15-I-0066 2016 年 1 月 29 日 株式会社日本格付研究所(JCR)は、以下のとおり信用格付の結果を公表します。 フィンランド共和国 (証券コード:−) 【据置】 外貨建長期発行体格付 格付の見通し 自国通貨建長期発行体格付 格付の見通し AAA 安定的 AAA 安定的 ■格付事由 (1) 格付は、高度に発展し柔軟性の高い経済構造、堅実な財政運営の実績と、ストレスに対する潤沢なバッフ ァーを主に評価している。格付の見通しは安定的である。フィンランド経済は、高齢化に伴う生産年齢人 口の減少や携帯電話機などの製造業の縮小といった構造的要因に加え、主要貿易相手である欧州経済の低 迷に直面し、停滞が続いている。足元では、製造業の構造調整が一巡。15 年には、欧州経済の回復もあ り、14 年まで 3 年続いたマイナス成長からは脱しつつあったものの、隣国ロシアの経済悪化の影響を受 け、実質 GDP 成長率は通年でも 0%付近にとどまったものと見られる。財政面では、リーマンショック 後に拡大した歳出の削減が遅れており、当面は政府債務の増加基調が続く見通しである。とは言え、これ までの堅実な経済運営の蓄積から、一般政府部門のバランスシートは GDP 比 50%を超える純資産ポジシ ョンにある。また、15 年 4 月に成立したシピラ政権は、競争力の改善や経済成長の促進に向けた構造改 革の実施と共に財政健全化にも強くコミットしている。 (2) フィンランドは、人口約 550 万人を有する北欧の小国。世界トップレベルの教育水準とイノベーション創 出力を有し、一人当たり GDP(PPP ベース)は 4 万米ドルを超える。07 年以降、それまでの高成長をけ ん引したノキアに代表される携帯電話機製造業が急速に衰退。伝統的な紙・パルプ産業の低迷もあり、07 年に GDP の 25%を占めた製造業は、14 年には同 17%まで縮小した。輸出や投資が低迷する中、実質 GDP 成長率は 14 年まで 3 年連続でマイナスを記録、失業率も 9%超まで上昇した。同国は、輸出が GDP の 38%を占め、輸出品も EU やロシア向けの中間・資本財が中心であるなど、外需、特に欧州経済の動向 に強く影響を受ける。足元では、製造業のリストラに伴う経済への下押し圧力はほぼ解消。パルプ産業で も大規模な新規設備投資が計画されている。欧州経済が回復の兆しを見せる中で景気は底を打つ兆候を示 していたものの、足元でロシア経済の急速な悪化などもあり 15 年 1-9 月の実質 GDP 成長率は前年同期比 0.1%にとどまった。16 年以降も、回復のペースは緩やかと想定される。 (3) 対外面では、過去長年の経常黒字により、09 年以降、対外純債権ポジションを維持している。フローベ ースで見ると、競争力の低下や交易条件の悪化を背景に、経常収支は 11 年に黒字から赤字に転じたが、 赤字幅は、12 年に GDP 比-1.9%に達した後、電子機器類の貿易収支悪化に歯止めがかかったことに加え、 資源価格の低下も追い風となり、縮小してきた。特に、14 年末以降の大幅な原油安を受け、15 年 1-10 月 には小幅ながら黒字を計上した。 (4) 財政構造は、北欧に顕著な高負担・高福祉型であり、歳出入はそれぞれ GDP の 58%、55%(14 年)とい う規模に達する。リーマンショックの影響を受け実質 GDP 成長率が-8.3%を記録した 09 年以降、失業増 や高齢化を背景に社会保障費用が急速に増加しており、増税を中心とする赤字削減策の導入にもかかわら ず財政健全化は遅れている。14 年には、一般政府財政赤字(ESA2010)が GDP 比 3.3%と、EU が上限と する 3%を初めて上回った。15 年も同赤字幅は 3%を超過したものと見られる。15 年 4 月に成立したシピ ラ政権は、財政の持続可能性確保に必要となる政策を任期中に決定するとの目標のもと、16∼19 年に実 施する約 40 億ユーロ(GDP 比 2%相当)の歳出削減を主眼とした緊縮策を打ち出しているほか、勤務時 1/3 http://www.jcr.co.jp 間の延長など労働条件の大幅な改定を含む競争力改善に向けた労働市場改革にも着手している。加えて、 これらの改革が想定通りの成果をもたらさない場合には 15 億ユーロの追加緊縮策を導入する意向を示す など、財政赤字の削減に強くコミットしている。一般政府債務については、財政赤字の継続により GDP 比で見た水準は上昇基調にあり、15 年末には EU が上限とする 60%を超えたとみられる。しかし、金融 危機前に長期に亘り財政黒字を維持した蓄積もあり、ユーロ圏内の他国と比較すると、これは依然として 低い水準である。また、年金基金の潤沢な資産を背景に、一般政府部門はネットで見ると純金融資産が積 み上がっており、14 年末の一般政府の純資産残高は EU 内最大となる GDP 比 54%に上った。 (5) フィンランドは北欧諸国唯一のユーロ導入国。北欧資本が高いシェアを占める同国の銀行システムは、近 年の景気低迷や欧州ソブリン債務危機の中でも、資産の質、収益性、資本バッファーなどについて健全な 状態を維持してきた。預貸率が高く、資金調達の多くを海外借入に依存しているものの、ユーロ圏におけ るセーフヘブンとしての位置づけを背景に、流動性も安定的に確保されている。他方、ECB の金融緩和 により金利が継続的に低下する中で、銀行システムによる貸出は景気低迷にもかかわらず拡大してきた。 加えて、15 年初の ECB による量的緩和の導入以降、貸出は増加のペースを速めている。企業、家計部門 の債務は GDP 比でそれぞれ 66%、65%(14 年末)と、水準自体は依然として相対的に低いものの、ECB による量的緩和が持続するなか、金融システムの動向については一定の留意を払っていきたい。 (担当)仲川 聡・佐伯 ■格付対象 発行体:フィンランド共和国(Republic of Finland) 【据置】 対象 外貨建長期発行体格付 自国通貨建長期発行体格付 格付 見通し AAA AAA 安定的 安定的 2/3 http://www.jcr.co.jp 春奈 格付提供方針に基づくその他開示事項 1. 信用格付を付与した年月日:2016 年 1 月 27 日 2. 信用格付の付与について代表して責任を有する者:藤本 主任格付アナリスト:仲川 聡 幸一 3. 評価の前提・等級基準: 評価の前提および等級基準は、JCR のホームページ(http://www.jcr.co.jp)の「格付方針等」に「信用格付の種類 と記号の定義」 (2014 年 1 月 6 日)として掲載している。 4. 信用格付の付与にかかる方法の概要: 本件信用格付の付与にかかる方法の概要は、JCR のホームページ(http://www.jcr.co.jp)の「格付方針等」に、 「ソブリン・準ソブリンの信用格付方法」 (2014 年 11 月 7 日)として掲載している。 5. 格付関係者: (発行体・債務者等) フィンランド共和国(Republic of Finland) 6. 本件信用格付の前提・意義・限界: 本件信用格付は、格付対象となる債務について約定通り履行される確実性の程度を等級をもって示すものである。 本件信用格付は、債務履行の確実性の程度に関しての JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該確実性 の程度を完全に表示しているものではない。また、本件信用格付は、デフォルト率や損失の程度を予想するもので はない。本件信用格付の評価の対象には、価格変動リスクや市場流動性リスクなど、債務履行の確実性の程度以外 の事項は含まれない。 本件信用格付は、格付対象の発行体の業績、規制などを含む業界環境などの変化に伴い見直され、変動する。ま た、本件信用格付の付与にあたり利用した情報は、JCR が格付対象の発行体および正確で信頼すべき情報源から入 手したものであるが、当該情報には、人為的、機械的またはその他の理由により誤りが存在する可能性がある。 7. 本件信用格付に利用した主要な情報の概要および提供者: ・ 格付関係者が提供した経済・財政運営方針などに関する資料および説明 ・ 経済・財政動向などに関し中立的な機関が公表した統計・報告 8. 利用した主要な情報の品質を確保するために講じられた措置の概要: JCR は、信用格付の審査の基礎をなす情報の品質確保についての方針を定めている。本件信用格付においては、 発行体もしくは中立的な機関による対外公表、または担当格付アナリストによる検証など、当該方針が求める要件 を満たした情報を、審査の基礎をなす情報として利用した。 9. 非依頼格付について: 本件信用格付は格付関係者からの依頼に基づかない信用格付である。国に対する信用格付である場合を除き、依 頼に基づく格付と区別するため格付記号の後に「p」を表示している。格付関係者からは、信用評価に重要な影響を及 ぼす非公表情報を入手している。 10. JCR に対して直近 1 年以内に講じられた監督上の措置:なし ■留意事項 本文書に記載された情報は、JCR が、発行体および正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、また はその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、 的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、また は当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCR は、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、 金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因 のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。また、JCR の格付は意見の表明であ って、事実の表明ではなく、信用リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするも のでもありません。JCR の格付は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。格付は原則として 発行体より手数料をいただいて行っております。JCR の格付データを含め、本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。JCR の格付データ を含め、本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。 ■NRSRO 登録状況 JCR は、米国証券取引委員会の定める NRSRO(Nationally Recognized Statistical Rating Organization)の 5 つの信用格付クラスのうち、以下の 4 クラ スに登録しています。(1)金融機関、ブローカー・ディーラー、(2)保険会社、(3)一般事業法人、(4)政府・地方自治体。米国証券取引委員会規則 17g7(a)項に基づく開示の対象となる場合、当該開示は JCR のホームページの“Rating Information”(http://www.jcr.co.jp/english/top_cont/rat_info01.php) に掲載されるニュースリリースに添付しています。 ■本件に関するお問い合わせ先 情報サービス部 TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026 3/3 http://www.jcr.co.jp
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