主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)

第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
4.主要地方道大阪中央環状線
旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
4.1 はじめに
鳥飼大橋は,大阪中央環状線の淀川を跨ぐ昭和 29 年竣工の鋼ゲルバートラス橋である。
供用後,50 年以上にわたり,重交通を担ってきた。特に,高度成長期以降の大阪経済の大
動脈である中央環状線の一翼を担い,平成 10 年の交通量調査では 12 時間交通量約 65,000
台(うち,大型車は 2 割以上)という重交通路線に位置する橋梁である。
しかしながら,鳥飼大橋は,著しい老朽化・慢性的な渋滞といった課題を抱えており,
こういった課題への抜本的な対策として,大阪府では北行橋梁を新設し,平成 22 年 2 月
28 日に新橋への切替えを行った。現在,使われていない旧橋は,今後,撤去を予定してい
る。しかし,老朽化及び損傷の程度を的確に把握し,検証することで,今後の橋梁の維持
管理にフィードバックさせる絶好の材料となるため,大阪府では旧橋を調査フィールドと
して開放することに決定した。そこで,別紙のとおり,調査・研究していただく法人・企
業・研究機関を募集することになったことから,
(一社)建設コンサルタンツ協会近畿支部
の「公共土木施設の維持管理に関する研究委員会」として応募することとした。
なお,旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
募集要項,特記仕様書,橋梁調査参加申込書,調
査計画概要書および日刊建設工業新聞(H22.10.26)掲載の旧鳥飼大橋の調査機関公募の
記事などは本章の参考に添付する。巻末(参考 4)に添付する調査計画概要書のとおり,
当初 6 つの計画を立てていたが,現場の状況などから全ての項目を実施することはできな
かった。新規の計測方法の適用性調査,固有振動数計測による損傷の把握,局部腐食の現
状調査については実施していない。
供用年数の長い橋梁では,今後の点検・維持管理を含めた長寿命化修繕計画の策定が問
題になることが多く,その中でも効率的・効果的なモニタリング,修繕計画策定において
仮定した条件,特に使用材料(鋼材やコンクリート)の初期値や使用・環境条件に対して
変化してきている材料特性の推移などは,他の高齢橋の長寿命化修繕計画策定において貴
重な知見となる可能性が高い。
以下では,旧鳥飼大橋での調査に関して,
①モニタリングの効率化の観点から,「応力発光体による鋼製部材の変状検出」を,
②長寿命化修繕計画における仮定条件の精査の観点から,「板厚計測による局部腐食の
状況と板厚分布」,「鋼材の材料試験」および「コンクリート部材の材料試験」について,
得られた結果を報告する。
(4.1 章執筆担当:保田敬一)
2-4-1
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4.2 応力発光シートによる鋼部材変状の検出
4.2.1 研究の背景と目的
日本の道路橋は戦後の高度経済成長期を中心として大量に建設され,我が国の経済成長
と国民生活の向上に大きく貢献してきた。これらの道路橋は建造後 40~50 年が経過してき
ており,経年劣化が進行している。日本の橋梁(橋長 15m 以上)は約 15 万橋(152,000 橋)
あり,築後 50 年以上経過した割合は 8%存在するが,これが 10 年後には 26%、20 年後に
は 53%に達すると言われている(道路施設現況調査:橋梁現況調査,H21.4.1 より)。今後
は,経年的な劣化の進行および耐用年数を迎える橋梁が増加するため,長寿命化技術やモ
ニタリング技術のニーズが急速に高まっている。
従来から,橋梁における損傷を計測するために,ひずみ計測ならひずみゲージや光ファ
イバセンサなどを用いてきた。しかし,これらの測定は点的あるいは線的といった適用制
限があり,ある定まった面をもつ範囲を計測するには多数のセンサを必要とした。さらに,
亀裂などの進展に伴い,センサが破断することもあり,ある決まった亀裂進行以降の亀裂
発生や進展の様子をモニタリングすることは困難であった。
応力発光体は,粉末状のセラミック微粒子であり,個々の微粒子が力学的信号を光信号
に直接変換するセンサの役割を果たす。高度に結晶制御した応力発光体(α-SrAl2O4:Eu2+)
をシート状に作成したものであり,徐
超男((独)産業技術総合研究所,科学技術振興機
構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST))により開発されたものであ
る
1) ~ 4)
。この微粒子を含有する塗料を対象物に塗布すると,応力集中が個々の微粒子の発
光となって現れるため,応力集中状況を反映した発光画像情報が得られる。従って,応力
発光体を塗布した構造物表面において生じる局所的な応力異常の様子や亀裂の形状や分布
を高い解像能力で確実に捕捉できる。建物の安全管理
クリート試験体
7) ~ 8)
5)
,土木構造物では,橋梁
6)
やコン
などで実績がある。一部応力発光塗膜が剥離しても他の部分には影響
を及ぼさないため,モニタリングの継続が可能であること,従来のひずみゲージに代表さ
れる電気式計測が点・線情報であるのに対し,応力発光センサは面的情報を捕捉できるな
どの特徴を有している。
本研究では,適用事例の増えつつある応力発光センサによる損傷の検出性能をさらに確
認するため,以下の課題に対して有効な結論を得るべく,検証を行う。①面的な情報把握
は有効かどうか,すなわち,特定の損傷以外にも新たな損傷を検出できるかどうか,②橋
梁の荷重載荷状態が変化しても応力発光センサによる検出はうまく追随できるか,③微少
な変形(例えば,RC 床版の鋼板補強部)に対して応力発光センサによる検出はうまく追
随できるかの 3 点である。
本研究では,大阪中央環状線の淀川渡河部に位置する旧鳥飼大橋(北行き)の鋼縦桁を
対象にして,応力発光体による亀裂の検出性能を検証する。応力発光体は点でしか計測で
きないひずみゲージとは異なり,作用する外力の大きさに比例した明るさを表示でき,あ
る程度の面積をもった面として変状をとらえることができるのが特徴である。ゲルバート
ラスの斜材切断前後でトレーラによる通行速度を変えた載荷試験により,応力発光センサ
とひずみゲージとの亀裂検出性能比較を行う。また,RC 床版の鋼板接着部でも同様の比
較を実施し,鋼板接着の効果を確認できるかどうかの検討もあわせて実施する。
2-4-2
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4.2.2 応力発光体とは
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2)
応力発光体とは,力学刺激により繰り返し発光可能な機能性発光材料である。これらは
徐らにより 1990 年代後半に発明され,「応力発光体」と名づけられた。開発された応力発
光体は,微小変形により強い発光を示すセラミック材料である。結晶構造を高度制御した
無機結晶(母体材料)の骨格中に発光中心となる元素を固溶したものであり,無機母体材
料や発光中心の元素を選択することで,紫外~可視~赤外のさまざまな波長で発光させる
ことができる。組成として代表的なものに,ユーロビウムをドープした欠陥制御型アルミ
ン酸ストロンチウム(α-SrAl2O4:Eu2+,以下,SAOE と略す)が挙げられる。SAOE は波
長 520nm を中心に緑色の発光を示す。応力発光体の機構等の詳細は別途文献に述べられて
いるが,発光強度は変形エネルギーに応答する特徴を有する。
応力発光体は粉末状のセラミックス微粒子(粒子径は制御可能)であり,個々の微粒子
それぞれが力学的信号を光信号に変換するセンサの役割を果たす。微粒子を含有した塗料
を対象物に塗布すると,応力が集中した箇所の微粒子の発光となって現れるため一種の画
像情報が得られる。そこで生じる局所的な応力異常の様子,亀裂の形状や分布を高い分解
能で確実に捕捉できる。応力発光塗膜は管理する構造体の表面に密着させ,同じひずみ分
布を有するように配置することで,決まった計測条件で測定した発光強度から構造物に発
生したひずみ(応力)の状態を可視化できる。
また,応力発光は動的な現象であり,材料に加えられる力が時間的に変化している時に
発光する。力学的なエネルギーの入力がある時に光への変換が可能である。応力発光強度
は,加える力の大きさおよびその変化速度の両方に比例して増大することが確認されてい
る。圧縮・引張・せん断等のさまざまな変形に対して発光を観察することができる。
発光強度は相当応力(ミーゼス応力)に比例する定量関係はあらかじめ校正曲線を作成
しているので,このような発光強度から,ミーゼス応力分布を算出した結果,有限要素法
で予測される応力分布とよく一致していることが確認されている。力学的な刺激により発
光する「応力発光センサ」は対象物を選ばず,応力発光粒子を含有する塗料や塗膜シート
を面センサとして対象物の表面に配置することが可能である。例えばシート状に作成した
ものの現場での利用が簡便であり,SAOE 応力発光シートを利用している事例も多い。
この応力発光センサとモニタリングシステムにより,様々な計測が可能となる。このシ
ステムは,応力発光センサからの発光強度分布をモニタリングする①「画像センサノード」,
②「無線光センサノード」,③発光強度から構造物の応力異常を診断するデータベース,④
これらを統合するネットワークシステムで構成されている。①「画像センサノード」は,
応力発光計測に適したインターネット通信機能を有する画像システムであり,微弱な応力
発光を高感度にとらえるハードとソフトを有し,定量性等が優れている。②「無線光セン
サノード」は電池で駆動可能な無線インターネット通信機能を有する高性能光センサとな
っており,高 S/N 比で発光を検出することができる。また,発光強度から構造物の応力異
常診断する「データベース」には,さまざまな条件下での発光強度とひずみ(応力)の関
係を示す校正曲線を含み,計測環境等の影響を考慮して発光強度は国際単位(cd/m2,kg)
規格化も行っている。データベースを参照することにより画像センサや光センサで検出し
た応力発光強度からひずみ等の力学量を逆算することができる。
2-4-3
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これらはネットワークを利用して統合することによって,モニタリングネットワークシ
ステムを構成し,遠隔操作で構造物の安全モニタリングができるだけでなく,広範囲な安
全管理が可能となる。
4.2.3 鳥飼大橋の概要
図 4.2.3.1 に(旧)鳥飼大橋(北行き)の側面図を,図 4.2.3.2 には平面図を載せる。鳥
飼大橋は,大阪中央環状線の淀川を跨ぐ昭和 29 年竣工の鋼ゲルバートラス橋である。供用
後,50 年以上にわたり,重交通を担ってきた。特に,高度成長期以降の大阪経済の大動脈
である中央環状線の一翼を担い,平成 10 年の交通量調査では 12 時間交通量約 65,000 台(う
ち,大型車は 2 割以上)という重交通路線に位置する橋梁である。設計基準は,当時の鋼
道路橋示方書(昭和 14 年制定)が適用されており,設計活荷重は主構に対して第 2 種(2
等橋:T-9,後輪荷重=3.6t),床組に対して第 1 種(1 等橋:T-13,後輪荷重=5.2t)である。
図 4.2.3.1 (旧)鳥飼大橋(北行き)の側面図
図 4.2.3.2 (旧)鳥飼大橋(北行き)の平面図
図 4.2.3.3 に断面図を載せる。
建設時の設計条件は以下のとおりである。
形式:鋼ゲルバートラス
全支間:43.680m+7@65.520m+43.680m=546.000m
有効幅員:7.500m
主構中心間隔:8.500m
2-4-4
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設計活荷重:床組に対して第 1 種(1 等橋:T-13)
主構その他に対して第2種(2等橋:T-9)
橋床:鉄筋コンクリート床版(t=15cm)
舗装:アスファルトコンクリート舗装(t=5cm)
縦断勾配:1/200
横断勾配:1/50
設計震度:水平=0.2,垂直=0.1
図 4.2.3.3 (旧)鳥飼大橋断面図
4.2.4 実験概要
4.2.4.1 載荷車および載荷ケースの概要
載荷車の総重量および載荷ケースを図 4.2.4.1 に示す。試験車は 20t トラックに試験片を
載荷し,総重量 26.300tf としている。通行速度は v=20km/h と v=40km/h の 2 種類,走行車
線はゲルバーの斜材を切断してある側(上流側)とは反対側の下流側とした。事前に切断
してあるゲルバートラスの第6径間斜材を固定している状態と解放した状態のそれぞれ 2
パターンで計測を行った。
2-4-5
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図 4.2.4.1 載荷車の総重量,載荷ケース
2-4-6
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4.2.4.2 トラス斜材の切断
第 6 径間のゲルバートラス斜材切断部の状況を図 4.2.4.2 に示す。
図 4.2.4.2 ゲルバートラス切断部の状況
4.2.4.3 応力発光体とひずみゲージ
図 4.2.4.3 に,第 4 径間の RC 床版鋼板接着部に貼り付けた応力発光シートと併設するひ
ずみゲージを載せる。図 4.2.4.3 において,黄色でチョーキングした範囲は,過年度に実
施した橋梁点検調査の際に,鋼板補強の効果確認として,RC 床版と鋼板とがうまく接着
していないと判定された範囲である。RC 床版と鋼板とがうまく接着している箇所として,
ひずみゲージは 1,2,4,5,6 を,RC 床版と鋼板とがうまく接着していない箇所として,ひず
みゲージは 2,3,7,8 に貼り付けている。計測点 2 が重複しているのは,うまく接着している
かそうでないかの境界付近に該当するためである。応力発光シートは,チョーキングの境
界部が中央にくるように,すなわち,RC 床版と鋼板とがうまく接着している部分とうま
く接着していない部分が半々になるように貼り付けている。
また,発光の様子をより鮮明に確認させるために,応力発光シートの周りを暗幕で覆っ
ている。そして,時間経過による発光の様子を記録するために,高性能のビデオカメラに
より撮影を行った。なお,図 4.2.4.3 の写真が裏返っているのは,透明板に書かれたもの
を当てているためである。
2-4-7
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図 4.2.4.3 応力発光シートとひずみゲージ
4.2.4.4 計測位置
計測位置を図 4.2.4.4 および図 4.2.4.8 に示す。なお,図 4.2.4.4 および図 4.2.4.5 におけ
る「日工試」とは,ひずみ計測を行った「株式会社日本工業試験所」の略であり,
「産総研」
とは,応力発光シートによる計測を行った「(独)産業技術総合研究所
センター」の略である。
2-4-8
生産計測技術研究
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図 4.2.4.4 第 6 径間の計測位置と計測詳細
図 4.2.4.5 第 4 径間の計測位置と計測詳細
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4.2.5 実験結果
4.2.5.1 ひずみゲージによる計測
表 4.2.5.1 に第 6 径間の横桁亀裂部のひずみゲージによる計測結果を,表 4.2.5.2 には第
4 径間の横桁亀裂部のひずみゲージによる計測結果を,表 4.2.5.3 には,RC 床版の鋼板接
着補強部のひずみゲージによる計測結果を示す。ここで,第 4 径間では斜材切断を行って
いない径間での亀裂部ということで計測位置の選定・測定を行っている。
表 4.2.5.1 第 6 径間の横桁亀裂部のひずみゲージによる計測結果
第6径間-横桁亀裂部
3回の平均値
ゲージ
6-1
(下流側
亀裂無)
ゲージ
6-2
(上流側
亀裂有)
σ1_max
σ2_min
τ_max
σ1-θ
σ1_max
σ2_min
τ_max
σ1-θ
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
斜材切断前
斜材切断後
20km/h 40km/h 20km/h 40km/h
108.9
111.2
125.4
121.4
12.1
12.0
14.2
13.4
48.4
49.6
55.6
54.0
0.5
0.1
0.5
0.3
-17.0
-22.4
8.0
13.1
-41.1
-46.3
-2.3
3.0
12.1
11.9
5.1
5.0
64.3
67.2
4.5
28.6
表 4.2.5.2 第 4 径間の横桁亀裂部のひずみゲージによる計測結果
第4径間-横桁亀裂部
3回の平均値
ゲージ
4-1
(床版
補強)
ゲージ
4-2
(P4上)
σ1_max
σ2_min
τ_max
σ1-θ
σ1_max
σ2_min
τ_max
σ1-θ
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
斜材切断前
斜材切断後
20km/h 40km/h 20km/h 40km/h
140.4 143.0 140.8 138.5
48.8
49.2
48.7
47.4
45.8
46.9
46.0
45.6
-0.8
-2.3
-1.4
-3.2
2.3
6.9
-1.0
0.9
-6.0
-2.2
-6.1
-4.0
4.1
4.5
2.6
2.5
25.2
16.7
29.6
54.9
表 4.2.5.3 RC 床版の鋼板接着補強部のひずみゲージによる計測結果
3回の平均 値
σ1
σ2
σ3
σ4
σ5
σ6
σ7
σ8
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
斜材切 断前
斜材切 断後
20km/h 40km/h 20km/h 40km/h
2.8
3.6
3.7
4.0
4.1
4.6
4.4
4.4
1.6
1.9
1.9
1.9
2.8
3.8
3.8
4.3
2.8
3.9
3.8
4.6
3.6
4.9
4.9
5.7
-0.9
-0.8
-0.7
-0.7
-0.9
0.3
0.9
0.9
表 4.2.5.1 において,ゲージ 6-1 と 6-2 での亀裂の有無でひずみ比較をすると,亀裂有り
のゲージではストップホールの直下にゲージを設置しており,応力が解放されているため,
発生応力がほとんど出ていないことがわかる。P4 上のゲージ 4-2 も同様である。載荷車の
速度が高い方が応力が少し高いのは,衝撃の影響と推察される。ゲルバートラスの斜材切
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断前後で応力を比較すると,切断後は部材応力の再配分が生じるため,切断前よりも切断
後の方が応力が高くなっている。一方,第 4 径間では斜材切断前後で発生応力の差はほと
んどない。これは,第 6 径間での斜材切断が第 4 径間には影響していないということを意
味している。
表 4.2.5.3 に示す RC 床版の鋼板接着補強部のひずみゲージによる計測結果より,接着し
た鋼板の効果がある(RC 床版と鋼板とがうまく接着している)とされるゲージ 1,2,4,5,6
では載荷車走行による応力が発生している。走行速度が早くなると発生応力も高くなるの
は衝撃の影響と推察される。一方,接着した鋼板の効果がない(RC 床版と鋼板とがうま
く接着していない)とされるゲージ 3,7,8 では載荷車走行による発生応力が非常に小さい
ことから,鋼板と RC 床版との接着がほとんどないということが確認された。
4.2.5.2 応力発光体による計測
(a) 亀裂状況
図 4.2.5.1 は第 6 径間の亀裂発生箇所のストップホールの裏面である。
図 4.2.5.2 は第 6 径間の亀裂発生箇所のストップホールに応力発光シートを塗布した後
の図である。ストップホール右上から上方に既に発見されている長い亀裂が確認できる。
図 4.2.5.1 の左下には裏面の配線を示す。このストップホール処理にて応力集中が緩和さ
れ,亀裂の進行抑制に寄与している。
図 4.2.5.1 亀裂箇所のストップホール
(応力発光シート塗布前)
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図 4.2.5.2 亀裂箇所のストップホール
(応力発光シート塗布後)
応力発光シートはある程度表面に凹凸がなく,A4 サイズ程度の面積で貼り付けることが
できる場合に適用させた(例えば,RC 床版の鋼板接着部など)。細かな凹凸があり,亀裂
発生箇所に錆などによる変形などが生じている場合やリベットなどの凹凸が表面にある場
合はシート上のものを添付させることは困難であるので,スプレー状にした応力発光材料
を適用するというように使い分けを行った。
(b) 亀裂検出結果
斜材切断部を固定し,載荷車の走行速度を 20km/h にした場合の応力発光体による画像
の生画像を図 4.2.5.3 に,ビデオカメラにより撮影した前画像(1149)での発光状態とその
微小時間後での発光状態である 1219 画像との差分画像を図 4.2.5.4 に示す。
図 4.2.5.3 と図 4.2.5.4 を見比べることにより,従来から確認されているストップホール
開口部上に進展している亀裂は白く発光しており,その存在が確認できる。縦桁とガセッ
トプレートとの間の部材変位もストップホールの右上に確認することができる。しかし,
図 4.2.5.4 のストップホール開口部左上に確認できていない新たな亀裂が発見されている
こと,ストップホール開口部より下にも亀裂が発見されていること,ストップホール開口
部の左上および左下部にて応力集中が確認できる。応力集中部の周辺を応力発光シートに
より面的に調査し,ビデオカメラによる差分画像を見ることで,ストップホール処理後の
新たな亀裂の発見や亀裂進行の確認が可能になったといえる。
これは,ストップホール施工後の孔周辺の亀裂進行確認に有効といえ,対象となるスト
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ップホール周辺にのみ応力発光シートを塗布するようにすれば塗布面積も少なくてすみ,
省力化に貢献できると考える。
図 4.2.5.3 亀裂部の生画像
図 4.2.5.4 亀裂部の差分画像
さらに,S1-121 起点側において磁粉探傷試験(MT:Magnetic Particle Testing)を実施
し,応力発光シートにより検出したストップホール下の亀裂を確認した。写真 4.2.5.1 お
よび写真 4.2.5.2 に MT 検査結果を示す。写真 4.2.5.1 および写真 4.2.5.2 より,MT 検査に
て亀裂の存在は確認できなかった。応力発光シートにより検出したストップホール下の発
光は亀裂ではなく応力集中であるといえる。ストップホール上にある亀裂から下にかけて
の延長線上には高い応力が発生していることは十分考えられる。応力発光シートにより検
出された図 4.2.5.4 のストップホール周りの発光は応力の分布を確認する上でも有効であ
るといえる。
2-4-13
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写真 4.2.5.1 MT 検査写真(1)
写真 4.2.5.2 MT 検査写真(2)
(c) 斜材固定時と解放時の比較
ゲルバートラスの斜材固定時と解放時の発光状態を比較することで,応力発光シートが
橋梁の応力状態に追随できることの確認を行った。
図 4.2.5.5 には斜材切断部を固定した状態での差分画像を,図 4.2.5.6 には斜材切断部を
解法した状態での差分画像を,図 4.2.5.7 には図 4.2.5.5 と図 4.2.5.6 の合成画像を示す。
いずれも載荷車の走行速度は 20km/h である。
図 4.2.5.7 より,ゲルバーの斜材切断部を解放する事で荷重の作用する方向,あるいは
亀裂の開口場所が変化していることがわかる。斜材切断部を固定した状態ではストップホ
ール直上に開口部が出現するのに対して,解放した状態ではストップホール直上より少し
上から亀裂開口部が確認できる。このように,応力発光体を用いることで,橋の各部材の
荷重状態の変化(様々な載荷状態)を発光パターンを介して見分けられる可能性があると
いえる。応力変動によって発光強度が変わるため,応力状態も把握できることから,既設
橋で発見されている亀裂の応力状態を監視(モニタリング)できるというメリットもある。
2-4-14
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
図 4.2.5.5 斜材切断部を固定した状態での差分画像
(前画像(1149)と 1219)
図 4.2.5.6 斜材切断部を解放した状態での差分画像
(前画像(1611)と 1621)
解放
固定
応力パターンが
変化している
図 4.2.5.7 合成画像
2-4-15
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
(d) 亀裂箇所におけるひずみ比較
図 4.2.5.8 には亀裂部のひずみ測定箇所を,図 4.2.5.9 には載荷車の走行速度 20km/h に
おけるひずみ計測結果を,図 4.2.5.10 には載荷車の走行速度 40km/h におけるひずみ計測
結果を載せる。これは斜材解放前の計測結果である。
図 4.2.5.8 亀裂部のひずみ測定箇所
図 4.2.5.9 および図 4.2.5.10 より,載荷車の走行速度の違いにより生じるひずみに関し
ては,走行速度が早いほどひずみは増加するという結果になった。ここでも衝撃が少なか
らず影響していると推察される。また,載荷車の走行速度の増加とともにひずみ速度(発
光速度)も増加していることから,4.5.2.5 の(1)で述べたように,ゲージ 6-1 でも若干 40km/h
の方が応力が高かったことも踏まえ,両方とも先方の見解と一致していることが確認でき
た。また,走行速度 20km/h と 40km/h の両方とも,ROI1 よりも ROI3 の方がひずみが大き
く,亀裂の先端付近よりも付け根付近の方が応力が高いという事実とも整合している。
また,4.2.5.1 の(1)に示すひずみゲージによる計測応力とも結果はほぼ整合しているこ
とが確認できる。ここでも,応力発光体を用いることで,橋の各部材の荷重状態の変化(様々
な載荷状態)を発光パターンを介して見分けられる可能性があることが確認できた。
2-4-16
第2編 道路分科会
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資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
図 4.2.5.9 載荷車の走行速度 20km/h における
ひずみ計測結果
図 4.2.5.19 載荷車の走行速度 40km/h におけ
る
ひずみ計測結果
(e) RC 床版鋼板接着の効果確認
4.2.5.1 の(1)の表 4.2.5.3 に示すように,RC 床版の鋼板接着補強部のひずみゲージによ
る計測は可能であったが,発生応力が小さく,最大でも 5.7N/mm2 という結果であった。
応力発光シートの検出能は産総研の公表用資料からも 10N/mm2 といわれており,今回の
鋼板表面に発生する応力では検出ができなかった。RC 床版の鋼板接着効果を確認するに
は,まずハンマで鋼板表面をたたき,打音・打感で接着の効果を判断する。この判断を応
力発光シートで置き換えることを目指したが,今回の計測では応力発光シートによる発生
2-4-17
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
応力が小さすぎてうまくいかなかった。応力発光シートの検出性能向上は今後の課題とい
える。
4.2.6 まとめと今後の課題
応力発光体は近年構造物のモニタリングにおいて適用事例が増加しつつある。応力発光
体は点でしか計測できないひずみゲージとは異なり,作用する外力の大きさに比例した明
るさを表示でき,ある程度の面積をもった面として変状をとらえることができるのが特徴
である。
本研究では,大阪中央環状線の淀川渡河部に位置する旧鳥飼大橋(北行き)の鋼縦桁お
よび RC 床版鋼板接着部を対象にして,応力発光体によるひずみの検出性能を検証した。
既往の研究で指摘されてきた以下の 3 つの課題に対して検証を行った。
①面的な情報把握は有効かどうか,すなわち,特定の損傷以外にも新たな損傷を検出で
きるかどうかという課題については,亀裂部に空けたストップホール周辺に新たな損傷を
確認することができたことから応力発光シートの有効性が確認できた。
②橋梁の荷重載荷状態が変化しても応力発光センサによる検出はうまく追随できるかと
いう点については,載荷状態の変化を載荷車両の走行速度(v=20km/h および v=40km/h)
とゲルバートラス斜材の切断前後という荷重載荷状態が変化する状況において,応力発光
シートによるひずみ検出はうまく載荷状態の変化を追随できていることを確認できた。
③微少な変形(例えば,RC 床版の鋼板補強部で鋼板接着の効果を確認できるかどうか)
に対して応力発光センサによる検出はうまく追随できるかについては,RC 床版の鋼板表
面に発生する応力が微少で,現在の応力発光シートの検出性能ではひずみの変化を得るこ
とができなかった。今後は検出能の向上が一つの課題となる。
応力発光シートが今後安価になり,例えば,塗装用塗料に含ませることが可能になれば,
応力発光シートの特徴である面的な情報把握がより顕著に達成できると考えられる。さら
には,検出性能が向上すれば,最初に面的に大きな範囲で損傷を把握し,次に抽出された
特定の損傷をピックアップしてより精度の高いひずみゲージなどで計測を実施するという
2 段階の計測が可能になれば理想的である。
【参考文献】
1)徐
超男:応力発光体を用いた構造物の安全管理,応用物理,Vol.80,No.1,pp.46-50,
2011.
2)徐
超男:暗環境下でのコンクリートひび割れを瞬時に可視化
-応力発光体を用いた
構造物の安全管理モニタリングシステム-,セメント・コンクリート,No,764,pp.8-14,
2010.
3)徐
超男:
「見えない」危険を可視化する技術,検査技術,Vol.14,No.9,pp.1-10,2009.
4)徐
超男:応力発光体を用いたセンシング,セラミックス,Vol.44,No.3,pp.154-160,
2009.
5)寺崎
正,徐
超男,李
承周,椿井正義,安達芳雄,上野直広:応力発光体を用いた
建物の安全管理モニタリングシステムの可能性,土木学会第 65 回年次学術講演会,Ⅵ-156,
pp.311-312,2010.9.
2-4-18
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
6)篠川俊夫,徐
超男,寺崎
正,上野直広,安達芳雄,李
承周,小野大輔,椿井正義,
竹村貴人:応力発光体を用いた実橋梁ひずみ計測実験,土木学会第 65 回年次学術講演会,
Ⅵ-157,pp.313-314,2010.9.
7)川端雄一郎,徐
超男,小野大輔,岩波光保,李
シンシュ,上野直広,加藤絵万:暗
視野下におけるコンクリートのひび割れ検出への応力発光センサの適用,土木学会第 65
回年次学術講演会,Ⅴ-255,pp.509-510,2010.9.
8)李
シンシュ,川端雄一郎,徐
超男,李
承周,岩波光保,椿井正義,川崎悦子:応
力発光センサを用いた鉄筋コンクリートの破壊予測の検討,土木学会第 65 回年次学術講
演会,Ⅴ-256,pp.511-512,2010.9.
(4.2 章執筆担当:保田敬一,Luiza H. Ichinose)
2-4-19
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4.3 鋼材板厚計測による腐食状況
4.3.1 研究の背景と目的
高齢化を迎えた長大橋梁のモニタリングや長寿命化に関する研究においては,各種計測
による劣化状況の把握は重要である。一級河川淀川にかかる大阪中央環状線の(旧)鳥飼
大橋(北行き)
(以下,旧鳥飼大橋と略す)は隣接する新橋架設に伴い,数年間再塗装せず
に放置状態にある。本研究では,旧鳥飼大橋の鋼材腐食,劣化状況を把握するために本橋
の代表的箇所に対して各種非破壊検査を実施した。本研究では,下路式トラスの路面より
上の部材に関しては対象外とし,路面より下の移動式足場の設置されている主に床組(縦
桁,横桁など)について調査を行った。河川上の橋は風の影響もあり,上流側と下流側と
で腐食の進行が異なること,あるいは,凍結防止剤散布による鋼材腐食により鋼ゲルバー
桁の板厚分布は部位によって,位置によって進行が変化するのかなどを残存板厚計測後に
考察する。
4.3.2 対象橋梁の概要
鳥飼大橋は,大阪中央環状線の淀川を跨ぐ昭和 29 年竣工の鋼ゲルバートラス橋である。
旧鳥飼大橋の側面を写真 4.3.2.1 に示す。
写真 4.3.2.1 旧鳥飼大橋の走行面
開通当初は往復 2 車線の対面通行であったが,1965 年(昭和 40 年)に上流側に新たな
道路橋(南行き一方通行 2 車線)が完成したため,北行き一方通行となった。その後の交
通量の増大による著しい老朽化の影響から,度重なる補修を重ね,架け替えの数年前から
は荷重制限(20tf)・速度制限(40km/h)が設定されていた。完成後ほぼ半世紀が過ぎ,近
年の急激な交通量の増加や車両の大型化等により老朽化が進行しており,また,現行の耐
震基準では十分な耐震性を有していないことや慢性的な交通渋滞が生じていることなどの
緊急課題も抱えていたことから,架け替えが検討され,2010 年(平成 22 年)2 月 27 日(土)
早朝に新橋の車道部分 3 車線が暫定供用開始された。
2-4-20
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4.3.3 非破壊検査方法
4.3.3.1 計測位置
図 4.3.3.1 に旧鳥飼大橋の側面図を,図 4.3.3.2 に計測した第 4 径間の調査位置図を示
す。なお,本研究での計測は,走行路面上に位置するトラス上弦材などは対象外とし,移
動式足場にて部材に接近できる床組(縦桁,横桁,ヒンジ部など)関係を対象とした。第
1~第 9 径間のうち,低水路は第 4 径間~第 7 径間である。本研究では,部材に近接できる
移動式足場が設置されているのが低水路区間であり,その中から計測対象区間として第 4
径間を選定した。
ヒンジ部
図 4.3.3.1 (旧)鳥飼大橋(北行き)の側面図
図 4.3.3.2 第 4 径間の調査位置図
2-4-21
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4.3.3.2 板厚および塗膜厚さの測定
事前に桁下に設置されている移動式足場を用いて床組周辺,縦桁と横桁の交差部,ガセ
ット部,ヒンジ部などを目視検査し,腐食の激しい部位と健全な部位で対になった箇所な
どを選定した。超音波厚さ計を用いて塗膜厚さと残板厚を測定した。
写真 4.3.3.1
デジタル式超音波厚さ計
4.3.3.3 付着塩分および温度・湿度の測定
第 4 径間の中で,上流側と下流側,外桁と内桁,縦桁部材接着部の上端と下端,径間端
部と径間中央などの位置パラメータを考慮して,測定箇所を選定し,ポータブル表面塩分
計を用いて各部材の付着塩分濃度を測定した。
写真 4.3.3.2
ポータブル表面塩分計
2-4-22
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4.3.4 測定結果
4.3.4.1 板厚および塗膜厚測定結果
表 4.3.4.1 塗膜厚さおよび板厚測定結果
測定 格点(計 測定
点 測箇所) 箇所
①
横桁69
②
③
1
(ガセッ ④
⑤
ト)
平均
①
横桁69
②
③
(横桁腐 ④
⑤
食部)
平均
2
①
横桁69
②
③
(横桁健 ④
⑤
全部)
平均
①
横桁73
②
③
(横桁腐 ④
⑤
食部)
平均
7
①
横桁73
②
③
(横桁健 ④
⑤
全部)
平均
単位:mm
塗膜厚
測定 格点(計 測定 塗膜厚
測定 格点(計 測定 塗膜厚
板厚
板厚
板厚
さ
点 測箇所) 箇所
さ
点 測箇所) 箇所 さ
0.282 8.8
①
0.100 8.2
① 0.632
7.6
横桁69
横桁71 ② 0.551
0.448 8.5
②
0.382 7.7
7.7
0.654 8.7 3
③
0.090 7.8 5
③ 0.573
7.9
(ガセッ ④
(ガセッ ④ 0.531
0.229 8.7
0.091 7.2
8.4
0.234 8.8
⑤
0.454 7.9
⑤ 0.520
8.1
ト)
ト)
0.369 8.7
平均 0.223 7.76
平均 0.561 7.94
計測不可
8.2
①
0.315 8.0
8.6
横桁71 ① 0.184
横桁69
計測不可
8.2
②
0.478 8.0
② 0.197
7.8
計測不可
6.9
③
0.398 8.1
③
0.201
7.9
(ガセッ
計測不可
(横桁腐 ④ 4.6
4.4
④ 0.158
7.0
ト腐食部
計測不可
5.7
⑤ 3.0
⑤ 0.252
7.8
食部)
6.72 4
平均 0.397 6.3 6 (天側)) 平均 0.1984 7.82
0.958 8.6
①
0.958 8.5
8.3
横桁71 ① 0.363
横桁69
0.998 8.3
②
0.998 8.3
② 0.323
8.8
0.901 8.4
③
0.901 8.4
8.4
(ガセッ ③ 0.054
(横桁健 ④
0.979 8.3
0.979 8.2
④ 0.072
8.0
ト健全部
0.980 8.3
⑤
0.980 8.1
⑤ 0.491
8.7
全部)
(地側)) 平均 0.261 8.44
0.963 8.38
平均 0.963 8.3
2.3
①
0.358 8.2
①
4.0
横桁83 ②
1.5
②
0.378 8.2
1.7
縦桁S5
0.9 8
③
0.402 8.0
③
4.4
(主構腐 ④
1.9
④
0.340 7.9
2.0
(縦桁)
1.9
⑤
0.380 8.0
2.9
食部) ⑤
1.7
平均 0.372 8.06 10
平均
3
0.390 8.8
①
0.339 4.7
① 0.394 11.0
横桁83 ② 0.373 11.0
縦桁S6
0.460 8.9
②
0.392 3.0
0.540 8.6
③
0.401 2.0
③ 0.391 11.1
(主構健 ④ 0.320 11.1
(縦桁腐 ④
0.495 8.8
0.531 2.3
0.437 8.6
⑤
0.395 2.2
全部) ⑤ 0.374 11.1
食部)
0.464 8.74 9
平均 0.412 2.84
平均 0.370 11.06
①
0.564 8.5
縦桁S6
②
0.404 8.5
③
0.451 8.3
(縦桁健 ④
0.433 8.1
⑤
0.295 8.2
全部)
平均 0.429 8.32
図 4.3.4.1 塗膜厚さおよび板厚測定部位の一例
2-4-23
第2編 道路分科会
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図 4.3.4.1 に塗膜厚さおよび板厚測定部位の一例を示す。また,表 4.3.4.1 には塗膜厚さ
および板厚測定結果の一覧を載せる。
腐食の状況を調査するにあたり,まず,第 4 径間全体の損傷程度を概観したが,腐食が
進行している部位とそうでない部位とが混在している。塗装は全体的に白化・淡色化して
いるが,塗膜の喪失,発錆,腐食,断面現象が局部的に生じている。これらは,路面から
の漏水および冬期に散布している凍結防止剤によるものと推察される。横桁・縦桁下フラ
ンジや横構ガセットなど水平面をもつ部材の上面に多量の泥や塵埃が堆積していることか
らもわかる。さらには,近辺には野鳥も多いことから,鳥の排泄物,雛の羽毛,鳥の巣の
残骸なども見受けられた。本研究で調査対象とした床組(縦桁,横桁)は主構と同時期に
全面塗装が行われており(昭和 59 年度に全面塗装塗り替え),その後,平成 10 年に横桁下
部および主構下弦材格点内面のみ塗り替え工事が施工されている。また,補強・補修時に
部分的なタッチアップ塗装が施されている。
以下,局部的な腐食箇所として,格点 69(測定点 1,2,3,4)はゲルバーヒンジ部であり,
横桁の腹板下部に深さ 4~5mm 程度の局部腐食が見られた。同様に,格点 73(測定点 7)
ではほぼ貫通している孔食が確認された。縦桁 S6(測定点 9)および横桁 83 における主構
下フランジ(測定点 10)でも同様に,深さ 6~8mm 程度の局部腐食が見られた。これらの
局部腐食はいずれも,縦桁・横桁フランジや横構ガセットなど水平面をもつ部材の上面に
見受けられることが特徴である。
4.3.4.2 健全部の板厚減少
鋼材の腐食が進行している箇所とそうでない個所とが混在するが,腐食の進行していな
い個所(健全部)の腐食速度を計算することで,本来道路橋では考えていない板厚の余裕
代の必要性を検討した。
表 4.3.4.1 より,健全部の板厚と供用年数から,腐食速度を計算した。設計図面より,ガ
セットの板厚は,t=9mm,横桁腹板の板厚は,t=9mm,縦桁腹板の板厚は,t=9mm である。
参考までに,鋼板の板厚誤差は,t±0.3~0.5mm となっている。
ガセット(建全部)の腐食速度は,供用年より計算すると,測定点 1:0.0053mm/year,
測定点 3:0.022mm/year,測定点 5:0.019mm/year,測定点 6:0.010mm/year となる。ガセ
ット(建全部)の平均腐食速度は,0.0141 mm/year となった。図 4.3.4.2 より,上流側(測
定点 3, 5, 6)の方が下流側(測定点 1)より腐食進行が早いといえる。
2-4-24
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
ガセット(設計板厚と計測値)
9
9
8.8
8.8
8.6
8.6
元板厚
計測値(平均値)
8.4
板厚(mm)
横桁・縦桁(設計板厚と計測値)
8.4
8.2
8.2
8
8
7.8
7.8
7.6
7.6
7.4
7.4
7.2
7.2
7
元板厚
計測値(平均値)
7
測定点=1
測定点=3
測定点=5
測定点=2
測定点=6
図 4.3.4.2 設計板厚との比較(ガセット)
測定点=7
測定点=4
測定点=9
測定点=8
図 4.3.4.3 設計板厚との比較(横桁・縦桁)
表 4.3.4.2 横桁・縦桁の腐食速度
腐食速度(mm/year)
0.0107
0.0045
0.0121
0.0117
0.0162
測定点=2
測定点=7
測定点=4
測定点=9
測定点=8
上下流
下流側
上流側
上流側
上流側
上流側
0.8
板厚減耗量(mm)
0.7
y = 0.0208x
R² = 0.9645
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
10
20
30
経過年数(年);10%寿命分位値
図 4.3.4.4 鋼製水管橋の劣化速度
1)
同様に,横桁・縦桁の腐食速度を計算した結果が図 4.3.4.3 および表 4.3.4.2 になる。こ
こで,横桁・縦桁においては,上下流側で差がないのは,計測している箇所が桁下部に位
置するガセットよりも上の方に位置するためと考えられる。横桁・縦桁の平均腐食速度は,
0.0110 mm/year となった。
道路橋では,設計で板厚の減少を考慮しておらず,供用後 50 年経過の時点では 0.55mm
の板厚が減少していることになる。この原因として,ケレン時の処理グレードおよびさび
や旧塗膜は除去し、鋼面を露出させた際の鋼材面の処理状態などが考えられるが,道路橋
2-4-25
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
ではこういった調査が行われておらず,その報告もほとんどないことから,比較する対象
がないことも問題となる。しかし,実態として,本橋のように板厚の減少が確認されるこ
とは事実であり,その原因を確認する必要があるといえる。
鋼製の水管橋は使用環境(特に摩耗の影響)が道路橋とは異なるが,劣化速度の目安が
公開されている(図 4.3.4.4 参照)。鋼製の水管橋の板厚減少量は 0.021mm/年 1) となってお
り,道路橋の 2 倍近い腐食速度になっている。この原因は,特に水管内面の土砂等による
摩耗の影響が大きいと考えられる。
4.3.4.3 付着塩分および温度・湿度測定結果
図 4.3.4.5 には温度・湿度・付着塩分測定位置図(図 4.3.4.5 に表示の数値は付着塩分量
を示す)を,図 4.3.4.6 には測定点断面図を示す。また,表 4.3.4.3 には測定結果一覧を,
表 4.3.4.4 には路面上の大気温度および湿度を示す。
起点
67
65
69
71
73
75
S1
77
15.3
7.1
上 620.0 , 下 147.5
上 5660.0 , 下 4060.0
40.0
18.9
上 1134.0 , 下 305.0
上 6788.0 , 下 6972.0
G1
S2
S3
S4
上 7340.0 , 下 7024.0
上 8080 >, 下 6500.0
上 5884.0 , 下 4284.0
上 7284.0 , 下 6312.0
上 6096.0 , 下 6504.0
上 323.0 , 下 98.8
16.2
13.2
上 6368.0 , 下 6056.0
上 155.1 , 下 52.3
24.1
10.7
S5
S6
G2
:温度・湿度・付着塩分 測定箇所を示す。
P3
:温度・湿度 測定箇所を示す。
図 4.3.4.5 温度・湿度・付着塩分測定位置図(第 4 径間)
測定点
縦桁 (S1・S4・S6)
上流側
a
c
b
d
b
285
a
上流側
下流側
170
下流側
140
主構トラス下弦材(G1・G2)
図 4.3.4.6 測定点断面図
付着塩分は,雨水などによって洗浄されやすい外桁外面以外の測定点(測定点 65,77 の
縦桁)で高い塩分濃度(4,060~8,080mg/m2 以上)が測定された。縦桁 S1 の下流側(測定
位置 a,b)および縦桁 S6 の上流側(測定位置 c,d)は計測値が低く,これらの位置は外桁で
ある主鋼トラスの下弦材に隣接することから,雨水による洗浄効果があると考えられる。
一方,主鋼トラスの下弦材(測定点 65,69,77)は直接雨水があたるため,塩分濃度は低い
数値となっている。概ね,外桁(主鋼トラス[G1,G2],縦桁 S1,S6)よりも内桁(縦桁 S2~
S4)の方が塩分濃度が高くなっている。また,下流側(a,b)よりも上流側(c,d)の方が塩
分濃度が高くなっているし,床版に近い部位(a>b,c>d)程,塩分濃度が高くなっている。
2-4-26
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
本橋は淀川に架かるため,風向きを計測するとともに,過去の大阪府年間の風配図(図
4.3.4.7 参照)より,風は下流側から上流側へ(風向は南西)と吹いていることがわかる。
表 4.3.4.3 測定結果一覧
測定位置
65(終点側)G1
65(終点側)G2
主
構
ト
ラ
ス
下
弦
材
69(起点側)G1
69(起点側)G2
69(終点側)G1
69(終点側)G2
77(起点側)G1
77(起点側)G2
65(終点側)S1
縦
65(終点側)S4
桁
65(終点側)S6
77(起点側)S1
縦
77(起点側)S4
桁
77(起点側)S6
温度(℃) 湿度(%)
a
b
a
b
a
b
a
b
a
b
a
b
a
b
a
b
a
b
c
d
a
b
c
d
a
b
c
d
a
b
c
d
a
b
c
d
a
b
c
d
21.9
22.0
21.7
21.7
21.6
21.7
21.7
21.8
21.5
21.5
21.3
21.5
21.8
22.4
21.5
21.9
22.0
22.0
22.0
22.1
22.7
22.6
22.3
22.3
21.5
21.6
21.7
21.6
21.6
21.5
21.4
21.5
22.1
21.9
21.8
21.9
21.5
21.6
21.5
21.6
43.8
43.9
49.0
48.7
53.1
53.2
52.8
52.4
52.0
51.5
52.5
52.0
48.9
46.6
50.1
48.1
45.6
45.4
44.5
45.1
46.3
46.4
45.5
45.9
52.9
52.6
51.3
52.1
47.6
48.7
48.0
48.0
48.7
49.7
49.9
49.5
51.6
52.4
51.9
52.3
塩分
伝導率
(mg/m2) (μS/cm)
40.0
10.0
18.9
4.7
16.2
4.0
13.1
3.3
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
15.3
3.8
7.1
1.8
24.2
6.1
10.7
2.7
1134.0
283.0
305.0
76.3
6788.0
1697.0
6972.0
1743.0
7340.0
1835.0
7024.0
1756.0
8080以上 2020以上
6500.0
1625.0
6096.0
1524.0
6504.0
1626.0
323.0
80.8
98.8
24.7
620.0
155.0
147.5
36.9
5660.0
1415.0
4060.0
1015.0
5884.0
1471.0
4284.0
1071.0
7284.0
1821.0
6312.0
1578.0
6368.0
1592.0
6056.0
1514.0
155.1
38.8
52.3
13.1
表 4.3.4.4 路面上の大気温度および湿度
測定時刻 温度(℃) 湿度(%) 風向 風速 現地気圧 海面気圧
10:30
23.8
43.8
12:04
23.8
44.5
13:02
23.5
44.9
16:58
21.4
52.3
15:00
51
南西 4m/s 1005.7hPa 1015.3hPa
2-4-27
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第2編 道路分科会
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旧鳥飼大橋
図 4.3.4.7 大阪府年間の風配図
(統計期間:2001 年から 2010 年の 10 年間)
図 4.3.4.8 裸鋼材の腐食量経年変化
(洗浄による腐食量の違い:下フランジ上面) 2)
2-4-28
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
本橋は路面の凍結対策として,毎年 1 月,2 月に月 1~4 回ほど凍結防止剤(塩化ナトリ
ウム,塩化カリウム等)を散布しているが,散布量の把握はできていない。また,本橋は
海岸線から約 20km 離れている。本橋の架橋地点は瀬戸内海沿岸部に該当するので,海岸
線から 1km を超える地域が飛来塩分量の測定を省略してもよい地域として設定されてい
る(道路橋示方書で規定された耐候性鋼材を無塗装で使用する場合の適用地域,2002)。こ
の規定からも,本橋は飛来塩分量の影響をほとんど受けないものと考えられる。これらよ
り,本橋の局部腐食が進行しているのは,飛来塩分よりも凍結防止剤による影響が大きい
と考えられる。
凍結防止剤が鋼桁に付着する要因には,2 つあり,一つは本来水に曝されない桁部への
漏水による付着と,もう一つは風や車両通過により路面上の凍結防止剤が飛散して,鋼桁
に付着する場合である。建設後の経年による伸縮装置部の非排水部の破損や排水管からの
水漏れ,ゲルバーヒンジ部からの漏水などが主な原因と考えられる。散布された凍結防止
剤は車両による巻き上げや路面水とともに排出され,時間の経過とともに路面上からは消
失するが,路下への漏水などにより,特に内桁では洗浄がなされないことから桁表面に付
着したままになっていることもある。
腐食深さと経過年数(27 年:全体塗り替え)から腐食速度を求めてみると,横桁 73 で
は最大 0.29mm/年,平均で 0.26mm/年,縦桁 S6 では,最大 0.23mm/年,平均で 0.20mm/年,
横桁 83 では最大 0.35mm/年,平均で 0.30mm/年となっている。図 4.3.4.8 に示す裸鋼材の
腐食量経年変化 2) における腐食速度(0.13mm/年:洗浄なし)と比較しても本研究での計測
結果は腐食速度がかなり高い。図 4.3.4.8 は凍結防止剤を使用してなく,河口から 4.5km に
位置する三国大橋の資料であり,付着塩分は海岸からの飛来塩分のみである。凍結防止材
による腐食への影響は飛来塩分よりもかなり高いことがわかる。
旧鳥飼大橋は 2010 年 2 月から新橋が供用されると同時に路面の凍結防止剤の散布を旧
橋には行っていない。新橋の供用後 1 年しか経過しておらず,まだ旧橋の部材表面には過
去に散布された凍結防止剤による塩分が付着していると思われる。過去どのくらいの量の
凍結防止剤が散布されたかは不明であるが,外桁の外面には付着塩分量が少ないというこ
とは雨水等による洗浄効果があることを意味しており,逆に,内桁には付着塩分量が多く
残存していることからも,桁表面の洗浄の効果はかなりあると推察される。洗浄の効果は
図 4.3.4.10 からも明らかであり,凍結防止剤に対して有効な対策の一つとして考慮できる
と考える。
今後の課題として,このまま内桁周辺を洗浄せずに放置すると付着塩分量が減少するの
かどうかについては,今後の経年的な計測が必要と考える。また,凍結防止剤の散布量と
鋼材表面の付着塩分量との関係は,月 1 回程度の継続した塩分量測定によってある程度ま
で把握できると考える。
4.3.4.4 測定結果のまとめ
①上流側に腐食による損傷が偏っている傾向があることがわかった。
②付着塩分のデータも同様な傾向を示している。
③湿度の方も、わずか 1 日のデータではあるが同様な傾向を示している。ただし,桁高
が比較的低いため,湿度のデータは鈑桁程顕著に出ていないと思われる。これは,桁
2-4-29
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
高が低い分だけ風通しが良くなることが原因である。ヒンジ付近は部材が込み合って
いるため,風通しが悪く,湿度がこもりがちになると考えられる。度合いは少し違う
が,支点上付近も同様な傾向を示している。
④気象データからは,風向が下流側から上流側へ吹いていることが推定される。計測し
た日も風向きは下流から上流の方向であった。以上から,腐食および塗膜の劣化につ
いては,風下側(上流)に偏っていることが分かった。外桁の方は,雨などで部材表
面が洗浄されることがあるため,内桁の方に付着塩分が貯まってきていると推察され
る。
⑤凍結防止材による腐食への影響は飛来塩分によるものよりかなり高い。
⑥道路橋の設計では板厚の減少を考慮していないが,今回の板厚調査でも実態として減
厚が確認されている。このことから,今後,設計や維持管理に反映されるような更な
る調査・分析が行われることを期待する。
4.3.5 まとめと今後の課題
本研究では,旧鳥飼大橋の主に床組部(縦桁・横桁)を対象にして,残存板厚および塗
膜厚さの計測および温度,湿度,風向,付着塩分量の計測を行った。
鋼製橋梁の腐食の進展は,塗装の経年劣化,剥離および鳥の糞や土砂等の堆積物などが
主な要因であるが,冬期に路面散布される凍結防止剤による付着塩分濃度が別の要因とし
て考えられる。
本橋梁の場合,最後に塗装の塗り替えを実施してから 27 年が経過しており,部材各所に
塗装の劣化剥離や発錆が認められる。特に,フランジ下面の水平部などには塩分濃度の高
い塩化カルシウムなどが堆積しやすく,付着塩分濃度の高いのは風下の下流側よりも上流
側,外桁よりも内桁,床版から遠い方よりも近い部位であり,そのいずれもが腐食量が大
きくなっていることが確認できる。
今回の調査結果から,本橋梁のように河口から遠い橋梁では,海岸からの飛来塩分より
も凍結防止剤による付着塩分量の方が影響が大きいと考えられる。よって,計測値の高か
った部位については雨水ではほとんど洗浄されないため,定期的な水洗いを実施すること
で付着塩分量を低減させ,腐食の進行を遅らせることが橋梁の延命化に寄与できると考え
る。
【参考文献】
1)保田敬一:鋼製水管橋の維持管理計画策定における一考察,日本鋼構造協会,鋼構造
年次論文報告集,Vol.17,pp.723-730,2009.11.
2)北嶋 浩,宮本重信,奥村 茂:海塩粒子が飛来する鋼橋の洗浄による防錆,福井県雪
対策・建設技術研究所,年報地域技術,第 22 号,pp.43-45,2009.8.
(4.3 章執筆担当:保田敬一,Luiza H. Ichinose)
2-4-30
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
4.4 鋼材の材料試験
4.4.1 旧鳥飼大橋の補修履歴(き裂に関して)
旧鳥飼大橋(北行)はこれまでに以下に示すような種々の点検,補修,補強等の維持管
理工事が実施されている。しかし,これらの調査は,その時点で要求された特定の目的ま
たは構造部材を対象として実施されており,旧鳥飼大橋の健全度推移に着目した資料は残
されていない。これらの既往の調査・点検結果は調査時点での橋梁の部分的な状態を知る
上での貴重な資料であり,表 4.4.1.1~表 4.4.1.2 に記しておく(以下,H11 年度調査報告
書「大阪府
枚方土木事務所:主要地方道
大阪中央環状線
鳥飼大橋
上部管理工事
検調査報告書,平成 11 年 3 月,日本橋梁株式会社」より抜粋)。
表 4.4.1.1
旧鳥飼大橋の点検・補修・補強履歴 (1)
実施年
内容
①昭和 28 年
着工
②昭和 29 年
竣工,供用開始,送水管添荷
③昭和 29 年
高欄工事(内容不明)
④昭和 41 年
橋台部嵩上げ工事
⑤昭和 43 年
伸縮装置補修
⑥昭和 45 年
伸縮装置補修
⑦昭和 49 年
鋼板接着による床板補強
⑧昭和 50 年
伸縮継手補修
⑨昭和 51 年
伸縮継手補修
⑩昭和 58 年
R C 床板健全度調査と鋼板接着工法による床板補強,
PC 桁輸送ルート橋梁としての耐荷力調査および床板健全度調査
(成果品借用:受託は(株)修成建設コンサルタント)
⑪昭和 60 年
活荷重の現地調査と統計分析
(成果品借用:受託は(株)綜合技術コンサルタント)
⑫昭和 62 年
橋面工,主構,塗装,床板などの概略調査,
(成果品一部借用:受託は(株)長大)
⑬平成 3 年
落橋防止装置取り付け,床板を主とした部分点検とヒンジ部横桁の
ブラケット補強,
(成果品借用:受託は日本橋梁エンジニアリング(株))
⑭平成 6 年
韓国の落橋事故を契機としたゲルバーヒンジ部点検
⑮平成 7 年
阪神大震災後の点検調査
2-4-31
点
第2編 道路分科会
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資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
表 4.4.1.2
旧鳥飼大橋の点検・補修・補強履歴 (2)
実施年
⑯平成 10 年
内容
上部工管理工事
成果品
状線
「大阪府
鳥飼大橋
枚方土木事務所:主要地方道
上部管理工事
大阪中央環
点検調査報告書,平成 11 年 3 月,
日本橋梁株式会社」
→成果品を本調査にて借用
⑰平成 11 年
現況調査(上下部工),計測(載荷試験,応力頻度測定)および解析
成果品
線
「大阪府
枚方土木事務所:主要地方道大阪中央環状
報告書,平成 12 年 3 月,
鳥飼大橋現況調査及び解析検討業務
株式会社修成建設コンサルタント」
→成果品を本調査にて借用
⑱平成 12 年
耐荷力照査,縦桁亀裂対策の補強効果確認
成果品
線
鳥飼大橋
「大阪府
枚方土木事務所:主要地方道大阪中央環状
耐荷力照査等検討業務
報告書,平成 13 年 3 月,株
式会社修成建設コンサルタント」
→成果品を本調査にて借用
⑲平成 19 年
橋梁点検(追跡調査,事後調査)
成果品
「大阪府
枚方土木事務所:主要地方道大阪中央環状
線鳥飼大橋橋橋梁点検委託
建設コンサルタント」
→成果品を本調査にて借用
2-4-32
報告書,平成 20 年 2 月,株式会社修成
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
また,これまでのき裂に関する調査・補修履歴を表4.4.1.3にまとめる。
表 4.4.1.3
旧鳥飼大橋のき裂に関する調査・補修履歴
実施年月
き裂に関する調査・補修履歴
平成 11 年 3 月
上部工点検:全橋梁にわたって,71 箇所の縦桁端部腹板に疲労き
裂を発見する。損傷は外縦桁に集中している。き裂の長さは 5mm
程度から 180mm までで,大きめのき裂は摂津側の高水敷に多い。
平成 11 年 9 月
補修:H11.3 の点検結果を受けて,き裂先端にストップホールを施
工(き裂長さの長いものを対象)する。また,バイパス式桁連結部
材(ブラケット方式)を,縦桁のき裂損傷対策として設置する。
平成 12 年 3 月
委員会審議,点検:鳥飼大橋維持管理検討委員会(大阪大学:松井
繁之委員長)で審議される。ストップホールの効果確認として,ス
トップホール施工後の損傷状況(き裂の進展等)を再確認する。ま
た,ストップホール周りの磁粉探傷試験を実施し,先端にき裂の進
展がないことを確認する。
平成 13 年 3 月
応力測定:縦桁き裂先端付近の応力測定(載荷実験)を実施するが
き裂の進展は確認できなかった。
平成 20 年 2 月
き裂の追跡調査:縦桁横桁接合部き裂調査(追跡調査)を実施し(5
箇所),き裂の進展性について確認(磁粉探傷試験)を行う。
前回調査(2000 年)と比較して,3 箇所でき裂の進展が認めら
れるが,その進展は極めて小さい状況であった。結果,ストップホ
ール部から,下に 3mm のき裂進展が確認された。
2-4-33
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
4.4.2 材料試験実施項目と数量
4.4.2.1 材料取得位置
本研究では,部材に近接できる移動式足場が設置されているのが第 4 径間~第 7 径間の
低水路区間であり,その中から計測対象区間として第 4 径間を選定し,鋼材の材料片を切
り出した。なお,横桁上フランジと主桁との交叉部から横桁ウェブに伸びたき裂は 3 箇所
あり,そのいずれにもストップホールが施工されていた。
4.4.2.2 試験実施項目と数量
横桁および横構撤去部材の試験項目とその数量は表 4.4.2.1 に示したとおりである。
表 4.4.2.1
横桁・横構の試験項目と数量
部材名
実施項目
化学成分分析(12元素)
(分析元素:
C,Si,Mn,P,S,Cu,Ni,Cr,Mo,V.O,N)
横桁ウェブ 引張試験(JIS-1A号試験片),縦弾性係数測
(t9)
定
シャルピー衝撃試験
(試験温度:-20,0,20,40℃)
き裂破面観察
化学成分分析(12元素)
(分析元素:
C,Si,Mn,P,S,Cu,Ni,Cr,Mo,V.O,N)
横構(L90×90
引張試験(JIS-1A号試験片),縦弾性係数測
×12)
定
シャルピー衝撃試験
(試験温度:-20,0,20,40℃)
数量
1体
3体
12個
3体
1体
3体
12個
4.4.3 試験結果とその考察
鋼はその製造年代により,初期のベッセマー鋼や 1925 年の我が国最初の鋼材規格であ
る JES(Japanese Engineering Standard,JIS の前身)制定以降の高炭素・低マンガン
鋼,そして,1952 年の JIS 制定以降の鋼に区分することができる。1952 年以降の鋼は不
純物が大幅に低減され,さらに,1970 年台以降には,連続鋳造設備の導入や脱ガス装置の
導入など,製鋼設備の技術革新により,現在の鋼材とほぼ同材質の鋼が製造されている
1) 。
鋼材の規格,製造方法及び使用鋼材の基準の変遷については省略するが,鋼材の主な年代
的変遷としては,製鋼法として昭和 30 年頃から平炉法から転炉法へと移行し,靱性に影
響を与える化学成分 P や S を取り除く技術が向上していることが挙げられる。
旧鳥飼大橋撤去部材の横桁ウェブ,横構(L 形鋼)の化学成分分析,引張試験,シャル
ピー試験およびき裂破面観察結果と結果に対する考察を下記にまとめた。写真 4.4.3.1 に,
試験片,分析試料採取部外観を載せる。
2-4-34
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
写真 4.4.3.1
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試験片・分析試料採取部材外観
2-4-35
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4.4.3.1 化学成分分析結果
(1) C 含有量と Mn 量
横桁ウェブ,横構の C 含有量(C:0.19%,0.16%)および Mn 量(Mn:0.41%)に大
きな違いはなく,C 量は現行 JIS 規格の SM400 材相当の鋼材が使用されており,引張試
験の結果からも現行 JIS の SS400 あるいは SM400 相当の降伏強度,引張強度を有してい
た(表 4.4.3.1 参照)。
表 4.4.3.1 横桁ウェブ・横構の化学成分分析結果
部材名
C
Si
Mn
横桁ウェブ(B1:t=8.2) 0.19 0.25 0.41
横構(L1)(L90×90×12) 0.16 <0.01 0.41
JES-SS41
-
-
-
JIS-SS41
-
-
-
JIS-SS400
-
-
-
JIS-SM400A
<0.23 - >2.5C
P
0.009
0.009
<0.06
<0.05
<0.05
<0.035
化学成分(wt%)
S
Cu
Ni
0.022 0.25 0.07
0.035 0.24 0.06
<0.06
<0.05
-
-
<0.05
<0.035
ガス成分(%)
Cr
Mo
V
O
N
0.03 <0.02 <0.002 0.0096 0.0027
0.04 <0.02 <0.002 0.0028 0.0035
-
-
-
-
-
(2) 不純物元素
靭性や板厚方向の強度特性等に影響するリン P や硫黄 S の量は,現行 JIS 規格(SS400
では 0.05%以下,SM 材では 0.035%以下)を満足していた。また,不純物元素(P,S)
は,現行 JIS 規格 SS400 規定値(S≦0.050%)または SM 材規定値(S≦0.035%)以下で
問題なかった。横桁ウェブのガス成分(O:0.0096%)がやや多い傾向の鋼材と推定される。
(3) 溶接硬化性元素
JIS 規定以外の溶接硬化性元素(Ni,Cr,Mo,V)の含有量は 0.07%以下と少なく問題なか
った。
4.4.3.2 引張試験結果
横桁ウェブおよび横構から採取したJIS-1A号引張試験片の機械的性質は,降伏応力306
~340N/mm2,引張強さ440~474N/mm2,伸びは21%以上と測定され,JIS規格SS400,
SM400相当の機械的性質を有した鋼材であった(表4.4.3.2参照)。
2-4-36
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
表 4.4.3.2 横桁ウェブ・横構引張試験結果(JIS-1A号試験片)
試験片寸法
降伏点
引張強さ
破断伸
部材名・試験片 標点距離
幅×板厚
断面積
び(%)
N
N/mm2
N
N/mm2
(mm)
(mm)
(mm2)
横桁ウェブ B1-1
200.0 w=40.00×t=8.25
330.0 112,000
339 156,500
474
22.5
(t=8.2)
B1-2
200.0 w=40.00×t=8.23
329.2 112,000
340 156,000
474
22.5
B1-3
200.0 w=40.00×t=8.15
326.0 109,000
334 154,500
474
21.0
横構(L形鋼) L1
200.0 w=40.00×t=12.43
497.2 152,000
306 219,000
440
22.0
(t=12.5)
L2
200.0 w=40.00×t=12.30
492.0 152,000
309 219,500
446
22.5
L3
200.0 w=40.00×t=12.16
486.4 152,500
314 237,000
487
21.0
規格 JES-1938(S.13) SS41 (厚9mm以上)
41~50
≧20
JIS-1952(S.27) SS41 (厚16mm以下)
≧25
41~52
≧21
JIS-1991(H.3) SS400(厚 >5≧16mm)
≧245
400~510 ≧21
次に,ウェブおよび横構材片に対して縦弾性係数およびポアソン比を測定した結果を表
4.4.3.3 に示す。道路橋示方書で用いられている設計値は,縦弾性係数が 2.0×10 5 N/mm 2
(=200GPa),ポアソン比が 0.3 である。これらの値は経年による値の変動はほとんどな
く,一定値を示すと言われており,旧鳥飼大橋の鋼部材も同じ傾向を示しているといえる。
表 4.4.3.3
横桁および横構の縦弾性係数およびポアソン比計測結果
縦弾性係数
ポアソン 断面積
E(GPa) 平均値 比(ν)
(mm2)
横桁 B1-1
200.8
0.28
330.0
ウェブ B1-2
206.3 204GPa
0.28
329.2
(t=8.2) B1-3
203.8
0.29
326.0
横構(L- L1
205.3
0.28
497.2
90*90*1 L2
207.1 205GPa
0.28
492.0
2.5) L3
202.7
0.28
486.4
以下,写真 4.4.3.2 には,横桁ウェブ
引張試験片(B1-1,B1-2,B1-3)およびシャル
ピー衝撃試験片(B1:12 個)採取位置を,写真 4.4.3.3 には,横桁ウェブ
JIS-1A 号引張
試験片外観を載せる。写真 4.4.3.4 には,縦弾性係数測定用 2 軸ひずみゲージ貼付け(板
両面)平行部腐食面を,写真 4.4.3.5 には,引張試験片の破断位置(B1-1~B1-3)を載せ
る。
2-4-37
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
写真 4.4.3.2
横桁ウェブ
引張試験片(B1-1,B1-2,B1-3)および
シャルピー衝撃試験片(B1:12 個)採取位置
写真 4.4.3.3
横桁ウェブ
JIS-1A 号引張試験片外観
2-4-38
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
写真 4.4.3.4
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
縦弾性係数測定用 2 軸ひずみゲージ貼付け(板両面)
平行部腐食面
写真 4.4.3.5
引張試験片の破断位置(B1-1~B1-3)
2-4-39
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
以下,図 4.4.3.1 には,横桁ウェブ
荷重-伸び線図を,写真 4.4.3.6 には,横構(L90
×90×t12):引張試験片(L1)シャルピー衝撃試験片(L1:12 個)採取位置を示す。
図 4.4.3.1
写真 4.4.3.6
横桁ウェブ
荷重-伸び線図
横構(L90×90×t12):引張試験片(L1)
シャルピー衝撃試験片(L1:12 個)採取位置
以下,写真 4.4.3.7 には,横構(L90×90×t12):JIS-1A 号引張試験片の外観(両表面
の腐食状況)を,写真 4.4.3.8 には,横構(L90×90×t12):縦断性係数測定用 2 軸ひずみ
ゲージ貼付け状況を示す。
2-4-40
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
写真 4.4.3.7
写真 4.4.3.8
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
横構(L90×90×t12):JIS-1A 号引張試験片の外観(両表面の腐食状況)
横構(L90×90×t12):縦断性係数測定用 2 軸ひずみゲージ貼付け状況
2-4-41
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
以下,写真 4.4.3.9 には,横構(L90×90×t12)
:引張試験片の破断位置を,写真 4.4.3.10
には,横構(L90×90×t12):引張試験片(L2,L3)採取位置を示す。
写真 4.4.3.9
写真 4.4.3.10
横構(L90×90×t12):引張試験片の破断位置
横構(L90×90×t12):引張試験片(L2,L3)採取位置
2-4-42
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
図 4.4.3.2 には,横構の荷重-伸び線図を示す。
図 4.4.3.2
横構
荷重-伸び線図
2-4-43
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
以下,図 4.4.3.3 には,横桁ウェブ縦弾性係数測定結果(B1-1)を,図 4.4.3.4 には,横
桁ウェブ縦弾性係数測定結果(B1-2)を,図 4.4.3.5 には,横桁ウェブ縦弾性係数測定結
果(B1-3)を示す。
図 4.4.3.3
横桁ウェブ縦弾性係数測定結果(B1-1)
図 4.4.3.4
横桁ウェブ縦弾性係数測定結果(B1-2)
図 4.4.3.5
横桁ウェブ縦弾性係数測定結果(B1-3)
2-4-44
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
以下,図 4.4.3.6 には,横構の縦弾性係数測定結果(L1)を,図 4.4.3.7 には,横構の縦
弾性係数測定結果(L2)を,図 4.4.3.8 には,横構の縦弾性係数測定結果(L3)を示す。
図 4.4.3.6
横構
縦弾性係数測定結果(L1)
図 4.4.3.7
横構
縦弾性係数測定結果(L2)
図 4.4.3.8
横構
縦弾性係数測定結果(L3)
2-4-45
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
4.4.3.3 シャルピー衝撃試験結果
横桁(t=8.2)・ウェブ・シャルピー衝撃試験片寸法は,試験片:B1~B12まで同じ寸法
で,高さが10.0mm,幅が7.5mm,ノッチ下高さが8.0mm,ノッチ底半径は0.25 mm,断
面積は60mm 2 である。
横桁ウェブ材の実測板厚は腐食減厚による実測板厚が9mm未満であっため,試験片はサ
ブサイズ(10×7.5mm)とした。標準試験片(10×10mm)と対比するため,式(1)による
吸収エネルギーの換算値による評価を行った。
J=T×(10/7.5)
(1)
ここに,J:吸収エネルギー換算値,T:実測値であり,JIS G 3106 付属書B(G 3106-1995
「溶接構造用圧延鋼材」SM 鋼材附属書B(規定)サブサイズ衝撃試験片のエネルギー値
抜粋)による。
各試験温度による吸収エネルギーは,横桁ウェブ44.2~53.3J,横構58.2~75.4Jと測定
された。SS材規格に衝撃値は規定されていないが,SM400B(規定値0℃:≧27J)相当の
靭 性 を 有 し た 鋼 材と 推 定 さ れ る 。 横 桁 ウ ェ ブ お よ び 横 構 の シ ャ ル ピ ー 衝 撃試 験 結 果 を表
4.3.4に,シャルピー試験片の破面外観を表4.4.3.5に示す。
表 4.4.3.4
横桁ウェブおよび横構のシャルピー衝撃試験結果
試験温度
部材名
試験
片番
号
横桁ウェブ(B-1)
1
2mmV・10×7.5mm
2
3
横構(L90×90)
1
2mmV・10×10mm
2
3
-20℃
0℃
吸収エ ぜい性 横膨 試験 吸収エ ぜい性
破面率
ネル
片番
出
破面率
ネル
(%)
(mm) 号 ギー(J)
(%)
ギー(J)
19.4
95 0.45
4
44.2
35
24.3
90 0.59
5
53.3
50
23.5
90 0.48
6
49.6
50
15.5
100 0.36
4
75.4
70
17.7
100 0.43
5
58.2
75
14.6
95 0.34
6
68.2
70
表 4.4.3.5
20℃
横膨 試験 吸収エ ぜい性
破面率
ネル
出 片番
(%)
(mm) 号 ギー(J)
1.03
7
64
35
1.17
8
65.8
35
1.05
9
67.8
30
1.56
7
72.6
65
1.25
8
91.3
50
1.41
9
78.6
55
40℃
横膨 試験 吸収エ ぜい性 横膨
出 片番 ネル 破面率 出
(mm)
(mm) 号 ギー(J) (%)
1.36
10
86.1
5 1.68
1.4
11
94.4
5 1.94
1.46
10
89.2
5 1.92
1.51
10
111.1
25 2.01
1.94
11
117.7
20 2.17
1.55
12
111.5
25 2.23
横桁ウェブおよび横構のシャルピー試験片の破面外観
2-4-46
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
また,試験温度と吸収エネルギーの関係を図 4.4.3.9 に示す。シャルピー衝撃試験は鉄
鋼材料のじん性を評価するための試験であり,一般的には,吸収エネルギーは温度の低下
とともに減少する傾向にある。図 4.4.3.10 でもそのような傾向は確認できる。道路橋示方
書に掲載されている一般構造用圧延鋼材および溶接構造用圧延鋼材の機械的性質
2) からも,
SM400 相当にて,シャルピー吸収エネルギーは 0°C で 27J 以上との記載があり,旧鳥飼
大橋の測定結果はこの基準を満足しているといえる。
図 4.4.3.9
溶接構造用圧延鋼材(SM 鋼材)における附属書 AB(規定)
サブサイズ衝撃試験片のエネルギー値
2-4-47
第2編 道路分科会
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資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
図 4.4.3.10
シャルピー遷移曲線
以下,図 4.4.3.11 には,横桁ウェブ・シャルピー衝撃試験片形状を,図 4.4.3.12 には,
横構・シャルピー衝撃試験片形状を示す。
2-4-48
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
図 4.4.3.11
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
横桁ウェブ・シャルピー衝撃試験片形状
2-4-49
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
図 4.4.3.12
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
横構・シャルピー衝撃試験片形状
4.4.3.4 き裂破面観察結果
切り出した材料片に存在する 3 箇所のき裂およびストップホール(SH-1~SH-3)を観
察した。横桁上フランジと主桁との交叉部から横桁ウェブに伸びたき裂性状を下記に示す。
き裂発生範囲のウェブ表面は不均等な全面腐食により,仕様板厚9mmに対し,残存板厚
は7mm以下に減肉しており,き裂起点付近の最小板厚1.1~2.1mmと薄肉化し,き裂破面
は刃状となり破面形態は完全に失われていた。き裂伝ぱ経路からき裂先端に至る範囲のき
2-4-50
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
裂の屈曲とマクロ的な破面の凹凸は表面の不均等な腐食の影響により形成されたと考えら
れる。
き裂伝ぱ経路からき裂先端は板表面と同様な腐食の進行により赤錆,黒錆が厚く生成し
詳細な破面模様は消失しており,破面形態を特定できる痕跡は残されていない状態であっ
た。図4.4.3.13~図4.4.3.14に示すように,き裂破面は厚さ0.07~0.15mmの錆層が生成し
ており,この錆層を除去しても破面形態の痕跡は残存していない。
図 4.4.3.13
き裂破面表面
図 4.4.3.14
き裂断面組織
以下,写真4.4.3.11には,SH-1,SH-2およびSH-3の3ブロック撤去部材の外観,引張試
験片,シャルピー衝撃試験片の外観を,写真4.4.3.12には,SH-1ブロックの横桁き裂発生
部の外観・き裂解放破面(受け入れ状態)を載せる。ストップホール先端(下側)に亀裂
の進展が確認できる。
また,写真 4.4.3.13~写真 4.4.3.14 には,SH-1 ブロックのき裂解放破面・SEM ミクロ
破面観察結果を示す。写真 4.4.3.14 の黄色の丸印に示すように,ストップホール先端部分
(くさび形)に内部き裂がある点が特徴的である。
2-4-51
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
写真4.4.3.11
写真4.4.3.12
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
撤去部材の外観,引張試験片,シャルピー衝撃試験片
SH1ブロックの横桁き裂発生部の外観・き裂解放破面(受け入れ状態)
2-4-52
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
写真4.4.3.13
写真4.4.3.14
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
SH1ブロックのき裂解放破面・SEMミクロ破面観察結果(1)
SH1ブロックのき裂解放破面・SEMミクロ破面観察結果(2)
2-4-53
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
写真4.4.3.15
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
SH2ブロックの横桁き裂発生部の外観・き裂解放破面(受け入れ状態)
写真4.4.3.15には,SH-2ブロックの横桁き裂発生部の外観・き裂解放破面(受け入れ状
態)を示す。ストップホール先端には亀裂の進展は確認できない。また,写真4.4.3.16に
は,SH2ブロックのき裂解放破面外観の観察結果を示す。
2-4-54
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
写真4.4.3.16
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
SH2ブロックのき裂解放破面外観の観察結果
2-4-55
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
写真4.4.3.17
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SH-3ブロックの横桁き裂解放破面外観
写真4.4.3.17には,SH-3ブロックの横桁き裂解放破面外観を示す。ストップホール先端
(下側)に新たに発生した板厚貫通亀裂が確認できる。また,写真4.4.3.18には,SH-3ブ
ロックの横桁き裂解放破面外観・SEMミクロ破面観察結果を示す。
2-4-56
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
写真4.4.3.18
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
SH-3ブロックの横桁き裂解放破面外観・SEMミクロ破面観察結果
2-4-57
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
4.4.3.5 既往資料との対比
(1) 過年度調査結果との対比
4.1に示すように,H11年の橋梁点検以降,鋼材の材料試験は実施されていないが,き裂
の進展観察,ストップホール周辺の応力計測,磁粉探傷試験が実施されているので,その
結果と対比する。
今回の材料SH-1に対応する箇所をH20.2にMTにて調査した結果を図4.3.15に示す。ス
トップホールより下にき裂が3mm進展している。H12にストップホールを最初に施工した
際には,ストップホール周辺にき裂がないことをMTにて確認しているが,8年間で少しき
裂が進展したことになる。この進展したき裂が前述の写真4.4.3.12~写真4.4.3.15の破面観
察結果にも現れている。
図 4.4.3.15
MT 調査結果(H20.2)
き裂が発生した場合,その進展を防止するために,き裂先端にストップホールを施工す
るが,先端位置を正確に把握することは難しい。現状は安価なMTによる検査結果から判
断しているが,MTではストップホール表面のき裂は検出できるが,板厚内部のき裂は検
出できないため,せっかくストップホールを施工したにもかかわらず,板厚内に残存する
内部き裂から進行が進んでいくというケースも見受けられる。今回のSH-1にも同じことが
いえる。H12にストップホールの周りをMT試験し,ストップホール外周面にき裂がないこ
とを確認しているが,板厚内部にき裂の先端が内在していた可能性が高い。
このように,ストップホールを施工する際は内部き裂も含めてき裂の先端を正確に把握
することが重要になってくる。その際,MT だけではなく,内部欠陥を探索できる他の試
験方法,例えば,放射線透過試験(RT)や超音波探傷試験(UT)なども試験候補とはな
るが,試験費用が高価である点がネックとなる。しかし,筆者らが過去に適用した応力発
光体による損傷の検出方法
3) では,板厚内部に内在する欠陥の検出も可能となるため,検
出精度の確認などをクリア出来れば,安価でストップホール先端を押さえることが可能と
なる。
2-4-58
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
(2) 既往調査結果との対比
古い年代に建造された鋼橋の材料試験の報告はそれほど多くないが,土木研究所が公開
している研究報告 4) に記載の建造年が似ているサンプル(S28~S29建造)と旧鳥飼大橋の
材料試験結果の比較を行う。サンプルの諸元を表4.4.3.6に示す。
表 4.4.3.6 鋼材を採取した橋梁の概要 4)
番号
No.2
No.3
No.4
No.5
橋名
ASA橋
TOS橋
WAN橋
TIY橋
建設年次
S28
S28
S29
S29
接合方法
リベット
リベット
リベット
リベット
橋梁形式
鈑桁
トラス
鈑桁
トラス
部位
主桁
斜材
主桁
縦桁
板厚
10mm
9mm
12mm
8mm
鋼種(推定)
SS41
SS41
SS41
SS41
引張強度,降伏点および伸びの対比を図 4.4.3.16 に,シャルピー吸収エネルギーの対比
を図 4.4.3.17 に,成分分析の対比を図 4.4.3.18 に示す。旧鳥飼大橋では成分分析における
Si の値が既往の分析結果よりも高くなっている以外は,引張強度,降伏点,伸び,シャル
ピー吸収エネルギー,Si 以外の材料成分分析結果に異常値は認められない。成分分析にお
ける Si 値が横桁 WEB だけ少し高くなっている理由は,溶接橋が多用され始めた昭和 30
年台以降についてみると,Si は 0.02~0.03 程度の数値が得られていることから,鳥飼大
橋の鋼材は材料の移行時期に該当している可能性があることや,供試体のサンプルの不均
一性などが考えられる。
2-4-59
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
500
25
降伏点
20
引張強さ
450
350
300
15
250
200
10
伸び(%)
引張強さ・降伏点(MPa)
400
150
100
5
50
引張強さ
(JIS規格
値)
伸び
部材番号
図 4.4.3.16
鳥飼/
横桁web
鳥飼/
横構L1
No.5
No.4
No.3
0
No.2
0
引張強度,降伏点,伸びの対比
吸収エネ
ルギー
L方向
吸収エネ
ルギー
C方向
27J
120
0°Cにおけるシャルピー吸収エネル
ギー(J)
降伏点
(JIS規格
値)
100
80
60
40
20
部材番号
図 4.4.3.17
鳥飼/
横構L1
鳥飼/
横桁web
No.5
No.4
No.3
No.2
0
シャルピー吸収エネルギーの対比
2-4-60
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C(×0.1)
化学成分(%)
0.04
0.035
P
0.03
S
Si(×0.1)
0.025
Mn(×0.01)
0.02
0.015
0.01
0.005
部材番号
図 4.4.3.18
鳥飼/
横構L1
鳥飼/
横桁web
No.5
No.4
No.3
No.2
0
成分分析の対比
4.4.4 まとめと今後の課題
本研究では,旧鳥飼大橋の鋼部材から切り出した横桁および横構撤去部材について,化
学成分分析(12 元素),引張試験(JIS-1A 号試験片),縦弾性係数測定,シャルピー衝
撃試験(試験温度:-20℃,0℃,20℃,40℃)およびき裂破面を観察し,建設当時の材料
仕様の確認とき裂発生箇所の性状分析を行った。鋼材の強度や機械的性質に異常はなく,
現行規定相当の性能を有していることが確認できた。
参考文献
1) 北
健志,池田
学,木村元哉,中山太士:鋼橋に用いられた古い鋼材の材料特性に及
ぼす予ひずみの影響,鉄道総研報告,Vol.22,No.10,pp.11-16,2008.10.
2) 道路橋示方書,鋼橋編,日本道路協会,pp.123,2012.3.
3) 保田敬一,Luiza H. Ichinose,寺崎正,徐超男,坂田義太郎:応力発光シートを用い
た橋梁鋼部材の変状検出,日本鋼構造協会,鋼構造年次論文報告集,Vol.20,pp.615-622,
2012.11.
4) 村越潤,梁取直樹,澤田守:古い年代の鋼部材の材料・強度特性から見た状態評価技術
に関する研究,土木研究所,平成20年度
重点プロジェクト研究報告書,戦略研究,
戦.31,
http://www.pwri.go.jp/jpn/seika/project/2008/pdf/2008-sen-31.pdf
(4.4 章執筆担当:保田敬一,Luiza H. Ichinose)
2-4-61
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
4.5 コンクリート部材の材料試験
4.5.1 材料試験の概要
旧鳥飼大橋(北行)の撤去は,平成 24 年度(2012 年度)完了予定であったため,管理
者である大阪府へ 2012 年 9 月に材料提供の依頼をした後,2012 年 12 月に材料(鋼材,
コンクリート)の提供を現地にて受け,2013 年 1 月~2013 年 3 月で鋼材とコンクリート
の試験用加工および材料試験を実施した。鋼ゲルバートラスの撤去の前に,RC 床板の切
断・撤去を実施したため,2012 年 9 月には撤去された RC 床板はほとんどが解体され,い
くつかの円形のコンクリートコア状態にて数本が残されているような状態であった。これ
らを譲り受け,材料試験に使用した。RC コアの採取場所を解体工事業者にヒアリングし
たところ,摂津寄りの高水敷の橋台に近くない側とのことで,おそらく P1~P2 間から採
取したと思われる。しかし,具体的なパネル位置までは特定できなかった。
具体的な材料試験内容は,表 4.5.1.1 のとおりである。材料試験期間は,2013 年 3 月 29
日~2013 年 4 月 12 日である。
部材名
表4.5.1.1 試験項目と数量
実施項目
静弾性係数試験(JIS A 1149:2010に準拠)
鉄筋コンク
中性化深さ測定(JIS A 1152:2011に準拠)
リートコア
硬化コンクリート中に含まれる全塩化物イオン量
(床版)
測定(JIS A 1154:2012に準拠)
2-4-62
数量
3本
3本
3資料×5ス
ライス
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
採取コアの写真を図 4.5.1.1 に添付する。
図 4.5.1.1
採取コアの写真
4.5.2 試験結果
4.5.2.1 静弾性係数試験
(1) 試験方法
試験は,JIS A 1149:2010「コンクリートの静弾性係数試験方法」に準拠して実施した。
なお,測定器は「抵抗線型ひずみ測定器」を使用した。
(2) 試験結果
試験結果の一覧を表 4.5.2.1 に示す。なお,表中に示す補正係数は,補正後の圧縮強度
の値が 100N/mm 2 以下のコンクリートに適用する。なお,適用範囲外の場合,
「補正係数」
および「補正後の圧縮強度」の数値は参考値とし,(
項目
コア名
P1-P2
A1-P1
P2-P3
)付きで表記する。
表4.5.2.1 コンクリートの静弾性係数試験結果
供試体寸法
見掛けの
圧縮強度 圧縮強度 静弾性係
最大荷重
h/d
補正係数
平均直径 平均高さ
数
密度
(補正前) (補正後)
(mm)
(mm)
(kg/m3)
kN
(N/mm2) (N/mm2) (kN/mm2)
44.1
89.2
2.02
1.00
2,280
58.7
38.4
38.4
21.2
44.1
91.8
2.08
1.00
2,270
57.4
37.6
37.6
21.2
44.0
87.0
1.98
1.00
2,240
49.3
32.4
32.4
17.4
2-4-63
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
以下,各コアの静弾性係数算出根拠を図 4.5.2.1~図 4.5.2.3 に添付する。
図 4.5.2.1
P1-P2 コアの静弾性係数算出根拠
2-4-64
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
図 4.5.2.2
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
A1-P1 コアの静弾性係数算出根拠
2-4-65
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
図 4.5.2.3
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
P2-P3 コアの静弾性係数算出根拠
2-4-66
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
(3) 状況写真
圧縮強度試験の試験状況写真を図 4.5.2.4 に示す。
図 4.5.2.4
圧縮強度試験の試験状況写真
4.5.2.2 中性化深さ試験
(1) 試験方法
試験は,JIS A 1152:2011「コンクリートの中性化深さの測定方法」に準拠して実施した。
中性化深さは,フェノールフタレイン 1%溶液を割裂面に噴霧し,未呈色から薄く呈色し
た部分について,最大深さ部分を含めて 5~7 点を測定した。
(2) 試験結果
試験結果の一覧を表 4.5.2.2 に示す。表中,中性化深さは研磨面から測定した値である。
なお,うすい赤紫色に呈色した部分は,鉄筋腐食にとっての安全側を考慮して中性化領域
と判定した。また,測定位置に粗骨材がある場合,またはあった場合には,骨材または骨
材の抜けたくぼみの両端の中性化位置を結んだ直線上で測定した。さらに,筒先は貫通コ
アのみを測定している。
2-4-67
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
項目 測定
コア名
箇所
筒元
P1-P2
筒先
筒元
A1-P1
筒先
筒元
P2-P3
筒先
1
1.5
5.0
2.5
6.5
0.0
15.0
表 4.5.2.2 中性化深さ測定結果
中性化深さ(mm)
2
3
4
5
6
1.0
0.0
2.0
1.5
-
2.0
0.5
2.0
3.5
-
2.0
1.5
3.0
3.5
-
6.5
5.5
8.0
6.5
-
0.0
0.0
0.0
0.0
-
14.5
11.0
4.5
7.5
-
7
-
-
-
-
-
-
平均値 最大値
1.2
2.0
2.6
5.0
2.5
3.5
6.6
8.0
0.0
0.0
10.5
15.0
(3) 状況写真
中性化状況の写真を図 4.5.2.5 に示す。
図 4.5.2.5
中性化状況の写真
4.5.2.3 硬化コンクリート中に含まれる全塩化物イオン量試験
(1) 試験方法
試験は,JIS A 1154:2012「 硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオン(電位差滴定法)
の試験方法」により実施した。
(2) 試験結果
試験結果の一覧を表 4.5.2.3 に示す。なお,Cl - (kg/m 3 )はコンクリートの見掛けの密
度を 2,300 kg/m 3 とした場合である。
2-4-68
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
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表 4.5.2.3 全塩化物イオン量試験結果
全塩化物イオン量測定結果
項目 表面からの
距離(mm)
Cl-(kg/m3)
コア名
Cl -(%)
0~28
0.04
0.81
28~56
0.03
0.60
P7-8
56~84
0.02
0.45
84~112
0.02
0.46
112~140
0.03
0.62
0~28
0.02
0.52
28~56
0.02
0.39
P6-7
56~84
0.02
0.37
84~112
0.02
0.53
112~140
0.02
0.39
0~28
0.04
0.93
28~56
0.03
0.60
P3-P4
56~84
0.03
0.74
84~112
0.03
0.58
112~140
0.02
0.37
見掛けの密
度(kg/m3)
(3) 状況写真
塩化物イオン量試験の状況写真を図 4.5.2.6 に示す。
図 4.5.2.6
塩化物イオン量試験の状況写真
2-4-69
2,300
2,300
2,300
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
4.5.3 既往の事例との比較・考察
4.5.3.1 旧鳥飼大橋の調査結果との比較
平成 12 年度に,学識経験者にて構成された「鳥飼大橋維持管理検討委員会」にて審議
するための調査として,
「大阪府枚方土木事務所:主要地方道大阪中央環状線
況調査及び解析検討業務
鳥飼大橋現
報告書,平成 12 年 3 月,株式会社修成建設コンサルタント」
が実施された。この業務では,現況の鳥飼大橋の損傷状態を各種試験により調査するとと
もに,既知荷重による静的載荷試験や供用時の応力頻度測定を行い,今後の構造解析のた
めの資料収集および効果的な維持管理計画策定のための合意形成を図ることを目的として
実施された。
上部工 RC 床板の材料試験はこの平成 12 年度業務にて実施されているため,この調査
結果との対比を行う。平成 12 年度業務でのコンクリート材料試験結果を表 4.5.3.1 に示す。
表 4.5.3.1 平成12年度業務でのコンクリート材料試験結果
コアの形状
最大 圧縮強 静弾性係 単位体積 中性化
補正係
コア採取位置
質量
直径
高さ
荷重
度
数
重量
深さ
数
資料
(g)
(mm)
(mm)
(kN) (N/mm2) (kN/mm2) (tf/cm3) (mm)
P2-P3間/S1No.1
1,832.5 103.7
95.7 0.890
338
35.6
26.8
2.267 5.5以下
S2間/57-59
P2-P3間/S2No.2
786.4
68.6
92.0 0.947
135
34.6
24.8
2.312 3.5以下
S3間/53-55
P2-P3間/S2No.2-1
1,028.2
68.6 122.6 0.983
104
27.7
29.7
2.269
7.4
S3間/51-53
P1-P2間/S1No.3
747.9
68.6
89.3 0.944
154
39.3
26.6
2.266 7.0以下
S2/29-31
項目
No.1~No.2-1 までの試料は P2-P3 間からの採取であるが,高水敷部分であるため,今
回の H23 調査と同じといえる(低水路部分からの採取ではない)。H23 調査で実施した塩
化物イオン量測定は H12 調査では実施していないため,圧縮強度,静弾性係数,中性化深
さの比較を行う。
(1) 圧縮強度の比較
図 4.5.3.1 に圧縮強度の比較を載せる。図の左側には平成 12 年度調査の 4 サンプルの結
果を,図の中央には平成 24 年度調査の 3 サンプルを,図の右端には設計値を示す。
旧鳥飼大橋の設計は,昭和 14 年制定の「鋼道路橋設計示方書(内務省土木局)」により
行われており,最小床版厚の規定や配力鉄筋の量の規定などもなかった状況にある。一般
的には,昭和 39 年(1964 年)以前の鋼道路橋設計示方書により設計施工された RC 床板
は,(a) 床板厚が 180mm 程度と薄く(旧鳥飼大橋では 150mm),このため,大型車両の
通行により曲げひび割れが発生しやすいといわれている。また,(b) 配力筋が主鉄筋の 25%
程度以下しかなく,主筋方向(橋軸直角方向)の曲げひび割れが発生しやすいとの報告が
ある。昭和 30 年代の高度成長に伴う交通量の飛躍的増大と積載制限を超過する車両の影
響をうけ,鳥飼大橋は床板にひび割れが多く発生したため,鋼板接着や縦桁増設などの措
置をせざるを得なくなったといえる。コンクリートの圧縮強度は,施工後 28 日経過後も
徐々に強度が増えていくとされているが,コンクリート強度が急激に低下する場合は,特
殊な条件下(化学的成分による)やガスや水蒸気などに常時さらされている場合などに限
2-4-70
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
られる。鳥飼大橋の場合は,冬期の凍結防止剤散布以外にこのような特殊条件は考えにく
く,圧縮強度の低下に関係する要因はほとんどないといえる。
45.0
圧縮強度(N/mm2)
40.0
35.0
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
図 4.5.3.1
設計値
H24_P2‐P3
H24_A1‐P1
H24_P1‐P2
H12_No.3
H12_No.2‐1
H12_No.2
H12_No.1
0.0
圧縮強度の比較
設計時のコンクリート設計基準強度は,設計当時の設計計算書よりσck=24(N/mm 2 )
と推定されるが,平成 12 年度調査および平成 24 年度調査においてもこの設計値を上回っ
ており,コンクリートの品質には問題がないことが確認できる。コア観察により,コンク
リートが密に打設されていることや,粗骨材の色や貝殻などの不純物有無より判断して海
砂は使用されていないようである。平成 12 年度から平成 24 年度に至っては,12 年経過
しているが,平成 12 年度調査の No.2-1 を除いて,圧縮強度は 32N/mm2 ~39N/mm 2 とほ
ぼ同じ値を保っている。
(2) 静弾性係数の比較
図 4.5.3.2 に静弾性係数の比較を載せる。各図の左側には平成 12 年度調査の 4 サンプル
の結果を,図の中央には平成 24 年度調査の 3 サンプルを,図の右端には設計値を示す。
静弾性係数は平成 12 年の値(24kN/mm 2 ~29kN/mm 2 )から平成 24 年度調査ではその
値が減少している(17kN/mm 2 ~21kN/mm 2 )。静弾性係数の低下原因は ASR 等が考えら
れるが,コア写真を見る限り ASR は想定しがたい。解体前の事前調査により RC 床板の表
面のスケーリングやポップアウト等もなく,凍結融解なども考えにくい。
2-4-71
第2編 道路分科会
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資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
図 4.5.3.2
静弾性係数の比較
(3) 中性化深さの比較
図 4.5.3.3 に中性化深さの比較を載せる。各図の左側には平成 12 年度調査の 4 サンプル
の結果を,図の中央には平成 24 年度調査の 3 サンプルを,図の右端には設計値を示す。
12
中性化深さ(mm)
10
8
6
4
2
図 4.5.3.3
設計値
H24_P2‐P3
H24_A1‐P1
H24_P1‐P2
H12_No.3
H12_No.2‐1
H12_No.2
H12_No.1
0
中性化深さの比較
中性化深さは,平成 12 年度調査で 3.5~7mm,平成 24 年度調査では 2.6~10.5mm と,
平成 24 年度調査の方がばらつきが大きくなっている。最大中性化深さは平成 24 年度調査
2-4-72
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
にて 5~15mm であり,いずれも 20mm 以内であることから,コンクリートの劣化要因は
中性化である可能性は低いといえる。
4.5.3.2 基準値との比較
(1) 圧縮強度
表 4.5.2.1 より,圧縮強度については,設計基準強度を下回る供試体は確認できず,全
ての調査箇所にて設計基準強度(24N/mm 2 )を超える結果となっている(P1-P2:38.4>
24,A1-P1:37.6>24,P2-P3:32.4>24)。圧縮強度の評価方法は,「非破壊試験を用い
た土木コンクリート構造物の健全度診断マニュアル(土木研究所,日本構造物診断技術協
会)」 2) によった。圧縮強度の評価方法を表 4.5.3.2 に示す。旧鳥飼大橋より採取したコン
クリート強度は「健全である」という評価になる。
表 4.5.3.2
コンクリートコアの圧縮強度の評価方法
圧縮強度値
全て の供 試体の圧 縮強 度が 設計 基
評価
2)
備考
健全である。
準強度以上である場合
圧縮 強度 が設計基 準強 度を 下回 っ
構造的に問題は
コアの圧縮強度が設計基準強
てい る供 試体もあ るが ,全 ての 供
ないと判断して
度を下回っていても,設計基
試体 の圧 縮強度が 設計 基準 強度 の
よい。
準強度が 80%以上あれば設計
80%以上である場合
で想定したコンクリート品質
がほぼ近いと判断してよい。
圧縮強度が設計基準強度の 80%を
構造的な検討も
下回っている供試体がある場合
必要である。
一方,中性化深さと圧縮強度とは負の相関関係があることが,過去の研究結果から得ら
れている
3) 。中性化深さと圧縮強度との関係を図
4.5.3.4 に示す。図中,■が平成 24 年度
調査,◆が平成 12 年度調査である。サンプル数が少ないのと,中性化深さが小さいので
一概には言えないが,概ね負の相関関係にはなっているといえる。
2-4-73
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
45.0
40.0
圧縮強度(N/mm2)
35.0
30.0
y = ‐0.651x + 39.09
R² = 0.180
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
0
2
4
6
8
10
12
中性化深さ(mm)
図 4.5.3.4
中性化深さと圧縮強度との関係
(2) 静弾性係数
静弾性係数については,設計値との比較を行っている。ここで,設計値とは,コンクリ
ート標準示方書【構造性能照査編】に示す圧縮強度に対応した静弾性係数(表 4.5.3.3 参
照)を線形補間により算出している。なお,道路橋示方書・同解説でも設計基準強度に対
応したヤング係数を示しており,表 4.5.3.3 に掲載の値と同じとなっている。
表 4.5.3.3
コンクリートのヤング係数(コンクリート標準
示方書【構造性能照査編】2002)
f' ck(N/mm2)
Ec
普通コンクリート
(kN/mm2) 軽量骨材コンクリート
18
22
13
24
25
15
30
28
16
40
31
19
50
33
-
60
35
-
70
37
-
80
38
-
静弾性係数の健全度評価については,採取したコンクリートコアの静弾性係数が設計基
準強度に対応した静弾性係数の範囲内にあるかどうかで判定を行う。
試験結果から,圧縮強度と静弾性係数のグラフに試験値を図 4.5.3.5 にプロットした。
静弾性係数については,コンクリート標準示方書【設計編】(2007 年版)に示されている
静弾性係数の標準値よりもやや低いものの,表 4.5.3.4 に示すコアの静弾性係数の標準値
の範囲内
1) には収まっており,静弾性係数の大幅な低下は認められないことから,健全性
においても問題はないと考えられる。なお,評価の方法は,
「非破壊試験を用いた土木コン
クリート構造物の健全度診断マニュアル(土木研究所,日本構造物診断技術協会)」 2) によ
った。結果,全ての供試体の静弾性係数が「表-静弾性係数の標準値」で示される標準値
の範囲に含まれる場合に該当するため,健全であるという評価になる。ここで,図 4.5.3.5
中,■が平成 12 年度調査の値を,▲が平成 24 年度調査の値を表す。
2-4-74
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
1)
表 4.5.3.4 静弾性係数の標準値の範囲
コアの静弾性係数の標準値
コアの圧縮強度
2
(kN/mm 2 )
(N/mm )
15以上21未満
8.4
~
17.8
21以上27未満
13.1
~
21.3
27以上35未満
16.2
~
25.8
35以上45未満
19.7
~
29.8
45以上55未満
19.1
~
34.2
40
静弾性係数の上限値
静弾性係数(kN/mm2)
35
静弾性係数の下限値
静弾性係数の標準値
30
25
20
15
10
5
0
0
10
図 4.5.3.5
20
30
40
圧縮強度(N/mm2)
50
60
コアの圧縮強度と静弾性係数の標準値の関係
2-4-75
70
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
表 4.5.3.5
静弾性係数試験結果の評価方法
静弾性係数試験値
全て の供 試体の静 弾性 係数 が「 表
評
2)
価
健全である。
備
考
一般的には,静弾性係数の試
-静 弾性 係数の標 準値 」で 示さ れ
験結果が標準値より高い場合
る標準値より大きい場合
でも,構造物の健全度には影
響がないと考えられる。しか
し,圧縮強度および静弾性係
数の試験方法に問題がなかっ
たかどうかを確認することが
望ましい。
全て の供 試体の静 弾性 係数 が「 表
健全である。
-静 弾性 係数の標 準値 」で 示さ れ
る標準値の範囲に含まれる場合
静弾 性係 数が「表 -静 弾性 係数 の
アルカリ骨材あ
標準 値」 で示され る標 準値 より 小
るいは凍害が生
さい供試体がある場合
じている可能性
も考えられ,場
合によっては構
造的な検討も必
要である。
2-4-76
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
(3) 中性化に関する劣化の程度
中性化に関する劣化の程度(健全度)は,鉄筋位置までの中性化残りから判断できる。
鉄筋のかぶりは,設計図書(上部工設計計算書)および H12 橋梁調査における配筋調査を
参考に算出した。
上部工設計計算書より抜粋
2-4-77
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
H12 年度
橋梁調査報告書(配筋調査)より抜粋
鉄筋かぶり厚さ=20mm(設計計算書より)
①
鉄筋かぶり厚さ=25mm-(φ13mm/2)=18.5mm(配筋調査より)
②
(主鉄筋のかぶり<配力筋のかぶりのため,小さい方のかぶりを採用する)
よって,②はあくまではつりを実施した 1 地点の計測であるため,かぶり厚さは設計値
の 20mm とする。
評価方法を表 4.5.3.6 に,評価結果を表 4.5.3.7 に示す。中性化深さは 1.2mm~10.5mm
であり,中性化残りは 10mm 未満の箇所が存在するため,中性化による腐食が生じる可能
性があるが,直ぐに補修等が必要となるとは限らないという判定になる。
2-4-78
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
表 4.5.3.6
中性化による鋼材の腐食可能性の評価方法
2)
中性化残り
中性化による鉄筋腐食の可能性
中性化劣化の程度に関する判定結果
0mm 未満
腐食が生じうる
B(補修を実施することが望ましい)
0mm 以上
場合によっては中性化による腐
C(直ぐに補修が必要であるとは限ら
10mm 未満
食が生じる可能性がある
ない)
10mm 以上
将来的には中性化による腐食が
D1(現状では補修は必要ない)
30mm 未満
生じる可能性がある。
30mm 以上
当面の間は,中性化による腐食
D2(当面は補修を必要としない)
が生じるおそれはない
表 4.5.3.7
部位 コア名
P1-P2
RC床
板
A1-P1
P2-P3
中性化の評価結果
測定
中性化
中性化残り
箇所 深さ(mm)
筒元
1.2 20.0mm-1.2mm=18.8mm
筒先
2.6 20.0mm-2.6mm=17.4mm
筒元
2.5 20.0mm-2.5mm=17.5mm
筒先
6.6 20.0mm-6.6mm=13.4mm
筒元
0 20.0mm-0mm=20mm
筒先
10.5 20.0mm-10.5mm=9.5mm
評価
D1(現状では補修は必要ない)
D1(現状では補修は必要ない)
D1(現状では補修は必要ない)
D1(現状では補修は必要ない)
D1(現状では補修は必要ない)
C(直ぐに補修が必要であるとは限らない)
(4)中性化に対する照査
中性化に対する照査は,土木学会コンクリート標準示方書
4) より,中性化深さの設計値
y d の鋼材腐食発生限界深さ y lim(かぶり c から施工誤差Δ c e および中性化残り c k を差し引
いた値)に対する比に構造物係数 γ i を乗じた値が,1.0 以下であることとしている(式
5.3.1)。
yd
≦1.0
ylim
i
(5.3.1)
中性化深さ y は一般的に,式 5.3.2 で表されるように経過年数 t の平方根に比例し,そ
の比例定数αを「中性化速度係数」と呼ぶ。
y
(5.3.2)
t
中性化深さの設計値を求める上で必要となる中性化速度係数は実験あるいは既往のデー
タに基づいて求める必要があるが,式 5.3.3 により求めてもよい。
p
3.57 9.0 (W / B )
(5.3.3)
ここに, α p:中性化速度係数の予測値(mm/√(年))
W/B :有効水結合材比(標準配合では 55%としてよい)
旧鳥飼大橋の中性化深さの設計値は,式 5.3.4 により算出する。
yd
cb
d
(5.3.4)
t
2-4-79
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
ここに, α d( =α k ・β e ・γ c ):中性化速度係数の設計値, α k :中性化速度係数の特性
値,β e:環境作用の程度を表す係数,γ c:コンクリートの材料係数,γ cb:y d のばらつき
を考慮した安全係数
計算結果を表 4.5.3.8 に示す。中性化残りの少ない P2-P3 供試体のみ耐久性照査結果が
NG になるのに対し,中性化残りが 13.4mm の A1-P1 供試体では耐久性照査結果が OK と
なる(P1-P2 も OK)。
表4.5.3.8 中性化の照査結果
記号
名称
γi
構造物係数
ck
中性化残り
Δc e
t
γp
W/C
-
βe
γ cb
γc
施工誤差
年数(耐用年数)
α p の精度に関する安全係数
水セメント比
使用セメント
環境作用の程度を表す係数
ydのばらつきを考慮した安全係数
コンクリートの材料係数
αk
αd
yd
y lim
中性化速度係数の特性値
中性化速度係数の設計値
中性化深さの設計値
鋼材腐食発生限界深さ
γ i ・y d /y lim 中性化照査式
数値
1.0
・通常環境下:10mm
・腐食環境下:25mm
0mm
60
γ p =1.0
55%
普通ポルトランドセメント
1.0(乾燥しにくい環境)
1.15
1.0
-3.57+9.0*(0.55)=1.38
1.38*1.0*1.0=1.38
1.15*1.38*√(60)=12.293
20.0-10.5=9.5(P2-P3:表5.3.7より)
20.0-6.6=13.4(A1-P1:表5.3.7より)
1.0*(12.298/9.5)=1.294>1.0 (P2-P3:OUT)
1.0*(12.298/13.4)=0.918<1.0 (A1-P1:OK)
(5) 塩化物イオン量
旧鳥飼大橋のコンクリート採取コアより全塩化物イオン量を測定し,表 4.5.3.9 に示す
評価基準により鋼材腐食の可能性を 4 段階で,塩害劣化の程度に関する判定を同じく 4 段
階で実施した。ここで,鋼材位置(かぶり厚)については,前述の中性化判定時と同様に,
20.0mm とした。評価結果を表 4.5.3.10 に示す。供用開始から 60 年経過時の鋼材位置に
おける塩化物イオン量は 1.2kg/m 3 未満であり,塩化物イオン濃度は高いが腐食が生じる可
能性は低く,現状で補修は必要ないと判断できる。
なお,道路橋示方書・同解説
Ⅰ共通編にはフレッシュコンクリート中の塩化物量の規
定(塩化物イオン質量で 0.3kg/m 3 以下)しかなく,供用中のコンクリート部材についての
規定はない。
2-4-80
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表 4.5.3.9
塩化物イオン量と塩害による鋼材の腐食可能性の評価
全塩化物イオン量
塩害による鋼材腐食の可能性
塩害劣化の程度に関する判定
(鋼材位置)
2.5kg/m 3
以上
2)
結果
B(補修を実施することが望ま
腐食を生じうる
しい)
1.2kg/m 3 以上かつ
将来的に塩害による腐食が生じ
C(直ぐに補修が必要であると
2.5kg/m 3 未満
る可能性が高い
は限らない)
0.3kg/m 3 を超えて
何らかの原因でコンクリート中
D1(現状では補修は必要ない)
かつ 1.2kg/m3 未満
の塩化物イオン濃度が高いが,腐
食が生じる可能性は低い
0.3kg/m 3
以下
現時点では,塩害による腐食が生
D2(当面は補修を必要としな
じるおそれはない
い)
表 4.5.3.10
採取コア
名
P7-8
P6-7
P3-P4
部位
RC床板
RC床板
RC床板
評価結果一覧
鋼材位置における全塩
判定結果
化物イオン量
60
0.81 kg/m3
D1
60
0.52 kg/m3
D1
60
0.93 kg/m3
D1
経過年数
4.5.3.3 他の事例との比較
コンクリート部材の材料試験結果,特に橋梁の RC 床板や RC(PC)主桁に関しての材
料試験は何件か学会・協会等で論文が公開されている。
これらは,塩害に起因するもの,コンクリート部材の暴露試験結果,あるいは供用年数
の長い高齢橋や PC 桁橋などに分類できる。
(1) 塩害
金田らは,海岸線から 300m 離れた位置にある塩害により劣化した 2 径間 RCT 桁の劣
化度調査にてコンクリートコアより圧縮強度や静弾性係数,塩化物イオン含有量,中性化
深さなどが報告されている
6) 。
城坂らは,東北地方日本海沿岸で著しい塩害を受けた道路橋コンクリート桁の健全度を
調査するために,コンクリートコアより圧縮強度,弾性係数,中性化深さ,塩化物イオン
量などを実測し,目視による健全度評価結果との関係を考察している
7) 。
塩害に関しては国も力をいれており,前述の文献以外にも,土木研究所が公開している
コンクリート橋の塩害対策に関する研究(1983) 8) ,コンクリート橋の塩害に関する実橋
調査結果(1988) 9) や塩害を受けた PC 橋の耐荷力評価(2001) 10) ,塩害を受けるコンク
リート橋の維持管理手法に関する研究(2006)11) などがあるし,国土交通省からもコンク
リート橋の塩害に関する特定点検要領(案)(2004) 12) が公開されている。
旧鳥飼大橋の場合,海岸線からの距離は 20km 離れているし,前述の塩化物イオン量の
数値からは塩害を受けている構造物ではないといえるが,冬期の凍結防止剤散布などから
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資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
塩害の影響がないとは言えず,RC 床板ひび割れ進行という劣化要因の一つになっている
可能性はある。
(2) 暴露試験
松村らは,沖縄において RC はり部材の 13 年間暴露試験を実施し,塩化物イオン濃度
や鉄筋の腐食量,強度試験,中性化深さなどを経年測定するとともに,載荷実験により耐
荷性状を評価している
13) 。
暴露試験は調査の期間が長期に渡るため,実施例は少ないが,貴重な知見である。
(3) 高齢橋
供用開始から四十年以上経過した高齢橋は一般的に劣化が進行期あるいは加速期に移行
するため,損傷が顕在化することが多く,補修あるいは架け替えを前提とした材料試験が
実施されることが多い。旧鳥飼大橋の場合も架け替え前提であり,この高齢橋のケースに
合致するといえる。このケースは公開されている資料は多い。
森川らは,架替えが決定している RCT 桁橋からコア採取し,コンクリートの品質試験
(圧縮強度,弾性係数,中性化速度等)を実施し,統計解析に基づく安全性評価および余
寿命評価を行っている
14) 。
小嶺らは,60 年供用の RCT 桁の配合推定,圧縮強度,弾性係数,クリープ試験,超音
波伝搬速度,中性化試験,電位測定,鉄筋探査などを実施している
15) 。
佐藤は,建設後 80 年を経過した RCT 桁の補修に関して,鉄筋調査,塩分含有量,中性
化深さ,圧縮試験,配合推定等を実施し,補強対策の検討まで行っている
16) 。
宮本らは,橋齢 60 年の RCT 桁を対象に,コンクリートコア圧縮試験,弾性係数,中性
化試験,載荷試験等を実施し,破壊試験による主桁の耐荷力試験を経て,安全性評価に基
づく補修・補強方法の検討を行っている
17) 。
宮本らは,昭和初期に建造された RCT 桁橋の材料試験を実施し,断面力の確率モデル
から安全性評価指標への導出,さらに実橋における安全性評価に含まれる不確定性を合理
的に取り扱うために様々な手法を検討している
18) 。
旧鳥飼大橋の場合は劣化モデル作成,安全性評価や余寿命推定,載荷試験との同定など
は実施できていないが,圧縮強度や静弾性係数,中性化試験,塩化物イオン量など,他の
公開されている文献に記載の知見とは大きくかけ離れた結果にはなっていない。もちろん,
架橋年や使用条件・環境条件なども異なるため,劣化進行の状況はこれら公開されている
橋とは同じにはなっていないため,直接の比較は困難である。しかし,圧縮強度や静弾性
係数は設計値を下回っているケースはなく,圧縮強度や静弾性係数が急激に低下していた
り,中性化の進行が予想より早いというケースもなかった。旧鳥飼大橋も同様で,これら
の材料特性が 10 年単位でみると緩やかに変化しているものの,圧縮強度や静弾性係数は
設計値以上を確保できているし,中性化の進行や塩化物イオン濃度なども基準値内で収ま
っている。
(4) PC 桁橋
PC 桁橋は,塩害あるいは高齢橋の両方に該当することがあるが,RC 橋に比べて材料試
験の数はそれほど多くはない。
佐藤らは,48 年の供用年数のプレテンション T 桁橋について,強度試験,配合推定,
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第2編 道路分科会
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資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
中性化深さ,塩分量,PC 鋼材の材料試験や桁の載荷試験から材料的および力学的性状の
両面から評価している
19) 。
4.5.4 まとめと今後の課題
旧鳥飼大橋の RC 床板から採取したコンクリートコアを用いて材料試験(静弾性係数試
験,中性化深さ試験,全塩化物イオン量測定)を実施した。採取コアの位置があまり明確
でないこともあり,過去に実施された材料試験(H12 調査)との対比は,大まかな傾向し
か把握できないとはいえ,10 年以上対策もせずに放置された状態での材料劣化の傾向は把
握できたといえる。圧縮強度はほとんど変化なし,静弾性係数は若干低下傾向にあり,中
性化深さも若干増加傾向にあることが判明した。
また,土木研究所の診断マニュアルとの比較でも,圧縮強度,静弾性係数,中性化の照
査,塩化物イオン量判定のいずれにおいても「補修等は必要ない」という判定結果となっ
た。実際は,H12 に調査を実施して,床板ひび割れ防止のために鋼板接着等を施工してい
るものの,それ以降は新設橋の建設決定をうけて,旧鳥飼大橋への補修対策は実施されな
かった。冬期の中央環状線凍結防止剤直接散布の継続あるいは隣接する近畿自動車道の凍
結防止剤散布など,材料特性が変化する要因は多いにもかかわらず,コンクリートの材料
特性が 10 年経過後ほとんど変化していないことは H12 補修の効果が継続している(ほと
んど劣化が進行していない)と見るべきであろう。
材料特性の変化は橋梁の使用環境に依存する。どういった条件なら材料特性の変化はこ
の程度という指標があれば望ましいが,この指標はパターンが多すぎて策定することが困
難である。また,このような指標(使用条件の変化と材料特性の変化との関係)は高齢橋
になるほど,特に長寿命化修繕計画を策定する際に必要であり,前提とする仮定条件の曖
昧さを打ち消すためにも,材料特性の変化と使用条件との関係を把握することが今後大い
に望まれる。そのためにも,材料試験結果の公開(使用条件も含めて)が必要と考える。
今後は供用後 50 年を超える高齢橋が急増するといわれている。当然,劣化も進行して
いると予想されるし,顕在化した損傷は補修の対象となる。補修を実施する際は材料試験
を是非実施し,その記録とできれば補修後の材料特性の変化も含めてこれらの推移を公開
するようにすれば,より精度の高い将来コスト積み上げや劣化予測が可能になると思われ
る。
材料試験結果を今後の維持管理(長寿命化修繕計画を含む)にどのように反映させてい
くかという提言は今後の材料試験の課題とともに,次章で詳しく述べる。
参考文献
1) 土木研究所:既存コンクリート構造物の健全度実態調査結果
-1999 年調査結果,土
木研究所資料第 3854 号,2002.3.
2) 土木研究所,日本構造物診断技術協会:非破壊試験を用いた土木コンクリート構造物の
健全度診断マニュアル,技報堂出版,2003.10.
3) 宮本文穂,森川英典,熊谷
稔,石田宗弘:現場試験に基づくコンクリート橋の安全性
評価と余寿命予測,コンクリート工学年次論文報告集,13-2,1991.
4) 土木学会:2007 年制定
コンクリート標準示方書
2-4-83
設計編,2007.12.
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
5) 日本道路協会:道路橋示方書・同解説Ⅰ共通編,2012.3.
6) 金田
一男,玉城
喜章,石川
孝司,久米
仁司,宮城
敏明,下里
哲弘:塩害に
著 し く 劣 化 し た RCT 桁 の 劣 化 度 調 査 ( 中 間 報 告 ), 沖 縄 県 技 術 士 会 web ペ ー ジ
(http://www.pe-okinawa.jp/topics_01.pdf),No.28,pp.29-36,2013.6.
7) 城坂裕巳,古山幸永,岩城一郎:北東北地方日本海沿岸において著しい塩害を受けた道
路橋コンクリート桁の劣化度調査,土木学会東北支部技術研究発表会講演集,Ⅴ-27,
H18.
8) 建設省土木研究所地質化学部化学研究室:コンクリート橋の塩害対策に関する研究,土
木研究所資料,No.1985,1983.1.
9) 建設省土木研究所構造橋梁部橋梁研究室:コンクリート橋の塩害に関する実橋詳細調査,
土木研究所資料,No.2707,1988.12.
10) 国土交通省土木研究所材料施工部コンクリート研究室:塩害を受けた PC 橋の耐荷力
評価に関する研究(I)-プレテンション PC 桁の載荷試験-,土木研究所資料,No.3808,
2001.3.
11) 古賀裕久,渡辺博志,中村英佑:塩害を受けるコンクリート橋の維持管理手法に関す
る検討,土木技術資料,Vol.48,No.11,pp.36-41,2006.11
12) 国土交通省:コンクリート橋の塩害に関する特定点検要領(案),2004.3.
13) 松村卓郎,西内達雄:沖縄における 13 年間の暴露試験による鉄筋コンクリートの塩
害劣化に関する検討,コンクリート工学年次論文集,Vol.30,No.1,pp.795-800,2008.
14) 森川英典,宮本文穂,竹内和美:統計解析に基づく既存コンクリート橋の安全性およ
び寿命評価,土木学会論文集,No.502/Ⅴ-25,pp.53~62,1994.11.
15) 小嶺啓蔵,鶴田浩章,高場正富,真崎洋三:60 年間供用されたコンクリート橋の材料
試験について,コンクリート工学年次論文集,Vol.22,No.1,pp.571-576,2000.
16) 佐藤文彦:建設後約 80 年を経過した RCT 桁橋の補修に関する検討,Civil Engineering
Consultant,Vol.242,pp.56-59,2009.1.
17) 宮本文穂,前田敏也,熊谷
稔,前田
強:コンクリート橋の安全性評価と補修・補
強法の検討,コンクリート工学年次論文集,11-2,pp.245-250,1989.
18) 宮本文穂,森川英典,石田宗弘:統計データに基づく不確定性を考慮した既存コンク
リート橋の安全性評価,土木学会論文集,No.472/Ⅴ-20,pp.49-58,1993.8.
19) 佐藤健一,森
拓也,松本一昭,鳥居和之:泰平橋の耐久性調査
-日本で最初のプ
レテンション T 桁橋-,プレストレストコンクリート,Vol.43,No.2,pp.118-123,
2001.3.
(4.5 章執筆担当:保田敬一,Luiza H. Ichinose)
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資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
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4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
4.6 老朽橋の長寿命化計画への材料試験結果の反映方法
長寿命化修繕計画を策定する際,特に供用年数の長い橋については架橋時点の材料種別
や初期欠陥等の有無,あるいは過去の点検・補修履歴が欠かせないといえるが,これらの
資料が満足に揃っている橋は稀である。古い橋では図面が残っていない場合も多く,材料
の特性については,計画策定時点あるいは,補修時点で調査をしているのが現状である。
補修を行うということは点検により損傷が発見され,いずれかの部位に損傷が顕在化して
いるということであり,材料の特性も建設時点から変化していることが多い。
一方,これまでに,数多くの材料調査を全国の管理機関(国,都道府県,市町村,高速
道路会社など)が実施しており,一部はその報告がなされているものの,橋の規模や使用
条件,環境条件,顕在化している劣化の種類や進行程度など,橋によって様々であり,同
じような特徴をもつ橋を抽出するには至っていない。これらの材料特性データベースはい
ずれ整備されることを期待するが,実際の補修に際して材料試験を省略できるような資料
がデータベースから直ぐに入手できるかというとそうではない。公開されている資料が全
体(材料試験を実施されている全ての橋)のほんの一部であり,さらに,橋の規模や使用・
環境条件等も異なるためである。これらのデータベースが完備されれば,損傷の劣化予測
や修繕計画策定等に直結すると思われるが,その整備には長い時間と多大な労力が必要と
考えられる。独立行政法人土木研究所の構造物メンテナンス研究センター(CAESAR・シ
ーザー)では全国のこういった材料試験結果を蓄積している途中であり,その成果に期待
するところが大である。また,全国の管理機関においても,材料試験の結果は今後の点検・
修繕計画策定のためにも有益な知見となるため,成果の公開が望まれる。
また,今後は建造後 50 年を超える橋が急増する中で,損傷に対する補修も急増するこ
とが予想される。そのため,補修のための点検や調査などもその都度全て実施していくと
なると今後相当数の調査費用が発生する。このため,これらの調査費用を低減していく上
でも何らかの方策(過去の類似の材料検査結果を修繕計画にどのように生かしていくか)
を立てる必要がある。もう一点,顕在化する損傷によってはその補修のための材料調査が
不可欠で,また,補修後の性能追跡の際にも材料特性が変化していないかどうかの再調査
(確認)も実施されることになり,一度補修を実施すると補修の前後(原因推定のための
補修前調査と補修後の効果の確認等)で数回は同一部位の調査を時系列で実施するため,
劣化曲線の作成など有益な情報となることが多い。今後のデータ蓄積のためにもこれらの
時系列損傷データの幅広い公開を期待している。
以上の内容をふまえて,今回の旧鳥飼大橋の材料試験結果(鋼材試験,コンクリート試
験)および新しいモニタリング方法(応力発光体による点検)を今後の大阪府管理の高齢
橋長寿命化修繕計画に生かしていくための方策を下記に述べる。これは大阪府に限らず,
全国の施設管理者にも共通する内容であると思われる。
4.6.1 ライフサイクルマネジメントの中の材料試験の位置付け
図 4.6.1.1 に,橋梁のライフサイクルマネジメントの PDCA サイクルにおいて材料特性
を把握できる段階を示す。計画策定の後,点検,評価,補修,効果の確認という PDCA サ
イクルの中で,材料特性を把握する機会は,かなり多いといえる。PDCA サイクルを必ず
2-4-85
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
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回すことを前提とすると,どれかのアクションで材料調査ができなかったからといって致
命的になるというわけでもなく,次の材料調査の機会に実施すればよいということになる。
材料特性は損傷の進行により急激に変化したり,損傷の進行が緩やかな場合はほとんど材
料特性に変化がないというように,使用条件や環境条件によってかなり差がある。数年あ
るいは数ヶ月おきに特性を把握しなければならない部材(損傷)や,数十年スパンで良い
部材などが一つの橋の中でも混在しているので修繕計画策定においては注意が必要である。
ただし,国土交通省は 2014 年度から道路橋やトンネルの定期点検(近接目視を基本)を
地方自治体に義務づける方針で調整に入っている(日本経済新聞,2014.1.3)。点検が現在
の状態を把握できる唯一の手段であり,今後老朽橋が急増することが予想されるためであ
る。これらの定期点検とあわせて材料特性の調査も実施できればより効率的になる。
橋梁のライフサイクルマネジメント
※材料特性の
把握が可能
修繕計画
策定
事後評価
点検
管理対象橋梁
DB
効果の確
認
※材料特性の
把握が可能
判定・評
価
※材料特
性の把握
が可能
補修
補修箇所
の選定
※材料特性の
把握が可能
補修前調
査
※材料特性の
把握が可能
図 4.6.1.1
橋梁の PDCA サイクルにおける材料特性の把握可能段階
まず,最初に,修繕計画策定段階でも設計図書や竣工図書の収集により使用材料やそれ
らの特性が把握できる。しかしながら,供用年数の長い高齢橋になるとこれらの竣工図書
が適切に保管されていないことが多い。点検等により現状で劣化が顕在化してきている場
合は点検業務あるいは補修前調査の中で使用材料の特性が調査される。非破壊検査が主に
なるが,破壊検査を併用する場合もある。その際,再度設計図書や竣工図書等の収集が行
われる。何より,補修をするとなると,材料特性が判明していないと補修計画や補修設計
が出来ないためである。コンクリートなら強度試験や弾性係数推定,中性化試験,塩分浸
透試験,鋼材なら強度試験や弾性係数,衝撃試験などが実施される。この段階で材料の特
性はほぼ把握できていると推定されるが,予算の関係で事前調査等が全て実施できていな
2-4-86
資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
第2編 道路分科会
4. 主要地方道大阪中央環状線 旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査
い場合などは,補修の段階で材料調査が追加で実施されることもある。
補修が適切に実施され,健全度が回復したことを確認するために実施される効果の確認
の際には,できれば材料試験を実施し,材料特性の急激な低下等の変化がないことを確認
する方が望ましい。なにより,現在不足しているのは補修後の劣化状況の把握であり(補
修部材の劣化予測),補修後何回かに渡って時系列的に健全度推移や材料特性の変化等を調
査し,公開することが望まれている。これら補修後の部材劣化については現状でほとんど
知見がないため,修繕計画を策定する際にも多くの仮定条件を含んだものとなり,長期的
な LCC 精度も良くないのが現状であろう。一度補修するとその後の部材の劣化状況はど
のように推移するのか,新設とはどのように違うのかなどは使用条件や環境条件ごとで異
なると予想されるが,今後,部材補修後の補修効果の確認等でこれらの知見が蓄積されて
いけば長寿命化修繕計画において仮定していた条件がより少なくなり,長期的な LCC 精
度向上に直結すると思われる。そのためにも,材料試験データの公開が望まれる。
4.6.2 材料試験の省略
損傷が顕在化し,点検の結果,補修要の判定がなされた場合,損傷要因の推定および補
修工法選定のために材料の調査が実施される。補修対象数が全体の割合の中でごく小さい
場合は問題ないが,割合が大きくなってくると材料調査試験費用も全体の維持管理予算の
中でも無視できない額になってくる。かといって,この材料試験を省略できるかというと
そうでもない。原因推定や工法選定のためには材料試験が不可欠であり,これをやらない
と効果のない補修となることが多く,施工後直ぐに再劣化が生じる場合もある。過去に材
料試験を実施された記録等が残っていればそれらを引用することで,材料特性の変化と損
傷の進行度合いから原因の推定や今後の健全度進行度合い予測などが容易になる。往々に
してこれらの点検・補修記録は適切に保存されていないことがよくあり,また,記録はあ
っても保存先が不明ということは過去によくある話である。補修したい時期にこれらの資
料が直ぐに引用できる状態になっていることが重要であり,記録の管理運用上のルール作
りとその実践とが求められる。
結果的に,材料試験を省略し,他の類似事例を引用することで代用するにはあまりにも
データ数の不足が顕著(公開されているデータが少ない,過去の補修記録がない等)であ
り,現時点では個別で問題が発生した(損傷が顕在化)時点で材料試験を実施せざるを得
ないのが現状である。現状はデータを蓄積中という状態であろう。どこまでデータの蓄積
があれば引用できるかという点については,類似環境・使用条件の橋が数個~十数個以上
あればかなり優位な確率で劣化予測も可能になると思われるので,今後はデータベース化
も含めて改善が望まれる。
4.6.3 データベース化
繰り返しになるが,維持管理上または長寿命化修繕計画策定の上でいつも問題となるの
が,点検・補修(補強)の履歴である。補修をしていれば目視により補修の有無だけは確
認できるが,何時どういった補修をしたのかということまではその記録がないとわからな
い。実際に補修しているのにその記録がないことが大きな問題となっている。こういった
ケースは高齢橋になればなるほどその傾向があり,旧鳥飼大橋では橋の規模が大きいこと
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資料№15-1 維持管理研究委員会報告書
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や調査検討委員会が開催されたこともあって,過去何回か調査された記録が監理部署(枚
方土木事務所・門真工区)にて残っていたことが大きい。しかし,管理体制が良くない部
署であったり,橋の規模も大きくない場合などは記録が保管されていないこともよくある。
最も望ましいのは,同じ橋で複数回の点検・調査がなされている記録であり,これらは劣
化予測の精度向上や補修対策の代替案の評価,健全度の推移と損傷程度の関係,または,
健全度の推移と使用・環境条件の推移との関係把握に直結する。点検・補修記録データベ
ースを精緻に実施するとなるとかなりの費用(データベース構築費,メンテナンス費用)
も発生するし,これまでの経験上,あまり使われない(役に立たない)製品が出来上がる
ケースもよくある。旧鳥飼大橋のように,監理部署を一つに決め,記録は全て(電子デー
タが正ではなく)紙で残すというルールも今後の参考になる点である。電子データは記録
のコピー・ペーストが可能であるという大きなメリットがあるが,メンテナンスが大変で
あり,将来これらの履歴データを全て使うかと言うとそうではなく,補修や劣化予測に必
要なスポット的なデータのみが必要となることなどから,無理に全てを電子化(データベ
ース)しなくても紙での運用も有効な選択肢の一つとして考えてもよい。紙なら 100 年単
位での保存の歴史があるが,電子化は数十年先を考えた場合でも,記録媒体の劣化や読み
出し機器の将来の存在など,不確定要素は存在することも事実である。
4.6.4 修繕計画策定上仮定している設定条件の精査
長寿命化修繕計画を策定する場合,一つの管理機関でその数が数百にもおよぶため,個
別の橋梁で材料試験を実施することは費用的な問題もあってなされていない。設計・建設
時点の図書(図面,計算書等)や過去の補修・点検記録が残っているのは全体のうち僅か
であることが多く,多くの高齢橋は設計条件,架橋年月すら未定のこともある。そのため,
数百橋の長寿命化修繕計画を策定しようとすると,架橋年も含めて使用材料特性などは推
定のもとで進めることが多い。ただし,架橋年がわかれば適用示方書がほぼ特定できるた
め,架橋年は重要な要素である。補修などが適宜実施され,その記録が適切に保管されて
いれば材料特性不明の問題もクリアされるが,以前として材料特性等不明な橋は多い。全
ての橋が補修されるのを待っていては長寿命化修繕計画が策定できないので,現状はある
程度橋をグルーピングして材料条件を統一(仮定のもとで)することで対処している。し
かし,劣化の状況は使用条件や橋の規模,環境条件にもよって変化するし,何より初期不
良の記録がほぼ残っていないため,以前として計画策定上の仮定が多いことには変わりは
ない。仮定が多いと数十年後の状態推移の精度が良くなく,年次必要費用の精度も説得に
欠ける結果となる。仮定条件を一つでもクリアにできる方策があれば実施していくことが
望ましい。今後,補修の際の材料試験結果などは貴重な記録であり,計画策定上の仮定条
件をクリアできるため,前述のデータベースとも関連するが,今後の維持管理上重要な項
目の一つとして考えていきたい。
4.6.5 効果的で安価なモニタリング
類似する他の橋のデータ(橋の規模,使用条件,環境条件,材料試験結果等)を引用す
ることもよいが,望ましいのは,その橋独自の時系列損傷データあるいは時系列の環境・
使用条件のデータの蓄積である。一つの橋で時系列に調査データを収集するにはある程度
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の費用が発生するが,この費用は安い方が望ましく,また,時系列の評価をするためにも
定点観測が最も望ましい。要は,かける費用と得られる成果のバランスがとれていること
が重要となる。平成 23 年度に調査を行った「応力発光体によるモニタリング」は,現在
市販はされていないものの,A4 サイズで数千円という値段はその成果内容から考えると
もうすぐ費用対効果のバランスが取れた状態になると思われる。これまでの光ケーブルや
ひずみゲージのように点(スポット)で計測するのではなく,応力発光シートという面で
計測できるため,用途によってはかなり使い道が広くなると考えられる。材料費用がもっ
と安くなれば,普及も早いと想像できるし,何よりもっと技術開発が進んで塗料の中に埋
め込むことができようになればシートの塗付という専門的な作業が不要になるメリットは
大きいと考えられる。モニタリングする場所は,亀裂であればその発生部位は予め予想が
つくことが多く,その周りに(シートという)面で貼り付けておけばよい。ひずみゲージ
のように,スポットで考えなくてもよい点が大きなメリットとなる。モニタリング機器の
進歩は日進月歩であり,また,他分野でも有効な機器・材料が開発されていることがよく
あり,情報収集には苦労しているのが現状である。このような先進的モニタリング機器(材
料)は近年 NETIS 登録されることが多くなってきており,この NETIS 自体も一つのデー
タベースとして有効に機能していると考えられる。
(4.6 章執筆担当:保田敬一)
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4.7 おわりに
大阪中央環状線の淀川渡河部に位置する旧鳥飼大橋での調査に関して,合計 4 つの調査
を実施した。
一つは,
「応力発光体による鋼製部材の変状検出」であり,鋼縦桁および RC 床版鋼板接
着部を対象にして,応力発光体によるひずみの検出性能を検証した。①面的な情報把握は
有効であること,②橋梁の荷重載荷状態が変化しても応力発光センサによる検出はうまく
追随できることを確認できた。応力発光に関する今後の課題は,微少な変形(例えば,RC
床版の鋼板補強部で鋼板接着の効果を確認できるかどうか)に対して応力発光センサによ
る検出はうまく追随できるかである。今回実施した RC 床版の鋼板表面に発生する応力が
微少で,現在の応力発光シートの検出性能ではひずみの変化を得ることができなかった。
今後は検出性能の向上が一つの課題となる。
二つ目は,
「板厚計測による局部腐食の状況と板厚分布」であり,主に床組部(縦桁・横
桁)を対象にして,残存板厚および塗膜厚さの計測および温度,湿度,風向,付着塩分量
の計測を行った。最後に塗装の塗り替えを実施してから 27 年が経過しており,凍結防止
剤による付着塩分量の影響により,部材各所に塗装の劣化剥離や発錆が認められる。今後
は,定期的な水洗いを実施することで付着塩分量を低減させ,腐食の進行を遅らせること
が橋梁の延命化に寄与できると考える。
一つ目の調査は,維持管理における効果的なモニタリングの試行に該当すると考えられ
る。損傷を確認・発見する唯一の行為は,点検であり,いかに安価で効率的かつ効果的に
モニタリングを行うことができるかは点検コストの低減にも直結するため,重要な課題の
一つである。二つ目の腐食状況の推移は,今後の高齢橋の長寿命化修繕計画を策定してい
く上で重要となる鋼材の腐食に関する劣化推移を把握する目的で実施した。今後の維持管
理において,劣化の進行は使用状況や環境にも影響されるため,適切なモニタリングによ
る現状把握が欠かせないといえる。
三つ目と四つ目は,破壊による鋼材とコンクリートの材料試験である。長寿命化修繕計
画を策定する際に,建設時点の材料特性を記した試料はほとんど残っていない事が多い。
計画策定の際に最初に仮定する材料特性を破壊試験により精査・確認し,今後その数が急
増する高齢橋の長寿命化修繕計画策定の仮定条件クリアに有益な情報を与える目的で実施
した。このような材料試験結果の更なる蓄積(データベース化)が,管理橋梁の長寿命化
修繕計画策定に大いに貢献するであろうと期待できる。
以上,旧鳥飼大橋の調査に関して 4 つの調査を実施した。いずれの調査においても有益
な知見が得られた。今後はこれらの知見を更に高齢化する橋梁の修繕計画並びに維持管理
へ繋げていくことができれば幸いである。
(4.7 章執筆担当:保田敬一)
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謝辞
本研究を実施するに際し,大阪府
ループ
梶川正純氏および大阪府
都市整備部
枚方土木事務所
交通道路室
門真工区
道路整備課
道路建設グ
池田正之氏より「主要地
方道大阪中央環状線旧鳥飼大橋(北行)橋梁調査」プロジェクト(H22)としてのフィール
ドの提供を受けました。また,本研究は,一般社団法人建設コンサルタンツ協会近畿支部
「公共土木施設の維持管理に関する研究委員会(委員長:本下
稔)」の活動の一部として
実施しました。研究委員会関係各位および近畿支部事務局から多分な支援を受けました。
さらに,応力発光体による試験は,科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業
チーム型研究(CREST)の研究領域「先進的統合センシング技術」における研究課題「応
力発光体を用いた安全管理ネットワークシステムの創出」
(代表:徐
行われました。(独)産業技術総合研究所
宿町 807-1)の寺崎
超男)の一環として
生産計測技術研究センター(〒841-0052 鳥栖市
正氏,坂田義太郎氏,張
琳氏,郭
強樹氏,Li Chenshu ならびに,
JST-CREST の徐 超男氏には調査に全面的に協力を頂きました。また,板厚や温度・湿度,
ひずみ計測,加速度計測など,株式会社日本工業試験所の皆様には現場での計測に多大な
ご協力を頂きました。
ここに記して謝意を表します。
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