欧州銀行株急落も ユーロ下落は限定か

【2016年2月10日公開】
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~丸わかり! ロンドン発★欧州経済事情~
「松崎美子」が注目テーマを一刀両断!
『欧州銀行株急落も
ユーロ下落は限定か』
執筆者:
(ロンドン在住/元為替ディーラー)
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今年は年初早々マーケットの動きが激しく、2008 年のリーマンショックを彷彿させる場面が何度
かあった。特に今週月曜日(2/8)は世界的な株価下落となったが、その中でも欧州系銀行株の下
落が止まらなかったことが印象深い。
●欧州銀行株の急落
今週は、春節で中国が休みとなるので、水・木曜日に予定されているイエレン FRB 議長による
半期に一度の金融政策に関する議会証言(旧ハンブリーホーキンズ証言)までは小動きになると
いう予想が多かった。しかし、月曜日の欧州時間は銀行株の急落で始まった。特に下落率が大き
かったのが、ギリシャの銀行で大手行全てが 25%を超す下落となった。それ以外では、独ドイツ銀
行(-9.5%)、独コメルツ銀行(-9.49%)、仏ソシエテジェネラレ銀行(-6.12%)などが急落したほか、英
バークレイズ銀行は取引が一時停止された。
銀行株の下落は何も今週始まったことではなく、先月からずっと続いている。その背景にあるのは、
不良債権処理が米英日と比較して遅れていること、そしてバーゼル III1で新たに設定されるリスク
指標である「レバレッジ比率」が、低いことも懸念材料とされていた。
出典: Stockcharts http://stockcharts.com/h-sc/ui
国際的に業務を展開している銀行の健全性を維持するための新たな自己資本規制のこと。2019 年から全面的に適用す
る予定
1
その中でも特にレバレッジ比率が低いドイツ銀行株の下落が目立ったが、2015 年第 4 四半期の
企業収益発表では同行のレバレッジ比率は 3.5%となっている。バーゼル III では、この比率の最低
水準を 3%と設定しており、英国の大手行 5 行は全て 4.2~4.9%台(2015 年 6 月~12 月の数字)、
アメリカやスイスでは 5%台を目標としており、ドイツ銀行の低さが目立つ。
(参考:https://www.db.com/ir/en/images/Deutsche_Bank_4Q2015_results.pdf)
ここでは判りやすくレバレッジ比率を実際のレバレッジの数字に置き換えてみたい。スイスやアメリ
カの 5%台となると、レバレッジは 20 倍以下となるし、英国系銀行の 4.2~4.9%は、20.4~23 倍くら
いである。それに対し、ドイツ銀行の 3.5%は、28.5 倍以下であるから、他の大手銀行と比較しても
同行のレバレッジは高く、それだけリスクを取っていることが理解できる。
ドイツ銀行の株価の急落を受け、「債務不履行(デフォルト)を計る物差し」と言われるクレジット・
デフォルト・スワップ(CDS)2が大きく上昇したが、同日夕方ドイツ銀行は、「2016 年中に支払い期
限がくる高リスク債のクーポンの支払い資金は手元にあるので、デフォルトの心配なし。」という異
例の声明文を発表した。(以下参照)
https://www.db.com/newsroom_news/2016/medien/deutsche-bank-publishes-updated-informat
ion-about-at1-payment-capacity-en-11385.htm
●世界同時株安
欧州主要国の株価下落率は、ギリシャの 7.87%を筆頭に、独仏伊も 3~4%台を記録している。そ
して、この株安はアメリカ市場へも飛び火し、この日のダウジョーンズは 1.10%、S&P500 は 1.42%、
ナスダック総合指数は 1.82%と、それぞれマイナスで終了している。
出典: Stockcharts http://stockcharts.com/h-sc/ui
その中でも特に市場が注目しているのが、ダウ・ジョーンズである。過去 4 年以上に渡り、ダウは
200 週移動平均線(SMA)の上で推移していた。しかし今年に入ってから、200 週移動平均線(SMA)
ギリギリでの展開が続いている。今週は、15819.71 ドルに 200 週移動平均線(SMA)が通っている
ので、そこを下抜けするかに注目したい。もし下抜けし、更に昨年安値の 15370.33 ドルも下抜けて
しまうと、次のサポートが見えなくなる。そうなれば、当然日経平均株価も下がり、アベノミクス失
敗という烙印を押されることにもなりかねない。
2 国や企業に債務不履行(デフォルト)が起こった時に備えて、保険の役割を果たすデリバティブ契約。この数字が高くなれば
なるほどデフォルトのリスクが高まり、保険料も高くなっていく。
●イエレン議長の証言に注目
不思議なことだが、これだけ欧州の銀行株が落ちても、ユーロの急落に繋がっていない。最近
の相場を見て強く感じるのは、昨年 12 月にアメリカが利上げをし、2016 年中に更に 4 回金利を上
げると語ってから、市場参加者は一斉に米ドルをロングにした。しかし、今年に入ってからの原油
安や中国の景気減速などの影響を受け、もしかしたらアメリカは年内利上げに動かないかもしれ
ないという可能性をマーケットは織り込もうとし、米ドルのロングを投げている。
そのため、イエレン議長が予想外のタカ派発言をすれば話しは別であるが、そうでない限り、また
は米ドルのロングの投げが終わらない限り、ユーロが落ちるきっかけが掴めないのが、最近の相
場であると理解している。その証拠に、ユーロの実力を示すユーロ実効レートは、昨年夏の高値
を上抜けして先週終了した。
チャート: 欧州中銀ホームページ
http://www.ecb.europa.eu/stats/exchange/effective/html/index.en.html
●まとめ
次回 3 月 10 日(木)の ECB 理事会まで、もしかしたらユーロは主役通貨になれないかもしれな
い。その時にドイツ銀行がどうなっているのか、世界主要国の株価がどのレベルにいるのか想像
もつかないが、ドイツ銀行倒産とか予想外の要人発言でも出ない限りは、ユーロ/米ドルの大きな
動きは 3 月 10 日(木)の ECB 理事会までお預けになりそうな予感がする。英ポンドは来週 18・19
日に開催される EU サミットで 6 月の国民投票実施が決定されれば、もう一段の下落が期待できそ
うであるが、今週に限っていえば、1.42 ドルミドル~1.45 ドルミドルの動きとなりそうだ。
-------------------------------------------------------------------------------【執筆者: 松崎美子氏(ロンドン在住/元為替ディーラー)プロフィール】
東京でスイス系銀行 Dealing Room で見習いトレイダーとしてスタート。18 ヶ月後に渡英決
定。1989 年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店 Dealing Room に就職。1991
年に出産。1997 年シティーにある米系投資銀行に転職。
その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、
証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。
-------------------------------------------------------------------------------【本レポートの趣旨】
本レポートは松崎美子氏より発行されているレポートであり、情報提供のみを目的として
おります。
本レポート中のコメントは独自の見解に基づいたものであり、松崎美子氏、およびワイジ
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