確 率 (講義:12 月 21 日)1 3.1 確率関数 確率論 (theory of probability) 日常の生活において、ある出来事の結果が分からないが、その結果を数量的に 表現して予測することは可能である。その結果が起こる可能性を示す測度のこ とを確率という。2 そして、偶然の現象を数学的に体系化した理論が確率論です。 ランダムネス(randomness) 何が起きるか確定的に予測できないこと。しかし、ランダムネスには法則性が あると考え、確率論はランダムンネスそのものではなく、ランダムネスの法則 (law of randomness)を扱う数学理論である。 試行 (trial): 実験や観測を行うこと。例えば、コインを何回か投げて、表の出る数を数える。 また、サイコロを 1 回投げて、出る目の数を記述する。出る目の数を変数 X と 定義できる。 標本点 (sample point): ω 試行により起こりうるそれぞれの結果をさす。 標本空間 (sample space) S : 試行により可能なすべての標本点の集合をさす。 標本点を ω と表し、標本空間を S と表すと、ω が S に属するので、ω ∈ S と表す ことができる。 (例1)サイコロを 1 回投げて、出る目の数を標本点とすると、標本空間 S は次の ように定義される。 S={1,2,3,4,5,6} この章は以下の参考文献をまとめました。尾崎俊治『確率モデル入門』 (朝倉書店 1996): 第 1 章 確率、第 2 章 確率変数と分布、1∼46 ページ。森棟公夫『統計学入門』第 2 版(新 世社 2001):第 3 章 確率変数とその分布、79∼120 ページ。山本拓『計量経済学』(新世 社 2001) :付録A 確率、282∼313 ページ。東京大学教養学部統計学教室編『統計学入門』 (東京大学出版会 2002) :第 4 章 確率 67∼86 ページ、第 5 章 確率変数 86∼108 ペー ジ。 2 事象の起こりやすさを定量的に示すもの。 1 1 (例 2)コインを一回投げて、表を1とし、裏を0とした場合、標本空間は、 S = {0,1} となる。 事象 (event) 標本空間の任意の部分集合(標本点より作られる集合)をさす。 (1)根元事象または単純事象 (elementary event) 事象が一つの標本点から成り立っている。 (例) さいころの目の1が出る事象 A:A={1}。 さいころの目の 2 が出る事象B:B={2}。 (2)複合事象 (恐らく、compound event という) 事象が複数個の標本点から成り立っている。 (例) 偶数の目が出る事象C:C={2,4,6} (3)排反事象 (disjoint events または、mutually exclusive events) 2 つの事象が互いに共通な標本点を持たない場合をさす。 (例) 上の例では、事象Aと事象Bをさす。 排反事象ではない場合:事象Bと事象Cをさす。 (4)空事象(empty event) φ(phi) 標本点を一つも含まず決して起こらない事象をいう。 (例)コインを 1 回投げて、表でも裏でもない事象。 この場合の標本空間は S = {0,1}であるが、すべての事象に分解すると、全 事象 Ω は、 {0}、{1}、{0,1}、φ、となる。 和事象(union of events) 二つ以上の事象関して(ここでは二つの事象を考える)、事象Aと事象Bについ て、事象Aまたは事象Bが起こる事象をさす。 定義:事象Aと事象Bの和事象:A∪B(Aカップ B と読む)。 (例) 前のサイコロの例では、事象 A={1}、事象 B={2}でしたから A∪B={1,2} と示す。 2 積事象 (intersection of events) 二つ以上の事象関して(ここでは二つの事象を考える)、事象Aと事象Bについ て、事象Aと事象Bが共に起こる事象をさす。 定義:事象 A と事象 B の積事象:A∩B (A キャップ B と読む)。 (例) 前のサイコロの例では、事象 A={1}、事象 B={2}でしたから A∩B=φ(phi)(φ:「空集合」という意味で、事象が存在しない) と示す。 一つのサイコロを振って、事象 B={2}とし、事象 C =偶数の数とすると、次の答 えはなんですか? 事象 B∩事象 C= 事象の演繹 ベン図(Venn diagram): 事象を表す場合、標本店の数に係らず標本空間を長方形で表し、その他の事象 を内部に円を描いて表す方法。 図2 図1 全体を Ω ={ A, AC } AC ∩ B C A ∩ BC A B AC A A C :事象 A の補事象(complementary event) A と B の和事象: A ∪ B (A union B) A と B の積事象: A ∩ B (A intersection B) 定 義:事象Aについて (1) 0 ≤ P{A} ≤ 1 または、 0 ≤ P ( A) ≤ 1 . (2) P{Ω} = 1 または、 P (Ω) = 1 . 3 AC ∩ B (3) 互いに排反な事象 A1 , A2 ,... に対して ⎧∞ ⎫ ∞ P ⎨U An ⎬ = ∑ P{An } ⎩ n =1 ⎭ n =1 を満たすならば、 P{A}は事象 A の確率と呼ばれる。3 ある事象について、標本空間 S は抽象空間であるので、実数空間 R へ写像(関 数形)する。簡単に言えば、事象を数直線上の線分によって確率を考える。こ れを数学的に、 f : S → R と書く。 (例) 1 枚のコインを投げる(試行)。すると表(H)もしくは裏(T)がでる(標本点と標 本空間)。表(H)の出る事象を、数値で1と表す。このように試行から得られる 標本点のそれぞれを実数値化する。この一連のプロセスを抽象空間である標本 空間から実数空間に写像するという。 試行 コインを投げる。 標本点 H 標本空間 S = {H , T } 実数空間 R への写像 ω1 =1 ω 0 =0 T X ∈ R, X = {1,0} 確率の定義 1.ラプラスの定義 試行の根元事象が全部で N 個あって、それぞれが同程度に確からしい(equally likely)の場合において、事象 A の起こるような根元事象の数が R 個あれば、事 象 A の確率は、 P ( A) = R N と定義される。 2.頻度による確率の定義 事象 A を生みえる試行(実験)を n 回繰り返して、A が n A 回出るとすると、n → ∞ 3 この定義を、確率の公理主義的定義という。東京大学教養学部統計学教室編『統計学入門』 (東京大学出版会 2002):第 4 章 確率 78-79 ページを参照。 4 のとき、 nA →α n とするならば、事象 A の確率を P ( A) = α と定義する。 [ノート] 主観確率 ラプラスの定義や頻度による確率の定義などから得られる事象 A の確率は、誰 が計算しても同一の値を得るので、客観的に決定される。一方、これに対して、 研究者が主観的にある確率を与えて分析を行う方法がある。この方法で与えら れる確率は研究者の情報、知識、経験などによって異なる可能性があり、これ を主観確率(subjective probability)と呼ぶ。 加法定理 1.事象 A と事象 B とが排反事象の場合、 A ∩ B = φであるとする。すると、 事象 A もしくは事象 B の確率は、 P ( A ∪ B ) = P ( A) + P ( B ) となる。 2.事象 A と事象 B とが、 A ∩ B ≠ φの場合には、 P ( A) ∩ P ( B ) = P ( A) × P ( B ) となる。 3.条件付確率 他の事象 B が起こったと分かっている場合に、事象 A の起こる確率を、B を条 件とする A の条件付確率(conditional probability)と呼び、 5 P( A B) と表す。また、 P( A B) = P( A ∩ B) P( B) と定義される。 (例) ある箱の中に白いボールと黒いボールの二種類が入っていて、白いボール は4つあり、それぞれに1から4までの数字が一つずつ書かれている。また、 黒いボールは 2 つあり、1と2の数字がそれぞれに書かれている。ボールが一 つその箱から抜き出されて、その色が白と分かった場合に、そのボールに書か れてある数字が1である確率はなんですか? 式: P(1 white) = P(1 ∩ white) P( white) 4.乗法定理 上の条件付確率を積の形に変形する。 P( A ∩ B) = P( B) P( A B) または P( A ∩ B) = P( A) P( B A) とも書ける。 5.独立事象 (independent events) 事象 A の起こる確率が事象 B に影響されない場合に、 P( A) = P( A B) 6 と定義される。この事象は独立であるという。 もし事象 A と事象 B がお互いに独立である場合には、この積事象の確率を二つ の事象の確率の積として表すことができるので、 P ( A ∩ B ) = P ( A) × P ( B ) と定義される。 もし三つの事象 A,B,C が互いに独立であれば、 P ( A ∩ B ∩ C ) = P ( A) × P ( B ) × P (C ) と定義される。 (例) 一枚のコインと一つのサイコロを同時に投げて、コインの表とサイコロの 数字が1もしくは2の出る確率を計算しなさい。4 6.ベイズ定理 事象 A を得られる方法に、 H 1 , H 2 ,..., H k という k 通りの原因があるとする。こ の場合、A が起こったとき原因が H i である確率を P( H i A) として表すことがで きる。ベイズ定理はこの原因確率を計算する公式を与える。 事前確率(prior probability): P( H i ) 事後確率(posterior probability): P ( H i A) = 4 P( H i A) P( H i ∩ A) P ( H i ) P( A H i ) = P ( A) P( A) 1もしくは2ということは、 1∪ 2 と考える。英語では、either 1 or 2 と表現する。 7 ただし、 P ( A) は次のように定義される。 k P( A) = ∑ P( H j )P( A H j ) j =1 (質問) 箱が二つあり、一つの箱 A には、白球 3 個、赤球 2 個が入っており、 もう一つの箱 B には、白球が 4 個、赤球 1 個が入っている。いずれかの箱から 玉を一つ抜き出したら、その色は白であった。 Q1: その白球は箱 A から抜き出された確率を示しなさい。 7.役に立つ Tree diagram P( A) P(W A) = P( A ∩ W ) W = A= 1 2 R= W = B= (例) 1 2 P( A) P (W A) = P( A ∩ W ) = R= 4 5 1 5 1 3 3 × = 2 5 10 8 3 5 2 5 P( A) P( R A) = P( A ∩ R) P( B) P(W B) = P( B ∩ W ) P( B) P ( R B ) = P ( B ∩ R )
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