未来のヘルスケアビジネスへの挑戦

未来のヘルスケアビジネスへの挑戦
∼未来医療開発センターの取組み∼
Activity of Next-Generation Healthcare Innovation Center
● 中野直樹 ● 下邨雅一
あらまし
富士通は,1970年代の中頃から医療分野のICT化に先駆的に取り組み,国内初の医療
機関向けパッケージソフトウェアを開発・提供し,お客様とともに歩んできた。昨今では,
超高齢化社会の到来を背景とする疾病構造の変化なども生じる中,医療技術とICTの目覚
ましい革新に伴う大きなパラダイムシフトが起こりつつある。また同時に,ネットワー
ク社会の到来により,地域医療連携の範囲も拡大傾向にあり,個人の生活全般がネット
ワークと融合したヘルスケア分野の情報利活用時代が近づいている。
本稿では,富士通の医療分野におけるこれまでの取組みと現状,そしてその先の健康
長寿社会の実現に向け設立した未来医療開発センターの取組みについて具体例を交え紹
介する。
Abstract
Since the mid-1970s, Fujitsu has been the forerunner of information and
communications technology (ICT) in the field of medical care. Being the first in Japan
to develop and launch a package solution for medical care providers, we have always
progressed with our customers. A major paradigm shift is taking place today in
tandem with the remarkable advancement in medical technology and ICT, against the
background of changing morbidity patterns and a rapidly aging population. As society
is better connected through the ICT network and the scope of health information
exchange systems are expanding, we are approaching the time when individuals are
connected to the network through many channels in their lives, and information can
be referenced and utilized in the area of self-management in healthcare. This paper
describes the progress in, and present situations of, Fujitsu s efforts in the medical
field, and it introduces some initiatives with facts in relation to the Next-Generation
Healthcare Innovation Center, which has been established for the realization of a
future society where people enjoy good health and longevity.
2
FUJITSU. 66, 2, p. 2-8(03, 2015)
未来のヘルスケアビジネスへの挑戦~未来医療開発センターの取組み~
したレガシーシステムからオープンシステムへの
ま え が き
移行や,インターネットを代表とするネットワー
これまで医療分野におけるICT化は,医療機関内
クの普及とクラウドコンピューティングの活用,
での情報技術の活用に主眼が置かれ発展してきた。
スマートデバイスの普及など,様々な技術的変化
しかし昨今では,施設完結型医療から地域完結型
が起こっている。また昨今では,ビッグデータ解
医療へのシフトに伴うネットワーク化が始まった
析 技 術 やHPC(High Performance Computing)
,
ことに加え,医療技術およびICTの進歩に伴う新た
グリッドコンピューティング,センサー技術な
な視点からのアプローチにより,大きな変化が訪
ど を 活 用 し たIoT(Internet of Things) や, ス
れ始めている。
マ ー ト デ バ イ ス や ウ ェ ア ラ ブ ル デ バ イ ス,AR
本稿では,医療ICTのこれまでの変遷と現在起こ
(Augmented Reality)技術を活用したIoE(Internet
りつつある変化,そして未来医療に向けた富士通
of Everything)など,その革新はとどまるところ
の取組みについて述べる。
を知らない。その革新の速度も早く,例えば現在
のスマートフォンの処理能力は,10年前のスーパー
医療ICTの変遷と動向
コンピュータを凌駕するほどである。
日本の医療分野におけるICT化は,1970年代の
また医療を取り巻く環境についても,病院機能
中頃から始まり,おおよそ10年を単位として,第
分化や地域包括ケアを背景とする医療提供の場の
1世代「部門システム導入期」
,第2世代「オーダ
多様化,少子高齢化,医療技術の進歩などに伴う
エントリシステム導入期」
,第3世代「電子カルテ
医療提供体制の改善や,国民医療費適正化の更な
システム導入期」
,第4世代「地域医療連携ネット
る推進が必要となってきている。
。この
ワーク導入期」と変遷してきている(図-1)
少子高齢化については,経済成長の副作用とも
医療分野のICT化は,国の政策においても2001年
捉えられるため,一概に問題視することはできな
1月のe-Japan戦略決定以降,継続的に重点施策の
いが,日本の人口ピラミッドは現状の「ひょうた
一つとして位置づけられ,その展開が促進されて
ん型」から今後は「ちょうちん型」に近づいてい
いる。富士通では,当初より医療情報化に向けた
くことが想定されている(図-2)。国立社会保障・
ICTソリューション・サービスを継続して提供し,
人口問題研究所(1),(2)の推計によると,2020年に
特に大規模市場では国内トップシェアを獲得する
は65歳以上の高齢化率は30%を超え,年間死亡数
に至っている。
は出生数のほぼ倍となる150万人を超えることが予
この間,ICTの領域では,メインフレームを活用
想されている。2030年には65歳以上の高齢化率が
第 1世代
第2世代
第 3世代
第 4世代
1975~1985
1985~1995
1995~2005
2005~
部門システム
導入期
オーダエントリシステム
導入期
電子カルテシステム
導入期
地域医療連携
ネットワーク導入期
医事会計・レセプト
医師の指示伝票電子化
臨床記録の電子化
施設のネットワーク連携
各種検査部門
部門システムの
拡充と連携
クリティカルパスや
チーム医療の導入
地域完結型医療や
地域包括ケアへの対応
事務の合理化と安全な情報伝達を指向
院内トータルシステム化とEBMを指向
施設・職種を横断した情報利活用を指向
EBM:Evidence-Based Medicine
図-1 医療ICT化の変遷
FUJITSU. 66, 2(03, 2015)
3
未来のヘルスケアビジネスへの挑戦~未来医療開発センターの取組み~
(歳)
(歳)
(歳)
90
90
90
80
80
80
70
70
70
60
60
60
50
50
50
100
男
100
女
40
男
女
40
男
30
30
20
20
20
10
10
10
0
0
0 20 40 60 80 100 120 140 140 120 100 80 60 40 20 0
0 20 40 60 80 100 120 140 140 120 100 80 60 40 20 0
(万人)
(万人)
(万人)(万人)
1970年
女
40
30
0
140 120 100 80 60 40 20 0
(万人)
100
2000年
0 20 40 60 80 100 120 140
2030年
(万人)
「人口ピラミッド」
(総務省統計局)
(http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/kouhou/useful/u01_z24.htm)を加工して作成
図-2 日本の人口ピラミッドの推移
約3700万人,18歳から64歳までの生産年齢人口が
慮 し,2012年 に 政 府 の 日 本 再 生 戦 略 の「 ラ イ フ
約60.0%(約6700万人)となり,平均寿命は男性
成長戦略」で挙げられたICT環境の実現に向け,
81.95歳,女性88.68歳となることが予想されてい
2013年1月にヘルスケア・文教システム事業本部
る。日本では,昨今の悪性新生物や心疾患,脳血
ライフイノベーション企画室を設置した。現在
管疾患,糖尿病などの増加など,世界に先駆けて
は,政府が新たに健康・医療戦略で掲げた「我が
超高齢化社会を迎えることに伴い疾病構造の変化
国が世界最先端の医療技術・サービスを実現し,
が進むことが想定され,国際社会における日本の
健康寿命延伸を達成すると同時に,それにより医
対応は注目されるところである。
療,医薬品,医療機器を戦略産業として育成し,
医療技術においては,特にこの10年の進歩は目
日本経済再生の柱とすることを目指す」(4)方針に
覚ましいものがある。バイオテクノロジーの領域で
基づいて,ヘルスケア・文教システム事業本部ラ
は,ヒトゲノム計画の成果として,ビル・クリント
イフイノベーション事業部が各種ICTシステムの
ン米国大統領とトニー・ブレア英国首相によってヒ
構築をサポートしている。本事業部では,ゲノム
トゲノムの解読完了が発表された2000年6月(完成
情報を含む網羅的な生体分子に関する情報である
版の公開は2003年4月)以降,DNAシーケンサーの
オミックス情報と,健診・臨床の情報を統合的に
技術革新も大きく貢献し,ムーアの法則を凌駕する
扱うバイオバンクを構築し,アカデミアなどによ
(3)
解読の期間短縮,およびコスト低減がもたらされ,
る基礎研究や医薬品・医療機器開発などでこれら
臨床応用が現実的となった。このバイオテクノロ
の情報を活用するトランスレーショナルリサーチ
ジー領域での研究開発の大幅な加速化により,個々
基盤の構築に取り組んでいる。更にはこれら情報
人の遺伝特性などに配慮した個別化医療や先制医
の医薬連携や臨床での活用を目指し,日本版NIH
療への活用,創薬への応用など,多面的な効果が
(National Institute of Health)の中核を成す独立
現れている。このほかにもiPS細胞の活用を代表と
行政法人日本医療研究開発機構(※2015年度設立
する再生医療の実用化に向けた取組みや,ロボティ
予定)と相関が深い取組みを通じて,昨今の医療
クスサージェリーなどのロボット技術や3Dプリン
を取り巻くパラダイムシフトに対応するICTシス
ターの活用,抗加齢医療など「次世代医療」を形
テムの開発を進めている。政府戦略ならびにライ
成する様々な技術が注目され始めている。
フイノベーション事業部の取組みの詳細について
富士通の医療事業体制
~ライフイノベーションから未来医療へ~
富士通では,前章で述べた医療分野の動向に配
4
は,本特集号に掲載の「治験・臨床研究分野にお
けるICTを利活用した新ソリューションへの取組
み」で紹介している。
FUJITSU. 66, 2(03, 2015)
未来のヘルスケアビジネスへの挑戦~未来医療開発センターの取組み~
富士通では,ヘルスケア・文教システム事業本
以下の五つのミッションを掲げている。
部を中心とする「現在」のヘルスケア領域におけ
(1)国家プロジェクト(文部科学省COI STREAM:
るICTソリューションの開発,「近未来」に顕在
革新的イノベーション創出プログラム拠点事業
化するイノベーションを創出するライフイノベー
など)から創出される次世代医療情報システムビ
ション事業部の取組み,更にその先の「未来」を
ジネスの開拓
見据えた「未来医療開発センター(次章で詳述)」
(2)ゲノム情報などを蓄積するバイオバンク,コ
が三位一体となって,現在・近未来・未来を一貫
ホート研究による健康情報,電子カルテ診療情報
してサポートする組織体制となっている。
を統合した医療ビッグデータビジネス(健常者か
ら患者までをカバー)の創出
未来医療開発センターの取組み
(3)シミュレーションビジネスの企画・推進
未来医療開発センターは,以下の目的で2013年
12月に設置された。
(4)IT創薬を目的とした化合物設計サービスの事
業化推進
・国民の健康寿命延伸に向けて,健康増進,重症化
(5)電子カルテなどのグローバル展開
予防,疾患の早期発見,新薬創出,個別化医療な
なお,ミッション(3)については,生体シミュレー
どの実現にICTの利活用を検討し,最先端の研究
ションとバイオITを本特集号に掲載の「次世代医
機関と現場密着型の事業開発を行う。
療を支える生体シミュレーションの取組み」およ
・新技術の研究開発機能の統合とスピード強化を図
び「次世代医療を支えるバイオITの取組み」で,
(5)
り,今後の診断サービス,機器ビジネスへの拡大
についてはEUの状況を「EUのヘルスケア分野に
を狙う。大学医学部などのアカデミアや研究機
おける成長戦略」で取り上げているので参照され
関,製薬企業,治験実施機関,医療機器ベンダー
たい。
などと社外連携・協業を推進する。
ここでは,今後構築していくシステムの構想を
これらに基づき,未来医療開発センターでは,
図-3に沿って解説する。いずれにおいても情報発
長期的技術開発
診断サービス/機器ビジネス
● 1細胞診断
●
●
●
製薬企業
生体シミュレーター
バイタルセンシング
IT創薬 など
行政機関
新たな情報活用基盤構築
医療ビッグデータ
次世代電子カルテ
治験・創薬
診療情報・副作用情報・ゲノム情報・治験情報など
大学・研究機関
介護施設
大学病院・先進病院
検査センター
地域医療連携
個人
●
回復期医療機関
●
健診センター
地域医療ネットワークシステム,
電子カルテシステムで診療情報・健康情報・
介護情報などを共有
調剤薬局
PHRの構築
中核病院
先進病院
診療所
図-3 ヘルスケア分野におけるICTの現状と将来像
FUJITSU. 66, 2(03, 2015)
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未来のヘルスケアビジネスへの挑戦~未来医療開発センターの取組み~
生源である個人の同意,関連するレギュレーショ
● 1細胞分子診断システム
1細胞分子診断システムは,理化学研究所様との
ンやセキュリティなどへの配慮が大前提となる。
まず,図下に示した介護施設・個人・回復期医
共同研究で推進し,生きた1個の細胞の時系列変化
療機関・中核病院・先進病院・診療所・調剤薬局・
をリアルタイムに検出する。本システムは,世界
健診センター・検査センターなど,地域の様々な
で唯一の1細胞質量分析法に基づき,ヒトの1個の
医療施設が相互に医療情報を活用するためのネッ
肝臓初代培養細胞(生体から採取した組織や細胞
トワーク基盤である地域医療連携(HIE:Health
を最初に播種して培養した細胞)の薬物分子変化
Information Exchange)については,現在導入が
(薬物代謝)を10分以内に分析することが可能と
推進されている。そして,このHIE上で,Patient
なる。この高速性に加え,従来の分析法では多量
Registryと呼称される情報集約化を行う仕組みを
の試料が必要で費用と手間の両面で高いコストを
導入してEHR(Electronic Health Record)とし,
要していたが,この手法により,細胞1個という極
更にこのEHRと連携する形で個人が主体的に医療
微量の試料で,高精度かつ低コストで分析するこ
情報を管理し,健康の維持増進を目的とするPHR
とが可能となる。更にこの分析法の実用化により,
(Personal Health Record)サービスを実装するこ
検査にかかる患者への負担軽減も期待できるとと
もに臨床活用や創薬への活用にもつながる。細胞
とで統合的な活用基盤を確立する。
また,このEHRに匿名化技術の活用や連携サー
ビスに応じた最適化を行うことで,多面的な情報
利活用基盤である「新たな情報活用基盤」に拡張し,
の成分を吸い上げる様子,および分析装置を図-4
に示す。
2013年採択の科学技術振興機構(JST)研究成
活用機会を地域から大学研究機関を代表とするア
果展開事業(5 ヵ年)では,この1細胞質量分析法
カデミアや医薬品・医療機器関係企業,行政機関
による分析結果と,細胞という時空間の中での物
などへと広く拡大していく。
質的変化(代謝パターン)をナレッジ化し,様々
同時に後述の「長期的技術開発」による成果を新
な因子との相関を捉えることで,がんの種類や悪
たな情報活用基盤に融合していくことで,次世代電
性度,進行度や転移の診断,および治療効果の評
子カルテシステムへの拡張や,今後の情報活用へと
価などに役立てるための共同研究を推進している。
つなげていく。
● 臨 床 判 断 支 援 シ ス テ ム(CDSS:Clinical
Decision Support System)
長期的技術開発事例
CDSSは,世界的に広く普及している。日本でも
前章で紹介したシステムの全体構想のもと,長
この一部機能である,電子カルテ/オーダエントリ
期的技術開発の具体例として以下のような取組み
システムにおいて薬剤の極量(薬局方により示さ
を推進している。
れる危険性防止を目的とする医薬品投与容量の安
1細胞分子分析装置
分析
結果
細胞質から薬物や代謝物などの成分を吸い上げる様子
出典:理化学研究所ウェブサイト
http://www.qbic.riken.jp/japanese/research/outline/lab-05.html
1細胞分子診断システム
図-4 1細胞分子診断
6
FUJITSU. 66, 2(03, 2015)
未来のヘルスケアビジネスへの挑戦~未来医療開発センターの取組み~
全な上限指標)や併用禁忌など,医療の安全性向
ントリシステムや,地域医療連携システム,最近
上などを支援するチェック機能が実装されている。
では疾病管理を含むパブリックヘルスマネジメン
CDSSは,大きく「三つの機能レベル」と「コンテ
トなどと連携するクラウドサービスとして実装さ
ンツ」より構成される。
れているケースが多い。このほか,医学生や臨床
(1)機能レベル
研修中の医師への教育で活用されるケースもある。
・レベル1:パターンマッチングおよび類似症例検索
富士通は,複数の大学・医療機関などと共同で次
上述した一部機能の実装がこのレベルに該当す
世代電子カルテの一要素となるCDSSの機能やコン
る。薬剤併用禁忌など医薬品に関連する領域や保
テンツの研究開発に取り組んでいる。
険病名チェックや,ナショナルマスタの照合を中
● PHRに向けた取組み
心とした単純なパターンマッチングによる臨床判
富士通では,次世代電子カルテを中核とする医
断支援が代表的な機能となる。また,患者横断で
療の現場を支援するソリューション・サービス開
検査結果値などの動的な情報を照合することによ
発と並行して,個人が主体的に情報を管理し健康
り,類似した患者症例を参考情報として提示する
の維持増進に活用するPHR,および生活全般の情
機能もこのレベルで実装されるケースも見られる。
報を個人が主体的に活用するPLR(Personal Life
このほかに最近では,ある生物種のゲノム塩基配
Record)の実現に向け,サービスの開発を推進し
列で一塩基が変異する多様性が,その生物種の内
ている。なお,これらの新規に展開するサービス
1%以上の頻度で見られる「一塩基多型(SNPs:
では,患者個々のデータを新たに作り込むのでは
Single Nucleotide Polymorphisms) 情 報 」 を 活
なく,地域医療連携などで活用されている既存の
用した遺伝病危険率の参考提示や,Genomically
データをセキュリティなどに配慮しながら安心・
Driven CDSSと呼ばれる患者個々人の体質に応じ
安全に活用可能としていく予定である。
た個別化投与支援などの機能拡張例も存在する。
・レベル2:ルールベース(デシジョンツリー)
従来は疾病期に患者と医療従事者を支援する領
域を主な対象としたソリューション・サービスを
機能レベル1よりも複雑なフローチャート形式で
提供してきたが,今後のPHRやPLRへと拡張した
判断支援ルールを登録し活用する機能レベルであ
サービスでは,個人を健常期からサポートできる
る。この判断支援ルールは,ルールベース(もし
ようになる。
くはデシジョンツリー)と呼ばれ,インターネッ
上述した事例をはじめ,未来医療開発センター
トを介してルールベースの流通をサポートするこ
では,以下の三つの相関性に留意しながら,研究
とで,利用者間の相互支援環境を構築しているケー
開発を含めた実用化に向けた革新的な取組みを推
スも見られる。
進している。
・レベル3:仮説演繹的支援
・従来よりも更に臨床に密接した領域でのICT活用
仮説演繹法(帰納法によって仮説を立案し,演
繹法と帰納法を組み合わせてこの仮説検証を行う
手法)を導入し,既に蓄積された情報からシステ
ムが利用者に将来の予測などの支援情報を提示す
る機能レベルである。最近では,この機能レベル
の実装においてビッグデータ解析技術や人工知能
技術が活用されている。
(2)コンテンツ
・現状の電子カルテを変革する次世代電子カルテ開
発に向けた取組み
・個人を中心とする情報利活用
む す び
本稿では,富士通のヘルスケアビジネスへの新
たな挑戦として,未来医療開発センターの取組み
について述べた。今後,日本版NIHの取組みや,
上述の三つの機能レベルを支援するもので,学
現在活発に議論されているマイナンバーや「医療
会や行政がパターンマッチングで活用されるナ
等ID(仮称)」の導入も予定されており,ICTの利
ショナルマスタ,ルールベース,仮説演繹法など
活用によってヘルスケア分野での様々な取組みも
を参照するガイドラインやオープンデータを指す。
ますます精緻化・加速化していく。将来的に国民
本節で紹介したCDSSは,電子カルテ/オーダエ
一人ひとりが健康でゆとりある健康長寿社会の早
FUJITSU. 66, 2(03, 2015)
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未来のヘルスケアビジネスへの挑戦~未来医療開発センターの取組み~
期実現が大いに期待されるところである。
富士通は,ICTでヘルスケア分野の安心・安全を
http://www.ipss.go.jp/
(2) 国立社会保障・人口問題研究所:将来推計人口・世
支えていくとともに,豊かな国民生活と平和な世
帯数.
界の実現に貢献したいと考えている。
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/
本稿で取り上げた1細胞質量分析法の臨床活用に
向けた取組みは,2013年採択の科学技術振興機構
(JST)の「研究成果展開事業(5 ヵ年)」により実
施したものである。
Mainmenu.asp
(3) National Human Genome Research Institute :
Cost per Genome.
http://www.genome.gov/sequencingcosts/
(4) 健康・医療戦略推進本部.本部設置のあらまし.
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/
参考文献
(1) 国立社会保障・人口問題研究所:人口ピラミッド.
index.html
著者紹介
8
中野直樹(なかの なおき)
下邨雅一(しもむら まさかず)
未来医療開発センター研究開発統括部
所属
現在,未来医療開発センターの国内外
研究開発に従事。
未来医療開発センター研究開発統括部
所属
現在,未来医療開発センターの国内外
研究開発および医療情報標準化に従事。
FUJITSU. 66, 2(03, 2015)