カメラ・オブスキュラ 『マイ・モードリン・キャリア』

カメラ・オブスキュラ
『マイ・モードリン・キャリア』
「Maudlin=感傷的な、涙もろい」そんな単語をタイトルに据えたカメラ・オブスキュラの新作『My Maudlin
Career』が届いた。「感傷的」、そう聞いて、どんな音楽が思い浮かぶだろう?その答えは、このアルバムを聴け
ば分かるはずだ。カメラ・オブスキュラは、スコットランドはグラスゴーの男女混合5人組インディー・ポップバンド。
1996年に結成された彼らは、若干のメンバー・チェンジを経ながら2001年にデビュー・アルバム『Biggest Bluest
Hi-Fi』を発売する。これがイギリスの人気DJ、ジョン・ピールに絶賛されるなどして人気となり、日本でもポップ・
ファンの間で話題となっていたバンドだ。その彼らが、名門レーベル4ADに移籍して、2006年の前作『Let's Get
Out Of This Country』以来、約3年ぶり、通算4枚目のアルバムとしてリリースするのが、この『My Maudlin
Career』となっている。リード・シンガーで、ソング・ライターでもあるトレイシーアン・キャンベルに、そのアルバム・タ
イトルについて聞いてみた。トレイシーアン(以下T):「私の曲は、悲しくてメランコリックだってよく言われるわ。そう
いう曲たちが、いかに私たちのキャリアを作ってきて、私たちの生活の中心になっているのを考えた時に、タイトル
に「Maudlin」って単語が浮かんだの。もう10年以上もバンドを続けていて、今では世界中でレコードが発売され
ていたり、ツアーをできるようになったわ。バンドを始めた当初は考えもしなかったけど、そうしたキャリアを歩んでこ
れたのはすごくうれしいし、今作で表現できたサウンドにも満足しているわ。今までの作品の中でベストなものに
なったはずよ」そう、彼女の発言からは「Maudlin=感傷的」という言葉が決して後ろ向きではなく、自らのキャリア
を肯定するポジティブな意味で捉えられていることが分かる。そして、彼女が語るようにある意味自分たちのこれ
までのキャリアを見つめ直し、さらに先を見据えて制作されたのがこの新作ということなのだろう。アルバムのプロダ
クション面を見てみると、プロデュースは前作『Let's Get Out Of This Country』も手がけ、ピーター・ビヨーン・
アンド・ジョンやザ・コンクリーツとの仕事でも知られるスウェーデンのプロデューサー、ヤリ・ハーパライネンを再び起
用し、スウェーデンにてレコーディングが行われている。彼の起用に関しても、トレイシーアンに聞いた。T:「彼に
前作を担当してもらった時はすごくうまくいったから、彼とまた1枚、素敵なアルバムを作りたいと思ったの。彼はス
タジオで全体を見渡して、最高のアドバイスをくれて、今回もすばらしい仕事をしてくれたと思うわ。彼がプロ
デュースしたスウェーデンのバンドは好きだし、ピーター・ビヨーン・アンド・ジョンとは友達だしね。ビヨーンは前作と
今作でストリングスのアレンジもしてくれたのよ」ティーンエイジ・ファンクラブ(ドラマーのフランシス・マクドナルドは
現在バンドのマネージャーでもある)、ベル・アンド・セバスチャン、フランツ・フェルディナンドと、多くのバンドを輩出
してきた音楽都市グラスゴー出身の彼ら。グラスゴーでのレコーディングの選択肢もあったはずだが、確かに北欧
テイストを感じさせるキーボードやストリングスを多用したアレンジと、ウォール・オブ・サウンドを彷彿とさせるどこか
懐かしい60年代風の楽曲を持ち味とする彼らが、スウェーデンのアーティストとリンクをすることは自然なことだっ
たのかもしれない。しかし、やはりその彼らのサウンドを特別なものにしているのはなによりグラスゴーのバンドなら
ではの、心の琴線に触れるメロディーに他ならない。そしてそのサウンドとメロディが融合した彼らの音楽は今作
でさらに強さとしなやかさを増している。収録曲には、アルバムからのファースト・シングルとなっているキャッチーな
M1“French Navy”をオープニングに、ロネッツなどガールズ・グループを思わせるコーラス・ワークが心地いい
M2“The Sweetest Thing”、カントリー調のバラードM3“You Told A Lie”、鉄琴とギター・リフのアンサンブルが
印象的なM5“Swans”、ピアノをフィーチャーしトレイシーアンのヴォーカルが切なく響くタイトル・トラックM8“My
Maudlin Career”、ギターのヴォーカルのみのシンプルな一曲M10“Other Towns And Cities”など、これぞイン
ディー・ポップというトラックが並んでいる。
そしてアルバムのラストを飾るのにふさわしい、
アップテンポなビートが跳ね、ホーンが鳴り響く、
高揚感溢れるナンバーのM11“Honey In The
Sun”を聴くと、トレイシーアン曰く「悲しくてメラン
コリック」だと言われるという彼らの曲の中に、実
は大きな希望が隠されているということに気づか
させる。その希望こそが、彼らのキャリアを形作っ
てきたもうひとつの大きな要素であり、彼らの楽
曲をこんなにも感動的にしている理由だろう。
前作以降、アメリカなどでは大きなブレイクを果
たし、そのアメリカを始め、ヨーロッパ全土、タイや
シンガポールなどのアジア(残念ながら現在まで
来日は実現していない)まで、大掛かりなツアー
を行っていた彼ら。その経験についてトレイシー
アンはこう語っている。T:「世界中をツアーして
成功したことからは多くの自信を得られたわ。旅
をしてまわるのは楽しいし、このアルバムでもまた、
世界中をまわりたいわね。もちろん日本にも行
きたいわ!」10年以上のキャリアを経てリリースさ
れた今作。彼女が言うように、それはバンドの自
信と経験に裏付けされた、今まででベストなア
ルバムとなっている。そして彼らのキャリアはこれ
からさらに、「感傷的」で「希望」に満ちたこの新
作で大きく前進するはずだ。その彼らに、日本
で会えることを心待ちにしよう。
安永和俊(Star Sign Records/OfficeGlasgow)
TRACKLISTING:
1. French Navy
2. The Sweetest Thing
3. You Told A Lie
4. Away With Murder
5. Swans
6. James
メンバー:Tracyanne Campbell, Gavin Dunbar,
Carey Lander, Kenny McKeeve, Lee Thomson
7. Careless Love
8. My Maudlin Career
9. Forests And Sands
10. Other Towns And Cities
11. Honey In The Sun
WEBLINKS:
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www.myspace.com/cameraobscuraband