入門書 4K映像SDI伝送技術の基礎 はじめに わが国では、2000年にBSデジタル放送による高画質 SDI信号は、一部のプロフェッショナル放送用機器のイン HDTV放送が開始された。その後、デジタル放送は4K タフェースに使用されている印象があるが、NTSC・コン さらには8K放送といった更なる高画質化に向けての準 ポジット信号などアナログ映像信号で使われていたBNC 備が進められている。本書では、4K映像信号の伝送に ケーブルを利用してデジタル映像信号を伝送できること 使 わ れ るSDIに 関 す る 規 格 の 特 徴 を 説 明 す る と 供 に、 から、監視カメラなどのアナログ映像機器をデジタル化 SDI信号を取り扱う上で必要とされる基礎知識と用語を する場合において、既に敷設されたBNCケーブルを利用 解説し、SDI信号についての理解を深めるための技術資 できるため、業務用像機器や医療用機器などの分野で 料として役立つよう構成している。 SDI信号を利用する動きがある。 jp.tektronix.com 入門書 図1. 4K映像イメージサイズ 図2. 4K映像の色域 4K映像の特徴 4K映像の伝送 4K映像の特徴として次の3つが挙げられる。 4K映像はHDTVに対して4倍のデータ量を持つが、データ量は画 第 一 に、 空 間 解 像 度 の 向 上 で あ る。UHDTV1(3840× ■ 2160) ま た は デ ジ タ ル シ ネ マ(4096×2160) はHDTV (1920×1080)に対して4倍の画素数を持つ。これにより画 面の隅々まで高精細な表現が可能になるため、より臨場感のあ る映像コンテンツを生成することができる。【図1】 第二に、色再現性の向上である。HDTVの色表現範囲はHDTV ■ で使われたITU-R BT.709-5に対して、より広い色域を扱うこ とができるようITU-R BT.2020で規定される色域を採用した。 これにより色の表現領域が拡大され深みのある赤や緑、青の表 素数で表される空間的な解像度だけではなく、時間方向の解像度、 つまりフレーム・レートによっても大きく影響されるため、フレー ム・レートが30P(プログレッシブ)と60Pでは単純計算でもデー タ量で2倍の違いがある。ところで、伝送路の説明をするために SDI信号の歴史についても触れておきたい。HD-SDI(SMPTE 292)が開発された当時、1.5Gbpsのビットレートの伝送路を使 用することで30PまでのHDTVを伝送できた【例:1920×1080 4:2:2クロマフォーマット 30プログレッシブ・フレーム/秒の 場合、1ラインのサンプル・ワード〔2200ワード〕×1フレーム の ラ イ ン 数〔1125ラ イ ン 〕 ×1ワ ー ド の サ ン プ ル・ ビ ッ ト 数 現が可能となる。【図2】 〔10bit〕 ×1Yと1Cbま た はCr〔2ワ ー ド 〕 ×30フ レ ー ム / 秒 第三に、輝度ダイナミックレンジの拡張である。SMPTE ST 〔30/1.001〕=1.485Gbps】。しかし、60Pを伝送するために ■ 2084:High Dynamic Rangeやドルビー・ビジョンなどHDR (High Dynamic Range)方式を利用することで輝度の変化を きめ細かく表現でき、映画などのダイナミックレンジが広い映 像において白とび、黒つぶれといった問題の回避に効果がある ことから採用されつつある。 はデータ量が2倍の3Gbpsの伝送路が必要であったため1.5Gbps の伝送路を2本束ねて信号を送るデュアルリンク方式(SMPTE 372) が 考 案 さ れ た。 そ の 後3Gbpsの 伝 送 路 が 実 現 さ れ、 3G-SDIの規格(SMPTE 425/424)が策定されたが、デュア ルリンク対応機器との互換性を考慮して3G-SDIのフォーマットの ひとつとしてデュアルリンク方式のフォーマット(Level-B)が規 定された。このように、テレビジョンの規格は、その時点で利用 できる伝送路の物理的制約に影響される。しかし、技術の発展に 伴い新しい伝送路が利用できるようになっても、従来システムと の互換性を維持するために、いくつかのフォーマットは次世代の 伝送規格にも引き継がれることがTV信号規格の複雑さの要因に繋 がっている。 ところで、HDTVの4倍のデータ量を持つ4K映像を60Pで伝送す るためには3Gbpsの4倍となる12Gbpsの伝送路が必要である。 現 在、4K映 像 を1本 の 同 軸 ケ ー ブ ル で 伝 送 す る た め の 規 格 (SMPTE ST 2082-1)が策定されたが、この方式に基づいた製 品がデバイスメーカおよびセットメーカから供給されるまでは、 3-SDIを4本束ねて伝送するクアッド・リンク方式がレガシー・イン タフェースとして使われることから、本書ではクアッド・リンク 方式を中心に解説する。 2 jp.tektronix.com 4K映像SDI伝送技術の基礎 図3. スクエア・ディビジョン方式 図4. 2サンプル・インターリーブ方式 クワッド・リンク3G-SDIの仕様 4K映像を4本の3G-SDIで伝送するためには、各伝送路あたりの 画素数をHDTVと同等の1920×1080にする必要がある。最初 のステップとして、画面を4分割して1920×1080サンプルのサ ブイメージを生成するが、SMPTE 425-5 では映像イメージの分 割方法として画面を中央で割って田の字に4分割するスクエア・ ディビジョン方式【図3】と2画素(サンプル)単位で画像を間引 いて読み出しを行う2サンプル・インターリーブ方式【図4】を定 義している。各方式には一長一短があり、スクエア・ディビジョン 方式は分割方法がシンプルである反面、画像のアライメントを維 持するために正確なタイミングが必要であり、分割したサブイメー ジをひとつのフレームイメージに構成するために4分割した映像を 格納する大容量メモリが必要である。この方式は主に収録や編集 などの制作段階で使用されることが多い。2サンプル・インターリー ブ方式は2画素ごと水平方向と1ラインずつ飛び越してサンプリン グする方式であるため分割するためのサンプリング方法は複雑で あるが、シリアルデータとして時間方向のタイミングが明快であ り遅延が少ないことから伝送などのアプリケーションで使用され ることが多い。このようにイメージ分割する方式は使用するアプ リケーションに併せて最適な方式を選択する必要がある。 jp.tektronix.com 3 入門書 次のステップは、サブイメージに分轄され た画像データを、Data Stream 1とData Stream 2と し て バ ー チ ャ ル・ イ ン タ フェースにマッピングする。 【図5】【図6】 最終的に物理層に送るためワード単位で Data Stream 2 / Data Stream 1 / Data Stream 2 ・・・の順でストリーム に多重される。【図7】これらの関連規格と の相関図を掲載するので詳細については各 規格書を参照されたい。【図8】 図5. 4K映像イメージ2160ライン・マッピング 図6. バーチャル・インタフェース 図7. 10-bit パラレル・インタフェース多重 4 jp.tektronix.com 4K映像SDI伝送技術の基礎 図8. 4K映像スクエア・ディビジョン SMPTE関連規格との相関図 また、3G-SDIは、YCbCr 4:2:2 1080p 10bitデータを扱 え る だ け で な く、RGB(A)4:4:4:4や YCbCr(A)4:4:4:4、 10bit/12bitデータなど様々なフォーマットのデータをマッピン グできるようになっているが、本書ではYCbCr 4:2:2 1080p 10bitデータ(Level-A)を例に解説している。参考までに、4K 映像の伝送の項目で触れたデュアルリンク方式のフォーマット (Level-B)との違いについて解説する。【図9】 4分割されたサブイメージのサンプル・データ(YCbCr 4:2:2) をバーチャルストリームにマッピングする際、Level-Aの場合 Data Stream 1にYサンプルをData Stream 2にCb/Crサンプ ルを配置しているのに対し、Level-BではLink-AがData Stream 1 に、Link-B が Data Stream 2 としてYサンプルとCb/Crサン プルをライン毎に配置しているのが解る。 図9. Level-AとLevel-Bの違い jp.tektronix.com 5 入門書 図10. ANCデータの挿入位 図12. ビデオ・ペイロードID 図11. ANCパケット・フォーマット 図13. ピクチャ・レートとサンプリング・ストラクチャ ANCデータの仕様 この値は、4K映像のクワッド・リンクで使われるレベルA スク SDIインタフェースは映像データ以外にもオーディオデータや映像 に関するパラメータを送るためにブランキング領域にANC(アン シ ラ リ ) デ ー タ を 挿 入 で き る。 【 図10】 こ のANCデ ー タ は、 SMPTE ST 352で、ピクチャ・レートやサンプリング方式など のストリームの識別に使われるビデオ・ペイロードIDなどが定義 されている。受信側の機器はANCデータを利用することで受信し ている映像のフォーマットを認識することができる。例として、 DID=0×41 Ancillary data packetで示されるビデオ・ペイロー ドIDのフォーマットについて解説する。 【図11】 ADF(Ancillary data flag)0×000、0×3FF、0×3FFに 続 くDID=0×41は Ancillary data packetフォーマットであることを示している。図 の例ではVideo Payload IDが0×89でPicture Rateが0×CA、 Sampling Structureが0×01に設定されているが、この場合、 Video Payload ID=0×89 はSMPTE ST 425-1で示される 1080-line video payloads on a Level A 3 Gbps(nominal) serial digital interfaceであることがわかる。【図12】 6 jp.tektronix.com エア・ディビジョンと同じ値であることに注意していただきたい。 つまり、4K映像は、2サンプル・インターリーブの場合はVideo Payload IDが0×97(2160-line video payloads on a quad 3 Gbps Level A serial digital interface)または0×98(2160line video payloads on a quad 3 Gbps Level B-DL serial digital interface)として2160ラインが定義されているが、ス ク エ ア・ デ ィ ビ ジ ョ ン の 場 合、 ペ イ ロ ー ドIDはHDTVと 同 じ 1080で あ り3G-SDI Level-Aと し て4Kク ワ ッ ド・ リ ン ク と は ANCデータでは識別されない。ペイロードIDに続いて、ピクチャ・ レート(Byte 2)とサンプリング・ストラクチャ(Byte 3)が 続くが、これらの値はSMPTE ST 352のTable2およびTable 3 で確認することができる。参考までにVideo Payload ID=0× 97(2160-line video payloads on a quad 3 Gbps Level A serial digital interface)の例を示す。 【図13】 4K映像SDI伝送技術の基礎 図14. 波形モニタ アイ・ダイアグラム 物理層の仕様 映像制作段階のコンテンツは非圧縮のベースバンド信号で取り扱 図15. 3G-SDIインタフェース物理特性規格 波形モニタ WFM8300型 うため、撮影機器や収録機器およびモニタ間でインタフェースの 整合が必要である。4K映像制作においても同様に非圧縮ベース バンド信号での収録が前提であるため、3G-SDIインタフェースの 機器間接続は伝送エラーが起きにくい様に可能な限り短いケーブ ルを使用することが望まれるが、スタジアムでの中継などカメラ と収録機器が物理的に離れている場合は収録機器側の信号品質を 波形モニタなどで確認することが必要である。デジタル信号は伝 送するケーブルの物理特性に影響されるため、ケーブルの曲がり や、ねじれなどにより伝送エラーを引き起こすことがある。この ような問題に対応するために波形モニタは、SDI信号の物理層にお いて、アイ・ダイアグラムを測定することで信号の状態を知るこ とができる。 【図14】 4Kクワッド・リンク方式の場合、4本の BNCケーブルを使用して伝送するが、それぞれの信号は各出力か ら1mのBNCケーブル端にて3G-SDIインタフェースの物理特性規 格の要件を満たしていなければならない。 【図15】 3G-SDIのア 図16. 波形モニタ クワッド・リンク タイミング測定 イ・パターン基本測定仕様では、電気特性として信号の立上り/ 立下り時間と振幅およびオーバーシュートなどが規定されている。 の伝送特性によって信号の到着タイミングにずれが生じることが また、ジッタについてタイミング・ジッタとアライメント・ジッ ないように注意しなければならない。WFM8300型の4K対応オ タ の 許 容 範 囲 を そ れ ぞ れTJ ≦2UI(674ps)、AJ ≦0.3UI プションを使用することで4つ入力のタイミングを測定できる。 【図 (101ps)と規定している。実際の信号がこれらの要件に適合し 16】 しかしながら、スタジアムでの中継など複数のカメラを長い ているかは、波形モニタWFM8300型(テクトロニクス製)を使 ケーブルで伝送する用途や、放送局の回線/サブ/マスターなど機 用することで、測定・評価ができる。さらに、クワッド・リンク 器間のケーブル接続が集中する場所では、できるだけ少ない配線で 方式のように4本の同軸ケーブルを使用する場合には、各ケーブル 映像伝送できることが求められる。 jp.tektronix.com 7 入門書 図17. 12G-SDI SMPTE関連規格との相関図 最後に、12G-SDIのSMPTE 2082規格について触れておきたい。 異なり12G-SDIへのソースイメージとANCデータ・マッピングの SMPTE ST 2082のOverviewで関連規格との相関図が示されて 仕 様SMPTE ST 2082-10と12G-SDIの 電 気 的 仕 様SMPTE いるが、図8で示されているように3G-SDIの4Kクワッド・リン ST 2082-1が規定されている。 【図17】 クとはST 425-5 Quad 3Gb/s Serial Digital Interface以降が 8 jp.tektronix.com 4K映像SDI伝送技術の基礎 図18. 12G-SDI ソースイメージ・マッピング 1 図20. 12G-SDI ソースイメージ・マッピング 3 図21. 12G-SDIインタフェース物理特性規格 図19. 12G-SDI ソースイメージ・マッピング 2 ソースイメージのマッピング方法でクワッド・リンク方式との違 いは、8本のバーチャルストリームを1本に多重している点である。 【図18】 【図19】 【図20】 電気的仕様については、立上り(Tr)/ 今後、4K放送システムを構築するために、4K映像を1本の同軸ケー ブルで伝送する12G-SDI規格(SMPTE ST 2082-1)が早い段 階で実用化されることが望まれる。 立下り(Tf)時間が45ps以下でTr - Tfが14ps以下、タイミング・ ジッタとアライメント・ジッタの許容範囲がTJ ≦2UI(168ps)、 AJ ≦0.3UI(25ps)となっている。【図21】 jp.tektronix.com 9 〔参考文献・引用規格〕 お問い合わせ先: ITU-R BT.2020 ASEAN/オーストラリア・ニュージーランドと付近の諸島 (65) 6356 3900 SMPTE 292 オーストリア 00800 2255 4835 SMPTE ST 352 バルカン諸国、イスラエル、南アフリカ、その他ISE諸国 +41 52 675 3777 SMPTE ST 425-1 ベルギー 00800 2255 4835 SMPTE ST 424 ブラジル +55 (11) 3759 7627 SMPTE ST 425-5 カナダ 1 800 833 9200 中央/東ヨーロッパ、バルト海諸国 +41 52 675 3777 SMPTE ST 2082-0 中央ヨーロッパ/ギリシャ +41 52 675 3777 SMPTE ST 2082-1 デンマーク +45 80 88 1401 SMPTE ST 2082-10 フィンランド +41 52 675 3777 SMPTE ST 2084 フランス 00800 2255 4835 ドイツ 00800 2255 4835 香港 400 820 5835 インド 000 800 650 1835 イタリア 00800 2255 4835 日本 81 (3) 6714 3010 ルクセンブルク +41 52 675 3777 メキシコ、中央/南アメリカ、カリブ海諸国 52 (55) 56 04 50 90 中東、アジア、北アフリカ +41 52 675 3777 オランダ 00800 2255 4835 ノルウェー 800 16098 中国 400 820 5835 ポーランド +41 52 675 3777 ポルトガル 80 08 12370 韓国 001 800 8255 2835 ロシア +7 (495) 6647564 南アフリカ +41 52 675 3777 スペイン 00800 2255 4835 スウェーデン 00800 2255 4835 スイス 00800 2255 4835 台湾 886 (2) 2656 6688 イギリス、アイルランド 00800 2255 4835 アメリカ 1 800 833 9200 2015年4月現在 テクトロニクス お客様コールセンター 電話受付時間/ ヨッ!良 い オ シ ロ TEL : 0120-441-046 9:00∼12:00・13:00∼18:00 (土・日・祝・弊社休業日を除く) 〒108-6106 東京都港区港南2-15-2 品川インターシティ B棟6階 jp.tek.com 記載内容は予告なく変更することがありますので、あらかじめご了承ください。 Copyright © 2015, Tektronix. 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