放送文化基金『報告書』平成24年度助成 テレビ(TV)放送とソーシャルメディア(SNS)の連携による大災害時 対応の在り方について、課題とその解決のための方策の研究-2- IT コンピタンス研究所 代表 辻雄介1・井崎博行2・伊藤敦之3・高橋哲夫4・内田幸久5 1)3) IT コンピタンス研究所副理事長 2)4)5) IT コンピタンス研究所理事 要約 大災害時の情報伝達には、ハイブリッドキャストなど新しい手段の普及までは、殆どのTVで使え るデータ放送が現実的であり、これについて調査し災害時対策について考察した。日本テレビとフ ェイスブックの連携で『TV画面上で一人ひとりに最も適した避難指示を表示』する「JoinTV」は、 TV/データ放送/SNSの連携の可能性を示しておりこれについて考察した。災害時のデマや災害 弱者について実態調査、考察をした。 目 的 前年度研究では、東日本大震災時に自然発生的であった「TV」と「SNS」の両者の連携が有効であることを確認 した。今年度は、両者の組織的連携のための課題と対応すべき施策並びにデマ、災害弱者(特に、障害者、外国 人など)の問題について調査・考察する。 方 法 ・TV 機器の動向、TV 放送、データ放送の動向・実態について公式カタログ、Web 情報、実機操作などで調査した ・スマートフォン(スマホ)は、動向と災害対策アプリについて、Web 情報・雑誌などで調査した ・TV と SNS の連携番組の状況、災害時の連携について実態調査、Web 情報などで調査・考察をした ・災害時の情報弱者に対する問題点・対策などを Web 情報、書籍などにより調査・考察した 結 果 1) TV 機器・TV 放送、データ放送の動向 ●TV 機器の動向(以下の普及は地デジ移行後の更新と重なる 2020 年の東京オリンピック時期と想定される) ・TV 機器は4K、8K 化の動きがありオリンピックなど2年ごとに開催される世界的なスポーツイベントに併せ て技術面の進化が期待されるが視聴環境の不備もあり普及率はまだ低い(認知 86.5%、所有 0.7%) ・スマート TV の機能は、各メーカともに用意したが前年度比大きな進化はない。メーカ毎に操作は異なり機能 は独自/多様であり多くの外部機器と接続できるが利用は限定的。放送以外(VOD、Youtube、ショッピング など)の利用の広がりも未知数 ・災害対策に有効と思われるハイブリッドキャストは、普及にはまだ時間がかかる。ネット接続できる機器も 60%程度、実際に接続は 15%程度と低い(2014 年初頭)のが現状 ●TV 放送の動向 ・様々な通信サービスの台頭で TV 放送の価値が相対的に下がってきている。特に若者の意識はスマホやタブレ ットによる「ながら視聴」など「TV 離れ」が顕著(参考文献1) ・TV 放送と SNS が連携した番組が増えているが、まだ手探り状態。TV 視聴時の SNS 利用では、 「TV を見ながら Twitter を見る」人が 69.5%。Facebook、mixi、LINE もそれぞれ 5 割を超えている ・録画番組の視聴、有料放送の増加(放送済みのものを後日有料視聴。BS/CS の有料チャンネルなど) ・グローバル対応: -NHK ワールド TV(アプリをダウンロードでネット視聴可) 、NHK ワールドオンラインがあるが認知度が低い 放送文化基金『報告書』平成24年度助成 -多言語対応は英語のみ(他は一部字幕の試行程度) -Ustream など外部のツールを使ったリアルタイム配信はやっていない(NHK 国内の TV 放送のネット同時配 信も東日本大震災時などを除いては行っていない) ・新しいスマホ向け TV 放送 NOTTV(2012 年 4 月開局のスマホ向けの新しい放送局) :リアルタイム視聴の他に タイムシフト視聴や SNS 連動機能があるが、2014 年 3 月末の契約者数が約 160 万人程度 ●データ放送の現状(2014 年 4 月時点再調査)と災害時に活かすための考察 災害時対策には殆ど全ての TV 機器で使えるデータ放送が現実的であるが、利用は未だ限定的。コンテンツに魅 力を作り平時から使い慣れていることがポイントとなるが、以下のような課題があり指針作りが必要である。 ・データ(d)ボタンの位置がメーカ毎に異なり、操作も放送局毎に異なり戸惑いがあり、統一化が必要 ・ニュースも含め、情報が古く更新頻度も少なすぎる。情報の鮮度が日常もデータ放送を視聴する動機となる ・どのチャンネルでも基本的な情報が存在していること、主要ニュースなどがアーカイブとして残されること ・定期的な訓練の場が設けられていること(毎年 3 月 11 日、防災の日、毎月 11 日は訓練手順を用意など) ・視覚障害者への音声読み上げ、外国人への多言語対応など災害弱者に対する配慮 2)スマホ/災害対策アプリの動向と災害時対策としての考察 ●スマホの動向(機器:依然として電池寿命の短さが被災地でのツールとしては大きな懸念) ・スマホは機器の成熟度が高まり、メーカ間の機能/価格/接続エリア差は目立たないが、伸びは鈍化傾向 ・利用料金の高さが障壁となっているが、既存キャリアの新料金プラン・新サービス、低価格の MVNO(仮想移 動体通信事業者)の登場により低価格化期待がある。低価格化は普及を進め災害時には連絡・避難指示手段 などとして有効になる。 ・青少年のスマホ普及率が 82.8%へと急増している(特に高校生ではここ 2 年で 98%と飽和状態) 、一方高齢者 への普及は、利用料金の高止まりと操作の複雑さなどが課題で進んでいない ・東日本大震災の被災地では、携帯基地局の多くが利用できなくなったが、事業者各社の対策も進んでおり、 停電しても、しばらくの間はパケット通信が利用できる可能性は高い -NTT ドコモ:約 1900 カ所の基地局(全国の 65%)で、24 時間以上稼働のバッテリーを内蔵する工事 -ソフトバンクモバイル:約 2200 カ所の基地局で同様の工事 ・東日本大震災の時には、公衆無線 LAN 事業者が、自社のネットワークを無料開放する緊急措置を取ったが、 アクセスポイントは増えており、近くの駅などで無線 LAN を利用できる可能性が広がっている ●スマホ災害対策アプリ(無料のものが中心で、数も内容も充実してきている)の実態 ・緊急時にのみ有効なアプリも多いが、平時からの利用アプリに緊急時の対応がプラスされているものも多い ・企業向けの有料アプリも、平時から利用する機能/操作の延長で使えるものが多い ●スマホ災害対策アプリに対する考察(数が多すぎて選択に迷う) ・利用者の多い Twitter や facebook などは平時機能の中に災害時対応の機能を同居させており、緊急時には慣 れた操作で使え今後の災害時には大きな役割を果たすと思われる ・グーグル社のパーソンファインダーは、警察庁、被災地の県、放送局、新聞社、キャリア各社と連携したが 安否確認アプリは全て連携することが望まれる ・自治体が主導し平時から推奨アプリを確認/統一しておくこと、地域 FM/災害 FM との連携も望まれる ・モバイル用電池長寿命化への研究補助、無駄な電波探索の削減 3)TV 放送と SNS の連携による災害時対策 ●TV 放送と SNS の連携の実態 ・連携番組が増えているが、現状はまだ手探り状態といえる。NHK の Web23 のように、番組に Twitter などで投 稿し一部を字幕や司会者が取り上げるもの、視聴者が番組の企画やゲームに参加するものなど多くの試みがあ る。 「ソーシャルテレビ・アワード 20XX」は TV と SNS の連携や複合的活用に先進的な取組みをした TV 番組を 表彰する趣旨で 2012 年度から始まり、年 30 作品ほどの応募がある。 ●災害対策に新しい提案をしている「 JoinTV」 (個々人対応と平時から慣れた操作で災害時に対応できる) 2012 年に日本テレビがfacebook 社の技術協力を得て開発し、 2013 年に徳島県美波町などをモデル地区として、 災害対策の実証実験を行った「 JoinTV」は、仕組みが画期的であり、ネット接続した TV で利用できる。 ・災害発生時(及び避難訓練)に「A さん、B 避難所に避難してください・・・」と TV 画面から個人名で呼びか ける、TV の視聴データから(在宅/不在)の推定情報の表示、避難所や医療機関等への救援物資の効率的な配 分、登録した ID から住民のデータを収集し、自治体、家族等に安否情報を提供、外部の安否システムとの連携 放送文化基金『報告書』平成24年度助成 などの機能は、さらなる発展の可能性を持つ ・平時には、高齢者の TV と家族とのコミュニケーションなどに利用できる ●「 JoinTV」のオープンプラットフォーム化(2013 年 11 月発表)による操作を含めた標準化への期待 ・放送事業者などへの利用拡大を目指してオープンプラットフォーム化がマイクロソフトの協力で実現する。災 害時対応については無償化し、有益なアプリ開発の取組みなどが促進されることを期待したい ●災害時の TV 放送と映像関連 SNS の連携提案 ・災害時に SNS 映像をどう扱うかの基準・ルール作りと放送局自らが積極的に SNS を活用することを提案する -放送局が放送枠の制限などで放送できないでボツになる映像 -特定の地域のみに放送すればよいローカル映像 -一般人からの投稿映像で放送されなかったもので意味のあるものなど 4)災害とデマと情報弱者(障害者、外国人など)対応 ●デマ対応の研究に期待 コスモ石油千葉製油所火災に関連したデマなど東日本大震災でも多く発生したが、 その分析/研究は以下の研究 を始め多くある。 ・主だった賛成・反対の両論の意見を一目で確認できる「言論マップ」の提案(参考文献2) ・Project Pheme:英国シェフィールド大学中心の研究でデマを自動的に検出(参考文献3) ・当事者/専門家がいて強力な発信手段を持っていたことがデマ収束に(コスモ石油) (参考文献4) デマをなくすることはできない。 「言論マップ」の取組み、シェフィールド大学の研究などに期待したい。 ●災害弱者(障害者、外国人など)の実態と考察 内閣府、NHK などの調査では、聴覚・視覚障害者の死亡率は健常者の 2 倍であり、避難所でも大きな不利益を 負っていた。安否確認や支援活動では個人情報保護法が支障になったケースもあった。 ◆聴覚障害者:最大の情報源である TV で、総放送時間の 4 割強に字幕が出るが、詳しく内容を追える手話通訳 付きはNHK教育放送が 2%ほどで、他はほとんどない。 ◆視覚障害者:ラジオ所持が少なく、テレビのテロップが音声化されない場合が多かった。慣れない場所では 動けず、避難所の情報が張り紙であったことで疎外された。 ◆被災3県の在日外国人は、全体の 1.4%で少なかった。平時、災害時共に主たる情報取得メディアは日本の TV であり、インターネットや新聞の利用度は国籍毎に傾向が異なる。居住地域及び自分たちのおかれた状況に 関する詳しいニュース、情報提供の要望が高い。被災地では、ひらがな・フリガナ、語彙数を限定した易し い日本語表現へのニーズが母国語や英語による情報提供よりも高い(韓国は母国語希望多) 。 (参考文献5) ・信頼できる易しい情報ソース、多言語による情報提供ルートの整備や日頃からの交流(防災知識の普及・訓練 実施、定期的な連絡会開催など)があれば帰国、遠くへ避難するなどの問題も少なくできる(外国人居住比率 が 15.1%の群馬県大泉町の取組みが参考になる) ・年間 2000 万人を期待している外国人旅行者への対応も考えておく必要がある 参考文献(以下の他は添付資料に記載) 1)日経エレクトロニクス特集 膨張する放送(2013.10.28) 2)Project311: 「ツイッターデータの意味的解析による災害情報拡散の分析」 (東北大学乾・岡崎研究室) 3)Project Pheme:lie detector for social media(英国:Shefield University) 4)震災時に Twitter 上で拡散したデマ情報の時系列分析(NEC 情報・ナレッジ研究所石澤善雄氏他) 5)災害時における在日外国人のメディア利用と情報行動(放送研究と調査 2012.8 メディア研究部 米倉律氏) 研究発表 1)(社)新技術協会主催セミナー(当ITコンピタンス研究所が委託を受けて実施)、講演会にて利用 2)ITコンピタンス研究所 ホームページへの掲載など 連 絡 先 特定非営利活動法人 IT コンピタンス研究所事務局長 磯 秋義([email protected]) 〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町31-10渋谷 CI ビル4F (TEL:03-6427-0334 FAX:03-6427-0334)
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