メガソニッククーラントによる小径ドリル加工 J36

J36
メガソニッククーラントによる小径ドリル加工
○岩井学*,中川清隆*,田中克敏**,植松哲太郎*,鈴木清*
*富山県立大学, **東芝機械, +日本工業大学
Micro drilling property by megasonic coolant method
Toyama Prefectural University: Manabu IWAI, Kiyotaka NAKAGAWA, Tetsutaro UEMATSU,
Toshiba Machine Co. Ltd.: Katsutoshi TANAKA,
Nippon Institute of Technology: Kiyoshi SUZUKI
The megasonic coolant method, in which supersonic vibration with a frequency of megahertz order is superimposed on
machining fluid for the purpose of improving machining characteristics, has been applied to a small drilling process. The result
is that, comparing with a conventional coolant supplying method, the tool life in terms of tool breakage of very small diameter
drills increases by more than five times.
1.はじめに
Coolant MHz 対応
研削液
MHz Transducer
振動子
著者らは,加工液使用量の低減と加工性能の向上を目的に,メ
d
φ2 or φ3
ガヘルツ帯域の超音波振動を加工液に重畳し,切削や研削加工
φ 38
に適用する“メガソニッククーラント法(以下,MSC 法) 1,2)”の研究を
φ2or3mm
行っている.これまでに旋削加工や研削加工に MSC 法を適用し
Nozzle
ノズル
た結果,通常供給よりも工具寿命が伸張するとともに,良好な加工
Hydrophone
ハイドロホン
90
120
面が得られている.また,ハイスドリル(f1mm)による穴あけ加工に
適用した結果,ドリル寿命が向上する効果があることがわかった.
図2 振動伝達特性の
測定法
図1 MSC ノズルの断面
そのため,より加工が困難とされる微小な(≦f0.5mm)穴あけ加工
表1 実験条件
に適用すれば良好な加工結果が期待できる.
Machine
本研究では,微小穴あけ加工の性能向上を目的に MSC 法を適
用し,工具寿命に及ぼす効果を調査するとともに,深穴加工への
Vertical type machining center (V-414, MAZAK)
Megasonic
coolant device
応用の可能性を検討した.
2.実験方法および条件
Cutting tool
図1に MSC ノズルの模式図を示す.この装置は,各種の加工方
Workpiece
Coolant
condition
式や被加工材料,加工条件などに応じて最適な周波数が選択で
きるように,切替スイッチで 3 つの周波数(f=1.6, 2.4, 3.0MHz)設定
Drilling
condition
が可能である.ノズル内の底部には,圧電セラミックスの超音波振
動子(f25mm)が組み込まれている.
Generator: MEGASOMIC GEVERATOR
(MSG-331, Megasonic systems)
Transducer: PZT (f=1.6MHz, 3.0MHz)
Output Power: P=0~60W
Nozzle: Brass, Hole diameter: f2mm
f1mm drill (EX-SUS-GDN, OSG)
f0.5mm drill (WX-MS-GDS, OSG, )
Stainless steel (SUS304, 80×100×t10mm)
Solution type (Syntilo GX, 5%, BP JAPAN)
Nozzle diameter: 2mm, Flow rate: q=1 l /min
Cutting speed: N=4000rpm
Feed: s=0.04, 0.08 (f1mm), 0.01 (f0.5mm) mm/rev
Depth: d=3mm (f1mm), 2mm (f0.5mm)
2006 年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集
−771−
1
2
1
q=1l /min
f=1.6MHz
Nozzle size f2mm
0.5
0
0
0
20
40
60
80
Distance from nozzle d mm
(a) f=1.6MHz
4
3
2
1
Power Pw
○ 24W 3
● 36W
△ 48W
▲ 60W 2
q=1l /min
f=3.0MHz
Nozzle size f2mm
1
0
0
0
20
40
60
80
Distance from nozzle d mm
Vibration acceleration a ×10 6 m/s2
3
Power Pw
○ 24W 1.5
● 36W
△ 48W
▲ 60W
Sound pressure P ×105 Pa
3.振動伝達特性の調査
1~20MHz 帯域の周波数に応答する音圧センサとしてハイドロ
ホンを利用した 3) .図2のように,この音圧センサの出力電圧E を
デジタルオシロで測定し,音圧 P および振動加速度 αを以下の
式によって導いた 4).
P=E/M
M:校正係数mV/Pa
α=21/2πfP/(ρC ) f : 発振周波数,C :音響インピーダンス
実験は ,吐 出口 がf2mm の ノズ ルを 使用 し, 発振周 波数 は
1.6MHz と 3.0MHz で行った.得られた結果を図3に示す.
(1)発振出力の影響
図3より,発振器からの出力が大きい程,検出される音圧 P も大
きくなる.
(2)ノズル出口からの距離の影響
ノズル出口からの距離が近いほど大きい音圧を伝えることができ
4
Vibration acceleration a ×106 m/s2
f0.5mm の穴あけ加工を試みた.実験条件を表1に示す.
Sound pressure P ×105 Pa
MSC 法の最適利用法を確認するため,まず振動伝達特性を調
査 し た . 次 に , 難 加 工 材 で あ る ス テ ン レ ス 鋼 の f1mm お よび
(b) f=3.0MHz
図3 ノズル先端からの距離と振動伝達特性の関係
る.また,40mm 以上離れると音圧が 1/2 に低下する。
(3)発振周波数の影響
1.6MHz と 3.0MHz では,音圧にそれほど差異はなかったが,振
動加速度では 2 倍の差があった.また,図示していないが,ノズル
吐出口f2mm とf3mm では違いは見られなかった.
J36
以上のことから,超音波振動を有効に伝えるためには,MSC ノ
ズルを加工点から,40mm 以内に設置し,発振出力を高く設定した
方が良いことがわかった.
小径ドリル
メガソニック
クーラント
ノズル
ステンレス板材
4.MSC 法による穴あけ加工特性の調査
20mm
実験は汎用マシニングセンタ上で行っているため,小径穴あけ
工具動力計
としては回転速度が低い状態での加工条件(N=4000rpm)を設定
している.MSC ノズルは図4のようにワーク表面から吐出口までの
図4 小径穴あけ実験の状況
距離が 20mm になるように設置し,斜め上方から工具先端部に向
である.
(1)工具寿命の伸長効果の調査
φ1mm とf0.5mm のドリルが折損に至るまでの加工穴数の平均
値をそれぞれ比較した.穴あけ加工は設定深さまでノンステップ加
工で連続して行っている.f1mm ドリルによる連続穴あけ(穴設定
深さ 3mm)結果を図5に示す.通常供給では折損に至るまでの平
2500
Number of machined holes
けて研削液が供給できるようにした.研削液供給流量は q=1 l/min
2000
1500
○▲■:
f 1.0mm drill
SUS304
V=12.6m/min
s=0.04mm/rev
d=3mm
q=1 l /min
Measured value
: Average value
1000
500
0
均穴数が 612 穴であった.MSC 法(f=3.0MHz)を適用すると,通常
Normal
coolant
supply
供給(メガソニック振動なし)よりも 1.7 倍,f=1.6MHz では 3.6 倍工具
寿命が延びた.
1.6MHz
megasonic
coolant
(P=60W)
3MHz
megasonic
coolant
(P=60W)
図5 f1.0mm ノンステップ穴あけ加工結果
f0.5mm ドリルによる連続穴あけ(穴設定深さ 1.5mm) 結果を図6
Number of machined holes
に示す.小径になると加工の難易度が上昇するため,ドリル折損に
至るまでの穴あけ回数は減少し,通常供給では折損に至るまでの
平均穴数が 101 穴であった.これに対し,MSC 法 f=1.6MHz では
533 穴,f=3.0MHz では 894 穴となり,5 倍および 9 倍とそれぞれ工
具寿命が伸長した.
(2)深穴加工に及ぼす効果の調査(f0.5mm)
実験は,まず予備加工として図7に示すように深さ 1.5mm の穴あ
けを 75 穴行い,次に同じ穴にさらに 0.5mm 深く穴あけを行った.
2000
1500
1000
f 0.5mm drill, SUS304
V=6.3m/min
s=0.01mm/rev
d=2mm, q=1
l /min
○▲■:
Measured value
: Average value
500
0
Normal
coolant
supply
図8にf0.5mm ドリルが折損に至るまでの加工穴数と穴深さの関係
を示す.その作業を繰り返し,深さが 3mm に達するまで行った.通
1.6MHz
megasonic
coolant
(P=60W)
3.0MHz
megasonic
coolant
(P=60W)
図6 f0.5mm ノンステップ穴あけ加工結果
常供給では d=2.0mm までは穴あけを行えたが,d=2.5 では 5 穴の
みであった.それに比べ,1.6MHz と 3.0MHz の MSC 法では
d=2.5mm でも問題なく加工が持続でき,通常クーラントと比較して
d=2.0mm
d=1.5mm
MSC 法では約8~9倍の工具寿命になることがわかった.
5.おわりに
75穴
微小穴あけ加工特性の向上を目的に,MSC 法を適用した結果,
以下の結論を得た.
図7 深穴加工実験の手順
(予備加工:深 1.5mm→75 穴+深 0.5mm→75 回)
(2) f1mm,f0.5mm の穴あけ加工にも MSC 法が有効であることを
明らかにし, f1mm には 1.6MHz,f0.5mm には 3.0MHz の周
波数の方が有効であることがわかった.
本研究にご協力いただいたヤマザキマザック(株),(有)メガソ
ニックシステムズ,(財)大澤科学技術振興財団,富山県立大学
早矢仕和也君に厚く御礼申し上げます.
6.参考文献
1)鈴木,岩井他:切削液へのメガヘルツ超音波振動付与の効果,1999
225 f0.5mm drill, SUS304
V=6.3m/min, s=0.01mm/rev
d=2mm, q=1 l /min
150
75
0
Normar
coolant
supply
1.6MHz
megasonic
coolant
(P=60W)
d=1.5mm d=2.0mm d=2.5mm
距離が 20mm でも十分なパワーが伝達していることがわかった.
Number of machined holes
(1) ハイドロホンを用いて音圧を測定した結果,ノズル出口からの
3.0MHz
megasonic
coolant
(P=60W)
図8 f0.5mm 深穴加工における加工穴数の比較
年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集(1999)p223.
2)鈴木,岩井他:メガソニッククーラント加工法の研究(第 1 報),砥粒
加工学会誌,Vol.48,No.2(2004) pp95-100.
4)岩井学他:メガソニッククーラントの種類の影響,2004 年精密工
3)三代,岩井,鈴木他:メガソニッククーラントを利用した加工(第 4
報:メガソニッククーラントの伝達特性),2002 年度砥粒加工学会講
演論文集(2002)pp25-26.
2006 年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集
−772−
学会春季講演論文集,pp-907-908.