3.2 テーマ【3-2】地盤改良体の材料に関する研究 3.2.1 はじめに 本年度は、昨年度実施された、廃タイヤゴムチップを用いた地盤改良体システムの材料実験 及び、FEM 解析により有効性が得られたので、縮小地盤改良体の実大振動実験によりその性能 を検討した結果を報告する。 3.2.2 廃タイヤゴムチップ単体実験 廃タイヤゴムチップを用いた減衰体の基本的な材料特性を得るために、鉛直圧縮試験とせん 断試験、圧縮振動実験を行った。鉛直圧縮試験とせん断試験は図 3-2-1 に示す試験機を用いて 行った。本実験で用いた試験体は、100×100×100mm3の寸法を持ち、1∼3mmの粒径の廃タイヤ ゴムチップをウレタン樹脂とセラミックファイバーにより成型した減衰体となっている。 鉛直方向アクチュエーター 最大荷重:10[kN] 最大振幅:±100[mm] 水平方向アクチュエーター 最大荷重:400[kN] 最大振幅:±200[mm] 図 3-2-1 材料実験加力装置図 a) 鉛直圧縮試験 鉛直圧縮試験は鉛直方向アクチュエーターを用いて静的加力試験を行った。試験は変位制御で試験 体を繰り返し圧縮させた。図 3-2-2 に荷重と変位の関係を示すが、振幅が大きくなるにつれて、若干 剛性が低くなる結果となった。 b) せん断試験 せん断試験は水平方向アクチュエーターを用いて動的加力実験を行った。加力は試験体を 20mm 圧縮させた状態で行い、振動数を 0.1Hz、0.3Hz、0.5Hz、1.0Hz、振幅を 1mm、5mm、10mm、 20mm と変化させて実験を行った。実験結果のうち 0.1Hz 加振時の荷重−変位関係を図 3-2-3 に示すが、安定した履歴ループを描いている。 12 LOAD [kN] LOAD [kN] 10 8 6 4 2 0 0 5 10 15 DISP [mm] 20 図 3-2-2 鉛直圧縮試験荷重-変位関係 25 2 1.5 1 0.5 0 -0.5 -1 -1.5 -2 -30 -20 -10 0 DISP [mm] 10 20 図 3-2-3 せん断試験(動的 0.1Hz) 荷重−変位関係 30 c) 圧縮振動実験 廃タイヤゴムチップ材の高振動数域における特性を把握するために 40×40×40 mm3の試験 片を用いて圧縮振動実験を行った。実験は鉛直方向アクチュエーターを水平に取付けて加振 を行い、加振は振幅を 1mm、振動数を 0.1Hz∼20Hzまでの正弦波加振で行った。図 3-2-4 に荷 重−変位関係を、図 3-2-5 に荷重−変位関係より求めた周波数に対する等価剛性と等価粘性 減衰定数を示す。等価剛性は周波数依存性があまり見られないが、等価粘性減衰定数は振動 数が高くなるにつれて値が大きくなる傾向が見て取れる。 図 3-2-2 の荷重−変位関係と圧縮振動実験結果より、廃タイヤゴムチップ材が減衰を有す るものであることが確認できた。また、鉛直圧縮試験の試験結果よりヤング係数を算出し、 図 3-2-3 のせん断試験の履歴より最小二乗法により算出したせん断弾性係数を表 3-2-1 に示 す。 0.03 LOAD [kN] 0.02 0.01 0 0.1Hz 10Hz 20Hz -0.01 -0.02 -0.03 -1.5 -1 -0.5 0 DISP [mm] 1 1.5 14 等価粘性減衰定数 [%] 0.03 等価剛性 [kN/mm] 0.5 0.025 0.02 0.015 0.01 0.005 0 12 10 8 6 4 2 0 0.1 1 10 100 f [Hz] 0.1 1 10 100 f [Hz] 図 3-2-4 圧縮振動実験 荷重−変位関係 図 3-2-5 圧縮振動実験 等価剛性 Keq、等価粘性減衰定数 heq 3.2.3 廃タイヤゴムチップ減衰体の実大振動実験 単体実験を行い、廃タイヤゴムチップ材の物性を把握したため試験的に実大規模の実験を行 った。 a) 実大試験体概要 図 3-2-6 に試験体の配置図を示す。図中の丸印は計測に用いたサーボ型加速度計の位置を 表している。 試験体は図 3-2-7 の試験体概要図に示すように 2400mm 角の平面寸法を持つ基礎 ブロックの下に厚さ 50mm の捨てコンを配し、その下に 4 本の柱状地盤改良体(ソイルセメン トコラム 杭径:600mm、杭長:2500mm)を打設している。柱状地盤改良体の諸元は表 3-2-2 に示すとおりである。 表 3-2-2. 柱状地盤改良体諸元 表 3-2-1. 材料試験結果 セメント セメント系固化材 3 添加量 [kN/m3] セメントスラリー (W/C)[%] 60 杭長 [m] 2.5 杭径 [m] 0.6 ヤング係数 せん断弾性係数 2 2 kN/mm kN/mm 0.0034 0.0012 基礎ブロック 変 電 施 6000 加振方向 地盤免震装置 3000 6000 土質及び 変電器 機械実験 環境・防災都市共同研究センタ 起振機 2,400mm 基礎ブロック 2,400mm 1,000mm 柱状地盤改良体 図 3-2-6 試験体配置図 図 3-2-7 縮小地盤改良体図 b) 加振方法 加振実験は、偏心マス型起振機を用い、その起振力 P は(3-2-1)式で示すように、偏心モー メント Mr および加振円振動数ωの関数として与えられる。 基礎ブロックの設計に関しては、使用する起振機の加振可能振動数が 0.2∼20Hz であるた め、試験体の設計目標共振振動数を 10Hz として設計を行った。 P (ω ) = ω 2M r g (3-2-1) 本研究では図 3-2-8 に示すように基礎側面を 3 つの TYPE に変化させて加振実験を行った結 果について報告する。TYPE−A は基礎ブロック施工時のままの状態で、根切り深さ 0.3m、余 幅が約 0.22m である。TYPE−B は余幅部を捨てコン底面より 0.5m 掘り下げ、トレンチ(溝)を 設けた形となっている。TYPE−C はトレンチ部に図 3-2-9 に示すように廃タイヤゴムチップ 減衰体(250×250×250mm)を 8 個鉄板で挟み込んだものを1辺に2個、4 辺で計8個設置した 形となっている。廃タイヤゴムチップ材と鉄板との接着はエポキシ樹脂系接着剤を用いて行 った。 TYPE−A 、TYPE−B は振動数漸増のスウィープ加振で、加振振動数は TYPE−A に関しては 7 ∼15Hz、TYPE−B に関しては 4∼14Hz で加振実験を行った。TYPE−C に関してはあらかじめ行 われた TYPE−A、TYPE−B の両実験において基礎ブロックの動特性が把握されたため、共振点 付近を 0.5Hz 刻みで、それ以外では 1Hz 刻みのステップ加振で加振実験を行った。なお、起 振力は3つの TYPE 全て偏心モーメント Mr=0.02[kN・m]で加振を行った。 1200 ㎜ TYPE−C 基礎ブロック TYPE 別概要図 300 ㎜ 図 3-2-8 500 ㎜ 廃タイヤゴムチップ減衰 800 ㎜ TYPE−B 300 ㎜ TYPE−A 図 3-2-9 TYPE-C 概要図 c) 実験結果 基礎ブロック上面における単位起振力に対する加速度の伝達関数を3つの各TYPEを比較し て図 3-2-10 に示す。同図より TYPE−A、TYPE−C では 9Hz 付近に共振点が存在し、TYPE−B に関しては共振点が8.5Hz付近とTYPE−A、 TYPE−Cに比べ低くなっていることが見て取れる。 また、TYPE−B はトレンチを設けたことでその応答が他の TYPE に比べ高く評価され、逆に廃 タイヤゴムチップ減衰体を設置した TYPE−C に関してはその応答が最も低く評価されている 2 ACC [m/s /kN] ことが確認できる。 0.4 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 TYPE-A TYPE-B TYPE-C 4 6 8 10 f [Hz] 12 14 16 図 3-2-10 単位起振力に対する加速度の伝達関数 図3-2-11には共振点付近における荷重と基礎ブロック上面位置での変位の関係を3つの各 TYPE を比較して示す。TYPE−A、TYPE−C に比べて TYPE−B においては剛性の低下が見て取れ る。この剛性の低下により共振点が低くなったことが確認できる。TYPE−C に関しては他の TYPE よりも履歴のふくらみが大きくなることが確認された。図 3-2-11 の履歴図を用いて最 小二乗法により等価粘性減衰係数と等価剛性、等価粘性減衰定数を算出した結果を表 3-2-3 に示す。 TYPE−C は TYPE−B と比べ粘性減衰定数に約 10%の増加が確認され、TYPE−A と比べても 約 6%の減衰の増加が確認できることから、廃タイヤゴムチップ減衰体を設置したことによ る減衰の増加が確認できる。 表 3-2-3. TYPE-A TYPE-B TYPE-C 最小二乗法による実験結果 等価剛性 等価粘性減衰係数 kN/mm kN・sec/mm 46.93 0.21 38.71 0.12 43.56 0.30 等価粘性減衰定数 % 12.8 8.2 18.9 30 LOAD [kN] 20 10 0 TYPE-A TYPE-B TYPE-C -10 -20 -30 -1 -0.5 0 DISP [mm] 0.5 1 図 3-2-11 共振点付近の荷重−変位関係 図 3-2-12 には TYPE−A、TYPE−C の単位起振力に対する加速度の距離減衰を示す。TYPE−C は廃タイヤゴムチップ減衰体の鉄板の基礎ブロック側と地盤側にサーボ型加速度計を取付け て計測を行ったが、TYPE−A の加振時には取付けていなかったため、基礎ブロック中心位置 から 1.2m∼3m までの区間は比較することが出来ないが、3m、9m と TYPE−C のほうが小さい 値となっている。このことから、廃タイヤゴムチップ減衰体を設置したことで近傍地盤にお ける応答の低減が確認できる。 0.2 TYPE−A 0.15 0.1 8.15Hz 9.16Hz 10.0Hz 10.8Hz 0.05 0.25 ACC [m/s2 /kN] ACC [m/s2/kN] 0.25 7.96Hz 8.97Hz 9.97Hz 11.00Hz 廃タイヤゴムチップ減衰体設置位 0.2 TYPE−C 置 0.15 0.1 0.05 0 0 0 1 2 3 4 5 6 距離 [m] 7 8 9 10 0 1 2 3 4 5 6 距離 [m] 7 8 9 10 図 3-2-12 単位起振力に対する加速度の距離減衰 実験で得られた基礎ブロック上面位置における加速度波形からインピーダンス関数の算出 を(3-2-2)式を用いて行った。算出を行う際の入力パラメータを表 3-2-4 に示す。 KH = P + ω 2 muG uf KR = PH P + ω 2muG H G + ω 2 Jθ f θf P :起振力 (kN) m :基礎質量 (ton) J :回転慣性モーメント (ton・m) H G:重心高さ (m) H P :加振高さ (m) u f :捨てコン底部の変位 (m) uG :重心位置の変位 (m) θ f :捨てコン底部の回転角 (rad) (3-2-2) 表 3-2-4 入力パラメータ ton 基礎質量 回転慣性モーメント ton・m m 重心位置高さ m 加振高さ 15.599 8.426 0.597 1.33 図 3-2-13 に3つの各 TYPE のインピーダンス関数を示す。TYPE―C はステップ加振のため 値が連続ではないものの、その傾向はスウェイ、ロッキング共に TYPE−A、TYPE−B と一致し ている。また、TYPE−A と TYPE−C はスウェイに関しては実部、虚部共にほぼ等しい値が算 出されたが、ロッキングでは、実部は低く評価され、虚部は高く評価されていることが確認 できた。TYPE−A と TYPE−C における履歴面積の違いはロッキングに対する剛性と減衰に起 因しているものであると確認された。 TYPE−A 100 [kN/mm] 80 TYPE−B スウェイばね TYPE 10 8 [kN・m/rad] 2.0 ロッキングばね 1.5 Re 60 Re 1.0 40 0.5 20 Im Im 0.0 0 6 7 8 9 10 11 12 f [Hz] 6 7 8 9 10 11 12 f [Hz] 図 3-2-13 インピーダンス関数 3.2.4 解析による検討 a) 固有値解析 実験結果より得られた図 3-2-13 に示すインピーダンス関数を用いて固有値解析を行った 結果を報告する。固有値解析は図 3-2-14 に示すスウェイ・ロッキングモデルで行い、その際 に使用した振動方程式は(3-2-3)式である。なお、入力パラメータは表 3-2-4 に示すとおりで ある。収束計算を行うにあたり実験は 0Hz からの加振が出来なかったため、本解析において 各 TYPE の加振実験における最も低い振動数のインピーダンス値を用いて収束させていく。 (捨てコン底面位置における振動方程式) HP m HG J θf KH 2 KR ⎡ m ⎢mH G ⎣ KH 2 図 3-2-14 スウェイ-ロッキングモデル ⎡ k H′ mH G ⎤ ⎧u&& f ⎫ ⎢ ω ⎨ ⎬+⎢ J + mH G ⎥⎦ ⎩θ&&f ⎭ ⎢ ⎣ ⎤ ⎥ ⎧u& f ⎫ ⎡k H + k R′ ⎥ ⎨θ& f ⎬ ⎢⎣ ⎥⎩ ⎭ ω⎦ ⎤ ⎧u f ⎫ ⎧ 1 ⎫ ⎨ ⎬ = ⎨ ⎬P sin ω t k R ⎥⎦ ⎩ θ ⎭ ⎩H P ⎭ u f:捨てコン底部の変位 [m] θ f :捨てコン底部の回転角 [rad] (3-2-3) k H:スウェイばね インピーダンス関数 (実部) k′H:スウェイばね インピーダンス関数 (虚部) k R:ロッキングばね インピーダンス関数 (実部) k′R:ロッキングばね インピーダンス関数 (虚部) 図 3-2-15 には解析より求まった刺激関数を、図 3-2-16 には刺激関数の実部の値を用いた モード図を示す。 TYPE−A、 B共に2次では不動点が上部に存在することが確認できる。 表3-2-5 には解析結果のうち振動数と粘性減衰定数をまとめたものを示す。解析結果では、実験結果 と比べて粘性減衰定数が少し高く評価されているものの、共振点は実験で得られた結果とほ ぼ一致している結果となり、 固有値解析から見ても TYPE−C の減衰性能の高さが確認できる。 表 3-2-5 固有値解析結果 振動数 Hz 9.1 TYPE−A 8.3 TYPE−B 8.8 TYPE−C TYPE−A 1次 2次 Re=1.639 粘性減衰定数 振動数 粘性減衰定数 Im=−0.049 % Hz % 14.8 19.2 22.3 9.3 17.3 15.4 TYPE−C 22.8 18.4 44.4 Im Re=1.617 Im=−0.020 スウェイ Re 1 Re=0.567 Im= 0.092 Re=−0.608 Im= 0.104 Re=0.703 Im=−0.194 Re=0.590 Im= 0.037 Re=−0.588 Im= 0.043 Re=0.688 Im=−0.077 ロッキング 次 スウェイ 2 ロッキング 次 図 3-2-15 刺激関数 TYPE−A 0.703HP 0.567HP −0.608 1.639 TYPE−C 0.590HP 0.688HP 1.617 −0.588 2次 1次 図 3-2-16 モード図 b) FEM 解析 図 3-2-17 には粘性境界と伝達境界を有する 3 次元軸対称 FEM 解析により求めた基礎ブロッ ク上面位置での加速度の伝達関数を実験結果と比較して示す。TYPE−C に関しては図 3-2-18 に示す解析モデルで FEM 解析を行った。図中の緩み土は鉄板と地盤とが密着していないこと を表現するために、周辺地盤のせん断弾性係数を 1/1000 とする値を用いた。解析に用いた 廃タイヤゴムチップ減衰体の物性値は表1に示すものを用い、圧縮振動実験結果より粘性減 衰定数を h=0.10 とした。また、基礎ブロックと捨てコンは剛体とした。そのほかの解析パラ メータは表 3-2-6 に示すとおりである。 FEM 解析では TYPE−C で共振点が若干異なるものの、 その応答はよく表現されている。 TYPE−A (実験値) 2 acc [m/s /kN] 0.3 TYPE−A (解析) TYPE−C (実験値) TYPE−C (解析) 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 0 5 10 f [Hz] 図 3-2-17 FEM 解析結果 15 20 基礎ブロック 鉄板 廃タイヤゴムチップ減 鉄板 捨てコン 緩み土 改良地 周辺地盤 図 3-2-18 解析モデル図(TYPE−C) 表 3-2-6 解析パラメータ 2 周辺地盤 改良地盤部 鉄板 廃タイヤゴムチップ減衰体 3 G [kN/m ] ν ρ[kN/m ] 1.13E+04 0.311 13.72 9.83E+04 0.048 13.72 7.94E+07 0.3 73.11 1.20E+03 0.4 8.78 h 0.03 0.03 0.02 0.10 3.2.5 まとめ 単体実験を行い廃タイヤゴムチップ材が減衰体として効果があることが確認された。また、 実大規模の実験を行うことで応答の低減が確認された。単体実験により得られた廃タイヤゴム チップ減衰体の物性値を用いた FEM 解析では共振点に若干の差異が見られるが、実験結果と解 析結果は比較的よく表現され、解析モデルの妥当性が確認された。 謝辞 本研究の一部は、平成 15 年度化学研究費補助金(課題番号:15360303、研究題目:柱状地盤 改良体及び二重鋼管杭の地震応答解析法の確立と減衰性能向上に関する研究)によるものであ る。 参考文献 [3-2-1] 社団法人 日本ゴム協会 免震用積層ゴム委員会編: 「免震用積層ゴムハンドブック」 , 理工図書 [3-2-2] 日本建築学会: 「入門・建物と地盤の動的相互作用」,1996 [3-2-3] 石丸辰治、江原栄次、石垣秀典、森川和彦: 「パッシブ型制震構造物の等価線形化に よる応答解析法」 、日本建築学会構造系論文集、第 542 号、2001 年 4 月、pp91-98.
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