事業別実績/地域保健 肺がん検診 [実施状況] 肺がん検診は、他の検診機関が撮影し、財団が読影したものを含め、43の市町村より委託を 受けて実施した。受託率は79.6%で、受診者数は161,373人であった。検査方法別の内訳は胸部 エックス線検査(図1)によるもの155,753人、要精密検査3,237人・要精検率2.1%で、喀痰検 査(図2)によるもの5,620人、要精密検査(経過観察後精検含む)57人・要精検率1.0%であっ た。胸部エックス線検査のうち9,824人(要精密検査327人)は、他の検診機関で撮影し、財団 にて読影したものである。なお、胸部エックス線検査数は、結核検診を受診したもののうち40 歳以上についてまとめた。 図1 肺がん検診 年度別実施状況[胸部エックス線検査] 胸部エックス線検査 要精検者数 153,728 156,522 1.9 要精検率 (左目盛) 155,753 2.0 2.1 3,075 3,237 ) ( 3,023 2.5 2.0 要 1.5 精 検 1.0 率 0.5 ( ) 18,000 16,000 14,000 12,000 人 数 10,000 8,000 人 6,000 4,000 2,000 0 (左目盛×10) % 0.0 22年度 23年度 24年度 [検診方法] 胸部エックス線検査 は、間接撮影で、ミラ ー・カメラを用いる正面 1方向撮影を実施してい る。なお、精密検査では 直接撮影を行っている。 喀痰検査は、保存液の 入った採痰容器に“3 日 間連続採痰”したたもの を検体として回収する。 検体は検査部門に搬入 し、喀痰細胞診検査を行 う。 図2 肺がん検診 年度別実施状況[喀痰検査] [喀痰検査] 肺がん検診は胸部エ ックス線検査と喀痰検 700 2.0 6,208 5,855 査の組み合わせで行わ 5,620 600 1.5 要 れ、胸部エックス線検査 500 は主として肺の末梢(表 人 精 400 面に近い場所)の肺がん 数 1.0 検 1.0 率 を、喀痰検査は主として 人 300 気管や太い気管支に発 0.7 200 0.7 0.5 % 生する肺がんを発見す 57 46 42 100 る。 0 0.0 胸部エックス線検査 22年度 23年度 24年度 は、呼吸器の専門医師が 二重読影を行う。詳しくは「1-2結核検診」の項を参照されたい(36ページ)。喀痰検査は、採 痰した痰を処理して、顕微鏡下で細胞を観察する。判定区分、細胞所見及び指導区分は日本肺癌 学会より示された基準に沿って検査を行っている。 財団では、判定区分のBは「精検不要」、Cは「要経過観察」、D・Eは「要精密検査」及びA は「判定困難」と表している。 喀痰検査 (左目盛×10) 要精検者数(要経過観察を含む) (左目盛) 要精検率(経過観察を含む) ( ) ) ( [考察・評価] 執筆者:副理事長・総合健診センター長 鈴木 公典 我が国におけるがんで亡くなった人数を部位別に多い順に並べると男女とも肺がんが第 1 位 である。肺がんの罹患率、死亡率を年齢別にみると、40 歳代後半から増加し始め、高齢になる ほど高くなる。死亡率は 1960 年代から 80 年代に急激に増加したが、90 年代後半から男女とも ほぼ横ばいとなっている。 3 年毎に行われる国民生活基礎調査において、平成 22 年の肺がん検診受診率では、男性が 24.9%で前回(平成 19 年)より 0.8 ポイント減少、女性は 21.2%で前回(21.2%)並みであっ た。国のがん対策推進基本計画は、新たに平成 24 年度から平成 28 年度までの 5 年間を対象と して、がんの早期発見ではがん検診の受診率を 5 年以内に 50%(胃、肺、大腸は当面 40%)を 達成するとしている。千葉県の肺がん受診率は平成 22 年では 27.8%であり、国の平均よりは高 いが、基本計画とはまだまだ差がある。 現在の肺がん検診、すなわち「非高危険群に対する胸部エックス線検査、及び高危険群に対す る胸部エックス線検査と喀痰細胞診併用法で、ただし二重読影、比較読影を行う。」で精度管理 を行いつつ実施することになっている。財団も「肺がん検診事業評価のためのチェックリスト」 (厚生労働省)のなかのチェックリスト及び精度管理の項目をすべて満たし検診を実施している。 財団の胸部エックス線検査の受診者数(読影実施数として)は、24年度155,753人で、 23年度より約2,000人増加していた。この内訳は、受診者数は約1,000人減少したが、他機関 からの読影実施数が約3,000人増えたことによる。結核検診のところでも触れたが、受診者数が 減っているのは、20年度より老人保健法が廃止されて制度が変わり、基本健康診査から特定健 康診査が実施されるようになってからのことである。5年目であるが受診率は引き続き減少した ままである。 肺がん発見率を上げるために、要精検者のうちの精検受診者数、精検受診者の結果、「癌の疑 い」の結果に対し追跡調査を繰り返して結果を把握し不明例をできるだけ減らすように努めてき た。その結果、精検実施把握率も 20 年度 71.3%、21 年度 87.7%、22 年度 87.8%、23 年度 89.1% と上昇してきたが、24 年度 87.1%とやや減少しており、がん発見率も 17、18、19 年度が 0.02% 台に対し、20 年度 0.046%、21 年度 0.067%、22 年度 0.051%、23 年度 0.058%と上昇していた が、24 年度 0.049%とやや減少している。 しかし、肺がん発見には胸部エックス線検査では自ずと限界があるとも思われ、我々は COPD (慢性閉塞性肺疾患)に着目した早期肺がん発見の試み、「千葉モデル」を提案し実行する体制 を築き、早速、20 年度から千葉市の肺がん検診(主に個別検診である)に取り入れられた。 これを集団検診として平成 23 年度より東金市、24 年度より東庄町、長生村の住民検診にモデ ル事業として行った。問診票で COPD のハイリスク者を選定し、当日呼吸機能検査を行い、1 秒率 70%未満の者には、後日、低線量 CT 撮影による検診を実施した。また同日に従来の間接 エックス線撮影に代えデジタル撮影を行った。その結果、東金市においては 23 年度の肺がん発 見はデジタル撮影から 7 人、CT 撮影から 1 人(デジタル撮影では異常なしであった)の計 8 人 であったが、24 年度は現在までのところ 0 人である。3 市町村とも医療機関において小結節影 を CT 撮影により経過観察中の症例もあり、今後、追跡調査を行い検討の予定である。 また、23 年度と比較し肺がん発見数が減少しており、東金市、白井市及び南房総市で減少し ていることが大きいと考えられるが、九十九里町では増えており、単年度だけではその原因はわ からない。 平成 24 年度における検診受診回数別の受診者数、発見肺がん数、発見率は、初回受診(前年 度受診のないもの)ではそれぞれ 34,958 人、22 人、0.063 %で、経年受診ではそれぞれ 110,971 人、49 人、0.044%であった。今後、事例を増やし検診受診回数別成績の比較検討を行っていき たい。 一方、喀痰検査の受診者数は 24 年度では 5,620 人で、19 年度までは減少傾向であり 20、21 年度と増加していたが、再び 22、23、24 年度と減少傾向にある。これはがん検診の個別化への 影響が最も考えられる。現在のところがん発見数は 3 人、発見率は 0.053%であり、精検実施者 事業別実績/地域保健 の結果の把握に努めているところである。 表1 肺がん検診 喀痰細胞診判定区分 判定区分 A B C D E (日本肺癌学会) 細胞所見 指導区分 喀痰中に組織球を認めない 材料不適、再検査 正常上皮細胞のみ 基底細胞増生 軽度異型扁平上皮細胞 線毛円柱上皮細胞 中等度異型扁平上皮細胞、核の増大や濃染を伴う円柱 上皮細胞 高度(境界)異型扁平上皮細胞、または悪性腫瘍の疑いの ある細胞を認める 悪性腫瘍細胞を認める 現在異常を認めない 次回定期検査 程度に応じて 6 ヶ月以内の追加 検査と追跡 ただちに精密検査 表2 肺がん検診 胸部エックス線検査年度別成績[全国・千葉県・財団比較] 項 目 19 20 21 22 23 (人) 34,736,592 37,468,696 38,546,715 39,545,597 41,610,612 (人) 7,498,026 6,680,080 6,680,014 7,059,318 7,087,151 (B/A) (%) 21.6 17.8 17.3 17.9 17.0 C ( 人) 211,112 190,758 187,226 187,668 (C/B) (%) 2.82 2.86 2.80 2.66 D ( 人) 3,512 3,876 3,659 4,013 (D/B) (%) 0.047 0.058 0.055 0.057 ( 人) 4,157 4,942 5,339 5,460 56 56 54 54 54 A (人) 1,848,892 1,668,448 1,832,180 1,960,682 1,907,277 B ( 人) 554,024 549,550 535,317 541,549 541,848 (B/A) (%) 30.0 32.9 29.2 27.6 28.4 C ( 人) 10,087 13,718 13,538 11,057 (C/B) (%) 1.82 2.50 2.53 2.04 D ( 人) 114 209 220 179 (D/B) (%) 0.021 0.038 0.041 0.033 ( 人) 259 360 415 363 30 33 33 33 33 A ( 人) 917,185 1,131,131 1,132,906 1,208,151 1,257,553 B ( 人) 159,373 148,248 149,729 149,801 147,246 (B/A) (%) 17.4 13.1 13.2 12.4 11.7 C ( 人) 2,159 2,370 2,740 2,803 2,878 (C/B) (%) 1.35 1.60 1.83 1.87 1.95 D ( 人) 35 68 101 77 86 (D/B) (%) 0.022 0.046 0.067 0.051 0.058 ( 人) 68 27 39 46 42 対 象 者 数 A 全 国 千 葉 県 財 団 受 診 者 数 受 診 率 要 精 検 者 要 精 検 率 がん発見数 結 がん発見率 果 がんの疑い 実施市町村数 対 象 者 数 受 診 者 数 受 診 率 要 精 検 者 要 精 検 率 がん発見数 結 がん発見率 果 がんの疑い 実施市町村数 対 象 者 数 受 診 者 数 受 診 率 要 精 検 者 要 精 検 率 がん発見数 結 がん発見率 果 がんの疑い B 備考: 1) 全国、千葉県のデータについて19年度分までは厚生労働省統計の「地域保健・老人保健事業報告(老人保健編)」、20年 度分以降は「地域保健・健康増進事業報告(健康増進編)」を参照した。 2) 全国、千葉県のデータについて18年度及び19年度はエックス線検査のみとエックス線及び喀痰検査で集計されている数 を合算し、20年度から23年度はエックス線検査で集計されている数を掲載した。 3) 全国及び千葉県における23年度の受診者数は「肺がん検診受診者数,胸部エックス線検査、市区町村、検診回数・検診 方式・年齢階級別(総数) 」を参照した。(H25.7.26現在) 4) 当財団の数値は読影のみ実施した数を除いた。
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