若草歌壇

若草歌壇
平成 27 年(2015)・平成 28 年(2016)初春合併編
智麻呂・恒郎女・凡鬼・景郎女・謙麻呂・小万知・
祥麻呂・和郎女・偐山頭火・りち女・槇麻呂・偐家持
(和郎女作「連獅子」)
2016 年 2 月 7 日
1.若草歌壇 2015 初春編(2015 年 2 月 1 日)
●謙麻呂が作れる歌 5 首
嚆矢手に 階段前の 老夫婦 われもいずれと 手をさしのべる
(作者注)嚆矢(こうし)とも 鏑矢(かぶらや)とも。開戦時に使うので神社での初参りに必須のア
イテムらしい。(広辞苑)
初さんぽ リスペクトして 境内に 若き親子の 籤運よかれ
初夢を 語るや孫は スカイプに しずかな朝の どこかさびしく
震災を 知らぬ子たちの うたごえよ 忘れぬように 皆に届けと
しあわせを 運べるように 唄う子に 涙溢れて どこか恥ずかし
●祥麻呂が作れる歌 2 首
戦ひの 足音聞こゆ 初春に 小さき社に 平和を祈る
平和をと 言ひつつ武器を 輸出する 日本の国に 妻は怒れり 我も怒れり
(注)575777 の仏足石歌体の歌。
●小万知が作れる歌 4 首
鉛筆の さきのごとある だうだんの 赤きに思ほゆ 智麻呂夫妻
こも
わが恋ふる にほひすみれの 花一輪 葉群れがうちに 隠 り咲きたる
き
わぎへ
サザンカの ほつ枝つたひて 春来ぬと こぞりメジロは 我家に鳴きぬ
ゆふまぐれ ぽつりしづ枝に 白梅は 明かりともしぬ 笑みてやあらし
(智麻呂画)
●偐山頭火が作れる歌 2 首並びに俳句 3 句
新年
しろうま
ひつじどし
白 馬 と なれる生駒の 山しかと 見よと洒落つつ 未 年 明け
1
カルタ取り
百にない 坊主めくりで 隠された
<坊主>
大辺路にて
きょう
江戸からか 都 からも来た 熊野路へ <偐巡礼山頭火>
硫黄臭 腹に溜めては 逆噴射 <紀州山頭火>
年越し準備
子であった 頃は年玉 算段の 齢を重ねて 餅や注連縄
<年喰った山頭火>
●和麻呂が作れる歌 5 首
き
よももとせ 経てやちかひの ときはいまと われに来むかふ 大坂の陣
見上げれば 夜空に浮かぶ 寒の月 時過ぎ行かば 何処でや眺む
あらたまの 年に向かひて 願へるは われもとしなり 平穏の二字
おほぞらは あをきかんばす しらくもは なにやかくとふ みつよつながる
思秋期も 暮れゆくならし 山里の もみぢはややも 冬枯れの色
●景郎女が作れる歌 6 首
冬枯れの 小枝に小さき 花揺れて お日さま色の ベビーくつした
雲切れて いよよ冴え冴えと 寒の月 君と歩むは いざ町医者へ
父も子も 診てきたという 老医師は 受付、診察、 会計もする
門口を はらはら散り敷く 山茶花の 色褪せぬまに 朝なさな掃く
無差別の テロ虐殺の 立てこもり 最中に膝つき 祈るというは
早早と 紅葉せる葉に ゆっくりね ゆっくりしすぎた 恋もありしが
●凡鬼が作れる歌 3 首並びに俳句 8 句
最澄の山黎明の淑気かな
(比叡山)
初夢や地球の戦火みな消えて
気付かれず孫に負けるもお年玉
不躾な奴にも微笑三が日
未来とは切り拓くもの初暦
2
「わかくさ」を折込みて詠める歌
忘らるる 鎌鼬とは 口惜しい 更なる力 示す刻まつ
ワンダフル 姦しましき人 来るたびに さりげなく消ゆ 男の美学
我がことも 彼のことをも 比ぶなし 先駆けてゆく ワカクサの人
歌留多の句
取られたくなき札のあり歌留多会
歌留多会むすめふさほせ手の早し
お は こ
歌留多会十八番の札は膝元へ
●槇麻呂が作れる歌 4 首
初春の 駿河の海に 浮かぶ富士 北斎大観 何するものぞ
春の陽に 駿河の海は 波静か 浮かべて富士の 山いただきぬ
神さぶる 出雲社へ 人の群れ まじりてわれも かしこみ参る
元旦の 雪踏みならし 出雲なる み神かしこみ かしこみ祈る
●りち女が作れる歌 2 首
縮かんで いる赤い芽に 春だよねと 吹きかけてみる ホットワインの息
なばり
りち女われ
隠 のひとに あらなくに 言葉探して 歌と隠れん坊
●偐家持が作れる歌 5 首
春されば 先ず若草の 読書会 酒をほめつつ 万酔ふ講座
若草の 屋戸に歌留多の 札舞ひて 犬養節の 初春ぞ来し
さか
ほひと
ひらかたのたびと
枚方の 賢 しき歩人 今宵もか はなさぬものは 酒にあるらし ( 枚 方 旅 人 )
おほともののみと
芋麦も 米もなほよし 葡萄すら よしと言へるは 酒にあるらし ( 大 伴 呑 人 )
し
やまのうへののむら
白黒も 濁れる澄める なにせむや 酒にしあれば 呑むに及かざり ( 山 上 呑 良 )
しろき
くろき
(注)白黒=白酒。黒酒。
濁れる澄める=濁り酒、清酒。
(智麻呂画「ワイン」)
3
2.若草歌壇 2016 初春編(2016 年 2 月 7 日)
●偐山頭火が詠める歌5首
餅を前に故郷の米の刈り取りの様子、父の餅つきの情景を思い出しつつ作りたる歌 2 首
<偐おくら 子等に餅喰はせる思ひの歌>
(智麻呂画「紅白餠」)
こがね
春水田 夏は青田に 秋黄金 実りて今日は 真白き餅に
元旦は 雑煮おせちの なにせむや まされるものは 年玉と子ら
正月庭先にて燻製を作りたる時の歌3首 <偐旅人 讃燻讃酒歌>
新春に いぶすかまどに たつ煙 たなびく香り 近所迷惑
いぶしたる 具の香かがむと 置く友の あわてふためく 缶麦酒噴き
ひじり
上機嫌
赤く染まれる 友の顔
聖 讃じて 猿尻に似る
●恒郎女が詠める歌4首
山茶花の薫る若草ホールでの友との交りの楽しきを詠める歌 2 首
さざんか
山茶花の 群れ咲くごとや 笑むどちに 囲まれ今日の ありがたきかな
楽しきは 山茶花群れ咲く 若草の ホールに迎へ どちと笑むとき
八十回目の正月に有難く感謝して詠める歌 2 首
は る
おだやかに 傘寿の正月を わが背子と 迎へてともに 見らくしよしも
や そ
は る
八十の正月 ともにしあるの ありがたく のちもかくしぞ たぐひて行かな
●リチ女が作れる歌 2 首
月すみて 空群青に あかつきは 心にしみる しずけさに満ち
うた作る
今はわたしも
スマホ手に 想いにあてる ことばをタップ
4
●謙麻呂が作れる歌 1 首
年あけて もう寝たら!?と 妻の鐘 テレビ電話の 楽しみ床へ
●祥麻呂が作れる歌 3 首
白梅の 数輪咲きし 初詣 平和大塔 祈りつつ行く
敗戦の 年に生まれて 孫二人 その微笑みに 不戦を誓い
ビルの窓に 夕日沈みて 富士の山 遠くありけり 烏二羽飛ぶ
●小万知が作れる歌5首
暖冬で油断をしていたら強烈な寒波の襲来
きた
はやあしに 来 れる春も 腰折れて 凍てつく花は わがごとなるか
雪柳の枝先に二、三輪の白雪のごとき花が付き出した
雪柳 ほつゑに花の ふたつみつ 春よばむとや 輝き増しぬ
啓蟄までは虫たちは冬眠の世界、いたずら心で枯れ葉の塊をめくると・・
いくへにも 枯れ葉重ねて 春までは しとねとせむか 虫たちが居り
氷がとけ水鏡となった池に佇む青鷺
水鏡 うつし青鷺 身じろがず おのが姿に 見とれてあるか
昨年のクリスマスの夜はフルムーン
冴えわたり 聖夜照らせる 望月の キリスト生誕 こぞりぞ祝へ
●凡鬼が作れる句 5 句
今年こそ今年こそとて年迎ふ
末つ子も嫁に行くとや桃の花
春の色もつ和菓子をば選びをり
三猿になりきりたくて冬籠
ゆぎやう
遊 行 てふ淀の堤のすみれ草
●偐家持が作れる歌 1 首併せ短歌 5 首
く
和歌のメール そこそこ来れば 仕方無み 数首戯れ歌 作るやわれも
かはちべのすくねくろひと
のぞ
河内辺宿祢 黒 人 、若草読書会に 臨 みし歌 1 首併せ短歌 1 首
雨雪の 降れる時にも いとはずて 暑き寒きも なにやせむ 生駒高嶺を 天の原 ふりさけ見つつ 通
ひかず
ふ
とし
な
ふ日の 日数も知らず 経る月も 年 も知らざり 若草の 道ふみ平らし
りつぎ 言ひつぎ行かむ 若草ホールは
反歌
し らが
若草の ホールの鏡 のぞき見れば 混じる白髪ぞ 年はとりける
5
時じくに どちは来にける 語
(智麻呂画「生駒山」)
河内辺宿祢黒人、すみれも摘まず作れる歌 1 首
み や
読書会の 資料作らむと せしわれぞ 手間ひま惜しみ 三夜はさぼれり
赤人の鳥、とりどりに詠める黒人の歌 1 首
たづ
からに
赤人の 和歌の浦には 鶴 鳴きて 辛荷島は鵜 吉野は千鳥
歌人の花それぞれを詠める黒人の歌 1 首
赤人は すみれ人麻呂 浜木綿か 家持撫子 花はそれぞれ
●和麻呂が作れる歌6首
この頃の心情を些かに述べてみむとて作りたる歌6首
くわんげん ひ せう
みそとせ
如月に 筦 絃 秘抄 課されてや 三十年遅くも われ挑みたる
(注)筦絃秘抄=現代邦楽の箏曲
みそとせ
現邦と 距離を置きての 三十年を 経てや奏づる 心や如何に
(注)現邦=現代邦楽
みそとせ
年明けて 課されし音に 挑むれば 心は戻る 三十年前に
いざ行かむ 声は上げれど 向かふれど 行きつ戻りつ なづみてぞあり
われはもや やると決めたり 突き進まむ 求めしものは その先にぞある
かたち
今日の一歩 僅かにあれど 重ぬれば やがて意のごと
形 とならむ
●景郎女が作れる歌 8 首
緑濃き樫の木高台三丁目隠れ家のあり愛の巣づくり
クモの糸 緑の苔も編み込まれ お碗のような小さな揺りかご
つま
樫の木を伐ればみごとな巣のありと 脚立を下りて 夫 の見せくる
6
いのち
保温よく緻密に編まれしメジロの巣生命を守る親鳥のわざ
本物を子らに見せんと学校のおはなし会に図鑑と持ちゆく
(メジロの巣)
早や咲いたと ふた枝の蝋梅頂きぬ 聖樹のそばは居心地悪かろ
小雪舞う如月に見た蝋梅よ 聖夜の部屋に香り隠して
ひとつ
おまえもか桜草まで開きおり 一才にならぬ赤子が歩く
7