防災の視点を取り入れた教材開発 - 鹿児島大学地域防災教育研究センター

防災の視点を取り入れた教材開発
教育学部
黒光貴峰
1.はじめに
昨年、学校教育における防災への取り組みの実態を把握するために、鹿児島市内の学校にアン
ケート調査を実施した注 1)。調査対象は、鹿児島市の全ての公立学校(全 124 校 内訳は、幼稚園:
4 校、小学校:78 校、中学校:39 校、高等学校:3 校)、調査期間は、2012 年 5 月~6 月である。
その結果、学校教育において防災教育を行うにあたっての課題としては、
「費やす時間が充分に取
れない」、「指導する内容が分からない」、「適切な教材がない」などの課題があることがあげられ
た。そこで、本研究では、学校教育における防災教育の充実を図るために、防災の視点を取り入
れた教材開発を行うことを目的としている。
2.防災の視点を取り入れた教材開発
1)開発教材について
開発した教材は、建築模型材料であるスチレンボードを使った「模型教材」である。開発教材
は縮尺 10 分の 1 の模型であり、1 室:8 畳の空間と家具:ベッド・棚(大)・棚(小)・机・椅子
から構成している。模型家具を自由に動かし配置する中で、体験していない災害や安全な住まい
方に対する関心を深めることをねらいとしている。考えさせる視点としては、①出入り口を塞が
ない配置の仕方、②寝ているところに家具が倒れたり、物が落ちてきたりしないようにする配置、
③様々な防災器具を取り付けることで、より安全に住まうための工夫が考えられる、点である。
個人だけでなく、グループ単位で模型を使用し、グループ内での意見交換、他の人の意見を取り
入れながらの配置することも考えられる。また、ビデオカメラ、書画カメラ、電子黒板などの ICT
機器を取り入れることで、導入、発表の充実、他の意見を共有したりすることも可能である。
表 1.模型として使用した部屋の寸法と材料(スチレンボード)
部 屋
壁面
床
各寸法
枚 数
2,500mm × 3,600mm
2,500mm × 3,740mm
3,600mm × 3,600mm
2
2
1
(スチレンボード:厚さ7mm)
注 1) 鹿児島大学地域防災教育研究センター, 南九州から西南諸島における総合的防災研究の推進と
地域防災体制の構築, 鹿児島大学地域防災教育研究センター, pp.49-58 (2013).
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表 2.模型として使用した家具の寸法と材料(スチレンボード)
家 具
ベッド
棚(大)
棚(小)
机
椅子
各寸法
2,000mm
1,300mm
1,240mm
2,000mm
1,800mm
1,800mm
770mm
900mm
900mm
770mm
940mm
1,000mm
760mm
1,000mm
500mm
500mm
× 1,300mm
× 500mm
× 250mm
× 250mm
× 400mm
× 770mm
× 370mm
× 400mm
× 770mm
× 370mm
× 760mm
× 600mm
× 600mm
× 500mm
× 500mm
× 500mm
枚 数
1
1
1
2
2
1
5
2
1
3
1
1
2
1
2
2
(スチレンボート:厚さ3mm)
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防災の視点を「取り入れた」配置例
地震発生「前」
北
西
東
南
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防災の視点を「取り入れた」配置例
地震発生「後」
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防災の視点を「取り入れてない」配置例
地震発生「前」
北
西
東
南
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防災の視点を「取り入れてない」配置例
地震発生「後」
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2)開発教材の活用法
模型を通して安全な住まい方に対する関心を深める。4,5 人のグループ単位で使用しグループ
活動の充実を図る。他の人の意見を取り入れながら配置させたり、家具を動かせたりしながら配
置させる。
配置の視点としては、①避難経路の確保、②寝る場所の安全確保である。出入り口をふさがな
い、寝ているところに家具が倒れたり、物が落ちてきたりしないような配置例を考えさせる。
家具等の地震対策器具を使った安全に住まうための工夫については、付箋を用いて表現させる。
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ICT を取り入れ、導入や発表の充実させる。配置した例をビデオカメラや書画カメラ等で写し、
話し合いや発表の機会の充実を図る。
3)開発教材の実践例
中学校技術・家庭科(家庭分野)では、C 衣生活・住生活と自立 (2)住居の機能と住まい方
という内容が設定されている。ここでは、住居の機能と住まい方に関する学習を通して、自分や
家族の住空間に関心をもち、住居の基本的な機能や安全に配慮した室内環境の整え方を知るとと
もに、安全で快適な住まい方を考え、具体的に工夫できるようにすることがねらいとされており、
開発した模型を使った授業が考えられる。
中学校技術・家庭科(家庭分野)の内容
A 家族・家庭と子どもの成長
(1) 自分の成長と家族について,次の事項を指導する。
ア 自分の成長と家族や家庭生活とのかかわりについて考えること。
(2) 家庭と家族関係について,次の事項を指導する。
ア 家庭や家族の基本的な機能と,家庭生活と地域とのかかわりについて理解すること。
イ これからの自分と家族とのかかわりに関心をもち,家族関係をよりよくする方法を考えること。
(3) 幼児の生活と家族について,次の事項を指導する。
ア 幼児の発達と生活の特徴を知り,子どもが育つ環境としての家族の役割について理解すること。
イ 幼児の観察や遊び道具の製作などの活動を通して,幼児の遊びの意義について理解すること。
ウ 幼児と触れ合うなどの活動を通して,幼児への関心を深め,かかわり方を工夫できること。
エ 家族又は幼児の生活に関心をもち,課題をもって家族関係又は幼児の生活について工夫し,計画を立てて実践できること。
B 食生活と自立
(1) 中学生の食生活と栄養について,次の事項を指導する。
ア 自分の食生活に関心をもち,生活の中で食事が果たす役割を理解し,健康によい食習慣について考えること。
イ 栄養素の種類と働きを知り,中学生に必要な栄養の特徴について考えること。
(2) 日常食の献立と食品の選び方について,次の事項を指導する。
ア 食品の栄養的特質や中学生の1日に必要な食品の種類と概量について知ること。
イ 中学生の1日分の献立を考えること。
ウ 食品の品質を見分け,用途に応じて選択できること。
(3) 日常食の調理と地域の食文化について,次の事項を指導する。
ア 基礎的な日常食の調理ができること。また,安全と衛生に留意し,食品や調理用具等の適切な管理ができること。
イ 地域の食材を生かすなどの調理を通して,地域の食文化について理解すること。
ウ 食生活に関心をもち,課題をもって日常食又は地域の食材を生かした調理などの活動について工夫し,計画を立てて実践できること。
C 衣生活・住生活と自立
(1) 衣服の選択と手入れについて,次の事項を指導する。
ア 衣服と社会生活とのかかわりを理解し,目的に応じた着用や個性を生かす着用を工夫できること。
イ 衣服の計画的な活用の必要性を理解し,適切な選択ができること。
ウ 衣服の材料や状態に応じた日常着の手入れができること。
(2) 住居の機能と住まい方について,次の事項を指導する。
ア 家族の住空間について考え,住居の基本的な機能について知ること。
イ 家族の安全を考えた室内環境の整え方を知り,快適な住まい方を工夫できること。
(3) 衣生活,住生活などの生活の工夫について,次の事項を指導する。
ア 布を用いた物の製作を通して,生活を豊かにするための工夫ができること。
イ 衣服又は住まいに関心をもち,課題をもって衣生活又は住生活について工夫し,計画を立てて実践できること。
D 身近な消費生活と環境
(1) 家庭生活と消費について,次の事項を指導する。
ア 自分や家族の消費生活に関心をもち,消費者の基本的な権利と責任について理解すること。
イ 販売方法の特徴について知り,生活に必要な物資・サービスの適切な選択,購入及び活用ができること。
(2) 家庭生活と環境について,次の事項を指導する。
ア 自分や家族の消費生活が環境に与える影響について考え,環境に配慮した消費生活について工夫し,実践できること。
文部科学省,中学校学習指導要領解説技術・家庭編,平成 20 年 9 月より
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3.今後の課題
今後の課題としては、①授業内容の充実、②教材の普及があげられる。①については、教育現
場で有効性の検討を行い、より現状に合ったものにしていくことと、電子黒板など ICT を導入し
授業内容の充実を図ることが考えられる。②については、教員研修の機会の充実、地域防災教育
研究センターにおける総合防災データシステムの利用などを通し、教材の普及に向けた取り組み
を行っていく必要がある。
参考文献
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