ニューズレター ぬたた - 高知大学による中山間地域問題への挑戦

高知大学農学部
第30号 発行日
2015.07.01
中山間地域(東豊永地区)における活動
ニューズレター
ぬたた
活動紹介1:地域協働学部学生による初実習 (怒田)
(市川昌広:高知大学地域協働学部
教授)
地域協働学部という新しい学部が今年度、高
知大学に開設されました。高知県の地域の問題
を地域に出向いて考え、解決に向けた実践をし
ながら学ぶという学部です。4月に新入生67
名が入学しました。1年次は、地域のことを知
り、そこの課題を理解することを目標に、県内
いくつかの地域を巡っています。
去る6月27日(土)に、怒田では地域協働
学部初めての実習を7名の学生がやらせていた
だきました。当日は、高知大農学部や人文学部 ↑ 草引き中の学生
(写真:市川昌広撮影)
から計2名、工科大の1年生10名ほども実習に
来ており、総勢20名ほどの学生がお世話になりました。氏原さんからの簡単な説
明の後、朝9時半ごろから田んぼでの草引きです。
農家出身の学生は1人だけで、田んぼの草引きはみな初めての経験です。裸足
になって、恐るおそる田んぼに入り、とにかく草引きは始まりました。ひとりイ
ネ2列の間の草を引きつつ前進します。「これイネだよね?」など最初は雑草と
イネの区別もよくつかないまま、少し不安な滑り出しできたが、30分もすると慣
れて、自分の担当の列を進んでいきます。
目次:
活動紹介1: 地域協働学部学生による初実習 (怒田)
1~2ページ
活動紹介2: おむすび畑での活動報告 (大平)
2ページ
活動紹介3: 第12回東豊永会議の報告(東豊永)
3ページ
活動紹介4: 東豊永地区写真コンテスト 号外(東豊永)
4~5ページ
活動紹介5: 南小川流域で考えるトヨタ財団プロジェクトが始動(東豊永)
6~7ページ
活動紹介6: 商品化研修会の報告(東豊永)
7~9ページ
活動紹介7: 「中山間地域実習」でお邪魔しています(怒田)
10ページ
活動紹介8: 田植え・盆踊り(怒田)
11ページ
卒論紹介 : ゼンマイ栽培土壌の特性についての研究
12ページ
編集後記 : 松本美香
12ページ
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すると今度は腰が痛み始め、「もうだめ。1分休憩」などとしばしば腰を伸ばし
ながら、また屈んでと遅々とした作業です。草引きに慣れてきた学生らは、「こ
のヌルヌル、癒しになる~」とか「(アニメの)トトロの世界やなぁ」などと話
しながら楽しそうにやっています。梅雨の曇り空でしたが、幸いにも雨は落ちて
きません。12時を回ったころに雨模様になりましたが、何とか目標の田んぼ2枚
での作業を終えました。
昼は、20名の学生がテーブルにならんで氏原晶子さんお手製のハヤシライスを
ごちそうになりました。午後は雨が強くなってきたこともあって、怒田集落を歩
いてぐるっと一回り巡ってみました。
今回は、初めての実習ということで、草引きのまねごとをしただけでしたが、今
後また地域協働学部の学生がお世話になります。怒田や東豊永にはお世話にな
りっぱなしですが、ぜひ、皆さんのお力をお借りしながら学び、将来、山村の課
題について考え、課題解決に向けた実践ができる学生を育てていきたいと考えて
います。どうぞよろしくお願いいたします。
活動紹介2:おむすび畑での活動報告 (大平)
(市田彩香:高知大学大学院農学専攻修士 1年)
学生団体おむすびの市田です。わたしたち、学生
団体おむすびの主力活動である「おむすび畑」での
活動について報告させていただきます。
5月の末から、大平のギャラリー夢来里 (都築さ
ん宅の隣り) の前にある棚田を借りて、おむすび畑
を開墾しました。6枚の棚田に野菜や花を植える予
定にしています。5月末から6月の中旬にかけて、
全棚田の草引きを行い、6月13日に棚田1枚で耕
運・畝立てを行いました。6月29日現在、この畝
↑ おむすび畑
(写真:市田彩香撮影)
にさつまいもが300株と、メンバーが手に入れて
きたひまわりやピーマンなどが植えてあります。畑
の前には、都築夫妻が、手作りの看板を立ててくれ、遠くから見ても「あそこが
おむすび畑だ!」とわかるようになっています。これからの活動予定としては、
ほぼ毎週土・日曜日に棚田の耕運をすすめ、お豆やそばを植える予定です。ぜ
ひ、様子を見に、おむすび畑に来てください。作業
のアドバイスも頂けると嬉しいです。
私たちの「継続した農業がしたい!」という思い
から始まったおむすび畑ですが、この畑を使うこと
は、景観を守ること、農作業を通して学生が大平、
東豊永地区にさらに足を運ぶことに繋がるのではな
いかと思っています。東豊永地区写真コンテストに
加え、おむすび畑の報告もこれから行っていきたい
↑ 畑の様子
と思っていますので、楽しみにしていてください!
(写真:市田彩香撮影)
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活動紹介3:第12回東豊永会議の報告(東豊永)
(津田光世:高知大学農学部暖地農学コース 4年)
怒田の皆さんこんにちは。暖地農学コース4年の津田光世です。
5月23日に行われた「東豊永会議」について報告致します。
今回の会議では2つの議題が出されました。1つ目は、「写真コンテスト」につい
てでした。2月初旬に始まった第2回東豊永写真コンテストは無事に終了し、5日
間の住民投票も無事終了しました。会議では、住民投票の結果を踏まえた優秀作
品の選定と、優秀者に贈られる商品について話し合われました。第2回東豊永地
区写真コンテストに関する詳細は、本ニューズレター(P4~P5)の「東豊永地区
写真コンテスト 号外」をご覧いただけたらと思います。
また、今後のコンテストの方針について、「今後東豊永地区各地で行われる神祭
を特別テーマに取り上げてはどうか」という意見が出ました。神祭は重要な地域行
事のひとつであり、資料として後世に残していくためにも多くの人に写真に収め
ていただきたいと思います。
2つ目の議題は、「地域創生」につい
てでした。隣の西峰地区が本格的に集
落活動センターを始動させ、東豊永地
区でも地域創生を考える機運がますま
す高まってきているように思います。
会議では、「東豊永地区の13集落は、
↑東豊永会議の様子 (写真:高橋一弘撮影)
規模や財政の面からみて、個々の集落
で地域創生へ向けた活動を行うのが難しい現状にあるので、東豊永地区という広
い範囲を対象に、集落活動センターを設立してはどうか」という提案が出ました。
集落活動センターは、高知県が行っている地域支援策の一つで、集落活動セン
ターが設置された地区では、3年にわたって県から補助金や制度的支援を受ける
ことができます。その間に、生活、医療、産業、文化、防災など、多方面で県が
地域を支援し、3年後には、地域が県からの補助なしに自立することを目指して
います(ぬたた第12号:発行日2012.07.01で市川先生が報告しています)。
会議では、集落活動センターのメリットやデメリットなどが議論される一方で
「デメリットを考える前に、県が集落活動センターを開設する地区を探している
今、名乗りを挙げることが重要だ」という意見も出ました。また、仮に集落活動セ
ンターが設置された場合の資金の使用先について、「商品開発を行う」、「若い人が
地域に入ってきたときの支援金に充てる」、「西村ストアーの維持に使用する」など
の案が出されました。他にも「集落単位から地区単位への意識の転換は難しいが、
東豊永地区でまとまって動かなければなにもできない」という意見も出ました。
東豊永地区が今後どうあるべきかを住民全員が考え、意見を交わし、その上で
行動することが一番の理想です。集落機能が低下しつつある中、この理想を達成
するには多大な努力が必要となりますが、地域住民全員の意志がない限り、集落
活動センターの設置は単なる補助金の受け皿で終わってしまうでしょう。この議
題は今後も東豊永会議で取り上げられますので、この機会にぜひ、会議に足を運
んでいただければと思います。
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活動紹介4:東豊永地区写真コンテスト 号外(東豊永)
(市田彩香:高知大学大学院農学専攻修士
1年)
怒田のみなさん、こんにちは。学生団体おむすびの市田です。2015 年2月1日
~5月10日に行った、【第2回 東豊永地区写真コンテストin Spring】の入賞作品
が決定しましたので、この場をお借りしてご報告させていただきます。
■最優秀賞
1点■
笹岡建作さん
2015年4月4日
■優秀賞
■おむすび賞
1点■
松岡正樹さん
2015年5月1日 大滝にて撮影
怒田にて撮影
3点■
笹岡建作さん
豊永小学校にて
■特別賞 2点■
横山 豊さん
田畑恵莉さん
怒田にて
都築一久さん
大平にて
市川昌広さん
以上、6名のみなさんには、東豊永地区の農産物セットなどを賞品として贈呈さ
せていただきました。
今回の写真コンテストへは、東豊永地区の方、大豊町にお住まいの方、高知大
学の学生・教員など、計29名から、全83作品 (内 選外作品8作品) の応募があり
ました。前回に引き続いて参加してくださった方が多かったです。たくさんの応
募、ありがとうございました。第1回と同様、応募していただいた作品の展示会を
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5月19日~5月23日の5日間、東豊永公民館にて行いました。東豊永地区内外の
総勢49名の方に作品を観てもらい、好きな写真10枚に投票をしてもらいました。
写真コンテストの作品を楽しみにしてくれていた地域の方、たまたま近くに来てい
た の で 立 ち 寄 っ て く れ た 方 か ら、高 知 大 学 生 ま で、い ろ ん な 人 が「き れ い や
ねぇ」、「かわいい~」、「これはどこかなぁ」と、作品を楽しんでくれていたよ
うに感じました。第2回の作品は、春らしいカラフルな作品や、新緑が映える作品
がそろい、特に、大平集落の『ギャラリー夢来里』のお花たちが本当に見事でし
た!また、各集落の風景と桜を一緒におさめた作品や、これから作物を育てる準備
の様子を撮った作品も多く、春ならではの作品がたくさんありました。4月にな
り、はじめて集落に入る初々しい学生たちを捉えた作品も印象に残りました。あん
な時期が私にもあったなあ...なんて(笑)。
2度の写真コンテストを終えて、私たち学生団体おむすびは、写真コンテストに
関する活動の反省会を行いました。第1回から関わっている上回生メンバーと、第
2回から関わり始めた新メンバーとが、それぞれの視点から話をしてみると、写真
コンテストの【東豊永地区の『今』を切り取る】
という主旨(テーマ)がどこにも示されずにいたこ
とに気付きました。共同主催である「東豊永地区
の明日を語る会」のみなさんは、50年後も存続し
ている地域でありたいと様々なことを考え、話し
合っています。その50年後の未来のために、この
写真コンテストで集まった写真は、東豊永地区の
『今』を残す資料になると考えています。2度の
写真コンテストで集められた資料は、私たち学生
が「こ れ ぞ 中山 間地 域!」と感 じ る風 景 だ っ た
り、地域外の方が「きれいだなあ」と感じる自然
の風景などが多数です。でも、やっぱり1番大切
なのは、東豊永地区のみなさんが「当たり前」と感じる日常や、橋やトンネルが出
来るにつれて変化していく地域の風景だと思います。この写真コンテストで募集す
る作品は、上手い下手ではなく、「この景色を知ってもらいたい」、「この楽しい
時間を残したい」といった気持ちで撮ってもらう写真なのだと考えています。この
反省を生かし、今後の写真コンテストの運営やPRにおいて、以上のような東豊永
地区写真コンテストの主旨を少しでも知ってもらうための工夫を頑張ろうと思って
います。
最後になりましたが、5月11日からは第3回写真コンテストが始まっています!
梅雨が始まり、夏が近づいてきましたね。東豊永地区のあちこちで見られるアジサ
イや、水を張ってキラキラしている棚田、集落行事の神祭や道役、だんだんと伸び
てきた粟生トンネルからの道路など、【東豊永の「今」を切り取る】瞬間があちこ
ちに散らばっています!ぜひ、みなさんの生活の中で見つけた「今」を、パシャリ
と残してもらいたいなと思っています。第3回写真コンテストの作品展示会で、い
ろんな人から見た、たくさんの【東豊永の「今」】が集まることを楽しみにしてい
ます。
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活動紹介5:南小川流域で考えるトヨタ財団プロジェクトが始動(東豊永)
(市川昌広:高知大学地域協働学部 教授)
トヨタ財団は、トヨタ自動車の出資によりつくられた法人で、地域おこしを目
的とする活動に対する助成などを行なっています。今年度からの助成では、「未
来の担い手と創造する新たなコミュニティー」というテーマで募集していまし
た。私たちは、東豊永地区や西峰地区の将来的な継続を考え、怒田の氏原学さん
を中心にしたプロジェクトを昨年10月に提案していました。それがめでたく採用
され、今年の4月から2年間の予定で動き始めています。プロジェクト名は「高知
県大豊町の南小川流域住民Iターン者がUターン者と従来の住民と共に進める生活
基盤形成」です。
実は、2年程前にもトヨタ財団からは
助成をいただいています。その時は怒田
集落を対象にして、地元の資源を生かし
つつ、大学とともに行なういくつかの活
動に役立たせてもらいました。その時に
始めた支障木の製材やブルーベリー栽培
は、今でも引き継がれています。
今回のトヨタ財団の募集に対する氏原
さんの考えは、「怒田集落だけで活動し
ていても先は見えてこない。怒田だけが
元気になっても、まわりの集落が衰退し
↑ 活動に向けての第1回目の会議。落合の生涯
学習センターにて。4月15日。
てしまったら、怒田も生き残れない。対
(写真:市川昌広撮影)
象とする単位としては、東豊永地区でも
まだ小さく、せめてひとつの小流域ぐら
いがいいだろう」というものでした。そ
こで東豊永地区と西峰地区からなる南小川流域を対象にすることになりました。
南小川流域を見渡してみますと、多くはありませんが、何人かのIターンの若者
が暮らし始めています。Iターン者というのは、もともとこの地域の出身ではない
けれども、この地域に移住してきた人たちのことです。たとえば、西峰地区には
染色をしている藍原さん夫妻や、東豊永には農業をしている田畑さん夫妻がいま
す。他にも何人かの20~30歳代の若い方がいます。皆さん地域に入ってまだ数年
ですが、彼らの生活基盤を作り将来的に定着してもらおうというのが、今回の提
案の趣旨です。その際、地域の資源を使いつつ生計を立てることを目指していき
ます。
具体的には、空き家整備による生活基盤づくり、野菜生産基盤づくり、地域資
源を利用した商品づくり、農家レストランや草木染めギャラリーの設立、高知市
日曜市やインターネットを通じての商品販売などを高知大学との協働を通じてお
こないます。つまり地域資源を利用して農産物を生産し、加工して商品を作り、
それを農家レストランやギャラリーなどを通じて売ることによって、若いIター
ン者の生活基盤をつくることを目指します。
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生活基盤づくりは氏原さん、野菜生産基盤づくりは怒田の田畑勇太さん、加工
品・商品づくりは田畑恵莉さん、農家レストランは山岸玲菜さん(西峰の集落支
援員の山岸さんの奥さん)、草木染めギャラリーは藍原さん夫妻、日曜市販売は
氏原さんが中心となり、そこに高知大学の学生団体おむすびが協力して進めま
す。さっそく、5月28日の夜、高知大学教員の須藤順さんが講師となり商品化の
進め方のセミナーを開催しました(本号の記事を参照)。また、生活基盤づくり
では、空家周辺の支障木伐採で使う搬出機が購入され、さっそく活躍しています
(写真)。
東豊永や西峰の多くの方々は、Iターン
の彼らのことをご存知ないかもしれませ
ん。彼らはこの地を暮らしの場として選び
入ってきました。将来的には、彼らの子供
も含めて地域のことを考えていく人々にな
ります。プロジェクトでは、若い彼らと地
域で従来から住む人々が協力しあいながら
進めていくのですが、両者の間をうまく結
びつける役割をこの地域出身のUターンの
方々に担っていただきたいと考えていま
す。そういった地域になるように大学も協
力していきます。
高知大学は、これまでかかわってきた人
↑
購入した伐採木搬出機。
文学部、農学部、理学部に加え、新たに地
さっそく活躍しています。
域協働学部も参画して地域のことを考え、
(写真:市川昌広撮影)
このプロジェクトを支援し、動かしていき
ますので、皆さま、ぜひよろしくお願いい
たします。
活動紹介6:商品化研修会の報告(東豊永)
(松本美香:高知大学農学部森林科学コース
講師)
5月28日(木)の19時~21時20分、東豊永生涯学習センターにおい
て、須藤 順氏(高知大学地域協働学部 講師)を講師に迎え、「地域資源を活用
した商品開発の視点と進め方」と題した商品化研修会が開催されました。この研
修会には、東豊永地域から13名、高知大学の学生と教員ら7名、全20名が参
加しました。
研修会の開催意図をお聞きすると、「これまで、私たちは商品化の努力をして
こなかったわけではありません。それどころか、様々な人が色々な取り組みを
行ってきました。しかし、どれも上手くいっているとは言い難い状況にありま
す。この研修会では、専門家を招いて改めて商品化について学び、これまでの私
たちの商品化の取り組みを一から見返し その反省を足掛かりに今後の商品化や既
存商品の改良へと繋げたいという強い想いがあります。」という答えが返ってき
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ました。確かに、直接農産物や林産物を生み出し、様々に加工する技術を持つ 皆
さんにとって、この研修会は大きな変化をもたらすかもしれません。今回、研修
会の内容を記事にすることで、参加できなかった皆さまへの情報提供の役を担え
ればと思います。
さて、講演の内容ですが、まず初めに「地域資源を活かした商品開発の成功事
例紹介」がありました。紹介されたのは、①コミュニティカフェでる・そーれ
(青森県)、②高校生レストランまごの店(三重県)、③寿美屋食品株式会社
(沖縄県)、④あおもり正直村(青森県)
の4件です。①はコミュニティカフェを中
心とした地域商品開発、②は専門性の高い
高校の人材育成を軸とする地域商品開発、
③は地元資源を活かした商品開発と観光重
視の経営展開、④は商品分野を超えた中小
企業協同組合による統一ブランド戦略、と
いうように多様な取り組みでした。④の統
一ブランド戦略は「ぬたたの恵み」シリー
↑セミナーの様子(落合の生涯学習センターにて)
ズに共通しますね。
( 写真:市川昌広撮影)
講演で指摘されたことは、①~④の中に
も大事な点には共通するものがあって、それは「地元のためという目標にブレが
ない」、「地元民が主役で活躍している」、「地域の様々な人の協力体制(巻き
込み型の活動)」、「地域市場を軸とする展開」だということでした。つまり、
「みんなの商品」の開発となっているところは成功しやすいわけですね。
次に、講演で語られたのは、商品化のポイントでした。地域資源の活用の場合
は、「経済的価値」と「社会的価値」のバランスをとりつつ行うことがポイント
で、そのためには【「何のために何に取り組むのか」が明確で関係者に共有され
ていてぶれない】体制をつくること。そのためには、誰に、どんな価値を、どん
な地元の強みを活かして、どう届けるか、の「イメージの共有」が重要だという
こ とでした。
その他の指摘には、「商品化には①~⑦の段階があるけれども、大事なのは①
~③の試作までの段階で、その時の発想は、プロダクトアウト(作ったから売
る)とマーケットイン(必要とされるから作る)の2つの考え方のバランスが重
要だ」というものでした。
また、これからの顧客は、味や安全など基本的な価値だけでは満足せず、商品
が持つ物語や商品を使った時の感覚・新体験などの新しい価値(心理価値や感性
価値)を重視する傾向にあることに留意しないといけないし、新しい価値は地元
全体の協力関係の中で生まれ支えられるとの指摘もありました。
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次の小テーマは、「商品開発コンセプト」で、ターゲッティングのお話でし
た。ターゲッティングのポイントは、所得階層、流通チャネル、販売エリアの
「具体化」と「絞り込み」であり、それらを具体化するためにペルソナという仮
想顧客を細かく想定する作業が欠かせないということでした。ペルソナ作成の理
由は明確で、「販売対象を細かく指定し市場を限定させることで、商品の欠点が
分かり易くなり、試作の改善が速くなって商品化が速くなる。その小さな成功を
足掛かりに、活動の拡大へつなげることで成功しやすい。」ということでした。
急がば回れなんですね。ちなみに、ターゲッティングする市場は、地元市場から
が良いそうです。
【具体化のためのペルソナ(仮想顧客)作り】
1. 詳細なターゲット設定(年齢、性別、居住地、会社、既婚・未婚、世帯状況...)
※ メインターゲット・フォローターゲット(あわよくば購入)別に作る
2. ライフスタイル設定(行動パターン、趣味、志向、価値観...)
3. 購入時・使用時のシーンを想定(購入契機、購入場所、使用場所・状況、期待...)
※ 購入・使用までの各プロセスのどこに注目するかコンセプトが変わる
その他にも、「アイデアの出し方」についてのお話もありました。アイデア
は、①転用(過去の経験を別に活かす)、②足し算(無関係の2つを足す)、③
引き算(小さく、限定、減らす)、④掛け算(別の分野に加える)、⑤割り算
(対極の考え方、常識を崩す)など既存の技術の組み合わせで生み出すものだそ
うです。結構簡単?
講演の最後には、質疑応答・意見交換が活発に行われました。(ページ数の関
係で一部のみ掲載します。)
●現在の地元商品の原料のほとんどは地域外から購入。地元の材料は、品質
や供給が不安定で加工度もイマイチ。本気で使うにはグループ化など必要
だが、それほど売れるわけではなく踏み出せない。
●地域資源利用も、みんなが作ると似たものになって競争が激化する。差別
化のために環境貢献をPRすると、都市部の所得階層の高い余裕がある人
をターゲットにした少量高価の販売になる。反面、送料の問題がネックに
なるので地方商品の販売圏は東京を目指すべきではない。
●大豊町が誇るゼンマイを始め、山菜は地域食品開発の穴となっている。ま
た、山菜に関しては災害食としての注目がある。昔なじみの物を食べるこ
とでの安心感などの効果が期待。
●地域資源の活用には食品が多い。ただし、農商工連携は、売り方やサービ
スを開発する場合も適用される。例えば、柚子などは搾りかすを原料にす
るなど、未利用資源を資源化する視点も大事。
以上、今回の研修会から見えてきたことは、個人での対応の限界・行き詰まり
だったように思います。これからの商品開発は、色々な人・地域を巻き込んで取
り組まないといけない段階に来ていると感じました。
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活動紹介7:「中山間地域実習」でお邪魔しています(怒田)
(増田和也:高知大学農学部国際支援学コース
准教授)
高知大学農学部では「中山間地域実習」という授業を開講しています。この授
業では、実際に農山村に出かけて作物を耕作し、収穫・加工までの一連の作業を
通じて、地域での暮らしの一端を学ぶことを目的にしており、怒田を実習先とさ
せていただいています。今年度は男子学生1名、女子
学生6名の合計7名の学生が受講しています。
4月下旬より集落内で耕地をお借りして、まずは土
を起こす作業から始めました。耕耘機を使うのは全員
とも初めてで、最初は耕耘機を操ることだけで精一杯
でしたが、午後にもなると皆その扱いにも慣れてきま
した。5月下旬には素足で田んぼに入り、田植えをし
ました。また、ふるさと館のすぐ下の畑ではサツマイ
↑初めて手に取る草刈機に、
モ、落花生、ショウガ、カボチャを植えています。
意欲満々(写真:増田和也撮影)
このようにして、すでに何度も怒田にお邪魔させし
ています。そのなかで学生たちはどのようなことを感じているのでしょうか。2
人の学生が、次のように話してくれました。
「初めて怒田を訪れた時、空気が澄んでいて気持ちいいなと思いました。中山間
地域では高齢化が進んでいるというイメージを持っていたのですが、集落を歩い
てみて、栽培を行っている田んぼや畑がイメージよりも多いことに気づきまし
た。実際に集落の人と会ってみても、かなりお歳をとられている方でもとても元
気そうにされています。ずっと農作業をされていて体を動かしているから元気で
いられるのかな、と思いました。私もおばあちゃんになっても元気でいたいと
思っているので、年を取ってからも活動的な人でいたいです」(農学部2年生女子)
「私たちが農作業をしている途中、移動販売の車が来ました。運転手のお母さん
が車を止めると、近所の方が集まってきます。私たちもそこに行ってみると、お
母さんたちは、車に積んでいる商品のことや怒田での生活について話してくれま
した。どれくらいの頻度で怒田に来るのか、また、怒田のお母さんたちがよく食
べるお菓子のことなどを聞いて、怒田の様子が少し見えてきたような気がしま
す。移動販売の車の周りに来ていたお母さんたちは、みなさん初めて会った方ば
かりでしたが、親しく話してくれて嬉しかったです。そんな暖かい怒田を実感し
ました」(農学部2年生女子)
これまでの実習では農作業に大半の時間をとら
れてしまっていますが、その合間合間に学生たち
は怒田のみなさんとのふれあいを楽しみ、怒田で
の暮らしの様子にも関心を向けているようです。
これからは草引きが忙しくなり、引き続き何度も
怒田にお邪魔する予定です。学生達と出会う機会
がありましたら、ぜひ声をかけていただければ、
↑受講学生の7名。稲を植える者、紐を動
と思います。よろしくお願いいたします。
かす者、役割分担しながら全員で田植え
(写真:増田和也撮影)
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活動紹介8:田植え・盆踊り(怒田)
田畑勇太(怒田上屋敷)
【田植え】
怒田の上屋敷の田畑勇太です。5月23日は
学生と一緒に田植えをしました。学生時代に何
回か怒田で田植えを経験させて頂きましたが、
今回は怒田のおんちゃんとして、学生を指導す
る立場となりました。しかし、指導といっても
田んぼを自分で作るのは今年が初めてで、わか
らないことだらけです。多くの方に初歩の初歩
から教えて頂いています。ありがとうございま
す。学生時代の田植えはただ楽しいものであ
↑5月23日学生と手植えをしているところ
り、同級生とふざけながら何も考えずにやって
(写真:石筒 覚撮影)
いました。今回、教えて頂きながら田んぼの準
備をして、田植えをするまでの作業の多さに驚きました。秋に前作の株を叩き、
冬には排水を良くするため山側に溝を掘りました。暖かくなってきたら畦の草刈
り、水路の掃除と準備を進め、一回目の代掻き、畦を作って(今回は無謀にも自分
の手で畦を塗ってみました。)二回目の代掻き、そして最後に手植えするために印
をつける。あと苗は土佐町でモミ撒きを手伝い、田植え前日に取りに行きまし
た。まさか、まさかこんなにも準備の作業があるとは考えてもみませんでした。
今回の田植えで、今まで経験をさせて頂いた様々なことには多くの準備があり、
多くの労力、時間がかかっていたのだと気付くことができました。一番勉強に
なったのは僕な気がしています。
【盆踊り】
春の総会で8月16日の盆踊りを提案させて頂き
ました。といっても、僕自身盆踊りは小学生で踊っ
たのが最後で、炭坑節もはなとり踊りも踊れませ
ん。祭りの当日に手伝ってくれる学生も踊れる人は
いないと思います。そこで僕らと学生に踊りを教え
て頂きたいと考え、練習会を企画しました。ふるさ
と館を貸して頂き、夕方の7時ごろから1時間30分 ↑ 盆踊りの練習中。怒田の皆さんを
先生に学生が見よう見真似で踊って
ほど練習を行いました。最初は思い出しながら、学
います。 (写真:市川昌広撮影)
生は教えてもらって見て真似しながらの踊りでした
が、最後には全員の動きが揃っていて、小さい頃に行った盆踊りを思い出しまし
た。学生たちは教えてもらった踊りが楽しかったようで、大学でも練習している
そうです。この練習会は本番まで月に一回実施したいと考えています。もし練習
に参加してもよいという方がいらっしゃいましたら田畑(080-1611-3159.)ま
でご連絡頂けると嬉しいです。まだ盆踊りに向けた準備は少ししか進んでいませ
んが、みんなで楽しめるものにするため頑張っていこうと思いますので、よろし
くお願いします。
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卒論研究:ゼンマイ栽培土壌の特性についての研究
(浅山久留美:高知大学農学部国際支援学コース 4年)
みなさん、こんにちは。農学部4年の浅山久留美と申します。
今回は、私の研究についてお話させて頂きたいと思います。私
は、「高知県大豊町におけるゼンマイ生育土壌の特性」について
の研究を行っています。ゼンマイに着目した理由は私がゼンマイ
を好きだからというだけではなく、大豊町がゼンマイの産地とし
て有名だからです。有名産地となり得た理由は、もちろん生産さ
れてきた方の努力が最も大きいと思いますが、私は産地化の要因
を土壌という観点から見ることに興味を持ちました。山菜辞典な ↑ゼンマイ
(写真:浅山久留美撮影)
どには、ゼンマイは全国の低山から高山の森林地帯の日陰に生育
するということが書かれていますが、土壌の観点からなされた研究はほとんどあ
りませんでした。卒論では、高原、三谷、怒田の3地域における、ゼンマイとその
土壌を分析し比較することによって、どういった土壌母岩(土壌の原材料となる
岩石)がゼンマイの生育に適しているのだろうか、ということを調べています。
まず、土壌母岩についてですが、土壌にはその原材料となる岩石があります。
この土壌の原材料となる岩石を母岩と言います。その母岩は風化作用をうけ、ま
た微生物や植物の作用をうけ、徐々に砕けて土壌へと変化して
いきます。つまり、母岩が違えば、そこに出来る土壌の性質も
少しずつ違ってくるのです。そこで、大豊町内でも母岩の種類
が異 なる、三 谷、高 原、怒田の 3地域を 調査地に選定し まし
た。詳しいことは分析を進めていかなければ分かりませんが、
三谷は石灰岩、高原は黒色片岩、怒田は御荷鉾緑色岩類である
とみられています。
研究は三谷、高原、怒田の方々のご協力を得て進めておりま
↑ 研究室にて長さを測定
す。この場をお借りして感謝申し上げます。私は頼りない性格
(写真:浅山久留美撮影)
なので、ちゃんと結果が出せるのだろうか、と今から心配ばか
りですがしっかり研究を進めていきたいと思っております。これから、研究を進
めるにあたり、まだまだ住民の皆様にはご協力をお願いすることもあるかと思い
ます。その折はどうぞよろしくお願いいたします。卒業研究の結果はこのニュー
ズレターでまた改めてお伝えすることが出来るのではないかと思います。また、
年度末に毎年開催されている、発表会でもお伝えできればと思います。
編集後記
(松本美香:高知大学農学部森林科学コース
講師)
今回、ニューズレターは30号を迎えました。怒田集落での協働事例の情報共有
を発端としてスタートしましたが、高知大学の協働の取り組みは今や東豊永地域
へと広がっています。「協働の基本は情報共有から」ということで、今後も様々な
取り組みをお伝えして、協働を支えたいと思います。よろしくお願い致します。
発行者・連絡先:高知大学農学部(〒783-8052
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南国市物部乙200)松本美香、市川昌広
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