時 の 話 題 ~平成26年度 第21号(H27.2.27調査情報課)~ 悪質商法 1 近年減少傾向にあった消費生活相談件数は、平成 25 年度、 増加に転じた。GDP の6割を占める消費の拡大は、我が国の 経済成長に必要不可欠であり、そのためにも消費者の不安を 払しょくし、消費市場の安心・安全を確保することは重要な 課題である。悪質商法の現状や、最近の傾向、国や都の取組 についてまとめる。 全国の消費生活相談の状況 図1 全国の消費生活相談件数(過去 10 年) ①消費生活相談件数の推移 全国の消費者センター等 への消費生活相談件数は、 平成 16 年度の約 192 万件を ピークに8年連続で減少し たが、平成 25 年度は約 92 万5千件で、9年ぶりに増 加となった(図1)。 消費生活相談増加の背景 には、悪質商法による消費 者被害が減少していないと 出典:平成 26 年6月 消費者庁「平成 26 年版消費者白書」より作成 いうマイナス面の一方、トラブルが深刻化する前に相談するという消費者行動の変化や、 消費者行政側の相談受付体制の強化等、プラスの側面もあると考えられる。 ②相談者の年齢層 相談者の年齢層は幅広いが、特に 60 歳以上が全体の 36.6%を占めており、高年齢層の 割合が大きくなっている(図2)。近年、高齢者の消費生活相談件数は増加傾向にあり、平 成 20 年度の相談件数を基準としてみると、件数全体は減少傾向にあるが、高齢者の相談件 数は大幅に増加している(図3)。 図2 年代別相談者の割合(平成 25 年度) 図2及び3出典:平成 26 年6月 図3 高齢者(65 歳以上)消費生活相談件数(指数) 消費者庁「平成 26 年版消費者白書」より作成 - 1 - ③商品別相談件数と、1 件当たりの既支出額 平成 25 年度の相談件数と、 図4 商品別の消費生活相談件数と既支出額(H25 年度) 1 件当たりの実際に支払った 金額を商品別にみると、主に アダルトサイトや出会い系 サイト関連の不当請求や架 空請求などデジタルコンテ ンツ等に関する「運輸・通信 サービス」の相談件数が突出 しているが、1件当たりの平 出典:平成 26 年6月 消費者庁「平成 26 年版消費者白書」 均既支出額は 2.9 万円と低い。相談件数が2番目に多い未公開株投資関連等の「金融・保 険サービス」は相談件数・平均既支出額とも多くなっている(図4)。 〈参考:最近の消費者被害の傾向事例〉 出典:平成 26 年6月 2 消費者庁「平成 26 年版消費者白書」及び警察庁ホームページ等より作成 都の消費生活相談の状況 都においては国と同様に、高齢者からの相談割合が増加しているが、若者の消費者被害 も多いという特色がある。 ①高齢者の消費者被害 図5 都内の消費生活相談件数と高齢者(60 歳以上) からの相談割合 東京都内における消費生活相談件 数は、平成 25 年度には約 12 万6千件 となり、前年度より 7.4%増加してい る。特に 60 歳以上の高齢者からの相 談件数は増加傾向にあり、平成 25 年 度には約3万9千件、前年度より 16.6%増加し、相談件数全体の3割を 超えている(図5)。 出典:平成 26 年 12 月 答申より作成 - 2 - 第 23 次東京都消費生活対策審議会 東京都は高齢者の一人暮らしが多く、平成 22 年には 65 歳以上の都民のおよそ4人に1 人が一人暮らしをしており、その割合は全国で最も高い。今後も高齢者の単独世帯は増え 続け、平成 47 年には 100 万人を超えると予測されている(※)。一人暮らし高齢者には周囲 の目が行き届かず、地域でも孤立しがちなことから、悪質事業者に狙われやすく、また被 害の発見も遅れる傾向がある。今後さらに被害が拡大することが懸念されている。 (※出典:平成 26 年3月 東京都総務局統計部「東京都世帯数の予測-概要-」 ) 図6 若者の消費生活相談件数 (29 歳以下、都内) ②若者の消費者被害 29 歳以下の若者の相談件数は、ここ数年 減少傾向にあったが、平成 25 年度は前年比 6.8%増の約1万5千件となった(図6)。相 談内容としては、テレビ局や雑誌社が集中し ているという都の特性上、タレント養成所等 による悪質な勧誘被害や、悪質な美容医療ク リニック等が高額な美容医療契約を強引に 出典:平成 26 年 12 月 答申より作成 第 23 次東京都消費生活対策審議会 勧誘するといった事例などが多く報告されている。また、SNS を使い交友関係を悪用して 呼び出し、強引に商品やサービスを契約させる手口による被害も増加している。 〈参考:東京の若者の 4 割強が悪質商法に遭遇〉 都が平成 25 年 3 月に都内在住の 18 歳から 29 歳までの 男女 3 千人を対象に行った世論調査によると、「架空請求」 「マルチ商法」 「キャッチセールス」 「デート商法」 「アポイ ントメントセールス」の 5 つの商法について被害にあったこ とがあるかを聞いたところ、 「被害にあった(契約した・お 金を払った)ことがある」と「被害には至らなかったが、請 求された(勧誘された)ことがある」が合計で 42.3%とな り、何らかの被害の危険に遭遇した人が4割を超えていた。 出典:平成 25 年3月 3 生活文化局「若者の消費者被害に関する調査〈概要版〉」より作成 国の取組 国は平成 16 年、従来の消費者保護政策を見直し、消費者の権利の尊重と自立の支援を基 本理念とする消費者基本法を施行した。翌 17 年には基本法に基づき「消費者基本計画」を 閣議決定し、以後毎年度見直しが行われている。また、平成 25 年6月には消費者政策に関 する初の法定白書である「消費政策の実施の状況」 (消費者白書)が閣議決定され、国会に 報告された。 平成 25 年8月には、政府の進める成長戦略を積極的に推進するために不可欠な消費者政 策を「消費者安心戦略」という政策パッケージとして取りまとめた。この「消費者安心戦 略」では、消費者の不安を払しょくし、消費市場の安全・安心を確保するため、物価モニ ター体制の強化などを柱とする物価・消費市場関連の対策と、消費者被害の防止や被害回 復のための取組などを柱とする消費者の安全・安心確保に向けた対策を進めている。 - 3 - 4 都の取組 (1)東京都消費生活基本計画の改訂 都は平成9年2月に「東京都消費生活基本計画」を策定し、以後罰則規定の導入など事 業者規制の強化や、消費者被害救済委員会の機能強化など、国に先駆けた先進的な取組を 行ってきた。平成 25 年3月には、消費生活をめぐる状況の変化を踏まえて、平成 29 年度 までの5年間を計画期間とする基本計画の改訂を行った。 (2)年代別の消費者教育 都は、小学生から高齢者まで、それぞれの対象年代に合わせた消費者教育を行っている。 消費者問題に関心の薄い層等へアプローチすることで啓発効果を高め、消費者被害の未 然・拡大防止を図っ ている。今年度は、 高齢者及び若者向け に右のような施策を 行い、対策に力を入 れている。 出典:生活文化局ホームページ及び新聞報道等より作成 (3)第 23 次東京都消費生活対策審議会答申 平成 26 年6月、 知事は、悪質事業 者への対応強化、 消費者教育の展 開、消費者被害救 済の充実の観点 から、今後の消費 生活行政展開の 方向性について、 東京都消費生活対策審議会に諮問を行い、12 月に答申があった。答申では、モデル・タレ ント活動や就職に関する契約など、法規制の「すき間」を突いた消費者被害の拡大を防ぐ ため、都条例を改正して独自に事業者を処分・指導すべきとの指摘等がなされ、都はこれ を受け平成 27 年第1回定例会に東京都消費生活条例の一部改正案を提出した。 5 今後に向けて 悪質商法の被害は減っておらず、法のすき間を悪用する等、手口も悪質化・巧妙化して いる。都は独居高齢者や若者が多く、今後も消費者被害は増加することが予想される。都 はこれまでも条例の整備等により、国に先駆けて消費生活行政を総合的に推進してきた。 今後も都の特性を踏まえたこれらの取組を加速していく事が重要である。 - 4 -
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