米国特許法における ライセンスvs.特許非係争特約

はじめに
特許ライセンスの交渉過程にお
い て 、一 方 当 事 者 が 相 手 方 の 申 入
れより広範な権利を望む場合に、
その行き詰まりを打開する方法と
し て 、正 式 な ラ イ セ ン ス 供 与 で は
な く 、「 非 係 争 特 約 」が よ く 提 案 さ
ライセンスより狭い権利だという
滅する」 。例えば、 がその特許に
製品に対するすべての特許権が消
れる。これは、
非係争特約は正式な
理解を前提とする。しかしながら、
近時示された3件の米国連邦裁判
係る製品の製造・販売ライセンス
に供与した場合、 による当
を
A
所 判 決 は 、非 係 争 特 約 を 特 許 ラ イ
注1)
ような形であれ広範な非係争特約
入れようとする権利よりも、どの
正式なライセンス供与として申し
る 方 向 性 に 鑑 み る と 、特 許 権 者 が
いう方向性を明らかにした。かか
センスと同等のものとして扱うと
張できないことは確立している。
間接の顧客に対して当該特許を主
により「許可
( authorized
)」
されて
いるとみなされ、 は、 の直接・
該 製 品 の 販 売 は 、当 該 ラ イ セ ン ス
を提案する際には注意を要する。
年 の Quanta
事件におい
て、
最高裁判所があえて「ライセン
B
非係争特約と正式なライセンス
供与との間に差異がないというこ
摘した。
センスと同等視されるべきだと指
い て は 、ラ イ セ ン ス と 非 係 争 特 約
保することが認められた。 Spansion
事件判決は、注目に値する。なぜな
とは、まず特許消尽との関連で明
との間に重要な区別はないと判示
ら、
米国連邦倒産法
らかになった。米国法の原則では、
条件の非係争特約により特許権者
した。したがって、非係争特約は、
その文言上、知的財産の「ライセン
事件 において、
連邦
TransCore
巡 回 区 控 訴 裁 判 所( 特 許 関 連 事 件
の特許権は消尽すると明確に判示
そ の 範 囲 次 第 で は あ る も の の 、特
ス」にのみ適用されるところ、連邦
「正当な権原の下で許可された特
は特許消尽との関係では特許ライ
の 解 説 者 は 、無 条 件 の 非 係 争 特 約
れた販売」と表現したところ、多く
スを受けた販売」
ではなく「許可さ
B
を担当する連邦控訴裁判所)
は、無
特 許 消 尽
A
許 製 品 の 最 初 の 販 売 に よ り 、当 該
し 、上 記 最 高 裁 判 所 の 見 解 を 支 持
許権者の競合相手を含む川下の顧
は、
(n)
巡 回 区 控 訴 裁判 所 は
条
した。 TransCore
と Mark IV
は、
自
動料金徴収システムに関する特定
第
の対象製品の使用および販売を
「許可」
するものとなり得る。
米国連邦倒産法
条
事件 では、
別の連邦控
Spansion
訴 裁 判 所 が 、倒 産 と の 関 連 に お い
事件判決を重視し、米
TransCore
国連邦倒産法
条 との関
総括
う TransCore
事件の判示内容を文
字通り採用したのである。
特許ライセンスと同等であるとい
勝訴の判決を下した。こ
Panasonic
の よ う に 裁 判 所 は 、非 係 争 特 約 は
係争特約は Innovus
に対して拘束
力を有することを理由として、
許 法 の 原 則 に 基 づ き 、 Philips
と
との間で合意された非
Panasonic
得するという長年にわたる米国特
注2)
ご く 最 近 、米 国 連 邦 地 方 裁 判 所
は 、非 係 争 特 約 は 特 許 の 譲 受 人 に
イセンス供与と同等のものとして
かに非係争特約を明示的な特許ラ
さまざまな状況の下で
TransCore
事件判決を採用する裁判では、
明ら
対しても拘束力を有すると判示し
扱う傾向がある。したがって、
非係
条 に基づくライセンス
は、
和解契約は米国連邦倒産
Apple
約において一定の特許を Apple
に
対して主張しないことに同意して
いたが、その後倒産手続の申立て
た 。 Innovus
事 件 で 、 Philips
と
り、
当該特許に基づく TransCore
の
権利は消尽しているとして、
の主張を認める判決を下した。
を 行 い 、米 国 倒 産 法 に 基 づ き 当 該
は、いずれも相手方に対
Panasonic
して特定の特許を主張しないこと
法
に同意する旨の契約を締結した。
そのような特約を策定したい場合
度に慎重にこれを扱う必要があり、
は、
正式なライセンス供与と同じ程
しかしながら、その後
連の取引を通じて
とが肝要である。
は、
経験豊富な弁護士に相談するこ
を 構 成 す る も の で あ り 、ラ イ セ ン
した。 Innovus
は、
当該特許が侵害さ
注4)Innovus Prime, LLC v.
Panasonic Corp. 2013 U.S.
Dist. LEXIS 93820, Case No.
C-12-00660-RMW(N.D. Cal.
2013)
は、
一
Philips
サ ー が 倒 産 し 、ラ イ セ ン ス を 拒 絶
( Philips
・ Panasonic
間の契約の存在
を 知 ら な い ま ま )当 該 特 許 を 取 得
イ セ ン シ ー は 、当 該 ラ イ セ ン ス に
し よ う と し た 場 合 で あ っ て も 、ラ
基づく権利を留保することができ
ると主張した。
れたとして
を提訴した。
Panasonic
事件判決を
裁判所は、 TransCore
引 用 し つ つ 、特 許 の 譲 受 人 は 従 前
注3)In re Spansion, 507
Fed.Appx. 125
(3d Cir. 2012)
I n n o v uが
s
注4)
のライセンスを負担した特許を取
注 2)TransCore, LP v.
Electronic Transaction
Consultants Corp., 563 F.3d
1271(Fed. Cir. 2009)
(n)
の主張を認め、
裁 判 所 は Apple
は和解契約に基づく権利を留
Apple
注1)Quanta Computer, Inc. v.
LG Electronics, Inc., 553 U.S.
617(2008)
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5
争特約の交渉の際には、
契約当事者
和解契約の拒絶を申し立てた。
非係争特約を条件
とする特許の譲渡
からである。
イセンスに相当するものだとした
係 に お い て 、非 係 争 特 約 は 特 許 ラ
(n)
(被告)
は Mark IV
から購入した料金徴収
システムを構築・導入した。これに
を提訴した。同
対して TransCore
は、 Mark IV
との
和解契約の対象である特許を侵害
したとして
裁判所は、 TransCore
と Mark IV
と
の和解契約は、
への当該シ
3
6
5
3
6
5
判決理由の中で、
裁判所は、
特許
消尽の有無の判断という意味にお
ステムの販売を許可するものであ
(n)
て、
事件判決の幅広い表
TransCore
現に依拠した。 Spansion
は、
和解契
注3)
3
IV 3
6
5
を締結した。数年後、
客 や ユ ー ザ ー に 対 し て 、当 該 特 許
モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所
伊藤 見富法律事務所(外国法共同事業事務所)
の特許を行使しない旨の和解契約
外国法事務弁護士
(第二東京弁護士会外国特別会員、
原
資格国:アメリカ合衆国ニューヨーク州)
。コーポレー
ト部門テクノロジー・グループ所属のパートナー。主
な業務分野は、
テクノロジー、
コンテンツその他の知的
財産権の開発契約、ライセンス契約および提携契約な
ど。1993年から1995年まで、米国ミシガン東部地区の
Avern Cohn地裁判事の下でロー・クラークを務める。
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2016.3
2016.3
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米国特許法における
ライセンスvs.特許非係争特約
III B
V
スチュアート S. ベラハ
Stuart S. Beraha
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外国法事務弁護士
(第二東京弁護士会外国特別会員、
原
資格国:アメリカ合衆国カリフォルニア州)。コーポ
レート部門テクノロジー・グループのパートナー。主
な業務分野は知的財産権関連の取引および助言の提
供で、ライセンス契約の構築や交渉、技術移転、特許侵
害訴訟の和解、
外部委託契約、
共同開発契約、そのほか
テクノロジー企業に関連した知的財産案件等に従事。
当事務所サンフランシスコ・オフィスを経て東京オ
フィスに赴任。
米国カリフォルニア州弁護士。
2010年カリフォルニア
大学アーバイン校 B.A. 取得。2014年コロンビア大学
ロースクールJ.D. 取得。コーポレート部門テクノロ
ジー・トランザクション・グループに所属。
I
II
早川 真人
Masato Hayakawa
ベンジャミン ハン
Benjamin Han
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