Robotics Report

2016年2月26日
AI(人工知能)とビジネスの未来
~東京大学特任准教授 松尾豊氏に聞く
このところ「AI(人工知能)」が、テレビや新聞などの各種メディアで取り上げられる機
会が増えています。AIという言葉自体は古くからあり、これまでもたびたび注目され
てきました。しかし「ディープラーニング」という新たな手法の登場により、AIは“人工
知能50年来の革命”と言われるほどに飛躍的進歩を遂げ、再び注目が集まりつつ
あります。
本レポートでは、AI研究の第1人者である東京大学の松尾豊特任准教授の講演内
容をもとに、AIの歴史と、AIビジネスの未来についてお伝えします。
東京大学 工学系研究科
技術経営戦略学専攻特任准教授
松尾 豊氏
ブームと冬の時代を繰り返してきたAI、
ディープラーニングの登場で飛躍的に進歩し第3次AIブームへ
ディ プラ ニングの登場で飛躍的に進歩し第3次AIブ ムへ
1946年に世界最初のコンピュータが開発され、機械による計算が可能になると、哲学・心理学などの分野で論じ
られていた「人間の知的活動を行なう機械」を作る試みがいくつか始められましたが、1956年にAIという言葉が
誕生して以降、AIはブームと冬の時代を繰り返してきました。
1956年から1960年代にかけての第1次AIブームでは、処理速度が重視され、数学の定理を証明するAIなどが
開発され、1980年代の第2次AIブームでは、コンピュータに知識を教え込み、医療診断や有機化合物の特定な
どを行なうAIが開発されました。特に第2次AIブームにおいては、フォーチュン500*の上位を占める企業のほとん
どがAIを活用するほどのブームとなったものの、応用が必要な現実世界に即した問題が解けないことや、人間の
知識の幅広さや柔軟性の全てをコンピュータに教えるのは困難といった問題点が指摘され、その後、AIは冬の時
代を迎えました。 *アメリカのフォーチュン誌が年1回発表する、米国企業の総収入のランキング上位500社をリストアップしたもの
しかし足元では、コンピュータの性能が向上してきたことに加え、学習のために必要なwebやビッグデータが整った
こと、そして「ディープラーニング」という新たなAIの手法が登場したことなどを背景に、“人工知能50年来の革命”
と言われるほどにAIは飛躍的に進歩しており
と言われるほどにAIは飛躍的に進歩しており、各国政府・企業が積極的に研究開発を推し進めるなど、第3次AI
各国政府 企業が積極的に研究開発を推し進めるなど 第3次AI
ブームが始まっています。
【過去のAIブームの変遷と特徴】
第1次AIブーム
第2次AIブーム
第3次AIブーム
(1956年~1960年代)
(1980年代)
(2013年~)
使用例
数学の定理証明
チェスを指す
知識の時代
ものしりな人工知能
使用例
冬の時代
考えるのが速い人工知能
冬の時代
探索・推論の時代
医療診断
有機化合物の特定
※上記はイメ
※上記はイメージです。
ジです。
講演時の資料をもとに日興アセットマネジメントが作成
機械学習・
ディープラーニングの時代
データから学習する人工知能
機械による自主的な
学習が可能に
情報と学習力を武器に
飛躍的な進歩
■当資料は、日興アセットマネジメントがロボティクスに関する情報についてお伝えすることを目的として作成したものであり、特定
ファンドの勧誘資料ではありません。また、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。なお、掲載されている見
解は当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。■投資信託は、値動きのある資
産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込
むことがあります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交
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付目論見書)をご覧ください。
現実世界の「判断のポイント」を
AI自体が見い出すディープラーニング
【従来のAIとディープラーニングを用いたAIの比較】
従来のAI
現実
世界
いままでのAIは、人間が現実世界の対象物を観察し、「判
断のポイント」を予想して、モデル構築を行なってきました。
その後の処理は自動で行なうことができるものの、モデル
化の部分に人間が大きく介在せざるを得なかったことが、
化の部分に人間が大きく介在せざるを得なかったことが
AIの大きな課題とされていました。
ディープラーニングを用いたAI
※上記はイメージです。
【2012年の画像認識コンテストの結果】
ディープラーニングを用いたAIが
画像認識のコンテストで圧倒的成績で優勝
ディープラーニングはその後も進化を続け、
画像認識において人間を超える精度に
2013年以降、同コンテストにおける上位陣はすべてディー
プラーニングを用いたAIとなっています。
AIによる画像認識の進化は急速で、2015年には、研究者
によっては今後100年はかかると考えられていた人間の水
準であるエラー率5.1%を下回りました。
そして画像認識の精度が大幅に向上したことなどから、AI
は、これまで不得意としていた「運動の習熟(周囲の状況
に合わせて行動パターンを適切に選択する)」などの現実
世界に即した問題に対応しつつあります。
AI自体が
「判断のポイント」
「判断のポイント
を見つけ、人間
が介在せず
モデル構築
観察
現実
世界
一方、ディープラーニングでは、データをもとに「判断のポイ
ント」をAI自体が見い出し、モデル構築を行ないます。たと
えば、インターネット上の大量の画像をディープラーニング
で学習させると、人間や猫に関する判断のポイントを全くイ
ンプットしなくても、人間の顔のような概念や、猫のような概
念の認識にAI自体がたどりつくことが可能となっています。
ディープラーニングは、2012年の国際的な画像認識コン
テストにおいて、それまでのAIではエラー率25%~26%台
テストにおいて それまでのAIではエラ 率25%~26%台
での戦いが見込まれていたなか、エラー率15%台という圧
倒的な成績で優勝したことで、認知度が一気に高まり、研
究が活性化しました。
人間が
「判断のポイント」
を予想して
モデル構築
観察
ディープラーニングとはAIの手法の一つで、人間の頭脳を
構成する無数の神経細胞の仕組みである、ニューラル
ネットワークをコンピュータで模倣したものです。
AIの種類
チーム
エラー率
ディープ
ラーニングを
使用
A
15.3%
B
16.4%
C
26.6%
D
26.6%
E
27.0%
F
27.0%
・・・
・・・
ディープ
ラーニング
以外の方式を
使用
ILSVRCの資料をもとに日興アセットマネジメントが作成
【画像認識のエラー率の推移】
【画像認識のエラ
率の推移】
30
(%)
25.7% ディープラーニングを使用
25
20
15.3%
15
10
2015年に
AIの画像認識は
人間を超える
11 7% 精度に
11.7%
6.7%
5
人間のエラー率
5.1%
0
2011年
2012年
2013年
3.6%
2014年
2015年
ILSVRCの資料などをもとに日興アセットマネジメントが作成
※上記グラフ・データは過去のものであり、将来を約束するものではありません。
■ 当資料は、日興アセットマネジメントがロボティクスに関する情報についてお伝えすることを目的として作成したものであり、特
定ファンドの勧誘資料ではありません。また、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。なお、掲載されている
見解は当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。■投資信託は、値動きのある
資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り
込むことがあります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書
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(交付目論見書)をご覧ください。
ディープラーニングと強化学習を組合わせて
「運動の習熟」へ
【ディープラーニングを用いた強化学習のイメージ】
ディープラーニングを用いた画像認識により、
ボールが大きく動いた際のロボットの行動を適切に把握
ボ ルが大きく動いた際のロボットの行動を適切に把握
今、ディープラーニングと強化学習を組合わせて、従来の
AIでは困難とされていた「運動の習熟」が研究されています。
ディープラーニングに
よる画像認識
強化学習とは、「行動」に対して、「評価ポイント」が得られる
と、その行動を反復して強化し、学習していくモデルです。た
とえば、ロボットにサッカーボールを蹴るように学習させる場
合、ロボットは様々な行動を取り、試行錯誤を始めます。そ
の中で、たまたま上手く蹴ることができた際に、評価ポイント
が与えられると、その行動が評価ポイントを高めるように強
化されるといった仕組みです。
ボールを蹴るために試行錯誤
上手く蹴れたら評価ポイントを
与え、その行動を反復して強化
ディープラーニングによって画像認識の精度が大きく向上
するまでは、ロボット自体が置かれている環境や、自身の行
動によって状態がどう変化したかを適切に把握することが困
難でした しかし 画像認識の精度が大幅に向上し 状況を
難でした。しかし、画像認識の精度が大幅に向上し、状況を
把握できるようになったことにより、運動の習熟が可能となり
つつあります。
※上記はイメージです。
「画像認識」と「運動の習熟」が可能となり、
巨大産業が誕生する可能性も
【AIの進歩に伴なう既存産業の発展のイメージ】
AIの進歩
の進歩
画像認識の精度が大幅に向上したことに加え、運動の習熟
が可能になりつつあることを受けて、従来は自動化が困難で
あった産業においても、自動化の進展が予想されます。
画像認識の精度向上により、工場での検品作業や監視カメ
ラによる不審者の発見など、人間が目で確認している作業
の多くが自動化できると考えられます。さらに、運動の習熟
により、「ロボット的な動き」といった概念はなくなっていくと考
えられます。
従来、工業製品でない自然物を相手にするものは、場面場
面で状況が異なるため自動化が困難で、ほとんどを人間が
行なっていました。たとえば農業においては、作物の生育状
況を判断する必要があることに加え 収穫する際にも 作物
況を判断する必要があることに加え、収穫する際にも、作物
がなっている向きも把握しなければなりませんでした。このよ
うな人がやらざるを得なかった様々な作業が自動化されて
いくことで、ロボットが活躍できる巨大産業が新たに誕生する
ことが期待され、社会に与えるインパクトは大きいと考えられ
ます。
画像認識
運動の習熟
計画立案を
伴なう運動
農業
収穫時期
判定
トラクターなど
の適用範囲
拡大
収穫などの
自動化
建設
測量
掘削、基礎
工事などの
効率向上
多くの作業の
自動化
食品
加工
振り分け
確認
カット・
皮むきなどの
自動化
多くの
加工工程の
自動化
組立
加工
目視確認の
自動化
動作効率の
向上
段どり・
セル生産の
自動化
※上記はイメージです。
講演時の資料をもとに日興アセットマネジメントが作成
■ 当資料は、日興アセットマネジメントがロボティクスに関する情報についてお伝えすることを目的として作成したものであり、特
定ファンドの勧誘資料ではありません。また、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。なお、掲載されている
見解は当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。■投資信託は、値動きのある
資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り
込むことがあります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書
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(交付目論見書)をご覧ください。
日本にとって、AIはモノづくりの復権へ向けた
切り札になる可能性も
【AIを産業としてみたときの2つの方向性】
現在
今後のAIについては、高度にAIが組み込まれたロボットが活
躍する社会を目指すと考えられるものの、足元では「情報路
線」と「運動路線」の2つの方向性に進むとみています。
情報路線
情報路線では、ビッグデータを抱える大手SNS(ソーシャル
ネットワーキングサービス)企業など米国企業が強い一方、
運動路線は、いまだ大きくリードしている企業が見当たらない
運動路線は、いまだ大きくリ
ドしている企業が見当たらない
状況です。
メール
スケジュール管理
対話
質問応答
運動路線のAIは、ものづくりの現場の知恵が必要であること
から、技術大国である日本の強みを活かせると考えられま
す。日本は先進国の中でも少子高齢化が急速に進んでおり、
農業・建設・介護など「運動を伴なう労働」のニーズが高
まっています。さらに政府が「ロボット新戦略」のなかでAIの
活用を謳っていることもあり、AIは日本のモノづくり復権への
切り札となることが期待されます。
便利であるという付
加価値
米国の大手が強い
運動路線
ものを動かす
加工する
操作する
信頼出来るという付
加価値
日本の強みが
活かせる可能性も
高度にAIが組み込まれた
ロボットが活躍する社会
※上記はイメージです。
講演時の資料をもとに日興アセットマネジメントが作成
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定ファンドの勧誘資料ではありません。また、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。なお、掲載されている
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4/4
(交付目論見書)をご覧ください。