脳の分散的・確率的・可塑的な情報処理 櫻井芳雄 同志社大学脳科学研究科 神経回路情報伝達機構部門 京都大学文学研究科 心理学研究室 脳の解明 = 詳細な機能局在を見つけること ? 1825年 脳の情報処理の謎 どのようにして無限の情報を簡単に表現できるのか? どのようにして情報と情報を簡単に連合できるのか? どのようにして複数情報を簡単にカテゴリー化できるのか? どのようにして既存情報から新たな情報を簡単に創れるのか? 何がどのように情報を 表現しているのか ? 細胞外慢性記録 電 極 神経細胞 (ニューロン) 刺激提示 ニューロンの発火 個々のニューロン - 活動が極めて不安定、死滅したり損傷したりする ? しかし脳の情報表現は安定している 単一ニューロンによる表現の問題点 • 活動が不安定かつ不規則である • 自発発火のためSN比が悪い • 次のニューロンへの影響が小さい • 異なる複数事象への応答がある • 無限の情報生成に対応できない(組み合わせ爆発) • 情報の連合・分離・程度の違い等を表しにくい ニューロン集団による協調的な情報表現 セル・アセンブリ (cell assembly) による情報表現 by D.O. Hebb (Hebb, 1949) 1949 2002 2011 ニューロン集団の活動アンサンブルを検出 記録例 情報処理の目的に応じて自在に作られる機能的集団 Eichenbaum (1993) 構造に依存せず機能に依存する柔軟な情報表現 機能局在に基づく回路動作的な情報表現 分散的・確率的・可塑的な情報表現 Science, 177: 850-864, 1972 John (1972) Olds (1975) 聴覚作業記憶に関わる各部位のニューロン Sakurai (1990) 聴覚弁別(A),視覚弁別(V)、視聴覚弁別(C) に関わる海馬ニューロン Sakurai (1996) Arieli et al. (1995) 神経科学実験(電気生理学)が示すこと • 一つの情報処理に多数の脳部位が関わって活動する • 一つの脳部位は多数の情報処理に関わって活動する • 情報処理をしている時としていない時の差はわずかである 分散的・確率的・可塑的な情報表現 (Raichle, 2010) 不快刺激 相関法 不快刺激がある? 扁桃体の活動が上昇 扁桃体の活動が上昇 逆推定 (decoding) 脳の活動だけを見て、その人が何をしているのかわかること Lip reading 中の聴覚野の賦活 Calvert et al. (1997) Science, 210: 1232-1234, 1980 より 脳活動イメージングが示すこと • 一つの情報処理に多数の脳部位が関わって活動する • 一つの脳部位は多数の情報処理に関わって活動する • 情報処理をしている時としていない時の差はわずかである • 機能局在は固定しておらず変化する • 脳の活動パターンには個性がある 分散的・確率的・可塑的な情報表現 ブレイン-マシン・インタフェース(BMI) (ブレイン-マシン・インタフェース最前線(工業調査会刊)より) NHKスペシャル「サイボーグ技術が人類を変える」(2005)より O’Dohery et al. (2011) Nature Hochberg et al. (2012) 何のためにBMIを研究するのか ? 脳の情報表現で操作する介護システムを作る 脳の情報表現とその可塑性を明らかにする 分散的・確率的・可塑的な情報表現 NHKスペシャル「サイボーグ技術が人類を変える」(2005)より YouTubeより 運動野にある数千万のニューロンの中からわずか50~100個をランダムに選ぶだけでロ ボットアームがサルの腕とほぼ同じ動作を再現した。 ロボットアームの動作の精度は計測したニューロン数に比例し、腕の動作を95%の精度で 予測するためにはわずか500~700個のランダムに選ばれたニューロンで十分であった Nicolelis (2011) 運動野だけでなく頭頂野のニューロンからも運動の予測が可能であった Nicolelis (2011) ニューロフィードバック(ニューラルオペラント)課題 多数ニューロン活動の自動判別装置 (RASICA) 多数のニューロン活動 Raw dodecatrode data Realtime spike sorting Task control PC 特殊電極 報酬 神経活動を強化 発火頻度 同期発火 行動を強化 Sakurai & Takahashi (2013) 同期発火を強化 行動を強化 発火頻度を強化 (nose-poke) (spikes in 40-100ms window) Spikes (Hz) Spikes (Hz) S20-4 D1 15 10 5 (synchrony in 2-4ms window) Spikes (Hz) HPC 15 10 5 15 10 5 Cell 1 -1000 500 0 500 1000 -1000 500 0 500 Time (ms) Response & Reward -1000 10 0 500 5 1000 Response & Reward Spikes (Hz) 15 500 Time (ms) Response & Reward Spikes (Hz) Spikes (Hz) 1000 Time (ms) 15 10 5 15 10 5 Cell 2 -1000 500 0 500 1000 -1000 500 0 500 Time (ms) Response & Reward -1000 10 0 500 5 1000 Response & Reward Spikes (Hz) 15 500 Time (ms) Response & Reward Spikes (Hz) Spikes (Hz) 1000 Time (ms) 15 10 5 15 10 5 Cell 3 -1000 500 0 500 1000 -1000 500 0 500 Time (ms) Response & Reward -1000 10 0 500 5 1000 Response & Reward Spikes (Hz) 15 500 Time (ms) Response & Reward Spikes (Hz) Spikes (Hz) 1000 Time (ms) 15 10 5 15 10 5 Cell 4 -1000 500 0 500 1000 -1000 500 0 500 Time (ms) Response & Reward -1000 10 5 0 500 1000 Response & Reward Spikes (Hz) 15 500 Time (ms) Response & Reward Spikes (Hz) Spikes (Hz) 1000 Time (ms) 15 10 5 15 10 5 Cell 5 -1000 500 0 500 1000 -1000 500 0 500 Time (ms) Response & Reward 1000 -1000 500 0 500 Time (ms) Response & Reward 1000 Time (ms) Response & Reward HPC 同期発火を強化 (spikes in 40-100ms window) (synchrony in 2-4ms window) Total spikes / bin 30 15 0 -100 50 0 50 30 Total spikes / bin (nose-poke) Total spikes / bin Cells 2-4 発火頻度を強化 行動を強化 S12-3 D1 15 0 100 -100 50 15 0 50 0 50 0 -100 50 50 50 0 50 50 0 0 Time (ms) 50 100 50 50 0 0 Time (ms) 100 50 100 50 100 15 0 -100 50 0 Time (ms) 15 50 0 30 100 30 -100 50 0 -100 Total spikes / bin 15 50 0 100 Time (ms) 0 -100 0 15 Time (ms) 30 -100 50 30 100 15 100 Total spikes / bin Total spikes / bin Cells 4-5 50 30 Time (ms) 50 0 -100 Total spikes / bin Total spikes / bin Total spikes / bin 0 100 15 Time (ms) 15 50 0 50 Time (ms) 0 -100 0 30 100 15 100 30 -100 50 30 Time (ms) Cells 3-5 0 Total spikes / bin Total spikes / bin Total spikes / bin 0 0 50 Time (ms) 15 50 -100 Time (ms) 15 100 30 -100 0 100 30 Time (ms) Cells 3-4 50 Total spikes / bin 30 -100 0 15 Time (ms) Total spikes / bin Cells 2-5 Total spikes / bin Time (ms) 30 50 100 30 15 0 -100 50 0 Time (ms) 脳は特定のニューロン集団の 発火頻度と同期発火を制御できる セル・アセンブリの制御 神経情報の制御も可能 ? 効果的な脳リハビリテーション法の開発も可能 ? ブレイン-マシン・インタフェースが示すこと • 一つの情報処理に多数の脳部位が関わって活動する • 一つの脳部位は多数の情報処理に関わって活動する • 機能局在は固定しておらず変化する • 脳は特定のニューロン集団の活動を自ら制御できる 分散的・確率的・可塑的な情報表現 脳科学の不幸な歴史は繰り返す? 1930年代の脳波実験 (『身体補完計画』 原克 2010 より) 謝 辞 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST) 「高齢脳の学習能力と可塑性のBMI法による解明」 文部科学省 脳科学研究戦略推進プログラム 「BMI用マルチニューロン記録解析法の開発と神経可塑性の解析」 総務省 特定領域重点型研究開発(SCOPE) 「脳-機械直接通信型インターフェイス・システムに関する研究開発」 高橋晋 金子武嗣 藤山文乃 青柳富誌生 飯島敏夫 小池康晴 同志社大学脳科学研究科 京都大学医学研究科 同志社大学脳科学研究科 京都大学情報学研究科 東北大学生命科学研究科 東京工業大学精密工学研究所
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