Digest 03 - 日経サイエンス

03
2016
Vol.46 No.3
Digest
ダイジェスト
特集
子どもの脳と心
10 代の脳の謎 ……36 ページ
J. N. ギード(米カリフォルニア大学サンディエゴ校) 赤ちゃんの超言語力…… 44 ページ
P. K. クール(米ワシントン大学) 集中学習の窓 臨界期のパワー…… 50 ページ
ヘンシュ貴雄(米ハーバード大学) 危険な行動を好む 10 代の若者たち。その理由
は脳のアンバランスな成熟過程にあるというのが
最近の脳科学の見方だ。感情を育む大脳辺縁系が
発達する一方,衝動を抑える前頭前皮質の成熟は
不十分。この「ミスマッチ」を理解することは,
人生設計にもプラスになるはずだ。言語学習にお
いては生後 6 カ月までの「敏感期」が,母語,他
言語によらず最も鋭敏に音を認識できる。言語能
力を開花させるには,圧倒的な量の生の話者によ
る話しかけが必要だ。成人の脳の可塑性とは別に,
若い脳には外界からの刺激で神経接続が形作られ
HANNAH WHITAKER
る「臨界期」がある。例えば視覚系の発達は乳児
期の 2 ∼ 3 年で終了し,配線は一生保たれる。「臨
界期」をコントールできれば,成人でも脳の配線
ミスを修正できるチャンスがあるかもしれない。
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日経サイエンス 2016 年 3 月号
古生物学
脆弱になっていた生態系
恐竜を滅ぼした小惑星衝突プラスアルファ……56 ページ
S. ブルサット(英エディンバラ大学)
恐竜の絶滅は科学の最大の謎の1つ。最も支持されている
のは小惑星の衝突が恐竜を全滅させたとするものだ。これに
対し,恐竜の衰退を招いた別の要因があったのではないかと
疑う研究者もいた。著者は 10 人ほどの恐竜専門家を集め,
恐竜が消えた時期の前後に起きた様々な環境変化について長
期的視点で議論した。その結果,小惑星が衝突したタイミン
グが恐竜たちにとって,たまたま最悪の時期,それまでの環
境変化のせいで彼らの生態系のバランスが危うい状態になっ
JON FOSTER
ていた時期であることが浮かび上がってきた。これは従来の
定説に予想外の新しいひねりが加わったことを意味し,現在
の世界と私たち人類の進化の物語にも大いに関連している。
物理学
相対論の黙示
「ここ」とはいったいどこなのか? 非局在性の不思議……64 ページ
G. マッサー(SCIENTIFIC AMERICAN 編集部)
日常生活では,距離と位置は当然の概念だ。だが物理学の
考え方を突き詰めると絶対的な位置などというものはそもそ
も存在せず,この宇宙は非局在的だと考えられると著者は考
察する。重力に関するニュートンの考え方は質量を持つ物体
が距離を超えて瞬時に引力を及ぼすというものだが,アイン
シュタインはそうした魔法じみた非局在的な作用を排除すべ
く一般相対性理論を構築した。曲がった時空から重力が生じ,
EDWARD KINSELLA III
それが光速という有限のスピードで伝わる。だが同時に,時
空が変形するということは時空自体が絶対的な位置を定義で
きないことを意味し,より深いレベルでの非局在性を導入す
る結果となった。この相対論の黙示について考えてみよう。
日経サイエンス 2016 年 3 月号
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Digest
ダイジェスト
特集
科学技術 革新の系譜
未来を拓くイノベーション10 …… 80 ページ
SCIENTIFIC AMERICAN 編集部 SCIENTIFIC AMERICAN で
たどる170 年 …… 90 ページ
D. L. ケブルズ(科学史家) 世界を大きく変える可能性を秘めた発見・発明
が年ごとに出現する。2015 年に注目された事例
から 10 件を厳選し,近未来の社会に与えるイン
パクトを展望する。目の動きで機械を制御する技
術,地上からマイクロ波を送って宇宙へ送り出す
ロケットなど,ユニークかつ実現性の期待できる
考 案 ば か り だ。 ま た, 創 刊 170 周 年 を 迎 え た
SCIENTIFIC AMERICAN の記事アーカイブから
時代を画した記録を抽出し,1845 年以降の科学
技術の進展と人間生活の変化を描き出す。エジソ
ン が 蓄 音 機 を SCIENTIFIC AMERICAN 編 集 部
に持ち込んで実演したのは 1877 年のこと。以来,
TAVIS COBURN
エレクトロニクスからバイオテクノロジーまで大
変革が繰り返し起きた。科学はさらなるイノベー
ションを生み出し続けるだろう。
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日経サイエンス 2016 年 3 月号
医学
すぐに診断,素早く治療
病原体ナノセンサー……68 ページ
S. O. ケリー(加トロント大学)
一般に感染症を確定診断するための病理検査には数日かか
る。血液や尿といった試料に含まれるマーカー分子(病原体
の DNA など)がわずかで,検出が難しいためだ。この数日
のタイムラグの間に,患者は誤った薬を処方されたり病状が
悪化したり,致命的な感染症の場合には命を落としかねない。
これに対し著者のグループは,血液を 1 滴たらすだけで 20
種類ほどの細菌感染の有無をわずか 20 分ほどでいっぺんに
判定できるプローブを開発した。超微細な構造を利用して感
GREG MABLY
度を高めたのがミソで,近く臨床試験を始める。ナノテクを
活用した同様の医療用センサーがこのほかにも開発されてお
り,医療の現場を大きく革新することになりそうだ。
天文学
天文学界 100 年の確執
米国の望遠鏡ウォーズ……72 ページ
K. ワース(ボストン公共放送局 WGBH)
現在,世界で 3 台の超大型光学望遠鏡の建設が進んでいる。
米カーネギー研究所を中心とする巨大マゼラン望遠鏡 GMT,
カリフォルニア工科大学やカリフォルニア大学,日本の国立
天文台などによる 30m 望遠鏡 TMT,
欧州南天天文台(ESO)
が進める欧州超大型望遠鏡 E-ELT だ。各望遠鏡は約 30m の
主鏡を誇り,宇宙を非常に詳しく調べることができるように
なる。そんな力を持ちながら,どの計画も資金問題を抱えて
いる。その主な理由の 1 つは,米国の光学天文学界の 2 つの
ALEX NABAUM
陣営間の対立関係にある。確執は 20 世紀初頭に始まり,人
間関係や連絡不足,技術の競合などが相まって現在に至るま
で続いている。
日経サイエンス 2016 年 3 月号
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