Kobe University Repository : Kernel

 Kobe
University Repository : Kernel
Title
野球選手の投球における投射角度の違いがボール初速度
に及ぼす影響
Author(s)
前田, 正登
Citation
身体行動研究, 1: 1-11
Issue date
2012-03
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81008836
Create Date: 2015-04-16
身体行動研究 1:1
1
2,2
0
1
2
研究論文
野球選手の投球における投射角度の違いが
ボール初速度に及ぼす影響
E
f
f
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ABSTRACT:Thep
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h
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movement.
を変化させ,砲丸の飛距離を計算により推定している.
緒言
一般に,投射されるボールの飛距離は,投射時におけ
るボールの初速度及び投射角,投射高の 3つで決定され
る.このうち,ボーノレの初速度は飛距離に最も影響する
要因と言われているが,その初速度は投射される角度に
影響されることが知られている.
8
3
)が投射角と投射速
砲丸投げにおいては,金子ら(19
度の関係及び投射角と投射高の関係を実験により求め,
投てき距離を最大にする最適投射角の推定を試みている.
この中で,投射角を変えると投射速度も変化し,ある投
射角の時に極大値となることから,投てき距離はある投
射角の時に極大となり,この投射角が理論上の最適な投
1
それによれば,砲丸投げの最適投射角と言われている 4
~42度の角度で投げ出そうとすると,投射速度の大きな
損失を招き,十分なパフォーマンスを発揮できないこと
があるという.
L
i
n
t
h
o
r
n
巴(
2
0
01)は,砲丸投げにおいて砲丸投射時の
運動学的パラメータ及び力学モデルを用いて,投射角度
が増加するに伴い初速度が減少することを説明した.そ
の中で,選手それぞれに初速度減少の割合や投射角度の
増加に伴い用いることができる力にも違いがあることを
指摘し,選手はそれぞ、れ特定の最適な投榔角度を持って
いると報告している.
度減少する
また,やり投げにおいては,投射角度が1.5
射角であるとしている.また,その最適投射角は個人に
よって異なるもので、あったという.
8
9
)は,砲丸投げのフ。ッシュオフ期(押し出す
木村(19
期間)において,選手が砲丸に加える力積値や力の方向
f
t
/
s(
約0
.
3
m
/
sに相当)増加する (
T
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u
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と初速度は 1
1
9
7
4
)と言い, Red& Z
o
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a
i
b(
19
7
7
)は,やり投げ選手を
対象に投射する角度を変えた時の初速度を測定した結果
度増加すると初速度は 0
.
1
2
7m/sの割合
から,投射角が 1
* 神戸大学大学院人開発達環境学研究科教授
- 1一
身体行動研究 1
:1
1
2,2
0
1
2
で低下するとし、う結論を導いている.
種類の投射角度を 6セット計 3
6回の投球
行うものとし, 6
これらの研究は砲丸投げややり投げという,それぞれ
投ごとに投射
を行わせるものとした.実験では験者が 1
に固有の投射方法を用いる種目についてのものマ、あるが,
角度を指示するとともに,指示された投射角度にしよう
投てき物の初速度が投射角度に影響されるという結論と
と無理な体勢から投げることのないように,投球フォー
選手の個人内変動に着目していることは共通するもので
ムを変えないことを指示した.
ある.
被験者の投げ動作及び投射したボーノレの投射初期状態
ボール投げにおける投射角度と初速度の関係について
を,被験者の側方約 15mの位置からハイスピードビデオ
1
9
8
0;1
9
8
3
)が5
名の被験者に対して 4種類の
は,三浦ら (
社製)を用い
カメラ (FASTCAM-Rabbit:PHOTRON
ボーノレを用いた水平投げ,遠投及び直上投げにより検討
:
f
ps,シャッタースピード 112000秒で撮
て,撮影速度 240
している.それらによれば,水平投げと遠投においては
影・録画した
投げの角度が低いほど速い初速度であったとし,この原
表 1 被験者の身体的特徴
因として投げ動作中のボールの重量の影響と動作中に発
揮する力を挙げ,主に初速度の大きさに影響するのはボ
身長
(
c
m
)
被験者
ーノレの重量で、あると結論としている.しかしこの研究は,
同一被験者で投射角度の変化に伴う初速度の動向を調査
体重
(
k
g
)
野球経験
(
y
r
s
)
N.M
176
73
1
3
174
70
14
173
68
1
1
投げを対象にした前述の先行研究と比較すると,収集し
S
.
T
Y.S
S.N
180
75
1
1
たデータのサンフ。/レ数が少ないうえ,主変量となる投射
U.T
174
69
14
165
63
1
2
170
63
1
4
本研究では,野球選手を対象に,ボーノレを投射する際
K
.
Y
S.A
K
.K
174
75
1
1
の初速度が投射角度にどのように影響されるのかについ
M.K
171
64
1
0
H.T
F.Y
172
72
1
2
179
66
1
1
H.Y
173
65
1
0
したものではないため,個人による影響の程度の違いに
投手
ついては検討がなされていない.また,砲丸投げややり
角度の範囲も小さく,投射角度の増減がボール初速度に
内野手
及ぼす影響について詳細に検討したとは言い難い.
て検討した.さらに,投射角度によって影響される初速
外野手
度が,どのような要因で変化するのかついても検討した.
研究方法
3
.分析方法
1.被験者
動作解析ソフト COSMOS(ライブラリー社製)を用い
名,内野手4
被験者は大学硬式野球部に所属する投手4
て2次元DLT法により分析を行った.撮影した映像をコ
名,外野手4名,計 1
2
名の野球選手で,すべて野球経験
1
0年以上とした.被験者の身長,体重及び野球の経験年
こ示す.なお,被験者には測定の内容を説明し,
数を表 u
ンヒ。ュータに取り込み,その画像をもとに,ボールの中
心及び被験者の右手首,右肘,右肩,右大転子をデジタ
イズした.
実験に参加する同意を得た.
測定されたボールの位置座標を時間微分してボールの
0コマまでのボーノレ速度の
速度を得,リリース直後から 1
2
.実験方法
平均値を初速度とした.また同様に,リリース直後のボ
1
2名の被験者に大学試合用硬式野球ボール(約 1
4
6
g
)
を,様々な投射角度(方向)に最大努力で投げさせた.
様々な投射角度として,
よりやや上),
ムノレの位置座標を直線近似し,その直線と水平線のなす
角を投射角度とした.
[
"
水
平J, ["やや上 J (["水平 j
["やや下 J (["水平」よりやや下),
算出されたボール初速度は,投げ動作中に人がボーノレ
[
"
遠
に加えた力とボーノレに作用する重力との合力によって生
投 J, で き る だ け 上 J,遠投とできるだけ上の間 J
の6種類の主観的な投射角度を設定した. 6
種類の投射角
、1
9
8
3
) ことから,本研
じるものである(三浦ら, 1980;
究で、はボールに作用する重力の分を差し引き,人がボー
度 の う ち 水 平 J, 遠 投J, で き る だ け 上 j の3
種類を順不同で先に行い,その後で「やや上 J, や や
下 J,遠投とできるだけ上の間」の 3種類を順不同で
ノレに加えた力によってのみ生じるボール初速度(以後,
ボーノレの質量を考慮したときの初速度と表す)を算出し
た.すなわち,投げの構えからリリースまでの投げ動作
-2一
前田:投射角度の違いがボール初速度に及ぼす影響
秒間 l
こ質量mのボールに対して行ったとすると,ボー
をt
本研究では,投げ動作中の左足着地後からボールリリ
ノレに加えられた力の平均ベクトル fは次式で表される.
ース時に至るまでの聞において, リリース位置から最も
遠い位置にボーノレが達した時刻を特定し,この時刻から
;
: m(V
V
'
)
聞
1
一 一
t
リリース時刻まで、にボーノレに作用した重力に起因する鉛
τ
直速度分をボール初速度に加算した.また,この時刻聞
に被験者がボーノレを移動させた距離(以後,ストローク
V
'
投げの構えでのボールの水平速度ベクトル
長と表す)を算出した.
なお,本研究での統計処理の有意水準を 5%未満とした.
Vo:!Jリース時の初速度ベクトノレ
一方,
結
fは,人がボールに加えたカベクトノレ Fとボール
果
(1)投射角度の範囲
に働く重力のベクトノレ明fとの合力となり,次式で示さ
木研究では,各被験者で主観的に投射角度を設定して
れる.
様々な角度でボールを投射することを指示したため,被
f=F+明7
験者によって投射角度のばらつきの程度は異なっていた.
各被験者における全試技の投射角度を図 1に示す.最も
したがって,投げ動作中に人がボールに加えた力 Fは
,
広範囲の角度にわたって投射していたのは,内野手の
S.A
で1.9d
e
g
.から 4
3
.
3d
e
g
.まで41
.4d
e
g
.の範囲であり,
一
一
→
→
次に広範囲にわたって投射していた被験者も内野手D.T
→
F=?(K-V7・w
(
41
.3d
e
g
.:0.4~4 1. 6 d
e
g
.
) で,内野手は投射角度の
範囲が比較的大きかった.一方,投射角度の範囲が最も
として示すことができ,投げ動作において人がボールに
5
.
8d
e
g
.(
0
.
1~25.9
小さかった被験者は,投手S.Nの2
加える力はリリース直後のボーノレ初速度に反映されるだ
d
e
g
.
) で,次に小さかった被験者も投手S
.
T(
2
8
.
3d
e
g
.:
けでなく,ボール質量を支えるための力が加わっている
0 .4~28. 7d
e
g
.
)であり,投手の投射角度の範囲は比較的
ことになる.
小さかった.
40
•••
• •
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.
.
.
.
,
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••••
•
•
• -
•
S
。
N.M
投手
内野手
図 1 各被験者における全試技の投射角度
- 3一
外野手
身体行動研究 1:1-12, 2012
るもので、あった.
(
2
)投射角度とポール初速度の関係
各被験者における投射角度と初速度の関係をポジシ
ョンごとに図 2a,図 2b,図 2
c
及び表 2にそれぞれ示す.
(
3
)ボールの質量を考慮したときの投射角度とボール
これらから明らかなように, 全被験者において投射角
初速度の関係
度とボール初速度の聞には有意な負の相関関係が認め
各被験者におけるボール質量を考慮したときの投射
られ,投射角度が増加するに伴い初速度は減少する傾
角度と初速度の関係をポジションごとに図 3a,図 3
b,
向が認められた.これ らの相関係数は被験者N
.M1こお
図3
c
及び表 3にそれぞ、れ示す.被験者 1
2
名の うち,ボー
いて 0
.
9
4
4の極めて高い値を示したように,多くの被験
ル質量を考慮したとき投射角度が増加するに伴いボー
者において -0.7~-0.8 のいずれも高い値であった.また,
ル初速度が有意に減少した者は投手 3名,内野手2名
,
回帰式の傾きで示される投射角度の増加に伴う初速度
外野手3名の計8名であり, 4名の被験者は投射角度が増
の減少の割合は被験者によって異なり,投射角度の変
加しでもボール初速度に有意な減少は認められなかっ
化による初速度への影響の程度は被験者によって異な
た.
40
・
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.
)
図2a 投手における投射角度と初速度の関係
40
・
・
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.
1
0究
:
X+3
2.
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n
g
l
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d
e
g.
)
図2b 内野手における投射角度と初速度の関係
-4-
40
前回
投射角度の違いがボール初速度に及ぼす影響
(
4
)投射角度とストローク長,ストローク長とボール初速
す.また,表 4には各被験者におけるストローク長と初速
度の関係
度との関係も合わせて示す.被験者8名のうち,投射角度
被験者 1
2
名のうち,ボール質量を考慮、したとき投射角
が増加するに伴いストローク長が有意に減少した者は投
度が増加するに伴いボール初速度が有意に減少した 8名
手2
名,内野手 1
名,外野手 1
名の計4
名であり,この 4
名
の被験者について,投射角度とストローク長の関係をポ
ではストローク長とボール初速度に有意な正の相関関係
ジシ ョンごとに図 4
a,図 4
b,図 4
c
及び表 4にそれぞれ示
が認められた.
4
0
・
O M.
K
H.
T
・
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3
5
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0
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d
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g
.
)
図2
c 外野手における投射角度と初速度の関係
表2 各被験者における投射角度と初速度の関係
投手
内野手
外野手
※林
N.
M
S
.
T
Y
.S
S
.
N
3
2
3
0
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Y
H
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Y
3
5
3
3
3
5
30
相関係数
回帰式
n
y=0.
1
5
6x+31
.2
8
y=0.
0
3
8x+3
5
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キ*
*
y=0
.
1
3
3x+3
3
.
7
7
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y=0
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*
y=0
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5
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y=0.
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*
*
y=0
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1
0
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2
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1
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キ*
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5
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.
0
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5x+2
9
.
2
1
*
*
*
*
*
*
*
*
y=0
.
0
9
5x+3
2
.
1
0
キ*
y=0
.
0
7
8x+31
.3
0
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.
0
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*
*
*
*
*
*
*
*
*
キ*
*
*
*
*
身体行動研究 1:1
ー1
2, 2
0
1
2
考 察
て初速度に差は無かったとしており,本研究の結果と
は異なる.これには,主変量としての投射角度の範囲
1投射角度の増加に伴うボール初速度減少の要因
の広さが影響しているものと考えられる.すなわち, 2
2
名の被験者は,いずれも投射角度
本研究における 1
が増加するにしたがってボール初速度は減少していた.
これは,三浦ら (1983) が4種類のボールを用いて水平
つの先行研究は本研究のように投射角度を主変量とし
て広範囲にわたって様々に変化させているわけではな
く,三浦らの研究の方が対象とした投射角度の範囲が
投げと遠投により,ボール投げにおける投射角度と初
比較的広かったために本研究の結果と 一致したものと
速度の関係を検討した結果,投射角度が低いほど初速
考えられる .
度は速かったと報告していることと一致する. しかし
一方で,宮西ら (1995) は,速投と遠投の比較におい
•
40
•
35
•
)
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図3
a 投手におけるボール質量を考慮したときの投射角度と初速度の関係
40
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T
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40
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g
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g
.
)
図3
b 内野手におけるボール質量を考慮、したときの投射角度と初速度の関係
- 6一
前回
投射角度の違いがボール初速度に及ぼす影響
三浦ら(19
8
0;1
9
8
3
) によれば,投射角度がボール
内野手 1
名(K.Y),外野手 1
名(M.K)においては,投射角
初速度に与える影響は,主として「ボールに作用する
度とストローク長との聞に有意な負の相関関係が認め
重力の作用によるもの j であるという.しかし,本研
られ,ストローク長とボール初速度との聞にも有意な
究において「ボールに作用する重力の作用によるもの J
正の相関関係が認められた.つまり,この4名では投射
と考えられる被験者は,図 3
a,図 3
b,図 3
c
及び表 3
で、有
角度が増加するに伴い,ストローク長が減少し結果と
意差なしと判断された投手 1
名(
S
.
T
),内野手2
名(
U
.
T,
してボール初速度が減少したものと考えることができ,
K.K),外野手 1
名(
H
.
T
)の計4名に過ぎ、なかった.
ボールに作用する重力の作用に加えてストローク長の
減少もボー/レ初速度の減少に繋がったものと考えられ
投射角度の増加に伴うボール初速度の減少の要因が,
る.
ボールに作用する重力の作用によるものだけではない
N
.
M,y.
s
)
,
と判断された残りの 8名のうち,投手 2名 (
40
KU
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)
図3
c 外野手におけるボール質量を考慮したときの投射角度と初速度の関係
表 3 各被験者におけるボール質量を考慮したときの投射角度と初速度の関係
n
投手
内野手
外野手
※林
N.M
S
.
T
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H
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T
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H.
Y
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30
相関係数
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1
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*
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*
*
身体行動研究 1
:1
1
2, 2
0
1
2
最後に残った投手 1
名(
S.
N),内野手 1
名(
S
.
A
),外野手
る.ボールを投げることはボールに対して仕事(力×
2名 (
F
.
Y
,
H.Y)の4名については,ボールに作用する重力
距離)をなすことであり,ボールへの仕事量の増大は
の作用が一因であることには違いないものの,投射角
9
9
2
;吉福, 1
9
8
2
)
.
ボ、ール初速度の増大に繋がる(桜井, 1
度とストローク長には有意な関係が認められなかった
つまり,これら 4名の被験者ではボールに作用する重力
ことから,ストローク長ではなく投げ動作中における
の作用に加えて,ボールに対して加える力量の減少が
力量や力の加え方が一因となっていることが推察され
ボール初速度の減少に繋がったものと考えられる .
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図 4a 投手における投射角度とストローク長の関係
4
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g.
)
図 4b 内野手における投射角度とストローク長の関係
- 8一
40
前回:投射角度の違いがボール初速度に及ぼす影響
2
.投射角度がボール初速度に及ぼす影響
投げ動作の変容が要因として挙げられたことから,被
被験者における投射角度の増加に伴うボール初速度
験者には気付かない程度の変容で、あったものと推察さ
に示す.投射角度の増加に伴
減少の要因をまとめて表5
れる.逆に,投射角度の増加に伴うボール初速度減少
うボール初速度減少の要因の 1っとして考えられた,ス
S.
T,
の要因がボール質量の影響のみであった被験者 (
トローク長の減少やボールに加えられる力量の減少は,
D
.T
,K
.
K
,H
.
T
)は,動作を変容させない範囲でしか投射
いずれも投げ動作そのものの変容としてみることがで
で示され
角度を変えなかったのではないだろうか.図 1
きる.したがって,投射角度の増加に伴うボール初速
.
Tと被験者H.
Tは全被験者の中でも
るように,被験者S
度減少の要因には,主としてボール質量の影響が挙げ
投射角度の範囲が小さく,被験者K.Kの投射角度の範囲
られるものの,投げ動作の変容も要因となることが少
も大きくはない.これらの被験者では,投げ動作が変
なくないということになる.本実験の設定において投
容するに至る(投げ方を変えてしまう)まで,投射角
げ動作を変えないように指示していたにもかかわらず,
度の範囲を広げなかったと考えることもできる.
4
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K
・
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) £四戸‘,
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g
.
)
図4
c 外野手における投射角度とストローク長の関係
表4 各被験者における投射角度と投げ動作中にストローク長の関係
及びストローク長と初速度の関係
ストロー坊と相臨
投射角度とストローク長
n
被験者
相関係数
回帰式
32
3
1
3
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.
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Y.
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内野手
外野手
相関係数
K.Y
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-9一
身体行動研究 1
:1
1
2,2
0
1
2
表 5 被験者における投射角度の増加に伴う初速度減少の要因
投げ動作の変容
被験者
投手
内野手
外野手
ボール質量
N.M
S
.
T
Y
.
S
S
.
N
D.T
K
.Y
S
.
A
K
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M.K
H.T
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Y
H
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O
O
O
O
O
O
O
O
。
。
。
力の加え方
O
O
O
O
O
O
これらの結果は実際の場においても重要な示唆を与
者がボーノレに加えた力によってのみ生じるボーノレ初速
え得るものである.例えば,外野手が捕手へ返球する
度を算出した.これらを分析した結果,次のことが明
場面では,外野手は返球の仕方について,ある程度高
らかとなった.
・いずれの被験者も投射角度が増加するに伴い,ボ
い投射角度をもって投射(遠投)するか,あるいは,
ーノレ初速度は減少していた.
捕手に達するまでに数回バウンドしてでも水平に近い
角度で投射するかという選択を迫られる.このような
・投射角度の増加に伴うボール初速度の減少には,
場合は,その選手の特性(投射角度の増減によるボー
主としてボールの質量による影響が要因として考
ル初速度への影響の度合い)にもよるが,投射角度を
えられた.
増加させて高い角度で投射するとボール初速度は確実
・投射角度の増加に伴うボーノレ初速度の減少の要因
に減少することから,より水平に近い角度で、投射する
として,ボールの質量による影響に加えてストロ
ことが推奨される.また,投手の投げ動作の練習にお
ーク長の減少や力量の減少といった被験者の投げ
いては,高い投射角度では選手が気付かないうちに投
動作そのものが変容したことが考えられた.
げ動作が変容する可能性が指摘されていることから,
・ボール初速度減少の要因がボール質量の影響のみ
投手には高い投射角度での遠投練習は推奨できないこ
と考えられた被験者は,比較的投射角度の範囲が
とになろう.
小さい者であった.これらの被験者では,投げ動
作が変容するに至るまで投射角度の範囲を広げな
かったものと考えられた.
総 括
今後,投げ動作の変容に至らない投射角度の範囲を
本研究では,野球選手を対象にボール投げにおける
調査すること,そしてその範囲とポジションごとの特
投射角度がボール初速度に及ぼす影響について検討し
徴を検討することが課題である.
2
名の野球選手に対して, 6
種類の主観的な投射角
た. 1
度で 6回ずつ最大努力により野球ボーノレを投げさせた.
被験者の投げ動作及びボールの挙動を,被験者の側方
文 献
に設置した高速度ビデオカメラを用いて撮影・録画し
金子今朝秋・小林一敏・菅原秀二・大島義晴 (
1
9
8
3
)
次元DLT
法によりボールの
た.記録された映像から, 2
砲丸投げの最適投射角度に関する一考察, I
}
頂天堂大
2
6
)
:34・
3
9
.
学保健体育紀要, (
位置座標の時間変化を得,ボールの投射角度,ボーノレ
木村広 (
1
9
8
9
) 砲丸投げの力学的な最適投射角度につ
初速度及び投げ動作中にボールを移動させた距離など
7
0
.
いて,日本体育学会第 40回大会号A:3
を算出した. さらに,ボーノレに作用する重力の作用に
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よる影響(ボーノレ質量の影響)を検討するため,被験
- 10一
前回.投射角度の違いがボーノレ初速度に及ぼす影響
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三浦望慶・橋本勲 (
1
9
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) 投げにおける方向と初速度
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Mechanics,44:496・4
桜井伸二 (
1
9
9
2
) 力学的にみた合理的な投げ動作,投
と重量と,体育の科学, 30:4
73・4
7
7
.
三浦望慶・池上康男・松井秀治・橋本勲 (
1
9
8
3
) 投げ
2
81
.
げる科学:大修館書店, 6
Terauds,J
.(
1
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) Optimala
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の方向とボーノレの重さが初速度におよぽす影響につ
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9・1
9
5
.
いて,身体運動の科学 V,杏林書院:1
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宮西智久・藤井範久・阿江通良・功力靖雄・岡田守彦
(
19
9
5
) 大学野球選手における速投および遠投動作
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8
3
.
BiomechanicsIV:1
8
0・1
吉福康郎 (
1
9
8
2
) 投げる一物体にパワーを注入する,
次元的比較研究,体育学研究, 4
0
(
2
)
:89・1
0
3
.
の3
Red
,W.E
.
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1
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ndynamics
-11一
JapaneseJournalo
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S
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0
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