ニッセイ基礎研究所 2016 年 1 月 25 日 景況見通しが一変、悲観が楽観を上回る ~不動産価格のピークは15~18年と見方分かれる~ 第 12 回不動産市況アンケート結果 金融研究部 不動産投資チーム 准主任研究員 増宮 守 [email protected] 要 旨 第12回不動産市況アンケートにおいて、現在の不動産投資市場全体(物件売買、新規開発、ファンド 組成)の景況感について聞いたところ、3年連続で「良い」または「やや良い」が約9割を占めた。 6ヵ月後の景況見通しについては、2008 年度以来初めて、「悪くなる」または「やや悪くなる」が、「良くな る」または「やや良くなる」を上回った。 今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター(証券化商品含む)としては、昨年に続き「ホテ ル」が最も多く、「物流施設」も増加した一方、「オフィスビル」の減少が目立った。 不動産投資市場におけるリスクとしては、「海外経済」が「国内景気」を上回って最も多く、次いで、「金 利」、「地政学リスク」が続いた。 2016 年の東証 REIT 指数の年間騰落率については、「0~+15%」の予想が最も多く、上下 15%以下に収 まるとの見方が9割を超えた。 不動産価格のピーク時期については、3割近くが既にピークとした一方、18年まで価格上昇が続くとの 見方が過半数を占めた。また、東京オリンピックを視野に19年以降も価格上昇が続くとの見方は限定 的であった。 1| |不動産投資レポート 2016 年 1 月 25 日|Copyright ©2016 NLI Research Institute All rights reserved アンケートの概要 ニッセイ基礎研究所では、第 12 回不動産市況アンケートとして、不動産分野の実務家・専門家1を 対象に、2016 年 1 月 7 日から 15 日にかけて例年のアンケート調査を実施した。今回、202 名を対象 に電子メールで実施し、111 名から回答を得た(回収率 55%) 。 アンケートの結果 ① 不動産投資市場の景況感 「不動産投資市場全体(物件売買、新規開発、ファンド組成)の現在の景況感」について聞いたとこ ろ、「良い」が 48.6%、 「やや良い」が 39.6%、「平常・普通」が 9.0%、「やや悪い」が 2.7%、「悪い」 が 0%となった(図表-1)。 2013 年度以降3年連続で、「良い」または「やや良い」が約9割を占めた。かつてリーマンショッ ク後の 2008、09 年度に「悪い」が過半数を占めていたが、現在、正反対の極めて良好な景況感が続い ている。 図表-1 不動産投資市場全体の現在の景況感 70% 69.6% 64.5% 60% 58.8% 59.8% 08年 09年 10年 11年 12年 13年 14年 15年(年度) 54.3% 53.3% 48.6% 50% 38.8% 40% 29.4% 30% 20% 39.6% 36.2% 38.2% 14.5% 10% 28.6% 28.6% 24.5% 13.7% 12.7% 4.3% 2.7% 2.0% 0.0% 1.0% 6.7% 9.0% 5.2% 3.1% 1.1% 0.0% 0.0% 悪い やや悪い 平常・普通 (出所)ニッセイ基礎研究所「不動産市況アンケート」2008~15年度 0% 38.9% 7.3% 1.0% 2.9% 0.0% やや良い 0.0% 0.0% 1.0% 0.0% 0.0% 良い 次に、「不動産投資市場全体の6ヵ月後の景況見通し」について聞いたところ、「良くなる」が 5.4%、 「やや良くなる」が 16.1%、「変わらない」が 54.5%、「やや悪くなる」が 21.4%、「悪くなる」が 2.7% となった(図表-2)。 「良くなる」または「やや良くなる」が過半数を占めた昨年までに対し、今回、「変わらない」が過半数 を占めた。さらに、「良くなる」または「やや良くなる」は 21.5%に止まり、「やや悪くなる」または「悪 くなる」の 24.1%が上回った。過去を振り返ると、景気の底だった 2009 年にも、6ヵ月後の景況見 通しは既に改善していたことから、今回のように悲観が楽観を上回ったのは 2008 年度以来初めてと 1 不動産・建設、金融・保険、不動産仲介、不動産管理、不動産ファンド運用、格付、投資顧問・コンサルタント、不動産調査・出版 などに携わる専門家。 2| |不動産投資レポート 2016 年 1 月 25 日|Copyright ©2016 NLI Research Institute All rights reserved なる(図表-3)。 このように、極めて良好な現在の景況感に変化が表れなかった一方、6ヶ月後の景況見通しは、楽 観優位から楽観と悲観が交錯するものに一変した。 図表-2 不動産投資市場全体の6か月後の景況見通し 70% 08年 09年 10年 11年 12年 13年 14年 62.2% 15年(年度) 60% 54.5% 50.0% 50% 47.6% 46.1% 44.7% 42.7% 41.4% 38.2% 40% 42.2% 45.6% 34.5% 38.2% 28.6% 30% 26.7% 23.3% 21.4% 20% 10% 0% 19.0% 16.1% 13.7% 9.8% 4.9% 2.9% 1.1% 2.7% 0% 0% 0.9% 悪くなる 5.1% 4.0% 3.3%4.3% 2.9% やや悪くなる 3.2% 4.1% 2.9% 1.0% 1.0% 3.9% 変わらない やや良くなる 5.4% 良くなる (注)2008年は6ヶ月後に限定せず「今後の見通し」について質問している。 (出所)ニッセイ基礎研究所「不動産市況アンケート」2008~15年度 図表-3 不動産投資市場全体の6か月後の景況見通し(DI) 80% 60% 40% 20% 15年度 14年度 13年度 12年度 11年度 10年度 09年度 -40% 08年度 0% -20% -60% -80% -100% *(「良くなる」+「やや良くなる」)-(「やや悪くなる」+「悪くなる」) (出所)ニッセイ基礎研究所 ② 投資セクター選好 「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター(証券化商品含む)(3つまで選択)」について 聞いたところ、「ホテル」が 82.9%、「物流施設」が 43.2%、「ヘルスケア不動産(高齢者向け住宅、健 康医療関連施設)」が 40.5%などとなった(図表-4)。 昨年度(図表-5)に続き「ホテル」を選んだ回答が最多となったが、さらに今回、ほとんどの回答者 が「ホテル」を選ぶに至った。期待を上回るペース2の訪日来客数の増加に伴い、ホテル客室稼働率が 2 2015 年初の政府目標値は 2020 年までに年間 2,000 万人であったが、既に 2015 年に 1,974 万人(前年比+47.1%)を記録。 3| |不動産投資レポート 2016 年 1 月 25 日|Copyright ©2016 NLI Research Institute All rights reserved 過去最高水準で推移している。これまで、「ホテル」は一部の専門プレーヤーが扱うセクターであっ たが、最近では、多くの企業でホテル投資担当部署の設置、強化が進んでいる。また、「ホテル」に 加え、昨年度大きく増加した「リゾート施設」(13.5%)も、さらに2倍近くに増加した。 その他、昨年度やや関心が薄れていた「物流施設」が、再び大幅に増加した。2015 年末から再び大 量供給局面を迎えており、当面の需給懸念はあるものの、ストック拡大により流動性が向上し、投 資対象として魅力を増す可能性がある。 一方、これまで主な投資対象セクターとして常に上位を占めてきた「オフィスビル」(26.3%)が、大 幅に回答数を減らした。空室率低下と賃料上昇の継続にもかかわらず、力強いオフィス需要拡大が みられておらず3、また、不動産価格サイクル4が最も表れ易いセクターであるため、サイクルのピー クアウトを視野に、より成長性の見込める他のセクターに見劣りしたとも考えられる。 その他、「分譲マンション」(3.6%)の減少も目立ったが、人口動態や空き家の増加などに加え、最 近の価格高騰や杭打ちデータ偽装などによるマンション販売の伸び悩みも影響したとみられる。 図表-4 今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター(複数回答3つ) ホテル 82.9% 物流施設 43.2% ヘルスケア不動産(高齢者向住宅、健康医療関連施設) 40.5% 都市型商業ビル 29.7% オフィスビル 26.1% 海外不動産 19.8% リゾート施設 13.5% メガソーラー、データセンターなど産業関連施設 11.7% 賃貸マンション アウトレットモール 分譲マンション 郊外型ショッピングセンター その他 8.1% 3.6% 3.6% 1.8% 3.6% 0% 10% 20% (出所)ニッセイ基礎研究所「不動産市況アンケート(2016年1月)」 30% 40% 50% 60% 3 70% 80% 90% 増宮守 「不動産市場は全般に堅調も、オフィス需要など一部に弱い動き~不動産クォータリー・レビュー2015 年第 3 四半期~」 ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2015 年 11 月 5 日 4 増宮守 「不動産価格サイクルの先行的指標~ピーク感が強まる中、各指標の現状を確認~」 ニッセイ基礎研究所、基礎研レポ ート、2015 年 8 月 28 日 4| |不動産投資レポート 2016 年 1 月 25 日|Copyright ©2016 NLI Research Institute All rights reserved 図表-5 (昨年度)今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター(複数回答3つ) ホテル 69.0% オフィスビル 48.3% ヘルスケア不動産(高齢者向住宅、健康医療関連施設) 39.7% 都市型商業ビル 31.9% 物流施設 26.7% 海外不動産 17.2% 賃貸マンション 11.2% メガソーラー、データセンターなど産業関連施設 9.5% 分譲マンション 7.8% リゾート施設 7.8% 郊外型ショッピングセンター 1.7% アウトレットモール 0.9% その他 3.4% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% (出所)ニッセイ基礎研究所「不動産市況アンケート(2015年1月)」 ③ 不動産投資市場のリスク 「不動産投資市場への影響が懸念されるリスク(3つまで選択)」について聞いたところ、「世界経済」 が 28.1%、「国内景気」が 17.9%、「金利」が 12.8%、「地政学リスク」が 12.5%などとなった(図表6)。 元来、海外要因の国内不動産投資市場への影響は間接的であるが、今回、「世界経済」が「国内景気」 を大きく上回り、また、「地政学リスク」も大幅に増加した。 世界経済については、中国経済の失速懸念に伴い、広く新興国経済の高成長が減速しつつある。世 界的にリスク意識が高まる中、グローバル企業のオフィス需要の他、インバウンド顧客への影響も 懸念される。また、2014 年に大幅拡大した海外資金による国内不動産の取得が再び縮小する可能性 もある。 加えて、テロ事件が中東諸国に止まらず、先進国のパリ、あるいはアジアのバンコク、ジャカルタ などでも発生し、日本の不動産市場が影響を受ける可能性も否定できなくなってきた。 一方、国内の不動産投資市場に影響を与える最大の要因である「国内景気」については、今回、当面 の悪化懸念は大きくないとして、回答者の2割未満しか選択しなかった。同様に、金融緩和政策の 継続を見据え、「金利」を選んだ回答も限定的であった。また、2015 年初まで高騰が続いた「建築コス ト」(5.1%)についても、最近の動きが落ち着いていることから、懸念する見方は少なかった。 5| |不動産投資レポート 2016 年 1 月 25 日|Copyright ©2016 NLI Research Institute All rights reserved 図表-6 不動産投資市場のリスク要因(複数回答3つ) 世界経済 28.1% 国内景気 17.9% 金利 12.8% 地政学リスク 12.5% 為替 7.7% 賃貸市場 5.4% 建築コスト 5.1% 都市直下型地震 3.8% 高齢化 2.9% 政治・外交 1.9% その他 1.9% 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% (出所)ニッセイ基礎研究所(2016年1月) ④ J-REIT 市場の見通し J-REIT 市場の見通しとして、「2016 年の東証 RETI 指数の年間騰落率の予想」を聞いたところ、「0 ~+15%」が 67.6%、「-15~0%」が 24.3%などとなった(図表-7)。 2016 年初から株価が大きく下落しているものの、J-REIT 価格の年間騰落率はプラスになるとの見 方が多く、また、上下 15%以内の価格変動に収まるとする回答が9割以上であった。 J-REIT 価格は、2015 年に伸び悩み、株式市場をアンダーパフォームしたことから、比較的売られ にくい状況となっている。また、J-REIT の分配金の安定性と現在の利回り水準に魅力を感じる投資 家は多く、下値余地は限定的との見方もある。一方、2015 年初にみられたように、価格上昇により 一定の分配金利回りの確保が難しくなる際には、J-REIT 価格の上値は重くなると考えられる。 図表-7 2016 年の J-REIT の騰落率予想 +30%超 0.9% +15~+30% 3.6% 67.6% 0~+15% 24.3% -15~0% -30~-15% -30%超 2.7% 0.9% 0% 10% 20% 30% (出所)ニッセイ基礎研究所(2016年1月) 6| 40% 50% 60% |不動産投資レポート 2016 年 1 月 25 日|Copyright ©2016 NLI Research Institute 70% 80% All rights reserved ⑤ 不動産価格のピーク 「東京の不動産価格のピークはいつごろと考えるか」を聞いたところ、「2015 年あるいは現在」が 27.9%、「2017 年下期~2018 年」が 27.9%、「2016 年~2017 年上期」が 27.0%などと見方が分かれた (図表-8)。 国内で高額の不動産取引が続いた一方、金融市場で世界的にリスク意識が高まるなか、既にピーク とする回答が3割近くに達した。 一方、依然として買い手の取得意欲は強いとして、2018 年まで不動産価格の上昇が続くとする回 答が合わせて過半数を占めた。その中でも、米国金利の引き上げの影響や来年の消費税率の引き上 げを視野に「2016 年~2017 年上期」を予想する回答と、国内の低金利は当面継続するとして「2017 年 下期~2018 年」を予想する回答の2つに分かれた。 他方、不動産価格にとってプラス要因といえる東京オリンピックについて、実際の開催時期まで不 動産価格の上昇が続くとの見方は少なかった。 また、「2021 年以降」(3.6%)との回答も少なく、オリンピックを経て東京の国際競争力が向上する という見方や、インフレ対応資産として長期的な不動産価格の上昇を期待する見方は限定的といえ る。 図表-8 不動産価格のピーク予想 2015年あるいは現在 (既にピーク) 27.9% 2016年~17年上期 (消費税引き上げが目処) 27.0% 2017年下期~18年 (当面上昇基調が継続) 27.9% 2019~20年 (東京オリンピック開催前) 12.6% .2021年以降 (インフレ定着など) 3.6% 0% 10% 20% 30% (出所)ニッセイ基礎研究所(2016年1月) 以上 (ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。 また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。 7| |不動産投資レポート 2016 年 1 月 25 日|Copyright ©2016 NLI Research Institute All rights reserved
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