2013年3月、日本貿易振興機構上海事務所 知識産権部

第3章
3.1
先使用権証拠確保手続きの関連手段およびその有効性
先使用権証拠確保手続きの関連手段
先使用権が認められるためには、他者が特許出願した時に、その発明を事業として実施
していた、又はその準備をしていたことを証明する必要がある。
実施事業の内容を証明する証拠が、いつ作成されたものか、誰が作成したものか、内容
が改ざんされていないかが、重要なポイントとなる。
このために有効な方法として、中国では、公証手続きとタイムスタンプによる立証など
がある。
1.公証手続きによる先使用権証拠確保について
公証とは、「公証機構が自然人、法人その他組織の申請に基づき法定の手続きにより民
事法律行為並び法的意義を有する事実、文書の真実性及び適法性について証明する活動」
(公証法第2条)を指している。
公証制度には主に「公証法」および「公証手続規則」という2つの法律規定が含まれて
おり、地方によって実施条例などが出されている場合もある。
また、公証手続きは、公証人が公証証書を作成して、法律関係や事実を明確にし、文書
の証拠力を確保する手続きである。
(1)中国公証制度の基本
①公証当事者
公証当事者とは、公証事項と利害関係があり且つ自らの名義で公証機関に公証申請を提
出し、公証活動において権利を有し義務を負う自然人、法人又はその他の組織を指す。
②公証業務区域
公証業務区域とは、省、自治区、直轄市の司法行政機関が「公証法」第25条及び「公
証機関業務管理弁法」第10条の規定等に基づいて策定した、公証機関が公証業務を受理
する地域範囲を指す。
公証機関は、認められた業務区域内で公証業務を行わなければならない。
2人以上の当事者が共同して同一公証事項に関する申請をする場合、行為地、事実発生地
又は何れかの当事者の住所地、通経常居住地における公証機関に共同で申請することがで
きる。当事者が当該公証事項を受理できる2箇所以上の公証機関にその申請を提出する場
合、最初に当該申請を受理した公証機関が行うものとする。
「公証機構執業管理弁法」第36条第2項の規定に基づいて、公証機関は、「公証法」
第25条の規定に違反し、執業区域外で公証業務を受理する場合、所在地の司法機関によ
り制止・是正させると規定している。
③申請及び受理
以下のような申請について、公証機関は受理することができる。
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 27
A.申請者と公証を申請する事項との間に利害関係がある場合
B.公証を申請する事項が、「公証法」第25条の規定に合致し、申請公証機関の業務
区域内にある場合
C.法律、行政法規に規定する公証を行わなければならない事項で、且つ「公証手続規
則」第18条第1款、第2款、第4款に規定する条件に合致する場合、公証機関が
受理しなければならない。
④審査
当事者は、公証機関に対し、事実通りに公証事項に関する情況を説明しなければならず、
且つ提出する証明資料が真実、合法且つ十分なものでなければならない。公証機関が審査
を行う場合、公証を申請する事項の真実性、合法性について異議があり、当事者の説明又
は提供された証明資料が不十分であると認め又は異議がある場合、当事者に対して説明を
要求し又は補充証明材料の提出を要求することができる。
公証人が書類をすべて確認できなければ公証手続きは開始されず(公証人法第28条)、
また必要書類が揃っている場合であっても、公証人は当事者等に対して事実の確認を行う
ことができる(公証人法第29条)ため、事前の準備が必要不可欠である。
⑤公証書の発行
公証機関が審査を行い、公証を申請する事項が「公証法」、公証手続規則及び関連する
規定に合致すると認める場合、受理日より15営業日以内に公証書を発行しなければなら
ない。
⑥費用
公証機関の所在地と公証書類の量によって公証役場に支払う費用が異なるが、おおよそ
1,000元~3,000元程度となっている。現場録音・録画などを含む現場公証する場合は、1日
当たり4,000元~6,000元別途かかる。代理人に依頼する場合、代理人費用がおおよそ1回当
たり3,000元~8,000元かかる。
28 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
(2)公証手続きの進め方と流れ
通常、代理人を通して行う公証手続きは次のような進め方と流れとなる。
代理人との打合せを行い、公証対
象となる技術情報と実施準備ま
たは実施などの状況を把握し、公
① 代理人との打ち合わせ。
証手続きのタイミングを検討す
る。現場で録音・録画する必要が
ある場合、そのスケジュールを検
討する。
先使用技術に関連する証拠資料、
② 公証対象となる証拠資料の準備
先使用技術の入手経路に関連す
る証拠資料、実施準備または実施
に関連する証拠資料、実施内容変
更に関連する証拠資料などを確
認し、紙媒体として、または電子
ファイルを入れた DVD などとし
て準備する。
管轄権のある公証機関の中に、先
③ 公証機関の選定
使用権証拠確保公証の経験を持
つ公証機関を選定する。
公証人との打合せを行い、公証の
目的、公証対象となる技術情報と
実施準備または実施などの状況
を説明し、公証実施の希望スケジ
④ 公証機関との打ち合わせ
ュールを伝えるとともに、公証に
必要な申請書類の確認、証拠資料
に対する公証機関の特別要求の
確認を行う。現場で録音・録画す
る必要がある場合、そのスケジュ
ールと進め方を検討して決定す
る。公証後の証拠資料の保管方法
を検討して決定する。
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 29
公証人との打合せ結果と公証機
関の特別要求に従い、公証に必要
な申請書類と証拠資料を用意し、
公証機関に確認してもらってか
ら、専用封筒またはダンボールに
入れて封印してもらう。現場で録
⑤公証の実施
音・録画する必要がある場合、録
音・録画を実施し、録音・録画フ
ァイルを入れた DVD をその他の
証拠資料とともに専用封筒また
はダンボールに入れて封印して
もらう。
公証機関により発行された公証
⑥ 公証後の証拠資料の保管
書を、封印された証拠資料ととも
に保管する。
また、前記公証に必要な申請書類には通常、公証申請書、委任状(代理人に依頼して公
証手続きを行う場合)および企業の営業許可書コピーなどが含まれている。その公証申請
書が公証機関によって様式が異なる場合もある。
以下には、上海市のある公証処の公証申請書と江蘇省のある公証処の公証申請書の様式
を添付する。
30 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
上海市のある公証処の公証申請書の様式
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 31
江蘇省のある公証処の公証申請書の様式(日本語訳)
公証申請表
法人名称
電話番号
住所
郵便番号
法定代表者氏
名
代理人
身分証明
職務
証番号
身分証明
職務
氏名
証番号
公証要求
事項
公証書の用途
公証書
及び使用地
発行部数
提出関連資料名称
原本
複写
部数
ページ数
説明:
会社印
記入者署名
申請日付:
32 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
年
月
日
(3)公証手続きによる先使用権証拠確保の留意点
①公証機関の選定に関する留意点
中国では、公証機関の管轄範囲の規定により、公証手続きが先使用権者の所在地または
先使用技術の実施地の公証機関において行うことは原則である。その関連規定に違反して
管轄外の公証機関を用いて公証した場合の公証の効力がは認められるか否かについては、
法律上、明確されていないが、「管轄外の公証を行った場合、相手側が当該公証内容を覆
す証拠を提出しなければ、裁判所は通常、公証の効力を認める。」と考えている公証機関
がある。しかし、その関連規定に違反して管轄外の公証機関を用いて公証した場合の公証
の効力は、裁判所に認められないリスクが存在すると考えられる。従って、できるだけ当
事者(先使用権者)の所在地または先使用技術の実施地における公証機関に依頼して、公
証手続きを行ったほうがよいと考えられる。現実では、一部の都市と地域の公証機関は先
使用権証拠資料に対する公証手続きを行ったことがないが、先使用権証拠資料に対する公
証手続きを行ったことのある都市のやり方などを教えてあげれば、ちゃんと対応してくれ
る場合もある。
また、公証手続きを行う場合、事前に公証機関に説明し、具体的なやり方を検討する必
要がある。また、瑕疵がない先使用権証拠を取得するためには、具体的な公証手続を実施
する場合、代理人に依頼して行ったほうがよいと考える。
なお、中国における主要都市および地域の公証機関の一覧表を下記に添付する。
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 33
主要都市と地域の公証処一覧表(2013 年 2 月現在)
公証処名称
北京市
北京市方円公証処
天津市
天津市公証処
上海市
上海市東方公証処
広州市
広州公証処
大連市
大連市西岡区公証処
南京公証処
江蘇省
北京市東城区東水井胡
同5号
天津市和平区大理道 100
号
上海市鳳陽路 660 号
広州市東風中路越秀広
場南塔 12 階
大連市西崗区黄河路 263
号
南京市長江路 99 号長江
貿易大楼 7 階
電話
(010)85197666
(022)58825888
(021)62154848
(020)83183060
(0411)83637821
(025)84796666
蘇州市公証処
蘇州市獅山路 6 号
(0512)68257758
無錫市錫城公証処
無錫市崇寧路 19 号
(0510)82716371
南通市南通公証処
南通市躍龍路 71 号
(0513)85587319
張家港市公証処
張家港市人民中路 65 号
(0512)58153600
常州市公証処
常州市紅梅南路 9 号
(0519)88171710
昆山市公証処
昆山市珠江南路 488 号
(0520)57311220
杭州市国立公証処
寧波市天一公証処
浙江省
住所
義烏市公証処
嘉興市誉天公証処
温州市中公証処
杭州市延安路 499 号市
科協大楼 2 楼
寧波市中山西路青石巷 5
号4楼
義烏市江濱西路 38 号
嘉興市中山東路 1601 号
世紀広場北二楼
温州市馬鞍池東路 254
号
34 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
(0571)85105000
(0574)87313710
(0579)85328528
(0573)82086329
(0577)88220947
②公証の時期に関する留意点
先使用権を確保するため、関連証拠の存在をタイミングよく立証することが重要である。
他者による専利出願がいつ行われるかを予測できないため、先使用権が認められる証拠が
形成した時点で、速やかに確保して立証することが必要である。
公証による立証のタイミングとしては、次のような時点だと考えられる。
A.先使用技術の研究開発が完成された時点
B.先使用技術を実施するための準備が完了した時点
C.先使用技術を実施しはじめた時点または実施が正常化となった時点
D.実施内容が変更された時点
上記実施内容には実施主体、実施能力、実施形式など含まれているため、その中におけ
るいずれか一つが変更された時点で公証による立証を行う必要があると考える。また、実
施内容の変更が段階的に行われている場合は、その都度、証拠資料を確保したうえ、公証
による立証を行ったほうがよいと考える。
③公証人との打ち合わせおよび公証実施時の留意点
公証人との打合せを行う際、公証の目的、公証対象となる技術情報と実施準備または実
施などの状況を説明するが、それらの説明は、表面的なものだけで十分であり、具体的な
技術内容、技術ノウハウなどを説明する必要はない。
また、公証実施時の先使用技術の漏洩を防ぐために、公証の実施(特にすべての証拠資
料の封印)はなるべく1日内に済ませる工夫が必要である。録音・録画する必要がある場合、
できるだけ録音・録画の当日に、録音・録画の完了後、すぐ録音・録画ファイルをDVDに入
れ、その他の証拠書類とともに封印するスケジュールを立てたほうがよいと考える。その
ため、場合によって録音・録画を実施する前に、公証人に工場見学してもらい、事前に録音・
録画の打ち合わせなどを行ったほうがよいと考える。
④公証された証拠資料の保管に関する留意点
公証された証拠資料の保管について、強制的な規定がないので、公証機関と依頼者の両
方による保管の場合があれば、依頼者による保管のみの場合もある。これは事前に公証機
関に確認する必要がある。公証された先使用技術の漏洩を防ぐために、できるだけ依頼者
のみによる保管にするよう公証機関を説得したほうがよいと考える。但し、依頼者のみに
よる保管の場合、保管者、保管場所、保管期間、保管方法などを公証書に記載する必要が
ある。
どうしても公証機関が公証された証拠資料の保管に関与したい場合は、例えば、公証機
関との合意の上、公証された証拠資料を依頼者敷地内に設置された保管容器(例えば鉄製
ロッカー等)に入れ、当該保管容器に対し片方で開けない二つの鍵A、鍵Bにて施錠し、公
証機関と依頼者が鍵A、鍵Bをそれぞれ片方保管するという方法を取る。
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 35
一方、どうしても公証機関管轄内での保管が要求された場合は、保管者、保管場所、保
管期間、保管方法などを公証書に記載してもらうとともに、場合によって秘密保持契約を
締結するよう要求したほうがよいと考える。公証人と秘密保持契約を締結することは、公
証機関により拒否される場合が多いため、公証人を説得する必要がある。
2.タイムスタンプによる先使用権証拠確保について
多くの文書が電子的に作成され、電子情報として管理、保存される現状において、これ
ら電子文書を、いつ、誰が作成したか、改ざんされていないかを証明することが求められ
る。
タイムスタンプとは、電子データに時刻情報を付与し、その時刻から検証した時刻まで
の間にその電子データが改ざんされていないことを証明する民間サービスである。
このタイムスタンプには、確定日付としての法的な効力はないが、時刻を証明する証拠
として簡便であり有益なものである。
また、タイムスタンプは次のような特徴がある。
(1)否認不可性(Nonrepudiation rule)と否定不可性を有すること
タイムスタンプは、国家法定時刻源による時刻情報が付与され、権威・可信頼性を有す
るタイムスタンプサービスセンターにより発行される。そのため、デジタル電子書類にお
けるタイムスタンプは、否認不可性と否定不可性を有する電子証拠となる。タイムの権威
性と信頼性を確保するため、タイムスタンプサービスセンターを含む如何なる機構もタイ
ムを改ざんすることができない。
(2)秘密性を有すること
電子書類にタイムスタンプを押印する場合、電子書類の内容が外に漏洩されることはな
い。ユーザは、タイムスタンプを押印するための電子書類をタイムスタンプサービスセン
ターに送付するが、タイムスタンプサービスセンターが受領したものは、電子書類の「指
紋」にすぎず、当該「指紋」のみを取得したとしても、電子ファイルにおける内容を閲覧
することはできない。
ここでいう 「指紋」はHASH値である。HASH値とは、書類内容のデータに基づいて、論理
的に演算したことにより得た数値である。それぞれの書類内容から得たHASH値は、異なる
ため、人間の 「指紋」と同様である。また、 HASH値は、検証機能があるため、タイムス
タンプを押印した書類は、元々の書類であるか否かを検証できる。
(3)操作の簡易性を有すること
タイムスタンプサービスシステムの操作は簡単で、流れが明晰であるので、ユーザは、
コンピュータを利用できれば、タイムスタンプを取得することができる。タイムスタンプ
36 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
は、パスワードを加えることにより形成された証拠ファイルであり、タイムスタンプが生
成される流れの概略は、次の通りである。
ユーザは、タイムスタンプを必要とする電子書類をタイムスタンプサービスセンターよ
り提供された関連システムに送信し、当該関連システムは、自動的に受領したファイルに
対し、HASHコーディングすることによりパスワードを追加し、かつデータを形成した後、
当該データをDTS(Data-Transmission System、以下同様)に発信し、DTSにてファイル概
要を受信した期日とタイム情報を加えてから、再度当該ファイルに対しパスワードを付け
加えたうえ、ユーザに返送する。
(4)リアル性を有すること
いつでもどこでもタイムスタンプサービスシステムに接続すれば、タイムスタンプによ
る立証ができる。こまめにタイムスタンプを付与することで、研究開発から事業化に至る
までの一連のプロセスで生まれる情報に対する証拠性の確保を実現できる。
中国におけるタイムスタンプサービスは、電子認証業務の一種として、中国工業と情報
化部の指導で設けられた民間的なサービス機構により提供されている。中国のタイムスタ
ンプサービス機構として、もっとも有名なのは「連合信任タイムスタンプサービスセンタ
ー(UniTrust Time Stamp Authority)」(以下、中国TSAセンターという)である。
以下では、中国TSAセンター(www.tsa.cn)により提供されているタイムスタンプサービ
スを紹介する。
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 37
タイムスタンプサービス利用の流れのフロー
TSA タイムスタンプサービスへアクセス
アカウント登録
権利者情報の完備
タイムスタンプ端末用セキュリティソフト
をインストール
アカウントへ入金
証明したい書類の選定
タイムスタンプ証明書発行の申請
紙媒体で証明書を印刷
38 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
TSA タイムスタンプサービスへのアクセス
国家時刻授権中心
標準時刻
企業
アカウント
ユーザー名
パスワード
アカウント登録
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 39
登録後のアカウント状況
業務管理に使用する全項目は画面の左側に示しているメニュー欄にある。
ユーザ情報管理
「企業情報管理」の項目に入ると、自社の組織機構コード番号が画面の通り表示される。
アカウント登録した後、システムより特定の番号が発行されることとなる。
40 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
スタッフ管理
「スタッフ管理」で、スタッフを添加することができる。
「スタッフアカウント」のとこ
ろで、新しい ID を申請する必要はなく、スタッフが普段に使う有効なメールアドレスを入
力してシステムに提出すればよい。次回以降、当該スタッフは、自分のメールアドレスに
よりシステムにアクセスすることが可能となる。
アカウントへの入金
「アカウントへの入金」項目では、具体的な購入コースと支払いルートを選択できる。
ただ、企業ユーザの一回の購入には少なくとも 100 回分を購入しなければならない。一回
分の費用は 10 人民元となる。
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 41
タイムスタンプを付与した書類の選択と簡単な説明
まずは、「参照」ボタンをクリックし、パソコンにあるフォルダーから証明したい書類
を選定する。また「書類類型」から、対応する書類の類型を選択できる。更に、下の「フ
ァイル内容説明」欄に、当該書類についての説明を追記ことができる。
タイムスタンプを付与できる書類の種類
参照
文字
音楽
オーディオとビデオ
美術
設計
彫刻
工事図面
ソフトウェア
営業秘密
撮影
その他
製品設計図
前の画面で言及した「書類類型」について、選択範囲は文字だけではなく、音楽、ビデ
オ、工事図面、ソフトウェア、営業秘密まで幅広い対応が可能である。
42 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
タイムスタンプ付与成功
タイムスタンプ付与作業が成功した場合、上記の画面が表示される。この画面にて電子
証明書を閲覧及び印刷することができる。それ以外に、証明書を検証することもできる。
タイムスタンプ付与証明書の発行
発行されたタイムスタンプ付与証明書。その上に、発行機構、発行時刻及びファイルの
デジタル指紋など関連情報が明記されている。
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 43
タイムスタンプ付与資料の管理と検索
検索統計
総合検索
スタッフにより検索
ファイル名により検索
「検索統計」項目で、タイムスタンプが付与されたファイルを検索することができる。
検索方法は画面の掲載通り三つがある。一つ目は、「総合検索」である。すなわち検索した
い期間を限定し、この期間内に付与されたファイルを全部表示させる方法である。二つ目
は、「スタッフにより検索」である。付与作業を担当したスタッフのIDによって検索する方
法である。三つ目は、「ファイル名により検索」である。タイムスタンプが付与されたファ
イルのファイル名にて検索する方法である。
44 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
タイムスタンプ付与後の検証
検証したい
ファイル
タイムスタンプ
証明書
参照
タイムスタンプが付与された後に、一度検証を行いたい場合は、以上の画面にて、
「参照」
から「検証したいファイル」と「タイムスタンプ証明書」の電子版データ(ファイル名.tsa)
を選定し、後ろの青いボタン「タイムスタンプを検証」をクリックするだけで、簡単に検
証することができる。
従って、タイムスタンプが付与された後に、タイムスタンプが付与されたファイルと「タ
イムスタンプ証明書」の電子版データ(ファイル名.tsa)を紛失させないよう、同じとこ
ろで保管しておくことは重要である。
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 45
タイムスタンプ付与後の検証成功
検証作業が成功した場合、上記の画面が表示される。その上に、タイムスタンプ発行機
構、発行時刻など関連情報も同時に表示されることになる。同ページによって、タイムス
タンプ付与証明書を閲覧及びダウンロードすることも可能である。
タイムスタンプ付与後の検証失敗
検証失敗
検証作業が失敗した場合、上記の画面が表示される。その原因は、次の二つを想定でき
る。一つは、検証対象には、まだタイムスタンプ付与作業が実施されていない。もう一つ
は、タイムスタンプが付与された後に行われた修正などにより、現在の検証対象は、本来
のタイムスタンプ付与ファイルと一致しない場合を考えられる。
46 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
3.2
先使用権証拠確保手続きの関連手段の有効性
1.公証手続きの有効性
中国の「公証法」第 36 条では、「公証を経た民事法律行為並びに法的意義のある事実及
び文書については、事実を認定する根拠としなければならない。但し、相反する証拠があ
り当該公証を覆すに足りる場合を除く。」と規定している。
また、中国の「民事訴訟法」第 67 条では、「法の定める手続きを経て公証証明された法
律行為、法律事務及び文書については、裁判所は、事実を認定する根拠としなければなら
ない。但し、公証証明を覆すに足りる反証がある場合は、この限りではない。」と規定し
ている。つまり、もし裁判になったときに立証段階で弁護士が真正な成立を証明すること
なく、簡便且つ確実な証拠として裁判官が採用する大きなメリットがある。
中国では、その他の証拠形式に比べ公証の証拠效力は最も高い。近年、中国裁判所によ
り処理された知的財産権事件の関連案例をみると、被疑侵害者が自分で取っている先使用
権証拠の真実性を証明できないので、最終的には裁判所に認められないケースが多い。そ
れに対し、公証された先使用権証拠が裁判所に認められる確率は非常に高い状況となって
いる。
2.タイムスタンプの有効性
中国の「電子署名法」第14条では、「信頼性のある電子署名と手書署名又は押印は同等
な法的効力を有する。」 と規定している。
上記「電子署名法」の関連規定によれば、タイムスタンプを押印された電子証拠の法律
証明能力を明確にしている。
また、先使用権の証拠資料について、資料の形成時間を証明することは、一番重要であ
る。タイムスタンプを通じて、刻印された電子資料の刻印時間を十分に証明できるので、
関係資料は遅くとも刻印された時点で利用者より保有されたことを証明できる。
なお、司法実務において、タイムスタンプを刻印した電子証拠が認定された判例があっ
たため、先使用権証拠を保全する証拠は、十分に裁判所などに認定されると判断する。
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 47
第4章
4.1
先使用権証拠確保手続き実施の関係者向けの手引き
先使用権証拠確保手続き実施の関係者構成
日本企業による先使用技術の取得および実施については、通常、次の3つのパターンが考
えられる。
パターン①:先使用技術が現地企業により独自で研究開発されたもので、現地企業によ
り実施準備または実施される。
パターン②:先使用技術が日本本社で研究開発されてから、現地企業に供与し、現地企
業により実施準備または実施される。
パターン③:先使用技術が日本本社から現地企業に提供し、現地企業が日本本社の受注
をうけて製造し、全品を日本本社に納入する。
上記 3 つのパターンでは、パターン②は一番多い典型的なパターンであると考えられる。
上記パターン②について、先使用権証拠確保手続き実施を検討する場合、日本本社側で
は、研究開発部門、海外事業部門、知的財産部門、現地企業では、製造事業部門、知的財
産部門などの関係者が先使用権証拠確保手続き実施の関係者となる。
先使用権証拠確保手続き実施の役割分担として、日本本社側の関係者が主に技術に関連
する研究開発の証拠書類と技術供与に関連する証拠資料の準備と収集に勤め、現地企業側
の関係者が主に実施準備または実施に関連する証拠書類、実施内容変更に関連する証拠書
類の準備と収集、そして、先使用権証拠確保手続きに勤めることになる。
48 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
4.2
関係者向けの手引き
1.先使用権証拠確保の流れ
先使用権を主張するためには、先使用権を主張する者が、その発明の実施事業を行って
いたこと又は準備をしていたことを立証する必要がある。
他者による専利出願がいつ行われるかわからないため、実施準備完了、実施開始、実施能
力向上、実施形式変更などの段階(タイミング)で関連証拠資料を確保しておく必要があ
る。従って、上記の流れに示されたように、研究開発により発明を完成させたとき、その
発明を実施する事業を準備したとき、事業化が決定したとき、販売を開始したとき、これ
らの事実の証明に必要な時点ごとに、そこに至った経緯を時系列的に証明できる資料を収
集し、保管する必要がある。
日本企業による先使用技術の取得および実施などにおける上述したパターン②に対応し
た先使用権証拠確保の流れをまとめると、次のようになる。
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 49
先使用権証拠確保の流れのフロー
研究ノート
研究・開発
技術成果報告書
実験報告書
研究開発月報
設計図・仕様書
日本
技術成果報告書
発明の完成
発明提案書
研究開発完了報告
技術供与計画書
技術の供与
譲渡、実施許諾契約書
対価支払証明書、領収書
中国
実施の準備
実施計画書
設計図・仕様書
見積書・請求書
証拠保全手続き
実施開始決定書
見積書・請求書
納品書・帳簿類
実施開始・継続
作業日誌・マニュアル
カタログ・パンフレット
商品取扱説明書
製品自体・サンプル
証拠保全手続き
実施変更計画書
実施形式の変更
設計図・仕様書
作業日誌・マニュアル
カタログ・パンフレット
商品取扱説明書
製品自体・サンプル
証拠保全手続き
50 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
2.関連部門ごとに証拠資料収集・確保する役割分担と流れ
証拠資料の収集、保管については、資料作成の手間や保管の費用のことを考えると、積
極的な保護に値する重要な技術に絞り込んだうえで、資料の種類、作成時期、保管方法、
保管期間等を定めて、組織的に管理する必要がある。
また、このような関連証拠資料を確保することは関係者ごとに行い、最終的に証拠保全
担当の知的財産部門に集め、先使用権の証拠保全を実施する必要がある。
そして、関連部門ごとに証拠資料収集・確保する役割分担と流れが次のようになる。
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 51
関連部門ごとに証拠資料収集・確保する役割分担と流れのフロー
研究ノート
技術成果報告書
実験報告書
研究開発月報
本
社
設計図・仕様書
本社研究開発部門
知
技術成果報告書
的
発明提案書
財
研究開発完了報告
日本
産
部
本社海外事業部門
技術供与計画書
譲渡、実施許諾契約書
対価支払証明書、領収書
実施計画書
設計図・仕様書
見積書・請求書
現
地
実施開始決定書
企
業
現地
見積書・請求書
知
企業
納品書・帳簿類
的
製造
作業日誌・マニュアル
財
事業
カタログ・パンフレット
産
部門
商品取扱説明書
製品自体・サンプル
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証拠保全手続き
52 中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書
中国
3.先使用権証拠確保手続き実施の作業内容と留意点
通常、日本本社が有する技術を現地企業へ供与(使用許諾、譲渡など)されるかどうか
を本社海外事業部門により決定したあと、日本本社と現地企業の知的財産部門がその供与
技術を現地で先使用権として確保することを決定した場合、現地企業知的財産部門を通じ
て先使用権証拠保全手続きの実施を行うことになっている。
そして、各関連部門による有効な証拠資料の収集・確保、そして、現地知的財産部門に
よる先使用権の証拠保全手続きをスムースに行うために、各段階において関連担当部門の
関係者により行うべき作業内容およびその留意点について次のようにまとめている。
中国における先使用権の活用手段に関する調査報告書 53
関係部
作業内容
門
本社研
研究開発から成果(発明)が出るまでの関連資料をでき
究開発
るだけ確保し、発明技術などを本社知的財産部門に速や
部門
かに届ける。
留意点
・タイムスタンプシステムを利
用して、重要な研究開発の証拠
資料などにタイムスタンプを付
与すること。
・現地企業に供与する本社技術
・現地企業へ事業展開する際、どのような本社技術を現
本社海
地企業に供与するかを確認・検討する。
外事業
・技術供与の方法(無料提供、譲渡、実施許諾)を検討
部門
して決定する。
・事業計画書などを作成する。
の中に未公開技術やノウハウな
どが含まれているかどうかは本
社知的財産部門に確認するこ
と。
・技術供与に関する契約書(ま
たは覚書)の作成担当部門を明
確すること。
・対象技術について、証拠保全とするか、または特許出
本社知
的財産
部門
願等とするかの判断を行う。
・出願による公開と証拠保全に
・現地企業への供与技術に未公開技術やノウハウなどが
よる秘匿のメリット・デメリッ
含まれているかどうかを確認する。
トをよく検討する。
・技術供与に関する契約書(または覚書)の作成につい
・現地で行う先使用権証拠確保
て本社海外事業部門に協力する。
に必要な証拠資料を現地知的財
・現地で行う先使用権証拠確保に関連する本社側の証拠
産部門に常に確認すること。
資料を確認してまとめる。
・対象技術の実施に必要な製造設備、金型、原材料を特
現地製
定し、知財部門に報告する。
造事業
・実施準備完了、実施開始、実施後の実施内容変更のタ
部門
イミングに合わせて製造状況および生産能力を反映でき
る資料を収集して現地知的財産部門に報告する。
・事業部門の事業実施計画に対
応する最大生産能力を明確にす
ること。
・実施準備完了、実施開始、実
施内容変更などのタイミングを
正確に把握すること。
・先使用権証拠確保に必要な証
・本社からの供与技術に関する証拠書類を確認し、保管
拠書類をもれなく収集・確認す
する。
ること。
現地知
・先使用権証拠確保に必要な証拠書類を確認し、本社側
・実施準備完了、実施開始、実
的財産
に連絡する。
施内容変更などのタイミングを
部門
・実施準備完了、実施開始、実施内容変更などのタイミ
正確に把握すること。
ングを確認し、関連書類の収集・確認を行う。
・代理人を通じて先使用権証拠
・タイミングよく先使用権証拠確保手続きを実施する。
確保手続きをスムースに行うこ
と。
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