第 2 回中央闘争委員会確認

第 2 回中央闘争委員会確認/2016.1.21
2016 春季生活闘争
第 2 回中央闘争委員会 確認事項
連合は本日、2016 春季生活闘争の第 2 回中央闘争委員会を開催し、2016 春季生活
闘争の今後の進め方について協議し、次の確認を行った。
Ⅰ.最近の特徴的な動き
1.至近の経済情勢について
2016 年年明け後、日経平均株価の 6 営業日連続での下落や上海など株式市場で
の中国株の大幅な下落、為替の乱高下、原油安の進行など経済情勢は乱調含みと
なっている。実体経済への波及について注視しつつも、今後の日本・世界経済の
動向については冷静に見極める必要がある。
日本経済の好循環実現に向けて、内需拡大をはかるため、月例賃金の引き上げ
にこだわる取り組みの必要性が高まっている。
2.第 190 通常国会に向けた対応などについて
1 月 4 日に開会した第 190 通常国会では、デフレから脱却し経済の好循環を実現
させるために、適切な雇用・労働政策による雇用の安定と質の向上、社会的セー
フティネットの強化による現在と将来への不安解消などを通じて国民生活全体の
底上げを行う必要がある。国会における与野党の真摯な議論を通じて、予算の内
容・規模が十分に精査されることが求められる。連合は「2016 年度 政策・制度 実
現の取り組み方針(その 2)」に沿って民主党との連携を中心に政府・政党への働
きかけを一層強化し、連合本部・構成組織・地方連合会が一体となって、
「働くこ
とを軸とする安心社会」の実現に向けて全力を尽くす。
Ⅱ.経団連「2016 年版経営労働政策特別委員会報告」に対する連合見解
経団連は 1 月 19 日、「2016 年版 経営労働政策特別委員会報告-人口減少下で
の経済の好循環と企業の持続的成長の実現」(以下「報告」)を発表した。連合は
「報告」に対し総括的に以下の見解を示すとともに、経営側に対して労働組合の
主張を徹底していく。(1 月 19 日付「経団連「2016 年版 経営労働政策特別委員
会報告」に対する連合見解」参照)
「報告」は序文で「デフレからの脱却は、もう一息のところまできている。わ
が国経済再生の歩みを、ここで止めてはならない。2016 年の労使交渉・協議にお
いては、こうした「社会的要請」を十分に考慮しながら、労使で懸命に知恵を出
し合い、自社の成長の果実をわが国経済の活性化へとつなげる方策を実行するこ
とが求められる。」としている。まさに、「社会的要請」に労使はその役割と責任
を果たすべきである。そのためにも、月例賃金の引き上げが必要である。
また、
「人口減少という国家的な課題と経済の好循環の実現への対応を念頭にお
きながら、賃金はもとより、多様な人材の活躍促進や、働き方・休み方改革など
についてもさまざまなメッセージを込めた」としている。連合の課題認識と共有
する部分も多いが、税・社会保障のあり方など相互理解をさらに進めるべく意見
交換を行っていきたい。
「労使パートナーシップ対話の深化」を掲げ、
「労使協議や職場懇談会を通じた
労使対話は、実施企業の多くがその成果を認めており、わが国企業の経営上の強
みである集団的な課題解決機能の維持と強化に効果的である。労働組合の有無に
かかわらず、すべての企業が意識的に従業員への働きかけを強めながら、自社に
適った形で労使コミュニケーションを図り、さらなる労使関係の安定・深化に取
り組むことが望まれる。」などとしている。グローバル競争において日本の競争力
を維持・強化するため、さらなるコミュニケーションの強化に労働組合も努めて
いく。
Ⅲ.当面の闘い方
1.2 月末までの要求提出と回答引き出しに向けた交渉配置
構成組織・単組は 2 月末までの要求提出と、可能な限り第 1 先行組合回答ゾー
ン(3 月 14 日~18 日、最大のヤマ場:3 月 16 日)で回答を引き出すべく、準備と
交渉配置を進める。部門別共闘連絡会議における情報共有を通じて、中核組合を
中心とした回答の集中化を進め、月例賃金の引き上げの裾野の拡大に努める。
なお、第 1 回中央闘争委員会で確認した第 1 先行組合回答ゾーン(3 月 14 日~
18 日)と第 2 先行組合回答ゾーン(3 月 22 日~25 日)に加え、3 月 26 日~31 日
を中堅・中小集中回答ゾーンとし、中堅・中小組合の 3 月末決着への取り組みを
強める。
2.共闘連絡会議の取り組み
部門別共闘連絡会議は 2 月中・下旬に第 2 回書記長・事務局長会議を開催し、
各構成組織の取り組みなどについて情報交換を行い、労使交渉における争点や情
勢についての共通認識を深める。
3.中小・地場共闘強化の具体的進め方
(1)中小共闘の取り組み
構成組織は、中小組合の賃金の底上げ・格差是正に向けて、要求・交渉状況
の情報共有をはかるとともに、中小労組の主体的な運動展開や交渉を支援する
体制を整備する。同時に、中小組合の多くが地方に所在することを踏まえ、地
方連合会が設置する「共闘連絡会議」に積極的に参加し、地域における賃金相
場形成と波及に役割を果たす。
(2)地方連合会の対応
① 地方共闘連絡会議の設置
地場共闘の強化に向けて県単位の「共闘連絡会議」を設置する。既存の協
議体の参加者拡大などによりその機能を代替することも可とする。
なお、設置した機関の名称と開催要領の大綱について本部に報告する(2 月
末日まで)。
② 取り組み状況の報告
地方連合会は、地場共闘に参加する組合から取り組み内容・状況の報告を
受け、闘争推進の情報共有をはかる。同時に、連合本部に対しても随時その
内容を報告する(3 月以降 7 月まで)。
③ 春季生活闘争を通じた組織拡大
2016 春季生活闘争は、未組織労働者も含めた「すべての働く者の処遇改善」
の闘いと位置づけている。交渉期間の前後を通じ組織拡大、組織強化・点検
活動を進めるとともに、未組織・未加盟組合への情報提供、相談対応を積極
的に進める。
「クラシノソコアゲ応援団! 2016 RENGOキャンペーン」と
の連動をはかりながら、街宣活動など「目に見える連合」をアピールしつつ、
組織拡大の運動に寄与させていく。
④ 地場における賃金の相場観を高める取り組み
地域ミニマム運動で集約した加盟組合賃金水準の特性値や都道府県別連合
リビングウェイジにもとづく「最低到達水準」を公表し、地場における賃金
の相場観を高める運動を進めていく。
(3)中小企業における取引関係に関するアンケート調査(速報)について
連合は 2015 年 10 月に中小企業 20,000 社を対象に、「中小企業における取引
関係に関するアンケート調査」を実施した。1 月末を目処に締め切ったうえで最
終集計を行うが、2015 年 12 月時点で回答があった 2,090 社分について「2015
年 10 月中小企業における取引関係に関するアンケート調査について(速報)」と
してまとめた。取引に対する課題が散見されることから、中小企業庁など行政
への要請や経営者団体との協議を行いながら、2016 春季生活闘争で掲げたサプ
ライチェーン全体で生み出した付加価値の適正な分配と現場の生産性向上の努
力に報いるための取り組みに活かしていくこととする。
4.非正規労働者の労働条件改善に向けた取り組み
(1)非正規共闘の取り組み
非正規労働者の労働条件改善に向けて、産業特性を踏まえた取り組みを強化
する。また増加する非正規労働者が抱える悩みをともに解決する取り組みとし
て、2 月 4~6 日に「ゆるさない!ワークルール無視!!パート・アルバイト・
契約・派遣などで働く人のための連合労働相談ホットライン」
(電話相談)を実
施する。
(2)社会的な波及と組織拡大をめざした取り組み
労働組合のない職場で働く労働者も含めた社会的賃金相場の形成をめざし、
代表・中堅銘柄や都道府県別産業別特性値および短時間労働者時給の公表など
各種データを積極的に開示し、賃金水準の相場観醸成に努める。同時に、
「職場
から始めよう運動」を積極的に展開し組織拡大をめざす。
5.最低賃金の取り組み
最低賃金と同程度の時給で働く多くの未組織労働者への波及効果を意識し、
「す
べての働く者の処遇改善」を下支えする賃金のセーフティネット機能を果たす最
低賃金の引き上げに向けて取り組みを強化していく。(「2016 年度最低賃金取り組
み方針」参照)
Ⅳ.当面の日程
1.機関会議
2016年 1月 21日
22日
第2回中央闘争委員会(第4回中央執行委員会後)
交通・運輸共闘連絡会議第1回書記長・事務局長会議
1月 25日
流通・サービス・金融共闘連絡会議第1回書記長・事務局
長会議
26日
インフラ・公益共闘連絡会議第1回書記長・事務局長会議
27日
化学・食品・製造等共闘連絡会議第1回書記長・事務局長
会議
2月 12日
第3回中小労働委員会
16日
第3回戦術委員会(第7回三役会後)
17日
金属共闘連絡会議第1回書記長・事務局長会議
18日
第3回中央闘争委員会(第5回中央執行委員会後)
2月中・下旬 各共闘連絡会議第2回書記長・事務局長会議
3月 1日
第4回戦術委員会(第8回三役会後)
3日
第4回中央闘争委員会(第6回中央執行委員会後)
2.諸行動
2016年 1月下旬
連合・経団連定期協議
2月 4~6日 「ゆるさない!ワークルール無視!!パート・アルバイ
ト・契約・派遣などで働く人のための連合労働相談ホット
ライン」(電話相談)
5日
2016春季生活闘争 闘争開始宣言2・5中央総決起集会
3月 3日
2016春季生活闘争 政策制度要求実現3・3中央集会
8日
2016春季生活闘争 3.8国際女性デー全国統一行動・中央
集会
以
上
2016 年 1 月 19 日
日本労働組合総連合会
経団連「2016 年版経営労働政策特別委員会報告」に対する
連合見解
1.総論
経団連は 1 月 19 日、
「2016 年版経営労働政策特別委員会報告-人口減少下での経済
の好循環と企業の持続的成長の実現」(以下「報告」)を発表した。
(1)社会的要請に対する労使の役割と責任
「報告」は序文で「デフレからの脱却は、もう一息のところまできている。わが国
経済再生の歩みを、ここで止めてはならない。2016 年の労使交渉・協議においては、
こうした「社会的要請」を十分に考慮しながら、労使で懸命に知恵を出し合い、自社
の成長の果実をわが国経済の活性化へとつなげる方策を実行することが求められる。」
としている。まさに、「社会的要請」に労使はその役割と責任を果たすべきである。
そのためにも、月例賃金の引上げが必要である。
(2)人口減少社会における日本経済社会のあり方について相互理解を
また、「人口減少という国家的な課題と経済の好循環の実現への対応を念頭におき
ながら、賃金はもとより、多様な人材の活躍促進や、働き方・休み方改革などについ
てもさまざまなメッセージを込めた」としている。連合の課題認識と共有する部分も
多いが、税・社会保障のあり方など相互理解をさらに進めるべく意見交換を行ってい
きたい。
(3)労使コミュニケーションが競争力の源泉
「労使パートナーシップ対話の深化」を掲げ、「労使協議や職場懇談会を通じた労
使対話は、実施企業の多くがその成果を認めており、わが国企業の経営上の強みであ
る集団的な課題解決機能の維持と強化に効果的である。労働組合の有無にかかわらず、
すべての企業が意識的に従業員への働きかけを強めながら、自社に適った形で労使コ
ミュニケーションを図り、さらなる労使関係の安定・深化に取り組むことが望まれる。」
などとしている。グローバル競争において日本の競争力を維持・強化するため、さら
なるコミュニケーションの強化に労働組合も努めていく。
報告は「多くの方々に・・・共感とアクションの輪が広がっていくことを願ってや
まない」としている。副題にある「企業の持続的成長の実現」も重要であるが、日本
経済・社会が成長し、国民の生活や将来の希望と安心社会を構築していくスタンスで、
個別課題に対する連合見解を以下の通り表明するものである。
2.2016 年春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢について
(1)賃金決定の原則および賃金引上げ方法について
「報告」は賃金決定に当たって考慮すべき要素を列記しているが、そこに労働者と
その家族に一定の水準の生活を担保するための項目は見いだせない。賃金は労働の対
価として労働者に支払われるものであるが、その水準決定に当たっては、賃金をほぼ
唯一の生活維持手段とする労働者がまっとうな生活を営むに足る水準であることを
確保するのは、企業経営者の責務である。
「適切な総額人件費管理のもと」労使による交渉を経て企業が決定することが原則
としているが、所定内給与額のアップが総額人件費に大きくかつ長期的に影響するこ
とに注意を喚起して、月例賃金の引上げを回避するよう誘導していることは、自ら「デ
フレからの脱却と持続的な経済成長の実現に向け、経済の好循環を回すという社会的
要請がある」と述べていることと矛盾している。
「デフレからの脱却」
「経済の好循環
実現」のためには月例賃金の引上げこそが必要であることを強調しておく。
「2015 年を上回る」としつつ、あくまでも「年収ベースの賃金引上げ」にこだわり、
また「さまざまな賃金引上げ方法等」の名の下に月例賃金の引上げに後ろ向きな姿勢
を示していることに対しては、失望を禁じ得ない。「月例賃金より金額ベースでの引
上げが総じて大きい賞与・一時金の増額も有効な選択肢」と述べるが、消費に回され
る可能性は一時金よりも月例賃金の引上げの方がはるかに高いことを無視している。
デフレからの脱却や経済の好循環の実現に対する真摯な態度が感じられない。
(2)中小企業における賃上げについて
「報告」は中小企業について、
「経常利益の増加も大企業に比べて鈍い」
「先行きに
ついても・・慎重な見方が強い」
「労働生産性が・・約 1 割低下」
「人件費が増大して
おり、さらなる負担増が見込まれる」「中長期的な競争力が損なわれる可能性」とネ
ガティブな情勢判断を示した上で、「支払能力に基づかない要求を掲げることは、建
設的な労使交渉・協議の妨げになるだけでなく、自社の労使関係に悪影響を与える懸
念がある」と、連合方針を批判している。
経団連は、賃金水準そのものの規模間格差や 1995 年以降中小企業の賃金引上げが
全体のそれについて行けていないことという状況の背景について分析し、認識を改め
るべきである。これこそが、連合が転換にチャレンジする「構造」そのものである。
中小企業が賃上げの原資を確保するためには取引関係の適正化(公正取引の確保)
が必要不可欠であるが、
「報告」は、
「経団連としては、取引企業の仕入れ価格の上昇
等を踏まえた価格転嫁や支援・協力に取り組むよう、引き続き会員企業へ呼びかけて
いく」と述べるのみで、発注元企業が会員の多数を占める経営者団体の態度としては
無責任といわざるを得ない。
加えて「報告」は、
「大手追従・大手準拠からの転換を打ち出したにもかかわらず、
大手との「格差是正」を目指すという従来の考え方を踏襲していることは納得感が得
られにくい」と述べ、連合が今次闘争方針で打ち出した「大手追従・大手準拠などの
構造を転換する運動」に疑問を呈している。これは、闘争の手法としての「構造の転
換」と、看過できない程に拡大した企業規模間の賃金水準格差を是正するという労使
に課せられた社会的課題の解消が春季生活闘争の目的であることとを混同している
もので、連合として到底受けいれられない。
(3)非正規労働者の労働条件の改善について
非正規労働者について「報告」は、自ら望んで非正規という働き方を選ぶ労働者が
多いと主張する一方、賃金格差については問題意識を示していない。これまでの総額
人件費抑制至上の企業行動が、非正規労働者が全雇用労働者の約 4 割を占めるに至り、
その多くが結婚や子育てもままならない低収入にあえいでいる現状を生み出した事
実を直視すべきである。
正規への雇用形態の転換について、
「人口減少というわが国の重要課題の解決に資
するためにも、不本意非正規労働者のさらなる減少と処遇改善に今後も取り組んでい
く必要がある」と、総論としては前向きな姿勢を見せており、また正社員化について
は積極的な推進を打ち出しているのだが、「いわゆる限定正社員への転換を含む」と
前置きがある点は懸念される。
雇用形態間の賃金格差について分析を加えないまま、基本給・時給の増額や賞与・
一時金等の支給・増額を実施した企業割合のみを挙げて「賃金引上げなどの処遇改善
も進んでいる」とするのは、いささか我田引水の誹りを免れないのではなかろうか。
「報告」は、
「非正規労働者の賃金が労働市場の需給関係の影響を強く受けるもの」
と述べ、近年の労働需給の逼迫などにより非正規労働者賃金が上昇傾向にあることを
指摘する一方、その処遇改善も「自社における総額人件費管理のもとで考えるべき」
と、あたかも改善原資に枠をはめることを意図しているようにも読める。求められて
いるのは、雇用形態が非正規であろうともそれぞれの働きに見合った処遇を行うこと
であり、その社会的水準を共有・周知していくことである。
3.個別項目に対する具体的な見解
(1)人材の不足問題について
「報告」は特定の業種・業態での人材の不足を指摘している。その理由として「従
業員の高齢化と若年従業員の減少」を理由に挙げているが、一般的に人材が不足して
いるとされる業種・業態では他の業種・業態と比べて低賃金や長時間労働であるなど、
むしろ産業としての魅力に欠けることが原因である。働く者がこの産業に携わりたい
と思えるよう、賃金・労働条件・労働環境等を改善し、魅力ある産業づくりを進める
ことこそが経営者の責任である。
さらに、
「背景には雇用のミスマッチが生じている点もある」として、
「外国人労働
者を含めた多様な人材の活躍が求められる」としているが、正規雇用を望む求職者と
非正規雇用を望む求人側のミスマッチについては述べられていない。正規雇用労働者
に比べ、非正規雇用労働者は不安定な雇用、低賃金なだけでなく、企業の能力開発へ
の投資も少なく、雇用の質が問題となっている。
IoTの進展により情報通信産業における人材不足が加速することを懸念してい
るが、働き手が減少しつつある中、能力開発への投資が少なくなれば、情報通信産業
に限らず、求められる能力を満たす人材が不足するのは当然である。業務に必要な能
力開発を行って人材を育成することは企業の責任である。技術・技能の次世代への継
承や現場を支える人材の不足を解消するには企業が正規雇用を進めるとともに人材
へ必要な投資を行うことが必要不可欠である。
(2)「女性の活躍」の促進について
「報告」では、役員・管理職登用が諸外国に比べ大きく遅れている点を指摘しポジ
ティブアクションの必要性や、男性管理職による無意識の性差別(ジェンダー・バイ
アス)の解消に触れるなど、従来よりも踏み込んだ見解となっており、大枠で認識を
共有するものである。
しかし、「両立支援制度の整備が進み、女性が結婚や出産を理由に退職することな
く就業を継続することが主流になりつつある」と述べている点に関しては、パート・
派遣労働者の第一子出産前後の継続就業率が 18%に低迷している現状 1から考えて看
過しがたい。
女性活躍を進めるためには、非正規労働者も含めた女性労働者の底上げが必要であ
り、すべての雇用管理区分に属する女性労働者の継続就業年数や、管理職比率等に関
する男女間格差の解消、さらには賃金格差の縮小を目標に掲げた施策が求められる。
春季生活闘争では、女性活躍推進法の施行を契機に、男女間格差の是正を正面に据え
た取り組みが必要である。
(3)外国人労働者の受入れについて
「報告」は、冒頭から人口減少社会への危機感を露わにした上で、その解の一つと
して外国人労働者の受入れ促進を求めているが、その姿勢には違和感を覚える。
「報告」にある通り、日本の生産年齢人口は 1995 年をピークとして、2014 年には
既に 1,000 万人減少し、2060 年には 3,000 万人以上も減少することが予測されている。
しかし、現在わが国で働く外国人労働者の数が 70 万人程度であること踏まえれば、
その単純な増加が人口減少社会の根本的な解決手段とはなりえないことは明らかで
ある。人口減少社会への解として取り組むべきは、女性や若年者、高齢者が安心して
働き続けられるための職場環境の整備や企業風土づくりであり、安易に外国人労働者
の受入れに求めるべきではない。
また、経済の活性化に資するとして、外国人労働者の積極的な受け入れに向けた各
種の拡充策を示しているが、どの分野においても慎重に検討すべきである。介護人材
の確保については、真っ先に取り組むべきは介護職の処遇改善や制度の適正化であり、
人材不足の解消を背景とした受け入れが先行してはならない。
人口減少社会への対応は、労働分野に留まらず、社会保障制度など他の社会的イン
フラをも含む幅広い観点から検討する必要がある。
(4)仕事と介護の両立支援について
「報告」では、要介護者の増大に伴う介護負担の増大、介護を理由とする離職者の
増加について触れ、仕事と介護の両立支援が急務であるとしている。「企業が従業員
の介護状況を把握することは難しい」中での具体的な施策として、「介護発生前・初
期段階での自己申告の促進」と「継続的な情報収集」を挙げている。
連合が 2015 年 2 月に実施した「介護休業制度等に関する意識・実態調査」では、
介護支援制度の利用者で不利益な取り扱いを受けた人は 3 割にのぼっている。労働者
の介護状況が見えづらい原因として、介護をしていることが職場で明らかになること
による不利益について、労働者が懸念していることも考えられる。
介護離職を防ぐ為には、「自己申告」や「情報収集」だけでなく、介護に関する両
立支援制度を利用しやすい職場環境の整備が重要である。特に管理職をはじめとする
企業側が、介護に従事する労働者に配慮し、不利益取扱いを行わないことは不可欠で
ある。また、利用しやすい休業、休暇、短時間勤務など柔軟な働き方に関し法を上回
る制度整備が求められる。
(5)労働時間制度改革について
「報告」は、「労働時間に比例して成果も上がる労働を前提とした現行の労働時間
規制に替わる新たな仕組みが求められている」として、高度プロフェッショナル制度
1
国立社会保障・人口問題研究所「第 14 回出生動向基本調査(夫婦調査)」(2010 年)より。
の創設や企画業務型裁量労働制の対象労働者の拡大などを盛り込んだ労働基準法等
改正案の早期成立を強く要望している。
「高度プロフェッショナル制度は、研究職など専門職を対象に、時間ではなく、高
い成果に高い年収で報いる働き方の選択肢を提供するものである」とするが、なぜ高
い年収を得ていれば労働者の命と健康を守る労働時間規制を外すことができるのか、
という根本的な疑問に対する合理的な回答は与えられていない。また、企画業務型裁
量労働制の対象業務にPDCA型業務と法人営業を追加することについて、「報告」
は「制度の導入促進が期待される」としている。しかし、営業の実情を鑑みれば、ノ
ルマや与えられた目標を目の前にしたとき、自分の労働時間を一定の範囲内に抑える
裁量は、労働者には実質的にはない。高度プロフェッショナル制度の創設と裁量労働
制の対象業務拡大は行うべきではない。
過労死等防止対策推進法の重みも受け止め、労働者の健康・安全の確保と生活時間
の保障という観点から、実効ある長時間労働抑制策を講じることこそが優先されるべ
きである。長時間労働が多くの職場で蔓延している現在、その抑制に向け、「休息時
間(勤務間インターバル)規制」や「時間外労働にかかる上限時間規制」等を導入す
るべきである。
また「報告」には、
「労働力の確保や生産性の向上を図る」として、テレワークに
ついて「各社での導入・拡大に向けた積極的な検討が望まれる」とある。しかし、労
働時間の適正な管理、労働災害の対応など課題は山積しており、慎重な対応が必要で
ある。
(6)改正労働者派遣法への対応について
「報告」にあるとおり、昨秋に施行された改正労働者派遣法は、対象業務を原則自
由化した 1999 年以来の「大改正」であった。しかし、その内容は均等待遇原則の導
入を見送るなど派遣労働者の低処遇を放置しつつ、派遣期間制限を実質的に撤廃して
常態的な間接雇用法制を導入するものであり、「大改悪」といっても過言ではない。
また、大規模な改正にもかかわらず、法成立から約 20 日という異常な短期間での施
行を強行したことにより、現場への周知が徹底されていない。
「報告」では、労働契約申込みみなし制度やグループ企業内派遣の8割規制、離職
後一年以内の派遣としての受け入れの禁止、日雇派遣の原則禁止といった労働者保護
の観点に立った 2012 年改正について、
「現場で混乱を招いていることから、早期の見
直し議論を開始すべき」としている。しかし、2015 年改正の影響について十分な点検・
検証を行わないまま、更なる改正を指向することは、さらに現場を混乱させる恐れが
あり、拙速である。
2012 年改正は、派遣労働者の雇用の安定と処遇の改善が喫緊の課題とされ、自公政
権および民主党を中心とする政権の下で労働者保護のための改正が行われたもので
ある。特に「労働契約申込みみなし制度」は、非正規労働者の権利保護への効果が期
待される。それにもかかわらず、「報告」が、「
『労働契約申込みみなし制度』の不用
意な適用を回避」することなどに力点を置いていることは、到底理解しがたい。
わが国の成長の源泉はいうまでもなく「人」である。「報告」の表題として掲げる
「人口減少下での経済の好循環と企業の持続的成長の実現」のためにも、企業の責任
として、派遣労働者の処遇の改善や雇用の安定に向けた積極的な姿勢を示すべきであ
る。
(7)最低賃金について
「報告」では、特定(産業別)最低賃金について、前年度の「存続理由が見出せな
い特定最低賃金」から「特定最低賃金廃止に向けた検討」と見出しを変更し、廃止の
主張を強めている。
「報告」において、地域別最低賃金額を下回る特定最低賃金が増えていることや、
複数年度にわたって金額改定が行われないケースを指摘し、「このような特定最低賃
金はすでに役割・使命を終えており」と断じ、
「地方行政の業務効率化の観点からも、
早急に廃止すべき」と主張している。しかし、審議会において使用者側が不要論に拘
泥し、当該労使のイニシアティブが十分に発揮できないでいることがこのような状況
を招いているのであり、本末転倒の主張であるといわざるをえない。
特定最低賃金は 2007 年の最低賃金法改正で、労使のイニシアティブにより設定さ
れ、企業内における賃金水準を設定する際の労使の取り組みを補完する制度として、
安全網とは別の役割を果たすものとして規定された。地域別最低賃金とは役割がまっ
たく異なるものであり、地域別最低賃金水準との逆転・近接をもって必要性がないと
の主張は根拠に乏しい。また、その役割・使命は、労働条件の向上はもとより、賃金
水準を競争力の源泉にすることなく、産業内における公正な競争を確保することが挙
げられる。労働力不足が顕在化するなかで、健全な産業の発展を望むのであれば、人
材確保・維持をはかる観点で、むしろその意義を積極的に評価するとともに、水準の
引上げを行うべきではないのか。
連合は、最低賃金法が定める趣旨に鑑み「最低賃金水準」のあり方や「特定最低賃
金が設定されている意義」にこだわった取り組みを進めていく。
以上
参考資料
2016.1.21
2015 年 10 月中小企業における取引関係に関するアンケート調査結果(速報)
連合は 2015 年 10 月、
(公財)連合総研および労働調査協議会の協力のもと、中小
企業を対象とした取引関係の状況等についてのアンケート調査を実施した。12 月まで
に寄せられた回答の集約結果を速報として以下のとおり報告する。
1.調査結果の概要:
◯取引において価格・単価引き下げの要請があったとする回答は半数を超える。ま
た、ここ数年の原材料費上昇による仕入れ価格高騰の影響があるものの価格転嫁
できないとする回答も多い。価格・単価の引き下げのために実施した対応として、
下請先への単価引き下げ要請や従業員の賃金・福利厚生等の引き下げ等で対応し
た回答が多い。一方で、作業工程の工夫・改善をあげる回答もあり、現場での苦
労も読み取れる。
◯消費税率の見直しにともなう価格転嫁拒否にあった割合はごく少数にとどまっ
ており、連合や行政の取り組みが一定の効果があったものと受け止める。
◯経営上の問題として人手不足をあげる回答が増えているほか、今後強化したい取
り組みとして要員の確保をあげる割合が増えており、中小企業における人手不足
の問題が顕著になっていることが伺える。
◯1 月末を目処に締め切ったうえで最終集計と詳細分析を行う。取引に関する課題
が散見されることから、中小企業庁など行政への要請や経営者団体との協議を行
いながら、2016 春季生活闘争で掲げたサプライチェーン全体で生み出した付加価
値の適正な分配と現場の生産性向上の努力に報いるための取り組みに活かしてい
くこととする。
2.調査対象企業:
中小企業 20,000 社(資本金 3 億円未満、従業員数 300 人未満の企業)。対象業種
と配布枚数は以下のとおり。
業種
1~9人
従
10~29人
業
30~49人
員
50~99人
数
100~299人
小計
業種
1~9人
従
10~29人
業
30~49人
員
50~99人
数
100~299人
小計
繊維工業、衣服・そ
食料品・飼料・飲料
化学工業、ゴム製
の他の繊維製品製
製造業
品製造
造業
500
500
500
500
500
2,500
597
597
597
481
228
2,500
自動車車体・付随
車製造業~自動車
道路貨物運送業
部品・付属品製造
業
647
647
426
408
372
2,500
500
500
500
500
500
2,500
電気機械器具製造
業
537
536
536
536
355
2,500
500
500
500
500
500
2,500
広告代理業、その
他広告業、ソフト
卸売業
ウェア業、情報処理
サービス業
500
500
500
500
500
2,500
合計
500
500
500
500
500
2,500
4,281
4,280
4,059
3,925
3,455
20,000
3.調査方法:
調査票を郵送にて配布・回収する方法(連合総研名で発送)。
4.調査票の回収時期:
2015 年 10~11 月
5.回答状況:
2015 年 12 月時点で 2,090 社、有効回収率 10.5%
現在も調査票の回収中であり、1 月末を目処に締め切り、改めて集計結果を報告
する。
6.今後の日程
1 月 21 日 第 2 回中央闘争委員会(本速報の報告)
2 月~
分析および報告書案作成
4 月頃
調査結果概要のプレスリリース
6~7 月
報告書(政策資料)を各組織へ発送
7.主な回答内容(いずれも無回答は除いて集計し、単位は%):
(1)現在、取引において直面している問題(3 つ以内選択)
22.6
16.0 15.9
8.6
7.4
6.1
2.9
5.6
4.2
3.4
3.0
1.1
0.5
0.9
1.8
28.3
19.3
関連会社 に単価
引き下げ を要請 し
た
取引先 の要請 で
単価 を引き下げ た
販売 ・受注品変更
を
余儀なくさ れた
取引先海外移転 で
減 少やなくな った
8.4
輸 出価格 へ転嫁が
できず収益が悪化
8.7
輸 入品と の価格競
争
が激 しくな った
9.2
取引先業績悪化 で
減 少やなくな った
特 に影響 は
でて いな い
6.1
19.9
特 に問題 はな い
44.4
そ の他
環境規制 への対応
仕入れ単価上昇
による コスト ア ップ
新規取引先 の
開拓 の失敗
機会 のな い発注 元
への受注 ・入札
入札 の失敗
取引先購 買担当者
の頻繁な交替
長 い手形支 払期間
過度な応援 要請や
押 し つけ販売
手間と コスト の
かかる納 品 の強制
休 日前 ・終業後発注
など無 理な発注
契約条件や 発注
内容 の度 重な る変更
取引先 から の受注
減 少や取引打 切り
単価 の下落や
引き下げ 要請
(2)ここ数年の円安が取引関係に与える影響(3 つ以内選択)
(3)主要生産品、サービス単価・価格の取引先から引き下げ要請(過去 5 年間)
55.9
44.1
な か った
あ った
(4)価格・単価引き下げ要請への対応
61.5
24.7
13.7
15.5
11.6
13.2
コスト的 に困難 の
ため断 った
こちらが可能な
水準 で応 じた
要請 に近 い
水準 で応 じた
(5)ここ数年の原材料費上昇による仕入れ価格高騰の影響
35.5
24.1
原材料費上昇 の
影響 はでて いな い
影響 はあ るが価格 に転嫁
できな い
影響あ り今後 は
価格 に転嫁 した い
影響あ り 一部を
価格 に転嫁 してきた
影響あ るが企業努力 で吸
収 して いる
(6)価格・単価の引き下げのために実施した施策(複数選択)
28.3
12.7
12.8
そ の他
外注や請負 に出 した
作業 工程を 工夫 ・
改善 した
製 品 の品質や
サー ビ スを見直 した
無 理な納期 のも
のはな い
無 理な納期だ
が、残業す るま
で のこと はな い
無 理な納期 で、
残業す る ことも
時 々あ る
無 理な納期 で、
休 日出勤す る こ
と は少な いが、
残業 は多 い
無 理な納期 で、
残業だけ ではな
く休 日出勤す る
ことも多 い
0.2
0.2
1.2
0.0
0.4
0.1
そ の他
資金調達方法
の多様化
設備投資 の強 化
海外 への生産
拠点 の移転
海外事業 の強 化
国内事業所
の統廃合
取引先 の
選択と集中
取引先 の多様化
既存事業 におけ る
選択と集中
要員 の確保
次代を担う
人材 の育成
技術 力 ・研究
開発力 の強 化
営業 ・販売力
の強 化
財務体質 の強 化
新商 品開発また は
新規事業展開
0.5
1.8
1.1
販売 ・納 入数量
を増や した
企業内福利厚生 の
水準を切り下げ た
正社員を派遣や
パートに置き換え た
人員を削減 し残業や
休出 で対応 した
賃上げ の見送 りや
一時金を見直 した
物流 コストを
引き下げ た
協 力会社 に価格
引き下げ を要請 した
5.2
5.6
11.1
9.9
8.7
3.5
3.6
3.9
5.1
6.4
6.7
8.5
8.5
(7)休日前発注・休日後納入、終業後発注・翌朝納品などといった無理な納期の有
無と労働時間への影響
42.6
27.6
(8)今後、強化したい取り組み(3 つ以内選択)
38.4
21.4
8.9
14.7
上
以