この人 ・あの時 会合報告 シリーズ! 活躍する2015年度国際活動奨励賞受賞者 その4 かわ な よしのり 川那 義則 日本放送協会 帯広放送局 技術部 http://www.nhk.or.jp/ アルゼンチンにおいてアナログテレビとのサイマル放送実現のため、地上デジタル放送日本方式の利点で あるSFNを構築するためのパラメータ策定を支援し、周波数を有効利用した効率的なネットワーク構築に 寄与した。 アルゼンチン地上デジタル放送ISDB-T方式立ち上げにおける技術協力 国際活動奨励賞という名誉ある賞を頂き誠にありがとう 今回の国際協力活動において、ISDB-T方式採用国にお ございます。 ける技術協力は、単に地上デジタル放送の普及に限らず、 今回、私はアルゼンチンの地上デジタル放送ISDB-T方 ICT全体の技術協力や関連産業における連携へ発展する 式の立上げに際し、JICA専門家として現地で技術協力の 可能性を感じました。今後も国際協力活動を視野に入れ、 活動を行いました。2010年4月、首都ブエノスアイレスで 放送分野の技術開発、設備整備に取り組んでいきたいと 地上デジタル放送を開始したアルゼンチンの次の目標は、 考えます。 全国23州都及び主要都市に合計47局の中継局を建設し、 最後に、アルゼンチンにおける地上デジタル放送の発展 世帯カバー率75%を達成することでした。そこで周波数は、 が、アルゼンチンに住む人々へ恩恵をもたらし、社会と文 一つのネットワークあたり最低二つの周波数を割り当てる 化の向上に寄与することを心より願っています。また、国 ことを政府機関へ推奨しましたが、 「周波数に空きがない 際協力活動において支援をいただきました総務省、ARIB、 こと」 、 「全国で早期に放送を開始したいこと」を理由に受 在アルゼンチン日本大使館、JICA、放送機器メーカー、 け入れられず、全国の中継局で同一周波数を使用すること 日本放送協会など、関係機関の皆様に御礼申し上げます。 になりました。当初は大規模な混信発生を危惧しましたが、 アルゼンチンは広大な国土に比較し居住地域が限定され ており、視聴世帯へ複数の中継局の電波が到来するケー スは限定されることから、大規模な混信発生は回避できる と判断しました。 一方、中継局が密集する都市部では、ISDB-T方式の利 点であるSFN(Single Frequency Network)を構築する 必要があります。当初、アルゼンチンでは、信号伝送に「衛 星」を利用する計画でしたが、 SFNを実現するためには、 電波発射タイミングをコントロールする遅延時間調整が必 要であるため、都市部の中継局は「光ケーブルによる伝送」 へ変更し、中継局ごとに遅延時間を測定・調整することで 放送エリアの拡大を実現しました。 ■写真.SFNを構築したCANUELAS中継局 ITUジャーナル Vol. 46 No. 1(2016, 1) 67 この人 ・あの時 会合報告 かんばら こうへい 神原 浩平 日本放送協会 技術局 計画部 http://www.nhk.or.jp/ WRC-15議題において、 放送及び放送に関連する無線業務に関する共用・両立性検討を主導し、 ITU-Rや APG等の会合に出席して技術的観点から議論を主導し、 これらの業務の適切な保護に大きく貢献した。 WRC-15議題における放送と他業務の共用・両立性検討 この度は、名誉あるITU協会賞国際活動奨励賞を頂き、 送方式であるISDB-T方式に関しては、ほとんど手つかず 大変光栄に存じます。この場をお借りして、関係する方々 の状態でした。そのため、検討は一から進める必要があり、 へ厚く感謝の意を申し上げます。 当初はどのようなアプローチで検討するべきか相当悩みま WRC(世界無線通信会議)は、無線周波数の世界的な した。考え抜いた結果、実際のISDB-T方式の受像機モデル 利用方法を定める無線通信規則を見直すために、約4年に を想定した干渉シミュレーションを行い、この議題の技術的 一度開催される大規模な国際会議です。そして、実は今 な検討を行うJTG4-5-6-7会合へ寄与文書を入力しました。 現在、私は日本代表団の一員としてWRC-15に参加してお ISDB-T方式は日本が開発した放送方式であり、技術的な り、会議が開催されているジュネーブにてこの原稿を執筆 検討を主導していくことを他の採用国からも求められてい しております。本稿が掲載されるITUジャーナルが発行さ たため、この内容は各国から高い評価を得ることができま れる頃には、本会議の審議結果が出ていることでしょう。 した。ISDB-T方式の採用国の一つであるアルゼンチンも、 胸を張って本稿を皆様に読んでいただけるよう、良い結果 共用検討結果を入力し、これらは結果として、WRC-15で をもたらしたいと思います。 の議論のベースとなるCPMレポートや、レポートITU-R 私はこれまでNHKの技術者として、ITU-Rで放送業務 BT. 2337として取りまとめられました。 を扱うSG6を中心に勧告やレポートの作成に寄与してまい 冒頭で述べましたように、まさに現在、これらの技術検 りました。WRCではSGでの技術検討をベースに周波数利 討結果をベースとした熱い議論がWRC-15で繰り広げられ 用方法の見直しが行われますが、周波数は既に世界的規 ている最中です。今後も放送技術者として、放送で使用 模で逼迫しており、新たなアプリケーションで周波数を利 する周波数の適切な保護、ならびに放送業務の発展に寄 用するには、既存のアプリケーションへ悪い影響を与えな 与して参りたいと思います。 いよう、事前に十分な技術検討を実施する必要があります。 電波は国境を越えて隣接国へ飛来する可能性があるため、 まさに世界規模での議論が必要となるわけです。 WRC-15では、IMT(International Mobile Telecommunication)で利用する世界共通の周波数が議題の一つと なっており、その候補として、470から6425MHzまでの広 範囲な帯域が挙げられました。このうち470から710MHz は我が国では地上デジタル放送で利用しているため、放送 に与える影響に関する技術検討が必須でありました。 この議題が設定されたWRC-12以降、放送とIMTの共用 に関する技術検討が世界的に行われてきました。ところが、 我が国を含め世界17か国が採用している地上デジタル放 68 ITUジャーナル Vol. 46 No. 1(2016, 1) ■写真.WRC会場前にて ふじ た ひろし 藤田 浩 日本放送協会 千葉放送局 技術部 送受信技術副部長 http://www.nhk.or.jp/ 地上デジタル放送日本方式(ISDB-T)を採用したベネズエラにおいて、首都カラカスにおける地デジ電 波発射及び、地方主要都市への番組配信ネットワーク構築の検討を指導し、地上デジタル放送の導入に 大きく貢献した。 地上デジタル放送の普及で人々の暮らしをより豊かに 南米で5番目に地上デジタル放送(以下、地デジ)日本方 年記念式典等での地デジセミナーで、日本の地デジ放送の 式(ISDB-T)が採用されたベネズエラ・ボリバル共和国に、 実用状況に関する講演を実施した時も、技術関係者と大 地デジ放送導入支援のため、2010年4月から1年間、JICA専 学生からの質疑が多く、地デジを活用した遠隔教育にも関 門家として駐在しました。この支援は、ベネズエラの地デジ 心を示していることを実感しました。 日本方式の採用に伴った総務省のプロジェクトで、私は国営 そのほか、日本からの地デジ機器の輸入に伴う税関手 放送局の地デジ放送用設備整備に関する業務のほか、現地 続きをスムーズに行えるように、機器到着前に在ベネズエ での技術コンサルタント及び、現地放送関連機関と日本メー ラ日本国大使館の書記官と共に複数回税関に通い、通関 カーとの間のコーディネーターとしての役割を担いました。 手続きの短縮も行いました。 具体的には、まずは現地の放送所の調査から開始しまし 地デジ機器の通関後から設備据え付けまでの期間は非 た。アビラ山の標高2,000mに位置しカラカス市内のエリア 常に短いものでしたが、メーカーの人海戦術により整備が をカバーする国営放送局の基幹放送所・メセドレス放送所 進み、無事に2011年3月、メセドレス放送所から地デジ放 や、カラカス近郊の中継放送所は、地デジのサービスエリ 送の電波を発射することができました。 アをカバーするのに最適な立地条件であることを確認しま この時期に、ベネズエラが誇る世界的指揮者であるグス した。また、カラカスから西方に約500km離れたベネズエ タボ・デュダメル氏が指揮する交響楽団のクラッシックコ ラの第二の都市であるマラカイボの中継放送所の調査では、 ンサートに行く機会を得ました。彼の指揮するダイナミッ 多段中継とバックアップに衛星を活用したアナログネット クで力強い演奏は、私の身体に浸透し、1年間の駐在の労 ワークを組んでいたことの確認と、南米のISDB-Tインター をねぎらうかのようで、心地よく聴いたのを覚えています。 ナショナルフォーラムでの技術動向調査の結果を踏まえ、 今後は、地デジ日本方式を採用した中南米、アジアの動 ベネズエラでのISDB-Tネットワークの導入を提案しました。 向をリサーチしながら、地デジの普及状況と展望について 次に、地デジ放送導入のためのマスタープランの検討を 注視していきたいと思います。 進めていた技術委員会への助言を行い、置局数を分散し たマスタープラン案の完成に向けた作業が進みました。更 に、地デジの普及を進めるため、南米ISDB-T採用国で既 にデジタル受信機の規格を制定した国を調査しました。そ の結果を反映することで委員会での議論を活発にすること ができ、規格の作成につなげることができました。 また、技術支援の一環として、ベネズエラの技術者数 名を日本での地デジ放送用STB導入研修等に参加させる 等のアレンジを行いました。後日、 「研修の成果は今後の ベネズエラの地デジ化で出していく」とお礼の言葉を頂き、 研修が実現できて良かったと感じました。国営研究所5周 ■写真.地デジのセミナーにて ITUジャーナル Vol. 46 No. 1(2016, 1) 69
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