体と価値観
サンデルの懸念
市場における⾏動原理 利⼰的。
健全な共同体における対⼈関係 お互いを⾃分に利益をもたらすかもしれない⼈だけではなく、仲間とし
て認識している。
懸念 市場を⽀配する利⼰的な価値観は、健全な共同体が必要とする価値観と相容れない。
疑問点
• 誰かと取引するからといってその⼈を友⼈や仲間として認識できなくなるわけではない。
• ⾏動を法的に規制しても価値観の変化を⾷い⽌められるとは限らない。
• ⼤切なのは、安易な利⼰主義に流されない価値観を根付ける教育ではないか。
3 ⾃由主義と教育
⾃由主義
理想的な共同体の各構成員は⾃らの判断に基づき⾏動する権利(⾃律権)を持つ。また他⼈の⾃律権を維
持・確保する義務を持つ。
1
懸念
• 特定の価値観を教育によって根付かせることは、⾃由主義に反する。
反論
• 何を選択すべきかを⽰す価値観 vs. どのような⼿続きで選択すべきかを⽰す価値観。
• ⾃由主義においても、教育内容は親や教師の勝⼿ではない。
疑問
教育が⾃由主義的価値観に肩⼊れしたとしても、健全な共同体の維持に必要な価値観な価値観を育むこと
になるのか。
4 ⾃律
⾃分の価値観に基づく判断 vs. ⾃律
例1 銀⾏強盗が⾏員に包丁を突きつけカネを出さなければ殺すぞと脅す。⾏員は⾃分の命と職務のどち
らが⼤切か考え、⾃分の命のほうがより⼤切であり、⾃分の命を守るためにはカネを渡すしかない
と判断し、カネを渡す。⾏員は⾃分の価値観に基づき⾃ら考え判断し⾏動しているが、これを⾃律
した⾏動といえるか。
極論1 ⾏員は⾃らの考えで⾏動している以上、⾏員の⾃律が侵害されていると考えるのは間違い。
極論2 この例が⽰すのは、⾃律した⾏動などはありえないということである。
穏健 ⾃律した⾏動は可能だが、この例におけるような強要・脅迫の類は⾃律と相容れない。
⼼を決める
例2 太郎が⼀郎に今度授業を代わりに担当してくれないかと頼む。⼀郎としては⾯倒くさくて嫌だが、
太郎が強く頼むので同意する。太郎は安⼼して去っていく。
例1との違い ⼀郎は授業を担当すると⼼を決めているが、銀⾏員はカネを渡すと⼼を決めていない。
⼼を決める能⼒の重要性 ⼼を決める能⼒なしでは思考が安定せず、⾏動も安定しないため、⾃律は不可
能となる。⾃律とは⾃らの考えに基づき判断し⼼を決めることである。
5 ⾃律と対⼈関係
⾃律の尊重と相容れない対⼈⾏為の例
• 強要・脅迫
• 搾取
• 誘惑
⾃律の尊重が必要とする対⼈態度
• 相⼿の興味、好き嫌い、価値観等に注意を払う。
• 相⼿についての情報を⾃律の尊重と相容れない⾏為を避けるために使う。
• 相⼿が何かをすると⼼を決めたら、それを尊重する。
• 相⼿に⾃らの興味、好き嫌い、価値観等を開⽰する。
=⇒ これらの対⼈態度は信頼関係の基盤であり、サンデルが⼤切と⽬する⺠主的社会における市⺠同⼠の
仲間意識を特徴づけるものでもある。
2
⾃由主義的市場
• 市場は⾃律している⼈々が取引をする場。
• サンデルが問題視する市場も、需要と供給が存在し誰の⾃律も侵害することなく取引できるのであ
れば成⽴する。
• 各⼈が⾃律しているのであれば、健全な共同体が必要とする対⼈関係を築けなくなる懸念はない。
参考⽂献
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