ワゴ I/O システム始めるデマンド監視

ワゴ I/O システム始めるデマンド監視
2011年6月
1.はじめに
予測をはるかに超えた東日本大震災の影響は、東日本を中心とする慢性的な電力不足を引き起こし、
日本の産業を揺るがす事態にまで及びました。計画停電の実行が見送られることになったため、一般企業
においては、消費電力削減を求められることとなります。
東北・関東に限らず全国的に電力大量消費型社会を見直すことが求められており、日本のエネルギー
対策として電力消費を抑制していくことは企業・一般家庭を問わず重要課題となってきました。本稿では
ワゴジャパン㈱兵庫サービスセンターで2年前から取り組み始めたデマンド監視を具体例に、利用したシ
ステムの特徴や構成、成果等について解説します。
2.デマンド監視とは
通常の電力監視は、時間単位で何KWhの電力を使っているかを単純計算して表示します。1時間、1日、
1ケ月にどれだけの電力を使ったのかをそのまま積算して電力量を算出します。これに対して「デマンド監視」
は電力会社が基本料金の決定に使っている30分毎の使用電力のピーク値を監視・抑制して、基本料金を下げ
ることを目的としています。
消費電力のピーク値が重要であることは昨今の報道で明らかですが、一般企業に対しては電力使用量の
ピーク値を基準にして基本料金を決めています。一般家庭では、設定された値よりも使用電力が高くなると
ブレーカが落ちてしまいますが、高圧受電を使っている一般企業に対しては電力供給をストップすることは
出来ません。そこで電力会社は、ユーザが30分毎に使用している電力を監視して最大ピーク値に応じてその
ユーザの基本料金を決定するシステムを導入しています。
例えばある 30 分の間に突発的に最大瞬間電力が記録された場合、このピーク値をベースにしてその後 1
年間の基本料金(契約料金)が自動的に決まってしまいます。一度上がってしまった基本料金は、最低1年
間は下がらず、この後はいくらスイッチをこまめに切っても、基本料金は下がりません。需要電力(デマン
ド値)のピーク値によって基本電力料金が決定されるこのシステムは契約電力 500kW 未満の企業、事業所に
適用されます。
電気料金
(電力会社に払う料金)
=
基本料金
デマンド値ピークで決まる
+
電力量料金
使用する電力量で決まる
スイッチをこまめに切っても
スイッチをこまめに切ること
節約できません
によって節約できます
1
図1 ワゴジャパン兵庫サービスセンターの2009年デマンド値推移
(kW)
2009年
デマンド値の推移
300
257kW
2 月以降 1 年間は基本料金が 257kW
で設定される
250
180kW 位 ま で
下げられるか?
200
150
100
50
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
(月)
例えば兵庫サービスセンターのデマンド値のピークは、冬の暖房を使う2月に発生しており、このピーク
値を基準にして以降一年間の基本料金が決まってしまいます。2009年のデマンドピーク値は257kWとなりまし
たが、仮にこのピーク値を180kWまで抑制できたとすると1年間で100万円余りの電気料金の節約となります。
(257kW-180kW) ×
ピーク抑制量
1,323/kW
関西電力
高電圧電力A
×
0.9 ×
力率95%時
12ケ月
=
¥1,100,207
1年分
の割引率
デマンド値のピークで基本料金を決定する方法は、ユーザ側からすると厳しく感じられます。しかし電
力供給側では電力需要のピークに合わせて発電所を建設していますので、電力会社側からみると理に適った
方法であると言えます。
東日本大震災の影響で電力不足が発生したことによってエネルギーに対する意識が高まりつつあります。
一方今後の世界のエネルギー事情等を考慮すると、今までの電力量消費型社会を見直してトータルの電力消
費を抑制していくことは、企業や個人にとって重要な課題であることは間違いありません。先進国日本とし
て世界の手本となるような節電・エネルギー対策を実行していきたいものです。
3.ワゴI/Oシステムを利用した電力監視システムの特徴
デマンド監視が必要とするデータ処理計算はとても簡単です。電力パルスをカウントして、その30分内で
の現在測定値、経過時間を基本データとして30分毎の予測値を計算します。予測値の出し方にも幾つかの方
法がありますが、簡単な一次直線方式であっても充分に予測は可能、小学生でも簡単に計算できる内容です。
高度な計算機は必要無く、警報ランプ等の表示をさせるとしてもPLCで充分です。そこで弊社ではプロ
グラム機能付きの750シリーズを使って計算させ、さらに社内LANを活用してデータを共有させて社内のどの
場所でも同時に警告灯の表示をさせるようなシステムを構築しました。
750シリーズは通信ユニット(バスカプラ)に12mm幅のモジュールを組み立てて様々な種類の信号の入
出力に対できるモジューラー式I/Oシステムです。今回使用したLAN直結型の750-881は以下のような特徴があ
ります。
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①Ethernet-LANに直結
オープンフィールドバスには様々なタイプのものがありますが、今回はEthernet−LANに直結
できるプログラム可能な通信ユニット750-881を使いました。32bitの高速CPU、1Mバイトのプログ
ラム容量を持っています。
②コンパクト設計 ⇒ 省スペース
ワゴI/Oシステムはオープンフィールドバスに接続するI/Oスレーブ機器として開発されていま
す。今回使うモジュールは2chのパルス入力モジュール750-638が一枚、温度入力を追加したい
場合はPT100×2ch入力のモジュールが追加、これに終端モジュールを加えて、制御部だけで手
のひらに収まるサイズです。
③Web機能搭載
通信ユニットはIPアドレスを設定して、そのままEthernet-LANに接続できます。Web機能を活用
してブラウザからモニタ・操作しますので、ネットワーク上のどのパソコンからでもアクセス
できます。パソコン側に専用ソフトウェアをインストールする必要はありません。
ブラウザ
Ethernet
④LED表示等を簡単にネットワーク上に増設可能
デジタル出力モジュールを使ってLED表示の点滅などで警報を出すことが簡単にできます。消費
電力量の予測値と判定基準に応じてLEDで警報を表示します。必要に応じてネットワーク上に
LED表示用の子局を追加していくことができます。赤黄緑のLEDタワーを全員が見えるところに
複数を配置して、点灯・点滅表示させることによって、異なる場所で働いている従業員全員が
同時に、一瞬で状況を把握することが可能です。
3
変電室、電力メータ
親局
<4F 事務所>
電力パルス
子局1 LED 表示
時限パルス
社内LAN
本社
インターネット
<3F 作業フロア>
子局2 LED 表示
VPN
<2F 作業場フロア>
社内LAN
子局3 LED 表示
<1F 倉庫・作業場>
子局4 LED 表示
4
4.導入の効果
ワゴジャパン㈱兵庫サービスセンターでは、2009年に設定されていたデマンド方式による基本料金が
257kWでとなっていたため、まずこのピーク値を抑えることからスタートしました。257kWのデマンドピ
ークの原因は暖房であることは明らかでしたが、30毎のデマンド監視を行うことによって、このピークが
朝の業務開始時(出社時)であることも判明しました。
そこで冬場の暖房対策として、11月∼2月においては出社前からタイマーを使用して各階ごとに時間差
で暖房を開始して、業務開始時刻のピーク値を抑えることを実施しました。例えば以下のように業務開始
前にある程度まで事務所の温度を上げて、目標温度値との温度差を小さくするようにしました。
<業務開始前に時間差で各階の部屋の温度を上げておく>
1) 1F
→ 6:00∼6:30 30分間で温度が2∼3℃上がるように無人運転
2) 2F
→ 6:30∼7:00 30分間で温度が2∼3℃上がるように無人運転
3) 3、4F → 7:30∼8:00 30分間で温度が2∼3℃上がるように無人運転
4)
8:00∼業務開始
デマンド値
(kW)
2009 年 2 月
257kW
2010 年 2 月
257kW
2011 年 2 月
179kW
2009 年
1月
2010 年
1月
2011 年
1月
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その結果、2009年に257kWだったデマンド値は2011年2月には179kWに下がり、この結果としてそれ
以降の基本料金を約100万円削減することが可能となりました。業務開始前に無人運転で部屋の温度を上
げていますので使用電力量は多少増えますが、基本料金を下げることは1年を通じて大きな削減になり
ます。
基本料金の推移
契約電力
基本料金(円)
コストダウン(円)
2009年
257kW
3,334,373
2010年
233kW
3,120,000
-321,373
2011年
202kW
2,720,000
-721,373
2012年
179kW
2,420,000
-1,021,373
(予測)
※基本料金は力率によって異なります。
今回の試みの中で最も大きな役割を果たしたのがLEDタワーによる警告表示です。赤黄緑のLEDタワー
を全員が見えるところに複数を配置して、点灯・点滅表示させることによって、従業員全員が同時に、一
瞬で状況を把握出来るようにしたことが成功のポイントとなりました。もちろんブザーを使って警報を鳴
らすこともできますが、音を出すことは労働環境に悪い影響を与える可能性があったため、今回は視覚の
みの警報にしました。一人一人が能動的にLED表示を認識して、警報が出た時にはお互いにコミュニケーシ
ョンをとるということが自然に行なわれるようになり、各人が電力消費削減に参加しているという意識が
持てたことが大きな成果でした
LEDの点灯・点滅条件はブラウザ経由で簡単に設定することができます。3つの目標値と点滅開始の時
間設定については、必ず職場でのミーティングで協議して決定・変更するようにして参加意識を高めるよ
うにしました。
判断に使う到達目標値の
設定
どの時間で点滅を開始
させるか
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5.電力パルスを取得するには
デマンド監視を行うには電力パルスを取得することが必要ですが、電力会社の管轄によってパルスの
取得方法が異なります。管轄の電力会社に連絡して、取引用電力メータからのパルス取得について相談し
てください。
①取引用電力メータからCTクランプでパルスを取得する方法
電力需給用複合計器からの出力パルスを貫通型のCTで取得して、計量用パルスとして使用します。基本
的には計量用パルスのみで 30 分単位の区切りはデマンド監視システム本体の内部時計に依存します。CT
クランプを使ったパルス検出器は例えば以下のようなものがあります。対応する検出器については管轄
の電力会社へ、仕様詳細はメーカにご確認ください。
電力需給用複合計器
電力パルス
LAN
パルス検出器
(例)
大崎電気製
OCK-7A(北海道・東北・東京・北陸・中国・四国・九州 他)
OCK-6A(北海道・東北・東京・北陸・中国・四国・九州 他)
富士電機
M-システム
PD3
(東北・北陸・中部・中国・四国・九州・沖縄 他)
PD4
(東京)
CLSP-5、M2PP
②電力会社のメータから直接パルスを取得する方法(主に関西電力管内専用複合計器専用)
申請すると有償で電力パルス出力器を設置してもらえます。基本的には時限パルスも出力されていま
す。対応する検出器については管轄の電力会社へ、仕様詳細はメーカにご確認ください。
電力需給用複合計器
電力パルス
LAN
時限パルス
電力パルス変換器
(例)
大崎電気製
OCK-6K
(主に関西電力管内)
富士電機
FX3A、PD3 (主に関西電力管内)
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6.1パルスあたりのkWhの計算方法
電力会社から提供されるパルス定数は、例えば「50000
pulse/kwh」という数字で表現されています。
この値は2次側の仮想1kwhに対するパルス数を示しています。
屋内で使用する電圧は高圧6600V等から変圧しています。例えば6600Vから110Vに変圧しているとすると
電圧比で1/60となり、CTの電流比が50A:5Aとするとこれで1/10、この条件で得られた1kwh相当に対するパル
ス数がパルス定数の値になります。この時、高圧側では1kwh×60倍×10倍=600kwhの電力量になっています
ので実際に計測している電力量とパルスの比は600kwhあたり50000パルス、したがって1パルスあたりの電力
量は12wh/pulseとなります。
申請してパルスを取得する場合は、設置されているCT(Current Transformer)とVT(Voltage Transformer)
の比率、パルス常数の値を電力会社に確認してください。
高圧
6600V
CT
1/10
電力会社の
50V→5A
VT
電力パルス
電力パルス変換器
1/60
6600V→110V
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7.その他の表示機能
①30分内のデマンド値の変化
30分内のデマンド値の変化を積算で表示します。応急の節電対策を行った場合その効果をリアルタ
イムで評価できます。
②一日のデマンド値の変化
30毎のデマンド値が一日の中でどのように推移しているかを表示します。本日が橙色、昨日あるいは
過去の指定された日は緑色で表示されます。
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③温度表示
例えば複数の場所に設置しているLED表示ステーション各々に温度モジュールを付加しておき、通信で
データを共有して一括でグラフ表示する事も簡単にできます。
8.総括
電力・デマンド監視システムについては様々なタイプのものがあります。しかしPLCを活用すればユー
ザでも作ることが可能です。現場に対応した柔軟なシステムを構築するには、やはりユーザ側で変更・追
加できるような機器構成が有利となります。
Ethernetインターフェイスを装備した750シリーズLANを活用することによって、LEDタワーによる警告
表示を複数の異なる作業場所で従業員全員が同時に、一瞬で状況を把握出来るようになりました。
効果的な電力消費削減のためには、一人一人の参加意識と連帯感を育んでいくことが必要不可欠であ
るということが、実際の運用を通して得られた一つの結論です。
以上
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