2015 年 4 月臨時号 IFRS Developments 「IFRS 適用レポート」 の公表と日本 の会計基準の今後 重要ポイント • 金融庁は、4 月 15 日に開催された企業会計審議会会計部会(第 2 回)において同 日付で「IFRS 適用レポート」を公表した旨報告するとともに、ASBJ より IFRS 第 15 号を踏まえた収益認識基準の開発に着手する旨報告を受けた。 • 「IFRS 適用レポート」は、IFRS 任意適用・適用予定企業にヒアリング、アンケー トを行い、IFRS 移行に際しての課題やメリット等をまとめたものである。 • 任意適用の理由及びメリットとして、「経営管理の高度化」、「同業他社との比較 可能性の向上」、「海外投資家への説明の容易さ」などが挙げられていた。 • 企業会計審議会に先立ち 3 月 20 日に開催された企業会計基準委員会(ASBJ)に て、IFRS 第 15 号を踏まえ、包括的な収益認識基準の開発に向けた検討に着手する ことが決定された。 概要 金融庁は、4 月 15 日に企業会計審議会 会計部会(第 2 回)を開催し、IFRS の任意 適用拡大推進に向けての一施策として、「IFRS 適用レポート」を同日付で公表した 旨を報告した。「IFRS 適用レポート」の内容については、IFRS 移行を検討する企業 にとって参考になる内容であるといった好意的な評価が大勢を占めた。 また、企業会計基準委員会(ASBJ)より、IFRS を踏まえた我が国における会計基 準の開発・改訂に向けた検討状況の報告がなされ、まずは IFRS 第 15 号「顧客との 契約から生じる収益」を踏まえ、包括的な収益認識基準の開発に着手することにつ いて報告がなされた。包括的な収益認識基準を開発する方向性については、ほとん どの委員が賛成する一方、日本の会計実務を踏まえたうえで、各業種の実態に整合 する会計基準を検討する必要があるとの意見も複数聞かれた。また、連結基準など、 収益認識基準以外の会計基準についても早期にコンバージェンスの検討を希望する 意見も見られた。 「IFRS 適用レポート」公表について 「IFRS 適用レポート」は、2014 年 6 月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂 2014」の中で、「IFRS の任意適用企業の拡大促進」が明記されたことに伴うもの である。「『日本再興戦略』改訂 2014」においては、IFRS の任意適用企業に対す る実態調査やヒアリングを通じて、移行時の課題や移行のメリット等を調査し、今 後 IFRS への移行を検討している企業の参考にするため、『IFRS 適用レポート(仮 称)』として公表することが提言されていた。本レポートは、当該提言に基づき、 IFRS の移行に際しての課題やメリットなどにつき、IFRS 任意適用企業に対するアン ケートやヒアリングを実施し、その回答を取りまとめたものである。 レポートの内容については、今後の IFRS 適用企業にとっての参考になるとの意見が 大勢であり、今後も同レポートのアップデートを期待する声もあった。メリットと して経営管理への寄与を挙げた企業が多い点は注目を集めた。一方で課題として導 入コストの問題や監査人対応などが挙げられていた。なお、同レポートは、財務諸 表作成企業の声をまとめたものであり、財務諸表利用者や監査人の意見は反映され ていない。 「IFRS 適用レポート」の内容 調査の方法及び調査項目 本レポートの作成に当たり、金融庁は 2015 年 2 月 28 日までに IFRS を任意適用し ている企業および、IFRS の任意適用を予定している旨を公表した企業、計 69 社に 対して質問票を送付し、65 社から回答を得ている。また、そのうち 28 社に対して は、直接ヒアリング調査が行われている。 主な質問項目と、それに対する回答を要約すると以下のとおりである。 任意適用を決定した理由又は移行前に想定していた主なメリット 任意適用を決定した理由又は移行前に想定していたメリットとしては、「海外子会 社が多いことから、経営管理に役立つ」との回答が 65 社中 29 社と最も多かった。 また、同業他社との比較可能性の向上(15 社)及び、海外投資家への説明の容易さ (6 社)をメリットにあげる企業も多かった。 移行プロセスと社内体制 IFRS への移行プロセスに関しては、具体的に移行を提案した主体として、CEO や CFO が直接関与した、「トップダウン方式」と、経理部門中心に提案がなされた「ボ トムアップ方式」とに回答が分かれた。いずれにしても移行プロセスにおいて経営 トップや経理部門だけでなく、事業部門を含めた全社的な取り組みが重要であると いうのが各企業の共通した意見であった。 2 「IFRS 適用レポート」の公表と日本の会計基準の今後 移行コスト及び移行期間 移行コスト及び移行期間については、企業の規模やシステム構築方針、IFRS の導入 目的によっても様々であるが、各社の回答の集計を見る限り、売上規模と移行コス ト及び移行期間との間に相関関係が見られた。 また、移行コスト及び移行期間については、システム対応に要する期間によっても 影響され、IFRS の導入を契機として経営管理の高度化を図ろうとする企業が、シス テムの全面改修を行うようなケースでは、移行コストは増大し、移行期間は長期化 する傾向にあった。 IFRS 移行時の課題 IFRS 移行時の課題として、「特定の会計基準への対応」(43 社)と「人材の育成 及び確保」(9 社)を挙げる企業が多かった。 特定の会計基準への対応として挙げられた論点には、有形固定資産の減価償却方法 の選択、耐用年数の見積り、収益認識、社内開発費の資産化、資産の減損、金融商 品の公正価値測定がある。 監査人の対応に関しては、かつての IFRS 移行企業が少ない状況では、事例が少ない ことを理由に監査法人の解釈も形式的になりがちであったが、このような課題は IFRS の導入事例が増加したことで、改善しつつあるという意見があった。 人材の育成及び確保に関しては、IFRS は原則主義であることから、新しい事象に直 面した場合に、会計基準を自ら論理的に考え、あるべき会計処理を組み立てて監査 人とディスカッションできるような人材が求められるという意見があった。 移行による実際のメリット・デメリット IFRS 移行による実際のメリットについて、多くの企業が移行前に想定していた通り のメリットを享受していると回答していた。また、デメリットについては、実務負 担やコストの増加を挙げる企業が多かったが、実務負担の増加については想定した ほどではなかったという意見も見られた。移行前に想定していなかったデメリット については、ほとんどの企業が「ない」と回答していた。 IFRS の任意適用を検討している企業へのアドバイス 任意適用のメリットについて、IFRS の適用は、「目的」ではなく、経営の質を高め るための「手段」として考えるべきであるというコメントが見られた。具体的には、 IFRS の適用を機に、グローバルの共通基盤として同じ「モノサシ」で意思決定や業 績評価を行うことで、より高度な経営管理が可能になるとの意見があった。 IFRS の移行プロセスについては、IFRS 適用企業が増加し、国内にも導入ノウハウが 蓄積されている状況のため、先行適用企業や監査法人、同業他社と連携することで 効率的な適用が可能になるとの意見が見られた。 「IFRS 適用レポート」の公表と日本の会計基準の今後 3 ASBJ による今後の日本基準改訂の方向 2007 年 8 月の「東京合意」を受けて、コンバージェンスする会計基準と して一部の基準が識別されていたが、ASBJ は、3 月 20 日開催の会議にお いて、東京合意後に IASB が公表した主要な会計基準についての日本基準 の開発・改訂の必要性を検討した。 検討の結果、特に IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収益」について は、適用対象となる取引が広範におよび、また企業の財務情報に重要な影 響を与える可能性が高いという性質や、世界的なコンバージェンスが進む 中で、企業会計審議会会計部会でも我が国における収益認識基準の高品質 化を求められたことに鑑み、コンバージェンスの優先度が高いと判断され た。収益認識専門委員会を再開したうえで、IFRS 第 15 号を踏まえた収益 認識基準の開発に向けた検討に着手すると決定された。 一方で、IFRS 第 9 号「金融商品」、IFRS 第 10 号「連結財務諸表」などに ついては、欧州などの先行適用国での状況を見てからコンバージェンスに 向けての検討をすることが報告された。 これらの重要な会計基準については、ASBJ の検討にあたっても相当の時 間とリソースが必要になると考えられるため、日本基準の IFRS とのコン バージェンスには少なくとも数年は要するものと思われる。 EY| Assurance | Tax| Transactions | Advisory EYについて EYは、アシュアランス、税務、トランザ クションおよびアドバイザリーなどの分 野における世界的なリーダーです。私た ちの深い洞察と高品質なサービスは、世 界中の資本市場や経済活動に信頼をもた らします。私たちはさまざまなステーク ホルダーの期待に応えるチームを率いる リーダーを生み出していきます。そうす ることで、構成員、クライアント、そし て地域社会のために、より良い社会の構 築に貢献します。 EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グロ ーバル・リミテッドのグローバル・ネットワ ークであり、単体、もしくは複数のメンバー ファームを指し、各メンバーファームは法的 に独立した組織です。アーンスト・アンド・ ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の 保証有限責任会社であり、顧客サービスは提 供していません。詳しくは、ey.comをご覧く ださい。 新日本有限責任監査法人について 新日本有限責任監査法人は、EYメンバー ファームです。全国に拠点を持つ日本最 大級の監査法人業界のリーダーです。監 査および保証業務をはじめ、各種財務ア ドバイザリーの分野で高品質なサービス を提供しています。EYグローバル・ネッ トワークを通じ、日本を取り巻く経済活 動の基盤に信頼をもたらし、より良い社 会の構築に貢献します。詳しくは、 www.shinnihon.or.jp をご覧ください。 EYのIFRS(国際財務報告基準) グループについて 国際財務報告基準(IFRS)への移行は、 財務報告における唯一最も重要な取り組 みであり、その影響は会計をはるかに超 え、財務報告の方法だけでなく、企業が 下すすべての重要な判断にも及びます。 私たちは、クライアントによりよいサー ビスを提供するため、世界的なリソース であるEYの構成員とナレッジの精錬に尽 力しています。さらに、さまざまな業種 別セクターでの経験、関連する主題に精 通したナレッジ、そして世界中で培った 最先端の知見から得られる利点を提供す るよう努めています。EYはこのようにし てプラスの変化をもたらすよう支援しま す。 © 2015 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書は一般的な参考情報の提供のみを目的に 作成されており、会計、税務及びその他の専 門的なアドバイスを行うものではありません。 新日本有限責任監査法人及び他のEYメンバー ファームは、皆様が本書を利用したことによ り被ったいかなる損害についても、一切の責 任を負いません。具体的なアドバイスが必要 な場合は、個別に専門家にご相談ください。
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