FX Weekly 平成 27(2015)年 4 月 17 日 GLOBAL MARKETS RESEARCH チーフアナリスト 内田 稔 三菱東京 UFJ 銀行 A member of MUFG, a global financial group Table of contents 1 今週のトピックス 2 来週の相場見通し 3 来週の経済指標・イベント 4 マーケットカレンダー 1. 今週のトピックス (1) 購買力平価とドル円相場 チーフアナリスト 内田 稔 (2) ドル高への関心を高めた IMF の世界経済見通し シニアマーケットエコノミスト 鈴木 敏之 (3) 4 月 ECB 理事会は資産買入の継続を強調 シニアアナリスト 天達 泰章 2. 来週の相場見通し (1) ドル円:膠着するもリスクはやや下向きへ 予想レンジ 117.70 ~ 120.30 (2) ユーロ:売り買い材料交錯し、揉み合い推移を予測 予想レンジ 対ドル: 1.0550 ~ 1.0900 対円: 126.50 ~ 130.50 (3) 豪ドル:経済指標を睨みながらも底堅い展開を予想 予想レンジ 対ドル: 0.7600 ~ 0.7950 対円: 90.50 ~ 94.50 (4) 人民元:基準値の安定推移を背景にしっかり推移しよう 予想レンジ 1 FX Weekly | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 対ドル: 6.1700 ~ 6.2100 対円: 19.10 ~ 19.50 (1) 購買力平価とドル円相場 浜田内閣官房参与、購 買力平価では 105 円 が妥当と発言 今週、浜田内閣官房参与が購買力平価を引き合いに為替相場水準 に言及した。具体的には、購買力平価からすると「105 円ぐらいが 妥当」であり、「120 円はかなり円安」というもの。また、別のイ ンタビューでは一転して「120 円程度は許容範囲内」と現状水準に 理解を示しつつ、やはり「125 円、130 円となると、購買力平価か らの差がはっきりしてくる」ことから、「投機筋に仕掛けられる可 能性がある」と円安方向への警戒感を滲ませた。実際の為替相場は、 購買力平価から寧ろ乖離することの方が多いが、長期的な均衡点を 示すものとして、購買力平価は示唆に富んでいる。改めてこれまで の動きを振り返り、ドル円相場の今後を展望する。 相対的購買力平価と実 際のドル円相場の関係 購買力平価の内、2 国間のインフレ率の格差に応じて名目為替相 場が調整されるというのが、相対的購買力平価だ。具体的にはイン フレ率の高い国の通貨がその分だけ減価するとみなす。購買力平価 が成立していたとみなす起点をいつに置くのか、またその後の計算 に用いる日米間の物価指数に何を用いるのかによってその答えは広 範にバラつきが生じる。ただ、同氏の発言に照らし、本稿では昨年 12 月末時点で 104 円 10 銭を示すOECD試算のものを用いる。これ に実際のドル円相場を当てはめると、両者とも似た傾きでドル安円 高経路を辿ってきたことがわかる(第 1 図)。このため、ドル円相 場は、日米間のインフレ率の格差により、一貫してドル安円高圧力 を受けてきたと言えるだろう。加えて、80 年代半ば以降、この購 買力平価よりも、実際のドル円相場がドル安円高水準にて推移して いる時間帯が長い。その理由として、日米間の経常収支の不均衡に よるドル安円高圧力を挙げることができよう。つまり、ドル円相場 は、日米間のインフレ率の格差によってドル安円高という傾きを、 また経常収支の不均衡によって、ドル安円高方向への下押し圧力を 受けてきたと整理することができるだろう。 第 1 図:相対的購買力平価とドル円相場 (円) 320 貿易赤字 貿易赤字 貿易赤字 乖離(右目盛) 300 貿易赤字 280 ドル円 260 購買力平価 240 220 200 180 160 220 140 200 120 180 100 160 (%) 80 140 60 40 120 ドル高円安への最大乖離 100 20 80 0 60 -20 -40 40 ドル安円高への最大乖離 20 1973 1978 1983 1988 1993 1998 2003 (資料)OECD、Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 2 240 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 2008 -60 2013(年) 3 両者の乖離に注目 実際のドル円相場は需給やその時々の思惑により、この購買力平 価から上下へと乖離する。このため、今後の方向感や水準観をつか む上では、この両者の乖離がどの程度まで拡大しているのかが参考 となる。例えば、先述の通り、ドル円相場は購買力平価よりもドル 安円高方向への乖離が生じている時間帯が長く、特に 80 年代後半 ばから 90 年代半ばにかけて拡大している。当時、日米間では貿易 摩擦が激化しており、民主党政権を中心に米国が不均衡是正のため ドル安を容認するとの思惑が高まっていた。また、米国では、いわ ゆる双子の赤字を抱え、基軸通貨としての信任低下も市場のテーマ となっており、強いドル安圧力が加わっていた。最もドル安円高へ の乖離が生じたのは 94 年の 44%。ドル円が 95 年 4 月に一時 79 円 75 銭のドル安円高を記録したが、当時の動きはドル安円高へとか なり偏ったものとみることができよう。 円安への最大乖離が生 じたのは? 一方、本邦の貿易収支が赤字の局面では、購買力平価よりも、ド ル高円安方向への乖離が生じたり、相場の流れがドル高円安へと反 転する動きがみられている。時代背景の移り変わりにつれ、その影 響力は同一ではないが、貿易収支は依然として為替相場の説明要因 としての役割を果たしていると言えそうだ。これまで最も購買力平 価からドル高円安方向への乖離が生じたのは、84 年の約 19%。足 元の購買力平価 104 円で計算すると、ドル円がおよそ 124 円に迫る 計算となる。逆に言えば、この購買力平価といった尺度に照らせば、 124 円を超えるドル高円安は、これまでにまだ一度も踏み込んだこ とのない未知の領域となる。そもそも、ドル高円安への最大の乖離 が生じたその 84 年は、インフレ圧力の抑制を企図した米国の高金 利政策の名残から、まだ米国では政策金利や 10 年国債の利回りが 10%台にて推移。大幅な資本流入によって、米ドルが全面高の様相 を強めていた局面だ。利上げ期待とともにドル独歩高が進む足元と どこか通じるものがある。ただ、当時のそのドル高は米国の著しい 貿易収支の悪化(赤字拡大)を招き、結局は翌 85 年のプラザ合意 による人為的なドルの協調押し下げ介入に至っている。つまり、購 買力平価から 2 割程度もドル高円安へと乖離したドル円相場は、定 着しなかったことになる。実際、国際通貨基金(IMF)は、最新の 世界経済見通しを発表。ドル高と円安を一因に、米国の経済見通し を 0.5%引き下げた一方、日本を 0.4%引き上げた。日本の貿易収支 も足元では改善傾向を示しており、円安圧力は今後、徐々に和らぐ 可能性も決して低くない。 ドル円続伸へのハード ルは高い いつかは上昇するというドル円上昇期待には根強いものがあり、 当方も 2015 年度の予想レンジの上限を 125 円に設定している。た だ、足元のドル高は、既に米国経済に対してある程度の引き締め効 果をもたらしていると考えられ、経済指標の下ブレの一因となって いる可能性があるだろう。今回の浜田氏の発言は、主に日本からみ て急激かつ大幅な円安に警戒を示したもの。ただ、大幅なドル高も、 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 米国経済に影響を及ぼすだろう。今後のドル相場をみるうえで、 「利上げ期待を意識したドル高⇒指標の下振れ、物価の下押し⇒結 果的に利上げがやりづらくなる⇒ドルの市場金利が低下⇒ドルの重 石に」といった連鎖経路には常に留意が必要と言える。購買力平価 からの乖離や米国の経済情勢に漂う先行きへの不透明感などを勘案 すると、ここからのドル円上昇は、それほど容易なものではないと みられる。 チーフアナリスト 4 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 内田 稔 (2) ドル高への関心を高めた IMF の世界経済見通し IMF の世界経済見通し は、米国を下方修正、 ユーロ圏、日本を上方 修正 国際通貨基金(IMF)が 4 月の世界経済見通しを発表している。 2015 年の経済成長率は 3.5%、2016 年は 3.8%としている。2016 年 は前回の 1 月の数字よりも 0.1%上方改訂されたが、引き続き、世 界経済の潜在成長率の 4.0%を下回るままという見方である。今回 の経済見通しのハイライトは三つある。第一は、2015 年の見通し で、米国を大きく下方改訂し、ユーロ圏、日本とインドなどを上方 改訂して全体の成長率を前回と同じとしていることである。第二は、 2015 年のインドの成長見通しを 7.5%として、最も成長する経済に 位置づけたことである。第三の注目は、中国で、金融緩和に動いた にもかかわらず、来年の 2016 成長見通しを 6.3%のままとしたこと である。この第 1 四半期が 7.0%の成長へ低下したことが話題に なっているが、来年にかけて、6%台前半に向けての減速が続くと 言っているのである。 以下では、米国の経済見通しの下方改訂とユーロ圏の上方改訂に 焦点をあてて、為替変動が世界経済を動かしていることをみておき たい。 第 1 表:IMF の 2015 年 4 月の世界経済見通し 2015年 世界全体 先進国・地域 米国 ユーロ圏 ドイツ フランス イタリア 日本 新興・途上国 ロシア 中国 インド ブラジル 南アフリカ 3.5 2.4 3.1 1.5 1.6 1.2 0.5 1.0 4.3 ▲ 3.8 6.8 7.5 ▲ 1.0 3.0 (1月予測比) 0.0 0.0 ▲ 0.5 0.3 0.3 0.3 0.1 0.4 0.0 ▲ 0.8 0.0 1.2 ▲ 1.3 0.2 2016年 3.8 2.4 3.1 1.6 1.7 1.5 1.1 1.2 4.7 ▲ 1.1 6.3 7.5 1.0 2.7 (1月予測比) 0.1 0.0 ▲ 0.1 0.2 0.2 0.2 0.3 0.4 0.0 ▲ 0.1 0.0 1.0 ▲ 0.5 0.0 (注) 単位 % 1 月予測比の▲は下方修正 (資料)IMF のデータにより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 ① 為替相場変動の経済成長への影響 IMF は、為替相場変動 の経済成長への影響を 試算。 5 米国の経済見通しは、1 月時点の 3.6%から、今回の 3.1%に 0.5%も下方改訂された。一方で、ユーロ圏は 1.2%から 1.5%に上 方改訂された。この改訂の組み合わせは、為替相場がユーロ安に動 いた影響を注目させる。実際、IMFの世界経済見通し(WEO)は、 昨年 8 月以来の為替相場の変動が、経済成長にどう影響したかの試 算を示している。 この試算では、米国の 2015 年のGDP成長への影響を▲0.5%とみ ている。これは、ニューヨーク連銀のダドリー総裁が、4 月 6 日の 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 講演で言った 0.6%の押し下げという試算に概ね一致する。一方で、 ユーロ圏については、1.5%の押し上げをみている(IMF世界経済見 通し WEOの第 1 章 9 頁、BOX2)。 第 2 図:IMF の 2015 年 4 月の世界経済見通し 2.0 経済成長率を押し上げ ↑ 1.5 1.0 0.5 0.0 ‐0.5 経済成長率を押し下げ ↓ ‐1.0 2014 2015 2016 2017 米国 2018 2019 ユーロ圏 2020 (年) (資料)IMF のデータにより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 IMF WEO の掲載箇所: http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2015/01/ 日本についても同様の動きがみられている(試算では 1.1%の押 し上げ)。世界経済見通しでは、2015 年の先進国経済の成長のパ イは 2.4%で変わらないのに、通貨の下落したところの成長率見通 しが上方改訂され、通貨の上昇した米国の成長率見通しが下方改訂 されているのである。 ② ドル高への関心を高めている米国 Fed からドル高を懸念 する幹部発言、情報発 信が相次いでいる ユーロ圏にしても日本にしても、デフレ(懸念)からの脱却が確 固たるものにならければ、それは世界経済にとっても米国経済に とっても不都合である。デフレ(懸念)脱却には金融政策が有効で あり、それは必要である。その緩和の結果であれば、通貨の下落は デフレ化のコストより低いというのが、これまでの発想である。 その理解は保ち続けられているだろうが、最近のFedの示す文書 や幹部講演では、ドル高を話題にするものが増えている。 3 月 27 日のイエレンFRB議長の講演では、経済の先行きをみる際 の懸念材料として、ドル高で輸出が弱まることをあげている。 4 月 6 日のニューヨーク連銀のダドリー総裁の講演では、ドルの 15%の上昇が成長率を 0.6%押し下げるという試算が言及された。 4 月 8 日に発表されたFOMCの議事要旨(Minutes)では、スタッ フが経済見通しを引き下げた理由を、ドル高(ドル相場の先行きの パス)と説明している。 6 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 4 月 15 日に発表された地区連銀景況報告の要旨でも、製造業へ のドル高の影響への言及がある。 4 月 16 日にFOMCメンバーの発言が相次いだが、その中でもドル 高への言及があった。 ドル高の影響として、 市場のみる予想インフ レ率の低下も心配 米国経済の成長への輸出入への寄与は比較的小さいので、ドル高 の悪影響はそれほど大きくないという見方もある。一方で、多国籍 企業の売上が影響を受け、それが、企業の投資拡大や雇用拡大への マインドを冷やすことを問題視する見方もある。 ③ ドル高は米国金融政策正常化の制約になりかねない こうした輸出面の心配もあるが、FOMCメンバーにとっては、ド ル高が、予想インフレ率を引き下げてしまうことも大きな心配のは ずである。金融政策の正常化、利上げ開始が難しくなりかねないか らである。 第 3 図:市場のみる予想インフレ率(BEI)とドル相場指数の推移 60 4.0 (%) 70 3.5 ↑ 80 安 90 ド ル 3.0 2.5 高 100 ↓ 2.0 110 1.5 120 00 01 02 03 04 05 06 07 5年先から5年のBEI〈左目盛〉 08 09 10 11 12 13 14 15 (年) 米ドル貿易加重指数〈右目盛〉 (資料)FRB のデータにより、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチで作成 (注) BEI は Break Even Inflation Rate の略 Fedは利上げを開始することについて強い意向を持っているが、 一方で、引き締めをするつもりもない。しかし、金融緩和を続ける 範囲内の小さな利上げでもそれでドル高が強まると、引き締め効果 が出てしまうかも知れない。インフレの見通しが説得力を失えば、 次の利上げが難しくなる。大統領選挙も近づいてくる。米国はデフ レ(懸念)脱却のための他国の金融政策を是認する立場を維持しな がら、金融政策だけに頼るべきではないというような牽制を始める 可能性はみておくべきであろう。 シニアマーケットエコノミスト 7 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 鈴木 敏之 (3) 4 月 ECB 理事会は資産買入の継続を強調 ECB は政策金利を据 え置き ECBは、4 月 15 日のECB理事会で、政策金利であるリファイナン ス金利を 0.05%に、短期金融市場の上限金利となる限界ファシリ テ ィ 金 利 を 0.30% 、 下 限 金 利 と な る 預 金 フ ァ シ リ テ ィ 金 利 を ▲0.20%に据え置いた(第 1 図)。 第 1 図: ECB の政策金利の推移 (%) 6 5 4 3 2 1 0 -1 08 09 10 11 預金ファシリティ金利 12 政策金利 13 限界貸出金利 14 15 (年) (資料)ECB より三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチ作成 資産買入等の政策変更もなく、事前予想どおり資産買入の効果と 継続を強調したことから、ユーロ相場の反応は限定的であった。 ① 資産買入残高は順調に増加 ECB は「国債等買入 は何ら問題ない」との 認識 1 8 ECBは、声明文で、「資産買入プログラムの実施は円滑に進んで おり、有価証券の買い入れ規模も既に発表している月額 600 億ユー ロに沿った水準」と記した(第 2 表)。加えて、ドラギECB総裁は 記者会見で「ECBの国債等買入プログラムの買入対象となるソブリ ン債が不足しているとの懸念はやや行きすぎだ」と発言し、資産買 入が順調に増加していることを強調した。 これは、独国債利回りの 2~4 年ゾーンが買入対象銘柄の足切り ラインである▲0.2%を下回る中で、時間の経過とともに先の年限 も▲0.2%を下回り、買入対象銘柄が買入目標に対して不足すると の一部の市場参加者の懸念を踏まえたものである。3 月 9 日より始 まった国債等買入(PSPP)の残高は 4 月 3 日に 525 億ユーロまで増 加し1 、資産買入残高は順調に増加している(第 3 図)。 そのため、ドラギECB総裁は記者会見で「(買入について)何ら 問題ない」、「(買入対象を増やすための)預金ファシリティ金利 の引き下げは必要ない」と発言している。更に、資産買入プラグラ ムを柔軟に変更することも可能であるとして、実際に 4 月ECB理事 会ではエージェンシー債の買入対象銘柄を増やしている。 当方は資産買入額の月間 600 億ユーロのうち PSPP 分を 520 億ユーロ(国債・エージェンシー債 460 億ユーロ、スープラ債 60 億ユーロ)と試算。 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 第 2 表:冒頭声明文前月比較 景気・物価・ マネー動向 3 月 ECB 理事会(3/5) 4 月 ECB 理事会(4/15) We have already seen a significant number of positive effects from these monetary policy decisions. Financial market conditions and the cost of external finance for the private economy have eased further, also following our previous monetary policy measures. In particular, borrowing conditions for firms and households have improved considerably. Moreover, money and credit dynamics have been firming. The implementation of our asset purchase programmes is proceeding smoothly, with volumes in line with the announced figure of €60 billion of securities per month. In addition, there is clear evidence that the monetary policy measures we have put in place are effective. Financial market conditions and the cost of external finance for the private sector have eased considerably over the past months and borrowing conditions for firms and households have improved notably, with a pick-up in the demand for credit. これらの金融政策措置の決定によって、既に前向き な兆しが多くみられる。これらの金融政策手段もあっ て、金融市場の状況と民間部門の資金調達コストは 一段と緩和的になっている。特に、企業及び家計の借 入条件が大幅に改善している。更に、金融と信用の伸 びも底堅さを増している。 資産買入プログラムの実施は円滑に進んでおり、発 表している月額 600 億ユーロに沿った水準にある。こ れらの金融政策手段が有効だという明確な証拠もあ る。過去数ヶ月に金融市場の状況、民間部門の資金 調達コストは大幅に緩和され、企業や家計の借入条 件も大幅に改善し、金融と信用の伸びも高まってい る。 ② 資産買入の効果を強調 貸出市場は一段と改善 その上で、声明文で「(資産買入によって)過去数ヶ月に金融市 場の状況、民間部門の資金調達コストは大幅に緩和され、企業や家 計の借入条件も大幅に改善し、金融と信用の伸びも高まっている」 と資産買入の効果を強調している。最近の企業の資金需要DIは「増 加超2」幅を拡大し、金融機関の信用基準(貸出態度)DIは「緩い 超3」である(第 4、5 図)。貸出市場の改善を受けて、企業と家計 向け貸出残高は前年比マイナス幅を 0%付近まで縮小させている。 資産買入の効果等を受けて、ユーロ圏景気は個人消費を中心に改 善しているとした上、先行きについても、声明文で「依然として景 気はダウンサイドリスクが大きいものの、金融政策や原油安、ユー ロ安を受けてリスクはバランスする方向に向かっている」と記した。 第 3 図:資産買入残高 第 4 図: 企業の資金需要 DI (億ユーロ) 1,400 40 1,200 20 1,000 増加 800 0 600 400 減少 -20 200 0 10/24 2014年 11/21 12/19 カバードボンド 1/16 2015年 2/13 ABS 国債等 3/13 4/10 (年/月) (資料)ECB より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成。 2 3 9 「増加」の割合が「減少」の割合を上回っている。 「緩い」の割合が「厳しい」の割合を上回っている。 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 -40 08/1 09/1 10/1 11/1 過去3ヶ月 12/1 13/1 14/1 15/1 (年/月) 今後3ヶ月 (資料)ECB より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成。 第 5 図:銀行の信用基準 DI 第 6 図:ユーロ圏貸出残高(前年比) (%) 80 20 15 60 10 40 厳しい 5 20 0 0 -5 緩い -10 -20 08/1 09/1 10/1 11/1 過去3ヶ月 12/1 13/1 14/1 今後3ヶ月 (資料)ECB より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成。 08/1 15/1 (年/月) 09/1 10/1 11/1 個人向け貸出 12/1 13/1 14/1 企業向け貸出 15/1 (年/月) (資料)ECB より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成。 ③ 資産買入の継続を強調 ユーロ圏景気が緩やか に回復するとの見通し は、資産買入の継続が 前提 このようにECBの景気認識が上方修正されていることに加えて、 (イ)3 月のECBスタッフ見通しで、2017 年にGDPギャップが解消 し、物価も 2%弱というECBの物価目標を達成するとしていること4 や、(ロ)最近のユーロ圏経済指標が良好な結果であることから、 資産買入の終了時期が早まるのではないか、との懸念が生じる。バ イトマン独連銀総裁も「最新のデータや経済予測は、量的緩和に対 する私の懐疑的な姿勢(量的緩和を必要としていない)への裏付け を示唆している」と発言している。また、声明文では、「資産買入 は 2016 年 9 月末まで継続することを意図している」と資産買入の 継続を断定していないことも、こうした見方を助長している。 しかし、ドラギECB総裁は記者会見で「(ユーロ圏景気が緩やか に回復するとの見通しは)資産買入の継続が前提である」と発言し た上、声明文でも「今後の焦点は金融政策手段の完全な実行だ」と 記し、ECBは資産買入の継続を強調した。 ④ 結語 4 月ECB理事会は、事前予想どおり資産買入の効果と継続を強調 したのみで、無風であった。ユーロドルは引き続きECBとFRBの政 策スタンスの違いが意識されて、年内にパリティ(1 ユーロ=1 ド ル)を実現しよう。 シニアアナリスト 4 2017 年に実質 GDP は前年比+2.1%、消費者物価は前年比+1.8%になる見通し。 10 今週のトピックス | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 天達 泰章 (1) ドル円:膠着するもリスクはやや下向きへ 今週のレビュー 今週のドル円相場は前週のドル買い地合いを受け継いで週初 120.19 で寄り付いた後、堅調に推移。一時は週間高値となる 120.84 を記録した。しかし、その後のドル円は週末にかけて軟調に推移し、 119 円を割り込むと、15 日には 118.79 の週間安値を記録している。 まずドル円続伸を阻んだのは、13 日の浜田内閣官房参与の発言 だ。同氏は出演した番組内で、「購買力平価からすると 120 円はか なり円安。105 円ぐらいが妥当」との見方を示した(巻頭トピック ス「購買力平価とドル円相場」参照)。市場の一部では、追加緩和 の必要性を訴えた今月 1 日の山本幸三衆議院銀の発言を受け、30 日の日銀による追加緩和を予想する向きもあった。ただ、安倍政権 の経済政策ブレーンである浜田氏の発言が、円安へのけん制である と同時に、暗に追加緩和の可能性を否定するものと解釈され、ドル 円を 119.68 まで約 1 円も押し下げた。同氏は翌日の別のインタ ビューでは、「125 円や 130 円となると購買力平価との差がはっき りし、投機筋に仕掛けられる」と懸念を繰り返しつつ、「120 円程 度は許容範囲」と発言。これを受けて今度はドル円が 120 円台を回 復するなど、上下に振れる荒い値動きとなった。ただ、全体として みれば、政府側として必ずしも早急な追加緩和とそれに付随する一 段の円安を望んでいないとのメッセージと受け取られ、ドル円相場 の上値を抑えたと言えよう。 また、総じて予想を下回った米国の経済指標も、ドル相場の重石 となった。特に、ドル売りを誘ったのは 14 日に発表された米国の 3 月分小売売上高だ。ヘッドライン(前月比プラス 0.9%)、コア (同 0.3%)ともに前月比でみれば 4 ヶ月ぶりのプラス圏に浮上。 また、ヘッドラインの伸びは 1 年ぶりの高いものであり、必ずしも 弱かったわけではない。 第 1 図:米国の小売売上高(前月比) (%) 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 前月比 同コア(除、自動車・ガソリン・外食・建材) -1.5 14/1 14/3 14/5 14/7 14/9 14/11 15/1 15/3 (年/月) (資料)米国国税調査局より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 ただ、昨年夏場以降、原油価格が低位で推移している。この影響 でエネルギー部門では、設備投資や雇用の抑制といったマイナスの 影響が生じるものの、ガソリン価格の低下を通じて個人消費には追 11 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 い風。全体としてみれば米経済にはプラスというのが専らのコンセ ンサスだ。結局、高い期待には及ばなかったということだろう(第 1 図)。このほかにも、今週は米国経済の先行きへの警戒や、利上 げ時期が後ずれするとの見方を強めるイベントが散見された。国際 通貨基金(IMF)は最新の経済見通しにて、前回 1 月とは対照的に、 先進国では米国だけ下方修正し、その一因にドル高を挙げた。同じ く、米国の地区連銀経済報告も大半の地域で拡大を続けたとした一 方、ドル高や原油安、寒波の影響が製造業の重石になっているとの 慎重な見方も示している。フィッシャーFRB副議長が、第 2 四半期 以降の米経済に対し、やや自信を示した一方、アトランタ連銀の ロックハート総裁やボストン連銀のローゼングレン総裁らが、相次 いで早期利上げへの慎重な見方を示した。全体としてみれば、今週 は米国の利上げ開始時期を巡る不透明感が高まったと言える。当方 が現状ではメインシナリオでみる 9 月利上げ開始の市場の織り込み も、前週末の 30%から 26%へと小幅ながらも一段と低下。為替相 場への影響が強い 2 年国債の利回りが前週末比 7bp低下しており、 今週のドルは主要通貨に対し、全面安となった(第 2 図、正午のド ル円スポット相場:119.02~04) 第 2 図:今週のドル円相場 (円) 121.0 ↑円安 120.5 120.0 119.5 119.0 ↓円高 118.5 4/13 4/14 4/15 4/16 4/17 (月/日) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 来週の見通し 来週は、米国の経済指標をみながら、引き続き神経質な値動きを たどろう。多くの住宅関連の指標のほか、耐久財受注などを控えて おり注目される。ただ、これまでの冴えない米国の経済指標に対し、 年初来の悪天候を理由に挙げる向きも多い。このため、より注目さ れるのは天候要因が和らぐ 4 月以降の指標となる。ただ、今週発表 された 4 月分の経済指標では、ニューヨーク連銀製造業景気指数が 4 ヶ月ぶりのマイナスへと落ち込んだ一方、住宅市場の景況感を表 すNAHB住宅市場指数やフィラデルフィア連銀の景況指数などは予 想を上回っており、判断がまだ難しい。このため、来週の指標の中 では、新規失業保険申請件数が 4 月雇用統計(5/8 発表予定)の調 査対象週を含むため、注目度は高まろう。もっとも、天候要因と並 び、米経済指標の下押し要因として警戒されるのが昨年夏場以降に 進んだドルの独歩高だ。最新のFOMC議事要旨でも、経済見通し引 き下げの理由としてドル高が明記されている。ドル高の影響をみる うえでは、今週から本格化している米国の企業決算の内容や今後の 12 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 業績見通しとそれに伴う株式相場の動向にも注目が必要だろう。尚、 来週はFOMC(連邦公開市場委員会)を控えたブラックアウト期間 に入るため、FRB高官発言は予定されていない。 一方、本邦では新年度入りしたこともあり、本邦投資家による対 外証券投資フローが円安圧力をもたらすとの期待が根強い。ただ、 今週発表された対外証券売買契約等の状況によれば、居住者による 株式・投資ファンド持分と中長期債のネットでみた取得額はそれぞ れ 2,794 億円と 2,151 億円の計 4,945 億円にとどまった(第 3 図)。 決して小額ではないが、本邦の経常収支が改善傾向にあることと合 わせれば、円安方向へと相場を動かすにはやや力不足だろう。実際、 年初来でみれば、本邦投資家による株式・投資ファンドおよび中長 期債の買い越し額は総額 9.4 兆円に上るが、この間の円相場は実効 相場ベースでみれば小幅ながらも円高に推移。昨年の例で言えば、 これから 6 月にかけ、対外証券投資が活発化するとみられるが、円 相場への影響は限られる可能性が高い。 米国の利上げ期待が盛り上がりを欠く中、今週は多くの中央銀行 が追加緩和予想もあるなか、総じて政策を据え置いた。年初来盛り 上がりをみせてきた米国と「その他大勢」の金融政策格差はやや縮 小。本邦でも追加緩和への期待が後退していることから、来週のド ル円相場は 120 円乗せとなる場面があっても定着は容易ではなく、 やや下値不安が意識されそうだ。尚、短期的な下値目処としては、 3 月 26 日の安値である 118.33 を意識する市場参加者が多い。 第 3 図: 対外証券売買契約等の状況(週次・指定報告期間ベース) (億円) 20000 (取得超) 15000 10000 5000 0 -5000 -10000 -15000 -20000 -25000 中長期債 -30000 株式 -35000 1 2 3 4 (月) (資料)財務省より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 予想レンジ ドル円:117.70 ~ 120.30 チーフアナリスト 13 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 内田 稔 (2) ユーロ:売り買い材料交錯し、揉み合い推移を予測 今週のレビュー 今週のユーロドル相場は、週初は米 3 月雇用統計が寒波の影響等 から一時的に悪化したものとの見方から弱含んだが、米経済指標の 不冴えな結果から、ドルが売られ上昇した(第 1 図)。 第 1 図: 今週の為替相場推移 (ドル) 1.090 ↑ユーロ高 1.080 1.070 1.060 ↓ユーロ安 1.050 4/13 4/14 4/15 4/16 4/17 (月/日) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 週初にユーロドルは 1.06 ドル台付近で寄り付いた。米 3 月雇用 統計が寒波の影響等から一時的に悪化したとの見方によるドル買い の流れから、13 日にユーロドルは 1.0521 まで下落した。米 3 月小 売売上高が市場予想を上回るとの期待もドル買いをサポートした。 しかし、14 日には、米 3 月小売売上高が前月対比で改善したも のの市場予想を下回ったことから、ドルが売り戻され、1.0708 まで 上昇した。その後は、ポジション調整からユーロドルが幾分下落す る場面もあったが、15 日には米 3 月NY連銀景況指数と米 3 月鉱工 業生産が市場予想を下回り、16 日には米 3 月住宅着工件数、米 4/11 週新規失業保険申請件数が前回比悪化したことからドル売りが 強まった。加えて、ロックハート・アトランタ連銀総裁による「利 上げ開始時期は遅めの方が望ましい」など複数のFED高官発言もド ル売り材料視された。ユーロドルは 1.0818 まで上昇した。 総じてみれば、ユーロドルは、週初は米 3 月雇用統計が寒波の影 響等から一時的に悪化したものとの見方から弱含んだが、米経済指 標の不冴えな結果から、ドルが売られ上昇した。 第 2 表: 相場に影響した主な経済指標 発表日 経済指標名 結果 市場予想 前回 4/14 米 3 月小売売上高(前月比) +0.9% +1.1% ▲0.5%(下方修正) 4/15 米 3 月 NY 連銀景況指数 ▲1.19 7.17 6.90 4/15 米 3 月鉱工業生産(前月比) ▲0.6% ▲0.3% +0.1% 4/16 米 3 月住宅着工件数 92.6 万件 104 万件 90.8 万件(上方修正) 4/16 米 4/11 週新規失業保険申請件数 29.4 万件 28.0 万件 28.2 万件(悪化修正) (資料) Bloombeg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 来週の見通し 来 週 は 、 独 4 月 ZEW 景 況 指 数 ( 4/21 ) 、 ユ ー ロ 圏 4 月 PMI (4/23)、独 4 月Ifo景況指数(4/24)等の経済指標が発表される。 今週発表されたユーロ圏 2 月鉱工業生産やユーロ圏 4 月自動車販売 は良好な結果となり、ユーロ圏景気が持ち直していることを示して 14 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 いる(第 3、4 図)。そのため、来週発表される経済指標も引き続 き良好な結果となることが見込まれる。 第 3 図:ユーロ圏 2 月鉱工業生産 第 4 図:ユーロ圏 4 月自動車登録台数 (2010=100) 110 (%) 10 105 100 0 95 -10 90 85 -20 08/1 09/1 ユーロ圏 10/1 ドイツ 11/1 スペイン 12/1 13/1 フランス 14/1 イタリア 15/1 (年/月) (資料)Eurostat より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成。 12/1 12/7 ドイツ 13/1 フランス 13/7 イタリア 14/1 スペイン その他 14/7 ユーロ圏 15/1 (年/月) (資料)欧州自動車工業会より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成。 4 月ECB理事会(4/15)は、事前予想通り政策金利が据え置かれ、 金融政策の変更はなかった(詳細はトピックス「4 月ECB理事会は 資産買入の継続を強調」を参照)。ユーロ圏景気の持ち直しは資産 買入の効果であることが示された上で、先行きのユーロ圏景気の回 復は資産買入の継続が前提であることから、「資産買入の完全な実 行」が強調された。ユーロドルの反応は限定的であったが、ドイツ の国債利回りは低下傾向(独 10 年国債 0.155%<4/10>→0.085%< 4/16>)にあり、ユーロ売りをサポートしよう。 米国では、今週の経済指標が市場予想を下回る中で、米 3 月中古 住宅販売(4/23)、米 3 月耐久財受注(4/14)等の経済指標が注目 される。 来週のユーロドルは、良好なユーロ圏経済指標がユーロ買い材料 視される場面もあろうが、米金融政策の動向が注目され、基本的に ドル主導の動きとなろう。もっとも、3 月の米経済指標は寒波の影 響に振らされ、まちまちの結果になるとの見方が市場で認識されて いることから、4 月の米経済指標が発表されるまでは、反応は限定 的になるとみている。来週は、売り買い材料交錯し、揉み合いなが ら概ねレンジ内での推移を見込む。ユーロ円も概ねレンジ内での推 移を見込む。 なお、ギリシャ債務問題については、一部報道で 24 日のユーロ 圏財務相会合でのギリシャとトロイカの合意が難しく、ギリシャは 債務不履行に陥るとの見方がある。しかし、当方は、ギリシャは 7、 8 月の国債の大量償還が目前に迫るまではトロイカとの交渉を続け、 予算執行の停止等によって資金繰りを工面するとみている。そのた め、予断を許さないが、マーケットの反応は 6 月までは引き続き限 定的となろう。 予想レンジ ユーロドル:1.0550 ~ 1.0900 ユーロ円:126.50 ~ 130.50 シニアアナリスト 15 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 天達 泰章 (3) 豪ドル:経済指標を睨みながらも底堅い展開を予想 今週のレビュー 今週の豪ドル相場は、0.76 台半ばで寄り付いた。週初の中国貿易 統計にて輸出額が大幅に減少したことを受けて、中国経済への減速 懸念が強まり、交易関係の深い豪ドルが下落。週間安値 0.7553 を 示現した。その後、暫く 0.75 台後半での取引が継続したが、米国 経済指標が相次いで市場予想を下回ると、対主要通貨でドル売りが 活発化し、豪ドルも反転した。週後半には、豪州の雇用統計におい て、雇用者数変化と失業率の改善が示され、豪州債利回りが上昇す る中、豪ドルも一段高となり、約 3 週間ぶりに 0.78 台を回復した。 その後も 0.77 台後半での取引が続いている。 (17 日正午のスポット相場:0.7770-0.7771、第 1 図) 第 1 図: 今週の為替相場推移 (ドル) 0.785 ↑豪ドル高 0.780 0.775 0.770 0.765 0.760 0.755 ↓豪ドル安 0.750 4/13 4/14 4/15 4/16 4/17 (月/日) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 来週の見通し 2 月のオーストラリア準備銀行(以下、RBA)定例理事会におい て、政策金利を過去最低の 2.25%へ引き下げた際、主な理由として 「消費者物価の伸びの鈍化」「失業率の高止まり」「割高な豪ドル 相場水準」をあげた。その内、失業率については今週公表された データによって、その改善を確認することが出来た。また、豪ドル 相場水準についても、週初の安値圏から反転したとはいえ、依然と して利下げ前のレベルを下回っている状況だ。結果、市場の関心は 「物価」に移っている。従って、来週発表される消費者物価指数は、 今後の展開を予測するうえで、非常に重要なイベントとなるであろ う。もっとも、次回RBA定例理事会での利下げ織り込みは、本稿執 筆時点で約 5 割と、週初の約 7 割から急低下している。今般の失業 率改善を踏まえて、市場が追加利下げに対する見通しを見直してい る為だ。足元では米ドル上昇に一服感も出ていることから、来週の 豪ドルは底堅く推移しよう。特に消費者物価指数の伸びが予想を上 回れば、利下げ観測が後退し、豪ドル相場を支えよう。 予想レンジ 対ドル:0.7600 ~ 0.7950 対円:90.50 ~ 94.50 アナリスト 16 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 藤瀬 秀平 (4) 人民元:基準値の安定推移を背景にしっかり推移しよう 今後のレビューと 来週の見通し 今週の人民元は 6.20 台後半で寄り付いた。週初は 6.21 台後半へ 軟化する場面も見られたが、週後半は対ドル基準値が元高方向へ設 定されるにつれて実勢相場も上昇。17 日には一時約 3 週間ぶりと なる 6.18 台後半を示現している。 第 1 図: 人民元対ドル相場推移 6.30 (元) 6.25 6.20 6.15 6.10 対ドル基準値 一日の変動許容制限 6.05 6.00 5.95 1/1 2/1 3/1 4/1 (資料) Reuters,Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 第 1 四半期実質GDP成長率は前年比+7.0%となり、第 4 四半期 (前年比+7.3%)から伸びが鈍化した。今回、需要項目別寄与度は 発表されていないが、需要項目関連指標の第 1 四半期のデータを見 ると、都市部固定資産投資(第 4 四半期:前年比+13.3%→第 1 四半 期:同+13.5%)、小売売上高(第 4 四半期:前年比+11.7%→第 1 四半期+13.9%)などにやや改善が見られた。一方、不動産投資額 は鈍化し 3 月の不動産投資額(前年比+8.6%)は 2009 年 7 月以来と なる一桁台へ低下。また、外需動向にも翳りが出てきており、第 1 四半期の輸出は前年比+4.7%と第 4 四半期の同+8.6%から低下して いる。加えて、3 月の鉱工業生産が前年比+5.6%へ低下するなど、 足元の経済指標を総じてみれば、冴えない内容が目立つ結果となっ た。 第 2 図:実質 GDP 成長率(前年比) (%) 15 第 3 図: 不動産投資額 (年初来・前年比) 40 (% ) 35 13 30 25 11 20 9 15 10 7 5 5 01/3 02/3 03/3 04/3 05/3 06/3 07/3 08/3 09/3 10/3 11/3 12/3 13/3 14/3 15/3 (年/月) (資料)中国国家統計局より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 17 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 0 11/01 11/07 12/01 12/07 13/01 13/07 14/01 14/07 15/01 (資料)中国国家統計局より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 国家統計局は、中国経済のハードランディングのリスクは小さい としながらも、下振れ圧力に直面しているとの認識を示した。GDP 成長率は既に 2015 年の成長目標である+7.0%まで低下してきており、 第 2 四半期も鈍化が続けば成長目標達成は厳しい。李首相は、GDP 発表後に実施された英紙のインタビューで、成長目標を達成するこ とは容易ではないとの見解を示している。その為、政府・中銀は景 気下支え策を講じてこよう。5 月に発表される 4 月の経済指標が弱 い内容となれば、利下げが実施される可能性もあり注意が必要だ。 第 4 表: これまでの政府による主な景気下支え策(2014 年 4 月以降) 時期 実施機関 政策 Apr-14 国務院 鉄道投融資体制改革 基金の設立、鉄道債券投資収益の所得税優遇の実施等 Apr-14 国務院 バラック地域改造、インフラ整備のサポートにおける金融機関参入の推奨 Apr-14 財政部 小型・零細企業の所得税減免 Apr-14 国務院 インフラ建設などの分野で民間資本参入を許可 Apr-14 国務院 貿易安定促進策 ハイテク設備・コア部品の輸入推奨、通関手続の簡略化等 Sep-14 財政部 公共インフラプロジェクトの企業法人税を減免 Oct-14 財政部 中小・零細企業に対する優遇税率対象を拡大 Feb-15 国務院 中小・零細企業に対する優遇税率対象の拡大等の方針を決定 (資料) 各種報道より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 李首相は前述のインタビューで中国経済先行きに厳しい見方を示 した一方、輸出拡大のために人民元安に依存することは出来ず、人 民元の一段の価値低下は望まないとも言及している。 来週も、対ドル基準値が現水準を中心に安定推移すると見られる なか、人民元はしっかりと推移しよう。 予想レンジ ドル人民元:6.1700 ~ 6.2100 人民元円:19.10 ~ 19.50 アナリスト 18 来週の相場見通し | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 関谷 菜摘 来週の主な経済指標 20 日 (月) 21 日 (火) 22 日 (水) 23 日 (木) 24 日 (金) 18:00 18:00 8:50 10:30 22:00 23:00 23:00 10:45 17:00 17:00 21:30 23:00 17:00 17:00 17:00 21:30 独 独 日 豪 米 米 ユ 中 ユ ユ 米 米 独 独 独 米 ZEW 景況感調査(期待指数、4 月) ZEW 景況感調査(現況、4 月) 貿易収支(通関ベース、3 月・億円) 消費者物価指数(前年比、1Q) FHFA 住宅価格指数(前月比、2 月) 中古住宅販売件数(3 月・万件) 消費者信頼感指数(4 月速報) HSBC 製造業 PMI(4 月速報) 製造業 PMI(4 月速報) サービス業 PMI(4 月速報) 新規失業保険申請件数(4/18・万件) 新築住宅販売件数(3 月・万件) Ifo 景況指数(景気動向、4 月) Ifo 景況指数(現況評価値、4 月) Ifo 景況指数(予想値、4 月) 耐久財受注(前月比、3 月) 22:00 1:30 10:30 1:30 17:30 16:45 ユ 豪 豪 ユ 英 ユ コンスタンシオ・ECB 副総裁講演 スティーブンス・オーストラリア準備銀行総裁講演 RBA 議事要旨(4/7 分) ヌイ・単一監督メカニズム(SSM)議長講演 MPC 議事録(4/8, 9 分) プラート・ECB 専務理事講演 12:45 2:00 日 米 ユ 40 年債入札 5 年インフレ連動債入札 EU 財務相会合(~25 日) 中央銀行関連 20 日 (月) 21 日 (火) 22 日 (水) 23 日 (木) 24 日 (金) その他 20 日(月) 21 日(火) 22 日(水) 23 日(木) 24 日(金) ※市場予想は Bloomberg 調査中央値 時刻は日本時間 *印は作成日(4/17)現在で未確定のもの 19 来週の経済指標・イベント | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 予想 前回 55.0 55.0 459 1.3% 0.6% 501 ▲ 2.0 49.4 52.5 54.4 54.8 55.1 ▲ 4,250 1.7% 0.3% 488 ▲ 3.7 49.6 52.2 54.2 29.4 53.9 107.9 112.0 103.9 ▲ 1.4% 50.9 108.2 112.5 104.5 0.6% マーケットカレンダー 月 火 2015/4/20 水 木 21 独/ZEW 景況指数(4 月) 豪/RBA 議事要旨(4/7 分) 22 金 23 米・5 年 TIPS 債入札 27 24 米/FHFA 住宅価格指数(2 月) 米/新築住宅販売(3 月) 米/耐久財受注(3 月) 中古住宅販売(3 月) ユーロ圏/製造業 PMI 速報 独/Ifo 景況指数(4 月) 英/MPC 議事録(4/8, 9 分) (4 月) 日/貿易収支速報(3 月) サービス業 PMI 速報(4 月) 豪/消費者物価指数(1Q) 28 米/FOMC(~29 日) 29 EU 財務相会合(~25 日) 30 5/1 米/個人所得・消費支出(3 月) 米/建設支出(3 月) シカゴ PM 景況指数(4 月) ISM 製造業景気指数(4 月) ケース・シラー住宅価格指数 ユーロ圏/失業率(3 月) 自動車販売(4 月)* (2 月) ユーロ圏/マネーサプライ M3 消費者物価指数速報(4 月) 中/製造業 PMI(4 月) CB 消費者信頼感指数(4 月) (3 月) 英/GDP 速報(1Q) 欧州委員会景況指数(4 月) 日/日銀金融政策決定会合 日/完全失業率(3 月) 日銀総裁定例会見 消費者物価指数 経済・物価情勢の展望 (東京都区部 4 月、全国 3 月) 鉱工業生産速報(3 月) 家計調査(3 月) 住宅着工件数(3 月) 欧州議会本会議(~30 日) 米・2 年債入札 米/FOMC GDP 速報(1Q) 米・7 年債入札 日・市場休場 米・5 年債入札 4 米/製造業受注指数(3 月) 米・サンフランシスコ連銀総裁講演 独・市場休場 米・タルーロ FRB 理事講演 5 6 米/貿易収支(3 月) 米/ADP 雇用統計(4 月) 労働生産性速報(1Q) ISM 非製造業景気指数(4 月) ユーロ圏/生産者物価指数(3 月) ユーロ圏/小売売上(3 月) 豪/RBA 理事会 7 8 米/消費者信用残高(3 月) 米/雇用統計(4 月) 英/MPC(BOE 金融政策委員会、 卸売在庫・売上(3 月) ~8 日) 英/MPC(BOE 金融政策委員会) 豪/雇用統計(4 月) 中/貿易収支(4 月) 消費者物価指数(4 月、9 日) 生産者物価指数(4 月、9 日) 日/日銀金融政策決定会合 議事要旨(4/7, 8 分) 米・シカゴ連銀総裁講演 米・サンフランシスコ連銀総裁講演 米・ミネアポリス連銀総裁講演 日英・市場休場 日・市場休場 11 米・クリーブランド連銀総裁講演 日・市場休場 12 英/MPC(BOE 金融政策委員会、 米/財政収支(4 月) 結果発表) 日/景気動向指数速報(3 月) 中/マネーサプライ M2(4 月)* 英・総選挙 13 米/小売売上(4 月) 輸出入物価指数(4 月) 企業在庫(3 月) ユーロ圏/ECB 理事会議事録 14 米/生産者物価指数(4 月) 設備稼働率(4 月) ミシガン大消費者信頼感指数 速報(5 月) (4/15 分) GDP 速報(1Q) 鉱工業生産(3 月) 英/インフレーションレポート 中/小売売上(4 月) 鉱工業生産(4 月) 証券投資収支(3 月) 固定資産投資(都市部、4 月) 日/国際収支速報(3 月) 対外対内証券売買契約状況 (4 月) 景気ウォッチャー調査(4 月) 米・サンフランシスコ連銀総裁講演 米・3 年債入札 ユーロ圏財務相会合 EU 経済・財務相理事会 米・10 年債入札 *印は作成日(4/16)現在で日程が未確定のもの 20 マーケットカレンダー | 平成 27(2015)年 4 月 17 日 15 米/NY 連銀景況指数(5 月) 鉱工業生産(4 月) 米・30 年債入札 照会先:三菱東京UFJ銀行 市場企画部 グローバルマーケットリサーチ チーフアナリスト 内田 稔 当資料は一般的な情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定のお客様のニーズ、財務状況又は投資対象に対応することを意図しておりませ ん。また、当資料は、適用法令上許容される範囲内でのみ利用可能であり、当資料の頒布を制約する法令が存在する地域の方によって利用されることを意 図しておりません。当資料内のいかなる情報又は意見も、預金、有価証券、デリバティブ取引その他の金融商品の売買、投資、保有などを勧誘又は推奨す るものではありません。 当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当行はその正確性、適時性、適切性又は完全性を表明又は保証するものではなく、 当行、その子会社又は関連会社は、お客様による当資料の利用等に関して生じうるいかなる損害についても責任を負いません。ご利用に関しては、すべて お客様御自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。 また、過去の結果が必ずしも将来の結果を暗示するものではありません。 当行は、当資料において言及されている会社と関係を有し、又はかかる会社に対して金融サービスを提供している可能性があります。当行のグループ会 社は、当資料において言及されている証券又はこれに関連する証券について権利を有し、又はこれらの証券の引受けを行っている可能性があり、また、こ れらの証券又はそのポジションを保有している可能性があります。 当資料の内容は予告なしに変更することがあり、また、当行、その子会社又は関連会社は、当資料を更新する義務を負っておりません。また、当資料は 著作物であり、著作権法により保護されております。当行の書面による許可なく複製又は第三者、個人顧客もしくは一般投資家への配布をすることはでき ません。 (BTMUロンドン支店のみに適用される情報開示) 株式会社三菱東京UFJ銀行(以下「BTMU」)は、日本で設立され、東京法務局(会社法人等番号 0100-01-008846)において登記された有限責任の株式会 社です。 BTMUの本店は、東京都千代田区丸の内二丁目 7 番 1 号(郵便番号 100-8388)に所在しています。 BTMUロンドン支店は、英国会社登録所において、英国支店として登録されています(登録番号BR002013)。 BTMUは、日本の金融庁によって認可及び規制されています。BTMUロンドン支店は、英国プルーデンス規制機構より認可を受けており(FCA/PRA番号 139189)、英国金融行為監督機構の規制とプルーデンス規制機構の限定された規制の対象となっています。英国プルーデンス規制機構によるBTMUロンド ン支店の規制の範囲の詳細は、ご請求いただいた方にお渡ししております。 21 FX Weekly | 平成 27(2015)年 4 月 17 日
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