みずほインサイト 日本経済 2015 年 4 月 16 日 原油安で電気代はどうなるか 経済調査部 2015 年度は前年比 4%程度低下 03-3591-1418 主任エコノミスト 風間春香 [email protected] ○ 電気料金は、原油安の影響が市場価格から時間的なラグを伴って反映され、夏以降値下げ方向に転 じる見通し。 ○ 2015年度の電気料金は、再生エネルギー発電促進賦課金の増額と一部電力会社による値上げ改定の 影響を、燃料費調整による下押し効果が上回り、前年比4%程度低下すると試算。 ○ 家計の電気代負担率は東日本大震災以降上昇傾向が続いてきたが、2015年度は電気料金の値下げを 受けて4年ぶりに低下する見込み。 1.消費者物価の先行きを見通す上で、目先最も注目すべきは電気料金の行方 2015 年 2 月の生鮮食品を除く消費者物価総合指数(コア CPI)は前年比+2.0%と、2014 年 5 月(同 +3.2%)をピークに伸び率が鈍化している。消費増税の影響を除けば同ゼロ%である。最近の物価上 昇ペースの鈍化は、昨年秋以降の原油価格下落を背景とするガソリン代などエネルギー価格の値下が りが主因であり、先行きのコア CPI 伸び率は一旦前年比マイナスに転じるとみられる。2015 年 3 月の 金融政策決定会合後の記者会見で黒田総裁も、今後の物価見通しについて、原油安に伴うエネルギー 価格の下落を理由に「若干のマイナスになる可能性も排除できない」と発言している。ガソリン価格 は一旦底打ちしたが、CPI エネルギー価格の中でウェイトが最も大きい電気料金1は、燃料費調整制度 を通じ、原油価格の下落が時間的なラグを伴って料金に反映されることから、今後値下げ方向に転じ ると予想される。もっとも、電気料金の仕組みはやや複雑であり、燃料費調整による押し下げがあっ ても、他の値上げ要因が大きければ、電気料金全体として値上がりすることもあり得る。消費者物価 の先行きを見通す上で、目先最も注目すべきは電気料金の行方と言っても良いだろう。 また、電気料金の先行きは、家計にとっての重要な関心事の一つでもある。東日本大震災以降、電 気代の負担は年々大きくなっており、電気料金の値下げにより負担が軽減されれば恩恵となる。本稿 では、今後の電気料金がどのように推移するのか、また消費者物価や家計負担への影響がどのように なるのか検証してみたい。 2.2015 年度平均の電気料金は前年比 4%弱低下、コア CPI を 0.1%程度押し下げ 家庭向けの電気料金は通常、①「電気料金本体(基本料金(最低料金)+電力量料金)」、②燃料 1 費が変動した分を毎月料金へ反映させる「燃料費調整額」、③電力会社が再生可能エネルギーの買い 取りに要した費用を上乗せする「再生可能エネルギー発電促進賦課金」により構成されている2。例え ば東京電力の2014年4月の家庭向け電気料金(従量電灯B・月間使用量300kwh・口座振替割引なし)の 場合、月額8,848.8円のうち、①の「電気料金本体」が7,837.8円、②の「燃料費調整額」が786円、③ の「再生可能エネルギー発電促進賦課金」が225円となっている。 今後の値上げ要因のひとつは、新聞報道等でも取り上げられて話題となった③の再生可能エネルギ ー発電促進賦課金の増額である。太陽光の発電量拡大などを背景に、2015年5月以降の再生可能エネル ギー発電促進賦課金は、1カ月の電力使用量が300kWhの家庭で月額474円、年間5,688円と前年度(月額 225円、年間2,700円)から倍増することが決定している。これにより2015年度平均の電気料金(各電 力会社設定の家庭向け標準モデル料金の加重平均値)は3%程度上昇するとみられる。なお、資源エネ ルギー庁は、2014年6月までに認定した再生可能エネルギーの発電設備が全て稼働すると、賦課金が月 額935円、年間11,220円まで増加するとの試算結果を公表している。2016年度以降も電気料金への上乗 せ額が膨らむ可能性もあるだろう。 もうひとつの値上げ要因は、一部電力会社による本体部分の値上げ改定(①に該当)である。東日 本大震災以降、原子力発電所の運転停止を受けた火力発電所の燃料費増加を背景に、多くの電力会社 において本体料金の改定が行われてきた。2015年度は北海道電力と関西電力の値上げが予定されてい る(図表1)。北海道電力は2014年11月に東日本大震災以降2度目の値上げ(家庭向け標準モデル料金 の値上げの影響:+13.16%)を実施したが、併せて軽減措置(▲2.51%)を適用していた。ただし、 軽減措置は2015年3月までの期限付きであったため、4月からは実質的な値上げとなっている。また関 西電力も、原子力発電所再稼働の目途が立たない中で、震災以降2度目となる値上げ(家庭向け標準モ 図表1 2011年度以降の電気料金本体の値上げ改定状況 図表2 平均燃料価格と燃料費調整額 (円/kl) 50,000 家庭向け標準モデル 契約アンペア /平均使用量 2012年 9月 東京電力 関西電力 2013年 5月 9月 九州電力 北海道電力 東北電力 四国電力 2014年 5月 11月 2015年 6月? 中部電力 北海道電力 関西電力 従量電灯B・30A /290kWh 従量電灯A /300kWh 従量電灯B・30A /300kWh 従量電灯B・30A /260kWh 従量電灯B・30A /280kWh 従量電灯A /300kWh 従量電灯B・30A /300kWh 従量電灯B・30A /260kWh 従量電灯A /300kWh 値上げ幅( %) 2015年4~6月期~ 平均燃料価格 45,000 5.1 40,000 35,000 6.68 30,000 (円/kw) 25,000 3.4 2015年4~6月期~ 4.72 2 1 8.08 0 ▲1 燃料費調整単価(右目盛) 5.1 2.2 13 13.16 14 15 16 ▲2 17 (年/四半期) (注)1.平均燃料価格、燃料費調整単価いずれも各電力会社の供給地域に対応するCPIの市町村 ウェイト(1万分比)で加重平均した値。 2.平均燃料価格は①ドバイ原油価格(2015年3月時点の当社予測値)、②LNG価格(4カ月前の 原油価格に連動)、③石炭価格(横ばいと仮定) をもとに、各電力会社設定の係数を用いて試算。 3.燃料費調整単価は各電力会社の計算方法に基づく。 (資料)財務省「貿易統計」、各電力会社ホームページなどよりみずほ総合研究所作成 9.78? (資料)各電力会社ホームページよりみずほ総合研究所作成 2 デル料金の値上げの影響:+9.78%)を国に申請している。本稿執筆時点では再値上げの認可が降り ていないものの、早ければ6月の料金に反映される見通しである。以上のような北海道電力と関西電力 における値上げ改定を前提とすれば、全国ベースの電気料金は2%程度押し上げられるだろう。 対して、値下げ要因となるのが②の「燃料費調整額」である。燃料費調整額は、財務省「貿易統計」 における原油・液化天然ガス(LNG)・石炭の円建て輸入価格(3~5カ月前)に、各電力会社が設定す る係数を乗じることで「平均燃料価格」を算出し、「平均燃料価格」と各電力会社が設定する「基準 燃料価格」との差によって計算される。つまり、「平均燃料価格」が「基準燃料価格」を下回れば(上 回れば)、燃料費調整額として電気料金に減算(加算)されることになる。例えば2015年4月の燃料費 調整額の計算には、2014年11月~2015年1月の「平均燃料価格」が用いられる。この時期の原油価格は、 2015年3月時点の計算に使用される2014年10月~12月平均に比べて約11%下落しており、その分だけ平 均燃料価格および燃料費調整額には下押し圧力がかかっている。一方、原油価格の動きに数カ月遅れ て連動するLNG価格の2014年11月~2015年1月平均は同1%程度上昇している。今後は、原油価格が当面 低位で推移すると見込まれること3、LNG価格の下落による平均燃料価格への下押し圧力が本格的に顕 れることなどを踏まえると、当面燃料費調整による電気料金の抑制が続くと予想される(前頁図表2)。 年度平均でみれば、全国ベースの2015年度電気料金を9%程度押し下げる効果となるだろう。 以上を踏まえると、電気料金は再生可能エネルギー発電促進賦課金増加や一部電力会社による値上 げ改定により春頃まで増加傾向が続くものの、燃料費調整による押し下げ効果が徐々に大きくなるた め、夏以降一旦低下基調に転じる見通しである(図表3)。2015年度平均では前年比4%程度下落する 見込みである(図表4)4。地域別では、料金本体の値上げ改定が行われる北海道電力と関西電力の電 気料金が上昇する可能性があるが、多くの電力会社において低下することが見込まれる(次頁図表5)。 ここで、家庭向け標準モデルの電気料金とCPIベースの電気代を比べると、両者はほぼ連動している 図表3 家庭向け標準モデル電気料金の試算 (円) 図表4 家庭向け標準モデル電気料金の試算(年度内訳) (前年比、%) 8,500 2015年4~6月~ 家庭向け標準モデル料金 (単位:前年比) 15 10 8,000 a+b+c 5 20 15年度平均 電気料金 (参考) コアCPI への影響 ▲4%弱 ▲0.1%Pt程度 a 再生可能エネルギー 発電促進賦課金の増加 +3%程度 +0.1%Pt程度 0 b 一部電力会社による 値上げ改定 +2%程度 +0.1%Pt程度 ▲5 c 燃料費調整 ▲9%程度 ▲0.3%Pt程度 7,500 7,000 前年比(右目盛) 6,500 (注)1.家庭向け標準モデル料金は、各電力会社が公表する一般家庭の平均的な1カ月 当たり電気料金を、各電力会社の供給地域に対応するCPIの市町村ウェイト(1万分比) で加重平均したもの。 2.家庭向け標準モデル料金の計算方法は文末脚注をご参照。 3.執筆時点で入手可能な情報に基づき試算。2015年度の電気料金の改定(北海道電力、 関西電力)、2015年5月以降の再生エネルギー発電促進賦課金の増額を反映。 4.試算結果は幅をもってみる必要がある。 (資料)各電力会社ホームページなどよりみずほ総合研究所作成 ▲ 10 6,000 10 11 12 13 14 (注)試算方法等は図表4の注釈をご参照。 (資料)各電力会社ホームページなどよりみずほ総合研究所作成 15 ▲ 15 16 (年/四半期) 3 ため(図表6)、CPIベースの電気代も家庭向け標準モデルの電気料金と同様の傾向をたどると見込ま れる。コアCPIに占める電気代のウェイトは3.3%であることから、2015年度の電気料金の値下げはコ アCPIを0.1%Pt程度押し下げる要因になると試算されるが、コアCPIが大幅マイナスになるほどのイン パクトにはならないだろう。 3.電気料金の値下げは家計の負担を押し下げ また、電気料金の低下は家計の負担減につながる。家計の電気代負担率(可処分所得に対する比率) 図表5 地域別・家庭向け電気料金(2014年度・2015年度) 図表6 家庭向け電気料金とCPI電気代 (2010年=100) (前年比、%) 14 130 125 2015年度 10 135 家計向け標準モデル料金 2014年度 12 8 120 6 115 CPI電気代(右目盛) 125 120 115 4 110 2 110 0 105 ▲2 105 100 ▲4 ▲6 100 95 ▲8 95 90 沖縄 九州 四国 中国 関西 北陸 中部 東京 東北 北海道 全国平均 ▲ 10 (2010年=100) 2015年4~6月~ 130 2008 09 10 11 12 13 90 15 16 (年/四半期) 14 (注)CPIベースの電気代は、電力使用量5パターン別の電気料金を算出した上で、使用電力 量パターン別の世帯割合を用いて加重平均した値であることから、本稿で試算した家庭 向け標準モデルの電気料金とは算出方法がやや異なる。 (資料)総務省「消費者物価指数」などよりみずほ総合研究所作成 (資料)各電力会社ホームページなどよりみずほ総合研究所作成 図表7 家計の電気代負担率の推移(左)と前年差の要因分解(左) (前年差、%ポイント) (%) 2.8 2.7 電力使用量要因 0.3 (試算) 電気料金要因 可処分所得要因 0.2 2.6 前年差 2.5 0.1 2.4 2.3 0.0 2.2 ▲ 0.1 2.1 2.0 ▲ 0.2 (試算) 1.9 1.8 ▲ 0.3 2006 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 07 08 09 10 11 12 13 14 (年度) 15 (年度) (注)1.電気代負担率=電気代支出額(電力使用量×電気料金)÷可処分所得。 2.2014年度の電気代支出額および可処分所得は2014年4月~2015年2月までは実績値、3月は前年同月から変わらないと仮定。 2015年度の電気代支出額は、電力使用量は2014年度から変わらず、電気料金は試算値(前年比約▲4%)と仮定。可処分所得は2014年度から変わらないと仮定。 (資料)総務省「家計調査」など よりみずほ総合研究所作成 4 をみると、東日本大震災以降上昇傾向が続いてきた(前頁図表 7、2011 年度:2.3%⇒2014 年度:2.7%)。 家計の節電意識の高まりに伴い電気使用量が減少する一方、電気料金の値上げが負担率の高まりに寄 与してきた。他方、2015 年度の電気代負担率は、電気料金の値下げにより 4 年ぶりに低下するとみら れる。電気料金低下による家計の購買力改善が、消費増税後の回復ペースが鈍かった個人消費を下支 えする効果も期待できるだろう。 1 CPI エネルギーに占める各品目のウェイトをみると、電気代が 41%、ガソリン代が 30%と、2 品目で 7 割以上を占める。 2 電力会社別の家庭向け標準モデル料金の計算方法は下記の通りである。 電力会社 メニュー 平均 電力使用量 (kwh/月) 北海道 従量電灯B・30A 260 基本 料金 + 電力量 料金 ± 燃料費 調整額 + 再生可能エネルギー 発電促進賦課金 東北 従量電灯B・30A 280 基本 料金 + 電力量 料金 ± 燃料費 調整額 + 再生可能エネルギー 発電促進賦課金 東京 従量電灯B・30A 290 基本 料金 + 電力量 料金 ± 燃料費 調整額 + 再生可能エネルギー 発電促進賦課金 - 口座振替 割引 中部 従量電灯B・30A 300 基本 料金 + 電力量 料金 ± 燃料費 調整額 + 再生可能エネルギー 発電促進賦課金 - 口座振替 割引 北陸 従量電灯B・30A 300 基本 料金 + 電力量 料金 ± 燃料費 調整額 + 再生可能エネルギー 発電促進賦課金 - 初回振替 契約割引 関西 従量電灯A 300 最低 料金 + 電力量 料金 ± 燃料費 調整額 + 再生可能エネルギー 発電促進賦課金 - 口座振替 割引 中国 従量電灯A 300 最低 料金 + 電力量 料金 ± 燃料費 調整額 + 再生可能エネルギー 発電促進賦課金 四国 従量電灯A 300 最低 料金 + 電力量 料金 ± 燃料費 調整額 + 再生可能エネルギー 発電促進賦課金 - 口座振替 割引 九州 従量電灯B・30A 300 基本 料金 + 電力量 料金 ± 燃料費 調整額 + 再生可能エネルギー 発電促進賦課金 - 口座振替 割引 沖縄 従量電灯A 300 最低 料金 + 電力量 料金 ± 燃料費 調整額 + 再生可能エネルギー 発電促進賦課金 電気料金の計算方法 (資料)各電力会社ホームページよりみずほ総合研究所作成 3 みずほ総合研究所では、ドバイ原油価格の見通しについて、足元の 50 ドル台前半から徐々に上昇するが、2016 年度末でも 60 ドル台後半の低位な水準にとどまると想定している(2015 年 3 月時点) 。当然ながら原油価格の見通しに変化があれば、電気料 金の試算結果も変わりうる。 4 2016 年度の電気料金については、再生可能エネルギー発電促進賦課金の増額や、原油価格の緩やかな上昇に伴う燃料費調整を 通じた値上げが、2015 年度対比での料金押し上げ要因となる可能性がある。一方、2016 年 4 月から家庭向けを含む電力小売事業 者への参入が全面自由化される予定であり、事業者間の競争が促進されれば、値上げ幅が抑制される可能性もある。 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 5
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