輸出をばねに、 農業所得向上を目指す

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輸出をばねに、
農業所得向上を目指す
水津俊男
山口県JAあぶらんど萩 代表理事組合長
農産物の輸出を産地のブランド化に連動させ、所得向
上につなげる……県域、首都圏そして海外と、市場ごと
に明確な販売戦略を立て、取り組んでいます。
◆県 1JAでロットの確保目指す
リフトでパレット積みできる倉庫にすることが
――JAグループ山口は、昨年11月のJA山
喫緊に求められています。
口県大会で、平成31年を目標に県 1JAにす
JAグループ山口は、農産物の輸出に期待
ることを決めましたね。
していますが、これも拡大していくには、一定
自己改革の中で、JAの体力をつけようとい
のロットを確保し、知名度を高めてブランド力
うことです。中山間地域のJAは経営的にも厳
をつけなければなりません。そのためには各J
しく、指導、販売事業の拡大が難しくなりつつ
Aがばらばらでは駄目で、ルートを一本化して
あります。特に農業施設の更新・再編が必要
取り組む必要があります。
になっており、その負担を少しでも軽くする必
要があります。その最初として倉庫事業を県
――農産物の輸出は、どれくらい進んでいま
域で1つにしようということです。
すか。
特に「はい作業(荷の積み下ろしや移動)
」
いまJAあぶらんど萩独自のルートとして、
をする人の確保が難しくなっており、フォーク
台湾向けの米、それに香港向けの野菜などが
あります。輸出で難しいことのひとつは代金の
回収です。JAあぶらんど萩は、子会社の萩青
果(株)を仲買人として代金回収のリスクを回避
していますが、そこで他のJAの品物を扱うの
は難しい。
この点でも県域での取り組みが必要で、県
1JAにして、しっかりした海外輸出の仕組み
をつくらなければなりません。もちろん、国内
JAあぶらんど萩本所
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への販売でも県 1JAになれば、萩の夏みか
すいず・としお
昭 和44年 就 農。52年 阿 北 農 協
青年部長を経て、57年同農協理
事、平成 3 年同組合長。 8 年JA
山口阿武代表理事常務、 9 年同
専務を経て、14年代表理事組合
長。18年からJAあぶらんど萩
代表理事組合長。
撮影・JAあぶらんど萩総務部企画情報課 泉 周平
ん、岩国のレンコンなどを北海道や東北に出
り、これが生産者にとって大きな励みになっ
荷するなど、販路拡大が可能になります。
ています。また、海外輸出向けの厳しい品質
チェックをクリアしていることが、生産者の自
◆香港へのダイコン輸出で弾み
信につながるという効果もあります。
――輸出は農業所得の向上につながります
か。
◆地産地消を大切に
香港では日本のダイコンやキャベツに強い
――販売面ではどのような取り組みをしてい
引き合いがあります。管内には千石台という
ますか。
県内最大のダイコン産地があり、ここでは浄
大事なのは地元の消費者対象の地産地消で
水で殺菌し真空で冷蔵、さらにダイコンの内
す。第 1に昨年10月にファーマーズマーケッ
部検査までできる施設を導入しています。
ト1号店「ふれあいらんど萩」をオープンさ
香港でこのダイコンが好評で、昨年の試験
せました。次に県内のスーパーでJAあぶら
販売で約 3 万本、30t を輸出しました。このダ
んど萩産の取り扱いを増やすことです。3 つ
イコン産地は12戸が約80ha を栽培し、半数以
目に県も力を入れていますが、首都圏向け、
上に20~30歳代の後継者がいます。
とりわけホテルや高級量販店に少量多品目の
海外の高い評価が国内での知名度につなが
「こだわり農産物」を提案する取り組みです。
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千石台ダイコンの収穫作業
昨年10月にオープンした「ふれあいらんど萩」
管内には年間を通じて、さまざまな農産物
年開催しています。学校給食では、管内小中
があります。それらを切れ目なく供給してい
学校100%米飯化を実現し、全て地元の米を
く。それが県内の量販店などに対して発揮
地元で精米して使っています。米以外にも、
できる、JAあぶらんど萩の強みです。それだ
野菜や果実等も県内に広げるには、たとえば
けにひとつでも問題が出ると、全体の農産物
食材センターといった施設を作り、 1 次加工
に影響が出るという怖さもあります。
して供給することが必要ですが、これも将来
県1JAになってカット工場が運営できれば可
◆離島・山間地の生活に不可欠
能になるものと期待しています。
――地域との関係をどのように考えますか。
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政府の農協改革は准組合員の存在を問題に
◆水や空気のような存在に
していますが、JAの行っている介護福祉や
――これからのJAは、どういう役割を果た
買い物難民のための移動購買車の運行など、
していくべきでしょうか。
利用者の大半は准組合員です。管内には 4 つ
JAは、利用者の生活の一部になっていま
の有人の島があり、そのひとつ、見島で車の
す。従ってJAは限りなく水や空気のような存
車検を一手に引き受けているのはJAの整備
在であるべきだと思っています。JAが100%
工場です。ほかの離島や山間の過疎地で、市
対応するのではなく、行政や業者とともに、
の委託による高齢者福祉を行っているのも、
その暮らしの一翼を担うことです。そして、組
JAです。
合員がその境目を感じなくなるのがベストで
経営的には赤字の事業所も多いのですが、
はないでしょうか。それには、経営的にきちん
それが准組合員や地域の理解を深め、JAの
とさせて、その役割を果たすことが大事だと
信用や共済などの事業につながっているので
思っています。
す。JAは営利を目的とするものではなく、利
手始めに、人口減少の激しい地区で、行政
益は組合員や地域に還元するのだということ
の総合事務所の建物の中に、JAや社協な
を、組合員に理解してもらうことが大事だと思
ど、関係する団体・組織が入れる取り組みを
います。
進めています。住民は 1 か所で、買い物を含
また、地域の人全てにJAと関わってもらう
め、生活や行政上の手続きに必要なこと全て
ため、JA主催の書道・図画コンクールを毎
ができます。行政・JAが一体となって地域と
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離島における福祉活動の一こま
移動購買車「ふれあい号」
地域の生活を守ろうというものです。
取り組みに学び、どのような国の政策にも、環
境の変化にもびくともしないJAをつくってい
◆「長州ファイブ」農業版を
きたいと思います。
――農業者が高齢化する中で、地域の農業
は、どのようなビジョンを描いていますか。
――そのようなJAであるには、どのような
集落営農あるいは法人化が当面の課題だと
職員が求められるでしょうか。
考えています。管内の集落の水田面積は10~
今の仕事に情熱を持って当たれる職員であ
20a と小さく、それだけでは経営が成り立ち
りたい。自分の仕事だけでなく、郷土や郷土の
ません。集まり、連合体をつくり、専属のオ
先輩を大切にして、地域で役立つことに誇り
ペレーターを養成し、大型機械の共同利用を
を持って仕事をすると、人は育ちます。
広げ、専属の事務員も置くことで、若い人の
また常々、
「俺が俺がの “我” を捨てて、おか
職場をつくることもできます。このオペレー
げおかげの “げ” で生きる」ことが大事だと職
ターがリーダーとなって輸出用の野菜も栽
員に話しています。俺が俺がの気持ちが強す
培する。すると就農希望の若い農業者も入っ
ぎると協同の力を発揮することはできないと
てきて、一定の収入が確保できる仕組みがで
思っています。
きるのではないでしょうか。国の支援事業も
利用し、法人で働く新規就農者も増え、地域
に根付いている人が何人かいます。
(写真は全てJAあぶらんど萩提供)
◎JAあぶらんど萩の概況
平成18年、
JA山口阿武とJA萩市が合併して、
JAあ
萩市は幕末、伊藤博文を含め、イギリスに
ぶらんど萩が誕生。
5 人の留学生を派遣しました。後に「長州ファ
山口県
イブ」と言われる人たちで、日本の近代化に
大きな足跡を残しました。これにちなんで萩
市は中学生をイギリスに派遣していますが、
農業版の「長州ファイブ」ができないかと考
えています。また、萩は、日本における協同
組合の生みの親である品川弥二郎の出身地で
す。温故知新で、こうした郷土の先輩たちの
JAあぶらんど萩
▽組合員数
1万5,561人
(うち正組合員8,430人)
▽貯金残高
674億466万円
▽長期共済保有高
3,436億238万円
▽購買品供給高
33億3,833万円
▽受託販売品取扱実績
35億9,821万円
▽職員数
319人
(うち常勤嘱託141人)
(平成26年度末)
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