カレント・トピックス No.15-19 平成27年4月16日 15-19号 カレント・トピックス 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 ~投資家が見るアフリカ鉱業の機会と国際機関の鉱業支援策~ Mining Indaba 2015 参加報告(その 4) <ロンドン事務所 キャロル涼子 報告> はじめに アフリカ最大の鉱業投資会議「Mining Indaba 2015」が、2015 年 2 月 9 日から 12 日の 4 日間、 ケープタウン国際会議場にて開催された。今年で 21 回目を迎えた本会議は、Tony Blair 元英首相 の基調講演で盛り上がりをみせたものの、コモディティ価格が低迷する中、全体の参加者数は昨 年の約 7,800 人から約 6,800 人に減少し、若干のトーンダウンがみられた。 日本政府からは、山際大志郎経済産業副大臣を代表とし、廣木重之駐南アフリカ共和国日本国 大使、萩原崇弘経済産業省鉱物資源課長らが出席し、アフリカ各国の鉱業関係大臣との二国間会 談を実施した。また、「非アフリカ政府セッション」において、アフリカ諸国との関係強化に向 けた取り組みについての講演を行った 1。日本企業からは、商社、非鉄会社の参加があり、その他、 日本貿易振興機構(JETRO)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)、秋田大学からの参加があ った。 今年で 12 回目の参加となるJOGMECは、JBICと共同でのブース出展と、辻本崇史金属資源開発本 部長による講演を通し、JOGMECのアフリカにおける活動をアピールした 2。 「Mining Indaba 2015」での主な講演について、その概要を 4 回に分けて取り上げる。本稿で は、その 4 として国際機関による講演と投資会社によるパネル討論の主なものを紹介する。なお、 本鉱業大会の情報やプログラムについては、以下のリンクからご参照いただきたい。 https://www.miningindaba.com/ehome/indaba/event_schedule 1 2015 年 2 月 12 日 経済産業省ニュースリリース「山際経済副大臣が南アフリカ共和国及び英国に出張しました」 http://www.meti.go.jp/press/2014/02/20150212005/20150212005.html 2 2015 年 2 月 19 日 JOGMEC ニュースリリース「アフリカとの更なる関係強化へ~マイニング・インダバにて JOGMEC の活動をアピール」http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_000193.html 1 カレント・トピックス No.15-19 1. 国際機関による講演 1.1. 世界銀行基調講演:アフリカの開発を変える鉱業の力 講師:World Bank, Global Practice on Energy and Extractive Industry, Senior Director, Anita Marangoly George 氏 (1) 鉱物資源の恩恵を地域と共有するための活動支援 世界の鉱物資源の 30 %はアフリカに存在し、アフリカ諸国 54 ヶ国中 46 か国が鉱物資源に 恵まれているにもかかわらず、アフリカの人口の約 50 %が一日に 1.25US$以下で生活している。 またアフリカの電力資源は、太陽光、風力、地熱、ガスなど多様な電源に恵まれており、DR コ ンゴでは 10 万 MW の水力発電能力がある。その一方で、アフリカの人口の 3 分の 1 が電気のな い暮らしを送る。この受け入れがたい状況を打開するため、世界銀行では、鉱山会社と政府そ して地域間で、鉱物資源がもたらす利益を可視化し共有する活動を支援している。 (2) 鉱山電力を地域へ「The Power of the Mine3」 本会議初日(2/9)には、鉱山会社が操業地域における電力供給を支援する取り組みについて企 業や政府関係者と対話し、その結果を「The Power of the Mine」声明として公表した。鉱山会 社は大口契約で割安な電力供給を受ける。本取り組みでは、その電力グリッドを操業地域の周 辺へ拡大し、地域住民への電力供給を提案する。例えばギニアでは、この方式で 15 万人に電力 を届けることが可能と推計される。 (3) 鉱業と政府・地域の協働関係構築にむけた世界銀行の活動 世界銀行では主に次の活動を行っている。 a. 採取産業透明性イニシアティブで鉱業ガバナンスの向上を支援 鉱山会社は生産国政府の政策変更に敏感である。世界銀行では、鉱業のガバナンスを向上 させ、鉱業政策の安定化を図る目的で、35 か国と対話を進めている。 採取産業透明性イニシアティブ(Extractive Industries Transparency Initiative:EITI) は、鉱物資源等の採取産業から生産国政府への資金の流れの透明性を高める取り組みである。 最近では企業や生産国政府だけではなく、NGO や地方自治体等の参加も増え、採取産業におけ るグローバルベンチマークになりつつある。 世界銀行ではEITIマルチドナー信託基金を活用し、DRコンゴやギニアの鉱業権の枠組み構 築に寄与した。またタンザニアでは、政府の地質調査に融資して地質学的知識や技術の向上 に取り組み、同時に鉱業権ガバナンスの向上を支援した結果、2009 年以来、採取産業関連の 3 The power of the mine パンフレット: http://www.worldbank.org/en/news/feature/2015/02/09/infographic-power-of-the-mine 同報告書については以下のリンクを参照のこと: https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/21402/9781464802928.pdf?sequence=3 2 カレント・トピックス No.15-19 歳入が 4 倍となった 4。 b. 資源メジャーや国際金融公社と協力した小規模鉱業の技術支援 小規模鉱業は、産業や社会への影響から見過ごせない規模にまで発展した 5。世界銀行では、 大手鉱山会社の協力を得て小規模鉱山会社の質の向上を図る取り組みを行っている。 タンザニアの Geita 地区において実施したパイロット事業では、AngloGold Ashanti や Acacia Mining 社の技術者を小規模鉱山会社へ派遣し、労働者向けの地質技術の習得や鉱山経 営、安全管理に関する研修を実施した。タンザニアの小規模鉱山従事者は 100 万人に達する といわれることから、本活動が同国の貧困層にもたらす影響は少なくないと考える。 Rio Tinto も、ギニアの Simandou 鉄鉱石プロジェクトにおいて、ローカルサプライヤーを 育成する事業を行っている。その一環として、地域人材を対象とした技術研修や、保健・安 全指導を実施している様子を以前視察したことがある。 また貸借対照表すらなく銀行からの融資を得られずにいる小規模事業者を対象に、国際金 融公社(IFC)と協力して事業種別を問わず経営支援を行っている。 c. 資源生産国政府に対する鉱業関連対策支援 資源国では、鉱業関連歳入の増収を求める動きが活発化し、鉱業契約(Mining Agreement) の締結や解消に関する問題が増加傾向にある。世界銀行では、企業と生産国政府のより良い 関係構築にむけて、生産国政府を対象に公平な鉱業契約の作成方法や、リスクと報酬のバラ ンスを図る方策をアドバイスしている。地域やステークホルダーとの関係についても指導を 行う。このほど鉱業法の世界的専門家を講師に招き、アフリカの生産国政府の鉱業交渉人 (Mining Negotiators)70 名が参加するワークショップを開催した。 さらに鉱業の恩恵を地域や女性にも享受させるため、生産国政府に対して就業支援、児童教 育、保健活動などの社会経済的なキャパシティ・ビルディングの活動支援も行う。女性を含め た企業家育成支援に関しては、Newmont や Rio Tinto、Anglo American なども素晴らしい活動 を実施していると聞くが、世界銀行でも政府による法制度整備の点から支援を行っている。 (4) エボラ出血熱に対する世界銀行の支援 エボラ出血熱対策として、ギニア、リベリア及びシエラレオネの 3 か国に対し、世界経済フ ォーラムや ICMM とも協力して迅速な緊急援助を実施した。世界銀行からは 10 億 US$を拠出し、 このうち 5 億 1,800 万 US$は、医療経験のある世界銀行総裁の Jim Yong Kim 氏の意思で伝染病 対策の費用に充てられた。また IFC からも追加的に 4 億 5,000 万 US$を拠出し、同 3 か国の貿 易投資や雇用対策に役立てている。エボラ出血熱は鉱山会社の労働者にも直接影響があったた め、鉱山会社・政府が歩み寄り、支援活動に協力する様子が確認された。 4 5 EITI の HP にあるタンザニアの遵守国データ(https://eiti.org/Tanzania/reports)によると、2009 年の採取産業 関連歳入は 1 億 210 万 US$、2012 年には 4 億 6,820 万 US$となっている。 小規模鉱業に従事する人口は、開発途上国を中心に世界で 1 億人を超えるという。 Hentschel, T., et al.(2002), ‘Global Report on Artisanal & Small-Scale Mining’, http://www.ddiglobal.org/login/resources/g00723.pdf 3 カレント・トピックス No.15-19 (5) 鉱業がアフリカに与える影響力 Kim 世界銀行総裁は、「我々はおそらく極度の貧困が世界中から撲滅される日を目の当たり にできる最初の人類となる」と語ったが、鉱業界には、事業活動を通してベーシック・ヒュー マン・ニーズ(衣食住、収入、教育、保健、衛生、情報)向上に資する機会が与えられているこ とを認識してほしい。生産国政府に対しては、鉱業に係る透明性の確保と、政策の安定、そし てガバナンスの向上をお願いしたい。ステークホルダーの皆様にも、長期的な視野でより大き な価値を見据えて協力してほしい。他の講演者が語ったように、鉱業の「共通の恩恵(Shared Benefit)」は、地域が実際に体感しなければ意味がない。そのために関係者全員の協働関係を 強化していかなければならない。 1.2. アフリカ開発銀行:アフリカ法的支援ファシリティと AfDB の支援事業 講師:African Development Bank, Director of the ALSF, Steve Karangizi 氏 (1) アフリカ法的支援ファシリティ概要 アフリカ開発銀行(African Development Bank: AfDB)が主催する「アフリカ法的支援ファシ リティ(African Legal Support Facility: ALSF)」とは、いわゆるハゲタカ・ファンド訴訟の 対応に困ったアフリカ諸国の財務大臣らの要望を受けて 2010 年に設立された。アフリカ各国政 府に対して複雑な商用取引の交渉に関する法的助言や技術支援を行うことを目的とする。 主な支援領域は、①商業債権者訴訟、②商業取引交渉、③人材育成の 3 点である。主に負債 管理や訴訟、採取産業の管理、契約交渉、投資協定等の分野において、アフリカ各国政府の交 渉能力の向上を図る。 商業・事業取引支援では、これまでに 800 億 US$超の取引を行い、取引費用の削減に貢献し た。またアフリカ諸国を対象に、法的費用の支援や、インフラ整備における官民連携事業(PPP) 交渉の支援も行う。現在アフリカ 30 か国以上でプロジェクトを実施しており、それ以外のアフ リカ諸国からも多くの依頼を受け付けている。採取産業の契約関連で最も依頼が多いのは、PPP 支援、商業債権者訴訟、負債交渉である。 (2) アフリカ政府・企業向け鉱業情報提供サイト:http://www.a-mla.org/ AfDB では、2009 年にケープタウン大学や世界銀行と協力し、インターネットベースの amla.org を構築した。利用対象者はアフリカ政府と民間企業である。このシステムを活用する と、アフリカにおける鉱山プロジェクトの操業情報や、アフリカ諸国の鉱業法の歴史や内容を 国別、または 2 国間比較で閲覧できる。民間が提供する高額な情報提供システムに頼らずとも、 アフリカにおける鉱業関連の情報が入手可能な内容に仕上がった。 (3) アフリカ天然資源センター の開設 アフリカ天然資源センター(African Natural Resource Centre: ANRC6)は、2014 年に開設さ 6 ANRC 組織概要:http://www.afdb.org/en/topics-and-sectors/initiatives-partnerships/african-naturalresources-center-anrc/ 4 カレント・トピックス No.15-19 れたAfDBの下部組織で、10 カ年戦略に資する専門知識集積センターとして、アフリカ地域加盟 国における天然資源を持続可能な経済成長に活かすことを目的とする。センター長はSheila Khama氏で、本日この場に臨席している。同センターでは、地域加盟国のニーズに応じた政策ア ドバイスや技術支援を行うほか、意識啓発活動や知識開発などを担当する。 (4) 民間企業への融資活動 民間企業への支援事業として、①融資、②アフリカ地域加盟国の株式や準株式への直接・間 接投資、③プロジェクト発掘(Project Identification)、④技術支援の 4 つがあり、鉱業関連 では主に産業向けおよび建材用金属(鉄、ベースメタル)を対象としている。 AfDB では、以上のツールを活用して、アフリカ諸国の政府支援を行うと同時に資源の富の公 平な享受にむけて活動を続ける。 2. パネル討論 本パネル討論では、モデレーターの質問に対し各社が順に回答するという形式で行われた。以 下、質問ごとに概要を述べる。なお、発言者は各人の頭文字にて表示する。 2.1. アフリカ鉱業の機会~投資家の視点から~ <モデレーター> New York, Institutional Investor Magazine, Editor & Publisher - Custom Media, Ernest McCrary 氏 <パネリスト> Investec Asset Management, Head of Commodities & Resources, Bradley George 氏 U.S. Global Investors Inc. Chief Executive Officer and Chief Investment Officer, Frank Holmes 氏 South Africa Public Investment Corporation, General Manager: Listed Equities, Fidelis Madavo 氏 <概要> Q1:アフリカ鉱業のパフォーマンスに影響する世界経済的要素と商品価格変動の継続期間 BG:世界需要は中国の経済成長の失速で鈍化したが、依然として増加傾向にあり堅調と見る。問 題はサプライサイドにある。米ドル高につれて商品価格は変動しているが、鉄や銅は供給過 剰で下落傾向、ニッケルはインドネシアの禁輸政策の影響で上昇傾向というように、商品に よってトレンドは異なる。貴金属の動向は楽観視しているが、産業利用を行う欧州・日本の 経済動向を注視しなければならない。鉱業に影響する経済的な要素として、米国の利上げ、 原油安、中国の経済刺激策の動向は影響が大きい。操業コストと原油安の相関では、電力料 5 カレント・トピックス No.15-19 金が下がり、一般的にコスト削減につながった鉱山会社は多いが、南ア等の電力供給が不安 定な地域でディーゼルを操業に利用する企業においても、原油安でディーゼル価格が下がっ て得をした。またドル高の影響で、ドル建て企業にとっては追い風が吹き、アフリカだけで なくカナダや豪州でも人件費の削減効果があった。この点は現在の商品価格に反映されてい ない側面だ。 FH:世界経済面で重視する局面は、G20 が一斉に行うグローバル財政金融政策の動向である。鉱業 界では 2011 年以降続く長期の下降局面にあるが、今後半年間は原油価格が 100US$を超える見 込みはないと考えるうえ、欧州の量的緩和の経済的影響は大きいため、様々な金属価格は底 値を迎え、世界経済の回復が金属消費を促すだろう。ただ供給面で、鉄鉱石・石炭は長年に わたって安定供給が見込まれるが、銅、ニッケル、白金、パラジウム、金は注視を要する。 FM:需要拡大のスーパーサイクルは終わったと考える。なぜなら、中国では鉄鉱石や石炭等のバ ルク商品離れが進みつつあるからだ。アフリカの白金族産業は欧州の需要減速に苦しんでお り、回復の兆しは見えない。また原油安でナイジェリアの石油産業は打撃を受け、貨幣価値 も急落した。同国でのセメント産業のオフテイクも難航している。アンゴラも石油歳入関連 の予算編成で、原油価格を反映した見直しを余儀なくされた。当行ではアフリカ大陸に 60 億 US$を投資するが、原油安の影響で、小売業のほか、セメント等のインフラ関連業界に投資先 をシフトしている。 Q2:商品の需要と供給は同期(Sync)しているか。していない場合、価格への影響はあるか。 BG:鉄鉱石、石炭、石油に関しては、同期せずに供給過剰となり、価格下落という影響が出た。 中でも石油については、フラッキング技術の向上による増産や OPEC の介入回避で供給過剰に 歯止めがきかなかった。銅、ニッケル、鉛については、今後 12~18 ヶ月間は同期すると考え る。パラジウムに関しては、原油価格の低下や米中の自動車産業の振興、ロシア制裁、南ア の鉱業政策の影響でタイト感が増すだろう。金は貨幣のような動きがあるうえ、中国、イン ドで購買力が強いため、価格は上がると見込んでいる。 FH:金関連株は価格変動があるが、長期的に収益が見込まれる。今日のように低金利かつ貨幣価 値が低下している時期には、金価格が上がる。特に対ランド・豪 $・加 $で金は上昇傾向だ。 南アの金鉱山会社は、価格変動に耐性があり、キャッシュフローもよく業績は良い。さらに 今後のインドや中国の経済成長を考慮すると金は有望だ。贈呈品としての金の購買意欲(Love Trade)は、一人当たりの国内総生産に左右されるため、経済成長が見込め、原油安となれば 金需要は伸びる。毎年中国の旧正月を中心に金価格が上がる傾向があるが、今年もこの傾向 が顕著に見られるだろう。 FM:鉄鉱石は、今後 8 か月で 20 %増産の見込みで、さらなる価格低下が起こる。石炭は原油価格 の影響でオフテイクが停滞している。当行では金に年金基金を投入して損失を出した経験か 6 カレント・トピックス No.15-19 ら金離れが進んでいる。一方ベースメタルは、堅調な需要の伸びで見込みがある。原油価格 は 6 月の OPEC 会合の動向次第だ。原油価格の影響は、坑井数によって異なる。 Q3:原油価格の低下でアフリカへの影響はあるか。影響の良し悪しが明白な国や企業はあるか。 BG:産油国のナイジェリアやアンゴラには負の影響が大きい。南アは石油の純輸入国であるため、 経済成長の追い風となるだろう。有望企業としては Kibali 金鉱山における操業コストの 6 割 を水力・4 割をディーゼルが占める RandGold Resources がある。さらに AngloGold Ashanti、 Savannah Resources 社も電力料金の低下で好影響が期待される。ダイヤモンド生産者も忘れ てはならない。南アの Petradiamond 社には原油安の好影響がある。 FH:前述の企業はキャッシュフローが好転しているため同意する。エチオピアのミネラルサンド からガラス瓶を生産するプロジェクトがあるが、ガラス瓶はリサイクル可能であるうえ、今 後のアフリカ経済成長を鑑みると、瓶の使用は増加が見込まれ、産業として有望。アフリカ での航空産業育成も将来があるのでは。鉱山経営については、垂直統合を進める企業が優位 に立つと考える。 FM:原油安で船舶輸送費が軽減されている。例えば Vale が鉄鉱石を中国へ輸出し始め、豪州産業 と競合できるまでになった。アフリカの鉄鉱業界にも追い風となるはずだ。鉱業界では露天 採掘鉱山は投資のねらい目と考える。なかでも一般的に収益性・収支の状態・管理体制が良 好な企業が好ましい。BHP Billiton、Glencore が好例。南アでいうと Anglo American なども 有望とみている。この経済状況では多角経営に秀でる企業が投資を呼びやすい。 Q4:貨幣価値が新興国に与える影響とは何か。 BG:貨幣価値は人件費に大きく影響する。ランド安で南アの金鉱山会社は人件費を大幅に削減し、 キャッシュフローが好転した結果、高配当だった。RandGold 社など仏語圏で操業する企業は、 ユーロ建ての企業が多く、ユーロ安が追い風だ。 Q5:アフリカ鉱業界は投資先が限られているが、例えば年金基金等で投資する場合、投資先の選 定に至るポイントとは何か。 FH:国債等を用いた鉱業への投資は、10 年以上の単位で行う。このため物理的安定性合意 (Physical stability agreement)の観点から、頻繁な税制・ロイヤルティ改革や電力問題等 のインフラ課題は、対策を講じなければ投資敬遠につながる。 FM:欧州の量的緩和でユーロ安が進行した結果ドル買いが進み、アフリカ生産国通貨の為替に影 響したうえ、金属価格安も相まって鉱業分野への投資は鈍っている。長期投資を行う年金基 金は、南アの金鉱山会社に相当な投資を行ったが、株式発行による資金調達で株の希薄化が 7 カレント・トピックス No.15-19 おこり打撃を受けた。現在南アへの年金基金投入は、短期の小規模出資にとどまる。アフリ カ全体では、2~5 年の長期的視野で年金基金による大規模投資を行い、出資先の役員会にも 出席して企業価値の向上にあたる。現在アフリカでは資金流動性が乏しく、企業は現金投資 を求めているため、プライベートエクイティ(PE)が撤退する所へ当行が入るケースが増えて いる。ただし PE 撤退後の参入は、資産の評価面で折り合いをつけるのが難しい。当行の PE 事業は外注せずに内部で行っており、南アでの PE 事例を皮切りに、アフリカでの PE 投資が 活発化し、事業拡大中である。 FH:資金調達の容易さで PE は有利だが、利用企業の管理体制に統制がなく収益の還元で問題が生 じることがある。PE の概念はシンプルだ。操業の効率化が見込め、キャッシュフローに占め る収益が 15 %あればよい。それが 5 年以内に 2 倍以上の利益をもたらせば、売却するか公開 株にする。収益性と、企業運営の効率化が PE を上手に利用するうえで鍵となる。 BG:中国やアジア、欧州の年金基金からのアフリカ鉱業投資への関心は高い。BHP Billiton の 60 億ポンドの配当計画や新会社 South32 のスピンオフ等、業界に好転の兆しはある。とはいえ 業界全般の先行きとコスト削減の点から、今はまだ投資家が動向を吟味している状態といえ る。 Q6:鉱業の停滞は底を打ったといえるか。2015 年~2016 年の見通しはどうか。 BG:コモディティによってトレンドは変わるが、欧州の量的緩和や需要が供給を多少上回るとい う好条件があれば、底を打って上昇に転じるとみる。 FH:すでに底を打って、回復傾向にあるとみる。投資に対する着実な収益さえ確実にあれば、一 般投資家がアフリカ鉱業への投資にふみきり、状況は好転するだろう。 FM:当行の鉱業投資は慎重だが、先は明るい。底は打ちつつある。 3. 結び 本会議の講演には、パネル討論がふんだんに盛り込まれた。PE 投資家が集ったパネルでは、南 アをはじめとするアフリカ諸国へのメッセージが発信された。パネリスト全員がアフリカの資源 開発に機会を見出しているなか、「10 年単位の鉱業資本投資を投入しやすい法制度を構築するに は、チリを見習うべき」という意見や「鉱山会社は納税の意思があり、地域貢献にも前向きに対 応している。これからは生産地域と協力して、法令順守と取締りの強化、収益性の向上に力を入 れる時だ。さもなくば、投資は収益面で競争性のある地域へ流れる」という厳しい意見も聞かれ た。 投資を呼び込むには、アフリカ地域の安定性、法令順守と取締りの徹底が不可欠である。 8 カレント・トピックス No.15-19 Mining Indaba 2015 参加報告(その 1) 7でも紹介があった通り、現在、南アの鉱物・石油資源開発 法(MPRDA)改正法案は、Zuma大統領の意向により見直し中で、今後の先行きに注目が集まっている。 同国のRamatlhodi鉱物資源大臣は、本会議の講演中に、改正案の見直しについて進捗を共有した うえで、国内に蔓延する法令軽視の風潮を排除し、法令違反の徹底取締りに取り組む姿勢(Zero Tolerance Approach)をアピールしている。アフリカ鉱業界の先駆者として、南アは投資家の信用 確保につながる法整備と取締り体制を実現し得るか。引き続き今後の先行きを注視していきたい。 7 平成 27 年 3 月 26 日 JOGMEC カレント・トピックス No.15-14 号「~強気崩さぬアフリカ各国政府、鉱業関係大臣 が語る鉱業のこれから~Mining Indaba 2015 参加報告」 おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報を お届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結に つき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等す る場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 9
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