中国:石油・天然ガス消費鈍化の 要因と今後の見通し

中国:石油・天然ガス消費鈍化の
要因と今後の見通し
2015年3月19日
調査部
竹原 美佳
1
本日の内容
1.中国の石油需給
(1)2014年の需給実績
(2)需要鈍化の要因
(3)今後の需要(中期):需要抑制、下支え要因
2.中国の天然ガス需給
(1)2014年の需給実績
(2) 需要鈍化の要因
(3)今後の需要(中期):需要抑制、促進要因
2
石油:需要の伸びの鈍化傾向続く
12
18%
100万バレル/日
16%
10
14%
8
12%
10%
6
8%
4
6%
4%
2
2%
0
石油需給実績(2014年)
生産:横ばい
消費:前年比2.8 %増
(04~14年平均:7%増)
原油純輸入:10%増
石油純輸入:6%増
輸入依存度:58%
0%
石油消費
国内供給
原油輸入増加は在庫
要因(製油所・石油貯
蔵設備新設)あり
消費増加率(%)
中国の石油需給推移(2000~2015年)
IEAにもとづき作成、2015年は見通し
精製企業の余剰品を輸出に回す動き加速(供給過剰、
マージン悪化)
3
主要石油製品:ガソリン伸長、軽油低迷
13‐14年増減
(万b/d)
13‐14年増減
(%)
40
40%
30
30%
20
20%
10
10%
0
0%
‐10
‐10%
‐20
‐20%
ガソリン
軽油
ジェット・灯油
重油
主要製品
主要石油製品見かけ消費増減(2013・2014
年)Platts,新華社等にもとづき作成
輸送燃料(ガソリン、ジェット燃料)増加:乗用車の増加、航空産業の発展
重油減少:環境規制(石油製品低硫黄化)に伴う独立系製油所の原料シフト(高
硫黄重油→原油)
軽油:経済減速の他、他のエネルギーへの代替が進み低迷
4
エネルギー消費鈍化の共通要因:構造、効率、環境
 経済の減速、構造の変化(“新常態”*)
GDP成長7.4%
石炭消費2.2%減(13年3.7%増)、天然ガス消費9%
増(13年12%増)、電力消費3.8%増(13年7.5%増)
 エネルギー効率向上
GDP単位あたりエネルギー消費4.8%削減
 環境政策(大気汚染・気候変動)
「大気汚染防止行動計画」(国務院、2013年9月)
「エネルギー発展戦略行動計画(2014~2020
年)」(国務院2014年11月)
その他エネルギー毎の個別要因が存在
*“新常態”(New Normal)
経済の減速、重工業からハイテク産業へ、投資主導から消費・
サービス産業主導への構造転換
5
石油需要鈍化:軽油の他のエネルギーへの代替
【共通要因】経済減速
15
万b/d
10
5
0
農業・漁業
鉄道・水運
鉱工業・建築
‐5
‐10
【個別要因(軽油)】
他のエネルギーへの代替進
展
 電化(農機具、鉄道)
 工場動力源
 公共輸送(主に商用車に
おける天然ガス自動車
‐15
図:軽油消費が鈍化した部門(2005年・2013年)
「中国能源発展報告2014」(推計)にもとづき作成
6
石油需要(中期):2020年まで現在の伸び
14
12
百万b/d
10
8
生産
6
需要
4
2
石油需要
(2020年)
1,200万b/d
年約30万b/d
増加
0
2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年
図 :中国の石油需要見通し(2014年~2020年)
IEA Medium Term Oil Market Report(2015年2月)に
もとづき作成
7
石油需要(中期):在庫増強政策、輸送燃料需要が鍵
抑制要因
環境規制、エネルギー効率向上、インフラ
自動車購入制限(大都市)
自動車燃費規制
石炭輸送(鉄道)、長距離高圧(UHV)送電網
下支え要因
輸送燃料、在庫(備蓄)増強政策
乗用車(購入増、大型化)
航空産業、電子商取引〈EC〉による宅配の増加
在庫(備蓄)インフラ整備・増強
8
ガソリンが中国の石油消費のけん引役
1,400
1,200
万台
1,000
800
600
400
200
‐
2012年
商用車
軽バン
2013年
2014年
ミニバン(MPV)
SUV
普通乗用車
図 :中国自動車市場の推移(2012~2014年)
「日中経済産業白書」(現代文化研究所調べ)にもとづき作成
中流層による乗用車の購買欲やMPV(ミニバン)、SUVなど
大型車への買い替え需要が堅調
9
天然ガス:急成長から若干鈍化
2,400
国産ガス
LNG
輸入パイプラインガス
輸出
消費成長(%)
30%
25%
1,900
20%
1,400
15%
900
10%
400
5%
(100) 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
(億m3/年)
天然ガス需給実績
(2014年)
生産:前年比7%増
消費:前年比9 %増
純輸入:同13%増
輸入依存度:31%
0%
石油に比べ消費は伸びているが、2010年以降伸びが鈍化
(2014年の消費・輸入の伸びは過去最低)
10
天然ガス輸入:トルクメニスタン伸長、パプア
ニューギニアからの輸入開始
ミャンマー
5%
パプアニューギニア
0.7%
カザフスタン
1%
ウズベキス
タン
4%
トルクメニス
タン
44%
ポートフォリ
オ・スポット
8% マレーシア
豪州
7%
9%
インドネシア
6%
ロシア
0.3%
カタール
16%
パイプライン(54%):313億m3(前年比15%増)
LNG(46%):271億m3≒1,990万トン(前年比10%増)
11
環境対応政策により天然ガス利用伸長
天然ガス需要伸長は政策的要因
 環境問題(大気汚染・気候変動)への対応
石炭ガス、石炭焚きボイラー(暖房)の転換、
輸送燃料における石油(軽油・LPG)の代替
熱供給・発電、交通輸送、家庭用消費が伸長
ただし、消費の伸びは2010年をピークに減速
12
暖房(発電)、交通輸送、家庭用利用増加
1600
100%
億m3
家庭用, 17%
1400
家庭用, 20%
80%
1200
1000
輸送, 8%
05~12年
で3倍増
輸送, 11%
60%
電力・熱, 6%
40%
製造
業,47%
800
600
電力・熱, 16%
製造
業,39%
400
20%
200
鉱業,18%
鉱業,10%
0
2005年
2012年
0%
2005年
2012年
図:用途別天然ガス消費
能源統計年鑑(2013)
13
天然ガス価格統制・見直しで需要の伸びが鈍化
環境(大気汚染、
気候変動)対策
輸入ガス増加
油価連動 油価↑
輸入ガス増加
油価連動 油価↓
天然ガス利用促進
石炭・石油代替
価格統制
事業者逆ザヤ拡大
価格統制
天然ガス価格競争
力低下
価格統制
石油より割安
天然ガス価格
見直し ↑
(13・14年)
天然ガス価格
見直しへ ↓
(15年4月~)
14
政府は価格制度見直しへ(2015年4月~)
ガス輸入・シティゲート価格
前年消費
増加分
LNG(CIF)
パイプライン(国境)
14
ドル/MMBtu
13
増加分15%
値下げ
12
11
10
9
輸入事業者の財務改
善にはつながるが、
需要喚起にはさらに
見直しが必要?
8
7
14年1~8月
14年9~12月
2015年4月~、非民
生卸価格見直しへ
①前年消費と増加
分価格を統合。
②直送価格(化学
肥料を除く)の自由
化試行
15年4月~
図:ガス輸入・シティゲート価格の推移(14年~
15年4月)
シティゲート価格:行政区分起点に
国家発展改革委員会にもとづき作成
おける卸価格
15
14年下期の値上げと油価下落で競争力低下?
LNG輸入量増減推移
2014年
パイプライン輸入量増減推移
11‐13年平均
2014年
100%
100%
80%
80%
60%
60%
40%
40%
20%
20%
11‐13年平均
0%
0%
‐20%
‐20%
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
夏場の需要期(発電)と冬場の需要期(集中暖房、発電)を
除き消費の伸びが鈍化
16
天然ガス需要:2020年まで現在の伸びが続く
600
500
400
300
200
100
0
2012
High
2015
BAU
2020
Low
2025
2030
天然ガス需要
(2020年)
3,000億m3
(29Bcfd)
年約200億m3
(1.9Bcfd)増加
参考:IEA WEO2014
中国の天然ガス需要シナリオ
CNPC(LNG産消会議2014、IEEJ共同シンポジウム)、IEA WEO
にもとづき作成
17
天然ガス需要(中期):環境・価格政策、電力が鍵
 天然ガス需要伸長の要因
環境問題(大気汚染・気候変動)への対応
石炭代替(都市ガス、暖房〈ボイラー〉)
石油代替(天然ガス自動車)
供給:契約済みの供給逓増
インフラ:輸送・貯蔵設備整備
 天然ガス需要抑制要因
価格:価格統制、代替燃料価格
電力:設備過剰、原子力・再生可能エネルギー
石炭・水力(UHV送電網)
18
輸入ガスインフラ整備進展
表 :LNG受入基地(稼働・建設・建設準備中)
単位:万t/年
稼働中
Pe troCh in a
Sin ope c
CNOOC
Jovo
広匯
建設中
1,000
300
2,780
100
4,180
建設準備中
計
400
600
600
900
1,000
1,300
4,280
60
1,060
1,500
6,740
約920億m3
表 :輸入パイプライン(稼働・建設・建設準備中)
単位:億m3
稼働中
中央アジア
ロシア
ミャンマー
建設・ 建設準備中
550
30 0
38 0
1 00
650
68 0
計
850
38 0
100
1 ,3 3 0
19
まとめ
 石油は鈍化。輸送部門(ガソリン・ジェット燃料)は好調だが、軽
油が低迷。
 石油以外のエネルギーも鈍化あるいは減少。
 エネルギー消費は、①経済成長の減速、構造の変化、②エネ
ルギー効率の向上・③環境政策により鈍化。
 石油の個別要因に電化や天然ガス自動車隆盛(軽油低迷)
 今後の石油需要(中期)は在庫増強政策と輸送燃料需要が鍵。
 天然ガスは環境政策により発電・熱、輸送、家庭が伸長。
 石油に比べ成長を維持しているが、2010年以降鈍化傾向(特
に2014年の消費・輸入の伸びは過去最低)
 天然ガス需要鈍化の個別要因に価格(統制・値上げ)油価
 今後の天然ガス需要(中期)は環境・価格政策、電力改革が鍵。
20
参考:低硫黄化政策
表 :石油製品の品質向上ロードマップ(2014年9月現在)
出所:JOGMEC石油・天然ガスレビュー(2014年9月)
21
参考:「大気汚染防止行動計画」(2013年9月)
・2017年までに全国のPM10濃度を10%抑制、排出を2012年レベルに抑制
・一次エネルギー消費に占める石炭の比率を2017年までに65%、非化石エネルギー
の比率を13%とする。
・重点都市(13地域47都市)における石炭火力発電所の新設を禁止。鉄鋼、石化、セ
メント、有色金属、化学プラントならびに石炭ボイラー新設の禁止。
・三大都市圏の産業用燃料を石炭から天然ガスに置換(2017年までに石炭ボイラー、
産業用ボイラー、自家発(石炭)の天然ガスへの転換を基本的に完了)
・家庭用について石炭から天然ガスへの燃料転換を優先的に行う。
・天然ガスのコジェネレーションを奨励、化学工業への利用は制限。
・ピーク調整用の天然ガス発電所については秩序ある整備は可、ベースロードの天然
ガス火力発電所の新設は原則不可。
・ガソリン、自動車用軽油ともに「国5」基準、(硫黄含有量の指標規制値をユーロⅤ相
当の10ppmとする)の導入を2017年までに目指す。
・三大都市圏(北京・天津・河北ならびに揚子江、珠江デルタ地域)の重点都市につい
ては2015年末までに「国5」基準のガソリン・軽油(硫黄含有量の指標規制値10ppm)
を供給する。
・船舶用重油は徐々に硫黄分を2000ppm以下とする。
「大気汚染防止行動計画」通知(国発【2013】37号)
22
参考:中国のエネルギー政策数値目標
エネルギー発展戦
略行動計画
(14年11月公示)
エネルギー産業の大気汚染防止作業計画に関する通知
(14年5月公示)
一次エネル
ギー消費に
占める消費
の比率
2013年
(実績)
67.5%
石炭
天然ガス
原子力発電
設備容量
原子力
発電量
再生可能エ
ネルギー設
備容量、利
用量
非化石エネルギー
稼働中(万kW)
建設中(万kW)
(億kWh)
水力(万kW)
風力(万kW)
太陽光(万kW)
バイオ利用
(万toe)
地熱利用
(熱供給)
(万toe)
2017年
‐
2020年
65%以下
62%以下
5.1%
7%
9%
10%以上
9.6%
1,461
3,180
1,106
11.40%
4,000
1,800
2,000
13%
5,000
3,000
2,800
15%
5,800
3,000
29,000
10,000
3,500
5,000
33,000
15,000
7,000
7,000
28,002
7,548
N.A
N.A
N.A
2015年
2,000
‐
‐
35,000
20,000
10,000
5,000
23
参考:中国の発電設備容量と電力消費
中国の電力
発電設備容量(2014年):13.6億kW(前年比8.7%増)
発電電力量(2014年):5兆5459億kWh(同3.6%増)
電力消費(2014年):5兆5223億kWh(同3.8%増)
原子力
2%
風力
3%
太陽光他
1%
水力
19%
火力
75%
24
参考:中国の天然ガス価格制度①
A:井戸元基準卸価格
化学肥料
産業
(直送)
都市ガス
(産業)
都市ガス
(非産業)
中央政府
が定める
B:タリフ(輸送費)
C:シティゲート
(行政区分起点への卸価格)
D:配送価格
E:小売価格
直送(発電、大
口産業、肥料)
家庭
商業
小規模
産業
輸送
地方政府
が定める
The Prining of Internationally traded Gas (Jonathan P.Stern,2012)にもとづき作成
参考:中国の天然ガス価格制度②
2011年12月、広東・広西で天然ガス卸価格の市場価格連動試行制度施行
上海を基準とするネットバック(2010年の上海における重油・LPG輸入価格、割引係数
0.9)
2013年7月~、全国の非民生卸価格見直し
前年消費量(2012年)と増加部分の二重価格制、増加部分は上海ネットバック
石油連動(2012年の上海における重油・LPG輸入価格)、割引係数0.85
2014年9月~、全国の非民生卸価格見直し
前年消費量(2012年)のシティゲート価格を約18%値上げ
非民生シティゲート上限価格
北京
天津
河北
山西
内モンゴル
遼寧
吉林
黒竜江
上海
江蘇
浙江
安徽
江西
山東
河南
湖北
湖南
広東
広西
海南
重慶
四川
貴州
雲南
陝西
甘粛
寧夏
青海
新疆
平均
14年9月~15年3月
15年4月~
前年消費
追加分
統合
ドル/MMBtu ドル/MMBtu ドル/MMBtu
9.7
13.5
11.4
9.7
13.5
11.4
9.7
13.5
11.3
9.4
13.2
11.0
6.9
10.7
8.6
9.7
13.5
11.3
8.7
12.5
10.4
8.7
12.5
10.4
10.5
14.3
12.2
10.4
14.2
12.1
10.5
14.3
12.1
10.1
13.9
11.8
9.6
13.4
11.3
9.7
13.5
11.3
9.8
13.6
11.5
9.6
13.4
11.3
9.6
13.4
11.3
11.8
14.3
12.2
11.1
13.6
11.5
8.3
12.0
9.9
8.3
12.0
9.9
8.3
12.0
9.9
8.5
12.3
10.2
8.5
12.3
10.2
6.9
10.7
8.6
7.3
11.1
9.0
7.6
11.4
9.4
6.6
10.4
8.3
6.1
9.9
7.8
9.0
12.7
10.6
非民生小売価格(15年1月)
北京
天津
河北
石家庄
山西
太原
内モンゴル フフホト
遼寧
瀋陽
上海
江蘇
杭州
江蘇
南京
江蘇
楊州
浙江
湖州市
安徽
合肥
江西
九江
山東
済南
山東
濰坊
山東
徳州
河南
武漢
河南
鄭州
湖北
荊州
湖南
長沙
広東
広州
広東
深圳
広東
中山
広西
南寧
海南
海口
海南
三亜
重慶
四川
成都
陝西
西安
甘粛
蘭州
青海
西寧
新疆
ウルムチ
福建
福州
15年1月
ドル/MMBtu
13.7
15.4
16.1
15.2
8.5
16.5
16.0
20.5
15.4
15.0
16.0
15.2
17.9
17.5
14.0
15.4
14.4
13.7
12.3
14.7
20.5
20.3
22.0
17.8
15.8
19.9
12.0
17.1
9.7
11.2
7.2
8.9
13.7
China LNG Weeklyにもとづき作成