1)乳 腺

Ⅰ ジャンル別超音波最新動向
5.体表臓器領域の最新動向
1)乳 腺
乳腺超音波診断のブレイクスルー
矢形 寛 埼玉医科大学総合医療センターブレストケア科
乳腺領域では,超音波検査はマンモグラ
ん発見率に関するデータが第一報として
マンモグラフィに匹敵する乳がんの検出
フィと並んで,最も中心となる検査として
報告され,超音波検査を併用した方が
率があり,リンパ節転移陰性の早期浸
位置づけられている。体表用のプローブも
より多くの乳がんが発見された 。超音
潤癌がより多く発見されるが,偽陽性も
日々改良され,乳がんの検出や診断能力
波検査により全体として 0 . 17%の発見
増加するという報告も見られる 3)。
1)
も飛躍的に高まり,使いやすいものへと進
率向上が見られ,しかも超音波検査で
検診の場では,効率的にがんの可能
化している。本稿では,乳房超音波検診,
のみ発見された乳がんの 78%が臨床病
性が高い病変を拾いつつ,可能性のきわ
臨床応用されているいくつかの技術,そし
期 0 ~ 1 であり,その大半がリンパ節転
めて低い病変は落としていかなければな
て術中超音波検査の意義について述べたい。
移陰性の浸潤癌であった。
らない。超音波検査単独あるいはマンモ
乳がん検診
マンモグラフィで見えず,超音波検査
グラフィと超音波検査の併用検診を進
でのみ検出される乳がんが存在すること
めていくために,本邦でも超音波検診の
は日常臨床でしばしば経験するため,容
カテゴリー分類や総合カテゴリー判定基
乳がん検診において,その有用性が証
易に予想された結果であるが,偽陽性率
準が作成されている。
明されているのはマンモグラフィだけで
も増加している。マンモグラフィと超音
ある。有用性とは,検診により生存率が
波検査の結果が独立して判定されたため
向上するということである。しかし,本
かもしれず,例えばマンモグラフィで腫
乳房用超音波診断装置
邦ではエビデンスとは別に超音波検査が
瘤と判定され,超音波検査で囊胞とわ
検診の場では短時間に多くの検査を
検診の場で広く用いられてきた。そこで,
かれば安心してカテゴリーを下げられる
こなしつつ,かつ検査の質を担保しなけ
40 歳代,女性に対してマンモグラフィに
ため,今後は両者の総合判定のあり方
ればならない。多くの検査者を教育して
超音波検査を併用した場合に生存率が
が重要となってくる。
質を保つよう努力するという考え方もあ
向上するかを検証する大規模な無作為
米国でも高濃度乳腺におけるマンモグ
るが,やはり技量や経験の違い,検査者
化比較試験(J-START)が本邦で行わ
ラフィの問題点が浮き彫りにされており,
の体調などの影響は決して小さくなく,
れ,現在経過観察中である。最終結果
超音波検査を加えることの意義が議論
地域格差,施設格差を生む原因ともな
が出るのはまだかなり先であるが,乳が
されている 2)。超音波スクリーニングは
りうる。
そこで,近年,乳房用超音波診断装
置(Automated Breast Ultrasound
System:ABUS)が開発され,より客
観的に超音波診断を行う試みがある。
ABUS は,乳房全域を大きなプローブで
走査して,画像情報を自動的に収集,
構築し,検査後に乳房画像を三次元的
に観察するものである(図 1)。この方法
は,検査者の技術や体調に左右されない,
後で落ち着いて読影できる,ダブルチェッ
クや見直しが可能である,といった利点
図 1 ABUS による画像(浸潤性乳管癌)
〈0913-8919/16/¥300/ 論文 /JCOPY〉
が挙げられている。Wang らは,通常の
INNERVISION (31・3) 2016 17