2015・2016 年度の全国・中国地域の経済見通し (2016 年 1 月) 最新の経済情勢を織り込み,当研究所の計量経済モデルを用いて,2015・2016 年度の全国・中 国地域の経済見通しを以下のとおりまとめたので報告する。 <中国地域経済は緩やかなプラス成長が続く> (2015 年度) ∼2 年ぶりのプラス成長となるものの,中国経済の減速が重石に∼ 中国経済の減速を受けて輸出が伸び悩むことなどから,移出入(純)は減少する。民間設備投資 は好調な企業業績を背景に老朽化設備の維持・更新投資を中心に増加するものの,原油安などを受 けた金融市場の混乱により先行き不透明感が高まったことから計画を先送りする動きもでてくる。 民間最終消費や民間住宅投資といった家計部門は,雇用所得環境の改善や消費税率引き上げの影響 一巡で持ち直す。 中国地域の実質経済成長率は,前年比+0.9%と 2 年ぶりにプラス成長となるものの,中国経済の 減速が重石となるため 1%割れの成長率にとどまる。 (全国:前年比+1.0%) (2016 年度) ∼堅調な域内需要を背景に緩やかなプラス成長∼ 民間設備投資は維持・更新投資が中心となるものの,省力化投資や航空機関連など成長分野への 投資も増加する。民間最終消費や民間住宅投資は雇用所得環境の着実な改善に加え,2017 年 4 月に 予定されている消費税率引き上げ前の駆け込み需要を追い風に堅調に推移する。一方で,移出入 (純)は中国地域外から耐久消費財等の調達(移輸入)が増加するため減少する。 中国地域の実質経済成長率は,域内需要が堅調に推移することから,前年比+1.2%と 2 年連続の プラス成長となる。 (全国:前年比+1.2%) リスク要因としては,中国をはじめとした海外経済の下振れや一段の原油安などによりリスク回 避の動きが強まって想定以上の円高が進行することなどが挙げられる。 (%) 6 中国地域 域内総支出(前年比) 4.2 3.9 4 予測 2.6 2.4 2 1.4 0.4 2.4 0.9 1.2 1.6 -2 -0.8 -2.1 1.4 2 -2 -2.8 -2.3 -4 -6 予測 実質 -4.3 名目 -8 09 10 11 12 13 14 (年度) 15 16 -4 -2.0 2.0 1.7 1.5 0.0 2.5 1.0 1.2 1.8 -1.0 -1.3 -3.2 実質 -6 名目 -8 09 注:中国地域の 12 年度までは公表値。13,14 年度の値は当研究所の推計値 資料:内閣府「国民経済計算」 「県民経済計算」 13 ■エネルギア地域経済レポート No.499 2016.2 0.9 0.4 0 0 国内総支出(前年比) 3.5 4 1.7 全国 (%) 6 10 11 12 13 14 (年度) 15 16 調査レポート ○2015・2016年度の全国・中国地域の経済見通し(総括表) (上段: 兆円,下段:対前年伸び率 %) 中国地域 2014年度 (推計) 2015年度 (予測) 全 国 2016年度 (予測) 2014年度 (実績) 2015年度 (予測) 2016年度 (予測) 名目域内(国内)総支出 28.57 (1.4) 29.25 (2.4) 29.73 (1.6) 489.6 (1.5) 501.7 (2.5) 510.6 (1.8) 実質域内(国内)総支出 30.97 (-0.8) 31.25 (0.9) 31.64 (1.2) 524.7 (-1.0) 529.9 (1.0) 536.1 (1.2) 民間最終消費 17.58 (-3.4) 17.64 (0.3) 17.93 (1.7) 307.1 (-2.9) 308.0 (0.3) 313.0 (1.6) 民間住宅投資 0.62 (-16.9) 0.64 (3.4) 0.66 (3.9) 13.1 (-11.7) 13.6 (3.5) 14.1 (3.7) 民間設備投資 3.94 (3.1) 3.98 (1.1) 4.11 (3.2) 70.7 (0.1) 71.7 (1.4) 73.8 (2.9) 公的固定資本形成 1.19 (-4.0) 1.20 (0.5) 1.15 (-3.9) 21.8 (-2.6) 21.8 (0.2) 21.4 (-1.8) 移出入(純) 1.41 (43.6) 1.32 (-6.4) 1.10 (-16.6) 輸出 − − − 91.7 (7.8) 93.0 (1.4) 96.1 (3.3) 輸入 − − − 80.3 (3.3) 81.2 (1.0) 85.1 (4.8) 内需寄与度(%) − − − -1.6 0.9 1.3 外需寄与度(%) − − − 0.6 0.1 -0.1 93.3 (2.5) 94.7 (1.5) 95.2 (0.6) 域内(国内)総支出 デフレーター 国内企業物価指数 (2010年=100) 消費者物価指数 (2010年=100) 92.2 (2.2) 93.6 (1.5) − 93.9 (0.4) − − − − − 105.3 (2.8) 102.1 (-3.0) 101.4 (-0.7) − − − 103.4 (3.0) 103.5 (0.1) 104.3 (0.8) 注:1.実質値,デフレーターは全国:連鎖方式(2005年基準),中国地域:固定基準年方式(2005年基準)による。 2.公的固定資本形成とは,公共事業など,政府や自治体が行う社会資本整備などの投資をいう。 3.中国地域の「移出入(純)」は「移輸出」から「移輸入」を差し引いたもの。 「移輸出(移輸入)」とは,輸出(輸入),国内他地域向け(他地域から域内へ)の製品出荷額・販売額, 他地域の居住者の(居住者の域外での)観光消費などからなる。 ○主要前提条件 ・米国実質成長率…… 雇用所得環境の改善を背景に堅調に推移 ・為替レート………… リスク回避の動きで,やや円高 ・原油価格…………… 供給過剰を背景に下落 ・金融政策…………… 緩和的な金融政策が継続 ・消費税率…………… 2017年4月に10%へ引き上げ 2014年度 2015年度 2016年度 (実績) (予測) (予測) 米国実質経済成長率(%) 2.4 2.5 2.6 為替レート(¥/$) 110 121 119 原油価格($/バレル) 90.4 51 42 注:1.米国実質経済成長率は暦年値 2.原油価格は輸入通関価格 エネルギア地域経済レポート No.499 2016.2■ 14 1.中国地域経済の現状1 ∼概ね横ばいの動き∼ ○企業部門(図表 1,2,3) 図表 2 輸出と鉱工業生産(中国地域) 18000 16000 (億円) (2010年=100) 120 通関輸出額 115 14000 110 12000 105 調査時まで改善傾向を示しているものの,先行き 10000 100 は悪化が見込まれている。輸出額は中国経済の減 8000 95 6000 90 業況判断 D.I.は製造業,非製造業ともに 12 月 速などを受けて伸び悩んでいる。生産活動は輸出 4000 の伸び悩みや在庫調整の長期化を背景に横ばい 2000 で推移している。設備投資は基調としては増加し 0 ているものの,増勢は鈍化している。 80 75 09 14 15 (年・四半期) 資料:神戸税関「貿易統計」,中国経済産業局「鉱工業生産動向」 ○家計部門(図表 3,4) 雇用所得環境は着実に改善している。住宅投資 85 鉱工業生産指数(季)(右目盛) 10 11 12 13 図表 3 設備投資と住宅投資(中国地域) は消費税率引き上げの影響が一巡したため持ち (億円) 4000 新設住宅着工戸数(右目盛) 3500 直している。個人消費は天候不順の影響で一時的 3000 1.2 2500 1.0 2000 0.8 1500 0.6 に弱い動きもみられたが,底堅く推移している。 ○総括 1.4 0.4 1000 中国地域では,家計部門は緩やかに持ち直して いるものの,企業部門が海外経済の減速の影響で 500 0 いの動きとなっている。 図表 1 業況判断 D.I.(中国地域) 全体 20 0 0.2 ※太線は後方4期移動平均 10 11 12 0.0 13 14 15 (年・四半期) 注:設備投資は中国地域に本社のある資本金 10 億円以上の企業 (回答企業のみ) 資料:中国財務局「法人企業統計調査」 ,国土交通省「住宅着工統 計」 図表 4 有効求人倍率と消費総合指数 (中国地域) (%ポイント) 製造業 民間設備投資額 09 一部弱含んでおり,全体でみると景気は概ね横ば 40 (万戸) 1.6 (2005年度=100) 115 (倍) 1.6 有効求人倍率(季) (右目盛) 110 1.2 -20 -40 非製造業 -60 -80 0.8 105 0.4 100 消費総合指数(季) ※業況判断D.I.=景気が「良い」(%)−「悪い」(%) 0.0 95 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年・四半期) 注:最終期(16 年 1Q)の値は企業の予測値 資料:日本銀行広島支店「企業短期経済観測調査結果の概要」 1 足元の経済状況は,本誌「経済情勢」 (p.27∼)も参照されたい。 15 ■エネルギア地域経済レポート No.499 2016.2 09 10 11 12 13 14 15 (年・四半期) 注:消費総合指数の四半期値は各月の平均値 資料:厚生労働省「一般職業紹介状況」 ,内閣府 調査レポート 2.中国地域経済の見通し (1)主な前提条件 ○海外経済(図表 5) 図表 5 欧米と中国の実質経済成長率の推移 (%) 15 10 中国 ∼欧米経済は堅調,中国経済は減速∼ 米国経済はドル高による輸出の伸び悩みや原 油安に伴うエネルギー関連産業の設備投資減少 5 0 などが足かせとなるものの,雇用所得環境の改善 -5 によって個人消費が増加するため,堅調に推移す -10 る。2015 年の実質経済成長率は+2.5%,2016 年 米国 欧州 -15 は+2.6%と想定した。 09 10 11 12 13 欧州経済は雇用環境の改善や原油安で個人消 費が底堅く推移するほか,追加の金融緩和策も追 い風となって 1%台半ばの成長が続くと想定した。 14 15 (年・四半期) 注:1.欧州はユーロを使用する 19 ヵ国 2.米国,欧州は前期比年率,中国は前年比の成長率 資料:米国商務省,ユーロスタット,中国国家統計局 図表 6 原油価格の推移 中国は投資依存型経済から消費主導型経済へ (ドル/バレル) の構造変化が進展しており,不動産投資や設備投 160 資の減速が避けられない。2015 年の実質経済成長 140 率は+6.9%,2016 年は+6.5%と想定した。 120 通関輸入原油価格 (2015/11) 47.5 100 80 ○原油価格(図表 6) 60 ∼供給過剰を背景に下落∼ 40 中国経済の減速で原油需要が伸び悩む一方, OPEC の減産見送りやイラン産原油の市場流入, 0 09 シェールオイル生産の高止まりなどで原油供給 は増大する。供給過剰状況が続くため,通関輸入 WTI(米国産標準油種) (2015/12) 37.3 20 11 ∼リスク回避の動きで,やや円高∼ 13 14 15 (年・月) 図表 7 為替レート等の推移 (%) 3.0 (円/ドル) 130 2.5 ○為替レート〔円ドル〕 (図表 7) 12 資料:米国エネルギー省,財務省 原油価格は,2015 年度は 51 ドル/バレル,2016 年度は 42 ドル/バレルまで下落すると想定した。 10 120 為替レート(右目盛) 2.0 110 1.5 100 2016 年に入り,中国経済の減速や原油安を懸念 1.0 90 FF レート誘導目標 (FRB ) したリスク回避の動きが強まり,円高が進んでい る。金融市場の混乱が落ち着けば,日米金利差の 拡大に伴い円安に転じるとみているが,年度平均 でみるとやや円高となる。2015 年度は 121 円/ド ル,2016 年度は 119 円/ドルと想定した。 0.5 0.0 80 70 09 10 11 12 13 14 15 (年・月) 注:FF レート誘導目標はレンジの上限を記載 資料:日本銀行 エネルギア地域経済レポート No.499 2016.2■ 16 (2)主な需要項目別の見通し ○民間最終消費(図表 8) ∼雇用所得環境の改善や消費税率引き上げ前の駆け込み需要を追い風に底堅い動き∼ (2015 年度) 軽自動車税の増税や食料品の値上げ,夏場以降の株価下落などが下押し要因となるものの,雇用所 得環境の改善や消費税率引き上げの影響一巡,原油安などが追い風となって底堅く推移する。民間最 終消費の伸び率は+0.3%と 2 年ぶりにプラスとな る。 (全国+0.3%) (2016 年度) 図表 8 実質民間最終消費(前年比) (%) 4 予測 3.0 3 堅調な企業収益や人手不足を背景に雇用所得 環境は着実に改善する。円高によって食料品の値 上げも落ち着くため,消費者の節約意識も緩和さ 1.2 1.0 1.4 1.7 1.7 1.6 0.3 0.3 0 -1 上げを見越した駆け込み需要も発生する。ただし, -2 2014 年 4 月と比べて増税幅が小さく,駆け込み需 -3 び率は+1.7%にとどまる。 1.6 1 れる。年度後半には 2017 年 4 月の消費税率引き 要の規模は前回を下回るため,民間最終消費の伸 2.3 2.0 2 2.9 -0.3 中国 -2.9 -4 09 (全国+1.6%) 全国 -3.4 10 11 12 13 14 (年度) 16 15 注:中国地域の 13,14 年度は当研究所の推計値(以下,同様) 資料:内閣府「国民経済計算」 「県民経済計算」 ○民間住宅投資(図表 9) ∼良好な住宅投資環境が続く∼ (2015 年度) 貸家は相続税対策が追い風となって増加する。分譲戸建と持家は雇用所得環境の改善や低金利など を受けて緩やかに増加する。分譲マンションは建築費の高騰を背景に微減となる。全体でみると消費 税率引き上げの影響で大幅減少となった前年度 を上回る。民間住宅投資の伸び率は+3.4%と 2 年 ぶりにプラスなる。 (全国+3.5%) 図表 9 実質民間住宅投資(前年比) (%) 15 10 (2016 年度) ョン建設を抑制していた建築費の高騰も原油安 前の駆け込み需要も持家や貸家を中心に発生す -15 る。ただし,前回の消費税率引き上げ時に相当部 -20 分の需要の先食いがあったため,民間住宅投資の -25 17 ■エネルギア地域経済レポート No.499 2016.2 3.2 3.4 3.5 3.9 3.7 -5 -10 (全国+3.7%) 2.8 2.2 5.1 5.7 0 が波及することで一段落する。消費税率引き上げ 伸び率は+3.9%にとどまる。 8.8 7.6 5 住宅投資環境が引き続き良好な上,分譲マンシ 予測 12.6 -11.7 中国 -16.9 全国 -19.5 -21.0 09 10 11 12 13 14 資料:内閣府「国民経済計算」 「県民経済計算」 15 (年度) 16 調査レポート ○民間設備投資(図表 10) 図表 10 実質民間設備投資(前年比) ∼維持・更新投資を中心に増加∼ (%) 10 予測 7.1 (2015 年度) 企業業績が好調となる中,老朽化した設備の維 持・更新投資を中心に増加する。しかし,中国経 5 4.8 3.8 1.9 3.5 3.0 3.1 0.9 0.1 0 3.2 2.9 1.1 1.4 済の減速懸念や原油安を受けた先行き不透明感 の高まりによって設備投資計画を先送りする動 きもでてくるため,民間設備投資の伸び率は +1.1%と微増にとどまる。 -5 -7.1 -7.4 -10 中国 (全国+1.4%) 全国 -12.0 -15 (2016 年度) 09 11 12 13 14 (年度) 16 15 資料:内閣府「国民経済計算」 「県民経済計算」 金融市場の混乱が落ち着くとともに企業の投 図表 11 実質移出入(純) (中国地域) 資マインドが回復するため,前年度から先送りさ れた設備投資計画が実行に移される。維持・更新 10 (億円) 20000 予測 投資が中心となるものの,人手不足を背景とした 省力化投資や航空機,医薬品関連といった成長分 15565 15363 14119 15000 野への投資も増加する。民間設備投資の伸び率は +3.2%と 6 年連続のプラスとなる。 (全国+2.9%) 13219 11571 11030 9835 10000 7377 ○移出入(純) (図表 11,12) 5000 ∼減少傾向∼ 0 (2015 年度) 09 中国経済の減速を受けて輸出が伸び悩むほか, 10 11 12 13 14 (年度) 16 15 資料:内閣府「県民経済計算」 国内生産活動の停滞を背景に中国地域でウェイ 図表 12 <参考> 通関輸出額(前年比) トの高い生産財等の出荷も減少する。移輸出から 移輸入を差し引いた移出入(純)は 1.32 兆円と 前年度に比べて 900 億円程度減少する。 (全国の輸出+1.4%) (2016 年度) (%) 20 13.4 10.8 10 6.3 5 輸出は堅調な欧米経済に下支えされて緩やか 0 に増加する。一方,消費税率引き上げ前の駆け込 -5 み需要の発生を受けて,中国地域外から耐久消費 -10 財等の調達(移輸入)が増加する。その結果,移 -15 出入(純)は 1.10 兆円と前年度に比べて 2,200 億円程度減少する。 15.9 14.9 15 (全国の輸出+3.3%) -20 -3.7 5.4 -2.1 -4.7 -8.2 中国 全国 -16.7-17.1 09 (年度) 10 11 12 13 14 資料:財務省「貿易統計」 ,神戸税関「貿易統計」 経済産業グループ 西槇 徹 エネルギア地域経済レポート No.499 2016.2 ■ 18
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