事例番号:270054 原 因 分 析 報 告 書 要 約 版 産 科 医 療 補 償 制 度 原因分析委員会第四部会 1.事例の概要 初産婦。妊娠40週5日、妊産婦は、陣痛発来のため入院となった。入院 時の胎児心拍数陣痛図では、軽度変動一過性徐脈が認められたが、基線細変 動は中等度みられた。入院から約3時間後の胎児心拍数陣痛図では、胎児心 拍数基線は160拍/分へ上昇し、基線細変動の減少傾向がみられ、一過性 徐脈が認められた。入院から3時間30分後、子宮口全開大となり、その5 0分後に自然破水し、羊水混濁がみられた。子宮口全開大から1時間23分 後、回旋異常のため吸引分娩1回で児が娩出された。臍帯巻絡が頸部に1回 みられ、羊水は緑色で混濁が(2+)みられた。 児の在胎週数は40週5日で、体重は3520gであった。臍帯動脈血ガ ス分析値は、pH7.303、PCO 2 38.3mmHg、PO 2 27.7m mHg、HCO 3 - 18.6mmol/L、BE-7.2mmol/Lであっ た。出生時、啼泣は弱く、足底部と背部の刺激、酸素投与が行われた。アプ ガースコアは、生後1分5点(心拍2点、呼吸1点、反射1点、皮膚色1点)、 生後5分7点(詳細不明)であった。生後17分に新生児搬送の依頼がなさ れ、NICUへ搬送となった。 NICU入院後、人工呼吸器管理となった。頭部超音波断層法では、左側 脳周囲高エコー域(PVE)Ⅱ度であった。生後7日の頭部CTでは、くも -1- 膜下出血の所見、前頭葉に低吸収域の所見が認められた。生後29日の頭部 MRIでは、「脳実質内外に粗大な血腫や局所病変は指摘しがたく、拡散強調 信号上昇は認められず、脳室系、脳槽、脳溝に著変なし」との所見であった。 生後11ヶ月、定頸、寝返りは可能であったが低緊張であった。1歳1ヶ月、 坐位は不可能で、低緊張であったが、明らかな痙直は認められなかった。1 歳4ヶ月の頭部MRIでは、「髄液腔、脳溝は月齢を考慮するとやや 目立ち、 傍側脳室領域含め白質領域のT2信号はびまん性に淡く上昇し、容積はやや 減少、脳梁は若干菲薄」との所見で、筋緊張低下、腱反射の亢進がみられ、 混合型四肢麻痺と判断された。 本事例は診療所における事例であり、産科医1名と、准看護師2名が関わ った。 2.脳性麻痺発症の原因 本事例における脳性麻痺発症の原因は、特定することは困難であるが、先 天異常、もしくは胎児期に起こった一時的な強い脳虚血が考えられる。脳虚 血の原因としては、臍帯の圧迫などによる臍帯血流障害により一時的な胎児 循環障害が起こった可能性が考えられる。その障害の発生時期は、陣痛発来 で入院となる前から娩出までのいずれかの時期と考えられるが、特定はでき ない。 3.臨床経過に関する医学的評価 妊娠中の母児管理は基準内である。妊娠40週3日に陣痛誘発を決定し、 妊娠41週5日に行う予定としたことは一般的である。妊娠40週4日、規 則的な子宮収縮があり受診した際に分娩監視装置を装着したこと、その後帰 宅としたことは一般的である。陣痛発来で入院後、分娩監視装置を装着した -2- こと、その後一時中断し、子宮口全開大頃に再度装着したことも一般的であ る。回旋異常のため吸引分娩を選択し施行したこと、臍帯動脈血ガス分析を 実施したことは一般的である。 出生後、吸引、足底・背部刺激を行ったこと、NICUへ新生児搬送を依 頼したことは一般的である。診療録に新生児の状態、処置内容、搬送の判断、 時刻等の記録がないことは一般的ではない。 4.今後の産科医療向上のために検討すべき事項 1)当該分娩機関における診療行為について検討すべき事項 (1)分娩監視装置の紙送り速度について 「産婦人科診療ガイドライン―産科編2014」では、胎児心拍数波 形のより適確な判読のために、胎児心拍数陣痛図の記録速度を3cm/ 分とすることが推奨されており、今後、施設内で検討し、3cm/分に 設定することが望まれる。 (2)診療録の記載について 本事例では、胎児心拍数陣痛図の判読所見、分娩時の回旋異常の判断、 新生児の状態、処置内容、搬送の判断や時刻等の記録が不十分であった。 観察した事項、判断および実施した処置については、診療録に正確に記 載することが望まれる。 (3)胎盤病理組織学検査について 胎盤病理組織学検査は、その原因の解明に寄与する可能性があるので、 感染や胎盤の異常が認められる場合、また重症の新生児仮死が認められ た場合には実施することが望まれる。 2)当該分娩機関における設備や診療体制について検討すべき事項 -3- 事例検討について 児が重度の新生児仮死で出生した場合や重篤な結果がもたらされた場合 は、その原因検索や今後の改善策等について院内で事例検討を行うことが望 まれる。 3)わが国における産科医療について検討すべき事項 (1)学会・職能団体に対して ア.研究の推進について 妊娠中および分娩時に、脳性麻痺発症の原因となるような明らかな 異常がないにもかかわらず脳性麻痺となった事例を蓄積し、研究する ことが望まれる。 イ.胎児心拍数陣痛図記録方法の指導について 産科施設に対して、「産婦人科診療ガイドライン―産科編2014」 に沿って、分娩監視装置の記録を3cm/分で行うよう指導すること が望まれる。 (2)国・地方自治体に対して 特になし。 -4-
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