細菌由来成分に対する血中免疫複合 体検出法の開発と診断への応用 内田 佳介、江石義信 東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 人体病理学 サルコイドーシス(Sarcoidosis)とは 1.全身性肉芽腫疾患 サルコイドーシス病変の出現頻度 目 46% 鼻 0.3% 表在リンパ節 24.3% 縦隔リンパ節 90% 両側肺門リンパ節 90% 皮膚 5.8% (結節性紅斑 0.9%) 神経系 3.2% 耳下腺 4.2% 扁桃 24.3% 肺 28.7% 心臓 4.6% 胃 0.8% 骨全体 1.3% サルコイドーシス(Sarcoidosis)とは 2.肺や肺門リンパ節は好発部位で、患者の9割以上に認める リンパ節の肉芽腫 末梢肺での肉芽腫 サルコイドーシス(Sarcoidosis)とは 3.原因不明 ー 130年以上にわたり原因不明 ー 欧米では結核菌原因説が主流(結核菌は培養されていない) 4.旧厚生省難病研究班による研究(1978年~1984年) ー 徹底した微生物学的検索(細菌、ウイルス、真菌) リンパ節からのアクネ菌の分離培養頻度(難病研究班) (Abe et al, 1984) サルコイドーシス 31/40 (78%) P< 0.001 他疾患リンパ節 38/180 (21%) サルコイドーシス病変部に反応する アクネ菌モノクローナル抗体の作成 抗体の選別 免疫原の調整 アクネ菌の菌体 アクネ菌の菌体成分を免疫原とする の菌体成分を免疫原とする 超音波破砕 第1段階 ELISA法により ELISA法により 菌体成分と反応する マウスに免疫 第2段階 組織内アクネ菌を 組織内アクネ菌を 免疫染色 免疫染色できる 染色できる (マウス肝組織) 細胞融合 ミエローマ細胞 第3段階 脾細胞 ハイブリドーマ 病変部組織で 免疫染色が陽性 免疫染色が陽性と 染色が陽性とな る株を選別 アクネ菌に対する2種類の モノクローナル抗体の菌種特異性(ELISA) プロピオニ属 PAB抗体 TIG抗体 Cutaneous その他の菌種 PAB抗体 TIG抗体 Mycobacterium bovis BCG - - P. acnes + + Crynebacterium pyogenes - - P. granulosum - - Bifidobacterium bifidum - - P. avidum - + Lactobacillus acidophilus - - P. lymphophilum - - Actynomyces fragilis - - P. propionicum - - Fusobacterium nucleatum - - Listeria monocytogenes - - Classical or daily P. freudenrichii - - Nocardia asteroides - - P. jensenii - - Staphylococcus aureus - - P. thoenii - - Escherichia coli - - P.acidipropionici - - Pseudomonas aeruginosa - - Klebsiella pneumoniae - - M Negi, et al. Mod Pathol. 2012 アクネ菌に対するモノクローナル抗体の特異性 PAB抗体;細胞膜結合型糖脂質であるリポテイコ酸を認識 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 31 kDa 17 kDa TIG抗体;アクネ菌トリガーファクタータンパクを認識 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 76 kDa 52 kDa 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, serotype I P. acnes (ATCC 6919) serotype I P. acnes (ATCC 11827) serotype II P. acnes (ATCC 11828) serotype I P. acnes (clinical isolate S4) serotype II P. acnes (clinical isolate S7) P. granulosum P. avidum M. tuberculosis 9, M. avium 10, M. intracellulare. 11, lipoteichoic acid purified from serotype I of P. acnes 12, lipoteichoic acid purified from serotype II of P. acnes 13, recombinant trigger factor protein from the whole genome sequence of P. acnes serotype I 14, recombinant trigger factor protein from the whole genome sequence of P. acnes serotype II M Negi, et al. Mod Pathol. 2012 皮膚毛包内に細胞外棲息する アクネ菌の免疫染色 皮膚HE染色 免疫染色 上皮細胞内に感染させた アクネ菌の陽性像 免疫染色 サルコイドーシス肉芽腫におけるアクネ菌の検出 リンパ節組織におけるPAB抗体免疫染色結果 M Negi, et al. Mod Pathol. 2012 サルコイドーシスリンパ節で観察されるHW小体 HE染色 染色 PAB抗体 抗体 電子顕微鏡 TIG抗体 抗体 細胞壁欠失アクネ菌の形態学的証明 細胞膜結合性のリポテイコ酸 PAB 抗体 L型菌の菌体構造 紡錘形小体の電顕像 5μm TIG 抗体 リボゾーム結合性トリガーファクター 5μm アクネ菌の細胞内増殖による肉芽腫形成機構 アクネ菌の細胞内増殖による肉芽腫形成機構 (仮説) 仮説) small round bodies 宿主要因 環境要因 HW小体 内因性活性化 冬眠状態 (潜伏感 染) Th1免疫反応 Th1免疫反応 細胞内増殖( 細胞内増殖(感染型) 感染型) 肉芽腫形成( 肉芽腫形成(拡散防 止) サルコイドーシス発症機序におけるアクネ菌 肺および 肺門リンパ節 潜伏感染 不顕性感染 外部からの 初感染 経気道的 心臓、皮膚、眼、肝、脾 骨格筋、中枢神経、その他 内因性活性化 細胞内増殖 アレルギー反応 肉芽腫形成 細胞内増殖後、感染型アクネ菌は リンパ行性・血行性に拡散 リンパ管内皮細胞内および 管腔内マクロファージ中のアクネ菌 血中における菌体成分の検出 血中菌体成分量(μg/ml) − アクネ菌に対する2種類の抗体を用いたSandwich ELISA法 − 通常の方法ではアクネ菌の菌体成分は検出不能 サルコイドーシス (n=58) 健常者 (n=35) アクネ菌に対する抗体価は多くの人が陽性となる No difference Antibody titer (cps × 10-4 ) 20 15 10 5 0 サルコイドーシス(n = 結核 25) (n = 29) 間質性肺炎 (n = 19) 健常人 (n = 22) サルコイドーシスにおける 血中アクネ菌免疫複合体の存在 肺および 肺門リンパ節 潜伏感染 不顕性感染 外部からの 初感染 経気道的 心臓、皮膚、眼、肝、脾 骨格筋、中枢神経、その他 内因性活性化 細胞内増殖 アレルギー反応 血中におけるアクネ菌菌体成分 菌体 成分 ☓ 肉芽腫形成 アクネ菌に対する 固相化抗体 エピトープ競合により反応出来ない アクネ菌の免疫複合体検出法の開発 • 血中免疫複合体として存在 血中免疫複合体として存在するアクネ 複合体として存在するアクネ菌菌 するアクネ菌菌体成分 菌菌体成分 (リポテイコ酸) リポテイコ酸)の検出および定量系を作成 • 本検出系を用いサルコイドーシス 本検出系を用いサルコイドーシス患者、健 用いサルコイドーシス患者、健常者で 患者、健常者で の比較検討 開発において使用した材料 アクネ菌マウスモノクローナル抗体 Ⅰ型抗体( 型抗体(血清型Ⅰ 血清型Ⅰ型リポテイコ酸) 型リポテイコ酸) LTA = リポテイコ酸 Ⅱ型抗体( 型抗体(血清型Ⅱ 血清型Ⅱ型リポテイコ酸) 型リポテイコ酸) アクネ菌抽出リポテイコ酸 ATCC6919株 ATCC6919株(血清型Ⅰ 血清型Ⅰ型) ATCC11828株 ATCC11828株(血清型Ⅱ 血清型Ⅱ型) 使用血漿 アクネ菌 ポリクローナル抗体 サルコイドーシス患者 58名 58名 健常者 35名 35名 Ⅰ型抗体、Ⅱ 型抗体、Ⅱ型抗体 検出に用いたSandwich ELISA法 - 発色 0.3% 0.3% OPD OPD OPD OPD 0.04% 0.04% H2O2 遮光 室温、15 室温、15分間 15分間 停止剤 2N HCl 2次抗体 - 2次抗体(DAKO 2次抗体(DAKO社 DAKO社 EnVision) EnVision) 10倍希釈 10倍希釈 室温、30 室温、30分間 30分間 - 検出抗体(アクネ菌ポリクローナル抗体) 検出抗体 500倍希釈 500倍希釈 37℃ 37℃、1時間 - サンプル反応 LTA LTA LTA 37℃ 37℃、1時間 YYYYYYYY - 捕獲抗体(アクネ菌モノクローナル抗体) 1000倍希釈 1000倍希釈 37℃ 37℃、1時間 捕獲抗体 免疫複合体としての アクネ菌リポテイコ酸検出系の開発 アクネ菌リポテイコ酸を添加したヒト血漿をサンプルとして使用 アクネ菌リポテイコ酸を添加したヒト血漿をサンプルとして使用 LTA LTA LTA LTA = リポテイコ酸 吸光度(OD490) エピトープの競合 免疫複合体としての アクネ菌リポテイコ酸検出系の開発 アクネ菌リポテイコ酸を添加したヒト血漿をサンプルとして使用 アクネ菌リポテイコ酸を添加したヒト血漿をサンプルとして使用 抗体の再結合 サンプル LTA 低pH処理 pH処理 (pH 2.5) 2.5) pHの中性化 pHの中性化 LTA LTA 測定 LTA = リポテイコ酸 吸光度(OD490) LTA 免疫複合体としての アクネ菌リポテイコ酸検出系の開発 アクネ菌リポテイコ酸を添加したヒト血漿をサンプルとして使用 アクネ菌リポテイコ酸を添加したヒト血漿をサンプルとして使用 サンプル 低pH処理 pH処理 (pH 2.5) 検出可能 煮沸処理 10sec pHの中性化 pHの中性化 LTA LTA 測定 LTA = リポテイコ酸 LTA 本検出系における煮沸時間の検討 吸光度( 吸光度(OD OD490) - 健常人血漿に菌体成分を加えたものを使用 煮沸時間 本検出系における熱処理温度の検討 吸光度( 吸光度(OD OD490) - 健常人血漿に菌体成分を加えたものを使用 煮沸時間 煮沸処理によるリポテイコ酸へのダメージ PBSにリポテイコ酸を加えたものをサンプルとして用い、 煮沸処理によるリポテイコ酸へのダメージを確認した 菌体成分量(ug/ml) 菌体成分量(ug/ml) 過剰量の菌体成分を添加した場合における検討 サンプル処理なし 吸光度(OD490) リポテイコ酸抗体価の低い血漿 LTA LTA LTA LTA LTA = リポテイコ酸 サンプル処理あり 吸光度(OD490) リポテイコ酸抗体価の高い血漿 LTA LTA LTA LTA 菌体成分量(mg/ml) 定量におけるスタンダード - 健常者血漿を用いた免疫複合体擬似サンプル - 低pH,煮沸処理 pH,煮沸処理を 煮沸処理を施行 → ヒト血漿サンプルのアクネ菌リポテイコ酸のダメージを補正 血清型Ⅱ 血清型Ⅱ型リポテイコ酸 スタンダード リポテイコ酸濃度(ng/ml) リポテイコ酸濃度(ng/ml) 吸光度(OD490) 血清型Ⅰ 血清型Ⅰ型リポテイコ酸 スタンダード 免疫複合体検出系の測定精度 (血清型Ⅰ型の検出系) アッセイ内精度(%) リポテイコ酸 測定範囲濃度 (μg/ml) μg/ml) アッセイ1 アッセイ2 アッセイ3 アッセイ4 アッセイ5 アッセイ間 精度(%) 12.5 5 7 3 1 3 32 6.25 4 7 3 4 3 25 3.13 7 7 10 2 5 17 1.57 2 2 4 1 5 10 0.79 3 5 2 4 1 6 0.40 2 6 1 2 4 7 0.20 8 1 5 4 1 6 0.10 6 4 4 7 1 5 血漿中免疫複合体アクネ菌リポテイコ酸の定量解析 p < 0.0001* サルコイドーシス患者 51名 51名 免疫複合体リポテイコ酸 免疫複合体リポテイコ酸定量値 定量値 ng ng/ml /ml 健常者 35名 35名 血清型Ⅰ 血清型Ⅰ型 血清型Ⅱ 血清型Ⅱ型 * Mann Whitney test 免疫複合体アクネ菌リポテイコ酸測定のROC曲線 血清型I型に関する検討 True positive 100 80 60 40 20 サルコイドーシス n=51 健常人 n=35 0 0 20 40 60 False positive 80 100 P value <0.0001 AUC 0.81 カットオフ値 105 ng/ml オッズ比 11 感度 65% 特異度 86% 本検出系のまとめ • 免疫複合体として存在するアクネ菌の菌体成分(リポテイコ酸)は、 pHおよび熱による処理により検出を可能にした pHおよび熱による処理により検出を可能にした • 血中リポテイコ酸量はサルコイドーシス患者有意に高く検出され、そ の感度は65% の感度は65%、特異度は 65%、特異度は86% 、特異度は86%であった 86%であった • 本研究結果は、サルコイドーシスにおいて、アクネ菌が関与すること 本研究結果は、サルコイドーシスにおいて、アクネ菌が関与すること を示唆するものである • 新たな血清診断 血清診断として利用 として利用でき 本検出系はサルコイドーシスにおける 系はサルコイドーシスにおける新たな 血清診断 として利用 でき 本検出 系はサルコイドーシスにおける新たな る • 治療の適応・効果の判定にも応用出 サルコイドーシスの抗生剤による治療の適応・効果の判定 治療の適応・効果の判定 にも応用出 サルコイドーシスの抗生剤による 来ると考えられる 来ると考えられる お問い合わせ先 東京医科歯科大学 研究・産学連携推進機構 産学連携研究センター TEL 03-5803-4736 FAX 03-5803-0286 e-mail [email protected]
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