東海大学 NPO 公開連続講座要録 東海大学 NPO 公開連続講座要録

東海大学 NPO 連続講座要録
東海大学 NPO 公開連続講座要録
クラシック音楽の事業構造と芸術性
社団法人日本クラシック音楽事業協会専務理事 善積 俊夫
11.. 音楽産業マーケットの概要
コンサートの来場者を、まず見よう。97 年は総数 9,451 回(外来演奏 2,561 回)で、その後の 5 年間は、年に 1 万回弱の
演奏回数で推移している。01 年では、9,412 回(外来 2,212 回)で、5%減。大都市での演奏回数が落ちているのは、不況
の波をかぶっている証拠。しかし地方ではがんばっている。
外来演奏は 9%減だが、不況、国内演奏家のがんばりなど・・・・があるのだろう。
公共ホールの数は、3,081 館あり、平均座席数は 642 席。人口 1,000 人当たりで 15.5 席という数字にはなる。インフラはで
きているのだ。しかし、地方ホールは、年間200日の空きがある。
自主事業は 77%のホールが行っている(11,476 件)が、大半が赤字で、173 億円にのぼる。これを税金で負担する。箱も
の行政といわれる所以だ。
90 年代に、競うようにして地方に立派なホールができた。しかし、熱心な首長がかわると、とたんに予算が削られたり、不
況の追い打ちで、文化予算が大幅に削られる−−との状況が目立つ。この辺りの文化的土壌の育成が、これからの大きな
課題といえる。
コンサートに直接関わる人々は、760 人ほど。オーケストラの事務局運営者が 290 人。公立文化施設の職員が 18,600 人、
地方の文化施設関係者が 5,350 人、音楽雑誌編集者が 150 人程度、コンサートの裏方は 2,400 人、マセナでの担当者が
1,230 人、楽器販売・技術で 4,200 人、スタジオ関係者が 7,000 人で、約 4 万人のメンバーが、この分野で仕事をしている。
注目は、コンサートへのボランティアが、公共 432 館で 18,600 人も登録している。
NPO 化をすすめる場合、こうした人々が中心になろう。
ア−トマネジメントをしている大学は 48 校。約 1,000 人が、コンサートに関わる予備軍となる。
地方におけるオペラの製作・創作運動が、拡がっている。オペラ公演は 292 団体、791 公演、市民参加の公演 52 回だ。
そこには、中央からのプロの演奏家も招かれるが、合唱団や演奏などの多くが、地元のアマチュアによって担われる。演
奏もレベルが高く、音楽の裾野は確実に拡がっている。地方に熱心な人がいると、そこの活動は確実に拡がる。
音楽産業の規模を見ると、クラシックで年 380 億円。ポピュラーで年 784 億円、計 1,164 億円程度だ。演劇は 368 億円、
スポーツ 541 億円で、全部で 2,000 億円程度のマーケットといえる。テレビ娯楽は 6,425 億円、パチンコは 28 兆円と桁違い
だ。
22.. クラシック音楽とポピュラー音楽の事業構造
クラシックの場合、すべてが「お高い」と受け止められてしまう。値段が高いだけでなく、雰囲気やプログラムの作りなどを
含めて・・・・。行っても楽しくないよ−−と。この雰囲気打破が、われわれの課題だ。
CD の売り上げも、年に 5%程度の低下が続く。これは、IT によるダウンロードの普及と購買層の高齢化シフトが原因と考
えられる。
しかし、周辺マーケットは、意外に広い。クラシック CD の売り上げは、年々、増えている。クラシックフォエバーという、さわ
りの部分の演奏をしたものは100万枚も売れている。
地方にゆくと「音楽祭」と名の付いた演奏会は、年に 54 回を数え、定着化している。札幌・草津・別府・宮崎・松本など、い
ろいろだ。
業界の特徴を見よう。
クラシックは、アーティスト中心(上位)の事業運営で、マネジメント社がその下に位置する。事業展開の仕方は、マネジメ
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ント社の自主事業とパッケージ売りに分かれる。ポピュラーの方は、アーティストがマネジメント社に囲われている。レコード
会社、テレビ局、広告エージェント、プロダクションなどが核になって企画・製作をする。地方の興行では、イベンター(業
者)がそれを受ける。いわゆる分業・事業化だ。
それに、CD やチケットの購入も 70∼80%が、インターネット経由だ。
音楽人口を見ると、クラシック 1,000 万人、ポピュラー(ニューミュージック系)1,400 万人で、年間 2,400 万人が、コンサート
を楽しんでいる。プロ野球は 2,200 万人。
サッカーJリーグは、360 万人と、騒ぎの割には少数だ。
日本のプロのオーケストラは 25 団体。アマチュアは 345 の加盟だが、実際には 500 団体には増えていよう。合唱団は
4,950 団体が連盟に加盟しているが、実際はその 10 倍程度と見ている。吹奏楽団は 13,000 団体を数える。
33.. 音楽事業のマネジメント
音楽事業を進める場合、聴衆の規模(人数)によって演奏は変わる。そうした意味では、アーティストは 1 人でも、同じ商品
は一つもないといえる。毎年、同じプログラムを行う演奏会でも、少しずつ変化し、創造的にしている。飽きられるからだ。
芸能は、本来は「お代は見てのお帰り」で、後で評価が決まるものだ。クラシック音楽は、もう少し高くてもよいではないの
か−−と指摘する評論家もいる。しかし今の情勢では、5,000 円を超えるチケットはなかなか売りにくい。ただオペラは、結
構売れている。国内では 2 万円、海外物では 6 万円というのもあるが、需要がある。
原因は、海外でのオペラ観劇を経験し、それに嵌(はま)っている人が増えたことと。オペラには合唱が付きものの場合が
多く、アマチュア合唱団による演奏経験がひろがり、関心の度合いが増したこと−−などがあげられる。
マネジメントの課題は、音楽ファンの繋ぎ手をつくることだ。ただ好きなもの・・・・
ではなく、企画・進行、舞台の仕掛け、装置、アクシデントへの対応など、カリキュラム表をつくって、手順を身につけたホー
ル関係者の育成に力を入れている。
かつてはアーティストがそれをやっていたが、今は分業化しており、そうした場づくりをする役割人(マネジャー)が重要に
なっている。
CD の売り上げは減少しているが、映像をともなう DVD の売り上げ(所有材)が、このところ 50%アップで推移している。こ
れは、何回も演奏を楽しんでもらう権利商品としての機能だ。
しかし一方では、コピーしたり事業に黙って使ったりなど、開発者や演奏家の権利侵害ともなりかねない状況を持つ。その
意味で、マネージャーは、未来に対する夢や希望を創造する文化財事業ということ(ルール)を自覚し、無償の価値の維
持・保護という視点を持たなければならない。
ホールは、音楽を鑑賞する場で終えてはならない。それは、夢や希望を創り出し、繋いでゆく場−−という役割を持つこと
だ。マネジメンターは、そうしたコミュニケーションを創り出す人でもある。
44.. 芸術支援
昨年の暮れに「文化芸術振興法」が成立した。これは理念法で、文化芸術を享受する権利を示したものだ。僅かだが、予
算も付いた。これからは、芸術文化に対する寄付や税制面での優遇措置などが検討されないと、内容が充実されない。
たとえば、芸能法人は、10%のギャランディの前納が義務づけられている。この改正要望も出した。このように、芸術文化
の基盤を整備することが重要だ。
一般的なコンサートで、費用はどれくらいかかるのかを見ると、オーケストラで 1,500 万円、オペラだと 4,000 万円。海外オ
ペラ招聘となれば、2 億円にもなる。入場収入だけでは、なかなか採算はとれない。自治体などの支援がないと、運営は難
しいのが実情。
「基本法」ができたが、支援システム構造の変革が必要だ。
55.. NPO と音楽事業の関わり
ある地方での、音楽関連のボランティアに対する日当は、1,500 円程度(4 時間)と僅かだ。それでも多数が登録され、地
方の音楽が支えられている。この姿がよいとはいえないが、実情は、このような形だ。
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札幌では、音楽祭のボランティアが NPO 法人をめざし、演奏家支援の資金調達をしようと、地元の物産やグッツの販売を
はじめた。ある学校法人は、学生の音楽・映像活動を重ねながら、事業経験をしてゆこうと、NPO 法人を立ち上げた。
しかし欧米のように、音楽家への資金援助は、日本ではあまりないのは残念だ。
昨年、NPO 法人を取得したブラームスホールの関係者は、法人取得のメリット・デメリットを次のように整理している。
メリットは、(1)助成を受けやすい、(2)社会的な認知が高まった、(1)ボランティア支援を受けやすい−−などだ。
デメリットは、(1)理事会開催など、手続きが面倒、(2)会員に議決権があるので、その人員が増えると、総会手続き−−
委任取り付けが大変。事務経費もかさむ−−などだ。
そのため、運営会員(議決権あり)と音楽家会員(議決権なし)との二重構造にし、会計も別にした。
法人になって変わったことは、主催者だけがリスクを負っていたものが、音楽家もリスクの分担に加わったことだ。演奏家も
主体的に関わるようになったことで、運営のための固定費も確保できるようになったという。サロンコンサートでは、カンパ袋
も出して、寄付を仰ぐこともスムースにできるという。
66.. NPO の目的とその活用
民間の組織である意義を考えてみよう。これまでの文化は、官主導の公であった。それが、市民パブリックとなった。市民
=公という図式に変わった。それを支えるのがNPOだ。
これからは地方の時代だ。象徴的には、東京から文化が発信され、地方が受け手となるのではなく、地域が発信者であり、
受け手であるという形に変わってきた。地域文化のまちづくりの始まりでもある。
そうするためには、NPO は儲けねばならない。投資なくして前進なしだ。儲けて、利益を出して、次へ−−だ。
77.. 音楽消費国から音楽創造国へ
日本は、アメリカに次ぐ世界で 2 番目のマーケットを持っている。だが文化では、輸入超なのだ。ところが、日本には、若手
のよい(有望・実力)人が沢山いる。この人達をいかに活躍してもらうかだ。その文化的活躍の土壌を作るのが NPO だ。
小沢征爾のニューイヤーコンサートの CD が、70 万枚も売れている。クラシック音楽の広がりがあるのだ。聴衆も成長して
いる。演奏に対する反応も的確であり、鋭い。
評価の主体である聴衆のこうした変貌は、文化的土壌が拡がっている証だろう。かつてコンサートには、勉強する音楽会
−−というイメージが強かった。それが楽しむ音楽会へと変わってきた。学ぶ文化的生活から、経験を深める文化へ−−と
変わっている。
アメリカでは、「経験文化」という表現があるようで、文化的な経験を深めて、それが経済活動の中心になる−−との考え
方だ。主役は、NPO なのだろう。
文化は、上からやってくるという縦指向から、みんなでやる・・・・縦・横いろんな方向で、繋ぎ手によって実をなすことがで
きる時代になったといえる。その横糸の役割をNPOに期待している。
ボランティアの力のすばらしさを、ビデオでお見せしたい。
わたしは横浜・青葉台に住んでいるが、その沿線の東急 CATV(現イッツ・コム)で、奥様方が中心に、土曜コンサートとし
て小さな演奏会をしている。それが 150 回記念コンサートをしたい−−ということで繋ぎを頼まれた。区で公募したところ、リ
タイヤした男性も引き込んで、100 人ほどのオーケストラ参加者が集まった。
コーラスには 200 人ほど(最高齢は 86 歳)。4 ヶ月・6 回の練習で、見事な演奏を成し遂げた。曲目は、アイーダ『勝利の
行進』。プロ(指揮者・コンサートマスター)は二人のみだ。(編者注:このビデオが終わったとき、講座出席者からも大きな拍
手が起こった)
日本には、こうした繋ぎ手さえいれば、お聞きのようなすばらしい演奏ができる土壌がある。捨てたものではない。
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