【文学賞】 天使の画集 老梅に魑魅の遊ぶ花明り 紙漉きの日暮れて映る窓の影 人声に似たるがあはれ猫の恋 蝌蚪の紐沼に流れのあるやうな 花吹雪浴びたる夜の身の熱し 蛇口出て水の膨らむ立夏かな 湯 浅 康 右 154 葬送の窓を離るる梅雨の月 結び目を口にて解く多佳子の忌 水にやや疲れの見ゆる菖蒲園 茄子漬のじゆあつと泉州河内かな もの想ふ彼方に光る夏の雲 汗拭ひやつと事態の急を知る 暮れ際の鴉の鳴ける迎へ盆 燐寸擦る束の間父母の墓涼し 涼しさが人恋ひしさに伎芸天 峰雲に過去を問ひたき戦中派 155 台風に天動説のやうな雲 敗荷にあゝ玉砕の声のする 追伸に弱音の出たる夏だより 旅行けば海霧にたちまち消ゆる街 紫陽花の終の花びら露をつけ 歌垣の筑波に上がる望の月 色変へぬ松に小鳥の入れ替はる 十月桜人を寡黙にしてをりぬ 行く秋の薄目して鳴く柵の鶏 郭公の森に来てゐる白秋忌 156 ロザリオを胸に聖夜の見舞妻 不揃ひの合唱冬が遠巻きに 首切つて擂り大根に決めにけり 冬ぬくし天使ばかりの画集買ふ 157
© Copyright 2025 ExpyDoc