SURE: Shizuoka University REpository http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/ Title Author(s) Citation Issue Date URL Version 石英ガラス光ファイバの光伝送損失及び画像直接伝送性 能の高性能化とその適用に関する研究 千種, 佳樹 p. 1-133 2006-09-22 http://doi.org/10.14945/00003071 ETD Rights This document is downloaded at: 2016-02-15T13:22:17Z 静岡大学 博士論文 石英ガラス光ファイバの光伝送損失及び画像直 接伝送性能の高性能化とその適用に関する研究 2006 年 4 月 千種 佳樹 目 次 第 1 章 序 論……………………………………………………………………………………..1 1.1 はじめに……………………………………………………………………………………..1 1.2 石英ガラス光ファイバの特徴とその適用分野…………………………………………..3 1.2.1 通信用光ファイバ……………………………………………………………………...3 1.2.2 画像直接伝送用光ファイバ…………………………………………………………...3 1.2.3 機能性光ファイバ……………………………………………………………………...4 1.3 石英ガラス光ファイバの問題点と本研究の目的………………………………………7 1.4 本論文の構成……………………………………………………………………………….9 参考文献……………………………………………………………………………………11 第2章 石英ガラス光ファイバの極限的光低伝送損失の実現と 耐環境性に関する検討………………………………………………………………...13 2.1 はじめに……………………………………………………………………………………13 2.2 石英ガラス光ファイバの光伝送損失低減の歴史………………………………………14 2.3 極低損失純粋石英コア単一モード光ファイバ(PSCF)の設計と特性………………..16 2.3.1 極低損失 PSCF の構造設計………………………………………………………..16 2.3.2 極低損失ファイバの光伝送損失特性……………………………………………...18 2.4 汎用単一モード光ファイバと PSCF の無中継光伝送可能距離の模擬計算比較……24 2.5 光伝送損失への信頼性に関する検討…………………………………………………..26 2.5.1 放射線施設光システムにおける PSCF の信頼性評価に関する検討……………26 2.5.2 光増幅用ファイバの耐 H2・γ線特性と長期寿命推定法の確立………………..34 2.6 まとめ……………………………………………………………………………………..40 参考文献……………………………………………………………………………………42 第3章 純粋石英コア単一モード光ファイバの光低伝送損失領域の 広帯域化に関する検討………………………………………………………………...45 3.1 はじめに……………………………………………………………………………………45 3.2 広帯域低伝送損失規格(ITU-T G.652.D) 準拠 PSCF の作成とその特性……......48 3.3 耐 H2 特性への影響に関する検討………………………………………………………..52 3.3.1 室温条件下における耐 H2 特性の優位性検証…………………………………......52 3.3.2 高温条件下における耐 H2 特性の優位性検証…………………………………......54 3.4 広波長帯域無中継通信の検討…………………………………………………………….56 3.5 まとめ………………………………………………………………………………………60 参考文献……………………………………………………………………………………61 第4章 高耐曲げ性光ファイバの開発と FTTx細径・軽量光ケーブルの実現に関する検討...................................................63 -i- 4.1 はじめに…………………………………………………………………………………. .63 4.2 耐曲げ特性に対する光ファイバ構造最適設計の検討…………………………………64 4.3 G.652.D 規格準拠純粋石英コア光ファイバの曲げ径と光伝送損失特性……………65 4.4 光ケーブル外径の細径化に関する検討…………………………………………………67 4.4.1 細径化に対する最適構造の設計…………………………………………………….67 4.4.2 細径光ケーブルの作成とケーブル化前後の損失変化の検討…………………….70 4.4.3 PSCF を用いた光細径ケーブルの温度サイクル試験…………………………….74 4.5 まとめ………………………………………………………………………………………75 参考文献……………………………………………………………………………………76 第5章 高画質画像直接伝用石英ガラス光ファイバの開発と その適用に関する検討………………………………………………………………...78 5.1 はじめに……………………………………………………………………………….....78 5.2 超高解像度(25万画素)画像光ファイバの開発…………………………………..79 5.3 画像光ファイバの MTF 画質評価法の開発と 25万画素画像光ファイバの評価………………………………………………………83 5.4 25万画素画像光ファイバの石油精製工場へのシステム適用に関する検討……..92 5.5 まとめ……………………………………………………………………………………..94 参考文献……………………………………………………………………………………95 第6章 6.1 6.2 6.3 6.4 光ブリーチング効果による寿命延長に関する検討………………………………...97 はじめに…………………………………………………………………………………..97 高耐放射線画像光ファイバの開発とγ線照射特性に関する検討…………………..98 石英ガラス画像光ファイバの光ブリーチング効果による寿命延長法の検討……108 まとめ…………………………………………………………………………………….119 参考文献…………………………………………………………………………………..120 第7章 謝 高耐放射線性画像直接伝送用石英ガラス光ファイバの開発と 結 論…………………………………………………………………………………..122 辞…………………………………………………………………………………………..125 著者の石英ガラス光ファイバとその適用に関する論文………………………………….127 著者の石英ガラス光ファイバとその適用に関する特許一覧…………………………….130 論文中の略語一覧…………………………………………………………………………….132 - ii - 第1章 1.1 序論 はじめに 光ファイバは低損失、広帯域、無誘導、軽量という従来の伝送媒体にはない優 れ た 特 性 を 有 し 、大 容 量 通 信 、デ ー タ リ ン ク 、エ ネ ル ギ ー 伝 送 、画 像 直 接 伝 送 や 、 光波制御応用により多岐に亘るセンサーに応用されており、発展の著しい光エレ クトロニクスの今後の進歩には光ファイバ技術のさらなる発展と導入の拡大が必 須 で あ る と 考 え ら れ て い る 。光 は 直 進 す る と い う 優 れ た 物 理 的 性 質 を 持 っ て い て 、 広く用いられているが、逆に、これが光システムの耐振動性や小型化に障害にな っている。これに対して、光ファイバを用いると、どのような光路の曲がりも許 容され、光システムの設計が容易になる。このような理由で、光ファイバは光エ レクトロニクスの中で様々な使われ方をしている。 今 日 の 石 英 ガ ラ ス 光 フ ァ イ バ の 大 普 及 に 至 る ま で に 、壮 大 な 開 発 の 歴 史 が あ る 。 その一部を述べると、光ファイバ通信の実用化に向けての画期的提唱は1966 年 に Kao ら の 研 究 成 果 に よ り 初 め て 報 告 さ れ た 1 ) 。そ れ は 石 英 ガ ラ ス 中 の 不 純 物 を除去することにより、低損失な光通信用伝送媒体が得られる可能性があること を示した「光通信」という大きな夢の実現に向けた画期的な提唱であり、世界の 注目を浴びた。この可能性の提唱を受けて石英ガラス光ファイバの低損失化に向 け た 研 究 の 幕 開 け と な り 、 1 9 7 0 年 に は Corning Glass Work 社 の Kapron ら に よ っ て Chemical Vapor Deposition 石英ガラス光ファイバの試作に成功し (CVD)法 に よ っ て 20dB/km の 低 伝 送 損 失 2 ) 、こ の こ と で Kao ら の 提 言 し た 可 能 性 が 実証され、以降、実用化に向けた開発に火がついた。石英ガラス以外にも、さら なる低損失性の可能性や、広帯域光増幅の可能性 3)、 が 示 唆 さ れ て い る 弗 化 物 ガ ラス単一モードファイバをはじめとした多成分ガラスの研究もなされているが、 現時点において、秘めた高機能性はあるものの耐環境性の致命的な欠点から実用 1 には至っていない。また、現在実用化されている光ファイバには石英ガラス光フ ァイバ以外にプラスチック光ファイバもある。プラスチック光ファイバは石英ガ ラス光ファイバと比較して伝送損失面、温度による性能変化面などの性能面で大 きく劣るため光通信用途には不向きとされている。しかしながら弾力性などの性 能面で優れるため伝送損失の影響の少ない極短尺応用である、導波路形態の部品 や、光装飾用途などに応用分野が拡がっており、石英ガラス光ファイバの得意と する適用分野との住み分けが整理されている 4). 石英ガラス光ファイバは、現時点において、インターネットの普及と容量の拡 大 要 求 か ら 、 FTTx(Fiber To The Home, Fiber To The Premise, Fiber To The Desk, 他 ) が 注 目 を 浴 び 出 し た 。 ま た 伝 送 容 量 の 拡 大 に は 波 長 多 重 ( Wavelength-Division-Multiplexing( WDM))シ ス テ ム の 開 発 と 発 展 に 伴 い 、高 密 度 WDM( Dense WDM: DWDM) の よ う な 大 容 量 伝 送 が 可 能 と な り 、 海 底 、 陸 上 幹 線 の よ う な 長 距 離 大 容 量 シ ス テ ム へ の 実 用 化 が 活 発 化 す る 一 方 、最 近 で は 特 に メトロネットワークや市街通信などにおいて、中、短距離システムには、低密度 WDM( Coarse WDM: CWDM) シ ス テ ム が 5Gb/s 以 上 の ビ ッ ト レ ー ト で 単 純 な Add-Drop 多 重 シ ス テ ム の 低 コ ス ト 策 を 提 供 す る と し て 注 目 を 集 め て い る 。さ ら に 、 耐環境性が要求され、特に求められる放射線施設や海底光ケーブルシステムなど に適用されているが、伝送容量の拡大と環境安定性との両立が必要であり、高ま る要求に対する開発技術の要求もますます高まっている。 一方、通信用途のみならず、その低損失・耐環境性の優れた特性面から、耐環 境 性 、 防 爆 環 境 で は TV カ メ ラ な ど 電 気 素 子 の 導 入 が 不 可 能 で あ る た め 、 そ の 場 合の画像直接伝送路として「画像光ファイバ」名で石英ガラスマルチコア光ファ イバが親しまれている。これら画像光ファイバも同様に、様々な新たな要求が寄 せられ、適用への期待の高まりは大きく、ここにも実用化に様々な開発技術が求 められ、その要求もますます高くなって来ている。 以上のように、光ファイバは成熟期に入ったが、実際、あらゆる分野の期待に 応えた適用範囲の拡大のためには、まだまだ残された開発課題が多いのが現状で ある。 2 1.2 石英ガラス光ファイバの特徴とその適用分野 石英ガラス光ファイバにおいて前節でも述べたように様々な用途があるが、 ( 1 ) 通 信 用 光 フ ァ イ バ 、( 2 ) 画 像 直 接 伝 送 用 光 フ ァ イ バ 、( 3 ) 機 能 性 光 フ ァ イバ、 ( 4 )そ の 他 に 分 類 で き る が 、本 論 文 に お い て 重 要 な 分 野( 1 )~( 3 )に ついてその特徴と適用分野について述べる。 1.2.1 通 信 用 光 フ ァ イ バ コアは、屈折率がクラッドに比べ相対的に大きく、伝播する光エネルギーの大 部分が集中し、光の全反射で光を閉じ込めるため伝播エネルギーの極一部がクラ ッドに染み出す。このため、適切な厚さのクラッドが必要である。このクラッド 構 造 を 採 用 す る こ と に よ り コ ア 表 面 で の 散 乱 が 抑 制 さ れ 、低 損 失 化 が 可 能 と な る 。 図 1.1 に 示 す よ う に 、コ ア の 屈 折 率 (n)の 分 布 形 状 か ら ス テ ッ プ 型 や グ レ ー デ ッ ド型、また光の伝播形態(モード)からマルチモード型と単一モード型に分類さ れる。屈折率分布は、光信号パルスの歪、従って伝送帯域に関与する。パルス歪 を抑制できるグレーデッド型や単一モード型では帯域が大幅に広がる 5)。 通信用に、グレーデッド型マルチモード及び、単一モード型光ファイバが実用 に な っ て い る 。前 者 は コ ア 径 50μ m 、比 屈 折 率 差 1% 、後 者 は コ ア 径 5~ 10μ m 、 比 屈 折 率 差 0.2~ 0.8% で あ り 、 外 径 は い ず れ も 125μ m で あ る 。 1.2.2 画 像 直 接 伝 送 用 光 フ ァ イ バ 個々のファイバが両端面において正しく対応するように密着配列した光ファイ バを画像光ファイバと呼ぶ。両端面において個々の光ファイバの配列が対応付け られていないファイバはバンドルファイバと呼ばれ、画像光ファイバとは区別さ れる。バンドルファイバが光パワー伝送を目的としたファイバであるのに対し、 画像光ファイバの場合個々のファイバの両端面での配列の対応が保たれているこ とにより画像を直接に伝送する機能を有する 3 6)。 表 1.1 に 画 像 光 フ ァ イ バ の 代 表 的な形態を示す。近年工業分野等へ適用することを目的として開発された石英ガ ラス画像光ファイバにおいて、通常マルチコア型が主である。マルチコア型石英 ガラス画像光ファイバは全長に亘り画素が溶融一体化されており、その製造にお いて機械的強度に優れた通信用石英ガラス光ファイバの技術が用いられている。 マ ル チ コ ア 型 画 像 フ ァ イ バ の 長 所 と し て 、( 1 ) 製 法 上 長 尺 品 ( 100m 以 上 ) の 製 造が可能なこと、 ( 2 )広 い 波 長 域 に 亘 り 光 伝 送 損 失 が 小 さ い こ と 、 ( 3 )耐 熱 性 、 耐放射線性に優れていること、が挙げられる。他方、バンドル型多成分ガラス画 像光ファイバに比較し、一般的に可撓性において劣るという欠点がある。 1.2.3 機 能 性 光 フ ァ イ バ 光信号を伝送するだけでなく、その光信号を用いて制御・加工する機能を持た せた光ファイバが機能性光ファイバである。実用化されている代表的なものに、 ( 1 )光 増 幅 用 Er 添 加 光 フ ァ イ バ( EDF)、 ( 2 )分 散 補 償 光 フ ァ イ バ (DCF)、 (3) 高 非 線 形 光 フ ァ イ バ 、( 4 ) 偏 波 保 持 光 フ ァ イ バ な ど が あ る 。 光 増 幅 用 Er 添 加 光 フ ァ イ バ と は 、光 を 電 気 に 変 換 せ ず に 直 接 増 幅 す る( 弱 っ た 光 を 強 め る )機 能 を 持 つ 、 コ ア 部 分 に 希 土 類 元 素 で あ る Er を 添 加 し た 光 フ ァ イ バ で あ る 。 図 1.2 に 増 幅 原 理 を 示 す 。 0.98μ m ま た は 1.48μ m の 励 起 光 を 照 射 す る と 1.55μ m 近 傍 の 光 を 増 幅 で き る 。 次 に 分 散 補 償 光 フ ァ イ バ ( Dispersion Compensation Fiber: DCF) に つ い て 説 明する。光ファイバに入射した光パルスは、光源のスペクトルがある程度の波長 広がりを持っているために、光ファイバの屈折率分布、光ファイバ材料の屈折率 分散によって波形歪を受け、受信端でのパルス波形は広がってしまう。この波形 広がりによって隣り合う信号が重なり、伝送される信号に誤りが発生する。この ような光パルスに波形歪(広がり)が生じる現象を分散と呼ぶ。そしてこの伝送 信号光パルスに生じた波形歪を補償するように、信号伝送用光ファイバと逆の分 散を持たせるように設計した光ファイバを信号伝送路に接続することで分散を補 償するようにした光ファイバを分散補償光ファイバという 7) 。 また、高非線形光ファイバとは石英ガラスの非線形光学効果を応用すべくその 4 非 線 形 性 を 高 め る た め に 、コ ア 径 を 汎 用 通 信 用 光 フ ァ イ バ 対 比 30% 程 度 の 小 径 と し 、汎 用 通 信 用 光 フ ァ イ バ の コ ア と ク ラ ッ ド の 屈 折 率 差 対 比 、10 倍 に 近 い 高 屈 折 率差に設計された光ファイバのことを言い、光波長変換やスーパーコンティニウ ム光発生などに応用される 8) 。 さらに偏波保持光ファイバは、光の強弱情報の他に偏波面の情報をも安定に長 尺伝送可能とするように設計された光ファイバであり、光干渉や偏波を利用した 計測 9) 、コヒーレント通信 Refractiv e Index prof ile core 10) 、偏波多重通信 11) Pulse distortion cladding などへの応用が期待されている。 * Δ n ( %) Core diameter Band width ( μ m) (MHz・ km) L i g h t t r a n s mi s s i o n *Δ n(%): Relative refractive index difference between core and cladding n 1 :Core refractive index, n 2 :Cladding refractive index Δ n=(n 1 - n 2 )/ n 1 ×100 (%) (a) Step index multi mode type, (b) Graded index multi mode type (c) Single mode type Fig. 1.1 Types of optical fiber 5 Table 1.1 Types of image fiber Energy [cm-1] Excitation state Pump wavelength 0.98μm Stimulated emission Signal 1.55μm Amplified signal 1.48μm 1.48μm Base state Fig.1.2 Principle of EDF 6 1.3 石英ガラス光ファイバの問題点と本研究の目的 1966 年 に Kao ら 1)に よ っ て 石 英 ガ ラ ス 光 フ ァ イ バ の 実 用 化 の 可 能 性 が 示 唆 さ れ て 以 降 、1970 年 代 に 実 用 化 開 発 の 波 が 押 し 寄 せ 、そ し て 1980 年 代 に 実 用 化 さ れ て 以 降 、 石 英 ガ ラ ス の 特 徴 を 引 き 出 し て 、 1.2 節 で 説 明 し た ① 通 信 用 光 フ ァ イ バ、②画像直接伝送用光ファイバ、③機能性光ファイバ、といった石英ガラス光 ファイバの3大適用領域が形成されるに至った。そして、一度実用化してしまえ ば、その利便性は忘れ去られることは無く、次から次へと出されるさまざまな要 求に合わせて性能の向上が期待されるようになり、高度な適用分野への期待は絶 えることは無い。 と り わ け 、 石 英 ガ ラ ス 光 フ ァ イ バ は そ の 石 英 ガ ラ ス の も つ 「 低 損 失 光 伝 送 性 」、 「高耐環境性」という2大性能をさまざまな工夫と改善を凝らすことで、石英ガ ラス光ファイバの種々への分野適用が可能となってきた。 しかしながら、これら2大利点的性能も、それぞれ以下のような適用要求に対 する高まる期待と、解決すべき技術的問題点があった。 1 )長 距 離・大 容 量 光 通 信 の 世 界 に お い て は 、Er 添 加 フ ァ イ バ 光 増 幅 器( EDFA) や Raman 増 幅 器 の よ う な 光 増 幅 技 術 12)が 発 展 を 遂 げ た 段 階 に 入 っ て も な お 、 ビットレートを増加させながら伝送距離を伸ばそうとするためには、光ファ イバの伝送損失は常にシステム構成上の制限条件となるため、さらなる伝送 損失の低減化が望まれており、高まる期待は留まることはない。 2)一般的にガラスは不純物が混入すると耐環境性が劣る。特に放射線などの存 在環境における光伝送損失の低下は著しく、多成分ガラスや、耐環境性に優 れ る と さ れ る 石 英 ガ ラ ス に お い て も Ge な ど 添 加 剤 に よ る 放 射 線 誘 起 光 伝 送 損失への影響は大きい 13-17)。 そ こ で 放 射 線 施 設 や 放 射 線 な ど の 存 在 す る 海 底 ケーブル敷設環境においては添加剤を含まない、純粋石英コア型の光ファイ 7 バが注目を浴びている。こういった環境にはデータ通信用単一モード光ファ イ バ 、監 視・制 御 シ ス テ ム 画 像 直 接 伝 送 用 光 フ ァ イ バ な ど が 使 用 さ れ て お り 、 さ ら な る 耐 放 射 線 性 能 の 向 上 が 望 ま れ て い る 。 加 え て 、 こ れ ら 環 境 で の γ線 1R/h ( 注 ) 以 下 と い っ た 低 照 射 線 量 率 に お け る 2 5 年 と い っ た 長 期 に わ た る シ ス テム寿命を推定し保証する術は現在存在せず、これら技術・評価手法の開発 が必要となっている。 ( 注 ) R: 放 射 線 の 「 照 射 線 量 」 の 単 位 名 で 「 レ ン ト ゲ ン 」 と 呼 ぶ 。 空 気 1kg 中 に 2.58 × 10 - 4 ク ー ロ ン の イ オ ン を 作 る γ 線 あ る い は X 線 の 量 。 1C/kg=3876R。 1R/h は 1 時 間 あ た り に 1R の 線 量 を 照 射 す る 照 射 線 量 率 。 3) 波 長 多 重( Wavelength-Division-Multiplexing( WDM))シ ス テ ム の 開 発 と 発 展 に 伴 い 、最 近 で は 特 に メ ト ロ ネ ッ ト ワ ー ク や 市 街 通 信 な ど の 中 、短 距 離 シ ス テ ム に 、低 密 度 WDM( Coarse WDM:CWDM)シ ス テ ム が 低 コ ス ト 方 策 を 提 供 す る と 注 目 を 集 め て い る 。近 年 、ITU-T 規 格 で 分 類 さ れ る 低 OH 吸 収 単 一 モ ー ド 光 フ ァ イ バ の 出 現 に よ り 、1360nm- 1460nm 波 長 帯( E-band)を も メ ト ロ エ リ ア ネ ッ ト ワ ー ク CWDM 伝 送 に 加 え る こ と が 可 能 と な っ た 。 し か し こ の 光 フ ァ イ バ に 期 待 さ れ る 伝 送 波 長 帯 E-band に お け る 伝 送 損 失 は H2 と の 化 学 反 応 に 特 に 敏 感 で あ り 18-20) 、し か も こ れ ま で に 開 発 さ れ た 光 フ ァ イ バ は 耐 H 2 性 に 劣 る コ ア に Ge を 添 加 し た 形 態 の み で あ っ た 。 そ こ で 、 波 長 多 重 に 必 要 な 広 帯 域 低 損 失 と 耐 H 2 性 に 優 れ た 低 OH 吸 収 純 粋 石 英 コ ア 単一モード光ファイバの開発への期待の高まりは大きい。 4 )近 年 の イ ン タ ー ネ ッ ト の 容 量 拡 大 の 要 求 に 伴 い 、光 フ ァ イ バ に よ る 信 号 伝 送 方 式 が 拡 大 基 調 に あ る 。し た が っ て 、光 フ ァ イ バ の 耐 曲 げ 損 失 性 が FTTx (Fiber To The Home, Fiber To The Premise, Fiber To The Desk, 他 )の ようなアクセスネットワークや屋内応用設計にとって非常に重要な要素 8 を 占 め て お り 、最 近 で は ル ー ス チ ュ ー ブ ケ ー ブ ル の 細 径 化 や 軽 量 化 が 強 く 求 め ら れ て い る 。 値 段 重 視 の こ の 種 の 光 フ ァ イ バ は 国 際 規 格 ( ITU-T) の 仕様範囲内でステップインデックス構造で実現し得る耐曲げ特性に強い 光 フ ァ イ バ の 開 発 が 必 要 で あ る 。汎 用 Ge 添 加 型 光 フ ァ イ バ に は 不 可 能 な 、 純粋石英の持つ屈折率分散特性の利点を生かしたステップインデックス 構 造 で の 細 径 MFD( Mode Field Diameter)に よ る 耐 曲 げ 性 に 優 れ る 光 フ ァイバの実現にかかる期待は大きい。 5 )通 信 用 石 英 光 フ ァ イ バ の 技 術 を 基 に 、石 英 ガ ラ ス 画 像 直 接 伝 送 用 光 フ ァ イ バである画像光ファイバが開発されてきた 2 1 ) 。石 英 ガ ラ ス 画 像 光 フ ァ イ バ は広い波長領域に亘って光の伝送損失が低く、また耐環境性にも優れる特 徴を有している。そしてその特徴を生かして、光ファイバの全長は数10 mのものが得られているが、画素数は3万から5万程度が一般的には最大 領 域 で あ り 工 業 用 テ レ ビ ジ ョ ン( Industrial Television (ITV))の 画 質 と 比 べ 著 し く 劣 る も の で あ っ た 。 こ の よ う な 状 況 下 、 ITV の よ う な 電 気 機 器 で は耐えられない高温、狭窄、悪条件下でも石英ガラス画像光ファイバの特 徴 で あ る 、耐 環 境 性 、小 径 寸 法 性 に 優 れ た 特 性 を 生 か し 、か つ ITV の 高 解 像度を損なわない程度の高画質(25万画素)を維持した監視、観察など を可能とする可撓性に優れた画像直接伝送路の開発への期待は大きい。 そこで本研究では、石英ガラス光ファイバの光伝送損失及び画像直接伝送特性 に高性能化を図り、上述した問題点を解決することで、各分野への石英ガラス光 ファイバの適用を可能とすべく、色々の分野への期待に貢献することを目的とす る。 1.4 本論文の構成 第 1 章 の 序 論 に 続 き 、第 2 章 で は 、低 損 失 、高 耐 環 境 性 と い う 石 英 ガ ラ ス の 二 9 大特性に焦点をあて、通信用石英ガラス光ファイバにおいて、その極低損失記録 の樹立、無中継可能伝送距離の延長、放射線施設や海底光ケーブルシステムなど 方射線を中心とした環境下における寿命推定方法の確立を図り、純粋石英コア型 光ファイバの優位性について述べる。第 3 章では、近年特にメトロネットワーク や 市 街 通 信 な ど で 注 目 を 集 め て い る Coarse WDM ( 波 長 多 重 : wavelength-Division-Multiplexing) に 必 須 で あ る 光 低 伝 送 損 失 の 広 帯 域 化 に 焦 点 を 当 て 、 ITU-T 規 格 G.652C,D に 対 し て 全 適 合 の 低 OH 吸 収 純 粋 石 英 コ ア 型 単 一 モ ー ド 光 フ ァ イ バ の 開 発 と シ ス テ ム 運 用 中 、必 須 の 要 件 と な る そ の 耐 H 2 性 能 を 中 心 に 実 施 し た 検 討 と 、広 波 長 帯 域 無 中 継 伝 送 を 可 能 と す る 高効率 Raman 増幅の実現 性について述べる。第 4 章 で は 、 従 来 の 汎 用 ス テ ッ プ イ ン デ ッ ク ス 構 造 Ge 添 加 コ ア 石 英 単 一 モ ー ド フ ァ イ バ で は 不 可 能 な 範 囲 の MFD の 極 細 径 化 に て 高 耐 曲 げ 性 能 を 実 現 す る 光 フ ァ イ バ の 開 発 と 、 そ れ に よ り 実 現 し 得 る FTTx 用 細 径 ・ 軽 量 光 ケーブルの開発及びその特性について述べる。第 5 章では、通常のテレビ解像度 に匹敵する25万画素という高解像度の、長尺・高可撓性石英ガラス画像光ファ イ バ の 開 発 、 そ し て 画 質 の 定 量 評 価 を 可 能 と す る MTF( Modulation Transfer Function) 手 法 の 開 発 と 25 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ の 画 質 定 量 評 価 、 さ ら に は 開 発 し た 25 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ を 石 油 精 製 プ ラ ン ト の 石 油 汚 泥 燃 焼 設 備 で あ る 回 転 炉 内 部 の 火 炎 燃 焼 状 態 監 視 へ の 適 用 と そ の 高 信 頼 性・実 用 性 に つ い て 述 べ る 。 第 6 章 で は 、画 像 光 フ ァ イ バ の 放 射 線 施 設 で の 使 用 寿 命 の 延 伸 に つ い て 、(1)フ ァ イ バ そ の も の の 耐 放 射 線 性 能 の 向 上 、(2)外 部 付 帯 技 術 に よ る フ ァ イ バ 寿 命 延 伸 技 術(「 光 ブ リ ー チ ン グ 効 果 」の 利 用 )の 開 発 の 2 面 か ら の 検 討 結 果 に つ い て 述 べ る 。 第 7 章では、本研究全体について総括する。 10 第1章の参考文献 [1] K.C.Kao and G.A.Hockham “Dielectric-fibre surface waveguides for optical frequencies” Proc.IEE Vol.113,No.7, pp.1151-1158,July(1966). 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[20] P.J.Lemaire, “ Reliability of optical fibers exposed to hydrogen long-term loss increases ” , [21] prediction of Opt.Eng.Vol.30 No.6 pp.780-789 June (1991). 吉 村 耕 三 、“ 石 英 イ メ ー ジ フ ァ イ バ と そ の 応 用 ”、 レ ー ザ ー 研 究 Vol.11,No.10,pp.732-738、 (1983). 12 第 2 章 石英ガラス光ファイバの極限的光低伝送損失の実現 と耐環境性に関する検討 2.1 は じ め に 光ファイバの伝送原理は基本的に光の全反射を利用する極めて単純なものであ る。しかしながら、光ファイバ伝送システムを実際の使用現場で実現するために は透明度の高いガラスを取得すること、実使用環境下に於ける安定した性能維持 の実現が重要点となる。 本章では石英ガラス光ファイバの光伝送損失の低減化の歴史の中で、長く更新 し得なかったその低伝送損失の記録を本研究では純粋石英コア光ファイバ ( PSCF: Pure Silica Core Fiber) の 設 計 ・ 製 造 の 最 適 化 に よ っ て 更 新 に 成 功 し 1)、 無 中 継 海 底 光 シ ス テ ム な ど へ の 適 用 の 優 位 性 に つ い て 明 ら か と し た 2)。 さらに、今回の低損失化の重要技術として導入した純粋石英コア光ファイバは 光低伝送損失に加え、耐環境性にも優れる。この耐環境性の利点を適用する分野 に原子力発電所や放射線研究施設などがある。こういった施設でデータ伝送、通 信などに使われる光ファイバシステムは一般的にγ線のような電磁放射線による 低線量率放射線環境下における長期信頼性が求められるため、 「低線量率放射線に よる長期信頼性の評価手法の開発と耐放射線性能評価」が重要となるが、これま でこういった手法の開発の報告例は無い。また放射線研究施設ではγ線のような 電磁放射線に加えて、中性子線のような照射物質への影響度の強い粒子放射線も 環境に存在する場合があるが、これまで中性子線とγ線による光ファイバの伝送 損失増加特性の違いについての評価報告例は無く、本研究によって初めて、その 影響度のファイバの種類による違いを評価し、純粋石英コア単一モードファイバ の優位性を明らかにした 3)。 一 方 、 太 平 洋 横 断 ケ ー ブ ル な ど ケ ー ブ ル 敷 設 領 域 に 13 も 海 底 の Mn 塊 な ど か ら わ ず か な が ら も 放 射 線 を 発 し て い る 領 域 を 通 過 さ せ な け ればならない箇所もあり、また長期間にわたり閉じ込められたケーブル内で発生 す る H2 に よ る 光 損 失 増 加 へ の 影 響 も 考 慮 す る 必 要 が あ る 。 低 損 失 光 フ ァ イ バ PSCF は 海 底 光 ケ ー ブ ル シ ス テ ム に 広 く 導 入 さ れ 、 Er 添 加 光 フ ァ イ バ 光 増 幅 器 ( EDFA) と 併 せ て 長 距 離 海 底 光 シ ス テ ム と し て 敷 設 さ れ る 。 海 底 幹 線 用 光 フ ァ イ バ PSCF に つ い て は す で に こ の 海 底 の 極 微 量 放 射 線 や 水 素 に よ る 影 響 に つ い て は問題ないことが確認されている 4 , 5 , 6 ) が 、PSCF 光海底ケーブルシステムに組み 込 ま れ る 光 増 幅 用 Er 添 加 コ ア 光 フ ァ イ バ に つ い て も 併 せ て 信 頼 性 の 評 価 が 必 要 となるがこれを精度良く評価できる手法の報告例はこれまでなかった。本研究で はこれらファイバの耐環境長期信頼性評価手法を確立し、純粋石英コアファイバ の 優 位 性 と 、 光 増 幅 用 Er 添 加 コ ア 光 フ ァ イ バ に つ い て も そ の 信 頼 性 に 問 題 が 無 いことを明らかとした 7,8,)。 本章では以上のように、石英ガラス光ファイバの極限的光低伝送損失の実現と放 射線を中心とした耐環境性能評価手法の確立について述べる。 本 節 に 続 き 、 2.2 節 で は 石 英 ガ ラ ス の 光 伝 送 損 失 低 減 の 歴 史 に つ い て 述 べ る 。 2.3 節 で は 純 粋 石 英 コ ア シ ン グ ル モ ー ド 光 フ ァ イ バ( PSCF)の 構 造 設 計 と 極 低 損 失 記 録 更 新 を 果 た し た フ ァ イ バ の 伝 送 特 性 に つ い て 述 べ る 。 2.4 節 で は 汎 用 単 一 モ ー ド 光 フ ァ イ バ と PSCF の 無 中 継 光 伝 送 可 能 距 離 の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 比 較 を 実 施 し 、 PSCF の 優 位 性 を 示 す と 同 時 に PSCF と ラ マ ン 増 幅 の 組 み 合 わ せ の 優 位 性 を 示 す 。 2.5 節 で は PSCF の 放 射 線 施 設 に お け る 光 伝 送 損 失 へ の 長 期 信 頼 性 に 関 す る 検 討 と 、 光 増 幅 用 Er 添 加 光 フ ァ イ バ の 海 底 環 境 に お け る 長 期 信 頼 性 に 関 す る 検 討 に つ い て 述 べ る 。 2.6 節 で は 本 章 の 要 約 を 行 う 。 2.2 石英ガラス光ファイバの光伝送損失低減の歴史 低損失光ファイバは今や情報・通信システムに無くてはならない存在になって いる。特に海底ケーブルのような超長距離伝送システムには超低損失光伝送が極 14 めて重要な要素となる。 物質中を光の全反射を利用して伝播させる理論は古くから知られているがさま ざまな問題点があり、通信への実用を提唱する研究者はなかなか現れなかった。 光 フ ァ イ バ 通 信 の 実 用 化 に 向 け て の 画 期 的 提 唱 は 1 9 6 6 年 に Kao ら の 研 究 成果により初めて報告された 9)。 そ れ は 石 英 ガ ラ ス 中 の 不 純 物 を 除 去 す る こ と に より低損失な光通信用伝送媒体が得られる可能性があることを示した「光通信」 という大きな夢の実現に向けた画期的な提唱であり、この分野の世界の注目を浴 び た 。 こ の 可 能 性 の 提 唱 を 受 け て 、 伝 搬 損 失 低 減 の 研 究 を 表 2.1 に ま と め る が 、 これは石英ガラス光ファイバの低損失化に向けた研究の幕開けとなった。 1 9 7 0 年 に は Corning Glass Work 社 の Kapron ら に よ っ て Chemical Vapor-phase Deposition (CVD)法 に よ っ て 20dB/km の 低 伝 送 損 失 石 英 ガ ラ ス 光ファイバの試作に成功した 10) 。 1 9 7 4 年 に は AT&T の Bell 研 究 所 の MacChesney ら に よ っ て 、Modified Chemical Vapor-phase Deposition (MCVD) 法 が 開 発 さ れ 、 1.06μ m に お い て 2~ 3 dB/km の 低 損 失 石 英 ガ ラ ス 光 フ ァ イ バ の試作に成功した 11 ) 。 そ の 後 、 NTT の Horiguchi ら は MCVD 法 を 使 用 し て 、 石 英 ガ ラ ス 中 の 水 酸 基 の 低 減 を 図 る こ と を 試 み 、 1976 年 に は 、 1.2μ m の 波 長 に お い て 0.47dB/km の 低 損 失 石 英 光 フ ァ イ バ を 得 る こ と に 成 功 し た 12)。 さらに 1979 年 に は NTT の Miya ら は 光 フ ァ イ バ の 構 造 不 整 を 大 幅 に 除 去 す る こ と に 成 功 し て 、1.55μ m の 波 長 に お い て 0.20dB/km と い う 理 論 限 界 に 近 接 す る 低 損 失 Ge 添 加 石 英 コ ア 単 一 モ ー ド フ ァ イ バ ( Ge-SMF) を 開 発 し た 13)。 以上のように、これまでの光ファイバの低損失化が、金属不純物や水酸基と いう「不純物の低減」と「光ファイバの構造上の不整の低減」を図ることによ り達成されてきた。そしてさらにこれ以上の低損失化を達成するためには、コ ア に お け る Rayleigh 散 乱 損 失 の 低 減 化 が 必 要 な 段 階 に 入 っ て い た 。そ こ で 住 友 電 工( 株 )の Kanamori ら は Rayleigh 散 乱 損 失 に 寄 与 の 大 き な コ ア 中 の Ge を 除去することに着目した。そして彼らはコアを全くの純粋石英とし、コア、ク ラッドに必要な屈折率差をクラッドに弗素を添加することでコアよりも屈折率 を低下した構造の単一モード光ファイバの試作に成功した。これによりコアか 15 ら Rayleigh 散 乱 損 失 に 影 響 を 与 え る Ge を 除 く こ と で 、1 9 8 6 年 に 1.55μ m の 波 長 に て 0.154dB/km と い う 超 低 損 失 光 フ ァ イ バ の 試 作 に 成 功 し た 14)。 以 下 本 研 究 で 成 功 す る 伝 送 損 失 の 限 界 更 新 が 達 成 さ れ 得 る ま で は こ の 1.55μ m の 波 長 に お け る 0.154dB/km と い う 記 録 が 1 6 年 間 に わ た り 更 新 さ れ る こ と は 無 か っ た 。し か し な が ら 、そ の 間 1 9 9 0 年 代 に 入 っ て 、Er 添 加 フ ァ イ バ 光 増 幅 器( EDFA)や Raman 増 幅 器 の よ う な 光 増 幅 技 術 15)が 劇 的 な 発 展 を 遂 げ た 段階に入ってもなお、ビットレートを増加させながら伝送距離を伸長するため に、光ファイバの伝送損失は常にシステム構成上の制限条件となるため、さら なる伝送損失の低減化が望まれ続けている。 Table2.1 Progress of optical fiber in attenuation Year 1970 1974 1976 1979 1986 Loss(dB/km)(Wavelength(μm)) 20 2∼3 0.47 0.20 0.154 (1.06) (1.2) (1.55) (1.55) Ref. Corning[2] ATT, Bell Lab[3] NTT, Fujikura[4] NTT[5] Sumitomo[6] 2.3 極 低 損 失 純 粋 石 英 コ ア 単 一 モ ー ド 光 フ ァ イ バ (PSCF) の 設 計 と 特 性 2.3.1 極 低 損 失 PSCF の 構 造 設 計 本研究の試作方法において、極低損失の純粋石英コア単一モード光ファイバ ( PSCF ) の 試 作 に 成 功 し た 。 極 低 損 失 と 言 う 利 点 を 最 大 限 に 引 き 出 し 得 る 光 フ ァイバ通信システムとして海底などの無中継光伝送システムが挙げられる。その 16 ため、今回、極低損失光ファイバを開発するにあたり、その構造設計をこの無中 継光伝送システムの無中継距離を最大限伸張できるよう留意しながら設計した。 無中継距離の伸張のために、低損失に加え、大容量光の入射において通信に支 障を来たす非線形現象を抑える方法を考慮する必要がある。そこでこの非線形現 象 を 低 減 す る た め に PSCF の コ ア 有 効 断 面 積 Aeff を 通 常 型 PSCF よ り も 拡 大 し た 。 図 2.1 に 今 回 設 計 し た デ ィ プ レ ス ト ク ラ ッ ド 構 造 の PSCF の 屈 折 率 分 布 を 示 す。ディプレストクラッド構造はコア拡大光ファイバにおいて、コアに光を封じ 込めることで曲げ特性を改良するために用いた 1 5 ) 。構 造 パ ラ メ ー タ は 試 作 に お い て 、「 比 屈 折 率 差 」( 注 ) を Δ n と 記 述 す る と 、 弗 素 添 加 石 英 第 一 ク ラ ッ ド の を Δ n 1 と 記 述 し 、 Δ n 1 = 0.32% 、 弗 素 添 加 石 英 第 二 ク ラ ッ ド の 比 屈 折 率 差 を Δ n 2 と 記 述 し 、 Δ n 2 = 0.26% と し た 。 (注)比屈折率差の定義 コ ア で あ る 純 粋 石 英 の 屈 折 率 を n0 と し 、 第 一 ク ラ ッ ド の 屈 折 率 を n1、 第 二 ク ラ ッ ド の 屈 折 率 を n2 と す る 。 比 屈 折 率 差 Δn(%) 第 一 クラッド比 屈 折 率 差 Δn 1 =(n 0 -n 1 )/n 0 ×100(%) 第 二 クラッド比 屈 折 率 差 Δn 2 =(n 0 -n 2 )/n 0 ×100(%) 表 2.2 に PSCF の 1550nm に お け る フ ァ イ バ 特 性 の 概 略 を 示 す 。コ ア 有 効 断 面 積 Aeff は 118 μ m 2 と 大 き い 。 従 来 型 の 0.154dB/km 光 フ ァ イ バ 4)は 、 モ ー ド フ ィ ー ル ド 径 MFD が 9.5 μ m で ス テ ッ プ イ ン デ ッ ク ス 型 屈 折 率 分 布 形 状 で あ り 、 今 回 の 試 作 フ ァ イ バ の MFD は 12.2 μ m と 大 き い た め 、デ ィ プ レ ス ト ク ラ ッ ド 構 造とした。以上により今回の試作ファイバの構造は大容量長距離通信に適した構 造となった。 17 2.3.2 極低損失ファイバの光伝送損失特性 図 2.2 に 2.3.1 節 で 設 計 し 試 作 し た フ ァ イ バ の 光 伝 送 損 失 波 長 特 性 を 示 す 。 純 粋 石 英 コ ア 型 光 フ ァ イ バ の 設 計 ・ 製 造 の 最 適 化 に よ っ て 、波 長 1310nm に お い て 0.265dB/km 、そ し て 波 長 1570nm に お い て 0.148dB/km と 言 う 1986 年 か ら 1 6 年間更新されなかった極低損失の記録を更新することに成功した。 損 失 波 長 特 性 は ITU-T,G.650.1(06/2004) に 測 定 法 と し て 規 定 さ れ て い る カ ッ トバック法を用いて測定した。測定の繰り返し再現性は光源の安定性、光強度測 定器の安定性、測定におけるファイバの入出力端接続の繰り返し再現性に依存す る 。 今 回 の 評 価 測 定 系 に お い て 、 全 体 繰 り 返 し 再 現 性 は ± 0.005dB 以 内 に あ る こ と を 確 認 し た 。 測 定 フ ァ イ バ 長 が 10km 以 上 ( 実 測 長 11.3km ) で あ る こ と を 考 慮 す れ ば 、損 失 測 定 の 繰 り 返 し 再 現 性 は ± 0.0005dB/km よ り も 良 い も の と 考 え ら れる。繰り返し再現性をさらに改善するために、4回の測定の平均値を損失測定 値として採用することとした。平均値を用いることで繰り返し再現性は± 0.00025dB/km 以 内 に 改 善 さ れ る 。 損 失 測 定 精 度 に 影 響 を 与 え る も う 一 つ の 要 素 に フ ァ イ バ 長 の 計 尺 精 度 が あ る 。 今 回 、 フ ァ イ バ 長 は ± 0.05% よ り も 良 い 精 度 で 測 定 さ れ て い る 。フ ァ イ バ の 伝 送 損 失 が 0.2dB/km 以 下 で あ る こ と を 考 慮 す れ ば 、 dB/km 単 位 で の 損 失 測 定 精 度 は ± 0.0001dB/km 以 内 と な る 。以 上 よ り 、伝 送 損 失 測 定 の 全 体 精 度 は ± 0.00035dB/km よ り も 良 い 精 度 が 確 保 で き る こ と が わ か る 。 こ れ に よ り 、 本 研 究 に よ る 測 定 に お い て 、 0.001dB/km 階 級 の 損 失 測 定 値 差 の 優 位性の有無を議論するに十分な精度が考慮されていることが確認できた。 極 小 値 付 近 の 詳 細 な 損 失 波 長 特 性 を 図 2.3 に 示 す 。2nm ピ ッ チ で 平 均 値 を 打 点 し曲線補間を行った。 1570nm 付 近 で 0.148dB/km の 極 低 損 失 値 が 得 ら れ た 。 測 定 に 際 し て は フ ァ イ バ はボビン巻き時の曲げに起因する損失増加を防ぐために束状態で測定した。束状 態は側圧を開放するルースチューブケーブル(チューブの中に光ファイバを束縛 し な い 解 放 状 態 で 挿 入 し 、そ の チ ュ ー ブ を よ り 合 わ せ て ケ ー ブ ル 化 す る ケ ー ブ ル ) の状態に匹敵する。伝送損失の構成要素を極小損失値の得られた波長において解 析 し 、 結 果 を 表 2.3 に 示 す 。 光 フ ァ イ バ の 損 失 要 因 を 分 析 す る た め に 、 通 常 、 損 18 失波長特性を式(1)のモデルに当てはめることが行われる。 伝 送 損 失 = A / λ 4 + B + C( λ ) (1) こ こ で λ : 波 長 、 A : Rayleigh 散 乱 係 数 、 B: 定 数 、 C( λ ) : 波 長 依 存 関 数 。 式 ( 1 ) の 第 1 項 は Rayleigh 散 乱 損 失 値 で あ る 。 こ れ は ガ ラ ス 中 の 微 視 的 な 誘電率揺らぎによる散乱損失である。第2項は構造不整損失と呼ばれ、コアとク ラッドの界面の凹凸などによる散乱損失であるとされている。第3項はその他の 損 失 を 示 す 。そ の 他 の 損 失 と は 波 長 1.38 μ m な ど に ピ ー ク を も つ OH 吸 収 損 失 や 、 波長とともに増大する赤外吸収損失、マイクロベンド損失などがある。今回得ら れ た 極 低 損 失 を 式 ( 1 ) に 当 て は め た 波 形 解 析 に よ り 表 2.3 の 結 果 を 得 た 。 試 作 フ ァ イ バ PSCF の Rayleigh 散 乱 損 失 値 は 波 長 1570nm に お い て 0.123dB/km で あ る 。こ の 値 は Ge 添 加 コ ア 型 の 汎 用 単 一 モ ー ド 光 フ ァ イ バ( Ge-SMF )の 典 型 値 0.155dB/km よ り も 著 し く 小 さ い 。 Rayleigh 散 乱 損 失 に お け る 差 は 純 粋 石 英 コ ア の 利 点 を 表 す 。 極 小 損 失 に お け る OH 吸 収 の 裾 の 影 響 度 は 0.002dB/km と 見 積 も れ る 。 こ の こ と は 、 今 回 の 試 作 フ ァ イ バ か ら OH を 取 り 除 く こ と が で き れ ば 0.146dB/km の 極 小 値 を 実 現 で き る 可 能 性 を 示 し て い る と 言 え る 。 他 の 構 成 要 素 と し て 構 造 不 整 が 0.004dB/km と 低 く 、赤 外 線 吸 収 は 0.019dB/km と な っ て い る 。 今 回 の 試 作 0.148dB/km を 得 る に 至 る そ の 直 前 に お い て 実 施 し た 試 作 に お い て も 0.151dB/km と 言 う 極 低 損 失 値 を 得 て お り 1 6 ) 、こ の 両 試 作 フ ァ イ バ の 差 は 主 に OH 吸 収 損 失 と 考 え ら れ る が 、 両 試 作 フ ァ イ バ と も 従 来 の 記 録 0.154dB/km 1 6 ) を 上回っており、今回の低損失記録の更新の再現性を示すものである。 19 *Relative refractive index deference Δn [%] F-doped 1st Cladding Refractive index of Pure Silica n0 6.1μm F-doped 2nd Cladding 0.26% n2 Core 0.32% n1 Radius 62.5μm *Refractive index difference Δn(%) F-doped 1st cladding Δn=(n0-n1)/n0×100(%) F-doped 2nd cladding Δn=(n0-n2)/n0×100(%) Fig. 2.1 Schematic refractive index profile of PSCF 20 Table 2.2 Characteristics of fiber (1550nm) Loss at 1550nm [dB/km] Loss at 1570nm [dB/km] Dispersion [ps/km/nm] Dispersion Slope [ps/km/nm2] MFD [μm] Aeff [μm2] Cutoff [μm] Bending loss [dB/m] 0.150 0.148 20. 0.06 12.2 118 1.41 2.4 Table 2.3 Loss components at 1570nm [dB/km] Total Loss Rayleigh scattering OH loss Imperfection loss Infrared loss 0.148 0.123 0.002 0.004 0.019 21 1.2 0.265 dB/km at 1310 nm at 1570 nm 0.8 Attenuation (dB/km) 0.148 dB/km 0.4 0.0 1000 1200 1400 1600 Wavelength (nm) Fig. 2.2 Spectral attenuation of PSCF 22 0.168 C-Band 0.166 Attenuation (dB/km) 0.164 0.162 L-Band < 0.160 dB/km between 1506 and 1614nm 0.160 0.158 0.156 0.154 0.152 0.150 0.1484dB/km 0.148 0.146 1500 1520 1540 1560 1580 1600 1620 Wavelength (nm) Fig. 2.3 Detailed spectral attenuation of PSCF [1500-1625nm] 23 2.4 汎 用 単 一 モ ー ド 光 フ ァ イ バ と PSCF の 無 中 継 光 伝 送 可 能 距 離 の 模 擬 計 算 比 較 本 節 で は 今 回 開 発 し た 低 損 失 ・ 低 非 線 形 性 PSCF の 無 中 継 光 伝 送 シ ス テ ム で の 適 用 の 有 用 性 に つ い て 考 察 す る 。今 回 開 発 さ れ た 低 損 失 ・ 低 非 線 形 性 PSCF の 中 心 的 利 点 は 無 中 継 最 大 伝 送 距 離 の 伸 張 に あ る 。 前 置 増 幅 器 と し て Er 添 加 フ ァ イ バ 光 増 幅 器 ( EDFA ) を 使 用 し た シ ス テ ム と 、 後 方 向 励 起 分 布 型 Raman 増 幅 器 ( DRA )を 使 用 し た シ ス テ ム に つ い て 最 大 伝 送 距 離 を 比 較 し た 。最 大 伝 送 距 離 は 許容される伝送損失値を単位長さあたりのファイバ伝送損失で除することによっ て定義される。許容される伝送損失値はファイバ入射最大光強度と前置増幅器前 で要求される光強度との差で定義される。今回の推定評価において、ファイバ入 射最大光強度はファイバの非線形性によって限定されるため、非線形重みを1 rad に な る よ う に 光 強 度 を 調 整 し た 17)。 ま た 、 前 置 増 幅 器 前 の 要 求 光 強 度 は 、 前 置 増 幅 器 の 利 得 と 雑 音 指 数( NF )に 依 存 す る 。表 2.4 に 低 損 失・低 非 線 形 性 PSCF と 、 比 較 に 従 来 型 汎 用 Ge-SMF の フ ァ イ バ パ ラ メ ー タ を ま と め た 。 前 置 増 幅 器 と し て EDFA を 使 用 す る シ ス テ ム に 対 し て は PSCF 、 Ge-SMF と も に 、前 置 増 幅 器 の 利 得 と NF を そ れ ぞ れ 、 15dB 、 6dB と 仮 定 し た 。こ の 評 価 に お いて最大伝送距離に違いを与えるパラメータはファイバ損失とファイバ入射光強 度 で あ る 。今 回 の 低 損 失・低 非 線 形 性 PSCF の 大 き な Aeff は 非 線 形 効 果 を 抑 え 得 る た め 、 汎 用 G-SMF 対 比 0.5dB 高 い フ ァ イ バ 入 射 光 強 度 を 実 現 で き る 。 こ の 高 フ ァ イ バ 入 射 光 パ ワ ー と 低 光 伝 送 損 失 に よ り 、図 2.4 に 示 す よ う に EDFA を 前 置 増 幅 器 に 使 用 し た シ ス テ ム に お い て 最 大 無 中 継 伝 送 長 を 341km に 伸 長 で き る こ と を 明 ら か と し た 。一 方 、Ge-SMF は 256km に 留 ま っ て お り 、PSCF の 優 位 性 を 明確に示せた。 次 に 、DRA を 前 置 増 幅 器 に 使 用 し た シ ス テ ム に つ い て 評 価 す べ く 、EDFA を 取 り 除 い て 、 DRA を 前 置 増 幅 器 と し て 評 価 し た 。 DRA の 後 方 向 励 起 光 強 度 を フ ァ イ バ の Rayleigh 散 乱 に よ り DRA が 自 己 発 振 し な い 範 囲 で 最 大 と な る よ う 設 定 し た 。 DRA の 利 得 と NF は 参 考 文 献 1 8 ) に 基 づ く 数 値 模 擬 計 算 に て 決 定 し た 。 PSCF 24 に 対 す る 、後 方 向 励 起 光 強 度 、作 動・停 止 利 得 、有 効 NF は そ れ ぞ れ 、30.5dBm 、 29.8dB 、- 3.3dB と な り 、Ge-SMF に た い し て は 、そ れ ぞ れ 、30.0dBm 、29.2dB 、 - 3.4dB と な っ た 。 EDFA よ り も 高 い DRA の 利 得 に よ り 、 無 中 継 最 大 伝 送 距 離 は PSCF に 対 し て 404km 、 Ge-SMF に 対 し て 304km と 伸 長 で き る こ と を 明 ら か と し 、 PSCF の 優 位 性 が 示 せ た 。 以 上 に よ り 、低 損 失 ・ 低 非 線 形 性 PSCF に よ る 無 中 継 光 伝 送 シ ス テ ム の 最 大 距 離の伸張への貢献を明らかにすることができた。 Table 2.4 The fiber parameters for the low loss PSCF and a conventional Ge-SMF as a reference PSCF 0.148 118 Loss at 1570 nm [dB/km] Aeff [μ m2] 341 256 With With Ge-SMF 0.196 83 Ge-SMF PSCF EDFA E DFA 304 With 404 DRA With DRA 200 250 300 350 Distance (km) 400 Fig. 2.4 Maximum transmission distance 25 450 2.5 2.5.1 光伝送損失への信頼性に関する検討 放 射 線 施 設 光 シ ス テ ム に お け る PSCF の 信 頼 性 評 価 に 関 す る 検 討 (a) 照 射 実 験 の 方 法 と 結 果 2つの型式の単一モード光ファイバがγ線照射実験に供された。1つは純粋石 英 コ ア / 弗 素 添 加 ク ラ ッ ド フ ァ イ バ PSCF で あ り 、も う 1 つ は Ge 添 加 コ ア / 純 粋 石 英 ク ラ ッ ド フ ァ イ バ の Ge-SMF で あ る 。表 2.5 に フ ァ イ バ 構 造 パ ラ メ ー タ を 示 す ( 両 フ ァ イ バ の 構 造 パ ラ メ ー タ は 表 の 値 に 揃 え た )。こ れ ら フ ァ イ バ は γ 線 照 射 室 にて 6 0 Co を 線 源 に γ 線 を 照 射 し た 。照 射 線 量 率( 第 1 章 1.3 節 に 注 釈 あ り )を 10 2 R/h か ら 10 6 R/h と し た 。 照 射 中 、 損 失 増 加 量 は 連 続 計 測 さ れ た 。 入 射 光 強 度 は 20nW で 、 波 長 は 1.3 μ m と し た 。 照 射 フ ァ イ バ 長 は 線 量 率 に よ り 増 加 損 失 に あ わ せ て 測 定 ダ イ ナ ミ ッ ク レ ン ジ を 考 慮 し 、 30 - 100m で 調 整 し た 。 さ ら に 速 中 性 子 線 ( 中 性 子 線 の う ち 、 一 般 的 に 0.5MeV 以 上 の 大 き な 運 動 エ ネ ル ギ ー を 持 つ も の を 言 う ) の 照 射 試 験 に お い て 14MeV 中 性 子 線 に よ る 照 射 を こ れら2種類のファイバに対して実施した。中性子線による伝送損失増加とγ線に よるそれを比較するために、照射エネルギーをあわせた照射試験を実施した。照 射 時 間 は 速 中 性 子 線 、γ 線 照 射 と も に 3.5h と し た 。速 中 性 子 束 は 1.5 × 10 1 4 n/cm 2 ( 中 性 子 束 : 単 位 面 積 を 毎 秒 通 過 す る 中 性 子 の 数 。 ニ ュ ー ト ロ ン / cm 2 と 呼 ぶ 。) で γ 線 線 量 は 3 × 10 5 R と し た 。 γ 線 照 射 結 果 を 図 2.5 に 、 中 性 子 線 照 射 結 果 を 図 2.6 に 示 す 。 ま た 表 2.7 に γ 線、速中性子線による光伝送損失増加量の比較を示す。 Table 2.5 Structural parameters of single mode fibers Core diameter 8.5 μm Outer diameter 125 μm Relative refractive index difference 0.3% LP11 cut-off wavelength 1.20 μm Mode field diameter 9.5 μm Zero dispersion wavelength 1.30 μm 26 Induced loss [ dB/km at 1.30 μm ] h (a) PSCF h h h h Induced loss [ dB/km at 1.30 μm ] Total dose [ R ] (b) Ge-SMF h h h h Total dose [ R ] Fig. 2.5 γ-ray irradiation characteristics 27 Induced loss [dB/km at 1.30 μm ] Ge-SMF PSCF Time [ h ] Fig.2.6 Neutron irradiation characteristics 28 Table 2.6 Comparison of neutron and γ -ray induced loss (at 1.30μm) (b) γ 線 、 中 性 子 線 照 射 特 性 評 価 図 2.5 に 示 す γ 線 照 射 結 果 か ら γ 線 に 対 す る PSCF の 光 伝 送 損 失 信 頼 性 に 対 す る優位性が明確化された。 ま た 図 2.6 に 示 す 中 性 子 線 照 射 に 対 し て も PSCF の 光 伝 送 損 失 信 頼 性 に 対 す る 優位性が明確化された。 中性子線によって引き起こされる伝送損失増加機構はγ線のそれとは異なるも の と 考 え ら れ る が 、 し か し な が ら 同 一 照 射 エ ネ ル ギ ー 下 で 比 較 し た 場 合 、 表 2.6 に 示 す よ う に 、 Ge-SMF は 中 性 子 線 誘 起 伝 送 損 失 増 加 量 が γ 線 の そ れ の 2 倍 以 上 と 明 ら か な 大 き さ の 違 い を 示 し た も の の 、 PSCF に つ い て は ほ ぼ 同 じ 損 失 増 加 量 を示した。純粋石英コアの示すこの現象は大変興味深い結果であり、従来に報告 例 は 無 い 。 PSCF に つ い て γ 線 の み な ら ず 中 性 子 線 に つ い て も 大 き な 優 位 性 が 示 された。今後、中性子線誘起損失増加について機構の解明に注目が集まるであろ う 。結 果 か ら 、増 加 損 失 は 回 復 は す る も の の 非 可 逆 性 の も の で あ る と 考 え ら れ る 。 29 (c) γ 線 低 線 量 率 ・ 長 期 照 射 条 件 下 で の 寿 命 推 定 方 法 の 確 立 低 線 量 率 下 で の 寿 命 推 定 の 信 頼 性 は 、実 験 で 得 ら れ た 高 線 量 率 、短 時 間 照 射 の 結果を分析し、如何に高精度に低線量率、長時間領域へ外挿するかによる。照射 誘起光伝送損失は照射総線量のみならず線量率にも依存するという難問を抱える。 こ れ は 図 2.5 に お け る 照 射 実 験 結 果 に も 明 ら か に 示 さ れ て い る 。 そ こ で 、 本 研 究 に お い て 損 失 増 加 量 を 推 定 す る た め に 、 損 失 増 加 量 の 照 射 総 線 量 比 (δ )の 使 用 を 試みた。 δ は 式 (1) で 定 義 さ れ る 。 δ=Δα/D (1) δ : 損 失 増 加 量 の 照 射 総 線 量 比 [dB/km R] Δ α : 照 射 誘 起 光 伝 送 損 失 増 加 量 [dB/km at 1.3 μ m] D : 照 射 総 線 量 [R] δ の 時 間 と 線 量 率 の 依 存 性 を そ れ ぞ れ 図 2.7 、図 2.8 に 示 す 。 図 2.7 、 図 2.8 に お い て 、 log δ の log(time) と log(dose rate) に 対 す る 依 存 性 の 存 在 が 確 認 で き た 。 このことから、δを低線量率、長時間領域(実際のシステム使用期間を想定した 年オーダーの時間領域)に実験で得た100時間までの明確な時間依存性結果に 基 づ い て 外 挿 す る こ と に よ り 、 低 線 量 率 、 長 時 間 ( 例 : 2 5 yr : 一 般 的 な ケ ー ブ ル 保 障 寿 命 ) の 損 失 増 加 量 が 図 2.9 に 示 す よ う に 推 定 で き る ( 損 失 増 加 量 は Δ α = δ × D と し て 算 出 で き る )。 表 2.7 に 1R/h × 25yr の γ 線 照 射 後 の PSCF と Ge-SMF の 損 失 増 加 量 を 示 す 。 こ の 結 果 か ら PSCF の 放 射 線 環 境 下 に お け る 長 期 信 頼 性 が 確 認 で き た 。 30 R/ h 3 h R/ 4 10 h R/ 10 5 Log δ [×106 dB/km/R] 2 10 10 - h R/ 6 10 h R/ - - Log t [h] Fig.2.7 Time dependence of δ (PSCF) 31 Log δ [×106 dB/km/R] 102h 103h 104h 2.19×105h ( 25yr ) Log dose rate [R/h] Fig.2.8 Dose rate dependence of δ(PSCF) 32 102R/h Induced loss [dB/km at 1.30μm] 10R/h 1R/h After 25 yr Total dose [R] Fig.2.9 Estimation of induced loss after 25year (PSCF) 33 Table 2.7 Estimated loss after 1R/h × 25yr γ -ray irradiation (at 1.30 μ m) 2.5.2 光 増 幅 用 フ ァ イ バ の 耐 H2・ γ 線 特 性 と 長 期 寿 命 推 定 法 の 確 立 Er 添 加 フ ァ イ バ 光 増 幅 器 ( EDFA ) 用 光 フ ァ イ バ ( EDF ) の H 2 や 放 射 線 に 対 する影響評価に対する加速試験の結果はこれまでも幾つか報告されている 20,21)。 し か し な が ら 、こ れ ま で の 報 告 で は 、寿 命 推 定 に お い て 、H 2 や 放 射 線 試 験 の 開 始 直後のごく短時間の損失増加立ち上がり現象領域のデータを使用し、その後に移 行する損失増加飽和現象領域のデータを考慮に入れていないものとなっているた め、余りに悲観的な推定が報告されており、それは海底での実使用条件において 長 期 間 に お け る 損 失 の 増 加 量 は 無 視 で き な い と す る も の で あ っ た 。本 項 に お い て 、 よ り 高 精 度 な 推 定 法 を 見 出 し 、 加 え て EDF に 増 幅 効 率 を 上 げ る た め に 添 加 さ れ る Al の 添 加 量 の 影 響 も 明 確 化 さ せ る こ と に 成 功 し て 、 結 果 的 に 海 底 で の 長 期 信 頼性に問題のないことを明らかとした。以下にその検討結果を詳述する。 34 (a) 耐 水 素 特 性 に 関 す る 検 討 Er 添 加 光 フ ァ イ バ は H 2 試 験 に よ り 、 1.43 μ m に OH 吸 収 の 成 長 が 生 じ る 。 図 2.10 に お い て 80 ℃ 、 100 ℃ 、 120 ℃ 中 で 1 atm の H 2 に 浸 漬 し た 時 の 1.43 μ m の OH 吸 収 に よ る 光 伝 送 損 失 増 加 量 を 対 数 ス ケ ー ル で 浸 漬 時 間 の 関 数 と し て 表 記 し た 。図 2.10 で の そ れ ぞ れ の 損 失 増 加 量 は 十 分 な 浸 漬 時 間 経 過 後 は ど れ も 直 線 で 補 間 で き る 。例 え ば 、1wt% の Al 添 加 EDF に 対 し て は 、OH に よ る 損 失 増 加 量 Δ α OH は 式 ( 2 ) で 表 せ る 。 ⎛ 5 . 54 [ kcal / mol ] ⎞ 0 . 3 χ Δ α OH = 4 . 5 ×10 4 exp ⎜ − ⎠ t p [ dB / km ] RT ⎝ (2) こ こ で R は 気 体 定 数( 1.987cal/( mol × deg ))、T は 絶 対 温 度 、t は 水 素 浸 漬 時 間 、 p は H 2 分 圧 、χ は H 2 分 圧 依 存 性 を 示 す 。式 (2) に 、従 来 よ り 知 ら れ て い る 水 素 分 圧 依 存 性 χ =0.5 2 2 ) を 用 い る こ と に よ り 、 海 底 実 使 用 条 件 下 で の 損 失 増 加 量 を 予 測 す る こ と が で き る 。 式 ( 2 ) か ら 求 ま る 1.43 μ m の OH 吸 収 損 失 増 加 量 と 、 OH 吸 収 損 失 が 1.55 μ m へ 与 え る 影 響 率( 1.55 μ m 損 失 増 加 量 / 1.43 μ m 損 失 増 加 量 = 0.26 ( 実 験 値 )) か ら 1.55 μ m に お け る 損 失 増 加 量 を 求 め る こ と が で き る 。 以 上 の 結 果 の 一 例 と し て Al1wt% の EDF に つ い て 、 2 5 yr 、 4 0 ℃ 、 H 2 分 圧 0.001atm の 条 件 下 で 使 用 し た 場 合 の 波 長 1.55 μ m で の 損 失 増 加 量 は シ ス テ ム で の 一 般 的 使 用 長 20m に 対 し て 0.04dB と わ ず か で あ り 、シ ス テ ム に 問 題 を 及 ぼ さ ない損失範囲内にあることが確認できた。 35 Induced loss at 1.43μm [dB/km] 103 102 10 1 10 102 103 Exposure time [h] Fig.2.10 Time dependence of loss increase at 1.43 μ m for Er-doped fibers with various Al-content levels exposed to 1-atm H 2 at high temperature 36 (b) 耐 放 射 線 特 性 に 関 す る 検 討 検 討 (a) 項 と 同 じ 3 種 類 の 同 フ ァ イ バ を 1 9 h の 照 射 時 間 、 15 、 10 2 、 10 3 R/h 、 の照射線量率でγ線を照射し、照射後の損失回復特性の評価も含め損失増加量を 測 定 し た 。そ の 結 果 を 図 2.11 に 示 す 。損 失 増 加 量 測 定 波 長 は 1.3 μ m と し た 。こ れ は Er の 波 長 1.5 μ m 帯 の 吸 収 損 失 が 大 き い た め 1.55 μ m で は 測 定 で き な い た めである。 図 2.11 か ら 明 ら か な よ う に 、 損 失 増 加 は 回 復 成 分 と 非 回 復 成 分 か ら な り 、 10 2 R/h 以 下 の 照 射 線 量 率 に お い て 生 成 さ れ る 損 失 増 加 は 非 回 復 成 分 の み で 構 成 されており、これは照射総線量にのみ依存して線量率には依存しないことを見出 した。 図 2.12 に Al1wt% の EDF に 対 し て 非 回 復 損 失 と 照 射 線 量 の 関 係 を 示 す 。海 底 環境 5)に お い て 存 在 す る よ う な 極 低 放 射 線 量 率 に お い て 長 期 間 照 射 し た 場 合 の 損 失 増 加 量 が 図 2.12 の 関 係 か ら 求 め ら れ る 。 従 来 の 報 告 は 非 回 復 成 分 の み な ら ず 、 回復成分までも含めた方法で損失増加を見積もっていたため、悲観的に起こり得 ない最悪の場合を想定した精度の悪さが欠点としてあったが、本研究では海底で の極低線量率環境で考慮しなければならない非回復成分のみを使用して、損失増 加 推 定 を す る こ と で 精 度 の 高 い 損 失 増 加 量 の 見 積 方 法 の 確 立 に 成 功 し た 。Al の 影 響 に 関 し て 、 図 2.11 に 示 す よ う に (a) 項 で 述 べ た 耐 水 素 特 性 と 同 傾 向 を 示 す こ と でわかる。 EDF の 増 幅 特 性 に 対 す る 放 射 線 の 影 響 を 評 価 す る た め に 、 Al1wt% の EDF の 照 射 前 後 の 利 得 特 性 を 評 価 し た 。1.48 μ m 、35mW 励 起 条 件 で 1.55 μ m に て 33dB の 利 得 を 照 射 前 に 確 認 し た 。図 2.12 に 照 射 に よ る 利 得 劣 化 特 性 を 示 す 。海 底 で の 最 悪 条 件 と し て 見 積 も れ る 0.4R/yr × 25yr 5 ) の 条 件 で 、利 得 劣 化 は 0.3dB と 少 な く 、 実用上の問題の無さを証明することに成功した。 37 Induced loss at 1.3μm [dB/km] Time [h] Fig.2.11 Time dependence of loss increase at 1.3 μ m for Er-doped fibers with various Al-content levels exposed to γ -rays at dose rates of 15,10 2 , and 10 3 R/h 38 Induced loss at 1.3 μm [dB/km] Gain degradation [dB] 10 102 103 104 105 Total dose [R] Fig.2.12 Total-dose dependence of loss increase and gain degradation of Er-doped fibers after exposed to γ -rays 39 2.6 まとめ 本章では低損失、高耐環境性という石英ガラスの二大特性に焦点をあて、通信 用石英ガラス光ファイバの極限的光低伝送損失の実現と放射線を中心とした耐環 境 性 能 評 価 手 法 の 確 立 に つ い て 述 べ た 。以 下 に 本 研 究 で 明 ら か に な っ た 点 を 示 す 。 1) 純 粋 石 英 コ ア 型 光 フ ァ イ バ の 設 計 ・ 製 造 の 最 適 化 に よ り 、 1986 年 か ら 16 年 間 更 新 さ れ な か っ た 光 フ ァ イ バ の 極 低 損 失 値 記 録 0.154dB/km を 更 新 す る こ と に 成 功 し 、 0.148dB/km と い う 極 低 損 失 記 録 を 樹 立 し た 。 2) 低 損 失 光 フ ァ イ バ の 利 点 を 最 大 限 引 き 出 し 得 る 適 応 例 の 一 つ に 無 中 継 光 伝 送 シ ステムが考えられる。本研究にて低損失・低非線形性純粋石英コア型光ファイ バ と 前 置 増 幅 器 に 後 方 向 励 起 分 布 型 Raman 増 幅 器 を 用 い た 無 中 継 光 伝 送 シ ス テムの無中継可能伝送距離について模擬計算を実施した結果、最大無中継距離 は 従 来 型 汎 用 フ ァ イ バ の 限 界 距 離 304km に 対 し て 、 404km ま で 伸 張 で き る こ とを明らかとし、低損失・低非線形性純粋石英コア型光ファイバの優位性を示 した。 3) 光 フ ァ イ バ シ ス テ ム の 放 射 線 施 設 な ど で の 適 用 に 対 し て 、 γ 線 の み な ら ず 、 従 来報告例の無い中性子線に対する影響をも明らかとした。また、放射線施設で の 通 信 用 光 フ ァ イ バ の 設 置 環 境 は 低 線 量 率・長 期 間( 例:1R/h × 25yr )で あ り 、 今 回 、 損 失 増 加 量 Δ α を 照 射 総 線 量 D で 除 し た δ = Δ α /D と 線 量 率 、 照 射 時 間の依存性を明確化し、その推定法を確立した。そしてこの方法を用いて純粋 石英コア型の放射線環境での優位性を示した。 4) 低 損 失 光 フ ァ イ バ PSCF は 海 底 光 ケ ー ブ ル シ ス テ ム に 広 く 導 入 さ れ 、Er 添 加 フ ァ イ バ 光 増 幅 器 ( EDFA ) と 併 せ て 長 距 離 海 底 光 シ ス テ ム と し て 敷 設 さ れ 、 光 増 幅 用 Er 添 加 コ ア 光 フ ァ イ バ に つ い て も 併 せ て 信 頼 性 の 評 価 が 必 要 と な る が これを精度良く評価できる手法の報告例はこれまでなかった。本研究では光増 幅 用 Er 添 加 コ ア 光 フ ァ イ バ に つ い て の 耐 環 境 長 期 信 頼 性 評 価 手 法 を 確 立 し 、 40 その信頼性に問題が無いことを明らかとした。 41 第2章の参考文献 [1] K.Nagayama, M.kakui, M.Matsui, T.Saitoh and Y.Chigusa, “Ultra-low-loss(0.1484dB/km)pure silica core fiber and extension of transmission distance”, Electronics letters, Vol.38, No.20, pp.1168-1169,26 th September(2002). 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Characteristics of Water-free PSCF Water-Free Conventional ITU-T PSCF G.652.D fiber G.652.D Item Nominal: 8.6-9.5, MFD at 1310nm [μm] 8.53 9.19 Tolerance: +/- 0.7 Cable cut-off 1170 1174 Max: 1260 0.289 0.330 Max: 0.4 0.247 0.305 wavelength [nm] Loss at 1310nm *1 [dB/km] Loss at 1383nm Under [dB/km] loss 1310nm value *1,*2 Loss at 1550nm 0.170 0.187 Max: 0.3 0.03 0.16 - 1318 1313 1300-1324 0.079 0.086 Max: 0.093 0.03 0.03 *1 [dB/km] Bending loss at 1550nm (R15mm*10turns) [dB/m] Zero-dispersion wavelength [nm] Zero-dispersion slope [ps/km/nm 2 ] PMD [ps/rt-km] *1: cabled *2: post-hydrogen *3: link design value 51 Max: 0.20 *1, *3 3.3 3.3.1 耐 H2 特 性 へ の 影 響 に 関 す る 検 討 室 温 条 件 下 に お け る 耐 H2 特 性 の 優 位 性 検 証 供 試 フ ァ イ バ の 屈 折 率 形 状 と 初 期 特 性 は そ れ ぞ れ 図 3.1 、 表 3.1 に 記 載 し た 。 耐 H 2 特 性 評 価 試 験 条 件 と し て 、 供 試 フ ァ イ バ を 室 温 、 1 atm の H 2 雰 囲 気 内 で 4 dy 間 放 置 状 態 に 置 い た 。 こ の 条 件 は フ ィ ー ル ド に お け る 典 型 的 な H2 条 件 、 H2 分 圧 0.0004atm ×2 5 yr の 光 フ ァ イ バ シ ス テ ム 運 用 期 間 条 件 に 匹 敵 す る 参考文献 12 ) 。 12) に は 同 条 件 に 対 す る 、 さ ま ざ ま な 製 造 会 社 に よ っ て 作 成 さ れ た さ ま ざ ま な G.652.A,C フ ァ イ バ の 損 失 増 加 特 性 が 報 告 さ れ て い る 。 G.652.A フ ァ イ バ に お い て は 0.1dB/km を 超 え る 大 き な 損 失 増 加 が 生 じ て い る 。 そ し て G.652.C フ ァ イ バ に お い て は 、最 大 損 失 増 加 は 波 長 1383nm 、1440nm そ し て 1530nm に お い て そ れ ぞ れ 、 0.037dB/km 、 0.028dB/km 、 0.013dB/km と 示 さ れ て い る 。 本 研 究 に お け る H 2 試 験 評 価 結 果 を 図 3.3 に 示 す 。 今 回 の 本 研 究 に お け る 試 験 に は 比 較 の た め 従 来 型 の Ge-SMF 型 の G.652.A と 最 新 ITU-T G652 規 格 フ ァ イ バ で あ る G.652.D も H 2 試 験 に 加 え た 。 G.652.D 規 格 は G.652.C 同 様 の 低 OH 吸 収 損 失 仕 様 が 盛 り 込 ま れ て い る こ と に 加 え 、低 PMD 仕 様 が 加 え ら れ て い る が 低 OH 吸 収 仕 様 と い う 点 で は G.652.C と は 変 わ ら な い た め 参 考 文 献 12) と の 比 較 の た め の 供 試 光 フ ァ イ バ と し て は 適 当 と 判 断 で き る 。図 3.3 か ら 明 ら か な よ う に 、低 OH 吸 収 損 失 仕 様 に 設 計 さ れ て い る G.652.D フ ァ イ バ で す ら Ge-SMF 型 フ ァ イ バ は 、 光 フ ァ イ バ シ ス テ ム 運 用 期 間 中 、 E-band に 損 失 増 加 を 引 き 起 こ す こ と が わ か る 。 上 述 の よ う に Ge-SMF 型 フ ァ イ バ は G.652.A,B,C,D 全 て に お い て 現 場 で の 環 境 下 に お い て H 2 に よ る 損 失 増 加 が 発 生 す る の に 対 し 、一 方 、今 回 開 発 し た PSCF 型 G.652.D は H 2 試 験 に て 顕 著 な 損 失 増 加 は 無 く 、 測 定 精 度 ± 0.003dB/km の 範 囲 内 の 変 動 内 に 入 る 程 度 の 高 耐 H2 性 能 を 維 持 で き て い る こ と が わ か る 。 PSCF の 安 定 な 損 失 状 態 は Ge を コ ア に 含 ま な い こ と に 起 因 し て い る と 推 定 で き る 。 し か し な が ら 従 来 の G.652.C,D フ ァ イ バ は Ge-SMF 型 で あ り 、 コ ア に Ge を 含 む 構 造 を と る 。 Ge 添 加 石 英 の 場 合 、 化 学 式 ( 1 ) の よ う に 線 引 誘 起 欠 陥 が 生 成 52 しやすい。 GeO 2 → GeO + 1/2O 2 (1) H 2 分 子 は 酸 素 関 連 欠 陥 と 反 応 し 、波 長 1380nm 、1440nm 、1530nm に 光 吸 収 ピ ークを発現させる。 一 方 、G.652.C,D 仕 様 の 場 合 、OH 量 を 従 来 の G.652.A,B フ ァ イ バ と 比 べ て 極 端 に 低 く 抑 え る 必 要 が あ る た め 、製 造 工 程 上 で 脱 水 工 程 が 強 化 さ れ る 。こ の 脱 水 工 程 の 強 化 に よ り 、 PSCF 型 に お い て も 各 種 欠 陥 が 発 生 す る こ と が 今 回 懸 念 さ れ た が 、 本 結 果 か ら 、 製 造 工 程 の 最 適 化 に よ り SiO 2 本 来 の 安 定 さ を 保 ち そ し て 得 る こ と が できることを明らかにした。 0.20 Conventional G.652A Loss-increase [dB/km] 0.15 0.10 Conventional G.652D 0.05 0 Wate-free PSCF -0.05 1300 1350 1400 1450 1500 1550 1600 1650 Wavelength [nm] Fig.3.3 Hydrogen-induced loss-increase after 4 dy exposure 53 3.3.2 高 温 条 件 下 に お け る 耐 H2 特 性 の 優 位 性 検 証 前 述 の 室 温 条 件 で は PSCF 型 で は 損 失 増 加 が 生 じ な か っ た た め 、耐 H 2 性 能 の 性 能 差 の 大 き さ が ど こ ま で あ る も の か を 明 ら か に す べ く 、 昇 温 条 件 下 で PSCF 型 G.652.D フ ァ イ バ と Ge-SMF 型 G.652.A,D フ ァ イ バ の 耐 H 2 性 能 を 評 価 し た 。 試 験 は H 2 1 atm 、 150 ℃ × 20h の 条 件 下 で フ ァ イ バ を 放 置 す る こ と で 実 施 し た 。 そ の 結 果 を 図 3.4 に 示 す 。 図 3.4 か ら わ か る よ う に 、 Ge-SMF 型 G.652.A,D は 致 命 的 な レ ベ ル の OH 吸 収 の 増 加 と 紫 外 光 領 域 の 吸 収 帯 の 裾 が 観 測 さ れ た 。 Ge-SMF 型 G.652.D の 波 長 1380nm で の 損 失 増 加 は 前 述 の 室 温 で の 評 価 結 果 の 4 0 倍 も の 損 失 増 加 量 と な っ ている。 一 方 、PSCF 型 G.652.D は 同 じ 厳 し い 条 件 下 に お い て も 800nm か ら 1800nm ま での波長領域において、損失劣化は全く観察されなかった。 150 ℃ 程 度 の 高 温 に お け る H 2 誘 起 反 応 の メ カ ニ ズ ム は 室 温 に お け る そ れ と は 全 く 異 な る 。 Ge 添 加 コ ア 光 フ ァ イ バ は H 2 が Ge - O 結 合 を 化 学 式 ( 2 )、( 3 ) 13) の よ う に 攻 撃 す る た め に 耐 H2 性 が 劣 る も の と 考 え ら れ る 。 ≡ Ge − O − Ge ≡ + H 2 → ≡ Ge − H + H − O − Ge ≡ ≡ Ge − O − Si ≡ + H 2 → ≡ Ge − H + H − O − Si ≡ こ こ で 、生 成 さ れ た GeH 、 SiOH 、GeOH は そ れ ぞ れ 、紫 外 光 吸 収 (2) (3) 14 ) 、 1383nm 光 吸 収 そ し て 1410nm 光 吸 収 と 関 係 し て い る と さ れ て い る 。 Si - O 結 合 の Ge - O 結 合 を 上 回 る 安 定 性 は 、 表 3.2 に 示 す 標 準 自 由 エ ネ ル ギ ー 変 化( Δ G )か ら も 理 解 で き る 。表 3.2 か ら SiO 2 は 25kJ/mol 以 上 も の GeO 2 を 超 える安定度を有することがわかる。 先 の 室 温 評 価 の 項 で も 述 べ た が 、 PSCF 型 に お い て も G.652.C,D 仕 様 の 場 合 、 OH 量 を 従 来 の G.652.A,B フ ァ イ バ と 比 べ て 極 端 に 低 く 抑 え る 必 要 が あ る た め 製 造 工 程 上 、脱 水 工 程 が 強 化 さ れ る 。こ の 脱 水 工 程 の 強 化 に よ り 、PSCF 型 に お い て 54 も 各 種 欠 陥 が 発 生 す る こ と が 今 回 懸 念 さ れ た が 、本 結 果 か ら 、製 造 工 程 の 最 適 化 に よ り 150 ℃ 高 温 条 件 下 で さ え も SiO 2 本 来 の 安 定 さ を 保 ち 得 る こ と を 明 ら か に で き た。 Loss increase [dB/km] L o ss-in cre a se , d B /km 3.0 2.0 1.0 0.0 -1.0 800 1000 1200 1400 1600 Wavelength [nm] Wavelength, nm Water-free PSCF Conventional G.652A fiber Conventional G.652D fiber Fig3.4. Hydrogen-induced loss after 20h exposure to 1 atm of H 2 at 150˚C 55 1800 Table 3.2 Standard free energy change of SiO 2 and GeO 2 ΔG [kJ/mol] Temperature [°C] 3.4 Si + O 2 → SiO 2 Ge + O 2 → GeO 2 25 -78.5 -52.1 150 -78.1 -49.7 1500 -59.6 -24.1 広波長帯域無中継通信の検討 広 波 長 帯 域 無 中 継 伝 送 を 可 能 と す る た め に は EDFA の よ う な 単 一 波 長 領 域 光 増 幅 器 は 用 い る こ と は で き ず 、広 帯 域 の 光 増 幅 を 実 現 す る た め に は Raman 増 幅 の 導 入 が 必 須 と な る 。 Ge-SMF 型 G.652.C,D フ ァ イ バ は Ge を コ ア に 含 ん で お り 、 Ge は Raman 増 幅 効 果 を 高 め る 働 き が あ る た め 純 粋 石 英 コ ア を 有 す る PSCF 型 G.652.C,D フ ァ イ バ は こ の 点 に お い て は 不 利 と な る 。 し か し な が ら PSCF 型 G652.C,D に は 純 粋 石 英 が 持 ち 得 る 、低 損 失 性 と 屈 折 率 材 料 分 散 特 性 の 違 い か ら く る設計の自由度が優位点として存在する。 本 項 で は 純 粋 石 英 が 有 す る 課 題 を 純 粋 石 英 が 持 つ 優 位 点 を 持 っ て Ge-SMF 型 G.652.C,D よ り も 高 効 率 の 広 帯 域 波 長 無 中 継 伝 送 が 可 能 で あ り 、広 帯 域 波 長 無 中 継 伝 送 に お い て も Ge-SMF 型 よ り も PSCF 型 の 方 が 優 位 で あ る こ と を 示 す 。 56 図 3.5 に 1450nm 波 長 で 励 起 し た PSCF 型 G.652.D フ ァ イ バ と Ge-SMF 型 G.652.A,D フ ァ イ バ の Raman 利 得 係 数 gR/Aeff [1/W/km]の 比 較 を 示 す 。 こ こ で Aeff [μm2]は励起波長でのコア効果領域を表す。gR は Raman 利得を表し、一般的にコアの添加剤 に依存し、PSCF 型は Ge-SMF 型と比較して小さい値をとる。しかしながら、一 方 、 純 粋 石 英 コ ア 型 光 フ ァ イ バ は Ge-SMF 型 光 フ ァ イ バ と の 屈 折 率 材 料 分 散 特 性 の 違 い か ら 小 径 MFD に お い て も ゼ ロ 分 散 波 長 を 短 波 長 領 域 に 設 定 す る こ と が 可 能 と な る 優 位 点 が 存 在 し 、 G.652 の 仕 様 範 囲 内 で gR の小さい分を相殺すべく Aeff を小さくする ことが可能となる。その結果、今回試作した表 3.1 に示す設計構造にて PSCF 型の gR/Aeff は 図 3.5 に示すように Ge-SMF 型の G.652.A,D のそれとほぼ同等に設定することができた。そ して最終的には PSCF 型は結果的に低損失という優位点が Ge-SMF 型との差となって Raman 増幅における高性能を発揮できることとなる。 図 3.6 に 1390nm 、 1420nm 、 1450nm の 励 起 波 長 で の Raman 増 幅 の 性 能 指 数 Figure-of-merit of Raman, FOM_r [1/W/dB] = gR/Aeff/αP 15) を示す。ここでαP [dB/km] は励起波長での光ファイバの伝送損失を示す。PSCF 型 G.652.D ファイバは Ge-SMF 型 G.652.D よりも各励起波長にて10%以上高い FOM_r を実現することに成功した。これは Raman 増幅において10%以上の高効率性を意味する。 さらには、本研究にて、S-band 増幅16)や、2次遠隔増幅17)に用いられる 1390nm 励起 波長の場合においても、OH 吸収ピークの除去により PSCF 型 G.652.D の FOM_r は、 G.652.A ファイバよりも50%以上もの高効率化に初めて成功した。 57 1650 Fig.3.5 Raman gain coefficient of water-loss-free PSCF with 1450nm pumping 58 2.4 Water-free PSCF FOM_r [1/W/dB] 2.2 2.0 1.8 1.6 Conventional 1.4 G.652D fiber Conventional G.652A fiber 1.2 1.0 1380 1400 1420 1440 Pump wavelength [nm] 1460 Fig.3.6. Figure-of-merit in Raman amplification of water-free PSCF 59 3.5 まとめ 本 章 で は ITU-T 規 格 G.652.C,D に 対 し て 全 適 合 の 低 OH 吸 収 純 粋 石 英 コ ア 型 単 一 モ ー ド 光 フ ァ イ バ の 開 発 と シ ス テ ム 運 用 期 間 中 、必 須 の 要 件 と な る そ の 耐 H 2 性 能 を中心に述べた。以下に本研究で明らかになった点を示す。 1)脱 水 プ ロ セ ス を 中 心 と し た 製 造 方 法 の 最 適 化 に よ り 、 従 来 達 成 で き な か っ た 、 ITU-T 規 格 G.652.C,D 仕 様 全 準 拠 、 低 OH 吸 収 広 帯 域 低 損 失 純 粋 石 英 コ ア 光 フ ァ イ バ の 試 作 に 成 功 し 、波 長 1383nm に て 0.247dB/km も の 低 損 失 を 達 成 し た 。 既 に 開 発 さ れ て い る 従 来 型 Ge 添 加 コ ア 光 フ ァ イ バ の 損 失 よ り も 20% 低 い 損 失 が実現できたことを示した。 2) ITU-T 規 格 G.652.C,D 仕 様 の 場 合 、 OH 量 を 従 来 の G.652.A,B フ ァ イ バ と 比 べ て 極 端 に 低 く 抑 え る 必 要 が あ る た め 製 造 上 、脱 水 工 程 が 強 化 さ れ る 。こ の 脱 水 工 程 の 強 化 に よ り 、純 粋 石 英 コ ア 型 に お い て も 各 種 欠 陥 が 発 生 す る こ と が 懸 念 さ れ る た め 、室 温 、高 温 両 面 か ら 詳 細 な 耐 水 素 性 能 を 評 価 し た 。そ の 結 果 、純 粋 石 英 コ ア ガ ラ ス か ら OH 吸 収 を 除 去 す る 脱 水 工 程 の 強 化 を 図 っ て も 、 製 造 工 程 の 最 適 化 に よ り SiO 2 本 来 の 安 定 さ を 保 ち 得 る こ と を 明 ら か に し た 。 3) 広 波 長 帯 域 無 中 継 伝 送 を 可 能 と す る た め に は EDFA の よ う な 単 一 波 長 領 域 光 増 幅 器 は 用 い る こ と は で き ず 、Raman 増 幅 の 導 入 が 必 須 と な る 。本 研 究 に お い て 、 純 粋 石 英 が 持 つ Ge 添 加 石 英 と の 屈 折 率 材 料 分 散 特 性 の 違 い か ら く る 設 計 の 自 由 度 を 生 か して Raman 効果を上げる設計を施し、加えて秀でた低損失性を生かすことで従 来の Ge 添加コア型ファイバ対比10%以上の高効率 Raman 増幅の実現性と、さらには、 S-band 増幅や、2次遠隔増幅に用いられる波長 1390nm 励起の場合においても、50% 以上の高効率 Raman 増幅の実現性を示した。 60 第3章の参考文献 [1] Jason, J., Ericsson, T. K., and Arvidsson, B.: ‘Hydrogen ageing performance of various fiber types under different ageing conditions’, Proc. IWCS/Focus2003, pp.75-81(2003). [2] Chang, K. H., Kalish, K., and Pearsall, M. L.: ‘New hydrogen ageing loss in the 1400 nm window’, Proc. OFC’99, PD22(1999). [3] P.J.Lemaire, “Reliability of optical fibers exposed to hydrogen : prediction of long-term loss increases “ Opt.Eng.Vol.30 No.6 pp.780-789 June (1991). [4] K. Noguchi, N. Uesugi, and K. Ishihara, “Hydrogen quantity generated from optical-fibre coating,” Electron. Lett., vol. 20, pp. 897-898, Oct. (1984). [5] Y. Mitsunaga, T. Kuwabara, T. Abe, and Y. Ishida, “Molecular hydrogen behaviour for loss increase of silica fibre in cable filled with water,” Electron. Lett., vol. 20, pp. 76-78, Jan. (1984). [6] H. Kanamori, H. Yokota, G. Tanaka, M. Watanabe, Y. Ishiguro, I. Yoshida, T. Kakii, S. Itou, Y. Asano and S. Tanaka, ‘Transmission Characteristics and reliability of pure silica core single mode fibres” Journal of Lightwave Technology, Vol. LT-4, No. 8,pp.1144-1150, August (1986). [7] E. Nazuka, Y. Ogi, K. Shimizu, T. Tanabata, A. Nagai, Y. Yamazaki, H. Yamamoto, and H. Homma, “OS-560M optical submarine cable system,” Proc. Suboptic1993, pp. 265-270, (1993). [8] J. -P. Blondel, E. Brandon, L. Labrunie, P. Le Roux, D. Toullier, and G. Zarris, “Error-free 32 x 10 Gbit/s unrepeatered transmission over 450km,” Proc. ECOC’99, PD2-6, (1999). [9] H. Sugahara, M. Morisaki, T. Ito, K. Fukuchi, and T. Ono, “9,000-km transmission of 32 x 42.7 Gb/s dense-WDM signals using 195-μm 2 -A e ff fiber and inverse double-hybrid span configuration,” Proc. OAA2002, PD3, (2002). [10] E. Sasaoka, T. Yokokawa, Y. Koyano, K. Fujimoto, and M. Onishi, “Ultra low 61 loss dispersion flattened hybrid transmission line for transoceanic multi-terabit transmission systems,” Proc. Suboptic2004, Poster We 13.6, (2004). [11] Y.Chigusa, Y.Yamamoto, T.Yokokawa, T.Sasaki, T.Taru, M.Hirano, M.Onishi and E.Sasaoka, “ Low-loss Pure-Silica-Core Fibers and Their Possible Impact on Transmision Systems,” Journal of Ligthtwave Technology , Vol. 23, No11, pp.3541-3550, [12] Nov.( 2005). Jason, J., Ericsson, T. K., and Arvidsson, B.: ‘Hydrogen ageing performance of various fiber types under different ageing conditions’, Proc. IWCS/Focus2003, pp.75-81(2003). [13] Greene, B. I., Krol, D. M., Kosinski, S. G., Lemaire, P. J., and Saeta, P. N.: ‘Thermal and photo-initiated reactions of H 2 with germanosilicate optical fibers’, J. Non-Cryst. Solids,Vol.168, pp. 195-199(1994). [14] Tomita, A., and Lemaire, P. J.: ‘Observation of a short wavelength loss edge caused by hydrogen in optical fibers’, Proc. ECOC’84, PD1(1984). [15] Y. Qian, J. H. Povlsen, S. N. Knuden, and L. G. Nielsen, “On Rayleigh backscattering and nonlinear effects evaluations and Raman amplification characterizations of single-mode fibers,” Proc. OAA2000, OMD18, pp. 91-93,( 2000). [16] F. Boubal, E. Brandon, L. Buet, S. Chernikov, V. Havard, C. Heerdt, A. Hugbart, W. Idler, L. Labrunie, P. Le Roux, S. A. E. Lewis, A. Pham, L. Piriou, R. Uhel, and J. P. Blondel, “4.16 Tbit/s (104 x 40 Gbit/s) unrepeatered transmission over 135 km in S+C+L bands with 104 nm total bandwidth,” Proc. ECOC’01, Mo.F.3.4, pp. 58-59, (2001). [17] L. Labrunie, F. Boubal, P. Le Roux, and E. Brandon, “500 km WDM 12 x 10 Gbit/s CRZ repeaterless transmission using second order remote amplification,” Electron. Lett., vol. 39, pp. 1394-1395, Sep.( 2003). 62 第4章 高 耐 曲 げ 性 光 フ ァ イ バ の 開 発 と FTTx 細径・軽量光ケーブルの実現に関する検討 4.1 はじめに 近年のインターネットの容量拡大の要求に伴い、光ファイバによる伝送方式が 拡 大 基 調 に あ る 。そ う い っ た な か で 、光 フ ァ イ バ の 耐 曲 げ 損 失 性 が FTTx(Fiber To The Home, Fiber To The Premise, Fiber To The Desk, 他 ) の よ う な ア ク セ ス ネ ットワークや屋内応用設計にとって非常に重要な要素を占めている。最近ではル ースチューブケーブル(側圧による光ファイバの伝送損失を防ぐために、側圧緩 衝用のチューブの中に光ファイバを配置し、それらチューブを複数撚り合わせて ケーブル化する形態のケーブル)の細径化や軽量化が強く求められ重要な開発要 素として要請が強い。特に空気圧送技術を使ったマイクロダクトケーブル(敷設 された管路に空気ジェットの力でケーブルを圧送挿入していくために使用される 形態のケーブル)や非常時緊急用ケーブルなどを含めた空気圧送応用が注目され ている 1 - 9 )。 さらにこれらのケーブルシステムには、言うまでも無く製造工程中やシステム 運用開始後においても、長期間にわたり、低伝送損失と安定した伝送損失状態を 保つ必要がある。 従来のルースチューブケーブルを細径化、軽量化するには、側圧緩衝チューブ の寸法削減と強度補強ケーブル芯構成材の軽量化が必要となる。しかしながら、 こ れ ら を 実 現 す る に は 、圧 縮 応 力 が か か っ た と き の 光 フ ァ イ バ 曲 げ 損 失 の 増 加 や 、 低温でのケーブル収縮による光ファイバ曲げ損失などを考慮して開発する必要が ある 1 0 )。 ま た 、 現 在 FTTx に 用 い ら れ る 光 フ ァ イ バ は 国 際 規 格 ( ITU-T ) で そ の 仕 様 規 格 ( G.652 ) が 決 め ら れ て お り 、 そ の 仕 様 範 囲 内 で ル ー ス チ ュ ー ブ ケ ー ブ ル の 細 63 径化、軽量化を実現し得る耐曲げ性に強い光ファイバを実現させる必要がある。 光ファイバの屈折率構造設計には単純な構造のステップインデックス型と複雑な ディプレスト型構造があり、曲げに強くかつ単一モード構造を保つためにはディ プレスト型構造が有利であるが、構造の複雑さ故に、ステップインデックス型で の実現が望まれていた。 今 回 、こ れ ら 難 題 に 対 し て 、純 粋 石 英 コ ア か ら な る 光 フ ァ イ バ の 構 造 を 用 い て 、 従 来 の Ge を コ ア に 添 加 し た 光 フ ァ イ バ で は 実 現 し 得 な か っ た 光 フ ァ イ バ 製 造 上 単純さが求められる屈折率設計構造としてステップインデックス型構造での細径 MFD の 実 現 に 成 功 し 、 こ れ を 用 い て 、 従 来 報 告 例 の 無 い 細 径 ・ 軽 量 ル ー ス チ ュ ーブケーブルの開発に成功した 11 )。 本 章 で は こ の ス テ ッ プ イ ン デ ッ ク ス 型 極 小 MFD 光 フ ァ イ バ の 設 計 と フ ァ イ バ 特 性 そ し て 開 発 し た FTTx 用 細 径 ・ 軽 量 光 ケ ー ブ ル の 特 性 に つ い て 詳 述 す る 。 本 節 (4.1) に 続 き 、4.2 節 で は 耐 曲 げ 特 性 に 対 す る 最 適 設 計 の 検 討 に つ い て 述 べ 、 4.3 節 で は PSCF の 曲 げ 径 と 光 伝 送 損 失 特 性 に つ い て 、4.4 節 で は 光 ケ ー ブ ル 外 径 の 細 径 化 に 関 す る 検 討 に つ い て 述 べ る 。 4.5 節 で 本 章 の 要 約 を 行 う 。 4.2 耐 曲 げ 特 性 に 対 す る 光 フ ァ イ バ 構 造 最 適 設 計 の 検 討 よ り 小 さ い MFD は よ り 低 い 光 フ ァ イ バ 曲 げ 損 失 を 実 現 し 得 る 。 そ し て ITU-T 規 格 G.652 は MFD の 下 限 値 を 伝 送 波 長 1.31 μ m に お い て 8.6 μ m と 規 定 し て い る 。し か し な が ら 、従 来 の Ge 添 加 コ ア 型 の G.652 光 フ ァ イ バ は G.652 仕 様 を 全 て 満 た し な が ら ス テ ッ プ イ ン デ ッ ク ス 屈 折 率 コ ア 構 造 で 伝 送 波 長 1.31 μ m に お い て 8.6 μ m も の 小 さ な MFD を 実 現 す る こ と は 不 可 能 で あ っ た 。こ れ は 小 径 MFD を 有 す る Ge 添 加 コ ア 型 光 フ ァ イ バ は 零 分 散 波 長 が 長 く な る た め 、 G.652 下 限 の MFD8.6 μ m と し た 場 合 に 、 G.652 規 定 の 零 分 散 波 長 の 上 限 を 超 え て し ま う た め である。 一 方 、 純 粋 石 英 コ ア 型 光 フ ァ イ バ は 小 径 MFD に お い て も 零 分 散 波 長 を 短 波 長 領 域 に 設 定 す る こ と が 可 能 で あ り 、 MFD8.6 μ m に お い て も 零 分 散 波 長 G.652 規 64 格 値 の ほ ぼ 中 央 領 域 に 設 定 で き る 。 こ れ は そ の 純 粋 石 英 の 屈 折 率 材 料 分 散 が Ge を添加した単一モード光ファイバのそれとは異なるために発生する現象であり、 それがこの利点を実現させ得る。 今 回 の 研 究 に よ り 、伝 送 波 長 1.31 μ m に お い て MFD8.6 μ m で 、G.652 規 格 全 てを満たす、純粋石英コア単一モード光ファイバの試作に初めて成功した。 図 3.1( 第 3 章 3.2 節 ) に 今 回 開 発 し た 純 粋 石 英 コ ア 型 単 一 モ ー ド 光 フ ァ イ バ の 屈折率構造を示す。クラッド屈折率のコア屈折率に対する比屈折率差Δn は 0.39 % と 、従 来 型 の そ れ よ り も 少 し 高 く 設 計 さ れ て い る 。コ ア 構 造 は G.652 規 格 を 全 て 満 た し な が ら 、曲 げ 損 失 特 性 を 改 善 す る た め に 、伝 送 波 長 1.31 μ m で G.652 の 下 限 MFD 値 8.6 μ m に 設 計 し た 。 4.3 G.652.D 規 格 準 拠 純 粋 石 英 コ ア 光 フ ァ イ バ の 曲 げ 径 と 光 伝 送 損 失 特 性 低 曲 げ 損 失 化 最 適 構 造 設 計 検 討 か ら 第 4.2 節 に お い て 決 定 し た 最 適 設 計 仕 様 に 基 づ き 、 今 回 試 作 し た 純 粋 石 英 コ ア 単 一 モ ー ド フ ァ イ バ の 曲 げ 損 失 特 性 を 図 4.1 に 示 す 。純 粋 石 英 コ ア 単 一 モ ー ド フ ァ イ バ は よ り 小 さ な MFD に て 、従 来 型 の Ge 添加コア単一モードファイバよりも小さな曲げ径においてさえ低い曲げ損失を実 現 で き て い る こ と が わ か る 。 具 体 的 な 数 値 で 比 較 し て み る と 、 15mm の 曲 げ 半 径 に お い て 1550nm 波 長 に て 0.03dB/m が 実 現 で き て お り 、こ れ に て 従 来 型 の G.652 に比べて1/5の値と言う、驚異的な低曲げ損失の実現に成功を収め得た。これ は 純 粋 石 英 の 屈 折 率 材 料 分 散 の Ge 添 加 石 英 と の 違 い を 生 か す こ と で 、 零 分 散 波 長 を ITU-T.G.652 規 格 の 零 分 散 波 長 規 格 領 域 の ほ ぼ 中 央 領 域 に 設 定 し つ つ 、伝 搬 光 の コ ア 内 へ の 閉 じ 込 め 強 化 を 図 る MFD 小 径 化 を ITU-T.G.652 規 格 の MFD 規 格 下 限 の 8.6 μ m に 設 定 実 現 で き た こ と に よ り 、従 来 型 の Ge 添 加 コ ア で は 実 現 不 可能な範囲の伝搬光のコアへの閉じ込めの強化が図れたためである。 高 耐 曲 げ 性 能 は FTT x の よ う な ア ク セ ス ネ ッ ト ワ ー ク や 、容 易 な 操 作 性 、柔 軟 なワイヤリング、高密度収納が求められる室内応用、そして顕著な損失増加を生 じさせない容易なケーブル製造工程の実現へと導く。 65 Bending loss at 1550nm [dB/m] Bending loss @1550nm [dB/m] 1000 100 Conventional G.652 10 1 0.1 The newPSCF 0.01 0.001 0.0001 0.00001 0 5 10 15 20 Bending radius [mm] Bending radius [mm] 25 Fig.4.1 Bending loss of fabricated pure silica core single mode fiber 66 4.4 光 ケ ー ブ ル 外 径 の 細 径 化 に 関 す る 検 討 4.4.1 細径化に対する最適構造の設計 低温での損失増加は側圧緩衝チューブ内の初期ファイバ位置とケーブル収縮量 の 両 者 の 関 数 で 表 さ れ る 5 )。 ケ ー ブ ル 収 縮 に 従 っ て 、 側 圧 緩 衝 チ ュ ー ブ 長 対 比 で 生じるファイバ余長がまず外側に移動することによってファイバが側圧緩衝チュ ーブの壁に接触するまで増加し、その後続いて、側圧緩衝チューブ内で捻れが生 じる。 図 4.2 に 4.3 項 で 述 べ た 純 粋 石 英 コ ア G.652 規 格 準 拠 光 フ ァ イ バ と 、従 来 型 Ge 添 加 コ ア G.652 規 格 準 拠 光 フ ァ イ バ に お け る 、ケ ー ブ ル 圧 縮 に よ り 生 じ る 光 フ ァ イ バ の 曲 げ 損 失 の 計 算 結 果 を 示 す 。内 径 / 外 径 に 対 応 す る 1.2mm/1.5mm の 側 圧 緩 衝 チ ュ ー ブ に 樹 脂 被 覆 0.25mm 径 ( ガ ラ ス 径 : 125 μ m ) の 光 フ ァ イ バ を 1 2 本 挿 入 し 、そ し て そ の 側 圧 緩 衝 チ ュ ー ブ を 100mm 長 ピ ッ チ で 1.5mm 径 の 強 度 補 強 ケーブル芯構成材の周りに撚り合わされている。 側圧緩衝チューブ内で捻れた光ファイバの位置は次式(式1)に示すサイン曲 線にて近似される。 y=(a/2)×sin(2π z/p) (1) ここで a : サイン曲線の振幅の2倍 p: ピ ッ チ さ ら に 、 サ イ ン 曲 線 の 最 小 半 径 R mi n は下式(2)で記述される。 Rmin = p 2 / (2π 2 a ) = a / (8ε) (2) ここで 67 ε: 次 式 (3)で与 えられる。 ε = (L - p) / p ------ (式 3 ) L: ピ ッ チ ご と の サ イ ン 曲 線 長 上記の条件にて、一つの側圧緩衝チューブに12本の光ファイバが収容され、積 み 重 ね ら れ る と 、 式 2 に お け る パ ラ メ ー タ “ a” は 1.2mm の チ ュ ー ブ 内 径 と 0.25mm の フ ァ イ バ 一 芯 の 差 で あ る 0.95mm 以 下 に 設 定 さ れ る 。側 圧 緩 衝 チ ュ ー ブ 内では、光ファイバは別の光ファイバの上に乗りあがっていると仮定すると、パ ラ メ ー タ “ a” は チ ュ ー ブ の 内 径 1.2mm と フ ァ イ バ 径 の 2 倍 の 差 で あ る 0.70mm に設定される。 ファイバの曲率半径が長手方向に均一に Rmin と仮 定 して、お の お の の 光 フ ァ イ バ 曲 げ 損 失 を 計 算 す る な ら ば 、ε と光 ファイバ曲 げ損 失 の関 係 は図 4.1 と式 2を使 っ て表 せ得 る。 図 4.2 からわかるように、両 者 の光 ファイバも側 圧 緩 衝 チューブ内 で光 ファイバが移 動 し ている間 は光 ファイバ曲 げ損 失 は増 加 していない。 ケーブル圧 縮 が0.16%以 上 になると、側 圧 緩 衝 チューブ内 で光 ファイバの捻 じれが始 まり、従 来 型 G.652 フ ァ イ バ の 曲 げ損 失 はケーブル圧 縮 率 0.32%をもってして曲 げ損 失 の増 加 が始 まり、それはおおよそ- 40℃ におけるケーブル圧 縮 に匹 敵 する。 一 方 、純 粋 石 英 コア型 の G.652 フ ァ イ バ は 0.35% の ケ ー ブ ル 圧 縮 に お い て も 損 失 に 変 化 は な く 、 こ れ は 概 ね - 50℃ に お け る ケ ー ブ ル 圧 縮 率 に 相 当 す る 。 故 に 、 1550nm で お お よ そ 0.174dB/km と い う 非 常 に 低 い 損 失 を 達 成 し て い る 純 粋 石 英 コ ア 型 G.652 規 格 準 拠 光 フ ァ イ バ は 上 述 の よ う に 例 え 1.2mm 径 も の 細 い 内 径 の 側 圧 緩衝チューブに挿入されて小径化が図られたとしても-50℃付近の低温にお いてもその低損失は維持されると推定できる。 68 M acro-bending loss [dB/km] 0.05 0.04 Buffer tube 0.03 Fiber Fibershifting shifting Fiber buckling Fiber buckling 0.02 0.01 Conventional G.652 fiber 0 0.00 0.10 0.20 0.30 The new PSCF PSCF 0.40 0.50 Cable contraction [%] Fig.4.2 Calculation results of fiber macro-bending loss caused by cable contraction 69 4.4.2 細径光ケーブルの作成とケーブル化前後の損失変化の検討 図 4.3 に 従 来 型 G.652 フ ァ イ バ を 用 い た 7 2 芯 フ ァ イ バ ル ー ス チ ュ ー ブ ケ ー ブ ル と 純 粋 コ ア 型 G.652 フ ァ イ バ を 用 い た 7 2 芯 フ ァ イ バ ル ー ス チ ュ ー ブ ケ ー ブ ル の 断 面 構 造 の 比 較 を 示 す 。小 径 化 さ れ た 側 圧 緩 衝 チ ュ ー ブ が 1 芯 0.25mm 径 の 1 2 芯 フ ァ イ バ を 被 せ る よ う に Jelly 充 填 し な が ら 押 し 出 さ れ た ( 6 芯 を 従 来 型 、 6 芯 を 純 粋 石 英 コ ア 型 に し て 1 2 芯 と し た )。 側 圧 緩 衝 チ ュ ー ブ 材 は Polybutylene terephthalate ( PBT ) を 用 い 、 内 / 外 径 を 1.2mm/1.5mm と し た 。 ファイバのε(式3に示す量)はほぼ零になるように制御した。それから、6チ ュ ー ブ が 1.7mm 径 の 強 度 補 強 ケ ー ブ ル 芯 構 成 材 の 周 り に SZ 撚 り さ れ 、 続 い て 6.7mm 径 の ケ ー ブ ル に な る よ う に 高 密 度 ポ リ エ チ レ ン( HDPE )を 被 覆 し た 。従 来 で は 140kg/km あ っ た ケ ー ブ ル 重 量 が 42kg/km ま で 軽 量 化 さ れ た 。 今 回 試 作 し た 小 径 化 7 2 芯 ケ ー ブ ル の 外 観 を 図 4.4 に 示 す 。 ま た 、 ケ ー ブ ル 化 前 後 の 伝 送 損 失 を 図 4.5 に 示 す 。 波 長 1310nm 、 1550nm 、そ し て 162 5 nm に お い て 測 定 さ れ た 伝 送 損 失 に は 何 の 損 失 増 加 も 認 め ら れ ず 、波 長 1550nm で は 0.171dB/km と い う 素 晴 ら し い 低 損 失値がケーブル化後においても確認できた。 70 11.5mmφ Diameter = 11.5 mm Weight = 140 kg/ km (a) Conventional 72-fiber cable 6.7mmφ Diameter = 6.7 mm Weight = 42 kg/ km (b) Downsized 72-fiber cable Fig.4.3 Cross section of the downsized 72-fiber cable 71 10mm Fig.4.4 Picture of downsized 72-fiber cable 72 0.350 Transmission loss [dB/km] 0.300 0.301 λ= 1310 nm 0.194 λ= 1625 nm 0.174 λ= 1550 nm 0.297 0.250 0.200 0.150 Uncabled Fig.4.5 0.192 0.171 Cabled Transmission loss change of pure silica core type G.652 fiber before and after cabling 73 4.4.3 PSCF を 用 い た 光 細 径 ケ ー ブ ル の 温 度 サ イ ク ル 試 験 ケ ー ブ ル 環 境 試 験 と し て 世 界 基 準 に さ れ て い る Telecordia GR-20 に 基 づ き 、 -40℃から+70℃の範囲で温度サイクル試験を試作した小径化ケーブルにつ いて実施した。 1芯の側圧緩衝チューブ内に配置された6芯の従来型光ファイバと6芯の純粋 石英コア型光ファイバについて各設定温度毎に伝送損失の変化を測定した。 図 4.6 に 測 定 さ れ た 6 芯 の フ ァ イ バ の 損 失 増 加 の 平 均 値 を 示 す 。 純 粋 石 英 コ ア 型 フ ァ イ バ の 波 長 1550nm に お け る 最 大 損 失 増 加 量 は 0.01dB/km で 、 従 来 型 フ ァ イ バ の 最 大 損 失 増 加 量 0.02dB/km よ り も 小 さ か っ た 。 以上の結果より、小径化されたルースチューブケーブルにおいてさえも純粋石 英 コ ア 型 G.652 基 準 準 拠 光 フ ァ イ バ の 従 来 フ ァ イ バ 対 比 の 高 性 能 さ が - 4 0 ℃ か ら+70℃の範囲内の繰り返し温度特性評価によって確認された。 The average of loss increase [dB/km] 0 .2 0 0 C o n v e n t io n a l G . 6 5 2 f ib e r N e w P SC F 0 .1 5 0 C a ble le n gt h : 1 k m W a v e le n g t h : 1 5 5 0 n m 0 .1 0 0 0 .0 5 0 T e le c o r dia G R - 2 0 0 .0 0 0 20℃ -2 0 ℃ -4 0 ℃ 70℃ -4 0 ℃ 70℃ T em p erat u re [℃ ] Fig.4.6 Temperature cycling test results 74 20℃ 4.5 ま と め 近年のインターネットの容量拡大の中で光ファイバによる伝送方式が拡大基調 に あ り 、 光 フ ァ イ バ の 耐 曲 げ 損 失 性 が FTTx(Fiber To The Home, Fiber To The Premise, Fiber To The Desk, 他 ) の よ う な ア ク セ ス ネ ッ ト ワ ー ク や 屋 内 応 用 設 計にとって非常に重要な要素を占めている。本章ではステップインデックス型極 小 MFD 光 フ ァ イ バ の 設 計 と そ の フ ァ イ バ 特 性 そ し て 開 発 し た FTTx 用 細 径 ・ 軽 量光ケーブルの特性について述べた。 1) 純 粋 石 英 の 、Ge 添 加 石 英 と は 異 な る 屈 折 率 材 料 分 散 特 性 を 生 か す こ と で 、従 来 の 汎 用 ス テ ッ プ イ ン デ ッ ク ス 構 造 Ge 添 加 コ ア 石 英 単 一 モ ー ド 光 フ ァ イ バ で は 不 可 能 な 範 囲 の MFD の 極 細 径 化 を 可 能 と し 得 る フ ァ イ バ の 最 適 構 造 設 計 を 示 した。 2)MFD8.6 μ m で 、 G.652 規 格 全 て を 満 た す 、 純 粋 石 英 コ ア 単 一 モ ー ド 光 フ ァ イ バの試作に初めて成功し、光ファイバ曲げ損失増加量の比較において、従来の Ge 添 加 石 英 型 対 比 、 1/5 ( 15mm の 曲 げ 半 径 で 、 波 長 1550nm で の 曲 げ 損 失 で 比較)という高耐曲げ性能の実現に成功したことを示した。 3) 本 研 究 に て 開 発 し た 極 細 径 MFD(8.6 μ m) ス テ ッ プ イ ン デ ッ ク ス 純 粋 石 英 コ ア 型 G652 規 格 光 フ ァ イ バ に て 、72 芯 光 フ ァ イ バ ル ー ス チ ュ ー ブ ケ ー ブ ル を 試 作 し 、 従 来 型 光 フ ァ イ バ ケ ー ブ ル と の 重 量 ・ 寸 法 比 較 を 行 い 、 従 来 型 140kg/km ( ケ ー ブ ル 外 径 : 11.5mm φ ) に 対 し て 、 42kg/km ( ケ ー ブ ル 外 径 : 6.7mm ) と い う 顕 著 な レ ベ ル の ケ ー ブ ル 軽 量・細 径 化 に つ い て 、初 め て の 成 功 を 示 し た 。 4) 本 研 究 に お い て 開 発 し た 軽 量・細 径 72 芯 フ ァ イ バ ル ー ス チ ュ ー ブ ケ ー ブ ル の 信 頼性評価として最も重要懸念点として挙げられる温度サイクル試験を実施した。 そ の 結 果 、ケ ー ブ ル 環 境 試 験 基 準 に さ れ る Telecordia GR-20 に 基 づ く 、- 40 ℃ ~ +70 ℃ の 範 囲 の 温 度 サ イ ク ル 試 験 で 異 常 な き こ と を 確 認 し 、 高 性 能 細 径 ・ 軽 量ケーブルの実現を示した。 75 第4章の参考文献 [1] A.Weiss, P.Lausch, K.Nthofer, “Optimized 72 Fiber cable for Blown Installation in 10/8 mm Microducts” Proc.52th IWCS, pp.38-42, (2003). 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[11] Y.Chigusa, Y.Yamamoto, T.Yokokawa, T.Sasaki, T.Taru, M.Hirano, M.Onishi and E.Sasaoka, “ Low-loss Pure-Silica-Core Fibers and Their Possible Impact on Transmision Systems,” Journal of Ligthtwave Technology(IEEE/OSA) , Vol. 23, No11, pp.3541-3550, Nov.(2005). 77 第5章 高画質画像直接伝用石英ガラス光ファイバの開発と その適用に関する検討 5.1 はじめに 画像直接伝送用光ファイバは「画像光ファイバ」とよく呼ばれる。以下では、 画像直接伝送用光ファイバを画像光ファイバの名称を使用して呼ぶこととする。 画像光ファイバは「多成分ガラス」を使用して1963年ごろに実用に供され た 1 )。 しかしながら、 「 多 成 分 ガ ラ ス 光 フ ァ イ バ 」で は 伝 送 損 失 の 高 さ と 箔 積 法 と い う その製造方法から来る制限により、画像解像度を決定する「画素数」は数千から 数万であり、その長さは最大3m程度であった。 その後、通信用石英光ファイバの技術を基に石英ガラス画像光ファイバが開発 されてきた 2)。 石 英 ガ ラ ス 画 像 光 フ ァ イ バ は 広 い 波 長 領 域 に 渡 っ て 光 の 伝 送 損 失 が 低 く 、ま た 耐 環 境 性 に も 優 れ る 特 徴 を 有 し て い る 。そ し て そ の 特 徴 を 生 か し て 、 長さは数10mのものが得られているが、画素数は3万から5万程度が一般的に は 最 大 領 域 で あ り 工 業 用 テ レ ビ ジ ョ ン ( Industrial Television: ITV ) の 画 質 と 比 べ著しく劣るものであった。より多画素のものでは最大10万画素程度のものま ですでに開発されている 3 ) が 、多 画 素 の も の で は 短 尺 か つ 可 撓 性 の 乏 し い も の と な っ て い る 。 こ の よ う な 状 況 下 、 ITV の よ う な 電 気 機 器 で は 耐 え ら れ な い 高 温 、 狭窄、悪条件下でも石英ガラス画像光ファイバの特徴である、耐環境性、小径寸 法 性 に 優 れ た 特 性 を 生 か し 、か つ ITV の 高 解 像 度 を 損 な わ な い 程 度 の 高 画 質 を 維 持した監視、観察などを可能とする可撓性にすぐれた画像直接伝送路が望まれて いた。 本研究において、これまでに報告例の無い、25万画素という従来にない高画 質で通常のテレビに匹敵する画素数の高解像度かつ長尺で可撓性を有する石英ガ 78 ラス画像光ファイバの開発に成功し 4 )、 石 油 精 製 工 場 の 石 油 汚 泥 燃 焼 設 備 で あ る 回転炉内部の火炎燃焼状態監視への実システムに適用して、高い実用性の立証に 成功した 5 )。 また、高画質の画像光ファイバを得るためには設計、性能評価を繰り返す必要 があり、その画質評価手段が重要な評価技術として必要となる。画像光ファイバ の 伝 送 画 像 を 評 価 す る 、汎 用 的・高 精 度 な 定 量 的 評 価 手 法 の 開 発 が 必 要 で あ っ た 。 本 研 究 に お い て は 高 解 像 度 2 5 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ の 開 発 に 当 た り 、 MTF ( Modulation Transfer Function ) 手 法 を 使 っ た 汎 用 的 ・ 高 精 度 画 像 定 量 評 価 装 置を開発し、完成した25万画素画像光ファイバについて定量性をもたせてその 高画質性能を評価証明することに成功した 6 )。 本章ではこの高画質25万画素画像光ファイバの開発とその特性、及び石油精 製工場への適用とその高実用性 7) に つ い て 述 べ る 。 本 節 (5.1) に 続 き 、 5.2 節 で は 超 高 解 像 度 ( 2 5 万 画 素 ) 画 像 光 フ ァ イ バ の 開 発 に つ い て 述 べ 、5.3 節 で は 画 像 光 フ ァ イ バ の MTF 画 質 評 価 法 の 開 発 と 2 5 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ の 評 価 に つ い て 、 5.4 節 で は 2 5 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ の 石 油 精 製 工 場 へ の シ ス テ ム 適 用 に 関 す る 検 討 に つ い て 述 べ る 。 5.5 節 で 本 章 の 要 約 を 行 う。 5.2 超高解像度(25万画素)画像光ファイバの開発 石 英 ガ ラ ス 画 像 光 フ ァ イ バ は 図 5.1 に 示 す よ う な マ ル チ コ ア フ ァ イ バ 構 造 か ら なる。低屈折クラッドマトリックスに互いに並行に配列された多数の高屈折率コ アからなる画像光ファイバはマルチファイバ法によって作られる。このマルチフ ァイバ法とは全長にわたって多数の画素が整列したファイバを製造する方法を言 う。これは単一の高屈折率部であるコアと低屈折率部であるクラッドを有する素 線を整列させて束ねて、石英管に充填して後、画像光ファイバへと線引きするこ とによって作られる。 79 可撓性と多画素化の両立を図るためには小径・多画素化が必要となる。画像光 フ ァ イ バ の 小 径 化 に よ り 高 密 度 の コ ア 充 填 を 可 能 と す る た め に 、 VAD ( Vapor-phase Axial Deposition ) 法 と プ ラ ズ マ 外 付 法 の 組 み 合 わ せ 手 法 っ て 作 成 し た 高 N.A.( Numerical 8) に よ Aperture )素 線 を 用 い た 。コ ア 、ク ラ ッ ド の 比 屈 折 率 差 最 大 値 3.3% の 素 線 を 準 備 し た 。 こ の 高 N.A. 素 線 を 石 英 ガ ラ ス 管 に 互 いに正確に並列に配列して高温下で溶融して一体のガラス化状態の画像光ファイ バ母材とした。この工程においては素線の表面を清浄に保つことが最も重要な条 件であり、これは仕上げられた画像光ファイバを通して伝達される画像に欠陥を 生じさせる原因となる気泡の生成を抑えるためである。 太径・長尺ファイバを作るに必要な十分な画像光ファイバ母材を作成すべく、 今 回 、 ~ 100mm φ ×~ 300mm 長 も の 大 型 画 像 光 フ ァ イ バ 母 材 の 製 造 技 術 を 開 発 した。 画像光ファイバ母材は通信用光ファイバ同様の方法で画像光ファイバに溶融線 引きし、機械強度、信頼性保持のため、母材溶融線引後直ちに二層の樹脂被覆を 施す。 本 研 究 で は 、7 0 mm φ 画 像 光 フ ァ イ バ 母 材 か ら 10m 超 の 2 5 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ を 試 作 し た 。 今 回 得 ら れ た 画 像 光 フ ァ イ バ の 構 造 デ ー タ を 表 5.1 に 示 す 。 ま た 、 伝 送 損 失 波 長 特 性 を 図 5.2 に 示 す 。 損 失 波 長 特 性 は 通 信 用 光 フ ァ イ バ よ りも高い損失量を示しているが、画像光ファイバは、通信用光ファイバの数10 km 単 位 の よ う な km 単 位 の 長 尺 で 使 用 さ れ る も の で は な く 、 数 m か ら 数 1 0 m の m 単 位 で の 使 用 が 基 本 と な る た め 、 図 5.2 に 示 す 伝 送 損 失 波 長 特 性 は 画 像 光 フ ァイバとして充分低損失であることがわかる。またこの通信用光ファイバよりも 高くなる損失増加の要因としては以下のように分析されている。画像光ファイバ の伝送損失は構造上の問題や複雑な製造工程等によるものと考えられているが、 線引温度のような製造条件の調整により低減が可能であることも知られている 4 , 9 )。 さらに、画像光ファイバに重要な性能として要求される可撓性について評価し た 。 得 ら れ た 1 0 m の 2 5 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ を 全 長 に わ た っ て 直 径 600mm 80 φのガイドローラーを通すことで曲げ試験評価を行った。結果、画像光ファイバ は 破 断 す る こ と な く 、フ ァ イ バ 表 面 で 0.5 % の 伸 び 歪 に 耐 え う る こ と が 確 認 さ れ 、 25万画素の多画素画像光ファイバにおいても、画像光ファイバの曲げ標準仕様 に耐え得ることが確認できた。 画像直接伝送において残された重要な評価項目、画質評価については、その定 量 的 評 価 方 法 の 開 発 を 含 め 、 次 項 5.3 に て 述 べ る 。 3.0mmφ 3.7mmφ 5.0mmφ Fig.5.1 Cross-sectional structure of the silica glass image fiber 81 Table.5.1 Structure of Image Fiber Number of picture elements 250,000 Diameter Core 3μ m Image fiber 3.0mm Primary coating 3.7mm Secondary coating 5.0mm Material Core GeO 2 - SiO 2 glass Cladding F-SiO 2 Primary coating Silicone resin Secondary coating PVC Refractive-index difference Between core and silica reference (Δ + ) 2.6% Between cladding and silica reference (Δ - ) 0.7% Between core and cladding (Δ + + Δ - ) 3.3% 82 glass Attenuation [dB/m] Wavelength [μm] Fig.5.2 5.3 Spectral attenuation of 250,000 picture elements image fiber 画 像 光 フ ァ イ バ の MTF 画 質 評 価 法 の 開 発 と 2 5 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ の 評価 画像光ファイバ伝送像の画質は、①画素数、②画素間の漏光、③クラッド伝播 光 、④ 画 素 の 配 列 状 態 、⑤ 画 素 欠 陥 に よ り 規 定 さ れ る 1 0 - 11 ) 。こ の う ち ① ~ ③ は 構 造設計上の問題であり、理論上の分解能を規定する。④と⑤は画像光ファイバの 製造技術に関する問題である。 画像光ファイバの分解能は、従来簡便な方法として試験チャートを用いて視覚 83 的 に 評 価 さ れ る こ と が 多 く 、汎 用 的・高 精 度 な 定 量 評 価 方 法 の 開 発 が 期 待 さ れ た 。 本研究では汎用性のある定量的評価方法として、画像光ファイバ入射端面にス リ ッ ト 像 を 結 像 し 、 そ の 伝 送 像 を フ ー リ エ 変 換 す る こ と に よ り 連 続 的 に MTF ( Modulation Transfer Function ) 値 を 求 め る MTF 法 の 画 像 光 フ ァ イ バ 伝 送 像 の 画 質 評 価 へ の 適 用 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。MTF は 光 学 レ ン ズ の 性 能 評 価 の 測 定 法として既に用いられているが、画像光ファイバ伝送画像の評価のためには専用 の 測 定 系 の 開 発 を 必 要 と し た 。 こ れ ま で に 画 像 光 フ ァ イ バ の 画 像 評 価 に MTF が 用いられた例は存在する 1 2 ) が 、入 射 端 面 に 試 験 格 子 を 投 影 す る の み の 方 法 で あ る ため離散的周波数評価となり、 「 汎 用・高 精 度 」の 要 求 を 満 た す も の で は な か っ た 。 こ れ に 対 し 、今 回 は 入 射 端 面 に コ ア 径 よ り も 十 分 小 さ な 幅 の ス リ ッ ト 像 を 結 像 し 、 そ の 伝 送 像 を フ ー リ エ 変 換 す る こ と に よ り 連 続 的 に MTF 値 を 求 め る 方 法 を と り 、 かつ画素配列の歪の影響を無くすべく動的走査法を取り入れた評価装置を開発す ることでその改善を試みた。 (a)MTF 測 定 系 の 構 成 MTF は 画 像 光 フ ァ イ バ を 空 間 周 波 数 フ ィ ル タ ー と み な し て 、画 像 光 フ ァ イ バ 中 を画像が伝播することによりその周波数スペクトルがどのように変化するかを示 す関数である。 図 5.3 に 画 像 光 フ ァ イ バ の MTF 曲 線 の 測 定 の た め に 開 発 さ れ た シ ス テ ム の 構 成を示す。 W( Tungsten )ラ ン プ か ら の 光 は ス リ ッ ト と レ ン ズ ( 1 )を 通 過 し て 、画 像 光 ファイバの入射端にスリットの縮小像を結ぶ。入射端に結像されたスリット像の 幅 は 2.5 μ m で あ る 。 画 像 光 フ ァ イ バ の 出 射 端 側 に お け る ス リ ッ ト の 伝 送 像 は レ ン ズ ( 2 ) で 拡 大 さ れ 、 LSF ( Line Spread Function ) を 測 定 す る た め に CCD ア レ ー 上 に 投 影 さ れ る 。 画 像 光 フ ァ イ バ の 出 射 端 は ス リ ッ ト の 投 影 像 が CCD ア レー方向に直角になるように顕微鏡で出射端を観察しながら回転調整する。 そ し て 、求 め ら れ た LSF を フ ー リ エ 変 換 す る こ と に よ り 画 像 光 フ ァ イ バ の MTF 曲線が求まる。 84 画 像 光 フ ァ イ バ が 無 い 場 合 の 装 置 の MTF は 、 あ ら か じ め レ ン ズ ( 1 ) と レ ン ズ(2)を対向させて測定し、測定値から自動的に差し引くことにより画像光フ ァ イ バ 自 体 の MTF 値 が 求 ま る 。 Fig.5.3 Diagram of MTF measuring system (b) 画 像 光 フ ァ イ バ の MTF 測 定 法 図 5.4 に 示 す よ う に 、 画 素 の 配 列 が 画 像 光 フ ァ イ バ 入 射 端 に お け る ス リ ッ ト 像 と一致し、且つ隣接画素間の漏光が無視できる程度に小さい場合、画素が六方最 密 充 填 さ れ た 画 像 光 フ ァ イ バ の MTF は 動 的 走 査 法 を 用 い て 式 ( 1 ) の よ う に 現 わせる。 H( f x )=sinc 2 (2 af x ) ここで (1) a: コ ア 半 径 、 fx: 空 間 周 波 数 である。 入射端に形成された像が画素光ファイバによるサンプリングの後に伝送される 画 像 の 画 質 を 評 価 す る 場 合 に お い て は 、動 的 走 査 法 に よ り 有 効 な 結 果 が 得 ら れ る 。 動的走査法による実際の測定においては、画像光ファイバの両端をファイバ端面 にそって同期をとって隣接画素間距離より大きな振幅で振動させることにより 85 MTF 曲 線 が 得 ら れ る 。 a: Core radius Fig.5.4 Entrance face of an image fiber during MTF measurement (c) 評価実験とその結果 (1) MTF 特 性 の フ ァ イ バ パ ラ メ ー タ 依 存 性 (a) の 構 成 の 装 置 を 用 い て 表 5.2 に 示 す さ ま ざ ま な 構 造 を 有 す る 石 英 ガ ラ ス 画 像 光 フ ァ イ バ の 動 的 走 査 法 に よ る MTF 値 の 5 0 % 低 下 値 を 測 定 し ( 、 MTF 値 5 0 % 低 下 空 間 周 波 数 を f 0 . 5 と 表 す ) 式 (1) に よ っ て 求 め た 計 算 値 と の 比 較 を 図 5.5 に 示す。 図 5.5 で は 計 算 値 と 実 測 値 が 良 く 一 致 し 、 こ の こ と よ り こ れ ら の サ ン プ ル に つ いては画素ファイバの乱れ、隣接画素間の漏光の効果はコア径の効果に比較して 実際上無視し得る程度に小さいことが示された。 図 5.6 で は 動 的 走 査 法 で 得 ら れ た 供 試 フ ァ イ バ (6) の MTF 曲 線 を 示 す 。 供 試 フ ァ イ バ (6) は 前 述 の 5.2 節 で 開 発 し た 2 5 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ で あ り 、 44,000 画 素 /mm 2 の 画 素 密 度 を 有 す る も の で あ り 、 150[lp/mm] ( 注 ) の 高 解 像 度 が 得 ら れ て いることがわかる。 ( 注 ) [lp/mm] は 空 間 周 波 数 の 単 位 で 1mm の 幅 に 白 と 黒 の 線 ( Line pair ) が 何 本 並ぶかを表す。 86 [lp/mm] Table.5.2 Fiber parameters [lp/mm] Fig.5.5 Comparison of measured values with calculated values where the MTF value decreases by 50% 87 [lp/mm] Fig.5.6 MTF of the image fiber with 250,000 picture elements (2) MTF 特 性 の 波 長 依 存 性 干 渉 フ ィ ル タ ー( c 線 、d 線 、e 線 、F 線 、g 線 )を 使 用 し て 測 定 波 長 を 変 え て 画 像 光 フ ァ イ バ の MTF 曲 線 を 求 め た 。 各 フ ィ ル タ ー の 波 長 透 過 率 を 図 5.7 に 示 す 。 図 5.8 は 表 5.2 の フ ァ イ バ (4) と 同 等 の 構 造 パ ラ メ ー タ を 有 す る フ ァ イ バ の MTF 曲 線 を 示 す 。 f 0. 5 は 100[lp/mm] ~ 109[lp/mm] の 範 囲 内 に 入 り 、 MTF の 波 長 依存性は顕著には認められない。 (3)MTF 特 性 の 入 射 N.A. ( Numerical Aperture ) 依 存 性 入 射 N.A. を 変 化 さ せ て ( 図 5.3 の レ ン ズ ( 1 ) の 入 射 開 口 角 ( F ナ ン バ ー ) を 変 え る こ と に よ り 行 っ た ) 画 像 光 フ ァ イ バ の MTF を 測 定 し 、 結 果 を 図 5.9 に ま と め た 。全 フ ァ イ バ は ほ ぼ 表 5.2 の フ ァ イ バ (4) と 同 等 の 構 造 パ ラ メ ー タ と し 、N.A. 値 は 0.27 で あ る 。 測 定 さ れ た MTF 値 の 5 0 % 低 下 値 f 0. 5 は 入 射 N.A. を 0.05 か 88 ら 0.25 ま で 変 化 さ せ た 場 合 に 115[lp/mm] ~ 128[lp/mm] の 範 囲 に あ り 、画 像 光 フ ァ イ バ の N.A. 以 下 の 入 射 N.A. の 範 囲 で は MTF の 入 射 N.A. 依 存 性 は 顕 著 に は 認 められない。 (4)MTF 特 性 の フ ァ イ バ 長 依 存 性 表 5.2 の フ ァ イ バ (4) と 同 等 の 構 造 パ ラ メ ー タ を 有 す る 2 種 類 の フ ァ イ バ 長 の 画 像 光 フ ァ イ バ の MTF を 測 定 し 、 結 果 を 図 5.10 に ま と め た 。 4m フ ァ イ バ に 対 し て の f 0 . 5 は 100[lp/mm] で 、 70m フ ァ イ バ に 対 し て は 109[lp/mm] と な り 、 長 尺 品 においても隣接画素間の漏光による画質の低下が認められない。長尺の場合、 MTF の 低 周 波 特 性 が 改 善 さ れ て い る が 、理 由 は ク ラ ッ ド 伝 播 光 の 影 響 が 長 尺 の 場 合除去されるためと考えられる。 Fig.5.7 Spectral transmissions of interference filters 89 [lp/mm] Fig.5.8 Wavelength dependence of MTF N.A. [lp/mm] Fig.5.9 Launching N.A. dependence of MTF 90 Fig.5.10 Fiber length dependence of MTF (d) MTF 法 評 価 ま と め と 結 論 異 な っ た 構 造 パ ラ メ ー タ を 有 す る 数 種 の 石 英 ガ ラ ス 画 像 光 フ ァ イ バ の MTF 特 性を測定し、測定値は計算値と良く一致した。 ま た 、画 像 光 フ ァ イ バ の MTF 特 性 の 入 射 N.A., 波 長 依 存 性 の 測 定 を 行 い 、MTF 特性がこれらに顕著には依存しないこと、換言すれば、画像光ファイバにより、 忠実な色調の像伝送が可能であることを明らかとした。また長尺品においても隣 接画素間の漏光等による画質の低下は認められなかった。 今 回 開 発 し た 画 像 光 フ ァ イ バ MTF 特 性 測 定 装 置 に よ り 、 画 像 光 フ ァ イ バ 伝 送 像の汎用的・高精度定量評価を可能とした。 91 5.4 25万画素画像光ファイバの石油精製工場へのシステム適用に関する検討 25万画素画像光ファイバの実用性を検証すべく、石油精製汚泥処理回転炉内 部 の 火 炎 の 燃 焼 状 態 の 監 視 シ ス テ ム へ の 適 用 に つ い て 検 討 し た 6 )。 火 炎 監 視 モ ニ タ ー シ ス テ ム の 概 要 を 図 5.11 に 示 す 。シ ス テ ム は 現 場 調 査 に よ り 適 正 な 視 野 角 や 先端の耐熱温度など必要な仕様を決定した。 石油精製汚泥処理回転炉は石油の精製によって生じた汚泥を燃焼処理するため の 設 備 で あ る が 、炉 内 温 度 は 最 高 約 1000 ℃ と 高 温 で あ り 、ま た 燃 焼 中 の 粉 塵 の 発 生も考えられるため、画像光ファイバの先端部はこれらの環境に耐える構造とす る 必 要 が あ る 。こ の た め 、図 5.11 に 示 す よ う な 二 層 構 造 の 冷 却 管 に よ り エ ア パ ー ジによる粉塵の付着防止と冷却を行って50℃以下に保つことでファイバの被覆 材などを安定に保った。 石油精製汚泥処理回転炉での画像光ファイバ先端取付向きは火炎の平均的な燃 焼位置に合わせ、火炎を視野内にできるだけ大きく捉えられるよう、視野角は1 3 °と 比 較 的 小 さ く 設 定 し た 。 画 像 光 フ ァ イ バ で 捉 え た 画 像 は 、石 油 精 製 汚 泥 処 理 回 転 炉 か ら 1 0 m 以 内 に 設 置したテレビカメラに結ばれた。画像光ファイバの長さは最終的には現合により 調 尺 し 7.0m と し た 。 画 像 光 フ ァ イ バ で 捉 え た 炎 の 像 は 石 油 精 製 工 場 の 広 域 監 視 網制御システムの映像情報の一つとしてテレビカメラを介して光信号に変換され、 光 フ ァ イ バ ケ ー ブ ル に よ り セ ン タ ー 室 へ 伝 送 さ れ て 、モ ニ タ テ レ ビ に 表 示 さ れ た 。 図 5.12 に モ ニ タ に 表 示 さ れ た 火 炎 の 像 を 示 す 。 図 5.12(a) は シ ス テ ム 設 置 評 価 試 験 開 始 時 の も の で あ り 、図 5.12(b) は 評 価 試 験 開 始 後 約 1 ヶ 月 を 経 過 し た も の で あ る。評価試験期間中においては故障や伝送画像の劣化、汚れの付着などは皆無で あり、信頼性も含め、高い実用性が立証された。 以上のような画像光ファイバを用いた炉内監視方式の特徴を、例えばテレビカ メラを直接石油精製汚泥処理回転炉に装着して監視することを想定して比較する と、 92 (1)細径・軽量で設置、保守が容易である。 (2)冷却空気の流量は少量で済み経済的である。 (3)給電不要で本質的に防爆性能を有する。 (4)電気部品を含まず信頼性が高い。 などの優れた利点を挙げることができる。 Fig.5.11 Schematic view of furnace monitoring test Fig.5.12 Monitored flame images 93 5.5 まとめ 本章では高画質25万画素画像光ファイバの開発とその特性、及び石油精製工 場への適用とその実用性について述べた。以下に本研究で明らかになった点を示 す。 1) 本 研 究 に お い て 、こ れ ま で に 報 告 例 の 無 い 、通 常 の テ レ ビ 解 像 度 に 匹 敵 す る 2 5万画素という高解像度の、しかも可撓性に優れた長尺石英ガラス画像光ファ イバの開発に成功した。 2) 高 画 質 の 画 像 光 フ ァ イ バ を 得 る た め に は 設 計 、性 能 評 価 を 繰 り 返 す 必 要 が あ り 、 その画質評価手段が重要な技術として必要となるが、従来、画像光ファイバ伝 送画像の汎用的・高精度定量評価手法は開発されていなかった。本研究におい て 、 MTF ( Modulation Transfer Function ) 手 法 を 使 っ た 高 精 度 画 像 定 量 評 価 装置を開発し、画像光ファイバの高精度画質定量評価を可能とした。 3) 今 回 開 発 し た 2 5 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ を 今 回 開 発 し た 画 像 光 フ ァ イ バ 画 質 定 量 評 価 法 MTF を 用 い て 評 価 を 行 い 、 そ の 高 画 質 性 能 を 定 量 的 に 示 し た 。 4) 今 回 開 発 し た 25 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ を 石 油 精 製 工 場 の 石 油 精 製 汚 泥 処 理 回 転炉の炉内火炎燃焼状態の監視モニター用として実システムに適用し、一ヶ月 の連続評価を経てその高い信頼性を確認し、実用性を示した。 94 第5章の参考文献 [1] N.S.Kapany, “ Fiber Optics, Principles and Applications ” , Academic Press pp.81-109(1967). [2] 吉 村 耕 三 、“ 石 英 イ メ ー ジ フ ァ イ バ と そ の 応 用 ”、 レ ー ザ ー 研 究 Vol.11,No.10,pp.732-738、 (1983). [3] Y.Matsuda, Y.Hattori, and Y.Chigusa, “High-resolution Silica Image Fiber” in Technical Digest, Conference on Optical Fiber Communication,(Optical Society of America,Washington,D.C,), paper TUN12, (1984). [4] Y.Matsuda, K.Fujiwara, Y.Hattori and Y.Chigusa, “High-resolution Silica Image Fiber”, in Technical Digest, Conference on Optical Fiber Communication, (Optical Society of America,Washington,D.C,),paper TUB5(1986). [5] K.Fujiwara, T.Fujimoto,K.Yoshimura, Y.Hattori, M.Kyoto, T.Kadota, Y.Matsuda and Y.Chigusa, “ Remote monitoring of furnace interiors by high-resolution silica image fiber”, in Technical Digest, 4 t h International Conference on Optical Fiber Sensors( Institute of Electronics and Communication Engineers of Japan) pp.147-150,(1986). [6] Y.Hattori, Y.Mtsuda, Y.Chigusa, “Modulation Transfer Function (MTF) measurement of Silica Glass Image Fiber”, in Technical Digest, 4 t h International Conference on Optical Fiber Sensors( Institute of Electronics and Communication Engineers of Japan) pp.327-330,(1986). [7] Y.Chigusa, K.Fujiwara, Y.Hattori and Y.Matsuda “Properties of Silica Glass Image Fiber and Its Application”, OPTOELECTRONICS-Devices and Technologies, Vol.1, No2, pp.203-216, December, (1986). [8] G.Tanaka, K.Fujiwara and K.Osaka, in Technical Digest, Conference on Optical Communication (Optical Society of America,Washington,D.C), paper TUG3,(1984). [9] 服 部 保 次 、 「 高 解 像 度 イ メ ー ジ フ ァ イ バ 」、 「 第 18 回 画 像 工 学 コ ン フ ァ レ ン ス 」 95 資 料 、 pp.215-220( 1987) . [10] 細 野 、“ イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 伝 送 特 性 ”、 電 子 通 信 学 会 論 文 誌 、 Vol.J66-C,No.11,pp.843-850,( 1983) . [11] 森 、 “ 一 次 元 イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 伝 送 特 性 ”、電 子 通 信 学 会 論 文 誌 、Vol.J67-C、 No.10、 pp.706-713,(1984). [12] N.S.Kapany, “Fiber optics.Ⅳ . Image quality and optical insulation”, Journal of the optical society of America, Vol.49, Num.8, pp779-787, Aug.(1959). 96 第6章 高耐放射線性画像直接伝送用石英ガラス光ファイバ の開発と光ブリーチング効果による寿命延長法に関 する検討 6.1 はじめに 前章で述べたように光ファイバは通信用途のみならず、信号変換を伴わずに画 像を直接伝送する用途にも使われている。この画像直接伝送用の光ファイバであ る画像光ファイバは原子力発電所、核燃料リサイクルシステム試験施設や放射性 物質を扱うさまざまな研究機関といった、放射線環境においても広く利用されて いる。光ファイバを放射線環境で使用するには、その放射線による影響を考慮す る必要がある。ガラスは放射線によって着色中心を生成するため、光の透過率が 著しく減少することが知られている。この光の透過率の減少は、紫外光部から可 視光部にわたり現れるため、観察、分析・計測システムなど紫外・可視光領域を 中心にした波長領域を主に使用される画像光ファイバにとっては大きな問題とな る。この放射線による着色中心に起因する光の透過率の減少は天然石英や多成分 ガラス等のように不純物を含むガラスに著しく、従って、画像光ファイバを放射 線環境に適用するためには特に耐放射線性を高めた石英ガラス系画像光ファイバ の開発が重要である。一般的に、物質添加された石英ガラスコア光ファイバは純 粋 石 英 コ ア 光 フ ァ イ バ よ り も 耐 放 射 線 性 に 劣 る と さ れ て い る 1 - 6 )。そ の た め 、放 射線環境では純粋石英コア光ファイバが主に使用される。従って、本検討では純 粋石英コアから成る画像光ファイバに焦点を置く。 本研究では、コアに純粋石英、クラッド部に弗素を添加した石英からなる光フ ァイバを素材として、そのコア、クラッド材料の耐放射線性能の違いを明らかと し 、 材 料 、 構 造 、 製 造 工 程 、 条 件 の 最 適 化 を 図 る こ と で 、 従 来 10 4 R 程 度 で あ っ 97 た 使 用 限 界 寿 命 を 10 5 R/h と い う 極 め て 高 い 放 射 線 線 量 率 下 に お い て も 10 8 R 程 度 の使用を可能とする大幅な寿命の延伸に成功し 7)、 放 射 線 関 連 環 境 施 設 に お け る 実使用において重要となる、線量率、繰り返し照射、波長特性など放射線による 依存特性を明らかにした 8-10)。 さらには、こういった画像光ファイバそのものの耐放射線性能向上化の検討に 加えて、外部システムの付加による放射線環境での寿命延長策の検討も重要とな る。本研究では特に「光ブリーチング効果」の積極利用について検討を行い、従 来報告例の無い外部付加光源を導入した放射線環境での寿命延長策について、波 長 、光 強 度 な ど そ の 最 適 光 源 と 効 果 の 評 価 を 実 施 し 延長に成功した 11 , 1 2 ) 、従 来 比 5 倍 以 上 の 寿 命 13)。 本 節 (6.1) に 続 き 、 6.2 節 で は 高 耐 放 射 線 イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 開 発 と γ 線 照 射 特 性 に 関 す る 検 討 に つ い て 、 ま た 6.3 節 で は 石 英 ガ ラ ス 画 像 光 フ ァ イ バ の 光 ブ リ ー チ ン グ 効 果 に よ る 寿 命 延 長 法 の 検 討 に つ い て そ れ ぞ れ 述 べ る 。 6.4 節 で 本 章 の 要 約を行う。 6.2 高 耐 放 射 線 画 像 光 フ ァ イ バ の 開 発 と γ 線 照 射 特 性 に 関 す る 検 討 一 般 的 に 、物 質 添 加 さ れ た 石 英 ガ ラ ス コ ア 光 フ ァ イ バ は 純 粋 石 英 コ ア 光 フ ァ イ バ よ り も 耐 放 射 線 性 に 劣 る と さ れ て い る 1 - 6 )。そ の た め 、放 射 線 環 境 で は 純 粋 石 英コア光ファイバが主に使用される。従って、本検討では純粋石英コアから成る イメージファイバに焦点を置く。本研究では、コアに純粋石英、クラッド部に弗 素を添加した石英からなる光ファイバを素材として、クラッド材料の耐放射線性 能への影響を明らかとし、材料、構造、製造工程、条件の最適化を図ることで、 放射線環境下での従来寿命を大幅に上回る耐放射線画像光ファイバの試作に成功 した。本節では耐放射線画像光ファイバの耐放射線性能に与えるクラッド材の影 響評価、そして今回試作に成功した高性能耐放射線画像光ファイバの実使用上の 重要特性となる、線量率、繰り返し照射、波長特性など放射線による依存諸特性 と放射線環境化でのファイバ寿命について述べる。 98 (a) 実 験 (a) - 1 、 供 試 フ ァ イ バ コ ア 、 ク ラ ッ ド 材 の 放 射 線 に 対 す る 直 接 の 伝 送 損 失 変 化 度 を 評 価 す べ く 表 6.1 に示すようにコア材、クラッド材、それぞれのガラス材料をコアにした、ポリマ ークラッドファイバを試作した。 今 回 開 発 に 成 功 し た 高 耐 放 射 線 性 画 像 光 フ ァ イ バ と 、比 較 の た め に 汎 用 型 の Ge 添 加 コ ア 画 像 光 フ ァ イ バ を 準 備 し た 。 そ の 構 造 パ ラ メ ー タ を 表 6.2 に 示 す 。 ま た 図 6.1 に そ れ ら 画 像 光 フ ァ イ バ の 光 伝 送 損 失 波 長 特 性 を 示 す 。 (a) - 2 、 フ ァ イ バ 照 射 実 験 測 定 系 図 6.2 に フ ァ イ バ 照 射 実 験 測 定 系 を 示 す 。表 6.1 、6.2 の そ れ ぞ れ の フ ァ イ バ は この同一照射実験測定系にて評価された。 Table 6.1 Parameters of test fibers (Evaluation of Core and Cladding materials) 99 Table 6.2 Parameters of test image fibers Fig. 6.1 Spectral attenuation of image fibers 100 Test fiber He-Ne laser Room wall Irradiation test room Fig.6.2 Measurement system (c) 結果と考察 (c) - 1 、 耐 放 射 線 性 能 に 与 え る ク ラ ッ ド 材 の 影 響 評 価 画像光ファイバのコア径は小さく、クラッドへの光強度分布の染み出しは大き く、無視できない。先にも述べたが、石英ガラスには一般的に不純物添加によっ て放射線による伝送損失は増加するとされており、従って、耐放射線画像光ファ イバの耐放射線性向上と初期画質解像度維持の両面を考えた最適構造設計を考え た場合、コア、クラッドそれぞれの放射線に対する損失増加量の違いを把握して おく必要がある。 しかしながら添加材料に加えてガラス合成方法にも放射線特性は影響される 1 - 5 ) た め 、耐 放 射 線 画 像 光 フ ァ イ バ の ク ラ ッ ド 材 の 評 価 は そ の 高 濃 度 弗 素 添 加 石 英 合成法であるプラズマ外付け法で合成された弗素添加石英ガラスの評価を行う必 要があるが、これまでにこのような報告例は無い。今回、本研究においては耐放 射線画像光ファイバのクラッド材合成法であるプラズマ外付け法を使用して弗素 添加石英を合成し、コア材とともにそれぞれポリマークラッドファイバにしてそ 101 の γ 線 に よ る 伝 送 損 失 の 増 加 量 を 評 価 し た 。 図 6.3 に コ ア 、 ク ラ ッ ド 材 の γ 線 照 射による損失増加特性の比較を示す。 プラズマ外付け法による合成弗素添加石英クラッド材料はコア材料である純粋 石英と比べて著しくγ線誘起光伝送損失増加量が大きく、具体的な損失増加量の 程度の違いとして初めての定量化データを得るに成功した。この結果から、耐放 射線性能を向上させる構造設計においては、初期画質解像度を所要レベルの確保 が図れるぎりぎりまで低下させながら、可能な限りコア径の拡大を図る、耐放射 線性能優先の設計方針が明確化できた 8,10)。 (c) - 2 、 γ 線 照 射 に よ る 伝 送 損 失 増 加 特 性 上 記 (c) ― 1 で の 検 討 結 果 に 基 づ く 設 計 と 製 造 条 件 の 最 適 化 を 図 る こ と で 今 回 試 作 し た 画 像 光 フ ァ イ バ の 耐 放 射 線 性 能 を 評 価 し た 。 図 6.4 に 画 像 光 フ ァ イ バ の γ 線照射による損失増加と照射線量依存性の評価結果を示す。 照 射 線 量 10 5 R で 伝 送 損 失 増 加 量 を 比 較 す る と 、 今 回 開 発 し た 耐 放 射 線 画 像 光 フ ァ イ バ の 損 失 増 加 量 は 35dB/km ( 波 長 0.63 μ m )、 汎 用 型 Ge 添 加 コ ア 型 画 像 光 フ ァ イ バ の 3,900dB/km と 比 較 し て 著 し い 。 ま た こ の 今 回 開 発 し た 耐 放 射 線 画 像 光 フ ァ イ バ の 損 失 増 加 量 35dB/km ( 波 長 0.63 μ m ) は こ れ ま で に 報 告 例 の 無 い 低 伝 送 損 失 増 加 量 で あ り 、 図 6.4 か ら 推 定 す る 画 像 光 フ ァ イ バ の 寿 命 は 10 8 R レ ベ ル へ と 延 伸 が 可 能 と な っ た こ と が わ か る 。 本 研 究 に て 、 従 来 10 4 R 程 度 で あ っ た 使 用 限 界 寿 命 を 10 5 R/h と い う 極 め て 高 い 放 射 線 線 量 率 下 に お い て も 10 8 R 程 度までもの使用を可能とする大幅な寿命の延伸に成功した 7)。 図 6.5 に 今 回 開 発 し た 高 耐 放 射 線 画 像 光 フ ァ イ バ の γ 線 照 射 試 験 前 後 の 伝 送 画 像評価結果を示す。この結果から画質の変化は認められず、伝送パターンによる 画質評価においてもその高い耐放射線性能が確認できた。 ま た 、 図 6.6 に 今 回 開 発 し た 高 耐 放 射 線 画 像 光 フ ァ イ バ の γ 線 照 射 伝 送 損 失 増 加量の波長依存性を示す。測定はハロゲンランプを光源に用いた回折格子型分光 器 を 用 い て 2 × 10 5 R 照 射 後 40h 後 に 行 っ た 。測 定 波 長 は 0.4 μ m ~ 0.9 μ m と し た 。 波 長 0.4 μ m 付 近 の 損 失 増 加 量 が 大 き く 、 波 長 0.5 μ m ~ 0.9 μ m に つ い て は ほ ぼ 102 均 一 な 損 失 増 加 量 と 言 え る 。0.4 μ m 付 近 は 紫 外 光 領 域 か ら の 吸 収 帯 の 裾 の 影 響 を 受けていることがわかる。 (c) - 3 、 伝 送 損 失 増 加 量 の 照 射 線 量 率 依 存 性 実際の放射線施設での使用を考えた場合、総線量のみならずさまざまな線量率 条件に置かれることが考えられる。そこで伝送損失増加量の線量率依存性の評価 把 握 が 重 要 と な る 。 図 6.7 に 今 回 開 発 し た 高 耐 放 射 線 画 像 光 フ ァ イ バ の 伝 送 損 失 増加量のγ線照射線量率依存性を示す。 結果から明らかなように伝送損失増加量は線量率に依存することがわかる。放 射線施設においてはこの影響度の違いを把握した上でシステム設計する必要があ ることがわかる。 (c) - 4 、 繰 り 返 し 照 射 特 性 図6-4に示すように、画像光ファイバのγ線照射による伝送損失増加量は連 続照射条件下では照射総線量に比例して増加している。しかしながら実際の放射 線施設ではさまざまなシステムの使われ方が想定され、連続照射が常態とは限ら ず、観察・計測が終了した後は、照射環境下から一度退避格納される場合も少な くない。そこで今回、照射と照射中断を繰り返すことによる照射損失増加量と総 線 量 の 関 係 を 連 続 照 射 の 場 合 と 比 較 し て み た 。 繰 り 返 し 照 射 の 結 果 を 表 6.3 に 示 す 。 表 6.3 か ら 明 ら か な よ う に 照 射 を 中 断 す れ ば 照 射 中 に 生 じ た 伝 送 損 失 の 増 加 は回復を示すことがわかる。したがって、放射線施設においてはシステム寿命を 延ばすためにも繰り返し照射条件となる、いわゆる使用しない時の放射線環境か らの退避を実施しながらの使用が総被爆線量対比の寿命を延ばすことに有効性を 発揮する。これを考慮したシステム運用の設計が有効と言える。 103 (4.9×10 3 R/h) (10 5 R/h) Fig.6.3 Attenuation increase of core and cladding materials 104 (2.4×10 4 R/h) (10 5 R/h) Fig.6.4 Attenuation increase by γ -ray irradiation 105 Fig.6.5 Transmitted picture Fig.6.6 Wavelength increase dependence 106 of attenuation (105R/h) (200R/h) Fig.6.7 Dosage dependence Table 6.3 Attenuation increase by repeated irradiation After 2h pause 107 After 2h pause 6.3 石 英 ガ ラ ス 画 像 光 フ ァ イ バ の 光 ブ リ ー チ ン グ 効 果 に よ る 寿 命 延 長 法 の 検 討 核燃料リサイクルシステム試験施設ではさまざまな遠隔操作システムが開発 されている 11 ) 。こ れ ら の シ ス テ ム に は 石 英 ガ ラ ス 画 像 光 フ ァ イ バ も 使 用 さ れ て い る 。 前 項 に 述 べ た よ う に 画 像 光 フ ァ イ バ の 耐 放 射 線 性 は 大 き く 改 善 さ れ た 7 )。 し かし、さまざまな放射線研究施設では尚も画像光ファイバの放射線環境における 使用寿命の延長が図れないかと期待は強い。光エネルギーを利用した、放射線環 境での光伝送損失増加の抑制効果を「光ブリーチング効果」と呼ばれ、この効果 を使用した通信用光ファイバの寿命延長に関して幾つかの報告が既になされて いる 1 4 , 1 5 )。 一 般 的 に 通 信 用 途 の 単 一 コ ア 光 フ ァ イ バ の 場 合 、 高 強 度 の 光 が 信 号 伝送光として用いられるため、通信用光ファイバ内には光ブリーチング効果が比 較的容易に生じる。一方、画像光ファイバは主に物体の観察や化学分析などで物 質から発生するかすかな蛍光の伝送路として使用されるため、かすかな強度の伝 送光そのものによる光ブリーチング効果の発現を期待することは難しい。そこで、 画像光ファイバの寿命延長を図るためには、より大きな光ブリーチング効果を引 き出す必要があり、そのためには伝送光自身とは別に付加的な光源を導入した効 果の増大に関する検討が重要となる。しかしながら放射線施設での画像光ファイ バの寿命延長にこういった検討がかつて成された報告はなく、ここでは画像光フ ァイバの光ブリーチング効果を利用した寿命延長における、光ブリーチング光源、 光強度、環境放射線線量率、環境温度の影響について述べる。 (a) 実 (a) - 1 供試ファイバ 験 供 試 フ ァ イ バ と し て 、純 粋 石 英 コ ア 、弗 素 添 加 石 英 ク ラ ッ ド か ら 成 る V 値( 画 質 パ ラ メ ー タ ) を 合 わ せ た 画 像 光 フ ァ イ バ を 2 種 類 試 作 し た 。 そ の 諸 元 を 表 6.4 に示す。 ファイバ 1 にて各種条件検討を行い、この結果をもとに、実際のシステムに適 108 用される規模に近づけたファイバ 2 にて長時間照射検討を行った。 (a) - 2 γ線照射及び光ブリーチング条件 γ線の照射は線源として 6 0 Co を 使 用 し た 。光 ブ リ ー チ ン グ 効 果 の 、光 源 、光 量、温度、線量率の依存性を調べるため、光ブリーチング用光源として、本実験 に お い て は He - Cd レ ー ザ 、 Xe ラ ン プ 、 D 2 ラ ン プ を 用 い た 。 こ れ は 光 ブ リ ー チ ング光源として出力波長領域、出力強度、実験上の取り扱い易さに加え、実使用 システムに供するための一つの重要な要素となるシステム費用面をも考慮に入 れた選択。そしてその光量及びγ線照射線量率、又、温度を変えてその効果の違 い を 評 価 し た 。 そ の 試 験 条 件 を 表 6.5 に 示 す 。 (a) - 3 実験測定系 光 ブ リ ー チ ン グ の 方 法 及 び 照 射 中 の 測 定 系 を 図 6.8 に 示 す 。フ ァ イ バ は 束 状( フ ァ イ バ 1 は 1 0 m 、 フ ァ イ バ 2 は 8.4 m ) 室 内 放 置 の 状 態 で 照 射 。 光 ブ リ ー チ ン グ の 方 法 と し て 、 フ ァ イ バ の 一 端 よ り 光 を 連 続 入 射 さ せ て お く 。 測 定 時 は 図 6.8 に示すように一度光ブリーチング用光源からファイバを取り除き、ファイバの一 端を受光器である光電子増倍管側にセットして出射光量の変化を測定した。測定 後 は 分 光 光 度 計 か ら フ ァ イ バ を 外 し 、元 の 光 ブ リ ー チ ン グ 光 源 に セ ッ ト し て お く 。 また照射実験後、回折格子型分光器にて紫外光領域の損失を測定した。 109 Table 6.4 Fiber Parameters of test fibers Fiber Number of Core Diameter, Picture Material [ mm] Elements 0.2 140 Fiber 1 Fiber 2 1.0 4000 Cladding Δ n N.A. Material pure silica fluorine pure silica doped silica Pur e sil ic a fluorine 1% 0.2 1% 0.2 doped silica Table 6.5 Sample Experimental conditions Light Source Initial Light Dosage, [R/h] Power, mW/mm 2 He-Cd laser Xe lamp Fiber 1 D 2 lamp Temperature, ℃ 164 300, 10 4 28 72 300, 10 4 28 0.80 300, 10 4 28,70 0.39 300, 10 4 28 300 28 28 under 0.001 Dark none 300, 10 4 Xe lamp 0.77 300 28 Dark none 300 28 Fiber 2 110 60 Co γ -ray source . Fig. 6.8 (b) 結 Photobleaching and measuring systems 果 フ ァ イ バ 1 に つ い て の 照 射 条 件 結 果 を 表 6.6 に 示 す 。 光 ブ リ ー チ ン グ 効 果 の 光 量 依 存 性 に つ い て の 結 果 を 図 6.9(a),(b) に 示 す 。さ ら に フ ァ イ バ 2 に つ い て の 照 射 中 の 紫 外 光 領 域 に お け る 損 失 増 加 特 性 を 図 6.10,6.11 (c) 考 に示す。 察 光ブリーチング用光源として用いた各ランプ、レーザの出力スペクトルは、表 6.6 に 示 す よ う に 、① D 2 ラ ン プ 、② Xe ラ ン プ 、③ He - Cd レ ー ザ 、の 順 に 短 波 長 領域に存在する。着色中心は吸収帯の山に近い波長の光を照射することにより減 少する 1 6 )。 こ れ は 図 6.12 に 示 す よ う に 光 エ ネ ル ギ ー に よ り 電 子 が 捕 獲 準 位 か ら 導伝帯のすぐ下の励起準位まで励起され、さらに熱的に導伝帯まで励起されてガ ラス中を動いて正孔と再結合するとされている 1 6 ) 。ま た さ ら に 強 い 光 エ ネ ル ギ ー であれば直接導伝帯まで励起されてガラス中を動いて正孔と再結合することも考 え ら れ る 。 図 6.9 (a),(b) 及 び 図 6.10 に 示 す よ う に 、 こ の 測 定 波 長 範 囲 に は 顕 著 111 な 吸 収 帯 の 山 は 現 れ て お ら ず 、 損 失 増 加 の 中 心 と な る 吸 収 帯 の 山 は λ = 0.26 μ m よりもさらに短波長領域に存在する。石英ガラスの紫外光領域に光吸収を持つγ 線誘起欠陥は幾つか存在することが知られているが 1 7 ) 、こ れ ら γ 線 誘 起 欠 陥 の 同 定は未だ議論の決着を見ていないものが殆どであり、これら欠陥と光ブリーチン グの関係も詳細な同定は今後の研究課題として注目されよう。今回の研究では測 定系の難しさなどから個々の光吸収欠陥と光ブリーティングの関係を明らかにす る に は 至 ら な か っ た が 、こ れ ら 0.26 μ m よ り も 短 波 長 に 吸 収 帯 の 山 を 有 す る 欠 陥 に 光 ブ リ ー チ ン グ 光 が 作 用 し た も の と 推 定 す る 。 従 っ て 3 つ の 光 源 の 中 で は D2 ランプがスペクトル範囲として最も有効な領域にある。ところが光ブリーチング 効 果 は Xe ラ ン プ が γ 線 線 量 率 に か か わ ら ず 最 も 大 き か っ た 。こ の Xe ラ ン プ は 3 つの光源のなかで、スペクトル範囲としては中間的存在であり、このことは光量 による依存性を考慮に入れる必要性を示している。 表 6.6 に お い て Xe ラ ン プ と He - Cd レ ー ザ を 比 較 し て み る と 、 フ ァ イ バ か ら の 出 射 光 量 は He - Cd レ ー ザ の 場 合 、 Xe ラ ン プ の 205 倍 、 で あ る が 、 Xe ラ ン プ の 方 が 光 ブ リ ー チ ン グ 効 果 が 大 き い 。 ま た 図 6.9(a),(b) に 示 す よ う に Xe ラ ン プ 、 He - Cd レ ー ザ の 双 方 に お い て 線 量 率 10 4 R/h の 場 合 は わ ず か で は あ る が 光 量 の 依 存 性 を 示 し 、300R/h の 場 合 に は 光 量 の 依 存 性 は 認 め ら れ な い 。し か し こ れ は 変 化させた2水準の光量においてのことであり、もちろん光量0と設定光量との間 で は 依 存 性 を 示 し て い る こ と に な る 。 こ の こ と か ら 光 量 は λ = 0.3 ~ 1.1 μ m の ス ペ ク ト ル 範 囲 に お い て そ の 初 期 出 力 総 和 0.8mw/mm 2 程 度 で 300R/h の 場 合 は 着 色 中 心 に 対 し て 飽 和 状 態 と な り 、10 4 R/h の 場 合 で も 飽 和 に 近 い 程 度 に あ る こ と が わかる。 図 6.13 に 示 す よ う に 、 Xe ラ ン プ と He - Cd レ ー ザ の フ ァ イ バ か ら の 出 力 光 分 布 を 比 較 す る と λ = 0.30 ~ 0.36 μ m に は He - Cd レ ー ザ は 出 力 ス ペ ク ト ル を 有 さ な い 。以 上 よ り 、Xe ラ ン プ と He - Cd レ ー ザ の 光 ブ リ ー チ ン グ 効 果 の 差 は エ ネ ル ギ ー の 高 い 、 λ = 0.30 ~ 0.36 μ m の ス ペ ク ト ル の 存 在 の 有 無 に よ る も の と 考 え ら れ る 。 ま た He - Cd レ ー ザ の ピ ー ク 波 長 の 出 力 光 量 は ピ ー ク を 外 れ た 領 域 ( λ = 0.36 ~ 0.40 μ m 付 近 )の 167 倍 で あ り 、さ ら に He - Cd レ ー ザ の λ = 0.36 ~ 0.40 112 μ m 付 近 の 出 力 光 は Xe ラ ン プ の そ れ よ り も 大 き い 。 こ の こ と か ら He - Cd レ ー ザのピーク波長の光量は着色中心に対して飽和域にあって有効に使われていない こ と に な り 、 む し ろ ピ ー ク 波 長 か ら 外 れ た λ = 0.36 ~ 0.40 μ m 付 近 の ス ペ ク ト ル の 広 が り が 光 ブ リ ー チ ン グ 効 果 に 役 立 っ て い る も の と 推 定 さ れ る 。D 2 ラ ン プ の 効 果 が 少 な か っ た の は 表 6.7 に 示 す よ う に 出 力 光 量 が Xe ラ ン プ の 0.13% 以 下 で あ り、着色中心濃度に対して光量が小さすぎたためであると考えられる。 ま た 最 も 有 効 で あ っ た Xe ラ ン プ を 用 い 、 実 際 の 放 射 線 環 境 下 で の 分 光 分 析 を 想 定 し た 実 験 結 果 を 図 6.10 及 び 、 図 6.11 に 示 す 。 試 料 と し て 用 い た 画 像 光 フ ァ イ バ は 実 際 規 模 に 近 づ け た 4,000 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ ( フ ァ イ バ 2 ) で あ る 。 被 分 析 元 素 の 硼 素 は 発 光 ス ペ ク ト ル を λ = 0.25 μ m 付 近 に 有 し 、 フ ァ イ バ を 用 い た 分 光 分 析 で は こ の 硼 素 の 分 析 可 能 期 間 を 延 ば す こ と が 一 つ の 目 標 と な る 。図 6.11 に 示 す よ う に λ = 0.26 μ m の 損 失 増 加 の 時 間 比 較 を 行 っ た 。Xe ラ ン プ に よ る 光 ブ リーチングにより、ファイバの寿命を5倍以上に延ばすことに成功した。この種 の、直接画像伝送、分析光直接伝送など直接、測定に使用される光以外に、光ブ リーチング効果を強制的に向上させるべく光源を別途配置して効果を最大限発揮 さ せ た 検 討 の 例 は こ れ ま で に 無 く 、今 回 そ の 効 果 を 明 確 化 す る と 同 時 に 、Xe ラ ン プと言う実使用に性能以外にもう一つの要考慮点となるシステム費用などの面も 考慮した光源を用いて5倍もの寿命延長に成功した成果が産業、研究施設分野に もたらす利点は大きいと考える。 さ ら に 、光 ブ リ ー チ ン グ 用 光 源 と し て 3 つ の 光 源 の な か で 最 も 有 効 で あ っ た Xe ラ ン プ を 用 い て 、 室 温 、 7 0 ℃ 加 温 の 2 水 準 に つ い て の 効 果 の 比 較 が 表 6.6 に 示 されている。70℃加温により、室温の場合の1/3に損失が抑えられてことが わかる。この結果により、光エネルギーにより励起準位まで励起された電子が熱 的に導伝帯まで励起される確率が高まることが確認できた。 113 Table 6.6 Experimental results on Fiber 1 Light source Xe Lamap Xenon Lamp He-Cd Laser 0.3---1.1 peak 0.442 0.36---0.65 Output spectrum [μm] (through fiber) Initial output light power [mW/mm2 ](for 10m length fiber) At 0.32μm R/h*2hirradiation) irradiation) (1044R/h×2h (10 Attenuation Increase 28 28℃ ºC [dB/10m] At 0.30 μm (300R/h*1h irradiation) (300R/h×1h irradiation) 70 70℃ ºC 0.8 164 8.9 9.7 D2 Lamp 0.2---0.7 --- under 0.001 ----- 16 2.9 1.8 1.8 2.3 2.6 0.6 --- --- 114 Dark --- Xe Xe (a) 10 4 R/h, 3h irradiation Xe (b) 300R/h, 3h irradiation Fig. 6.9 Light power dependency of the spectral attenuation 115 Xe Fig.6.10 Wavelength increase dependency of attenuation 116 Dosage 300R/h Xe lamp Time [h] Fig. 6.11 Growth of the radiation-induced attenuation at 0.26μm Electron Fig. 6.12 Model for photobleaching 117 Xe Fig. 6.13 Original output spectra 118 6.4 ま と め 本 章 で は 画 像 光 フ ァ イ バ の 放 射 線 施 設 で の 使 用 寿 命 の 延 伸 に つ い て 、(1) フ ァ イ バ そ の も の の 耐 放 射 線 性 能 の 向 上 、(2) 外 部 付 帯 技 術 に よ る フ ァ イ バ 寿 命 延 伸 技 術 の開発、の2面から検討を行い、高耐放射線画像光ファイバの開発と、光ブリー チング効果を利用したファイバ寿命延伸技術の開発について述べた。以下に本研 究で明らかになった点を示す。 1) 高 耐 放 射 線 画 像 光 フ ァ イ バ の 設 計 指 針 を 得 る た め 、こ れ ま で に 例 の な い 、コ ア 、 クラッドそれぞれの材料のγ線照射評価を実施し、耐放射線性能の違いを明ら かとして、高耐放射線性画像光ファイバの最適構造設計方向を示した。 2) 明 確 化 し た 設 計 方 向 に 基 づ い た 画 像 光 フ ァ イ バ の 設 計 と 製 造 工 程 の 最 適 化 に よ り 、従 来 10 4 R 程 度 で あ っ た 使 用 限 界 寿 命 を 10 5 R/h と い う 極 め て 高 い 放 射 線 線 量 率 下 に お い て も 10 8 R 程 度 ま で の 使 用 を 可 能 と す る 大 幅 な 寿 命 の 延 伸 を 可 能 とした高耐放射線画像光ファイバの実現を示した。 3) 高 耐 放 射 線 イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 放 射 線 関 連 環 境 施 設 に お け る 実 使 用 に お い て 重 要となる、線量率、繰り返し照射、波長特性など放射線による依存特性を明ら かにした。 4) 外 部 付 帯 技 術 に よ る フ ァ イ バ 寿 命 延 伸 技 術 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。「 光 ブ リ ー チング効果」の積極利用について検討を行い、従来報告例の無い外部付加光源 を導入した放射線環境での寿命延長策について、光波長、光強度などその最適 光源と効果の評価を実施し、従来比5倍以上の寿命延長に成功した。 119 第6章の参考文献 [1] M. Josephine Yuen, “ Ultraviolet absorption studies of germanium silicate glasses”, Appl. Opt., Vol. 21, No. 1, pp.136-140, (1982). [2] H. Yamashita, H. Mitera and Y. Itoh, “ Radiation-induced loss and color-center concentration in optical fibers” , Electron. Lett., Vol. 19, No. 1, pp.11-12, (1983). [3] P. Dumas, J. Corset, W. Carvalho, Y. Levy and Y. Neuman, “ Fluorine doped vitreous silica analysis of fiber optic preforms by vibrationnal spectroscopy” , J. Non-Crystaline Solids, Vol. 47, No. 2, pp.239, (1982). [4] Y. Tsunawaki, N. Iwamoto, T. Hattori and A. Mitsuichi, “ Analysis of CaO-SiO 2 -CaF 2 glasses by Raman spectroscopy” ,J. Non-Crystalline solids, Vol. 44, pp.369, (1981). [5] N. Shibata, M. Horiguchi and T.Edahiro,“ Raman spectra of binary high-silica glasses and fibers containing GeO 2 ,P 2 O 5 and B 2 O 3 ” , J. Non-Crystalline Solids, Vol.45, pp.115, (1981). [6] Y. Chigusa, M. Watanabe, M. Kyoto, M. Ooe, T.Matsubara, S. Okamoto and T. Yamamoto,“ Gamma-ray and neutron irradiation characteristics of pure silica core single mode fiber and its life time estimation” , IEEE Trans. on Nuclear Science, Vol. 35, No.1, pp.894-897, (1988). [7] Y. Chigusa, K. Fujiwara, Y. Hattori and Y. Matsuda, “ Properties of silica glass image fiber and its application”, Optoelectronics-Device and Technologies, Vol. 1, No. 2, pp.203-216, (1986) [8] Y.Chigusa,K.Fujiwara,G.Tanaka,Y.Hattori and Y.Matsuda, “Radiation-resistant characteristics of image fiber”, IEEE 1984 Annual Report, Conference on Electrical Insulation and Dielectric Phenomena, pp.77-84, (1984). [9] 千 種 佳 樹 、 藤 原 国 生 、 田 中 豪 太 郎 、 服 部 保 次 、 松 田 裕 男 、“ イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 放 射 線 特 性 ( 2 )”、 電 気 学 会 研 究 会 資 料 、 電 気 学 会 絶 縁 材 料 研 究 会 120 EIM-84-32, pp.33-44,3 月 ( 1984) . [10] 千 種 佳 樹 、 藤 原 国 生 、 田 中 豪 太 郎 、 服 部 保 次 、 松 田 裕 男 、“ イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 放 射 線 特 性 ( 3 )”、 電 気 学 会 研 究 会 資 料 、 電 気 学 会 絶 縁 材 料 研 究 会 EIM-85-36, pp.91-97,4 月 ( 1985) . [11] S.Hayashi, Y.Wada,Y.Chigusa, K.Fujiwara, Y.Hattori, and Y.Matsuda, “Photobleaching effects on radiation-induced loss for silica glass image fiber”, ASTM Special Technical Publication 956[13 t h international symposium on influence of radiation on material properties] (American Society for Testing and Materials), pp.647-653, (1987). [12] 林 正 太 郎 、 和 田 幸 男 、 千 種 佳 樹 、 藤 原 国 生 、 服 部 保 次 、“ イ メ ー ジ フ ァ イ バ の フ ォ ト ブ リ ー チ ン グ 効 果 ”、 電 気 学 会 研 究 会 資 料 、 電 気 学 会 絶 縁 材 料 研 究 会 EIM-85-145, pp.51-58,12 月 ( 1985) . [13] Y.Chigusa, “Image fiber reduced in irradiation-induced loss by photobleaching”, Optical Fiber Technology, Vol.12,(2005). 採録決定. [14] K. Matsui, H. Kanamori, H. Yokota, M. Kyoto, G. Tanaka and M. Watanabe, “ Radiation characteristics of optical fibers” , Proc. Symposium on the studies of dielectric materials, JIEE , EIM-85-33, pp.67-74,(1985). [15] H. Yashima, H. Mitera, and H.Nakano, “ Gamma-ray induced loss and its recovery property in optical fibers”, Proc. Symposium on the studies of dielectric materials, JIEE, EIM-84-30, pp.25-31,(1984) [16] Glass Technology Handbook, Asakura Shoten, p.141 [17] R.A. Weeks and E. Sonder, “ Electron paramagnetic resonance of color center” , Proc. Symposium on Paramagnetic resonance, Vol. 2 Academic Press, New York, pp.869, (1963). 121 第7章 結論 本論文では石英ガラス光ファイバの光伝送損失及び画像直接伝送特性について の検討を述べ、それら性能の向上を図ることで、従来の使用限界を打ち破り、石 英ガラス光ファイバの新たな領域への適用拡大の実現について述べた。内容は次 のようである。 第 1 章では、石英ガラス光ファイバの特徴とその適用分野について紹介し、そ の歴史的背景と現在の問題点及び本研究の目的を述べた。 第 2 章では、低損失、高耐環境性という石英ガラスの二大特性に焦点をあて、 通信用石英ガラス光ファイバについて述べた。純粋石英コア型光ファイバの設 計・製造の最適化により、極低損失記録を樹立した。そして低損失光ファイバの 利点を最大限引き出し得る無中継光伝送システムについて、低損失・低非線形性 純 粋 石 英 コ ア 型 光 フ ァ イ バ と 前 置 増 幅 器 に 後 方 向 励 起 分 布 型 Raman 増 幅 器 を 用 いた無中継可能伝送距離について模擬計算を実施することで低損失・低非線形性 純粋石英コア型光ファイバの優位性を示した。また、光ファイバシステムの放射 線施設などでのγ線、中性子線による影響を評価し、放射線施設や海底光ケーブ ル シ ス テ ム な ど で の 低 線 量 率 ×長 期 間 に お け る 信 頼 性 推 定 手 法 に つ い て 述 べ た 。 第 3 章 で は 、 ITU-T 規 格 G.652C,D に 対 し て 全 適 合 の 低 OH 吸 収 純 粋 石 英 コ ア 型 単一モード光ファイバの開発と光ファイバシステムの運用中、必須の要件となる そ の 耐 H2 性 能 を 中 心 に 述 べ た 。 脱 水 工 程 を 中 心 と し た 製 造 方 法 の 最 適 化 に よ り 、 従 来 達 成 で き な か っ た 、ITU-T 規 格 G.652.C,D 仕 様 全 準 拠 、低 OH 吸 収 広 帯 域 低 損 失 純 粋 石 英 コ ア 型 光 フ ァ イ バ の 試 作 に 成 功 し 、 純 粋 石 英 コ ア ガ ラ ス か ら OH 吸 収 を 除 去 す る 脱 水 工 程 の 強 化 を 図 っ て も 、 製 造 工 程 の 最 適 化 に よ り SiO 2 本 来 の 安 定 さ を 保 ち 得 る こ と を 明 ら か に し た 。そ し て 広 波 長 帯 域 無 中 継 伝 送 を 可 能 と す る た め に 必 須 の Raman 増 幅 の 導 入 に 対 し て 検 討 を 行 い 、 純 粋 石 英 が 持 つ Ge 添 加 石 英 と 122 の 屈 折 率 材 料 分 散 特 性 の 違 い か ら く る 自 由 度 を 生 か した設計を施し、加えて秀でた低 損失性を生かすことで高効率 Raman 増幅の実現性を示した。 第 4 章 で は 、 ス テ ッ プ イ ン デ ッ ク ス 型 極 小 MFD 光 フ ァ イ バ の 設 計 と そ の フ ァ イ バ 特 性 そ し て 開 発 し た FTTx 用 細 径 ・ 軽 量 光 ケ ー ブ ル の 特 性 に つ い て 述 べ た 。 純 粋 石 英 の 、Ge 添 加 石 英 と は 異 な る 屈 折 率 材 料 分 散 特 性 を 生 か す こ と で 、従 来 の 汎 用 ス テ ッ プ イ ン デ ッ ク ス 構 造 Ge 添 加 コ ア 石 英 単 一 モ ー ド フ ァ イ バ で は 不 可 能 な 範 囲 の MFD の 極 小 径 化 を 可 能 と し 得 る フ ァ イ バ の 開 発 に よ り 、 高 耐 曲 げ 性 能 の実現に成功した。そしてこのファイバを用いて、従来ケーブル比顕著な差の軽 量・細径化光ケーブルの実現について述べた。 第 5 章では、高画質25万画素画像光ファイバの開発とその特性、及び石油精 製工場への適用とその実用性について述べた。これまでに報告例の無い、通常の テレビ解像度に匹敵する25万画素という高解像度の、しかも可撓性に優れた長 尺 石 英 ガ ラ ス 画 像 光 フ ァ イ バ の 開 発 に 成 功 し た 。ま た MTF( Modulation Transfer Function )手 法 を 使 っ た 高 精 度 画 像 定 量 評 価 装 置 を 開 発 し 、画 像 光 フ ァ イ バ の 汎 用 的・高 精 度 画 質 定 量 評 価 を 可 能 と し 、25 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ の 画 質 定 量 評 価 を 通 じ て そ の 高 画 質 性 能 を 示 し た 。 そ し て 開 発 し た 25 万 画 素 画 像 光 フ ァ イ バ を 石油精製工場の石油精製汚泥処理設備である石油精製汚泥処理回転炉内部の火炎 燃焼状態監視への実システムに適用して、一ヶ月の連続評価を経てその高い信頼 性を確認し、実用性を示した。 第 6 章 で は 、 画 像 光 フ ァ イ バ の 放 射 線 施 設 で の 使 用 寿 命 の 延 伸 に つ い て 、 (1) フ ァ イ バ そ の も の の 耐 放 射 線 性 能 の 向 上 、(2) 外 部 付 帯 技 術 に よ る フ ァ イ バ 寿 命 延 伸技術の開発、の2面からの検討について述べた。画像光ファイバの設計と製造 工 程 の 最 適 化 に よ り 、従 来 10 4 R 程 度 で あ っ た 使 用 限 界 寿 命 を 10 5 R/h と い う 極 め て 高 い 放 射 線 線 量 率 下 に お い て も 10 8 R 程 度 ま で の 使 用 を 可 能 と す る 大 幅 な 寿 命 の延伸を可能とした高耐放射線画像光ファイバの実現を示した。さらに、従来報 告例の無い外部付加光源を導入した「光ブリーチング効果」の利用にて、放射線 環境での寿命延長策を検討し、従来比5倍以上の寿命延長に成功した。 以上述べてきたように、本研究において開発された技術は石英ガラス光ファイ 123 バの各分野での適用拡大を図り、高まる分野への期待に貢献するものである。 124 謝辞 本研究をまとめるに際して、終始懇切にご指導とご鞭撻を賜りました静岡大学 工学部の佐々木彰教授に心から感謝申し上げます。 本論文に関して有益なご討論とご指導を賜った静岡大学工学部の岡本尚道教授、 大坪順次教授、川田善正教授、大岩孝彰教授に厚く御礼申し上げます。 本研究は住友電工株式会社光通信研究所(旧横浜研究部、旧横浜研究所)にお いて行ったものであり、研究所長として本研究の機会を与えて下さいました倉内 憲孝住友電工(株)顧問、福富秀雄元横浜研究所長、榛葉弘元横浜研究所長、星 川 正 雄 住 友 電 工( 株 )顧 問 、矢 野 宏 司 元 横 浜 研 究 所 長 、増 田 重 雄 元 横 浜 研 究 所 長 、 坂本光元横浜研究所長、天野嘉一日新電機(株)専務取締役、戸田祐一住電ハイ プレシジョン(株)代表取締役社長、桑原透住友電工(株)執行役員、田中茂住 友電工(株)常務執行役員、西村正幸住友電工(株)光通信研究所長には、ここ に感謝の意を表します。木村壽秀住友電工(株)専務取締役研究開発本部長、西 村昭住友電工(株)常務執行役員、田中茂住友電工(株)常務執行役員そして西 村正幸住友電工(株)光通信研究所長には、本論文の執筆の機会を賜りました。 この場を借りて深く感謝致します。 また入社以来、上司として多大なご指導、ご助言をいただきました故藤本登喜 男 元 横 浜 研 究 部 映 像 情 報 シ ス テ ム 開 発 室 長 、藤 原 国 生 元 横 浜 研 究 所 線 路 研 究 部 長 、 吉村耕三住電ハイプレシジョン(株)常務取締役、鈴木修三清原住電(株)代表 取締役社長、渡辺稔住電知材テクノ(株)社長、田中豪太郎元横浜研究所主任研 究員、京藤倫久住友電工研究開発副本部長、宮島義昭住友電工(株)研究開発本 部支配人、服部保次住友電工(株)知的財産部主幹、横田弘トヨクニ電線(株) 副 事 業 部 長 、松 田 裕 男 住 友 電 工( 株 )研 究 企 画 部 長 補 佐 、金 森 弘 雄 住 友 電 工( 株 ) 回路製品部長に深く感謝致します。 本 研 究 の 遂 行 に あ た り 私 は「 製 造 技 術 」、 「 評 価・測 定 技 術 」を 主 務 と し 、 「設計 125 技 術 」、「 増 幅 技 術 」 な ど に つ い て は 共 同 研 究 者 諸 氏 ( 住 友 電 工 ( 株 ) 光 通 信 研 究 所の笹岡英資、大西正志の各グループ長、角井素貴主席、佐々木主査、横川知之 主 査 、樽 稔 樹 氏 、山 本 義 典 氏 、光 通 信 事 業 部 大 江 将 元 グ ル ー プ 長 、松 井 雅 彦 主 席 、 小谷野主査、研究企画部斎藤達彦主席、伝送デバイス研究所福田智恵主査、光機 器事業部柏田智徳グループ長、永山勝也九州工業大学助教授)の有益な助言、討 論とご協力に支えられ遂行することができた。ここに厚く感謝致します。 また、放射線の照射試験に際してご助言、ご協力を頂きました岡本信一元大阪 府立大学教授、住田健二大阪大学名誉教授に深く感謝致します。 最後に本研究を遂行するに当たっては、住友電工(株)光通信研究所、光通信 事業部、研究開発本部の諸兄をはじめ、多くの方々にご助言、ご協力を頂きまし た。ここに謹んで感謝致します。 126 著者の石英ガラス光ファイバとその適用に関する論文 1) K.Nagayama, M.kakui, M.Matsui, T.Saitoh and Y.Chigusa “Ultra-low-loss (0.1484dB/km) pure silica core fiber and extension of transmission distance”, Electronics letters (IEE), Vol.38, No.20, pp.1168-1169, Sep. (2002). 2) K.Nagayama, M.Kakui, M.Matsui, T.Saitoh and Y.Chigusa, “Ultra-low-loss (0.151dB/km)pure silica core fiber and extension of transmission distance”, Technical Digest of OFC2002, post deadline paper FA10,(2002). 3) Y.Chigusa, M.Watanabe, M.Kyoto, M.Ooe , T.Matsubara, S.Okamoto, T.Yamamoto, T.Iida, K.Sumita, “γ -ray and neutron irradiation characteristics of pure silica core single mode fiber and its life time estimation”, Transaction on Nuclear Science (IEEE), Vol.35, No1, pp.894-897, Feb. (1988). 4) C.Fukuda, Y.Koyano, T.Kashiwada, M.Onishi, Y.Chigusa, H.Kanamori, S.Okamoto, “Hydrogen and radiation resistance of erbium-doped fibers”, Technical Digest of OFC1994, paper FF3, (1994). 5) Y.Chigusa, K.Nakazato, S.Hirai, M.Watanabe, S.Suzuki, “ Fluorescence and amplification characteristics of Er doped fluoride fibers” Conference on optical amplifiers and their applications(IEEE),Technical digest series volume 13,Paper TuD4,Aug.(1990). 6) Y.Chigusa, Y.Yamamoto, T.Yokokawa, T.Sasaki, T.Taru, M.Hirano, M.Onishi and E.Sasaoka, “Low-loss Pure-Silica-Core Fibers and Their Possible Impact on Transmision Systems,” Journal of Ligthtwave Technology(IEEE/OSA) , Vol. 23, No11, pp.3541-3550, Nov.( 2005). 7) Y.Matsuda, Y.Hattori, and Y.Chigusa, “High-resolution Silica Image Fiber”in Technical Digest, Conference on Optical Fiber Communication,(Optical Society of America,Washington,D.C,), paper TUN12, (1984). 8) Y.Matsuda, K.Fujiwara, Y.Hattori and Y.Chigusa, “High-resolution Silica Image Fiber”, in Technical Digest, Conference on Optical Fiber Communication, 127 (Optical Society of America,Washington,D.C,),paper TUB5,(1986). 9) K.Fujiwara, T.Fujimoto,K.Yoshimura, Y.Hattori, M.Kyoto, T.Kadota, Y.Matsuda and Y.Chigusa, “ Remote monitoring of furnace interiors by high-resolution silica image fiber”, in Technical Digest, 4 t h International Conference on Optical Fiber Sensors( Institute of Electronics and Communication Engineers of Japan) pp.147-150,(1986). 10) Y.Hattori, Y.Mtsuda, Y.Chigusa, “Modulation Transfer Function (MTF) measurement of Silica Glass Image Fiber”, in Technical Digest, 4 t h International Conference on Optical Fiber Sensors( Institute of Electronics and Communication Engineers of Japan) pp.327-330,(1986). 11) Y.Chigusa, K.Fujiwara, Y.Hattori and Y.Matsuda “Properties of Silica Glass Image Fiber and Its Application”, OPTOELECTRONICS-Devices and Technologies, Vol.1, No2, pp.203-216, Dec., (1986). 12) Y.Chigusa, K.Fujiwara, G.Tanaka, Y.Hattori and Y.Matsuda, “Radiation-resistant characteristics of image fiber”, IEEE 1984 Annual Report, Conference on Electrical Insulation and Dielectric Phenomena, pp.77-84, (1984). 13) S.Hayashi, Y.Wada, Y.Chigusa, K.Fujiwara, Y.Hattori, and Y.Matsuda, “Photobleaching effects on radiation-induced loss for silica glass image fiber”, ASTM Special Technical Publication 956[13 t h international symposium on influence of radiation on material properties] (American Society for Testing and Materials), pp.647-653, (1987). 14) Y.Chigusa, “Image fiber reduced in irradiation-induced loss by photobleaching”, Optical Fiber Technology, Vol.12, pp117-121, (2006). 15) 千 種 佳 樹 、 藤 原 国 生 、 田 中 豪 太 郎 、 服 部 保 次 、 松 田 裕 男 、“ イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 放 射 線 特 性 ( 2 )”、 電 気 学 会 研 究 会 資 料 、 電 気 学 会 絶 縁 材 料 研 究 会 EIM-84-32, pp.33-44,3 月 ( 1984) . 16) 千 種 佳 樹 、 藤 原 国 生 、 田 中 豪 太 郎 、 服 部 保 次 、 松 田 裕 男 、“ イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 放 射 線 特 性 ( 3 )”、 電 気 学 会 研 究 会 資 料 、 電 気 学 会 絶 縁 材 料 研 究 会 128 EIM-85-36, pp.91-97,4 月 ( 1985) . 17) 林 正 太 郎 、 和 田 幸 男 、 千 種 佳 樹 、 藤 原 国 生 、 服 部 保 次 、“ イ メ ー ジ フ ァ イ バ の フ ォ ト ブ リ ー チ ン グ 効 果 ”、電 気 学 会 研 究 会 資 料 、電 気 学 会 絶 縁 材 料 研 究会 EIM-85-145, pp.51-58,12 月 ( 1985) . 18) 千 種 佳 樹 、京 藤 倫 久 、渡 辺 稔 、松 原 健 夫 、吉 村 耕 三 、住 田 健 二 、飯 田 敏 行 、 “ 純 SiO2 コ ア SM フ ァ イ バ の 中 性 子 線 照 射 特 性 ”、 電 子 情 報 通 信 学 会 総 合 全 国 大 会 、 論 文 1053、 3 月 (1987). 19) 福 田 智 恵 、 千 種 佳 樹 、 柏 田 智 徳 、 大 西 正 志 、 金 森 弘 雄 、 岡 本 信 一 、“ Er 添 加 フ ァ イ バ の 耐 放 射 線 特 性 ”、 電 子 情 報 通 信 学 会 春 季 大 会 、 論 文 C-394、 3 月 (1994). 129 著者の石英ガラス光ファイバとその適用に関する特許一覧 以 下 に 本 研 究 に 関 し 、出 願 し た 特 許 の 一 覧 を 記 す 。発 明 登 録 有 効 期 間 中 の 5) ~ 10) に つ い て は 特 許 番 号 を 記 載 し 、 発 明 登 録 有 効 期 間 の 満 了 し た 1) ~ 4) に つ い て は 公 告 番 号 を 記 載 し た 。ま た 11) ~ 20) は 出 願 後 審 査 未 請 求 で あ り 、公 開 番 号 を 記 載した。 1 ) 特 公 平 2-1099 、「 イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 製 造 方 法 」、 千 種 佳 樹 、 1983 年 10 月 3日出願. 2 ) 特 公 平 3-10580 、「 イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 製 造 方 法 」、 千 種 佳 樹 、 1984 年 7 月 16 日 出 願 . 3 ) 特 公 平 7-107568 、「 イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 製 造 方 法 」、 千 種 佳 樹 、 1986 年 6 月 25 日 出 願 . 4 ) 特 公 平 8-12301 、「 石 英 系 イ メ ー ジ フ ァ イ バ 」、 千 種 佳 樹 、 1987 年 2 月 2 日 出願. 5 ) 特 許 第 2542679 号 、「 光 フ ァ イ バ 線 引 炉 」、 千 種 佳 樹 、 1988 年 6 月 22 日 出 願. 6 ) 特 許 第 2754551 号 、「 光 フ ァ イ バ の 製 造 方 法 」、 千 種 佳 樹 、 1988 年 2 月 2 日出願. 7 ) 特 許 第 2765033 号 、「 光 フ ァ イ バ の 線 引 方 法 」、 吉 村 一 朗 、 松 田 裕 男 、 千 種 佳 樹 、 1989 年 4 月 14 日 出 願 . 8 ) 特 許 第 2985667 号 、「 光 フ ァ イ バ 用 ガ ラ ス 母 材 の 製 造 方 法 」、 石 川 真 二 、 千 種 佳 樹 、 中 村 元 宣 、 1994 年 6 月 16 日 出 願 . 9 ) 特 許 第 3098770 号 、「 希 土 類 元 素 含 有 ガ ラ ス の 製 造 方 法 」、 向 後 隆 司 、 千 種 佳 樹 、 1990 年 11 月 26 日 出 願 . 1 0 ) 特 許 第 3379647 号 、「 光 フ ァ イ バ 製 造 方 法 」、 向 後 隆 司 、 千 種 佳 樹 、 1990 年 、 9 月 27 日 出 願 . 1 1 ) 特 開 昭 60-75801 、 「 イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 製 造 方 法 」、千 種 佳 樹 、 1983 年 10 130 月 3 日出願. 1 2 ) 特 開 昭 60-75803 、 「 イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 製 造 方 法 」、千 種 佳 樹 、 1983 年 10 月 3 日出願. 1 3 ) 特 開 昭 61-17437 、「 イ メ ー ジ フ ァ イ バ の 製 造 方 法 」、 千 種 佳 樹 、 1984 年 7 月 2 日出願. 1 4 ) 特 開 昭 62-191786 、 「 放 射 線 漏 洩 位 置 検 出 装 置 」、千 種 佳 樹 、 1986 年 、 2 月 19 日 出 願 . 1 5 ) 特 開 昭 62-249111 、「 耐 放 射 性 イ メ ー ジ フ ァ イ バ 」、 千 種 佳 樹 、 1986 年 4 月 22 日 出 願 . 1 6 ) 特 開 昭 64-76932 、 「 耐 放 射 線 性 光 フ ァ イ バ の 製 造 方 法 」、大 江 将 元 、京 藤 倫 久 、 千 種 佳 樹 、 1987 年 9 月 17 日 出 願 . 1 7 ) 特 開 平 1-107210 、 「 耐 環 境 性 光 フ ァ イ バ 」、大 江 将 元 、京 藤 倫 久 、千 種 佳 樹 、 1987 年 10 月 21 日 出 願 . 1 8 ) 特 開 平 1-107211 、 「 耐 環 境 性 光 フ ァ イ バ 」、大 江 将 元 、京 藤 倫 久 、千 種 佳 樹 、 1987 年 10 月 21 日 出 願 . 1 9 ) 特 開 平 1-107217 、 「 耐 環 境 性 ス テ ッ プ イ ン デ ッ ク ス 型 光 フ ァ イ バ 」、大 江 将 元 、 京 藤 倫 久 、 千 種 佳 樹 、 1987 年 10 月 21 日 出 願 . 2 0 ) 特 開 平 16-161545 、 「 光 フ ァ イ バ の 線 引 き 方 法 及 び 線 引 き 装 置 」、桑 原 一 也 、 千 種 佳 樹 、 2002 年 11 月 13 日 出 願 . 131 論文中の略語一覧 PSCF: Pure Silica Core Fiber (純 粋 石 英 コ ア 単 一 モ ー ド 光 フ ァ イ バ ) FTTx: Fiber To The Home, Fiber To The Premise, Fiber To The Desk, 他 WDM: Wavelength-Division-Multiplexing(波 長 多 重 ) DWDM: Dense WDM( 高 密 度 波 長 多 重 ) CWDM: Coarse WDM( 低 密 度 波 長 多 重 ) EDF: Er Doped Fiber( 光 増 幅 用 Er 添 加 光 フ ァ イ バ ) DCF: Dispersion Compensation Fiber( 分 散 補 償 光 フ ァ イ バ ) ITU-T: International Telecommunication Union-Telecommunication Sector( 国 際 電 気通信連合電気通信標準化部門) MFD: Mode Field Diameter( シ ン グ ル モ ー ド 光 フ ァ イ バ の 伝 搬 モ ー ド の 分 布 ) ITV: Industrial Television( 工 業 用 テ レ ビ ジ ョ ン ) MTF: Modulation Transfer Function( 光 の 周 波 数 応 答 ) CVD: Chemical Vaper-phase Deposition ( 化 学 気 相 積 層 法 ) MCVD: Modified Chemical Vapor-phase Deposition( 改 良 型 化 学 気 相 積 層 法 ) Aeff: A effect (コ ア 有 効 断 面 積 ) Δ n: 比 屈 折 率 差 Ge-SMF: Ge 添 加 コ ア 型 汎 用 単 一 モ ー ド 光 フ ァ イ バ EDFA: Er Doped Fiber Amplifier(Er 添 加 光 フ ァ イ バ 増 幅 器 ) DRA: Distributed Raman Amplifier(後 方 向 励 起 分 布 型 Raman 増 幅 器 ) NF: Noise Figure( 雑 音 指 数 ) PMD: Polarization Mode Dispersion(偏 波 モ ー ド 分 散 ) g R : Raman 利 得 FOM r: Figure Of Merit of Raman(Raman 増幅の性能指数) PBT: Polybutylene terephtalate HDPE: High Density Polyetylene(高 密 度 ポ リ エ チ レ ン ) VAD: Vapor-phase Axial Deposition(気 相 軸 付 け 法 ) 132 N.A: Numerical Aperture(光 フ ァ イ バ の 開 口 数 ) LSF: Line Spread Function(画 像 伝 送 光 フ ァ イ バ の ス リ ッ ト 伝 送 像 ) lp: line pair(白 と 黒 の 線 の 対 ) 133
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