対話型電子白板システムのための 磁気式位置姿勢検出装置の試作

日本バーチャルリアリティ学会第 5 回大会論文集(2000 年 9 月)
対話型電子白板システムのための
磁気式位置姿勢検出装置の試作
An Electromagnetic 6-D Measurement System for an Interactive Electronic Whiteboard
櫻田 武嗣 1) 2) ,阿刀田 央一 1) ,中川 正樹 1) ,清川 清 2) ,杉浦 一徳 2)
Takeshi SAKURADA, Oichi ATODA, Masaki NAKAGAWA, Kiyoshi KIYOKAWA and Kazunori SUGIURA
1) 東京農工大学
(〒184-8588 東京都小金井市中町 2-24-16, [email protected])
2) 郵政省 通信総合研究所
(〒184-8795 東京都小金井市貫井北町 4-2-1)
Abstract: This paper presents an algorithm of real-time position / orientation measuring for a new
electromagnetic 6D-measurement system and a prototype system incorporated to an interactive
electronic whiteboard. This system employs two solenoids and one three-axle magnetic sensor. Thus, it is
possible to produce a real-time 6D-Measurement system extremely cheaply compared with conventional
systems.
Key Words: Motion Capture, Magnetic Sensor, 6D Tracker, Electronic Whiteboard
1. はじめに
3. 本システムにおける位置姿勢検出方法
近年会議や授業で使用されている白板や黒板を、白板型
本システムでは高価な3軸同芯コイルを用いず、発信用
タブレットを使用し電子化することで情報処理の利点を
1軸コイル2個と受信用3軸コイル1個を用いて位置姿
生かそうという動きがある。しかし、既存の白板型タブレ
勢を検出する。受信用3軸コイルは図1に示すように市販
ットの価格が高いということがあり一般に広く普及する
されているドラムコアに巻かれたコイル組み合わせたも
には至っていない。また白板の大きさ以下には分解できず、 ので十分である。
移動・収納が困難である。本稿では1軸コイル2本を平行
b
に空間に配置することにより、3軸電磁気センサの位置姿
c
勢を検出する方法の設計について述べる。さらにこれを対
話型電子白板で利用したシステムの試作について述べる。
a
2. 従来の電磁誘導方式 3 次元位置姿勢検出装置
現在実用化されている製品の多くは Polhemus 社によっ
て供給されており、座標の算出方法などは文献[1]にある。
図1
ドラムコアを5つ組み合わせたセンサの配置
この方式は、3軸同芯コイルを時分割で励磁して磁場をつ
(0,0,0)
D1111
くり、このコイル配置に依存する形で、オイラー角からセ
ンサ座標を求める。計測可能な空間はコイルの中心を中心
と し た 半 球 で あ る 。 Polhemus 社 の 他 に Ascension
z
x
Technology 社、Dream Team 社の製品があるが、これらは
電気的、または装置的に改良を施したものであり、座標計
算の基本原理は変わらない。これらの方式では、任意の大
きさの計測領域を得ることが難しい点、3軸同心コイルに
D2222222
(0,L,0)
コストがかかる点などの問題がある。
y
図2
計測領域
発信用コイルの配置と計測領域
発信用コイルの位置と目的とする計測領域を図2に示
す。位置の異なる2つの送信コイルを時分割で励磁し、そ
れぞれの空間磁場ベクトルを受信センサで得る。
ここで、センサの座標を p、磁場発信機 1,2 の座標をそ
れぞれ D1=(0,0,0),D2=(0,L,0)とする。これらはすべて要
素 x,y,z を持つ列ベクトルで表記する。また磁場発信機の
コイルは平行に置き、その向きを Z 軸とする。発信機1を
利用してセンサから得られた空間磁場ベクトルを s1、発信
機2を利用した場合の空間磁場ベクトルを s2 とする。発信
図3
機 1 を使用した場合の q=(x,y,z)での空間磁場ベクトルは、
(
)
(
)
(
) (
)
1/ 2
1/ 2
ρ  3 x2 + y2 z 3 x2 + y2 z 2z2 −x2 − y2 
s =
,
,
 x2 + y2 + z2 5/2 x2 + y2 + z2 5/2 x2 + y2 + z2 5/2 


(
) (
)
(1)
対話型電子白板システムの試作
センサは図4に示すようなペン型のものを作成し、使用
した。計測レートはセンサ1個で 30[points/s]程度、電子
白板画面上での誤差は 5mm 程度となっている。
と表される。ここで空間磁場ベクトルの内積を3つ定義す
る。
H11 = s1 ⋅ s1 = m 2 ⋅
x2 + y2 + 4z 2
(x
2
+ y2 + z2
)
4
x 2 + ( y − L) + 4z 2
2
H 22 = s2 ⋅ s2 = m 2 ⋅
H12 = s1 ⋅ s2 = m 2
(x
(⋅ x
)
(2)
2
+ ( y − L) + z 2
2
+ (L − y ) x 2 + y 2 + − 2 L2 − 5Ly + 5 x 2 + y 2 z 2 + 4 z 4
2
2
)(
4
) (
(x2 + (L − y ) + z ) (x
2
2 5/ 2
(
2
+y +z
2
)
図4
))
試作したペン型センサ
2 5/ 2
5. おわりに
式(2)において、比例定数 m は双極子能力であるが、これ
本稿では1軸コイル2本を平行に空間に配置すること
により、3軸電磁気センサの位置姿勢を検出する方法の設
はゲインで調節するためここでは m=1 と考える。
磁場発信機 1,2 が発信したときのセンサが受信した空間
計について述べた。また、これを対話型電子白板で利用し
磁場ベクトルをそれぞれ i1,i2 とし、w=(x,y,z)とすると
たシステムの試作について述べた。本稿で述べた方式を利
次の3元連立非線形方程式が成り立つ。
用することにより、これまで 50 万~数百万円程度してい
たリアルタイム磁気式位置姿勢検出装置を、数万円程度の
H 11 − i1 ⋅ i1 = 0 = f11 ( w )
H 22 − i2 ⋅ i2 = 0 = f 22 ( w )
コストで製作することが可能となった。
(3)
H 12 − i1 ⋅ i2 = 0 = f12 ( w )
今後は、試作したシステムの精度・計測レートの向上や
その上で動作するアプリケーションの開発が必要である。
式(2)、式(3)よりニュートン法を用いて w を求める。さら
にこのセンサの位置 w を用いて理論磁場ベクトルを求め、
参考文献
実際に計測した磁場ベクトルと比較することで姿勢を求
[1]F.H.Raab, E.B.Blood, T.O.Steiner, H.R.Jones : Magnetic
めることができる。姿勢算出については文献[2]で詳しく
Position Tracker, IEEE Trans., Vol. AES-15, No. 5, pp.
述べている。
709-717, 1979.
[2]今田忠博:磁気式モーションキャプチャ装置の制御と
4. 対話型電子白板への応用
実際に対話型電子白板に本アルゴリズムを適用したシ
座標計算アルゴリズム,東京農工大学工学部電子情報
工学科卒業論文, 1997.
ステムを試作した。図3に示すシステムでは支柱を2本使
[3]阿刀田央一,中村雄一,冨澤眞樹,横山一也,今田忠
用し、スクリーンの端の部分で検出誤差を少なくするよう
博:磁気式モーションキャプチャ装置における双極子
にしている。各支柱の2つの発信用 1 軸コイル間の距離は
配置と座標計算アルゴリズムの一設計法,計測自動制
1.2[m]である。また、片方の支柱の中央部に受信用3軸コ
御学会論文集,Vol. 34, No. 5, pp. 445-453, 1998.
イルを取り付けることで、支柱間の距離・傾きを計測でき
るようになっている。今回の試作では実装していないが、
[4]櫻田武嗣,阿刀田央一,中川正樹:3次元モーション
キャプチャ装置を応用した対話型電子白板システムの
求めた傾き・距離からセンサで計測される磁場を自動的に
試作,情報処理学会第 60 回全国大会講演論文集,Vol. 4,
補正することが可能である。
p. 533.