【フォーカス】FGE 特別セミナー 「イランの制裁解除後-石油及びガス

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第 1214 号
【フォーカス】FGE 特別セミナー
「イランの制裁解除後-石油及びガス産業に於けるビジネスチャンス」
2015/08/05
今週は、FACTS Global Energy(FGE)[註]社のご厚意により、FGE が 7 月 17 日に都内で開催した特別セ
ミナー「イランの制裁解除後-石油及びガス産業に於けるビジネスチャンス(Iran Post-Sanctions: A World
of Opportunities in the Oil and Gas Sector)」での、FGE 会長のフェレイドゥン・フェシャラキ博士によ
るプレゼンテーションの概要をご紹介します。
<現在イランが課されている制裁>
イランには、現在、核開発に関連するものだけでなく、テロリズムへの支援や人権に関するものまで、あらゆる種類
の制裁が課されている。主な制裁発動者は、国際連合(UN)、欧州連合(EU)、米国である。特に米国は、様々な
法的措置によって 1979 年のイラン革命以降、イランの活動に制裁を課している。
UN は、イランに対し 2006-10 年に合計 6 件の制裁決議を採択しており、そのうち 2 件がイランの銀行業務と輸
送、出荷部門を対象としている。EU は、イランからの原油輸入の禁止(2012 年 1 月)、国際送金システム
(SWIFT)からの排除(2012 年 3 月)、イランからの天然ガス、ガス製品の輸入及び輸送に対する制裁強化
(2012 年 10 月)などを実施している。一方、米国は、イランの石油開発への米国企業の参加を禁止(1995 年 3
月)、米国企業によるイランとの貿易、及びイランに於ける投資の禁止(1997 年 8 月)、イランの銀行に対する制
裁(2006-08 年)、イランとの石油製品の取引禁止(2010 年)、イラン中央銀行に対する制裁(2012 年)、イ
ランからの石油購入国に対する制裁(2012 年)など多数の制裁を実施している。米国の制裁については、大統領令
によるものと米国議会によるものの 2 種類に分けられる。大統領令による制裁は大統領が解除できるが、議会によ
る制裁を解除するには議会の承認が必要となる。但し、議会による承認が必要なもののうち、イランにおける石油ガ
ス開発への参加を米国以外の企業にも禁止している制裁(イラン制裁法)については、米国以外の企業を制裁の対象
外とする権限を大統領が有している。
<包括的共同行動計画の最終合意>
核開発関連の制裁解除に向け、7 月 14 日に包括的共同行動計画(JCPOA:Joint Comprehensive Plan of Action)
の内容に関する最終合意が行われた。これに対し、米国議会からは反対の声が聞こえるが、UN や EU がいずれ制裁
を解除することは確実であり(イランと制裁者側の双方が制裁解除を望んでおり、起こるべくして起きた最終合意で
あった)、イランの石油天然ガス上流分野へ、米国以外の他国企業が間もなく参加できるようになることは明らかで
ある。そのような状況に対し、米国企業からは当然不満の声が上がるだろう。米国企業がイランの石油ガス開発に戻
ることができるのはいつ頃だろうか。少なくとも今後 2 年間は難しいと見ており、もしかすると 4-5 年は掛かるか
もしれない。
一方、受入側のイランの優先度は、米国、欧州、アジアの順である。米国が最優先されている理由は、同国が世界一
の経済大国(影響の大きい国)だからである。しかし、米国企業はまだ暫くイランに復帰できないので、その間、ア
ジア企業にはビジネスチャンスが広がるだろう。また、アジア諸国では、既にイランの石油天然ガス産業に関与した
経験のある日本や韓国が、中国やインドよりも有利だろう。
イランには海外で凍結されている資金が豊富にあり、(米国/EU がイランからの原油輸入を禁止した 2012 年以降
の)制裁下に凍結された額だけで 800 億ドル(約 9 兆 9,000 億円)あるとされ、そのほかにイラン革命(1979 年)
下に米国で凍結された資金もあり、合わせると 1,500 億(約 19 兆円)とも言われている。これはイランの国庫支
出の 6-7 年分に相当する額であり、制裁が解除されればイランは多額の資金へアクセスできることになり、それに
より石油生産量を増加させることも、外貨を更に稼ぐことも可能となる。
制裁解除までの工程
それでは、これら多数の制裁が解除されるまでにどのくらいの期間を要するだろうか。FGE は、今後 4-6 ヵ月
(2015 年 10-12 月頃)のうちに、制裁解除が始まると見ている。そうなれば、2015 年末から 2016 年の半ばに
かけて、イランから追加の石油・天然ガスがグローバル市場へ供給され始めるだろう。
制裁解除への道程は以下となる。
・最終合意ステージ:2015 年 7 月 14 日、イランと E3/EU+3(英、仏、独、米、露、中国、+EU)の双方が、
JCPOA の内容に関し最終合意に至る。
・採択ステージ:イランの核関連制裁の全解除に向け、国連安全保障理事会(UNSC)が JCPOA を承認する決議を
採択する(註:7 月 20 日に採択された)。UN は、同決議から 90 日以内に JCPOA の施行を開始する。実際は 90
日も掛からず 45 日以内(9 月頃まで)に施行が開始されると見ている、尚、これと並行して米国議会による制裁見
直しが開始される。オバマ大統領は最終合意から数日以内に議会に最終合意内容の詳細を報告する予定であり、今後
60 日以内に議会による制裁見直しが開始される見込み。
・履行ステージ:国際原子力機関(IAEA)が、イランによる合意内容の履行を確認する。同ステージは早ければ
2015 年 12 月に行われる。UN と EU は、この IAEA による確認を以て、イラン向け核関連制裁を全て解除する。
(但し、UN によるイランへの武器禁輸については 5 年間、ミサイル禁輸については 8 年間維持される。)
・移行ステージ:IAEA の事務局長により、イランの核施設は全て平和利用目的であるとの結論(Broader
Conclusion)に至ったとの報告書が提出される。同ステージが完了するまでには、UNSC の JCPOA 承認決議から
数えて最大 8 年間掛かる見込み。
・終結ステージ:UNSC、JCPOA 承認決議から 10 年後に、全ての制裁を解除する。
尚、米国は、IAEA がイランによる合意内容の履行を確認した時点で、米国人以外および米国以外の企業を対象とす
る制裁を解除するが、米国人および米国企業には引き続き制裁が適用される見通しで、解除されるには議会の承認等
の法的手続きが必要となる。従って、米国企業は、基本的には議会が制裁解除を承認するまでイランの上流開発事業
に参加することができない。ただ、イランからの石油購入はできるようになる。
<イランの原油供給-制裁前と制裁後>
米国と EU がイランからの原油輸入を禁止する制裁を発動した 2012 年以前は、イランは約 220-240 万バーレル
/日の原油を輸出していた。その内、約 60 万バーレル/日が欧州に、残りの 160-180 万バーレル/日がアジ
ア・その他地域(トルコ等)へ輸出されていた。中国/インド/日本/韓国/台湾/トルコのイラン産原油の輸入量
は、2011 年の 180 万バーレル/日から 2014 年に 100 万バーレル/日へ減少した。
(出典: FGE 「Iran Post-Sanctions: A World of Opportunities in the Oil and Gas Sector」presented by Dr. Fereidun Fesharaki)
FGE は、2015 年末までにイランからグローバル市場へ追加供給される液体資源(原油・コンデンセート)は 50 万
バーレル/日に、2016 年半ばまでには 70 万バーレル/日に達すると見ている。尚、ここで「原油」ではなく「液
体資源」と敢えて述べたのは、イランの今後の石油生産量を見る際には、コンデンセートの割合が多い点に注意する
必要があるためである。イランが「oil」という時にはコンデンセートが含まれており、今後イランの石油増産分の
約 3 分の 2 はコンデンセートで、残る 3 分の1が原油となるだろう。コンデンセートは天然ガスに随伴して生産さ
れるため、天然ガスの増産に伴って(意図してなくとも)コンデンセートの生産量が大幅に増加している。