─Hip Joint ’15 Vol. 41─ 477 転子下骨切り併用人工股関節の 臨床成績と生体力学的検討 青森慈恵会病院 秋 田 護 ・ 中 田 善 博 青森県立中央病院 岸 谷 正 樹 は じ め に 転子下骨切り併用 THA の骨切り法はこれまで各 対 象 と 方 法 臨床研究 種 方 法 が 考 案 さ れ て い る。 も っ と も 単 純 な 対象は転子下骨切り併用 THA を施行し,術後 2 transverse cut で十分であるとの考えや骨切り部の回 年以上経過した12例(男性 1 例,女性11例), 14関節 旋安定性を向上させるため step cut や V shaped cut である。術後平均観察期間は5.9年( 2 ~ 9 年)で を行っている報告もあるが,これまでのところ生体 あった。症例の内訳は高位脱臼股が12関節(Crowe 力学的研究は少なく1),骨切り法や使用するインプ 分類 group Ⅲが 2 関節,Ⅳが10関節),変形性股 ラントについて意見の一致をみない。本研究の目的 関節症大腿骨転子下外反伸展骨切り術後が 1 関節, は transverse cut による転子下骨切り併用 THA の手 小児化膿性股関節炎後が 1 関節であった。 術成績を明らかにすることと,模擬骨を用いた生体 全例,後方アプローチにて手術を行った。寛骨臼 力学的実験によりその初期固定力について検討する 側は 3 関節でセメントレスカップ,11関節で KT ことである。 plate とセメントカップを用いて原臼位に再建した。 大腿骨側は全例 transverse cut による転子下骨切り (短縮または矯正骨切り)を併用しており,インプ Clinical result and biomechanical study of total hip ラントは S-ROM-A(DePuy)ステムを使用した。 arthroplasty with subtrochanteric osteotomy ステム径の決定は遠位骨片で行った。すなわち,遠 位リーマー径と同サイズのステム径を設置し,ステ Department of Orthopedic Surgery, Aomori Jikeikai ムの遠位構造(フルートとスロット)にて回旋の抵 Hospital 抗性があるものを選択した。また12関節で骨折予防 Mamoru Akita, et al. 目的にワイヤリングを施行した。後療法は原則的に 術後 2 日より荷重訓練を開始した。 Key words:人工股関節全置換術(total hip 検討項目は術前の骨質の状態を Dorr の qualitative arthroplasty) assessment と cortical index で調査した。術中所見と 転子下骨切り(subtrochanteric して大腿骨骨折と骨片間のギャップを,術後 X 線 osteotomy) 生体力学的研究(biomechanical study) 111_074_秋田護_本文01.indd 1 評価として骨切り部の癒合および,ステムの固定性 (Engh の分類)について調査した。臨床評価は JOA 15.7.29 3:56:01 PM 478 score で検討した。 万能試験器にてステムを後捻させる方向に対して骨 頭に荷重を加えた。変位計にて近位骨片と遠位骨片 生体力学的研究 のずれ,およびステムと近位骨片のずれを測定した。 生体力学研究用の模擬骨(SAWBONES,medium 変位計で計測された変形量は骨頭へ負荷された荷重 left femur,♯3403)を用いて転子下骨切り併用 THA と同期させて記録計測器にてデータ収集した(図 2 ) 。 の力学試験を行った。すなわちステム設置後の回旋 結 果 安定性について調査を行った。使用したステムは modular ステムとして S-ROM-A ステム,non-modular ス テ ム と し て910PerFix カ ラ ー レ ス ス テ ム (KYOCERA)を用いた。ステムのサイズは S-ROM-A 臨床研究 cortical index は平均0.48(0.2~0.62)であった。 ステムのスリーブが16B-SMALL,ステムが♯11, Dorr qualitative assessment は Type A が 6 関節,B が STD 30ネックであり,PerFix ステムは♯13であった。 6 関節,C が 2 関節であった。術中骨折は Dorr Type それぞれのステム間においてオフセット量が同じに A に 1 関節認めた。骨片間のギャップは 1 関節に認 なるように骨頭のネック長を選択した。すなわち, めた。骨癒合については14関節中,13関節が問題な S-ROM-A ステムでは+ 3 mm,PerFix ステムでは+ 0 く癒合し, 1 関節で癒合が遷延した。ステムの固定 mm とした。また設置した骨頭径は26mm とした。 性は13関節で bone ingrowth が得られており, 1 関 模擬骨の転子下(小転子から末梢10mm)に V 節 が stable fibrous ingrowth の 状 態 で あ っ た。JOA shaped cut,transverse cut,step cut を加え, 2 cm の score は術前平均38点から術後82点に改善した。 短縮を加えた。step cut では骨片間の段差の長さは 1 cm とした。それぞれに S-ROM-A ステム,PerFix 症例供覧 ステムを設置して回旋抵抗力を測定した。万能試験 54歳,女性。右高位脱臼股(図 3a)に対して大 機(図 1 )は AG-100kNE(島津製作所)を使用した。 腿骨短縮骨切り併用 THA を施行した(図 3b) 。手 ステムの軸上に体重を想定した50kg の負荷を加え, 術時に骨片間の外側にギャップが生じたので,そこ に泥状骨を移植した。術後半年の写真では骨切り部 の癒合は認めない(図 3c) 。この時点で低出力超音 波パルスを使用した。骨癒合は術後 1 年の時点で得 られた。術後 2 年の現在,骨切り部は癒合した。ス テムは術後写真より沈み込みがあるが非進行性であ り,stable fibrous ingrowth の状態である(図 3d)。 生体力学的研究 いずれの設定においても近位骨片と遠位骨片で変 位が発生しており(表 1 ),ステムと近位骨片では 変位量は骨片間のそれと比べるとわずかであった (表 2 )ので,回旋角度と負荷トルクは近位骨片と 遠位骨片間の変位で換算した(回旋角度= sin-1(骨 頭変位/モーメントアーム) ,負荷トルク=モーメ ントアーム×荷重)。 6 種類のモデルの中で近位骨 片と遠位骨片の負荷トルクが,もっとも高値であっ たものは S-ROM-A ステムの step cut で42Nm であり, 以 下 順 に,PerFix ス テ ム の V shaped cut で32Nm, S-ROM-A ステムの V shaped cut で31Nm,S-ROM-A ス テ ム の transverse cut で30Nm,PerFix ス テ ム の 図 1 万 能試験機は AG-100kNE(島津製作所)を使 用した。 111_074_秋田護_本文01.indd 2 step cut で20Nm,PerFix ス テ ム の transverse cut で 3Nm であった(図 4 ) 15.7.29 3:56:02 PM ─Hip Joint ’15 Vol. 41─ 479 隙間にはセメント充填 押し棒 変位計(近位骨と遠位骨のずれ) 変位計(ステムと骨のずれ) 25kg 50kg 25kg 万能試験機で骨頭ボールに荷重 図 2 生体力学的研究の模式図 a b c d 図3 a.術前。b.術後.骨片間のギャップを認める。 c.術後半年。骨切り部が癒合不全の状態である。d.術後 2 年.骨癒合を認める。 111_074_秋田護_本文01.indd 3 15.7.29 3:56:02 PM 480 モーメントアーム (=オフセット量) 骨頭変位 負荷トルク=モーメントアーム× 荷重 回旋角度=sin−1(骨頭変位/モーメントアーム) 図 4 各種骨切後の回旋抵抗力測定の結果 表 1 近位骨片と遠位骨片間の変位量と荷重量 インプラント S-ROM-Aステム PerFixステム 骨切り法 変位量(mm) 荷重量(N) V shaped cut 2.432 976 step cut 2.285 1322 transverse cut 9.017 922 V shaped cut 1.411 993 step cut 1.045 622 transverse cut 0.163 92 表 2 ステムと近位骨片間の変位量 インプラント S-ROM-Aステム PerFixステム 骨切り法 変位量(mm) V shaped cut 0.059 step cut 0.652 transverse cut 0.186 V shaped cut 0.068 step cut 0.244 transverse cut 0.026 プラントついてはこれまでさまざまな方法が報告さ 考 察 れている。 non-modular ステムを用いた transverse cut の場合, 高位脱臼股や大腿骨転子下骨切り術後症例に対し Park ら2)は 7 関節中 3 関節,Yasugar ら3)は 7 関節 て THA を施行する際,転子下骨切りを併用する方 中 1 関節,Masonis ら4)は 2 関節中 1 関節に骨癒合 法が試みられている。その骨切り法や使用するイン 不全が生じたと報告しており,高率に癒合不全が発 111_074_秋田護_本文01.indd 4 15.7.29 3:56:03 PM ─Hip Joint ’15 Vol. 41─ 481 症 す る リ ス ク が あ る と 思 わ れ る。 し か し 一 方, テム近位形状の選択およびステム前捻の自由度が高 transverse cut でも modular ステムを用いた場合は癒 い点で有利であると思われる。S-ROM-A ステムを 合不全の発生頻度は高くない。modular ステムであ 用いた transverse cut による転子下骨切り併用 THA る S-ROM-A ステムを用いた transverse cut の偽関節 は他の方法と比べ難易度は高くなく, 生体力学的 発生については,Masonis ら4) は 9 関節,Bernasek 研究からも問題なく有用な方法であると思われた。 5) ら は30関節でいずれも報告も発生なしとしている。 本研究でも遷延癒合が1関節(N =14)にみられた ま と め が,追加手術は必要なく最終的に骨癒合が得られた。 modular ステムを用いた step cut では Takao ら6)(N transverse cut による大腿骨短縮骨切りを併用した =37で偽関節なし)が示すように癒合不全の発生頻 THA の手術成績を示した。遷延癒合は14関節中 1 度 は 少 な い が,non-modular ス テ ム を 用 い た V 関節のみで,それも最終的には保存的に骨癒合が得 7) shaped cut(N =28で遷延癒合 2 関節) では本法と られた。生体力学的研究の結果,modular stem では 大差ない結果であった。 transverse cut で日常生活に耐えうる十分な初期固定 本研究において癒合が遷延した症例は骨片間にギ が得られることが判明した。modular stem を用いた ャップがあった症例であった。そこで著者らは最近 transverse cut による大腿骨短縮骨切りを併用した ではリーマー(KMLS System プレーナー)をもち THA は,簡便で合併症が少なく有用な方法である。 いて骨切り面を平らにしてギャップができないよう に工夫しており,それ以降の症例ではギャップは生 じ て お ら ず, 骨 癒 合 不 全 例 の 発 生 も な い。 坂 越 ら8)は特殊なデバイスを作製し,ギャップを少なく していると報告している。 転子下骨切り併用 THA では術中の大腿骨骨折が 9) 問題となる。木戸ら は step cut の手技で57%に骨 折を生じたと報告した。step cut は難易度が高く, 骨片間の髄腔内のズレによって骨折が発生している と考察している。本シリーズでは14例中 1 例に骨折 が生じた。なるべく予防的ワイヤリングを行い,骨 粗鬆の症例にも後療法が遅れないように,安全にス テムを設置するように努めている。 Bergmann ら10)によると日常生活をおくるうえで 必要な回旋トルクは体重が50kg で換算すると26.46 ニュートンである。本研究においては S-ROM-A で はすべての骨切りでそれを満たしていたが,PerFix では V cut のみそれを満たしており,著者らが行っ ている S-ROM-A ステムを用いた transeverse cut に よる再建法は生体力学的研究からも問題がないこと が実証された。PerFix ステムにおいてはステムの遠 位にわずかな溝が切ってあるのみで,回旋を抑制す るには弱く,transvers で骨切りを行っている場合は S-ROM-A ステムのようなフルートとスロット構造 などを要する必要があると考えられた。 non-modular ステムでも遠位がフルート構造やフ ィン構造であれば遠位骨片とステムの間で回旋は抑 文 献 1 )Muratli KS, et al: Subtrochanteric shortening in total hip arthroplasty: biomechanical comparison of four techniques. J Arthroplasty 29: 836-842, 2014. 2 )Park MS, et al: Transverse subtrochanteric shortening osteotomy in primary total hip arthroplasty for patients with severe hip developmental dysplasia. J Arthroplasty 22: 10311036, 2007. 3 )Yasgur DJ, et al: Subtrochanteric femoral shortening osteotomy in total hip arthroplasty for high-riding developmental dislocation of the hip. J Arthroplasty 12: 880-888, 1997. 4 )Masonis JL, et al: Subtrochanteric shortening and derotational osteotomy in primary total hip arthroplasty for patients with severe hip dysplasia.: 5-year follow-up. J Arthroplasty 18: 6873, 2003. 5 )Bernasek TL, et al: Total hip arthroplasty requiring subtrochanteric osteotomy for developmental hip dysplasia: 5to 14-year results. J Arthroplasty 22: 145-150, 2007. 6 )Takao M, et al: Cementless modular total hip arthroplasty with subtrochanteric shortening osteotomy for hips with developmental dysplasia. J Bone Joint Surg Am 93: 548-555, 2011. 7 )Hotokebuchi T, et al: A new device for a V-shaped subtrochanteric osteotomy combined with total hip arthroplasty. J Arthroplasty 21: 135-137, 2006. 8 )坂越大悟,他:大腿骨転子下骨切りを併用した人工股関 節置換術の経験.日本人工関節学会誌 40: 196-197, 2010. 9 )木戸健介,他:高位脱臼性股関節症に対して転子下短縮 骨切り術を加えた人工股関節全置換術の検討.日本人工 関節学会誌 38: 452-453, 2008. 10)Bergmann G, et al: Is staircase walking a risk for the fixation of hip implants? J Biomech 28: 535-553, 1995. 制される可能性はあるが,S-ROM-A ステムではス 111_074_秋田護_本文01.indd 5 15.7.29 3:56:03 PM
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