2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望

2020年までの道のり
小売業参入の長期的展望
目次
はじめに
1
短期的展望
2
ドイツ
2
日本
5
メキシコ
9
中期的展望
12
ブラジル
12
フランス
16
イタリア
19
英国
22
スペイン
25
長期的展望
29
イラン
29
パキスタン
33
統計資料
36
連絡先
40
2020年までの道のり:
小売業参入の長期的展望
小売業のグローバル化が進む中、各小売業者はどのマーケットに
参入すべきか難しい選択を迫られている。過去数年間、デロイト
とプラネットリテールは『Hidden Heros(隠れたヒーロー)』という
タイトルの一連のレポートを通じて、小売業者の興味を引きそう
な新興市場にスポットライトを当ててきた。これらの新興市場に
は、誰の目にも留まる国(中国、インド、トルコなど)もあれば、さほ
ど目立たない国(ナイジェリア、アルジェリア、カザフスタンなど)も
含まれていた。これらのレポートの目的は、各市場がなぜ興味の
対象となりうるかについて、その理由を明らかにすることだった。
しかし本レポートでは、いくつかの市場を取り上げるに当たって、現時点での魅力ではなく参入時期の観点を重視すること
にした。したがって短期、中期そして長期的な利益の観点から各市場に考察を加えた。最初のグループにはドイツ、日本そ
してメキシコが含まれる。これらの国々はしばしば問題に見舞われるものの、小売業に関しては短期的な回復を期待でき
る正当な根拠がある。二番目のグループはブラジル、フランス、イタリア、スペインそして英国だ。これらの国々は短期的に
は低成長が続きそうだが、中期的には成功シナリオを十分に想定できる。本レポートの最後では、主に政治的な理由によ
り、現時点で世界の小売業者からほとんど注目されていない2つの国を取り上げる。これらの国々、すなわちイランとパキ
スタンには非常に明るい材料があり、超長期的に見れば、世界の小売業者にとってきわめて魅力的な市場となる可能性を
秘めている。
本レポートにより、市場参入の時期を分析するための枠組みを小売業者に提供できれば幸いである。また、非常に興味深
いこれらの市場に対する洞察が、読者にとって有用なものとなることを願います。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
1
短期的展望
ドイツ
ドイツは欧 州連合で経済規模が最も大きく、かつ最も重
どうすればこれは実現できるだろうか? 第一に、10年に
要な 国 であ る。欧 州 で 何が 起きようとも、ドイツは他 の
わたり続いた賃金抑制を経て、ドイツ国内の賃金は上昇
国々と比べて良好な景気を維持する可能性が高い。もちろ
に転じる可能性が高い。失業率が比較的低く労働力も減
ん、他国の状況に対してドイツが比較的良く見える、とい
少しつつあることから、賃金は自ずと上昇に向かうだろう。
うこともあるだろう。とはいえドイツ経済の好調さは、相
第二に、他の国々とは異なり、ドイツの消費者の借入れ水
対評価のみを根拠としているわけではない。ドイツは10
準は高くない。ドイツの消費者は預 貯金が多く経済基盤
年前に大 胆な労働市場改革を断行し、現在この改革がも
が強固なので、消費を増やせる状況にある。最後に、緊縮
たらした果実を享受している。賃金の抑制と生産性の向上
政策を続けたことにより、ドイツ政府の財政状況は非常に
により、ドイツの製造業は世界的な競争力を取り戻し、新
良好である。更なる緊縮策を取る必要性はきわめて低い。
興市場への輸出を大きく増やしている。
むしろ、今後数年間は減税措置が取られる可能性もあり、
そうなれば個人消費が刺激されるだろう。
一方で、ドイツの重要な輸出先である欧 州諸国の景 気低
迷が、これまで問題となっており、今後も問題となるだろ
以 上のことから、ドイツの個人 消費が2020年まで緩や
う。さらに、ドイツ経済が新興市場への輸出に依存してい
かな増加を続けると予想する根拠は十分にある。ドイツ国
ることが、多少なりともネックになる可能性もある。例え
内の小売業者、そしてドイツ市場への投資に興味がある海
ば、ドイツは大量の資本財を中国に輸出している。しかし
外の小売業者にとって、この見通しは福音と言えるだろう。
中国は、資本ストックへの過剰投資により急速な成長を続
けてきたが、今後は消費者主導の経済成長へとシフトする
可能性が高い。ドイツの「金のなる木」に脅威が迫っている
のである。したがってドイツは、持続可能な経済基盤を得
たいと考えるならば、国内主導の成長 へと舵を切る必要
がある。これは実現できるだろうか? その答えは、他の欧
州諸国の動向によってかなり左右されるだろう。
言うまでもなく、ユーロ圏の将来にとってドイツはきわめ
て重要な役割を果たしている。ユーロ圏が生き残るのであ
れば、ドイツは最大の影響力を持つ主要プレーヤーであり
続けるだろう。ユーロ圏が最終的に瓦解した場合、ドイツ
は莫大な代償を支払うとともに、内需を喚起するため自国
経 済の大幅な立て直しを余儀なくされそうだ。その一方
で、ユーロ圏が成功を収めるためにはドイツの内要が高ま
ることが必要であり、ドイツの内需が高まれば、南欧諸国
からの輸出も増加するだろう。すなわち、ユーロ圏が成 功
するためには、現在苦境に立っている国々が輸出を増やさ
なければ ならない。これらの国々の輸出を増やすために
は、ドイツが南欧諸国の商品をもっと購入しなければなら
ない。いずれにせよ、ドイツは国内の経済基盤をより強固
にする必要がある。経済基盤とはすなわち個人 消費のこ
とだ。
2
あらゆる価格戦争をくぐりぬ
け、生き残っている小売業者
は、
「成熟した飽和市場で成長
を続けるためには、付加価値を
生み出すしかない」という結論
に達している。
小売セクターの概要
過去数十年間、ドイツの小売市場が「目覚ましい成長」を遂げることはなかった。事実はむしろ逆だ。2013年までの
20年間、小売売上高は名目ベースでわずか9.9%しか増加していない。すなわち、実質ベースでは18.2%もの減少
を記録していることになる。個人消費に占める小売業の割合は、この20年間に39.4%から27.3%へと10ポイン
ト以上低下した。
低い利幅が長年にわたり常態化しているという事実も、海外企業に投資を思いとどまらせ、あるいはドイツ市場に
参入した外国企業の多くを撤退させてきた。その結果、競争が激しく変動要因の少ないドイツ市場は、同族経営の
国内小売グループによりほぼ支配されることとなった。これらの小売グループの販売基盤は、緩やかながらも着実
に浸食されていった。その大きな理由は、ドイツ経済が完全雇用の福祉国家から自由度の高い経済体制へと移行し
たことに加え、再統合のコストが大きな負担となったからだ。さらに、安売り店とプライベートブランドの急速な台頭
も、売上げに悪影響を与えた。
過去数十年の間、ディスカウント業者の隆盛は総合食料雑貨店にとって特に大きな打撃となった。ドイツはAldiや
Lidlなど国際的な大手ディスカウントチェーンの母国であり、食料雑貨におけるディスカウント店の市場シェアは、
1960年代にはゼロだったものの、2000年には33.1%、現在では43.1%と拡大を続けている。ドイツ市場に参入
した海外企業の一部は、小売業者と消費者の双方が低価格に固執するという事実を、明らかに過小評価していた。
小売店舗がほぼ過飽和状態にあることと、多くの小売業者が非上場や共同所有といった形態を取っていること(こ
れにより、M&A活動は長年にわたり妨げられてきた)も、市場参入をさらに困難なものにした。
しかし、2008∼09年以降の長引く不景気に多くの欧州諸国が苦しむ一方で、
「安定的で平凡」というドイツ経済
の特徴が実は長所であることが証明された。より重要なのは、西欧最大の小売市場であるドイツが、歴史的とも言
える復活を果たしつつあることだ。2014年には実質ベースの伸び率がプラスに転じると予想されている。現在から
2020年までの間に、ドイツの小売業は実質ベースで約6.9%の成長を遂げると見込まれ、今後7年間の名目成長
率は21.2%に達する計算だ。
このような好結果をもたらした要因は何だろうか? 失業率が過去20年で最低の水準にまで低下したこと、実質賃
金の上昇が多くの国民に及んだことにより、過去10年の経済改革の効果がようやく実感できるようになったから
だろう。さらに、ドイツの小売業の高い価格競争力が多少なりとも失われつつあるという事実も、ドイツが再び魅力
的な小売投資先の一つとなっている理由である。
これと同時に、倹約や節度、慎重など、典型的なドイツ人の考え方の特徴(これらは長年、誇るべき美徳と考えられて
きた)も、徐々に「国際的に通用する」考え方へと変わりつつある。特にドイツの若い世代は、新しい習慣や価値観を
受け入れつつある。この傾向を生み出した要因としては、海外との交流が活発化していることと、インターネットや
ソーシャルメディアが普及したことが挙げられる。インターネット利用者の割合は2000年の30%から現在では
80%超へと上昇しており、ネット小売の売上高はすでに小売売上高全体の7.8%に達している。ネットショッピング
の普及率が高い英国(10.2%)に比べれば低いものの、国際水準に照らせば高いと言える。またネット通販の発達
は、海外ブランドに対する認知度の向上や需要の喚起にも貢献している。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
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ドイツ人の価値観の変化など大きな地殻変動が起きる中、ディスカウント店との間で長年にわたって価格競争を繰
り広げてきた従来型スーパー(および非食品の小売業者)は、買い物客を獲得するため持ち前の強みを重視するこ
とにした。具体的には、ドイツ人の価値観の再定義や変革を試みたり、店舗改装に投資したり、小売キャンペーンや
地域限定の商品販売を新たに行ったりしている。
これらの活動は実を結びつつある。惣菜やその他の高級食材を販売するカウンターが増加しつつあるのだ。魚介類
や食肉を提供するカウンターは、1990年代を最後にその姿を消していたが、再びスーパーマーケットでその数を増
やしている。店内にビストロやコンビニを設 置する試みも行われている。一方で、独立系のオーガニック食品の
チェーン店が数多くドイツ各地で誕生している。また一部の食料雑貨店は、食品をネット上で販売する試みを慎重
に行っている(採算性に大きな課題がある)。一方、電子商取引の分野で出遅れていた非食品の小売業者は、海外の
先駆企業に追いつこうと努力している。
このような動きのほぼすべては、目新しくて付加価値の高い購買環境をドイツの消費者に提供することに重点を置
いている。このような環境が都市の中心部や住宅地域に次々と生まれていることは注目に値する。というのも、人口
動態の変化とネットの普及により、ハイパーマーケットという形態は着実に衰退しているからだ。また小売業者は、
サプライヤーから幅広いサポートを受けたいと考えるようになっており、サプライヤーを毎年の価格帯協議や価格
交渉において打ち負かすべき敵であると単純に考えるような小売業者はもはや存在しない。
1万4,000もの店舗を有していた欧州の大手ドラッグストアSchleckerが倒産して世間を驚かせ、低価格DIY
チェーンPraktikerも経営破綻した。これらの出来事は、もはやドイツの消費者が低価格戦略だけでは満足しなく
なっていることを示唆している。ここにチャンスの芽がある。特に、サービス重視の手法を取り、魅力的な経営モデル
を持つ海外の小売業者にとって、チャンスは大きい。ドイツ西部でコンビニの展開を始めたAholdは、いち早く行動
してこのようなチャンスを掴んだ企業の一つである。
誤解を避けるために指摘しておくが、低価格が急に重要性を失ったわけではない。英国・アイルランド系の低価格衣
料品店Primarkが市場参入してから大成功を謳歌していることからも、依然として低価格が重要であることが分か
る。むしろ、少なくとも日用品の分野においては、低価格はドイツではもはや当たり前なのである。欧州最大の経済
大国であるドイツで事業を成功させたいと考える量販店にとって、価格の安さは必要最低条件なのだ。しかし、あら
ゆる価格戦争を戦い続け、戦い終わった後も生き残っている小売業者(ディスカウント店を含む)は、
「成熟化と集約
化が進んだ飽和市場で成長を続けるためには、付加価値を生み出すしかない」という結論に達している。
4
短期的展望
日本
日本経済は1990年まで急速に成長した。その後、金融危
新しい考え方はこうだ。すなわち、インフレと実質成長によ
機のあおりを受けて成長は大幅に鈍化した。さらに1992
り名目GDPが増加し、そして債務の増加ペースが緩やかに
年頃から物価の上昇が止まった。事実、現在の消費者物価
なれば、対GDP比の債務残高は、少なくとも短期的には、
は1992年の水準以下である。景気がこれほど急激に悪化
低下するはず、というものである。またこの考え方によれ
したのは、1980年代に膨らみ続けたバブル経済が崩壊し
ば、成長を促すためには一時的な債務拡大はやむを得ない
たからである。さらに、バブルが弾けた時、銀行は莫大な不
のだという。長期的な財政健全性を保つためには、少子高
良資産を抱えていたが、政府は銀行を救済するための措
齢化を見据えた年金制度改革が欠かせない。
しかし今すぐ
置をほとんど講じなかった。その結果、マネーサプライは
行う必要はない。安倍首相のプランは、歴史的な低金利に
減少し、信用市場は収縮し、低成長とデフレが継続するこ
乗じて政府が安いコストで借入れを行い、需要の喚起と競
とになった。
争力の向上のためにその資金を投資する、
というものだ。
バブル経済の崩壊からおよそ20年の間、日本政府が取っ
<金融政策>二本目の矢には量的緩和の拡大が含まれる。
た政策は一貫性に欠けていた。中途半端な金融政策や財
この政策も以前から行われているが、現在ほどの規模で行
政刺激策を散発的に講じては、すぐに方針を転換するとい
われたことはほとんどない。興味深いことに、量的緩和と
うことを繰り返していた。その結果、成長は鈍化し、政府債
いう考え方が生まれたのは1990年代で、日本がデフレと
務は増大し、そしてデフレが続いた。さらに、少子高齢化が
低成長に苦しんでいた時期だった。著名な経済学者ミルト
進んでいるということは、将来の年金負担が大幅に増加す
ン・フリードマンは、
「日本のゾンビ銀行の存在がマネーサ
るということを意味していた。対GDP比の政府債務残高
プライの増加を阻害し、ひいては物価の下落と実質金利の
は急速に増加し、
将来の火種を残すことになった。
エレクト
上昇を招いている」と指摘した。彼が提示した解決策は、日
ロニクス製品や自動車といった分野で日本がかつて誇っ
銀が市中銀行を迂回して資産を直接購入することによりマ
ていた競争力は、韓国や台湾、中国との競争が激化する中
ネーサプライを増やすこと、
経済に流動性を供給すること、
で急速に失われ、輸出の伸びが鈍化した。デフレの進行と
ある程度の物価上昇を引き起こすこと、
そして実質金利を
実質賃金の低下は消費者の買い控えを招き、内需の低迷
低下させることである。この政策は限定的な規模で実施さ
が長引いた。これらすべての要因が「失われた20年」を引
れたものの、
効果が表れる前に終了されてしまった。
現在の
き起こした。もしこの20年間経済が順調であれば、日本の
政策は過去のものとは一線を画する。すなわち、安倍首相
経済規模は現在よりも約25%大きくなっていたはずだ。
が指名した新総裁の下、日銀は無制限の量的緩和(QE)を
通じて所定のインフレ目標を達成すると約束している。
新たに政権の座に就いた安倍晋三首相は、瀕死の日本経
済を生き返らせるための新経済政策(アベノミクス)を実
<自由貿易と規制緩和>三本目の矢は、長期的にはおそら
施している最 中だ。アベノミクスは三本 の 矢で構成され
く最も重要であるものの、詳細が最も不明であり、大胆な
る。すなわち「景気刺激策」、
「大胆な金融政策」、そして「貿
施策が講じられるかについても最も不透明である。安倍首
易自由化と規制緩和の組み合わせ」である。以下で個別に
相はTPP交渉への参加を表明している。TPPとは、環太平
検討する:
洋地域の自由貿易を実現するための枠組みである。TPP
が締結されれば日本は経済の主要分野で規制緩和を行わ
<景気刺激策>端的に表現すれば、政府が借入れを行い
なければならず、これは政治的に困難である。実際、安倍首
財政出動を増やす、ということだ。この政策は以前も行わ
相は規制緩和策の詳細の発表を、参院選の後に先送りし
れたが、規模が小さかった上に方針がすぐに変更されたた
た。安倍首相率いる自民党が参院選に勝利したことから、
め、十分な効果が感じられることはなかった。景気刺激策
困難な選択を実行に移すお膳立ては整ったと言える。改革
に対する主な反対意見は、
「政府の債務残高はすでに膨大
には国内市場
(流通、通信、金融、エネルギーなど)の自由化
な額に達している」というものだ。しかし、対GDP比の債
が含まれる可能性がある。また、労働市場の自由化やコー
務残高がこれほど拡大したのは、名目GDPが低下した一
ポレートガバナンスの強化なども盛り込まれるかもしれ
方で名目ベースの債務残高が増加したからである。
ない。またこの改革では、農業従事者の利益保護が撤廃ま
たは縮小される可能性もある。現在はこれらの保護が存
在するために、食料価格はきわめて高く、地価の上昇を招
き、政府補助金は巨額に達している。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
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アベノミクスが効果的に実施されれば、日本の消費者市場
長引く日本の小売業の低迷は多くの犠牲者を生
で大きなチャンスが生まれる可能性がある。新たな経済政
み出してきた。百貨店売上高は1991年のピーク
輸出を拡大させ、実質賃金を増加させることである。これ
からほぼ半減し、ハイパーマーケットも勢いを
失った。一方でコンビニエンスストアは、収益性
の高い販売ルートとして急成長している。
策の目的は、経済成長率を向上させ、インフレを発生させ、
らすべてが実現すれば、最終的には資産価格にも好影響
をもたらすだろう(事実、執筆時点において資産価格はす
でに上昇している)。これにより、消費者は豊かになったと
感じるようになり、積極的に消費するようになるはずだ。
改革がどの程度の規模で行われるかについては不透明感
も残るが、個人消費が緩やかに回復する可能性は1年前に
比べるとはるかに高い。よって現時点では、短期的な投資
先としての日本の魅力は高まっている。
小売セクターの概要
日本の小売セクターは、20年近くに及ぶ低迷期からようやく脱したようだ。
この低迷は、
さまざまな経済状況と関連して
いたことはもちろんだが、消費者心理が冷え込んでいたこととも明らかに関係している。1996年から2002年までの
6年間、小売売上高は実質で9.3%減少し、2000年代半ばに一時的に回復したものの、1996年の水準まで回復する
のは早くても2019年頃になる見込みだ。
とはいえ、
日本の小売業は緩やかだが着実な回復期に入ったように思われる。
緩やかな経済成長が続く中で小売業も回復すると見込まれるが、問題は高齢化が進んでいることである。25歳未
満の割合は2000年の27.2%から2015年には22.8%にまで低下すると予測されている。小売環境が改善する
兆しは2009年頃から見られるようになっていた。この年の日本経済は、輸出の急減による最悪期からようやく脱
しつつあった。現在の緩やかな回復は今後も持続するものと思われ、多様性に富む日本の小売セクターへの投資が
活発化しそうだ。
日本の非食品部門では、長引く小売業の低迷が莫大な数の犠牲者を生み出してきた。例えば、衣料品や高級品を扱う百
貨店の売上高は、1991年のピークからほぼ半減している。ハイパーマーケットやスーパーストアもこの20年ほどの間
に勢いを失った。一方、食品小売の部門ではコンビニエンスストアが大成功を収めている。
コンビニに比べれば水準がは
るかに劣るものの、
ドラッグストアも目覚ましい成長を遂げた。高齢化や健康不安の高まり、そして医療分野の改革が追
い風となった格好だ。電子商取引も成長を遂げているが、小売売上高全体におけるシェアは2013年時点でわずか
6.15%にとどまり、英国やドイツといった市場に比べ依然遅れを取っている。日本のブロードバンド普及率が2000年
の0.7%から2020年には35%に達すると予想されることから、電子商取引のシェアも2020年までに12.0%へと上
昇すると見込まれている。
日本のインターネット普及率は2020年までに90%を超えると予想されており、
これは世界
でも最高水準である。
つまり2020年には、
ほぼすべての日本人がネットに接続できるようになっていることになる。
日本の食品小売セクターは市場がきわめて細分化されており、一部のセグメントは、競争が熾烈で利幅が低いとい
う特徴を持っている。例えば、マルチフォーマット戦略を取る大手小売グループの純利益率は1∼3%程度である。た
だし、コンビニ部門の状況はさほど深刻ではなく、ローソンとファミリーマートの過去数年間の利益率は概ね5∼
8%で推移している。他の主要先進国の食品小売市場に比べれば集中化が進んでいないものの、日本では目覚まし
いスピードで市場集中が進行している。2008年、食品小売部門における上位5社のシェアは合計で39.8%だった
が、2013年には44.2%、2018年には48.3%に達すると見込まれている。
6
コンビニが日本でいかに重要な地位を占めているかについては、統計を見れば容易に理解できる。コンビニ大手6
社の2012年末時点の店舗数は合計で約4万3,500だが、セブン&アイ(セブン‐イレブンを運営)、ファミリーマー
ト、ローソンそしてユニーが今後も急成長を続けると見込まれることから、2018年には5万9,000店に達すると
予想されている。大手コンビニチェーンを合わせると、日本の食品小売セクターの25%近くを占めている。よって、
重要度で言えばハイパーマーケットやスーパーストア(2012年の市場シェアは25.3%)に匹敵する。ただし、これら
巨大スーパーのシェアは今後数年間でわずかに低下していくと見込まれる。高齢化が進む日本では、近所の店を好
む傾向が高まると予想されるからだ。
競争の激しい日本の市場環境で食料雑貨店が成功するための確実な方法は、差別化を推し進めることである。具体
的には、サプライヤーに製品イノベーションを求めること、プライベートブランドの品揃えを充実させること、そして
金融サービスを強化することである。近年ではプライベートブランドが隆盛を極めており、Nielsenのデータによる
と、買い物客の72%が、
「最近の不景気に対応するためプライベートブランドの購入を増やしている」と回答した。こ
のような傾向を受けて、プライベートブランドのシェア(金額ベース)は2015年までの5年間において上昇すると予
想されている(2010年は9∼11%)。ただし日本でのシェアが、英国、ドイツ、フランス、スペインなどの西欧諸国に
比べればかなり低いという事実は注目に値する。しかし、最大手のイオンは業界の先陣を切る形で、主要な低価格
帯プライベートブランド、トップバリュをさらに発展させると発表した。最終的には、トップバリュで売上高全体の
30%、商品スペースの40%、貢献利益の50%を占めさせる計画だという。一方、業界2位のセブン&アイもプライ
ベートブランドの開発を進めているが、サプライヤーとの関係はもっと協調的だ。高品質な商品を安価で提供する
ことを目指して、セブン&アイは「プレミアム」や「ゴールド」など各ブランドの改善を進めている。食品以外では、ユニ
クロを展開するファーストリテイリングが、垂直統合の手法を活用して日本の衣料品部門のトップに上り詰めた。
サービスに関しては、最大手のイオンと2位のセブン&アイがいずれも独自の銀行事業を展開しているが、セブン銀
行はATMサービスに重点を置いた事業を行っている。コンビニでは、年配の買い物客向けの宅配サービスやチケッ
ト発行サービスが広く普及している。日本の小売で3位のコンビニチェーン、ローソンはネットを利用したエンタメ
事業を強化しており、2010年末に買収したHMVジャパンを通じたチケット販売を独占的に行っている。その他の
サービスの例としては、薬局チェーンが提供する介護サービスや、家電量販店が提供する「スマートハウス・リフォー
ム」事業が挙げられる。スマートハウスとは、充電池付き太陽光発電システムに省エネ家電を組み合わせたものだ。
将来に視点を移すと、2008年(人口減少が始まった年)から2020年までの間に、日本の人口は2.8%減少すると
予想されている。これに加え、高齢化が急速に進んでいることと、高齢化に対応するため所得の再分配を強力に推
し進めなければならないことを考え合わせると、小売業の成長は長期的に見て低い水準にとどまるだろう。そこで
日本の主要企業の視線は、急速な発展を続ける東南アジアの新興市場に向けられることになる。出店する店舗は主
にコンビニで、日本の大手コンビニ各社(セブン&アイ、ローソン、ファミリーマート、イオン)は2012年末までにア
ジア各国(日本を除く)に1万7,000店を出店した。店舗数は2018年までに2万4,000に達すると見込まれてい
る。コンビニの主な出店先は韓国、台湾、中国そしてマレーシアである。人口の増加、急速な都市化、所得の急増など
を背景に、アジア各国には魅力的な成長機会が見出されることから、海外進出の傾向は今後も拍車が掛かりそう
だ。一方で日本市場も回復はするだろうが、東南アジア諸国のような高い成長率は望めそうにない。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
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最大手のイオンは、主要な低価格帯プライベートブランド、
トップバリュをさらに発展させると発表した。最終的には、
トップバリュで売上高全体の
30%、商品スペースの40%を占めさせる計画なのだという。この発表は競争が熾烈化する中で行われたものである。コンビニ大手6社の店舗数
は、現在の4万3,500から2018年までに5万9,000へと増加する見込みだ。
出典:プラネットリテール
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短期的展望
メキシコ
メキシコも注目に値する国である。なぜなら今後数年間、
最後に、メキシコの人口動態は比較的良好である。若年層
メキシコの経済成長はさらに加速する可能性が高いから
が多いことから、生産年齢人口は今後10年にわたり急速
だ。そうなれば、メキシコの経済規模は今よりもはるかに
に増加すると予想され、その増加ペースは中国やロシア、
大きくなっているだろう。長年にわたって中国やブラジル
ブラジルに比べてはるかに速く、インドに匹敵するほどで
といった大国の陰に隠れてきたが、ようやくメキシコに対
ある。これにより労働コストが低く抑えられ、経済発展を
する楽観的な見方が台頭してきた。とはいえ、メキシコあ
後押しするだろう。
るいは中国の経済政策が変更された場合、メキシコ経済
の見通しも再検討を迫られるかもしれない。
それでも、メキシコには重大なリスクと障害がある。第一
楽観的な見方の一因は、メキシコの政治指導部が大 胆な
ない。エネルギー部門の大幅な改革には憲法改正が不可
に、政府が提出した改革案を、議会は完全には可決してい
改 革を 断 行する可能 性 が 高いことにある。エンリケ・ペ
欠だが、これには反対意見が依然として根強い。議会が可
ニャ・ニエト新大統領は、いくつかの政治問題に関する協
決するまでの間、エネルギー部門に対する投資は低い水
定を野党との間で締結した。この協定には、エネルギー分
準にとどまり、それゆえ生産水準も低迷するだろう。現在
野への民間投資の容認、通信・メディア部門における競争
のメキシコのエネルギー部門は、最新技術を活用する能力
の導入、労働市場の規制緩和、民間部門による金融市場の
に欠けているからだ。
利用拡大、政府サービスの効率性向上、腐敗の撲滅などが
含まれている。
第二に、ペニャ・ニエト大統領の就任以来続く麻薬密売組
織との戦いはある程度収束しつつあるが、衝突そのものは
輸出志向の強いメキシコの製 造業は、かつては中国へと
今も続いている(密売組織の大物が最近逮捕されたこと
流れていた投資を呼び込むことにより、復活の兆しを見せ
もその表れ)。密売組 織との戦いは、長年にわたり投資の
ている。中国での賃金上昇や人民元の高騰により、中国と
障害となってきた。ただ驚くべきことに、このような状況は
のコスト格差は急速に縮小している。さらに、メキシコの
観光業の障害とはなっておらず、メキシコ政府は観光地の
製造業者や電力会社は、米国からパイプラインで輸入され
安全を保つために万全を尽くしている。
る比較的安価な天然ガスを利用することができる。これも
また、中国に対するメキシコの競争力を向上させる一因と
メキシコの消費者市場に関しては、景気見通しの改善によ
なっている。
り、中間層が急速に拡大すると予想されるとともに、消費
者の購買力も大きく向上しそうだ。
政治指導部が大胆な改革を断行する可能性が高く人口動態も良
好なことから、メキシコの経済規模はやがて急拡大するだろう。
メキシコの消費者市場に関しては、景気見通しの改善により、中
間層が急速に拡大すると予想される。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
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小売セクターの概要
今年に入ってから予想を下回る売上高の指標が相次いで発表されるなど、最近のメキシコの消費者市場は弱含ん
でいる。それでも2000年代の初頭以降、小売セクターは急速に底堅くなっている。押しも押されもせぬ最大手企
業Walmartや国内の大手コンビニチェーンOXXO*1の躍進が、小売セクターの成長に一役買った。
国内の食料雑貨業者の多くは長年にわたり地元を離れることを拒んできたが、最近の経営統合の動きにより、一部
の業者は昔からの勢力範囲のみにこだわらず、より広い範囲を舞台にして互いに競争を繰り広げるようになってい
る。メキシコの2級、3級、4級都市でモダンリテール向けの物件が増加していることも、この傾向に拍車を掛けてい
る。国内の他地域への出店にとどまらず、OXXO*1とChedrauiは海外進出さえ果たしている(前者はコロンビアへ、
後者は米国に進出)。
景気の長期見通しが良好なことと若年人口が多いこと
(25歳未満人口が全体の45.5%を占めているが、
この割合
はやや低下する傾向にある)
に支えられ、モダンリテールは拡大を続けると予想される。
メキシコの都市部に住む若年
層は所得の増加により恩恵を受けており、親世代に比べて消費本位の生活を送っている。
したがって、彼らはモダンリ
テール店舗での買い物を好む傾向が強い。中南米で広く用いられているやや緩やかな定義によると、
メキシコ人全体
の約40%が中間層に属するのだという。一方で、
より良い生活を望む低所得層にとって、近代的な食料雑貨店で買い
物をするなど近代的な生活を送ることは一種のステータスであり、
このような考え方を過小評価すべきではない。
急増する中間層も、果物や野菜など一部の品目に関しては依然としてかなりの量を青空市場で購入している。それ
でもプラネットリテールは、メキシコの食 料 雑 貨小売セクターに占めるモダンリテールの割合が、2000 年の
47.5%から2020年には63.2%へと上昇すると予想している。大都市ではモダンリテールがすでに市場を席巻し
ているが、地方部や農村部では屋台や青空市場、従来型の商店が依然として非常に一般的である。興味深いことに、
近代化と市場統合の流れを後押ししているのは、大々的なM&A活動ではなく企業の有機的成長である。なぜなら、
SorianaやChedrauiなどの同族企業が、メキシコの大手企業の中で大きな割合を占めているからである。
大手企業に着目すると、
メキシコの食料雑貨販売大手5社のうち、外資系企業はWalmartのみである。Walmartが競合
他社を凌駕している理由は、現地法人であるWalmart de México を通じて、およそ2,500もの店舗をさまざまな形
態で運営しているからである。
これらの店舗にはハイパーマーケット、
会員制ディスカウント店、
スーパーストア、
スーパー
マーケット、
ディスカウント店、
オンラインショップ、
レストラン、そして衣料品店などが含まれる。成長のペースはこのとこ
ろ鈍化しているものの存在感は強く、
その結果Walmartの売上高は、
他の大手4社の売上高の合計を上回っている。
Walmartは2013年6月にネット販売事業に進出した。
これはWalmex 3.0マルチチャンネル戦略の一環である。
この時に開設されたウェブサイト
(Walmart.com.mx)では、非食品、健康、美容関連など5,000を超えるアイテム
が提供されている。一方でWalmartは、
メキシコでの食品のネット販売に未だ着手していない(開始がいずれ発表さ
れる可能性も否定できない)。流通面での課題が数多くあることから、
メキシコの食料雑貨業者の多くがいまだに食
品のネット販売を始められずにいる。きわめて珍しい例だが、小規模なネット販売がSorianaにより運営されている。
メキシコの食料雑貨業2位のSorianaは、国内の中南米系スーパーマーケット・グループの中では経営状況も良好
で、技術面でも先進的な企業であるとの評価が一般的だ。同社は大型店舗に重点を置いている(ハイパーマーケッ
トが約400店、会員制ディスカウント店が30店余り)ものの、近年では店舗形態の多様化を進めており、スーパー
マーケットやコンビニ、ディスカウント店を展開して市場シェアの拡大を図っている。2013年末時点で、同社の店
舗数は合計で850余りに達すると見られる。
10
メキシコの食料雑貨業3位のOXXO*1は国内に約1万1,000店のコンビニエンスストアと、比較的小規模なディス
カウント店とドラッグストアを運営している。1日当たりの顧客数が800万人を超えるOXXO*1は、主要食品の部門
に重点を置いており、ビール、パン、ソフトドリンクおよび菓子に関してはメキシコ最大の販売業者である。OXXO*1
の発表によると、2014年までに販売網を1万2,000店に広げるとともに、中南米の他地域にも複数の店舗を開店
させる計画だ。2009年にボゴタ(コロンビア)に進出して以来、現時点で40店近いコンビニチェーンを現地で築き
上げており、次のターゲットはおそらくブラジルになるだろう。
ハイパーマーケットとスーパーストアを運営するChedrauiは食料雑貨業第4位の企業だ。メキシコ国内で200店以
上、米国(ヒスパニック系の人口が多いカリフォルニア、ネバダ、アリゾナが主要地域)では約50店を展開している。
同族企業であるChedrauiは2005年、メキシコ市場からの撤退を決めたCarrefourからハイパーマーケット全29
店舗を買収した。これにより、メキシコ国内での売上げは大きく増加した。現在、Chedrauiの特徴であるオレンジ色
の店舗は、主にメキシコの中南部に数多く存在する。
最後に、ハイパーマーケットやスーパーストア、スーパーマーケット、ファーストフード店など、さまざまな形態の店舗
を300近く運営するComercial Mexicanaは、財務状況を最近大幅に改善させた。米国のCostcoとの合弁事業
によりメキシコ国 内で展 開していた 会 員 制ディス カウント店 の 持 分 の5 0 % を、2 012 年に売 却した からだ。
Comercial Mexicanaはこの売却で得た資金を債務の一部弁済に充てるとともに、苦戦が続く既存店の売上げを
改善させるための投資に回している。
メキシコの食料雑貨販売大手5社のうち、外資系企業はWalmartのみである。約2,500の店舗をさまざまな形態で運営しており、Walmartの売
上高は他の大手4社の売上高の合計を上回っている。
出典:プラネットリテール
*1「OXXO」はメキシコの実在する企業です。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
11
中期的展望
ブラジル
昨今のブラジルは新興世界 の羨望の的だった。成長は旺
第三に、財政政策も妥当である。政府による無駄遣いや過
盛で、財政・金融政策は的確で、インフレ率は低く、失業率
剰な規制といった懸 念材料はあるものの、政府の借入必
は低下し、資本コストは歴史的な低水準にあり、海外投資
要額はさほど多くなく、対GDP比の政府債務残高は減少
は猛烈なペースで国内に流れ込んでいた。しかし水面下に
を続けている。これもまた資本コストを低下させる一因と
は問題が潜んでいた。個人 消費の急増が海外からの借入
なっている。さらに、財政状態が健全だということは、必要
れで賄われていたことから、対外赤字は拡大を続けた。過
に応じて政府がいつでも景気刺激策を発動できるという
剰な規制が効率の向上を阻んだ結果、労働生産性は他の
ことを意味している。これは公共投資の拡大にとっても好
新興諸国に比べて低い水準にとどまった。事実、総じて事
材料だ。公共インフラの貧弱さを考慮すると、公共投資の
業環境は過去も現在も多くの問題をはらむ。過剰な規制、
拡大は絶対に欠かせない。第四に、過去10年間に政府が
重い税負担、貧弱なインフラ、そして商品価格の高騰によ
取ってきた政策は、貧困層の生活環境の底上げを目的とす
るレアル高といったすべての要因は、ブラジルの持続的な
るものだった。その結果、他のほとんどの主要国とは異な
経済成長を阻害する材料として作用した。
り、ブラジルの所得分配状況は改善した。これにより中間
層が拡大し、モダンリテールの発展を招くこととなった。
欧州の景 気後退や中国の成長鈍化はブラジルを直撃し、
経済成長は大きく低下した。2010年に7.5%だった実質
最後に、ブラジル経済は以前に比べてグローバル経済へ
GDP成長率は、2012年にはわずか0.9%まで低下した。
の統合がはるかに進んでいるが、これは商品輸出の重要性
2013年第1四半期の個人消費は、前四半期に比べてわず
だけが理由ではない。製造業が急速に発達し、今や財輸出
か0.1%の増加にとどまった。さらに、過度のインフレと最
の半分近くを占めるまでになり、経済の安定に貢献してい
近のレアル安圧 力により、中銀は低成長の最中でも金融
る。また、中国における生産コストが上昇し中国がバリュー
政策を引き締めざるを得なくなった。よって、短期的な見通
チェーンを登りつつあることから、先進諸国向け輸出品の
しはかなり暗い。見通しの暗さは国民の欲求不満を招き、
製 造 場所として、ブラジル の魅 力は急 速に高まりつつあ
街頭では大規模なデモが頻発する事態となった。このよう
る。これは経済成長にとって好都合である。
な状況が小売投資にとって好都合とは思えないが、それで
も中期的に見れば検討に値する。
よって、数多くの問題や課題はあるものの、
「中期的に見れ
ば経済成長は概ね旺盛であり、洗練化が進むブラジルの
ブラジルには明るい材料が数多くある。第一に、ブラジル
消費者市場は拡大を続けるだろう」という楽観論にも十分
の人口は比較的若い。よって今後数年間、生産年齢人口は
な根拠がある。もちろん、政府方針の方向性に依存する部
大幅に増加するだろう。これにより経済発展が促され、賃
分は大きい。労働市場の自由化、腐敗の撲 滅、インフラの
金は抑制され、世帯数が増加するだろう。第二に、独立性の
充実化といった政策に失敗すれば、成長率は間違いなく低
高いブラジル中銀は賢明な金融政 策を続けている。よっ
下する。また、世界経済におけるブラジルの役割が大きく
て、ハイパーインフレに苦しんだ時代に逆戻りする危険性
なっていることを考慮すれば、ブラジルの命運は、自国の
は低い。その結果、資本コストは引き続き低く抑えられ、適
範囲を超えて発生する出来事によって左右される可能性
切な水準の投資を呼び込み続けるだろう。
もある。
ブラジルの食料雑貨セクターの上位に名を連ねる企業の特徴
は、国際化がきわめて高度なレベルに達している。さまざまな形
態の店舗を運営する企業がこのセクターを支配するが上位5社を
除けば市場は依然としてきわめて細分化されており、将来的に業
界が再編される可能性は高い。
12
小売セクターの概要
若年者が主に都市部に多く住んでいること、最低賃金が2桁のペースで上昇していること、そして中間層が急増して
いることを背景に、ブラジルの食料雑貨小売市場は急速に近代化している。しかし、市場は依然として非常に細分化
されたままだ。大手5社を除けば、ブラジル市場には地域密着型の小規模な食料雑貨チェーン店が無数に存在する。
また、昔から食品売上げの大部分を占めているのが、個人経営店舗、青空市場、そして露天商である。大都市部では
青空市場と露天商の役割は小さくなりつつあるものの、それでもかなりの存在感を維持している。地方部や農村部
では、伝統的な形態の店舗が引き続き市場を支配している。プラネットリテールの推定によると、近代的な店舗では
ない店における売上げが、依然としてブラジルの食品小売売上高の半分以上を占めているという。ただし、この傾向
は大きく変化しつつある。
以上からも分かるように、食品小売における最も重要な販売ルートはスーパーマーケットとネイバーフッドストアであ
る
(この2つで市場の約3分の2を占める)。より規模の大きいハイパーマーケットやスーパーストアの食料雑貨小売
におけるシェアは現在およそ13%であるが、今後数年間もこの比率はわずかな上昇にとどまるだろう。その理由は、
有力なスーパーマーケット運営各社が急速な成長を続けていること、そして輸入障壁が存在することである。輸入障
壁が存在するせいで、輸入商品を数多く扱う店舗形態を運営する企業は、事業を軌道に乗せることが難しいのだ。
興味深いことに、ブラジルのハイパーマーケットの多くは住宅地域に存在し、徒歩での買い物が可能なことから、交
通事情が劣悪なブラジルにあっても多くの人に利用されている。また、ブラジルの都市化率が90%近く(世界の主
要新興市場の中で最高)に達しているので、ハイパーマーケットの商圏には多くの顧客が存在することになる。
ブラジルの食品ディスカウント部門の市場シェアはきわめて小さい(2013年のブラジル全体の食料雑貨支出の約
1%)ものの、過去数年間にわたって目覚ましい拡大を続けてきた。ディスカウント店を運営する大手企業としては、
Dia、Walmart(Todo Dia)、そしてこれら2社よりは小規模な地方企業Econ(サンパウロ地域で約50店を展開し
ている)を挙げることができる。かつてのディスカウント店CompreBemは現在この市場で事業を行っておらず、運
営会社Casino/CBDは2010年、Extraという名称のスーパーマーケットへと業態を転換した。
ブラジルの食料雑貨セクターの上位に名を連ねる企業の特徴は、国際化がきわめて高度なレベルに達していること
である。さまざまな形態の店舗を運営する企業がこのセクターを支配している。事実、ブラジルの大手5社のうち実
に4社が、世界的小売グループの一部門である。注意すべきなのが、最大手のPão de Açúcar(CBD)をもはやブラ
ジルの国内企業と見なすことはできないことである。なぜなら2012年6月、フランスの多国籍企業Casinoにより
完全に買収されたからである。
2007年4月にブラジルのホールセール企業Atacadãoを買収したことにより、Carrefourはブラジルの小売部門
で 地 位 を 高 めた だ け で なく 、一 時 はトップ にま で上り詰 めた( 現 在 は 2 位 に 陥 落して い る )。C a r r e f o u rと
Casino/CBDが盤石な地位を固めているのは、このセクターにおいてブラジル全土に店舗展開している数少ない
企業であることが主因だ。ただし両社とも、売上げの大部分をサンパウロ地域で得ている。食料雑貨小売セクター以
外では、ホールセール店を展開するSHV Makroと非食品のディスカウント店を運営するLojas Americanasがブ
ラジル全土に販売網を広げている。一方Casino/CBDも、2010年に買収した家電量販店最大手Casas Bahiaを
通じて、市場シェアの更なる拡大を図っている。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
13
Walmartは1994年と2004年のブラジル進出以来、あまり目立つ存在ではなかった(食品小売市場で3位)。成長
が加速した時期もあったが、最近は再び足場固めの段階に入ったようだ。既存店の売上げをテコ入れし、EDLP戦略
を推進し、利益率の向上に努めている。それでもWalmartは、将来の成長のためにはブラジルが最も重要な国であ
ると繰り返し強調している。業界4位のCencosudはチリの企業で、ハイパーマーケット、スーパーストア、スーパー
マーケットといった主要業態で食品と非食品の両方を扱っている。最後に、市場シェア5位のDiaはスペインに本拠
を置くディスカウント店で、2011年にCarrefourから分離した。Carrefourが最大手の地位から陥落したのはこの
分離が一因だ。
2012年のNielsenの調査によると、ブラジルの食品・飲料・タバコの消費支出に占めるプライベートブランドの売
上比率は、およそ5%だという。より規模の小さいモダンリテールの食料雑貨部門においては、食品売上げに占める
プライベートブランドの割合は約11%であり、2015年までに13%に達すると予想されている。言うまでもなく、こ
れらの数字は西欧諸国に比べれば低い。しかし、依然として細分化されている(ゆえに比較的価格の高い)ブラジル
の食料雑貨市場の性質に照らせば、プライベートブランド商品の急速な拡大を後押しする要因はほとんど存在しな
いと言える。プライベートブランド市場が成熟化している欧州や北米とは異なり、ブランド商品との価格差もかなり
小さいのが通常だ。1990年代初めに発生した品質問題も、導入間もなかったプライベートブランド全体の評判を
一時的に毀損することとなった。しかし状況は変わりつつある。近年、Casino/CBD、WalmartそしてCarrefour
は、プライベートブランド商品を多層的に展開している。
プライベートブランドは本格的に浸透しつつあるが、電子商取引はブラジルでは依然として揺籃期にあり、2013年
の小売売上高の2.1%を占めるに過ぎない。しかし、2020年までには7.9%とおよそ4倍に達すると見込まれてい
る。ネット小売の急速な普及を後押しするのは、ブラジルの都市部に住む若年層と、急速に増加する中間層であるこ
とは間違いない。彼らは目新しい技術に強い興味を持ち、積極的に取り入れようとするからだ(これによりクレジッ
トカードの発行・利用も拡大するだろう)。例えば、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)によると、ブラジ
ルのインターネット利用者の割合は2000年の2.9%から2015年には57.9%に急増すると予想され、ブロード
バンド普及率も同じ時期に0.1%から13.5%に急上昇すると見られる。Casino/CBDは2012年8月、ブラジルの
ハイパーマーケット運営企業としては初めて、食料雑貨のネットストアを立ち上げた。
14
ブラジルの最大手企業CBDをもはや国内企業と見なすことはできない。なぜなら2012年6月、
フランスのCasinoにより完全に買収されたから
である。Casino/CBDが運営するPão de Açúcarは都市部の高所得者層をターゲットにしている。一方で、昔ながらの形態の店舗も高い市場シ
ェアを維持している。
出典:プラネットリテール
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
15
中期的展望
フランス
フランスはユーロ圏第二の経済大国であるが、現在さまざ
とはいえ明るい兆しも見られる。フランス政府が緊縮政策
まな難題に直面している。政府の増税策など経済環境の
を粘り強く続けていること(これ自体は景気低迷の原因だ
悪化から、企業信頼感は低下している。さらに、期待された
が)と、フランスの銀行システムが驚くべき強靭さを発揮し
労働市場改革はいまだ実現していない。失業率が 高いこ
ていることにより、フランスの金融市場には一定の信頼が
とや財政緊縮策が景気に悪影響を与えていることなどに
寄せられている。その結果、フランスの金利は南欧諸国と
より、個人消費は低迷したままだ。またフランスは、他の欧
比べて低い水準だ。さらに執筆時点において、欧州の景気
州諸国の景気後退による打撃も受けている。事態は深刻
低迷が収束に向かう兆候が見られている。フランスでも製
である。なぜならフランスの輸出の61%が、2年にわたり
造活動の指標が改善しており、遅くとも2014年には経済
景気後退が続く他の欧州諸国を相手先としているからだ。
成長が回復に向かうことを示唆している。それでも大部分
このような状況により、2012年のフランス経済はプラス
のアナリストは、短期的にかなり低い水準の経済成長が続
成長を達成できなかった。2013年もマイナス成長が続く
くと予想している。
と予想され、2014年にようやく緩やかな回復に向かいそ
うだ。
それでは、中期的に有望な投資先として小売企業がフラン
スに注目すべき理由は何か? 理由はいくつかある。第一
に、フランスは他の多くの欧州諸国に比べて人口動態が良
フランスを苦しめてきた緊縮政
策は間もなく終わりを迎える。
フランス企業は世界経済の成
長により利益を得られる立場
好である。生産年齢人口は安定的に推移すると見られ、労
働参加率の高まりにより雇用は増加すると予想されてい
る。政 府が公約している労働市場改革が本当に実施され
れば、雇用の増加は間違いなく実現するだろう。この改革
には平均退職年齢の引き上げや、労働者の雇用・解雇に要
するコストの引き下げが含まれている。
にあり、労働市場改革は更なる
第二に、フランスを苦しめてきた緊縮政策は間もなく終わ
経済成長の原動力となるかもし
政府の政策が経済成長に悪影響を与える恐れは低下する
れない。フランスの消費者市場
りを迎える。今後数年間の財政政策はより中立的になり、
だろう。最後に、強いブランドと世界的な存在感を持つ企
業が成功できるグローバル経済において、フランス企業は
にとってこれは良いニュースと
特に有利な立場にある。直面する問題はあるものの、フラ
なろう。
ン、食品、自動車、サービス業、そしてもちろん小売などさ
ンス企 業は世界で 最も恵まれた 立場にいる。ファッショ
まざまな産業で活動するフランス企業は、今後10年間を
特徴づける世界的な潮流によって利益を得られそうだ。そ
うであるならば、少なくともフランスの成長見通しは決し
て悪くなさそうだ。フランスの消費者市場にとって、これは
良いニュースである。
16
小売セクターの概要
フランスの食料雑貨小売セクターはさまざまな難題に直面しており、1960年代以降の激動とも言える構造変革期を堪
え忍んできた。20世紀後半のフランスにおけるモダントレードの象徴だった「イペルマルシェ
(hypermarché)」は、
2000年代初め以降着実に衰退を続けている。フランスと欧州の景気が低迷していること、2008年から小売業の
不振が続いていること、そして今年の消費者信頼感が1972年以来の最低水準に落ち込んだことも、昨今の悪い流
れに拍車を掛けた。さらに悪いことに、非食品の小売部門でも電子商取引が拡大し、消費者にとって価格の透明性
が高まったこと、そして人口動態が変化していることも、イペルマルシェにとって痛手となった。
特に、超長期的に見て人口動態が変化しているということは、各世帯の規模が小さくなり、可処分所得が減少し、住
む家が小さくなり、自動車保有率が低下することを意味している。つまり、週に一度長距離を移動して大型店舗に買
い物に出かける、といった必要性は低下していくのだ。より便利な買い物の形態へとセクターのトレンドが容赦なく
変化していく中、小売各社は新たな形態・下位形態の店舗を出店するなどビジネスモデルの転換を図っており、試行
錯誤を重ねながら必死に努力している。しかし、成功の程度は企業によりさまざまだ。
投資を行わなければならないこと、そして変化する顧客のニーズに対応するため新たな小売形態を模索し利益を上
げなければならないことは、フランスの大手小売企業にとって大変な難題であり、大きな経済的負担を伴うことは
明らかだ。負担があまりに大きいので海外展開を大幅に縮小しなければならない場合もある。Carrefourは、戦略的
に重要な一部の海外市場とフランス市場に改めて集中するため、その他の海外市場から撤退した。
しかし、現在も海外で成長モードを続けている企業があることにも注目しなければならない。直近の例としては、
Metro Groupが中東欧で展開するハイパーマーケット(Real)をAuchanが買収したことが挙げられる。さまざま
なリスクや問題はあるものの、このような変革期は新興の非食品小売企業にとって新規市場(例えば電子商取引や
家庭用電化製品など)を開拓するための絶好のチャンスでもある。
フランスの食料雑貨市場は統合が進んでいる。食品小売の売上高を見ると、大手5社の市場シェアが合計で68%、
大手10社では86%にも達する。10%以上のシェアを獲得している企業は5社あり、ハイパーマーケットなど多様
な形態の店舗を展開する巨大企業Carrefour(最大手)や Auchan(5位)、独立系グループのLeclerc(2013年後
半または2014年前半にトップに立つと予想されている)、Intermarché、そしてSystème Uが含まれる。この上位
5社の顔触れはフランスの食品市場における店舗構成にも反映されている。今年、ハイパーマーケットとスーパース
トアは43.1%のシェアを獲得し、スーパーマーケットのシェアも40.3%に達している。一方ディスカウント店のカ
テゴリーは大きく水をあけられており、食品小売売上高の8.5%を占めるに過ぎない。ディスカウント店の今後の見
通しは概ね安定的だが、総合食料雑貨店や利便性の高いドライブスルー形態との熾烈な価格競争により体力を消
耗している。一方で、キャッシュ&キャリー方式のホールセール業者は、レストラン運営企業との取引高の減少によ
る打撃を受けている。消費者が外食を控えているからだ。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
17
フランスの小売セクターの状況は、経済、人口動態、そして競争面における要因だけでなく、市場規制とも長年にわ
たって密接に関係してきた。いくつかの例を列挙すると、1990年代後半に成立した法律によってハイパーマーケッ
トの発展は阻害された。1,000平方メートル(約1万1,000平方フィート)を上回る食料雑貨店を開店するために
は、監督官庁の許可が必要となったからだ。この法律はディスカウント店の成長には有利に働いたが、大型店は割を
食うことになった。2008年に成立した法律(経済近代化法)は、小売業者と供給業者の間の協議について規定して
いる。日曜日の営業は例外的に認められるに過ぎず、シーズン末のセール期間さえも法律で規制されている。最後
に、最近フランス全土で急成長しているドライブスルー(クリック&コレクト)の店舗は、近く規制の対象となる可能
性がきわめて高い。政府によると、他の形態の店舗との間で「バランスを取る」必要があるからだという。
ドライブス ル ーは比 較 的歴 史の 浅い店 舗 形態 だが、フランスはドライブス ル ー店 舗の 先 駆 的な 市 場である。
A u c h a n が 2 0 0 4 年 にC h r o n o d r i v e の 一 号 店 をリール に オープ ンして 以 来 、L e c l e r c 、S y s t è m e U 、
Intermarché、Carrefour、Casino、そしてCoraといった各企業が後に続き、店舗数は約2,500にまで増加した。
ドライブスルー店舗の拡大は今や大きなトレンドとなっている。新店舗の開店ラッシュは、制限規定の発効が予想
される2013年末までは続く可能性が高い。しかし、ドライブスルー店舗のブームにもかかわらず、電子商取引全体
の普及ペースは、英国やドイツなど他の欧州諸国に比べて遅い。ネット取引は2012年の小売売上高の5.9%を占
めるに過ぎず、10%を上回るのは2017年以降になりそうだ。
長引く景気低迷や消費者信頼感の冷え込みの影響もあり、プライベートブランド商品の売上げは好調に推移してお
り、2012年の日用消費財売上げの28%を占めている(Nielsen調べ)。数量ベースで見ると、プライベートブランド
商品は市場の3分の1以上(36%)を占めており、1999年の22%から上昇している。フランスのプライベートブラ
ンド商品は昔から多様性に富んでおり、オーガニック、地域商品、フェアトレードなどさまざまな種類がある。生活に
困窮した消費者がディスカウント店に流れた2000年代後半以降、低価格帯のプライベートブランド(Carrefour
Discountなど)もようやく商品棚に数多く並ぶようになった。しかし将来に目を転じると、プライベートブランド部
門は飽和状態に近づきつつあるように思われる。
現在さまざまな変化が起きており、今後数年間においても多くの変化が起きると予想されることから、既存の市場
参加者だけでなく新規参入者にも投資機会がもたらされ続けるだろう。これらの投資が最終的に実を結ぶ可能性
は高いが、果実はあくまで長期的な戦略によりもたらされるものである。なぜなら、フランスで現在続いている消費
危機は根が深いからだ。
18
中期的展望
イタリア
イタリアの悪評の種は尽きない。対GDP比の政府債務水
景気の低迷は国内需要の弱さと大きく関係している。賃金
準は非常に高い。過去10年において、イタリアは世界で最
は上昇せず、失業率は高く、税負担は増すばかり(緊縮政
も成長率の低い国の一つだった。2003年から2012年ま
策の所産)で、これらすべてが消費者需要を痛めつけてき
での実質GDP成長率はマイナスだった。イタリアは昔から
た。信用市場の状況も芳しくなく、リスクスプレッドの高さ
不安定な政治状 況に悩まされてきたが、とりわけ最 近の
が企業投資に冷や水を浴びせている。これらの要因が急
不安定感は高い。本レポートの執筆時点において、イタリ
に変化することはないだろう。また、イタリアの人口動態の
アは長引く不景 気の最中にある。将来に目を転じても、イ
悪さ(生産年齢人口の減少が続くこと)も、にわかに解決す
タリアは人口動態が欧州で最も悪い国の一つだ。しかし、
るとは考えにくい。
これは驚くべきことかもしれない。そう遠くない昔、イタリ
アの経済は急成長を遂げており、大量の預貯金は、利益性
一方で、大きな好材料はおそらく輸出だろう。過去10年間
の高い投資に向けられていたからだ。今でも預貯金は昔の
におけるイタリアの輸出が低調だったことを知っている人
ままだ。政府債務の水準は高いが預貯金の水準も高いの
は、この指摘に驚くかもしれない。イタリアは競争力を失っ
で、債務の償還については通常あまり問題とならない。さ
た結果、世界での市場シェアも失った。2009年に実質輸
らに現在の財政赤字はかなり少ない。そして利払いを除け
出額は17,7%減少した。しかしユーロが割安なことと、過
ば、予算は実は黒字なのだ。北イタリアは長年にわたって産
去数年において賃金水準が低く抑えられる一方で生産性
業とファッションの中心地となってきた。イタリアのブラン
が改善していることを考え合わせると、イタリアの輸出は
ドが持つ魅力は依然として強く、世界の憧れの的となって
競争力を高めつつある。競争力が向上すれば、今後数年間
いる。競争を勝ち抜くためにはブランド力がきわめて重要
における輸出の増加が期待できる。輸出が増加すれば、現
な意味を持つこの世界において、イタリアは驚くほど有利
時点で非常に高い失業率が低下に向かうかもしれない。
な立場にある。したがって、イタリアを選択 肢から完全に
排除すべきではない。
中期的に見れば、明るい材料は他にもある。第一に、緊縮
政策は概ね終了した。今後は、経済成長に悪影響を与える
それでも、イタリアは短期的ではなく中期的な投資先と見
ような財政政策が取られる可能性は低い。事実、IMFの予
なすべきだ。2012年の実質GDPは2.4%のマイナスであ
測によると、イタリアは長期的に見れば構造的財政黒字を
り、2013年も約2.0%のマイナスとなる見込みだ。2014
すでに達 成しているのだという。すなわち、必要とあれば
年に関しても、大幅なプラスになると予想するアナリスト
イタリアは中期的な財政刺激策を取ることができるのだ。
はほとんどいない。順調な回復局面に入るまでの道のりは
第二に、重要な法律を可決させるには数多くの困難がある
長く険しいものとなるだろう。
ものの、経済改革法案が成立する可能性はこれまでになく
高まっている。この改革には、労働市場の自由化だけでな
く、主要な製品・サービス市場の自由化も含まれている。こ
イタリアの小売市場は細分化さ
れている。
このことはプラネットリ
テールの推計にも表れている。
イタリアの食品小売売上高全
体に占める従来型店舗の売上
げは17%にも達するのだという
(英国では約7%に過ぎない)。
の改革の目的は、雇用を増やし効率を向上させることによ
り、経済成長への下地を作ることである。第三に、イタリア
の最 大の輸出先は他の欧 州諸国であり、これらの国々は
長い景気低迷からようやく抜け出すと予想されているの
だ。これもまた、イタリアの景気回復の一助となるだろう。
イタリアの消費者市場の見通しはバラ色というわけでは
ないが、多くの人が考えるほど悪いものでもない。景気が
回復すれば失業率は下がる。緊縮政策の縮小は増税の終
生産性の向上は実質賃金の上昇をもた
了を意味しており、
らしそうだ。よって、消費者市場は今後10年間にわたり成
長を続けるだろう。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
19
小売セクターの概要
イタリアの長引く景気低迷を象徴するかのように消費者信頼感も弱含みを続けており、小売セクターも相応の悪
影響を受けている。小売売上高は2013年も減少を続けると予想され、実質ベースで2%のマイナスとなりそうだ。
とりわけ大きな影響を受けるのが、家庭用電化製品や娯楽など必需品ではない製品群である。消費者が依然として
支出に対して慎重な態度を続けているので、ハイパーマーケット運営企業は一大カテゴリーである非食品部門で苦
戦を強いられている。しかし、非食品売上高の急落は専門店カテゴリーの再編も招いている。独立系の店舗運営会
社が相次いで倒産に追い込まれているからである。
当然のことだが、必需品である食品の売上高は景気後退の悪影響をさほど受けていない。実のところ、イタリアの小
売セクターには、独立系の食料品店が昔から数多く存在している。特にその傾向が顕著なのが、経済発展が遅れて
いる南イタリア(メッゾジョルノ)である。しかし北イタリアにおいても、特に小都市や地方部では小型の食料品店を
至る所で見つけることができる。プラネットリテールの推計によると、イタリアの食品小売売上高全体に占める従来
型店舗の売上げは17%にも達するという。これに対してドイツは9%、英国は約7%とはるかに低い。
ハイパーマーケットとスーパーストアはイタリアの食料雑貨小売セクターにおいても重要な地位を占めてはいるも
のの、欧州の他の主要市場に比べれば存在感は小さい。イタリア市場が細分化していることと、独立系の小規模店
舗の保護を目的とした規制法が存在することがその理由だ。実際、ハイパーマーケットとスーパーストア(主な運営
企業はEsselunga、Coop Italia、Auchan、CarrefourおよびFiniper)の売上高が食品売上高全体に占める割合
は、2012年時点で24.8%に過ぎず、2020年においても26.3%へとわずかに上昇するに過ぎないと予想されて
いる。
また、小型ディスカウント店部門も拡大を続けており、LidlやEurospin、Penny(およびさらに小規模な地方企業)
などがすでに食品小売売上高の6.8%を占めている。とはいえ、以前から市場の大部分を占めているのが、スーパー
マーケットとネイバーフッドストア(企業が経営する店舗と独立系店舗の両方を含む)であり、ConadとCoop Italia
がこのセグメントにおける大手企業である。とりわけ南イタリアでは経済発展のペースがきわめて緩やかであるこ
とから、市場が統合化される兆しはほとんど見られない。一方、他の南欧諸国と同様、イタリアのコンビニ部門は依
然として小さな市場セグメントにとどまっている。
プライベートブランドの日用消費財が食料雑貨売上高全体に占める割合はこの10年間で倍増しており、2012年に
は20%をわずかに上回るまでになった(Nielsen調べ)。この傾向は、経済危機が発生して以降さらに顕著になって
いる。それでも、イタリアの市場は細分化されているので、プライベートブランドの普及率は欧州の他の主要市場(ス
ペインは51%、フランスは36%)と比べて特に高いというわけではない。
それでも、プライベートブランドの成長は目覚ましいものがあり、イタリアの大手小売各社が公表したデータもこの
傾向を裏付けている。プライベートブランド発展の立役者である最大手企業Coop Italiaの発表によると、プライ
ベートブランドの売上高は2012年だけで12.6%増加し、グループ売上高の27%を占めるまでになったという。
AuchanはSimply Marketの売上げの17%をプライベートブランドで稼いでおり、この比率を25%にまで増やす
計画を発表している。一方、このセクター3位のConadは25%という水準をすでに達成している。2012年、同社は
プライベートブランドの品揃えを17%増やし、売上高全体に占める割合は25.5%に達した。
20
イタリアの電子商取引の普及率は欧州の他の主要国と比べて低く、2013年の小売売上高の約3.4%を占めるに過
ぎない(英国は10.2%)。しかし、技術面のインフラは急速に普及している。例えば、エコノミスト・インテリジェン
ス・ユニット(EIU)によると、インターネット利用者の割合は2000年のわずか23%から2015年には62%に達す
る見込みだという。ブロードバンド普及率も、同じ時期に0.2%から26.0%へと急上昇すると予想されている。し
たがって、Amazonが2010年にイタリア国内でウェブサイトを開設したことも追い風となり、電子商取引の利用率
は今後拡大していくだろう。
将来に目を移すと、イタリアの食品小売の投資機会は主に住宅地域に見出すことができるだろう。その理由として
挙げられるのが、イタリアの食料雑貨セクターが依然として細分化されていることと、人口動態が変化しつつあるこ
とである。他の多くの西欧諸国と同様にイタリアでも高齢化が進んでおり、今後数十年にわたって生活水準が低下
していくはずだ。これにより労働力人口が減る一方で税負担は増し、消費に回す資金をあまり持たない年金生活者
は増える一方だ。さらに、一世帯当たりの人数が減り、自動車保有率も低下していくことも考え合わせると、家から
近い店舗での買い物が好まれるようになることは確実で、郊外のハイパーマーケットは苦戦を強いられそうだ。
最大手のCoop Italiaは、顧客の困窮ぶりを感じ取っている。同社のプライベートブランドの売上高は2012年だけで12.6%増加し、
グループ売
上高の27%を占めるまでになったという。
出典:プラネットリテール
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
21
中期的展望
英国
英国経済は低迷しており、
今後数年間も成長が伸び悩む恐
れがある。英国が直面する課題は、緊縮財政が続いている
こと。近隣のユーロ諸国が弱含んでいること、そして銀行
セクターへの懸念がくすぶっていることなどである。英国
の金融業の競争力を削ぎかねない追加規制をEUが導入
する可能性があり、銀行セクターの問題は悪化の一途をた
どっている。他業種の成長によって金融業の低迷を埋め合
わせる必要があるのだが、これが実現するかどうかは不透
重要性は低下しつつあるもの
の、
英国ではハイパーマーケット
とスーパーストアが依然として
最も重要な販売ルートである。
明だ。もう一つの問題は、英国がEUから脱退する可能性が
あり、これが企業の信頼 感に悪 影響を与えかねないこと
急激な増税とインフレの時期は終わりを迎えつつある。政
だ。これは長期的な問題であるにせよ、ユーロ圏の問題は
府 の 増 税 計 画 の 約70 %は実 施 済みである。2011年に
短期的には英国経済に波及効果をもたらし続けるだろう。
ピークに達した物 価 上 昇 率は今 や 半 分以下の 水準 であ
る。平均所得が上昇に転じることが予想される中、消費者
一方で、英国経済には好材料も多い。例えば、金融業が世界
の購買力も緩やかな回復に向かいそうだ。
でも随一の強靭さを誇っており、またマスメディア、専門
サービス、そして観光業にも強みがある。労働者層の教育
さらに、株価上昇も消費者の資産を増やしている。消費者
水準は高く、ロンドンは世界の中心地であり続けるだろう。
の負債と金融資産を比較すれば、資産状況が過去10年間
ユーロ圏経済が持ち直し、緊縮政策が縮小され、イングラン
で最も良好であることが確認できる。住宅ローンの延滞や
ド銀行がより大胆な金融政策を実施すれば、英国経済も回
消費者金融の評価損も減少を続けており、消費者部門の
復するだろう。
これらのシナリオは、短期的には難しいだろう
健全化が進みつつあることをうかがわせる。
が、いずれは実現されるだろう。ただし、たとえ英国経済が回
復に向かったとしても、その恩恵はロンドンに集中すると見
られ、他の地域は取り残されたままとなる可能性が高い。
また、凍り付いていた信用供与の状況も雪解けに向かって
いる。イングランド銀行が発表した2013年第2四半期の
信用状況調査によると、第4四半期の住宅ローン供与状況
GDPの60%超を占める個人消費は、金融危機と実質所
は2008年初頭以来の高い伸び率となったそうだ。一方
得の減少により大打撃を受けている。
個人消費が回復すれ
で英国政府は、家計が住宅ローンを受けやすくするための
ば経済成長に大きな効果をもたらすと思われ、最近の報道
さまざまな施策を導入しており、一定の成果を上げている
によれば最悪期は脱したようだ。個人消費は過去数四半期
ようだ。
において回復を続けており、自動車販売も増加に向かって
いる。他の欧州諸国の自動車販売が減少を続ける中、これ
以上より、英国経済の消費者部門の中期見通しは概ね悪
は数少ない好材料と言える。英国の失業率は過去2年間に
くなさそうだ。長 期的な成 功のためには英国経 済の大幅
わたりじりじりと低下を続け、公共部門の雇用減を上回る
な構造改革が依然として必要だが、小売業者を取り巻く環
ペースで民間部門の雇用が増加している。英国の消費者の
境は、今後2020年までの期間のほうが過去数年間よりも
前途はバラ色とは言い難いが、
信用状況が正常化に向かい
良さそうだ。
実質賃金も増加に転じている現状において、
個人消費が今
後の経済成長の原動力となることが期待されている。
英国の個人消費は過去数四半期において回復を続けており、公
共部門の雇用減を上回るペースで民間部門の雇用が増加してい
る。見通しはバラ色とは言い難いが、個人消費が今後の経済成
長の原動力となることが期待される。
22
小売セクターの概要
英国は、小売売上高では世界第9位、食品小売では世界第8位の市場である。欧州ではフランスと3∼4位争いを繰
り広げており、為替レートにより順位が入れ替わる。英国市場の特徴は集中化が進んでいることであり、2012年の
食品小売売上高の68.8%を上位5社が占めている。
成長機会に関して言えば、市場が飽和状態にあることに加え、競争当局が厳しい目を光らせているので、大型の
M&Aが行われる余地はほとんどない。そこで小売各社は多角化に躍起になっており、過去10年間においてはコン
ビニ、電子商取引、そして金融サービスへの進出が重要なトレンドとなっている。
コンビニ市場は細分化されており、かつ顧客のニーズが郊外の大型店から近所の店舗へとシフトしていることか
ら、コンビニ部門への進出のトレンドは更なる成長余地を残している。大規模店から顧客が離れるという傾向は緩
やかだが着実に進んでいる。その理由は、ネット販売が拡大していること(驚くことに、2013年の小売売上高の
10.2%にも達している)と、人口動態の変化により消費者が地元での買い物を好むようになっていることである。
小規模店舗の急拡大と大規模店舗の成長鈍化という傾向は、英国最大手Tescoが大規模店舗の出店競争からの離
脱を宣言したことにも表れている。世界的な巨大小売企業Tescoによるこの宣言は、電子商取引の普及によって大
型店舗での非食品の売上げが減少していることを初めて公に認めたものである。その結果Tescoは、5∼10年前に
取得したものの開発予定のない用地100か所(現在の価値は8億200万ポンド(12億4,000万ドル))を売却した。
ハイパーマーケットTesco Extraの既存店を閉鎖する計画こそないものの、小売・娯楽の場所としての魅力を高め
るため、これらの店舗をテコ入れする方法を模索している。
その一環として、TescoはコーヒーチェーンHarris + HooleとレストランチェーンGiraffeを買収した。Tescoは、ア
ジア市場で得た経験をある程度参考にした「顧客への娯楽の提供」というコンセプトを取り入れることにより、事業
形態を大きく変えようとしている。このようなTescoの動きは、フランス、ドイツ、スペインなど今後数年の間に同
様の問題に直面する他国にとって、興味深い実例となるだろう。言うまでもなく、非食品の売上げに大きく依存する
食 料 雑 貨 店 にとってインターネット の 隆 盛 は 大 打 撃 であり、そ のためTe s c oとWa l m a r t 傘 下 のA s d a は、
Sainsbury’sやMorrisonsなどよりも厳しい状況に見舞われている。
プラネットリテールの予測によると、食料雑貨の小売売上高に占めるハイパーマーケットとスーパーストアの割合
は、2007年の66.1%から2020年には54.3%に低下するという。重要性は低下しつつあるものの、英国ではこの
2業態が最も重要な販売ルートであり続けるだろう。これに対し、2020年におけるスーパーマーケットとネイバー
フッドストアの比率は約13%、ディスカウント店の比率は8%になると見られる。
振り返ってみると、英国の大手食料雑貨店は、低価格帯のプライベートブランドをいち早く投入することにより、ディ
スカウント店の攻勢をよく食い止めたと言えるだろう。ディスカウント店は経済危機の発生以降市場シェアを拡大
させてきたし、悪いイメージの払拭に努めて大衆市場における認知度を高めてきたが、これらの動きは大型店に比
べればはるかに弱い。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
23
たとえそうだとしても、コンビニとディスカウント店は、長期的に見ればハイパーマーケットやスーパーストアのシェ
アを奪うことが見込まれる。2018年までの5年間における年平均成長率は、コンビニが約6.0%、ディスカウント店
が約8.3%になると予想され、大型店を凌駕する水準に達しそうだ。TescoとSainsbury’sは何年にもわたってコ
ンビニの出店を進めてきたが、Morrisonsなどもビジネスチャンスを見込んでこのセクターに新規参入している。
Morrisonsは最近、英国ですでに盛んな食料雑貨のネット販売事業にも参入し、注目を浴びた。Morrisonsのこの
動きはネット専業会社Ocadoとの提 携により実現したものであり、同じくネット事業への参入を検 討している
Co-operative Group を出し抜いた格好だ。とはいえ、食料雑貨のネット販売では採算性が依然として大きな課題
だ。他の西欧諸国と比べ英国は利幅が大きく、消費者は高額な配送料を受け入れているものの、それでも英国の
ネット事業の収益性は決して高いとは言えない。
Tescoはアジア市場での経験を踏まえて、
レジャー・娯楽に重点を置いた未来のハイパーマーケット像を模索している。ロンドン近郊で新装開店し
たこの店舗が一例だ。
出典:プラネットリテール
24
中期的展望
スペイン
スペイン経済を短期的に緩やかな成長へと導く要因は何
か? この答えを見つけ出すのは困難である。緊縮財政の
実施、銀行業界の脆弱性、信頼感の低さ、そして信用市場
の機能不全といった諸要素により、スペインは深刻な景気
低迷に陥っている。2012年の実質GDP成長率は1.4%の
マイナスとなり、実質消費支出も2.2%減少した。2013年
も実質GDP成長率は1.7%のマイナス、消費支出も2.7%
減少すると予想されている。競争力が回復し輸出も増加し
つつあるが、スペインを着実な景気回復に向かわせるには
不十 分だ。労働市場の自由化といった経済改革は長 期的
にはプラスに働くだろうが、短期的には成長を阻害し社会
2012年までの5年間に、
スペイ
ンの小売市場は実質ベースで
21%縮小した。Mercadonaを
除く大部分の大手企業の2012
年の売上高は、経済危機発生
前の水準を下回った。
不安を増大させるだろう。さらにカタロニアでは分離独立
の機運が高まっており、今後数年間はスペインにとって正
念場となりそうだ。実際、2014年の実質GDP成長率もせ
スペインの消費者市場はどうか? 今後数年間の見通しは
いぜい0%程度にとどまる見込みだ。明らかなプラス成長
芳しくない。輸出が好調だとしても、経済成長のペースは
に転じるのは早くても2015年以降となるだろう。前回の
鈍いだろう。生産年齢人口と労働力人口は縮小を続け、失
プラス成長局面が終了したのは8年前のことだ。
業率(現在27%)は高止まりするだろう。このような状況
により、消費者の 信 頼 感と消費 意欲は大きく削がれそう
一方で、スペインは非常に洗練された経済体制を維持して
だ。しかし、すべてが順調にいけば、2020年頃に労働力人
いる国であり、世界的な企業も数多く存在する。また国民
口は増加に転じる見込みだ。消費者の債務削減も概ね終
の教育や技能の水準は高く、世界有数の観光地でもある。
わっているだろうし、失業率も低下しているはずだ。
抑圧さ
政府が大 胆な労働市場改革を実現させ、ユーロ圏経済が
れた需要も相当あるはずだ。その頃には個人消費が復活
回復に向かえば、スペイン 経 済も最 終 的に復 活するだろ
していると予想するのが合理的だろう。
う。事実、明るい兆しも見られる。緊縮財政により経済成長
に甚大な悪影響が及んでいたが、緊縮政策は縮小されつ
つある。また、賃金の上昇が抑えられる一方で生産性が向
上したことにより、競争力が大幅に高まった。スペインの輸
出は今後数年間にわたり好調を維持するだろう。よって、
輸出がもたらすプラス効果は過去10年間に比べてきわめ
て大きくなると見られる。
一方で、住宅バブルの崩壊により発生した金融システムの
不均衡を反転させるためには、行うべきことがまだたくさ
んある。金融市場の問題は解決には程遠く、特にスペイン
の中小銀行は苦境にあえいだままだ。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
25
小売セクターの概要
スペインの小売セクターは景気低迷の余波に依然として苦しんでいる。2012年までの5年間に、スペインの小売市
場は名目ベースで11.8%、実質ベースで約21.2%縮小した。生きていくために食料は欠かせないので、不況下に
あっても食料品事業は比較的堅調だ。一方で非食品事業の不振はハイパーマーケット運営企業に打撃を与えた。ま
たプライベートブランドの急成長により、危機の最中にあった2012年までの5年間で、食料雑貨の小売売上高は
5.1%減少した(実質ベースでは15.2%の減少)。このように、スペインの危機の深刻さは筆舌に尽くしがたい。
若年層の失業率が55%を上回り、高等教育を受けた20∼30歳の大部分が、6年近くにわたって失業状態にある
という。このような状況にあっては、中期的な見通しは引き続き非常に厳しいものとならざるを得ない。短中期の見
通しが思わしくない中、市場では淘汰が進んでおり、独立系の企業は厳しい状況に置かれている。プラネットリテー
ルの予測によると、従来型の食料雑貨店の市場シェアは2007年(金融危機が始まった年)の21.8%から、2020
年には15.7%に低下すると見られる。
各企業に視点を移すと、El Corte Inglés、Carrefour、EroskiそしてMetro Groupなど大手企業の2012年の売
上高は、経済危機発生前の水準を下回った。このような厳しい情勢の中、最も目覚ましい成功を収めたのが低価格
志向のスーパーマーケットを運営する最大手企業Mercadonaである。食料雑貨セクターにおける同社の市場シェ
アは、2007年の16.2%から2012年には22.5%へと上昇した。Dia(2011年にCarrefourからスピンオフ)、Lidl
そしてAldiなどのディスカウント店も勝ち組だ。なぜなら経済的に困窮した消費者は、低価格ながら品質の高いプラ
イベートブランドを選択するようになっており、ハイパーマーケットに出かける際のガソリン代を節約したい買い物
客は、便利な場所にあるディスカウント店を好むようになっているからだ。特に注目すべきなのは、スペインのディス
カウント店部門においてDiaの優位性が高まっていることだ。スペイン国内のディスカウント店のうち、同社の店舗
は77%を占めるまでになっている。
経済危機の影響により、食料雑貨の売上げにおけるプライベートブランドの割合は、現在およそ40%
(数量ベースで
は約50%)に達していると見られる。しかし最近の市場分析によると、成長率が低下の兆しを見せており、飽和状態
に近づきつつあるようだ。近年、小売業者が明らかに力を入れているのは、プライベートブランドの拡充、価格帯全
体を見直すための投資、サービス水準と物流の向上であるが、店舗網の拡大もある程度行われている。改めて指摘
すると、店舗網の拡大に最も成功しているのはMercadona、DiaそしてLidlである。
スーパーマーケットとネイバーフッドストアは2012年におけるスペインの食料雑貨売上高の52.8%を占めてい
る。このセグメントの大部分を支配しているのが、スペインの国内企業各社である(最大手はMercadona)。ディス
カウント店のシェアは10.9%とさほど高くない。スーパーマーケットとディスカウント店はいずれも今後数年にわた
り市場シェアを拡大させていくと見られる一方で、ハイパーマーケットは超長期的に見ると引き続き苦戦を強いら
れそうだ。というのも、スペイン社会の高齢化によって経済危機は深刻さを増す一方で、非食品部門のネット販売も
競争が激化すると予想されるからだ(エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによると、インターネット普及率は
2000年の13.6%から2015年には71.3%に急上昇する見込みだ)。
26
スペインの大手小売企業について詳細に検討する。スーパーマーケット運営の最大手企業Mercadonaは、今後も
年間50店以上のペースで新規開店を続けると見られ、店舗網は2018年までに1,800を超えそうだ。同社の2012
年の売上高は190億ユーロ(250億ドル)に達し、食料雑貨部門において22.5%もの高い市場シェアを獲得してい
る。プライベートブランドの大成功がEDLP戦略全体を下支えしており、ハイパーマーケットとディスカウント店の
間に存在するギャップを埋めることに成功している。同社のスーパーマーケットは価格が手頃で、利便性が高く、雰
囲気も良いと買い物客から評価されている。
売上総額で第2位の地位にあるのがEl Corte Inglésだ(ただし食品・飲料・タバコ部門では6位にとどまる)。百貨
店グループである同社は、経済危機の前からハイパーマーケットやスーパーマーケット、コンビニ部門へと多角化を
推し進めるとともに、非食品やサービス事業にも進出していた。経済危機の最中にある現在、同グループは価格の引
き下げを図る一方で、昔からの高品質や優れたサービスを犠牲にすることのないよう必死の努力を続けている。現
在El Corte Inglésのハイパーマーケット・スーパーストア部門は、CarrefourとAuchanに次いで国内第3位にラン
クされている。この部門は他の欧州諸国でも業績が好調で、危機の最中にあっても市場シェアを伸ばしている。
バスク地方に地盤を置くEroskiはスペインの食料雑貨小売業第4位の企業である(第3位はCarrefour)。同社は食
品、非食品、ホールセールなどさまざまな事業を展開しており、EroskiとCapraboのブランドはきわめて知名度が
高い。しかし同社は経済危機により大きな打撃を受けており、売上高は2009年以降減少を続けている。その結果、
同社は債務を整理するため、やむなくセール&リースバックの手法を取ることにした。
最後に、ディスカウント店運営会社Diaはスペインで最大の店舗数(4,000店以上)を誇っている。このうち約4分の
1は、倒産したドイツの薬局チェーンSchleckerから2012年末に取得したものだ。景気見通しが暗いにもかかわら
ず、Diaはスペイン国内への投資を継続している。この事実は、ディスカウント業者としての同社がこの深刻な経済
危機を耐え抜く能力を有していること、さらには経済危機によって恩恵すら享受できる可能性が高いことを示して
いる。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
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スーパーマーケット運営の最大手企業Mercadonaは、今後も年間50店以上のペースで新規開店を続けると見られ、店舗網は2018年までに
1,800を超えそうだ。同社の2012年の市場シェアは22.5%もの高率に達した。これはプライベートブランドの大成功に負うところが大きい。
出典:プラネットリテール
28
長期的展望
イラン
欧米の多くの政治家や財界のリーダーたちは、イランをな
しかし1978年の革命以前、イランは比較的豊かな国だっ
らず 者国家と見なしている。イランは外交的に孤立し、核
た。現在でも国民一人当たりのGDPは世界水準よりも高
兵器の開発やテロリストの支援に積極的であるため逆に
く、イランは中所得国に分類されている。母国を逃れてロ
他国からの厳しい制裁に苦しんでいる。経済は低迷し、原
サンゼルスなどで暮らしている多くのイラン人は、裕福で
油生産は減少し、投資は大幅に制限され、物価上昇は手を
教育水準も高い。彼らはいずれ母国に投資したいと考えて
付けられないほどだ。世界の小売業者がこれらの要因を
いる。イランの国内世論を見る限り、国民は現在の政権に
忌み嫌うのは当然だろう。
満 足しておらず、欧米に対して驚くほど好意 的な感 情を
持っている。
政権が代われば、イランは欧米寄りのスタンスに転じ、国
イランに中期的な投資機会を
見出すことができるのは、
イラン
際社会から受け入れられる可能性もある。これが実現すれ
ば、経済は大きく成長し、エネルギー部門への投資が急増
し、在外イラン人の富が流れ込み、7,700万人もの巨大市
国内の近代的なショッピングセ
場が海外企業に開かれることになる。このような変化に長
ンターに出店するファッション・
された、優れたビジネスインフラがすでに存在するからで
化粧品ブランドなどだろう。政
治的な緊張が和らぎインフラが
さらに改善すれば、世界的なハ
イパーマーケット・グループにも
チャンスが到来しそうだ。
い時間は掛からない。なぜなら、活発な株式市場に下支え
ある。とはいえ、このようなシナリオがすぐに実現すること
はなさそうだ。さらに、たとえイランの政治 体制が大きく
変化するにしても、それは急激な革命ではなく段階的なプ
ロセスとなる可能性が高い。そのような変化を経た国が過
去に存在しただろうか? 答えはイエスだ。過去数十年の間
に、革命の大混乱を経験することなく、経済政策を大きく
変更させ、世界各国との交流を深め、政治的な自由を実現
させた主要国はいくつも存在する。例えば中国、韓国、ブラ
ジル、メキシコ、南アフリカなどだ。したがって、イランで変
化が起きる可能性を排除すべきではない。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
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小売セクターの概要
イランは欧米のアナリストから最も過小評価されている小売市場の一つだろう。おそらくその理由は、イラン経済
の最新情報が常に不足していることにある。正直なところイランの小売業の近代化はまだ始まったばかりだが、若
年層の多さ、都市化率の高さ、小売業向け物件の急増、近代的テクノロジーの急速な普及といった要因を追い風にし
て、小売業の近代化は大きく進みつつある。
7,700万の人口を抱えるイランは、すでに南アフリカと同程度の生活水準を享受している。しかし、小売セクター
は昨今の通貨安により影響を受けている。銀行業と原油取引に関して米国とEUが課した制裁はイラン経済を直撃
し、通貨リアルが2011年の水準から80%以上も下落した結果、輸入価格は大幅に上昇している。衣料と食品は国
際的制裁の対象外だが、最近のインフレにより消費者の実質的な購買力は大きく削がれており、多くの外国製品は
ほとんどの国民にとって高嶺の花となっている。送金規制によって状況はさらに悪化している。法律上は輸入可能
な品目でさえ輸入が技術的に困難となっているからだ。国内の物価上昇があまりに甚だしいので、2013年初めに
イラン政府は小売業者に対して「利益率の引き下げ」を要請する事態にまで発展した。しかし、苦境にあえいでいる
のは消費者だけでなく小売業者も同じだ。現在、海外ブランドの消費財の生産が許可の下で行われており、状況を多
少なりとも改善させている。
現時点ではさまざまな問題があるものの、国内外の政治情勢が安定すれば、長期的な見通しは明るいものになりそ
うだ。上記でも指摘したとおり、イランの小売セクターの近代化はまだ緒についたばかりだが、ともかく始まってい
る。テヘランなどの大都市では近代的なショッピングセンターの建設が進んでおり、都市部の中間層から好意的に
受け止められている。近代的な食料雑貨チェーンがイランに相次いで出店するようになったのは、市場の自由化が
始まった1990年代初頭である。それでも、イランの食料雑貨小売セクターにおけるスーパーストアのシェアは
4.2%程度に過ぎず、一方で青空市場と露天商は29%もの市場シェアを占めているようだ。青空市場と露天商は
何層もの卸売業者から商品の供給を受けている。
また、イランの食料雑貨小売セクターに占めるモダントレードの比率は緩やかに上昇しており、現在およそ18%を
占めるまでになっているが、小売の近代化は大都市部にほぼ限られるため、大都市部ではモダントレードが目覚ま
しいペースで普及している。一方で、伝統的なセクターは依然として政府公認の協同組合、独立系の個人商店、露天
市場、そしてバザールにより支配されている。市場では約44万もの独立系食料雑貨業者が活動している。
現時点で電子商取引について話題にするのは明らかに時期尚早だが、インフラの整備は現在急ピッチで進んでい
る。25歳未満の人口が全体の46%を占め、都市化率も2000年の64%から2015年には72%へと急激に高まる
と予想されていることから、近代的なライフスタイルへの憧れは現在でもかなり強く、今後数年間でさらに強まる
と見られる。エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の予測によると、2000年時点で1%に過ぎなかった
インターネット利用者の比率は2015年には33%へと急拡大し、ブロードバンド普及率も0%から10.4%へ上昇
するという。インターネットと同様に、2000年のイランで携帯電話を入手するのはほぼ不可能だった。当時の契約
数は100人当たりわずか1.5件だったが、2010年には89.2件に急上昇し、2015年には133件(2010年のドイツ
とほぼ同水準)に達する見込みだ
(EIU予測)。
30
次に大手小売グループについて検討する。テヘランに本社を置くRefahは1995年の創業で、イラン国内に160店
舗のスーパーストアとスーパーマーケットを展開するほか、小規模のネットショップも運営しており、食料雑貨だけで
なく非食品の品揃えも充実させている。Refahは、国内銀行が発行したクレジットカードを扱う(海外銀行のクレ
ジットカードを扱うことは法律で制限されている)とともに、ポイントカードの発行も行っている。1990年代初頭
に設立されテヘラン市が所有するShahrvandは、大都市圏内で現在23店舗のスーパーストアを運営しており、3万
∼5万点の商品を扱っている(店舗の規模により異なる)。Refahと同様、ネット通販も行っている。
一方で、海外の小売業者がイランの消費者にとって全く馴染みがない、というわけではない。Carrefourは、中東に
おける合弁事業パートナーだったMajid Al Futtaim(MAF)を通じて2009年にハイパーマーケットHyperstarを
開店させ、市場参入を果たした。Hyperstarのロゴは現在でもCarrefourのものとよく似ているが、Carrefourは
MAFとの合弁事業を解消する前に、Hyperstar事業からすでに撤退していたようだ。イラン国内で事業を行うその
他の海外企業としては、英国の百貨店チェーンDebenhams(2009年以降、フランチャイズ契約を通じて事業を
行っている)や、香水販売店Yves Rocherを挙げることができる。世界的に知られたブランド名だけでなく、世界的
な大手企業のコンセプトや外観に似せた外食チェーン店を、イランの大都市で数多く目にするようになっている。こ
れは他の新興市場でもお馴染みの戦略である。
将来に目を転じると、海外の小売グループが中期的な投資機会を見出すことができるのは、ファッションや化粧品
といったブランドだろう。これらのブランドは、イラン国内で増えている近代的なショッピングセンターに出店する
場合が多い。フランチャイズ契約や現地生産契約を締結すれば、昨今の経済情勢にあっても食料雑貨や非食品の商
品を手頃な価格で供給することができるだろう。政治的な緊張が和らぎ食品製造拠点などの国内インフラがさら
に改善すれば、世界的なハイパーマーケット・グループにも投資機会が到来しそうだ。
しかし、WalmartやCarrefour、Tescoの同業者たちがこの潜在機会を中期的に活用できるかどうかは別の問題
だ。理屈の上では魅力的なはずの世界の新興市場への参入が、将来行われずに終わる可能性は十分にある。ただし、
それは市場環境が整っていないことが理由ではない。問題は小売業者の側にある。イランが欧米のハイパーマー
ケット・グループの投資先となるかどうかは、本拠を置く欧米市場が経済危機に見舞われている中で、これらのグ
ループが事業の再構築を果たせるかどうかに掛かっている。また、欧米で起きつつある人口動態の変化に対して彼
らがどう対応するかも重要である。なぜなら欧米市場はハイパーマーケット・グループにとって重大な意味を持って
いるからだ。
イランに中期的な投資機会を見出すことができるのは、イラン国内の近代的なショッピングセンターに出店する
ファッション・化粧品ブランドなどだろう。政治的な緊張が和らぎインフラがさらに改善すれば、世界的なハイパー
マーケット・グループにも投資機会が到来しそうだ。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
31
Shahrvandはテヘラン市内にスーパーストアを23店舗運営している。1990年代初頭の設立から今日に至るまで、同社はテヘラン市により所有されている。
出典:Shahrvand
32
長期的展望
パキスタン
な領土を持つ興味深い国ではあるものの、世界的な小売
今後ある程度の経済成長を達
成できれば、
中間層の消費者が
企業の投資対象からは完全に外れていた。だが、今後10
年の間にパキスタンへの見方は変わるだろうか? もし変
わるとすれば、その変化を引き起こすものは何か?
大幅に増加するはずである。
こ
より長期的に見れば、パキスタンが関心の的となりうる理
れが実現すれば、
モダンリテール
同じような魅力を数多く持っている。パキスタンはインド
も急速に成長するだろう。
由はいくつか存在する。実のところパキスタンは、インドと
よりは貧しいものの、英語を話せる教育水準の高い国民を
多く抱えており、しかも彼らは市場志向型の政策を支持し
ている。パキスタン国内には悲惨なまでに貧しい地域もあ
パキスタンはきわめて貧しい国であり、現在約1億8,000
るが、カラチやパンジャーブなど、豊かで多様性に富み、織
万人の人口は急激な増加を続けている。国民一人あたりの
物産業などに強みを持つ工業都市も存在する。パキスタン
GDPはスーダンとほぼ同じ、隣国インドより約25%も低
の人口動態状況は比較的良好で、英語が話せる中間層も
い。経済成長のペースは他のアジア諸国よりも遅く、過去
分厚い。主な輸出品は綿と織物であり、主な輸出先は米国
5年間の平均成長率は4%に届いていない。2004年から
とEUである。世界銀行が発表した「ビジネス活動のしやす
2007年までの間は成長が一時的に加速し、この期間の
さ」指数によると、パキスタンはインドやロシア、中国より
年成長率は5.8%以上となった。しかしこれは全くの例外
も上位にランクされている。政府が最近行っている政策に
に過ぎない。この国の経済指標は問題だらけである。経常
は、税制改革、公益事業の民営化、自由貿易の促進などが
収支は赤字続きで、外貨準備は減少の一途をたどり、通貨
含まれる。興味深いことに、ゴールドマン・サックスは「ネク
は下落を続け、インフレ率はかなり高い。現在の財政赤字
ストイレブン」を構成する国として、他の主要新興10か国
はGDPの6%を超えている。主要なアナリストは、今後5
とともにパキスタンの名を挙げている。1億9,000万近く
年間の年平均成長率が3.5%程度になると予想している。
もの人口を有するパキスタンは、今後高い経済成長を達成
一年当たりの人口増加率が約1.6%にも達しており、生活
できれば、重要な経 済国家となることは間違いないだろ
水準の向上はほとんど望めそうにない。さらに、世界各国
う。とはいえ現時点では、パキスタンには問題が多い。
がパキスタンへの直接投資に二の足を踏んでいること、電
力供給が不安定なこと、水不足が常態化していること、人
パキスタンの消費者市場に関しては、今後ある程度の経済
的資源の開発が遅れていること、そして国内投資が不活
成長を達 成できれば、特に大都市部において中間層の消
発 なこと(国内投 資は過去5年にわたり減 少を続けてい
費者が大幅に増加するはずである。これが実現すれば、モ
る)など、さまざまな要因が経済成長の足かせとなってい
ダンリテールも急速に成長するだろう。他の新興諸国がそ
る。またパキスタンは、エネルギー源の大部分を輸入に依
うであるように、パキスタンで中間層が拡大すれば、モダ
存している。
ンリテール 部 門 は 小売 売 上 高 全 体 よりもはるかに速 い
ペースで成長する可能性が高い。なぜなら、消費者の買い
パキスタンが抱える問題は経済面だけではない。政治情
物場所が、露天商から、思わず出かけたくなるような近代
勢においても特に波乱含みのように思われる。パキスタン
的な店舗へとシフトするからだ。容易に収穫できる果実が
は破綻国家と見なされることが多い。多くの地域で支配権
目の前にぶら下がっているのであれば、海外の小売企業が
を失い、軍事クーデターがしばしば発生し、過激派やテロ
手を伸ばすのは当然であろう。ただしこのシナリオの大き
リストを抑え込むことができず、隣国インドとはいつ核戦
な障害となるのが、パキスタンの不透明な政治 情勢であ
争が起きてもおかしくない。したがって、パキスタンは広大
る。したがって、パキスタンがビジネスの好適地となるため
には、政治と社会の安定が絶対に欠かせない。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
33
中期的に見ると、海外からパキスタンへの小売投資は非食品に重
点が置かれる可能性が高い。特に海外の衣料ブランド、宝飾品、
健康・美容といったカテゴリーに注目が集まるだろう。なぜなら、
パキスタンの若者や勃興する中間層は、これらのカテゴリーに高
い関心を持っているからだ。
小売セクターの概要
パキスタンの小売セクターは、近代化への長い道のりをようやく歩き始めたばかりだ。プラネットリテールの推計に
よると、食料雑貨の小売売上高のうちモダンリテールが占める割合は、わずか8.4%ほどに過ぎない。2020年には
9.0%に上昇すると予想されるものの、インドに比べれば大きく出遅れている(インドでは同じ期間に10.7%から
14.7%へと上昇すると見込まれている)。
よって、パキスタン国内でモダンリテールのインフラが整っている地域は、カラチ(人口1,110万人)、ラホール
(670
万人)、ラワルピンディ/イスラマバード(290万人)、ファイサラバード(260万人)などの大都市に限られている。ハ
イパーマーケットとスーパーストアがパキスタンの食品小売売上高全体に占める割合は、2%をはるかに下回ってい
る。しかし、パキスタンの10大都市だけで3,000万人が暮らしているという事実は、小売企業の投資対象となりう
る巨大な消費者市場がすでに存在しているということを意味している。これらの消費者は、最新のショッピングセン
ターに出かけて満足のいく商品を選ぶことができる。なぜなら、海外のファッションブランド、健康・美容店、外食
チェーン店など多くの店舗がすでに軒を連ねているからだ。
食料雑貨関連の大手企業としては、ネイバーフッドストアを展開する巨大小売企業Utility Storesや、ホールセール
企 業Metro Groupなどの 名前を 挙げることが できる。コンビニ 小売に関しては、欧 米 系 の巨 大 企 業 Shellと
Chevron
(Caltex)
や国内企業であるPakistan State Oilが、すでに中規模のガソリンスタンド網を展開している。
Utility Storesはパキスタンの食料雑貨市場において圧倒的な地位を築く最大手企業であり、ネイバーフッドスト
アに的を絞った経営を行っている。Utility Storesは1971年に設立され、イスラマバードに本拠を置く。同社の経
営権は以前より政府が100%保有している。なぜなら、必需食品を国民に手頃な価格で提供することを目的とする
会社だからだ。6,000を超す店舗を運営しており、昨年度だけで312店の新規出店を果たした。必需食品を重視す
る姿勢は現在でも変わっていないが、ドライグローサリーやソフトドリンク、ドラッグストアといった分野でも国内
外のブランド商品を多数取り揃えているという事実は注目に値する。
キャッシュ&キャリー方式の世界的な草分けであるドイツ企業Metro Groupは、2007年後半にパキスタン一号
店をオープンさせて以来、ネットワークを9店舗にまで広げており、中期的に店舗数を20に増やす計画を発表して
いる。都市部で事業を行っている独立系の食料雑貨店やレストランなどがMetro Groupの顧客となりうることは
明らかである。しかし、同社がどの程度の成長を実現できるかは、母国で行っている事業再編の取り組みが成功する
かどうかに大きく左右されるだろう。
34
さらに、パキスタンにはいくつかの専門店チェーンも存在する。カラチに本拠を置く鶏肉生産・販売企業K&Nが一
例だ。同社は24都市で100店舗近くを運営しているが、カラチとラホールでの存在感が特に大きい。加えて、パキス
タンの消費者は世界的な外食チェーン店で食事を楽しむことができる。具体的には、McDonald’sやDomino’s
Pizza、Dunkin’Brands、Nando’s、Subway、Yum! Brandsなど多くの外食企業が出店を果たしている。
(Yum!
BrandsはKFCやPizza Hutといったブランドを展開している。)反米デモのあおりを受けて、KFCは2012年に店
舗を一時的に閉鎖した。
中期的に見ると、パキスタンへの小売投資は非食品や外食サービスなどに重点が置かれる可能性が高い。特に非食
品に関しては、海外の衣料ブランド、宝飾品、健康・美容といったカテゴリーに注目が集まるだろう。なぜなら、パキス
タンに多い若者や勃興する中間層は、これらのカテゴリーに高い関心を持っているからだ。
パキスタン国内でインフ
ラ(道路、電力、冷蔵施設のネットワーク、教育)の質が向上し食品製造拠点が整備されれば、食品小売への投資も大
規模に行われるはずだ。ただ、食品小売に対する海外投資の多寡は、世界的なチェーン店運営企業が投資余力をど
の程度残しているかにも左右される。なぜなら、欧米に本拠を置くこれらの企業の多くが、苦戦の続く欧米市場に経
営資源を振り向けているからだ。
しかし、
イランの場合と同じく、
パキスタンのスーパーマーケット・チェーンは当面は
海外の食品小売企業と競争する必要がなく、守られた環境の下で成長を続けることができる。したがって、海外の日
用消費財ブランドにとって、
パキスタンのスーパーマーケット・チェーンは提携相手として有力な候補となるだろう。
Utility
Storesは6,000店を超すネイバーフッドストアを運営している。必需食品を国民に手頃な価格で提供することを目的として1971年に設立された同社は、国内外のメーカー
の食料雑貨を広く取り揃えている。
出典:プラネットリテール
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
35
統計資料
人口(100万人)
ドイツ
2013
2014
2015
2016
2017
2018
81.8
81.6
81.4
81.3
81.1
80.9
日本
127.3
127.1
126.7
126.3
125.9
125.4
メキシコ
116.0
117.2
118.4
119.5
120.7
121.9
ブラジル
199.9
201.4
203.0
204.2
205.5
206.8
フランス
63.7
64.0
64.3
64.6
64.9
65.2
イタリア
61.0
61.2
61.3
61.4
61.5
61.6
英国
63.8
64.3
64.8
65.3
65.8
66.2
スペイン
46.1
46.0
45.9
45.8
45.7
45.6
イラン
パキスタン
77.1
78.1
79.1
80.1
81.1
82.2
182.6
186.3
190.0
193.7
197.5
201.2
出典:国際通貨基金(IMF)
GDP(100万ドル)
2013
2014
2015
2016
2017
2018
ドイツ
3,567,299
3,658,709
3,754,348
3,858,348
3,963,359
4,072,032
日本
4,922,045
5,082,319
5,205,924
5,331,258
5,461,709
5,595,473
1,663,319
1,773,642
3,163,452
3,458,939
メキシコ
1,292,799
1,378,328
1,467,211
1,562,812
ブラジル
2,216,038
2,420,694
2,646,049
2,893,207
フランス
2,715,927
2,787,334
2,871,894
2,969,874
3,077,594
3,194,076
イタリア
2,058,312
2,095,839
2,148,634
2,209,217
2,273,766
2,335,567
英国
2,438,811
2,531,032
2,637,034
2,750,504
2,871,591
3,010,668
スペイン
1,376,042
1,402,689
1,439,883
1,479,764
1,522,541
1,567,765
イラン
732,555
769,333
766,479
767,123
774,006
780,288
パキスタン
237,495
268,680
306,094
350,636
403,561
464,474
2013
2014
2015
2016
2017
2018
ドイツ
43,635
44,843
46,107
47,480
48,869
50,311
日本
38,652
39,999
41,079
42,196
43,378
44,612
出典:IMF、プラネットリテール
国民一人当たりの GDP(ドル)
メキシコ
11,143
11,762
12,397
13,074
13,777
14,545
ブラジル
11,087
12,019
13,038
14,166
15,391
16,723
フランス
42,634
43,555
44,672
45,985
47,436
49,007
イタリア
33,744
34,270
35,053
35,969
36,957
37,908
英国
38,251
39,381
40,710
42,140
43,671
45,456
スペイン
29,851
30,497
31,376
32,321
33,337
34,415
イラン
9,502
9,852
9,691
9,576
9,539
9,494
パキスタン
1,301
1,442
1,611
1,810
2,044
2,308
出典:IMF、プラネットリテール
36
実質GDP成長率(%)
2013
2014
2015
2016
2017
2018
ドイツ
0.30
1.30
1.32
1.32
1.28
1.24
日本
1.58
1.41
1.05
1.22
1.19
1.13
メキシコ
3.39
3.40
3.35
3.30
3.30
3.30
ブラジル
3.02
4.04
4.13
4.16
4.16
4.16
フランス
-0.07
0.88
1.46
1.75
1.85
1.90
イタリア
-1.47
0.52
1.20
1.40
1.40
1.20
英国
0.69
1.54
1.84
1.94
2.08
2.47
スペイン
-1.56
0.74
1.35
1.46
1.51
1.57
イラン
-1.25
1.09
1.98
2.19
2.22
2.39
3.51
3.31
3.10
2.97
2.99
2.99
パキスタン
出典:IMF
消費者物価上昇率(%)
2013
2014
2015
2016
2017
2018
ドイツ
1.61
1.70
1.70
1.80
1.90
1.90
日本
0.06
2.97
2.29
1.98
1.95
1.98
3.02
3.01
メキシコ
3.69
3.25
3.02
3.02
ブラジル
6.13
4.73
4.50
4.50
4.50
4.50
フランス
1.57
1.46
1.47
1.60
1.73
1.83
イタリア
1.99
1.43
1.15
1.30
1.41
1.51
英国
2.65
2.50
2.25
2.08
1.93
1.98
スペイン
1.94
1.50
1.50
1.39
1.49
1.49
27.20
21.10
20.60
20.60
20.60
20.60
8.16
9.51
10.50
11.25
11.75
11.75
2013
2014
2015
2016
2017
2018
イラン
パキスタン
出典:IMF
消費支出(100万ドル)
ドイツ
2,050,922
2,110,192
2,171,541
2,236,831
2,305,568
2,375,530
日本
2,992,424
3,120,365
3,222,004
3,321,825
3,422,908
3,526,078
メキシコ
807,028
858,712
911,301
966,740
1,025,523
1,087,763
ブラジル
1,337,506
1,451,740
1,573,444
1,705,794
1,849,278
2,004,831
フランス
1,569,760
1,605,258
1,650,230
1,703,014
1,761,308
1,824,278
イタリア
1,299,267
1,324,005
1,353,731
1,388,608
1,425,944
1,463,108
英国
1,591,561
1,653,946
1,719,150
1,785,430
1,853,866
1,932,539
837,101
855,335
878,711
902,605
928,452
955,635
イラン
332,133
338,335
347,331
357,228
367,488
378,619
パキスタン
181,758
203,238
228,708
258,662
293,799
333,711
スペイン
出典:IMF、プラネットリテール。為替レートが一定であることを想定した見通し。
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
37
国民一人当たりの消費支出(ドル)
2013
2014
2015
2016
2017
2018
ドイツ
25,087
25,864
26,669
27,526
28,428
29,350
日本
23,499
24,558
25,424
26,292
27,186
28,113
6,956
7,328
7,700
8,087
8,494
8,921
メキシコ
ブラジル
6,692
7,208
7,753
8,352
8,997
9,693
フランス
24,641
25,084
25,669
26,369
27,148
27,990
イタリア
21,300
21,650
22,085
22,608
23,177
23,748
英国
24,963
25,734
26,540
27,354
28,194
29,178
スペイン
18,160
18,596
19,148
19,715
20,329
20,978
4,308
4,333
4,391
4,459
4,529
4,607
995
1,091
1,204
1,335
1,488
1,658
イラン
パキスタン
出典:IMF、プラネットリテール。為替レートが一定であることを想定した見通し。
小売売上高(100万ドル)
ドイツ
日本
2013
2014
2015
2016
2017
2018
560,913
574,691
590,563
607,432
625,165
643,186
1,419,086
1,473,692
1,516,894
1,559,189
1,601,891
1,645,345
490,385
517,171
1,107,086
メキシコ
395,011
417,779
440,806
464,941
ブラジル
761,991
821,865
885,252
953,759
1,027,566
フランス
501,546
511,753
524,657
539,760
556,389
574,291
イタリア
485,295
493,888
504,201
516,282
529,191
542,018
英国
495,152
512,620
530,808
549,227
568,173
589,874
スペイン
250,784
248,276
254,587
261,025
267,977
275,273
イラン
197,117
199,334
203,117
207,343
211,703
216,473
パキスタン
115,847
129,264
145,140
163,768
185,570
210,275
2015
2016
2017
2018
出典:各国の統計局、プラネットリテールの予測。為替レートが一定であることを想定した見通し。
国民一人当たりの小売売上高(ドル)
ドイツ
日本
2013
2014
6,861
7,044
7,253
7,475
7,708
7,947
11,144
11,598
11,970
12,341
12,723
13,118
メキシコ
3,405
3,565
3,725
3,890
4,062
4,241
ブラジル
3,812
4,080
4,362
4,670
4,999
5,352
フランス
7,873
7,997
8,161
8,358
8,576
8,811
イタリア
7,956
8,076
8,226
8,406
8,601
8,797
英国
7,766
7,976
8,195
8,415
8,641
8,906
スペイン
5,440
5,398
5,548
5,701
5,868
6,043
イラン
2,557
2,553
2,568
2,588
2,609
2,634
634
694
764
845
940
1,045
パキスタン
出典:各国の統計局、プラネットリテールの予測。為替レートが一定であることを想定した見通し。
38
食料雑貨の小売売上高:モダントレード vs 従来型
ブラジル
2000
2005
2005
2015
2020
食料雑貨の小売売上高、モダントレード(%)
32.86
33.72
36.64
42.28
47.42
食料雑貨の小売売上高、従来型(%)
67.14
66.28
63.36
57.72
52.58
出典:プラネットリテール
フランス
2000
2005
2005
2015
2020
食料雑貨の小売売上高、モダントレード(%)
81.39
83.51
85.75
87.92
89.76
食料雑貨の小売売上高、従来型(%)
18.61
16.49
14.25
12.08
10.24
2000
2005
2005
2015
2020
食料雑貨の小売売上高、モダントレード(%)
15.83
16.25
17.00
18.26
19.49
食料雑貨の小売売上高、従来型(%)
84.17
83.75
83.00
81.74
80.51
出典:プラネットリテール
イラン
出典:プラネットリテール
イタリア
2000
2005
2005
2015
2020
食料雑貨の小売売上高、モダントレード(%)
77.40
79.41
81.73
84.22
86.38
食料雑貨の小売売上高、従来型(%)
22.60
20.59
18.27
15.78
13.62
出典:プラネットリテール
日本
2000
2005
2005
2015
2020
食料雑貨の小売売上高、モダントレード(%)
76.60
78.59
80.92
83.47
85.68
食料雑貨の小売売上高、従来型(%)
23.40
21.41
19.08
16.53
14.32
2000
2005
2005
2015
2020
出典:プラネットリテール
パキスタン
食料雑貨の小売売上高、モダントレード(%)
食料雑貨の小売売上高、従来型(%)
7.72
7.92
8.20
8.59
8.98
92.28
92.08
91.80
91.41
91.02
出典:プラネットリテール
メキシコ
2000
2005
2005
2015
2020
食料雑貨の小売売上高、モダントレード(%)
47.45
50.75
54.66
59.17
63.22
食料雑貨の小売売上高、従来型(%)
52.55
49.25
45.34
40.83
36.78
2000
2005
2005
2015
2020
食料雑貨の小売売上高、モダントレード(%)
75.46
77.42
79.68
82.14
84.30
食料雑貨の小売売上高、従来型(%)
24.54
22.58
20.32
17.86
15.70
2000
2005
2005
2015
2020
食料雑貨の小売売上高、モダントレード(%)
87.58
89.86
91.83
93.15
94.26
食料雑貨の小売売上高、従来型(%)
12.42
10.14
8.17
6.85
5.74
出典:プラネットリテール
スペイン
出典:プラネットリテール
英国
出典:プラネットリテール
2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
39
連絡先
執筆者
Finland
Spain
Ira Kalish
Kari Ekholm
Juan Jose Roque
Deloitte Services LP
[email protected]
[email protected]
Asia Pacific Consumer
Business Leader
France
Sweden
Yoshio Matsushita
Stephane Rimbeuf
Lars Egenaes
Deloitte Japan
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
デロイト トウシュ トーマツと
そのメンバーファームにおける、
消費財に関する連絡先
Asia Pacific
Germany
Switzerland
DTTL Global Consumer
Business Industry Leader
Antoine de Riedmatten
Deloitte Touche Tohmatsu
Limited
Peter Thormann
Howard Da Silva
Australia
Simon Cook
[email protected]
[email protected]
[email protected]
Greece
Turkey
China
Dimitris Koutsopoulos
Ozgur Yalta
David Lung
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
Consumer Products Leader
Ireland
Ukraine
India
Jack Ringquist
Kevin Sheehan
Andriy Bulakh
Shyamak Tata
Deloitte Consulting LLP
[email protected]
[email protected]
[email protected]
Israel
United Kingdom
Japan
Israel Nakel
Nigel Wixcey
Yoshio Matsushita
[email protected]
[email protected]
[email protected]
Ryan Brain
Italy
West Africa
Korea
[email protected]
Dario Righetti
Alain Penanguer
Jae Il Lee
[email protected]
[email protected]
[email protected]
Pat Conroy
Netherlands
Erik Nanninga
Latin America
Malaysia
Deloitte Consulting LLP
[email protected]
[email protected]
Latin America Consumer
Business Leader
[email protected]
Europe, Middle East
and Africa (EMEA)
Poland
Reynaldo Saad
New Zealand
Dariusz Kraszewski
Deloitte Brazil
Lisa Cruickshank
[email protected]
[email protected]
[email protected]
Koen De Staercke
Portugal
Argentina/LATCO
Singapore
[email protected]
Luís Belo
Daniel Varde
Eugene Ho
[email protected]
[email protected]
[email protected]
Czech Republic/Eastern
Europe
Russia/CIS
Brazil
Taiwan
Aaron Martin
Alexander Dorofeyev
Reynaldo Saad
Jason Ke
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
Denmark
South Africa
Chile
Thailand
Mie Vibeke Stryg-Madsen
Rodger George
Cristian Alvarez
Manoon Manusook
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
North America
Canada
United States
Jeffrey Soo
Belgium
East Africa
Mexico
John Kiarie
Pedro Luis Castañeda
[email protected]
[email protected]
40
Food&Beverageセクター リーダー
ERS
久世 浩一
達脇 恵子
有限責任監査法人トーマツ パートナー
有限責任監査法人トーマツ パートナー
[email protected]
[email protected]
Tel 03-6213-1011
Tel 03-6213-1300
後藤 将史
久保 陽子
デロイト トーマツ コンサルティング株式会社 パートナー
有限責任監査法人トーマツ パートナー
[email protected]
[email protected]
Tel 03-5220-8600
Tel 06-4560-6000
Audit
FAS
東 誠一郎
岸 務
有限責任監査法人トーマツ パートナー
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー株式会社 パートナー
[email protected]
[email protected]
Tel 06-4560-6000
Tel 03-6213-1180
今泉 誠
鹿山 真吾
有限責任監査法人トーマツ パートナー
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー株式会社 パートナー
[email protected]
[email protected]
Tel 052-565-5511
Tel 03-6213-1180
新免 和久
Consulting
有限責任監査法人トーマツ パートナー
[email protected]
Tel 06-4560-6000
鈴木 泰司
有限責任監査法人トーマツ パートナー
[email protected]
Tel 03-6213-1000
鈴木 登喜男
有限責任監査法人トーマツ パートナー
[email protected]
Tel 03-6213-1000
矢矧 晴彦
デロイト トーマツ コンサルティング株式会社 パートナー
[email protected]
Tel 03-5220-8600
田中 昭二
デロイト トーマツ コンサルティング株式会社 パートナー
[email protected]
Tel 03-5220-8600
TAX
林 博之
税理士法人トーマツ パートナー
[email protected]
高橋 勝
有限責任監査法人トーマツ パートナー
[email protected]
Tel 03-6213-1000
Tel 03-6213-3800
永野 雄介
税理士法人トーマツ パートナー
[email protected]
Tel 06-4560-8000
プラネットリテールについて
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の10,000社を超える小売・外食サービス企業をカバーしており、ビジネス情報の発信源として多くの世界的企業から厚い信頼を寄せられています。15
年にわたる小売業での知見と最新のウェブ技術を組み合わせることにより、小売サプライチェーン全般、金融サービス、コンサルティング、広告、IT、不動
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詳しくは +44 (0) 20 7715 6000
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2020年までの道のり 小売業参入の長期的展望
41
トーマツグループは日本におけるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド(英国の法令に基づく保証有限責任会社)のメンバーファームおよびそれら
の関係会社(有限責任監査法人トーマツ、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー
株式会社および税理士法人トーマツを含む)の総称です。トーマツグループは日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループのひとつで
あり、各社がそれぞれの適用法令に従い、監査、税務、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー等を提供しています。また、国内約40
都市に約7,300名の専門家(公認会計士、税理士、コンサルタントなど)を擁し、多国籍企業や主要な日本企業をクライアントとしています。詳
細はトーマツグループWebサイト(www.tohmatsu.com)をご覧ください。
Deloitte
(デロイ
ト)
は、監査、税務、コンサルティングおよびファイナンシャル アドバイザリーサービスを、さまざまな業種にわたる上場・非上場の
クライアントに提供しています。全世界150ヵ国を超える国・地域のネットワークを通じ、デロイトは、高度に複合化されたビジネスに取り組む
クライアントに向けて、深い洞察に基づき、世界最高水準の陣容をもって高品質なサービスを提供しています。デロイトの約200,000名を超える
人材は、“standard of excellence”となることを目指しています。
Deloitte
(デロイ
ト)
とは、英国の法令に基づく保証有限責任会社であるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド
(“DTTL”)
ならびにそのネットワーク組織
を構成するメンバーファームおよびその関係会社のひとつまたは複数を指します。DTTLおよび各メンバーファームはそれぞれ法的に独立した別
(または“Deloitte Global”)
はクライアントへのサービス提供を行いません。DTTLおよびそのメンバーファームについての
個の組織体です。DTTL
詳細は www.tohmatsu.com/deloitte/ をご覧ください。
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