こころの医療たいようの丘ホスピタル 認知症★ やってはいけないマニュアル!! ~同じことを何度も言う 編~ 認知症治療病棟に入院中の D さんは、最近、夕方になると不安そうな表情で、「今晩、泊っても良 い?」と職員にたずねるようになりました。職員が「泊って良いですよ」と伝えると、「良かった。 嬉しいわ」と安心されますが、すぐに不安そうな表情に戻り、病棟内を歩き、出会った職員に「泊っ ても良い?」とたずねることを繰り返しています。 『同じことを何度も言う認知症高齢者』に対して・・・ やってはいけない!!対応 「何回言えば分かるの!泊って良いって言っているでしょ!」と強い口調で言いきかせる。 「何回も同じことをきかないで!」と注意し、話を終わらせ、それ以上話をきかない。 「D さん、泊って良いですよ」とホワイトボードに書いておき、他の業務をする。 言ってもどうせ忘れるだろうからと、業務をしながら生返事を繰り返す。 つきあっていると仕事にならないからと、その場を立ち去り、他の業務をする。 見つかるときかれるからと、あらかじめ、その場に居ないようにする。 その結果・・・ 誰も助けてくれない どうすればいいの? ここへはおれない どこへいけばいいの? 帰り道は分からない お金もない はやく泊るところを探さないと・・・ 結局、その後も、病棟内を歩き回り、職員や他の入院患者に同じ訴えは続き、 より落ち着かない状態に!! 目が離せなくなった。そして、日中の睡眠はより深くなった・・・ やったらよかった!対応 「どうぞ、泊ってください。お食事も用意しますね。まだ早いのでお茶で もいかがですか」と説明し、焦らず、気長に、しばらくそばに寄り添い、優 しく話を聞くことを続けるようにした。そして、日中は、本人が興味を示す 話題や活動を提供することを続け、あらかじめ「今晩は泊ってくださいね」 とこちらからお願いするようにした。以上のような対応を、日中から夜間に かけて行うことで、徐々に、同じ訴えの繰り返しは止んだ。 こころの医療たいようの丘ホスピタル ポイント解説! 前述の『やったら良かった対応』は一つの成功例であり、誰に対しても同様に対応すれば上手く いくというわけではありません。しかし、前述の『やってはいけない対応』は、やると上手くいか ず、かえって問題をこじらせる可能性が高いので、できれば避けたい対応です。 何度も同じことを話したり、たずねたりすることは、認知症の初期から認められる代表的な症状 の一つです。認 知 症 に よ る 記 憶 の 障 害 、見 当 識 の 障 害 、理 解・ 判 断 力 の 障 害 な ど か ら 、一 度話したこと、既に教えてもらったことなどを忘れてしまい、毎回、初めてのつもりで 話しています。そして、その背景には、自身の置かれた状況 を適切に認識できず、困惑 し、不安に思い、ひとり寂しく苦悩し、止むに止まれず周囲に助けを求めようとする認 知 症 高 齢 者 の 姿 が 隠 さ れ て い る の か も し れ ま せ ん 。 そ の た め 、『やってはいけない対応』の ような対応をすると、元から抱いていた不安感、絶望感、孤立無援感などを増幅させてしまい、か えって混乱させ、場合によっては、興奮、易怒、焦燥、攻撃性、徘徊、不眠といった他の BPSD( 認 知 症 に 伴 う 精 神 症 状 ・ 行 動 障 害 ) を 生 じ さ せ て し ま う 結 果 に な る か も し れ ま せ ん 。 時間 のない時に何度も同じ話をされると、介護者も冷静でいられなくなることがあるかと思いますが、 助けを求めている認知症高齢者の背景にある心情を察知しくみ取りながら、その都度、初めてのつ もりで穏やかに話を聞き、安心感を与えるような言葉がけを行ってあげることが大切です。そして、 さらに大切なのは、認知症高齢者が、認知機能の低下のために、日々の生活の中で感じている不安 感、孤独感、無力感などの感情への配慮、手当てを行うことです。そうした配慮、手当て無しでの 対応では、たとえその場は落ち着いたとしても、解決につながらず、同じ訴えは続いていくと思い ます。「同 じ こ と を 何 度 も 言 う 認 知 症 高 齢 者 」 で は な く 、「 同 じ こ と を 何 度 も 言 わ せ て し ま う 支 援 者 」 と 認 識 し 、 認 知 症 高 齢 者 で は な く 支 援 者 側 の 問 題 と 考 え 、 そこから対応策を 導きだすようにしてください。そして、日頃から、認知症高齢者が、快適で安心感を抱ける環境、 関係性を築くようにしてください。 認知症高齢者への支援では、問題が起きた時の対応はもちろん大切ですが、問題が起きていない 時にいかに質の高い対応をしているかが重要となってきます。このような視点を忘れずに、日頃か ら良い環境、良い関係性を築き、それを維持するようにしましょう。
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