航空8社・新幹線6路線の顧客満足度を分析

航空8社・新幹線6路線の顧客満足度を分析
──国内長距離移動における品質、コスパの利用者評価は?
日本生産性本部(サービス産業生産性協議会)
主任経営コンサルタント 小倉高宏
顧客満足度に関する消費者評価の総合調査として、様々な業界を対象に毎年実施している「日本版顧客満足
度指数(JCSI:Japanese Customer Satisfaction Index)」。国内長距離交通に関する2015年調査
結果をもとに、エアラインと鉄道の評価傾向と、顧客満足度の高い交通機関の評価要因を分析する。
回答のバラツキが大きな国内航空
回答のバラツキも小さい。多くの新幹線が標準偏差の
中央値より小さい象限に位置するのに対し、国内航空
調査対象の14の交通機関について、約310人ずつの
の多くが標準偏差の中央値を上回るのは、新幹線に比
実際の利用経験者に100問のアンケートを実施。その
べると飛行機は遅延や欠航などの運航品質にバラツキ
結果を6つの指標ごとに100点満点で表す(各指標の
があり、価格変動も大きいことが原因だと考えられる。
関係性は図表1のモデル図を参照)
。指標は「顧客満
足」を基軸に、その原因となる「顧客期待」「知覚品
新幹線は品質、国内航空はコスパで優勢
質(品質評価)
」
「知覚価値(コストパフォーマンス)」、 図表3はヨコ軸が「知覚品質」、タテ軸が「知覚価
満足・不満足の結果である「推奨意向」
「ロイヤルテ
値」の回答平均(スコア)である。「知覚品質」より
ィー(再利用意向)」の合計6つである。
も「知覚価値」の点数が高いのは、いずれも国内航空
図表2は、ヨコ軸が「顧客満足」の回答のバラツキ
であり、航空各社の早期割引などが「知覚価値」の評
(標準偏差)で、タテ軸が「顧客満足」の回答平均
価に反映しているといえる。新幹線は「知覚価値」よ
(スコア)である。グラフ上の破線は14の交通機関
りも、「知覚品質」の評価が高く、スターフライヤー、
の中央値を示している。満足度が高いスターフライヤ
ANA、JALも『コスパ<サービス品質」が評価され
ー、九州新幹線、東海道新幹線、ANAはいずれも、
ている。
図表1 JCSIのモデル図
52
日経消費インサイト 2016.1
図表2 顧客満足の評価の高さと回答のバラツキ
図表3 知覚品質と知覚価値
◆国内航空 ○新幹線
◆国内航空 ○新幹線
78.0
78.0
高
スターフライヤー
76.0
←
知覚品質<知覚価値
76.0
74.0
スターフライヤー
東海道
新幹線
74.0
高
ANA
東北新幹線
北陸新幹線
知
覚
価
値
ソラシドエア
山陽新幹線
JAL
Peach
70.0
ジェットスター
ANA
70.0
スカイマーク
顧客満足スコアの中央
72.0
ソラシドエア
スカイマーク
Peach
72.0
JAL
AIR DO
68.0
九州新幹線
北陸新幹線
東海道新幹線
山陽新幹線
東北新幹線
66.0
→
ス
コ
ア
九州新幹線
←
顧
客
満
足
の
回
答
平
均
ジェットスター
低
AIR DO
64.0
知覚品質>知覚価値
62.0
68.0
上越新幹線
上越新幹線
→
60.0
低
標準偏差の中央値
66.0
15.5
16.0
16.5
17.0
17.5
18.0
58.0
18.5
19.0
19.5
20.0
20.5
21.0
58.0
60.0
62.0
小← 顧客満足の回答のバラツキ(標準偏差) →大
64.0
66.0
68.0
70.0
72.0
74.0
76.0
78.0
低← 知覚品質 →高
「知覚品質」で大きく評価を上げる。
九州拠点の2社が高評価
九州・北陸ともに「知覚価値」で新幹線が60点台
14の交通機関のなかでの順位(以下、全体順位と
へと評価を下げるのに対し、スターフライヤーは70
表記)で、顧客満足1~2位のスターフライヤーと九
点台を維持している。品質評価とコストパフォーマン
州新幹線、2015年に民事再生法の適用申請後、ANA
スの両面で高い評価を得ていることがスターフライヤ
傘下入りが決定したスカイマークの現状と、同年3月
ーの強みである。
に開通し注目度の高い北陸新幹線の6指標を見てみよ
「顧客期待」と「知覚品質」では低評価であったス
う(図表4)
。
カイマークは、「知覚価値」で70点台に評価を高める。
「顧客期待」の全体順位では北陸新幹線が1位であ
こうした結果、「顧客満足」はバランスよく評価の
る。九州新幹線の「顧客期待」も高く、こうした期待
高いスターフライヤーが77.1点と最高得点で、「知覚
の高い新幹線は「知覚品質」の評価も高い。「顧客期
品質」の高さが特徴の九州新幹線が2位の評価を得て
待」では2つの新幹線に及ばないスターフライヤーが
いる。北陸新幹線は期待と品質評価が高く、それらが
低いスカイマークはコスパで評価を高め、結果的に
「顧客満足」はほぼ同じである。
図表4 6指標ごとのスコア (満点は100)
「推奨意向」の全体順位は1位がスターフライヤー、
78
76
2位が九州新幹線、4位が北陸新幹線である(3位は
74
ANA)。スカイマークは「推奨意向」の評価が低いも
72
のの、「ロイヤルティー」の評価は北陸新幹線を上回
70
る。6つの指標のなかで、4社の評価差が最も接近す
68
るのは再利用意向を表す「ロイヤルティー」である。
66
64
4社は路線や特徴が異なるが、それぞれに、利用者が
62
リピート意向を有しているのがわかる。
60
販促・マイレージはエアラインが上位
58
56
顧客期待 知覚品質 知覚価値 顧客満足 推奨意向 ロイヤルティ
スターフライヤー
69.0
74.6
73.5
77.1
68.7
67.3
九州新幹線
72.8
75.4
69.4
75.8
68.0
66.3
スカイマーク
59.2
64.4
71.4
73.3
57.6
64.8
北陸新幹線
73.2
74.1
67.3
73.2
65.6
64.3
JCSIでは6指標とは別に、40項目以上のサービス
品 質 項 目(Service Quality Index :SQI) を「 1 ~
7」の7段階評価で調査している。その代表的な項目
日経消費インサイト 2016.1
53
図表5A~F サービス品質(SQI)の評価(7段階評価の平均値)
の評価平均のランキングを図表5A~Fに示した。
「プロモーション」
(A~B)
、
「利便性」
(C~E)、
「接客(下)
」
、
「独自性」
(G)」の順に検証しよう。
プロモーションの「セールやイベント、キャンペー
ンの魅力」の上位は全てエアラインで、1~2位は、
ジェットスターやPeachといったLCCである。
「顧客満
【利便性】
C)時刻表どおりの出発・到着の定時性
3
4
5
6
6.26
東海道新幹線
6.21
九州新幹線
6.16
東北新幹線
北陸新幹線
6.08
足」1位のスターフライヤーはエアラインのなかで最
上越新幹線
6.04
も評価が低い(図表5A)
。
山陽新幹線
「マイレージ、ポイントプログラムの魅力」では、
JAL
5.29
ANA
JALとANAが1~2位である。九州新幹線が4位に入
スターフライヤー
っているのはPontaやTポイントにも交換可能なJR九州
ソラシド エア
独自のeレールポイントがあるためである(図表5B)
。
6.02
5.44
5.22
5.06
4.97
AIR DO
4.53
スカイマーク
4.30
ジェットスター
図表5A~ G サービス品質
(SQI)
の評価(7段階評価の平均値)
4.13
Peach
【プロモーション】
A)セールやイベント、キャンペーンの魅力
3
4
D)座席の座り心地の良さ
5
6
5.25
ジェットスター
5.11
Peach
4.91
ソラシド エア
4.63
AIR DO
ANA
4.60
九州新幹線
4.58
スターフライヤー
4.52
東北新幹線
4.50
4.79
4.63
6
5.64
5.56
4.37
東北新幹線
5.36
ANA
5.21
JAL
5.17
東海道新幹線
5.16
3.91
山陽新幹線
ソラシド エア
東海道新幹線
3.75
上越新幹線
山陽新幹線
3.71
AIR DO
3.47
5
スターフライヤー
3.89
ジェットスター
4
5.57
4.31
3.64
3.78
北陸新幹線
4.16
3.56
4.30
3.97
3
上越新幹線
Peach
4.46
E)機内・車内の雰囲気の良さ
6
東北新幹線
スカイマーク
4.74
4.64
九州新幹線
4.32
北陸新幹線
5.06
4.92
4.38
ANA
ソラシド エア
5.15
Peach
JAL
九州新幹線
山陽新幹線
スカイマーク
5
スターフライヤー
5.16
ジェットスター
4
AIR DO
東海道新幹線
AIR DO
B)マイレージ、ポイントプログラムの魅力
3
5.63
5.34
上越新幹線
4.10
東海道新幹線
5.69
5.68
ANA
4.22
上越新幹線
北陸新幹線
ソラシド エア
4.38
山陽新幹線
6
スターフライヤー
JAL
4.45
北陸新幹線
5
東北新幹線
4.70
スカイマーク
4
九州新幹線
4.77
JAL
3
5.07
4.90
4.69
4.67
スカイマーク
4.50
Peach
4.50
ジェットスター
4.44
54
日経消費インサイト 2016.1
図表5A~F サービス品質
(SQI)
の評価(7段階評価の平均値)
【接客】
図表5A~F サービス品質(SQI)の評価(7段階評価の平均値)
【独自性】
F)従業員の礼儀正しさ
3
G)他社にない特徴ある商品・サービス
4
5
3
6
スターフライヤー
5.57
4
5
九州新幹線
5.49
JAL
JAL
5.46
Peach
5.42
4.44
4.37
ANA
4.36
東北新幹線
5.32
九州新幹線
4.35
北陸新幹線
5.31
ソラシド エア
ソラシド エア
5.31
ジェットスター
東海道新幹線
5.27
AIR DO
ANA
山陽新幹線
5.20
北陸新幹線
AIR DO
5.18
東北新幹線
5.07
上越新幹線
4.29
4.22
4.22
4.17
4.03
3.97
スカイマーク
Peach
4.83
山陽新幹線
3.85
スカイマーク
4.78
東海道新幹線
3.82
ジェットスター
4.75
上越新幹線
快適性は新幹線とスターフライヤー
6
4.89
スターフライヤー
3.58
のだろうか。2位以下を大きく引き離しているのがス
ターフライヤーで、ハード・ソフトの独自性が高く評
出発・到着の定時性の評価では、セールやイベント、 価されている。2位以下はJAL、Peach、ANAといっ
キャンペーンで最下位だった東海道新幹線が1位にな
たエアラインが続く。九州新幹線が5位に入るものの、
るなど、新幹線が軒並み高評価である(図表5C)。
新幹線はオリジナリティーという点では特徴が薄いよ
座席の座り心地の良さにおいても、新幹線が上位を
うだ(図表5G)。
占め、特に、新たに開通した北陸新幹線と、
「顧客満
スターフライヤーは、特徴を明確な差として利用者
足」の高い九州新幹線が高評価である。唯一、スターフ
に実感させることで空路と陸路で総合1位の高評価を
ライヤーが上位に食い込んでいる理由は、シートが革張
得ている。「顧客満足」上位の九州新幹線、東海道新
りでシートピッチにも余裕があるためである(図表5D)
。
幹線、ANAにおいても価格面以外での差別化要素を
機内・車内の雰囲気の良さでは、新幹線をおさえ、
有しつつ、評価割れが少ないことからも、価格+サー
スターフライヤーが1位である。上述の座り心地の良
ビス品質の高さ+サービスのバラツキの少なさが重要
さに加え、全席に電源があり、スマホなどを充電でき
だといえる。
ることや、音楽やビデオが合計で20チャンネル楽し
める液晶モニターを備えていること、ドリンクサービ
スでは、タリーズコーヒーとビターチョコレートが提
供されるといった、機内サービスがスターフライヤー
の高評価の要因である(図表5E)
。
スターフライヤーと九州新幹線が1~2位となった
■日本版顧客満足度指数(JCSI)
インターネットモニターを用い、2段階で回答者を抽出。1
次抽出で性別・年齢・地域別の人口構成に配慮し、約21万人
から回答を得る。2次抽出で調査対象企業の利用経験を満たす
モニターを各社450~700人ずつ無作為抽出して回答を依頼。
1社当たり300人のサンプル数を確保する。2015年度調査は約
30業種・400社の小売り・サービス業を6回(1回約80社)に
分けて実施。
従業員の礼儀正しさ(図表5F)と前出の「機内・車
内の雰囲気の良さ(図表E)
」との相関が高いことか
ら(相関係数0.89)
、ハードに加え、人的なホスピタ
リティも長距離交通の重要な要素であるといえる。
独自性はスターフライヤーが突出
こうした各社の違いが利用者にどの程度、他社にな
い特徴ある商品・サービスとして印象づけられている
調査対象の 【航空会社(国内便):8社】AIR DO、ANA、ジェットス
長距離交通 ター・ジャパン、JAL、スカイマーク、スターフライヤー、
ソラシド エア、ピーチ
【新幹線:6路線】九州新幹線、上越新幹線、山陽新幹線、
東海道新幹線、東北新幹線、北陸新幹線
調査時期
2015年8~9月
回答者数
4351人(各社300~320人程度)
回答者条件
最近1年間で2回以上利用、かつ利用料金を見聞きした
※詳しくはサービス産業生産性協議会のホームページを参照
http://www.service-js.jp/
日経消費インサイト 2016.1
55