Ⅶ-6:分子量だけじゃないGPC! -サイズ、分岐、組成分布-

●Ⅶ-6:分子量だけじゃないGPC !-サイズ、分岐、組成分布-
Ⅶ-6:分子量だけじゃないGPC!
-サイズ、分岐、組成分布-
材料物性研究部 吉田 具弘
材料物性研究部 木南 冴子
半径Rg)を求められるが、測定できる分子サイズは約20
nm ~である。一方、GPC-MALS-DLSでは、数nmオー
ダーの分子サイズ(流体力学的半径Rh)を測定すること
が可能である。図1に単分散のポリエチレンオキサイド
(PEO)の測定例を示す。MALSから得られる絶対重量
平均分子量(Mw)に加え、約2nmのRhが求まっているこ
とが分かる。
1.はじめに
Size Exclusion Chromatography:SEC) 法 は 平 均 分 子
量・分子量分布を求める手法として広く認識されてお
り、高分子材料の劣化解析等に役立っている。また、多
角度光散乱検出器(MALS)
、
動的光散乱検出器(DLS)
、
粘度検出器(VISCO)、赤外分光光度計(FT-IR)と接
続することにより、分子量のみならず、溶液中での分子
サイズ、分岐度解析および共重合体の組成分布解析が可
能となる。本稿では、GPCと各種検出器を用いて得られ
た分析事例を紹介する。
10
105
5
4
104
MW
Rh
Rh (nm)
Gel Permeation Chromatography( 略 称 GPC、 別 称
RI Intensity (A.U.)
試料:単分散PEO
MW
3
RI
Rh
Mw 21300 Mw 3930
10
Molecular Weight
[特集]TRCポスターセッション2014
15
20
2
103
1
102
Retention time (min)
Mw: 重量平均分子量
図1 GPC-MALS-DLSにより得られた単分散PEOの絶対
分子量と流体力学的半径
なお、GPC法が適用できない溶媒条件(溶媒種、溶液
濃度、pH、塩濃度、温度等)ではバッチ式DLS(DLS
2.GPC法における検出器
単独での測定)により分子サイズの推定・比較が可能で
ある。
GPC用検出器 1︶としては、示差屈折率検出器(RI)、
例として、レジストポリマーを各種溶媒に溶解し、バッ
紫外可視吸収検出器(UV)などの濃度検出器が広く知
チ式DLSで分子サイズを測定した結果を図2に示す。
られており、分子量分布が得られる。前項に示した検出
PGME、乳酸エチル中では他の溶媒よりも分子サイズが
器等を濃度検出器と併用することにより、分子量分布に
若干大きくなっており、良溶媒であるとみなすことがで
加えて様々な情報を得ることができる(表1)
。
きる。
表1 各手法と得られる情報
GPC-MALS-DLS
(多角度光散乱検出器
-動的光散乱検出器)
※DLSはバッチ式でも使用可能
GPC-MALS-VISCO
(多角度光散乱検出器
-粘度検出器)
GPC/FT-IR
(赤外分光光度計)
PGMEA
PGME
乳酸エチル
シクロヘキサノン
γ-ブチロラクトン
得られる情報
絶対分子量
Rg(回転半径)
Rh(流体力学的半径)
絶対分子量
Rg、Rh
極限粘度
分岐度
混合物ピークの切り分け
組成分布
Intensity (%)
手法
60
40
20
0
0.1
1
Rh (nm)
10
100
PGME: 1-メトキシ-2-プロパノール
図2 バッチ式DLSによる各種溶媒中レジストポリマーの
分子サイズ測定結果
MALS: Multi Angle Light Scattering detector
DLS: Dynamic Light Scattering detector
VISCO: Viscometer
4.GPC-MALS-VISCOによる分岐高分子の測定
GPC-MALS-VISCO測定では、MALSから絶対分子量
3.GPC-MALS-DLSによる溶液中分子サイズ測定
が、VISCOから極限粘度[η]が得られ、Mark-Houwink
plot(MH plot)が作成できる。Mark-Houwink plotは分
検出器にMALSを用いることにより分子サイズ(回転
20・東レリサーチセンター The TRC News No.120(Feb. 2015)
子量に対して極限粘度をプロットした、ポリマー種とそ
●Ⅶ-6:分子量だけじゃないGPC !-サイズ、分岐、組成分布-
1000
1000
1000
試料:ポリジメチルシロキサン
試料:ポリジメチルシロキサン
100直鎖 MH plot
直鎖 MH plot
直鎖 MH plot
10
10
GPC/FT-IR は、各溶出時間における赤外吸収スペ
GPC/FT-IRは、各溶出時間における赤外吸収スペク
クトルを連続的に測定することにより、分子量情報
トルを連続的に測定することにより、分子量情報と化学
と化学構造情報を併せて得られる手法である。特定
構造情報を併せて得られる手法である。特定波数のスペ
波数のスペクトル強度の時間変化から、混合物ピー
クトル強度の時間変化から、混合物ピークの切り分けや
クの切り分けや共重合体の組成分布解析が可能であ
共重合体の組成分布解析が可能である。
る。
図5にGPC/FT-IRによるスチレン/アクリロニトリル
図 5 に GPC/FT-IR によるスチレン/アクリロニトリ
(ST/AN)共重合体の組成分布解析例を示す。
ル(ST/AN)共重合体の組成分布解析例を示す。
分岐
分岐 MH
MH plot
plot
40
40
分岐 MH plot
10
直鎖高分子の粘度式
直鎖高分子の粘度式
-2 0.69
[[]] ==直鎖高分子の粘度式
1.35×10
1.35×10-2M
M 0.69
UVUV
Intensity
(A.U.)
UV
Intensity
Intensity
(A.U.)
(A.U.)
[η] (mL/g)
[[]] (mL/g)
(mL/g)
100
100
5.
GPC/FT-IR による組成分布解析
5.GPC/FT-IRによる組成分布解析
[η] = 1.35×10-2M 0.69
11
3
10
1031
4
10
104
103
5
10
105
6
10
106
Molecular Weight
4
10Molecular
105 Weight
106
7
10
107
Molecular Weight
8
10
108
107
108
図 3 図3 直鎖および分岐高分子のMark-Houwink
直鎖および分岐高分子の Mark-Houwink plot
plot
図 3 において、分岐高分子は分子量約 10 万以上の
図3において、分岐高分子は分子量約10万以上の高分
高分子量領域で直鎖高分子よりも傾きが小さい。同
子量領域で直鎖高分子よりも傾きが小さい。同一分子量
一分子量の直鎖高分子より極限粘度が小さいため、
の直鎖高分子より極限粘度が小さいため、分岐している
分岐していると判断される。
と判断される。
次に分岐度解析を行った。直鎖および分岐高分子
次に分岐度解析を行った。直鎖および分岐高分子それ
それぞれの同一分子量における極限粘度[  ]ll および
brの
ぞれの同一分子量における極限粘度[η] l および[η]
b
gb を算出
[ ]br
br の比から(1)式により分岐パラメータ
b
比から︵1︶式により分岐パラメータg を算出し、︵2︶式に
2) から
し、(2)式に示す 4 官能ランダム分岐理論の式 2)
示す4官能ランダム分岐理論の式2︶から1分子あたりの分
1 分子あたりの分岐点数M を求めた。
岐点数λMを求めた。
[ ]br
br
g bb 
[ ]ll
 λM
g bb  1 
6

(1) ︵1︶
1 / 2
1/ 2
 1/ 2
1/ 2 4

M
λ


3π


(2) ︵2︶
ここで、︵1︶および︵2︶式中の
は分岐高分子において0.5
ここで、
(1)および(2)式中の b bは分岐高分子において
から1.5の値をとり、本試料については分岐構造をラン
0.5 から 1.5 の値をとり、本試料については分岐構造
ダムと仮定、b
=1.5として解析した。
をランダムと仮定、b
= 1.5 として解析した。
絶対分子量と1分子あたりの分岐点数の関係を図4に示
絶対分子量と 1 分子あたりの分岐点数の関係を図
4 す。分子量が高くなるにつれて分岐点数が単調増加して
に示す。分子量が高くなるにつれて分岐点数が単
いるのが分かる。
調増加しているのが分かる。
30
30
M :1分子あたりの分岐点数
λM :1分子あたりの分岐点数
30
30
平均組成 AN = 28.6 %
平均組成 AN (NMR)
= 28.6 %
200
(NMR)
100
100
100
16
16
16
15
15
30
25
20
15
10
10
5
UV
0
20
20
35
55 10
UV
UV
0
0
25
25
40
18
18
20
20
22
22
24
24
26
26
18Retention
20
22Time24(min)
26
00
30
30 0
28
28
28
30
Retention Time (min)
図 5 GPC/FT-IR による共重合体の組成分布解析
図5 GPC/FT-IRによる共重合体の組成分布解析
スチレン骨格の一部であるベンゼン環の吸収波数
-1
-1 レ ン 骨 格 の 一 部 で あ る ベ ン ゼ ン 環-1
スチ
吸収波数
)におけ
)とニトリル基の吸収波数(2242cm-1の
(698cm
︲1
︲1
)とニトリル基の吸収波数(2242cm
)におけ
(698cm
るスペクトル強度比の時間変化から、組成分析の解
るスペクトル強度比の時間変化から、組成分析の解析を
析を行った。
AN 重量分率は NMR による平均組成を
行った。
AN重量分率はNMRによる平均組成を基に見積っ
基に見積った。溶出時間(分子量)によって、AN の重
た。溶出時間(分子量)によって、ANの重量分率が変
量分率が変化しているのが分かる。
化しているのが分かる。
GPC/FT-IR では、上記のような例の他に、共重合
GPC/FT-IRでは、上記のような例の他に、共重合体中
体中の特定ポリマー成分のみの分子量分布測定も可
の特定ポリマー成分のみの分子量分布測定も可能である。
能である。
6.
まとめ
6.まとめ
本稿では、分子量測定にとどまらない GPC の活用
方法を紹介した。様々な検出器との組み合わせによ
本稿では、分子量測定にとどまらないGPCの活用方法
を紹介した。様々な検出器との組み合わせにより、ポリ
り、ポリマーの詳細な解析が可能である。
マーの詳細な解析が可能である。
7.
参考文献
2)B. H. Zimm and W. H. Stockmayer, J. Chem. Phys. 17,
具弘(よしだ
1301–1314
(1949).ともひろ)
■吉田
材料物性研究部 材料物性第 1 研究室
20
λM
M
M
200
200
35
35
1301–1314
1)長谷川博一,The
NEWS, (1949).
116, 29
(2013).
J. Chem. Phys. 17,TRC
20
20
10
10
10
0
105
300
AN重量分率(GPC/FT-IR)
AN重量分率(GPC/FT-IR)
1)7.参考文献
長谷川博一, The TRC NEWS, 116, 29 (2013).
2) B. H. Zimm and W. H. Stockmayer,
30
0
0 5
10
105
300
300
AN
AN (wt%)
(wt%)
AN重量分率(%)
AN重量分率(%)
AN重量分率(%)
ロットした、ポリマー種とその溶媒固有のものであ
の溶媒固有のものであり、プロットの傾きからポリマー
り、プロットの傾きからポリマーの分岐度などを推
の分岐度などを推察することができる。直鎖および分岐
察することができる。直鎖および分岐ポリジメチル
ポリジメチルシロキサンについて、Mark-Houwink plot
シロキサンについて、Mark- Houwink plot を作成し
を作成した例を図3に示す。
た例を図 3 に示す。
6
10
106
図4
Molecular Weight
106
λM Molecular
vs. Molecular
Weight
Weight
■吉田 具弘
趣味:子供との鉄道旅行
(よしだ ともひろ)
■木南 冴子(きなみ さえこ)
材料物性研究部
7
10
107
図4 λM vs. Molecular Weight
10
7
材料物性研究部
材料物性第 1 研究室
材料物性第1研究室
趣味:旅行 研究員
■木南 冴子
(きなみ さえこ)
材料物性研究部
材料物性第1研究室
趣味:旅行
趣味:鉄道旅行
・21
東レリサーチセンター The TRC News No.120(Feb. 2015)