心臓 カテーテル(心カテ)の同意説明文 (2015 年 04 月 01 日版) 湘南

湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
しんぞう
どういせつめいぶん
心臓 カテーテル(心カテ)の同意説明文
(2015 年 04 月 01 日版)
しょうなんかまくらそうごうびょういんしんぞう
湘南鎌倉総合病院心臓 センター じ ゅ ん か ん き か
循環器内科
さいしんばん
最新版 は http://www.kamakuraheart.org/に
さんしょう
おいて 参 照 およびダウンロードすることができ
ます。
本説明文・同意書の版権・著作権は湘南鎌倉総合病院心臓センター 循環器内
科が保有しています。
(1)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
しんぞう
かんじょうどうみゃく
おはなし
n 心臓と 冠 状 動 脈 のお話
しんぞう
たいせつ
ぞうき
心 臓 は血液を全身に送り出すポンプの働きをする大切な臓器です。1 分間にほ
にぎり
ぼ 4 から 5 リットルの血液を送り出しています。その大きさは皆さんの握りこ
だいじょうみゃく
ぶしより少し大きいぐらいで、全体が筋肉でできています。心臓は 大 静 脈 を
とおして
ぜんしん
じょうみゃく けつ
う しんぼう
う け と り
う しんしつ
かあつ
通して 、 全 身 から 静 脈 血 を右 心 房 に受け取り 、右 心 室 によって加圧 して
じょうみゃくけつ
はいどうみゃく け い ゆ
はい
おくります
ぜんしん
さんそ
あたえ
静 脈 血 を肺 動 脈 経由で肺 に送ります。全身に酸素を与え、酸素の少ない血
じょうみゃく けつ
はい
さんそ
う け と り
液となっていた 静 脈 血 は 肺 からたくさんの酸素を受け取り、これによって
きれい
どうみゃくけつ
か わ り ま す
どうみゃくけつ
はいじょうみゃく
かいし
さ しんぼう
綺麗な 動 脈 血 に変わります。この 動 脈 血 は肺 静 脈 を介して、左 心 房 に
かえり
さ しんしつ
かあつ
だいどうみゃく
と お し て ぜんしん
お く ら れ ま す
帰り、左 心 室 によって加圧され、大 動 脈 を通して 全 身 に送られます。このよ
しんぞう
う しんぼう
う しんしつ
さ しんぼう
さ しんしつ
うに、心 臓 は右 心 房 、右 心 室 、左 心 房 そして左 心 室 という 4 つの部屋から成
さんせんべん
り立っています。右心室、左心室の入り口と出口にある弁をそれぞれ、三 尖 弁 、
はいどうみゃくべん
そうぼうべん
だいどうみゃくべん
肺 動 脈 弁 、僧 帽 弁 そして 大 動 脈 弁 と呼び、合計 4 つあります。左心室は
きんにく しんきん
全身に血液を送り出すとても重要な部屋です。この左心室を形作る筋 肉 (心 筋 )
げんいん ふ め い
いじょう
き た す びょうき
しんきんしょう
が原 因 不明で異 常 を来す 病 気 が 心 筋 症 と呼ばれるものです。また、心臓の
べんまくしょう
弁の異常を来す病気が 弁 膜 症 と呼ばれるものです。
かんむり
おお
しんぞう じ た い
さんそ
えいよう
あたえて
心臓の表面を 冠 のように覆 って心 臓 自体に酸素と栄 養 を与えているとても
かん じょう どうみゃく
かんどうみゃく
大切な血管が冠 ( 状 ) 動 脈 です。冠 動 脈 は心臓の表面を「かんむり」のよう
ひだりかんどうみゃく
お お っ て
まえがわ
えいよう
な形で覆っており、左右 2 本あります。左 冠 動 脈 は更に、心臓の前 側 を栄 養
ぜんかこうし
かいせんし
みぎかんどうみゃく
する前下行枝、後ろ側を栄養する回旋枝に分かれます。 右 冠 動 脈 は心臓の下
けっきょく
かんどうみゃく
ひだりぜんかこうし
ひだりかいせんし
側を栄養しています。結 局 、冠 動 脈 は大きく左前下行枝、左 回 旋 枝 そして
みぎかんどうみゃく
右 冠 動 脈 の 3 本あることになります。
どうみゃく こ う か
もしこれらの冠動脈が、動 脈 硬化のために狭くなったり、万が一完全につまっ
たりすると、心臓の筋肉がポンプとして血液を全身に送り出すために必要な
ねんりょう
さんそ
えいよう
けつえき
燃 料 (主に酸素と栄 養 )が足りなくなります。この状態は心臓に流れる血 液 が
と ぼ し い じょうたい
きょけつ
乏しい 状 態 なので心臓の虚 血 状態と考えられます。その結果起こってくる病
きょけつせいしんしっかん
気のことを、虚 血 性 心 疾 患 と呼びます。
(2)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
冠動脈狭窄を拡大した図
きょけつせいしんしっかん
し ん き ん こ う そ く し ん きょうしんしょう
はなし
n 虚血性心疾患(心筋梗塞や 狭心症 など)の 話
きょけつせいしんしっかん
びょうめい
きょうしんしょう
しんきんこうそく
虚 血 性 心 疾 患 の中で代表的な 病 名 としては、 狭 心 症 と心 筋 梗 塞 があり
かんじょうどうみゃく
どうみゃく こ う か
ます。これらは心臓に酸素と栄養を与える 冠 状 動 脈 の 動 脈 硬化による病気で
かんじょうどうみゃく
どうみゃく こ う か
せまく
す。狭心症は、 冠 状 動 脈 が 動 脈 硬化のために狭くなり、その結果として十
しょうじょう
分な量の酸素と栄養が心臓に運ばれないために起こります。狭心症の 症 状 と
まんなか
しては、①胸の痛み(胸の真 中 あたりの締め付けるような痛み、多くは朝方駅に
急いで歩いたり坂道や階段を上ったりすると起こり、立ち止まるとすぐに楽に
かいぎ
こうふん
なります。また会議で興 奮 したり、急に冷たい空気に触れたりしても起こりま
あご
おくば
す。時には、顎 や奥歯が浮くような症状や、肩から腕の痛みを伴うこともあり
いきぐる
しんきこうしん ど う き
ます)、②息 苦 しさ、③心悸亢進(動悸とも呼ばれます。心臓がドキドキするこ
うんどうのうりょく
とです)、④今までよりも運 動 能 力 が落ちる(今まで何ともなかった大船駅の階
(3)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
つら
段が辛 くなった、など)、などがあります。冠動脈の詰まりがひどくなり、狭心
じゅうしょう
症も 重 症 になってくると心臓のポンプとして全身に血液を送り出す能力も
しんふぜん
きょうつう
低下し、心不全となったりもします。また、横になって休んでいても 胸 痛 が起
ふあんていきょうしんしょう
おちい
こるような 不 安 定 狭 心 症 という危険な状態に 陥 ることもあります。
しんこう
けっせん
かか
また、冠動脈の動脈硬化が進 行 して血 栓 (=血のかたまり)なども関 わって冠動
つ
きゅうせいしんきんこうそく
脈が突然詰まると 急 性 心 筋 梗 塞 になります。つまり急性心筋梗塞とは、冠動
へいそく
脈が突然詰まり(=閉 塞 )、この結果心臓への酸素と栄養の供給が突然無くなって
くさ
え し
しまったために心臓の筋肉が腐 ってしまう(=壊死)状態です。急性心筋梗塞の時
は げ し い むね
いたみ
には多くの場合、激しい 胸 の痛みを感じます。この時の痛みは人間が味わう痛
みの中でも一番強い痛みだとも言われています。また、痛みだけでなく、心臓
ふせいみゃく
が止まってしまうような不 整 脈 が起こったり、またポンプとしての働きも低下
せいめい
きけん
はれつ
しん は れ つ
してしまったりしますので生 命 の危険があります。時には心臓が破裂(=心 破裂)
すみ
してしまうこともあります。この結果、急性心筋梗塞を起こした場合には、速 や
しぼうりつ
かに適切な治療をすぐに受けないと、死亡率は 30%以上あると言われます。す
い か
ていか
ぐに適切な治療を受けることにより、死亡率を 10%以下に低下させることが出
さいはつ
来ます。急性心筋梗塞を再 発 した場合には、死亡率は約 50%といわれています。
だいひょうてき な きょけつせいしんしっかん
n 代 表 的 な虚血性心疾患
ほうりつようご
医学用語は法律用語のように理解困難ですね。申し訳ありません。でも、ご安
こっかいとうべん
めいりょう
心下さい、どこかの国の国会答弁よりも 明 瞭 です!
ろ う さ せ い きょうしんしょう
² 労作性 狭 心 症
ろ う さ うんどう
労作(運動)に伴って狭心症発作が起こるタイプです。
あんせい じ きょうしんしょう
² 安静 時 狭 心 症
けいれん
運動をしていないのに発作が起こるタイプです。冠動脈の痙攣による狭心症や
不安定狭心症がこれに当てはまります。
かんれん しゅくせい きょうしんしょう
² 冠攣 縮 性 狭 心 症
けいれん ほ っ さ
冠動脈の痙攣発作により狭心症発作が起こるものです。日本人には比較的多い
(4)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
あ け が た
あんせい
とされています。明け方 安静時に発作が起こることが多いとされています。
い け い きょうしんしょう
² 異型 狭 心 症
通常の狭心症は発作の最中の心電図では ST 低下という所見を呈しますが、異型
じょうしょう
狭心症では心電図上特徴的な波形である ST 上 昇 を示します。このため、この
かんれんしゅくせいきょうしんしょう
ふあんていきょうしんしょう
ように命名されました。冠 攣 縮 性 狭 心 症 や、不安定 狭 心 症 の一部がこ
れに相当します。また発見者の Prinzmetal 博士の名前をとり、「Prinzmetal
型狭心症」とも呼ばれています (JAMA 1959; 174: 1794-1800.)
あんてい きょうしんしょう
² 安定 狭 心 症
労作性狭心症は、何時も一定の運動をすると発作が起こります。例えば、大船
あんばい
駅の階段を登ると必ず発作が起こる、といった按配です。このように発作の程
ゆうはつ
度や誘発する運動量が一定している狭心症を安定狭心症と呼びます。このよう
きゅうせいしんきんこうそく
な狭心症は不安定狭心症にならない限り、 急 性 心 筋 梗 塞 には陥りにくい、と
されています。
ふ あ ん て い きょうしんしょう
² 不安定 狭 心 症
狭心症発作の程度が強くなったり、発作を誘発する運動量が少なくなったりし
た場合、これを不安定狭心症と呼びます。例えば、今までは胸が苦しい状態が 1
かいぜん
分で改善していたのに、10 分しないと治まらなくなった。 これまではニトロ
じょう ぜ っ か
じょう ぜ っ か
グリセリンを 1 錠 舌下すれば楽になっていたのに、2 錠 舌下しないと良くなら
えき
かいだん
の ぼ れ ば ほっさ
お
なくなった。 あるいは、これまでは駅の階段を登れば発作が起こっていたの
たいら
ばしょ
に、最近は平らな場所を歩くだけで発作が起こる、といったものです。
きけんせい
不安定狭心症となれば、狭心症から急性心筋梗塞に移行する危険性が大きいと
したが
じゅんきんきゅうにゅういん
されています。 従 いまして、私たちはこのような場合、 準 緊 急 入 院 される
お す す め
すみ
てきせつ
ことをお勧めします。そして、速やかに選択的冠動脈造影を受けられ、適切な
ちりょう
お すす
治療を受けられることをお勧めします。
せっぱく しんきん こうそく
² 切迫 心筋 梗塞
きょうつう ほ っ さ
不安定狭心症の中でも、じっとしていても 胸 痛 発作が起こる。胸の痛みだけで
ひ や あ せ
なく、冷や汗が出たり、血圧が下がったりする。このような状況は、心筋梗塞
おちいる
きんきゅうちりょう
に陥る危険性が高く、 緊 急 治療を必要とします。
(5)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
きゅうせい しんきん こうそく
² 急 性 心筋 梗塞
すで
ごせつめい
既にご説明しましたね。一般的に強い胸痛発作が起こってから 24 時間以内の心
きゅうせい
筋梗塞を「 急 性 」と呼びます。この時期は、死亡率が高く、しかもこの時期に、
かんどうみゃくさいかんりゅうりょうほう
と お す ちりょう
冠 動 脈 再 灌 流 療 法 (詰まった冠動脈を通す治療)を行うことにより、その後
の経過が改善すると言われています。
しんせん しんきん こうそく
² 新鮮 心筋 梗塞
発作後 1 ヶ月までの時期の心筋梗塞をこのように呼ぶこともあります。この時
じゅうしょうど
はあく
の こ さ れ た かんどうみゃくびょうへん
せいかつしゅうかん
かいぜん
期には、重 症 度 の把握、残された冠 動 脈 病 変 の治療、生活 習 慣 の改善など、
こんご
せいめい よ
ご かいぜん
今後の生命予後改善のために多くの治療が必要です。
ちん きゅうせい しんきん こうそく
² 陳 旧 性 心筋 梗塞
とつぜんし
発作後 1 ヶ月以上経過した心筋梗塞を陳旧性と呼びます。不整脈による突然死の
よぼう
しん ふ ぜ ん
よぼう
かんどうみゃくびょうへんしんこう
ちょうきてき か ん り
予防や、心不全の予防、冠 動 脈 病 変 進行の予防などの長期的管理が必要です。
むしょうこうせい しんきん きょ けつ
² 無症候性 心筋 虚 血
本当は狭心症発作が起こっているのに、胸痛発作として自覚しない場合もあり
い の き へんか
ます。ホルター心電図などで、心電図変化を検出することにより診断すること
せいめい よ
ご
ができます。このようなタイプの発作は、胸痛を伴う発作よりも生命予後が悪
ふせいみゃく
い、とも言われています。それは発作を自覚しないので無理をするから、不整脈
とつぜんし
が発生して突然死することがあるためです。
しんない ま く か こうそく
² 心内 膜下 梗塞
しんきん
え
し
おちいり
心筋梗塞の結果、左心室を取り囲む心筋が壊死に陥りますが、心筋への血液供
しんがいまくそく
しんないまくそく
給は左心室の外側(=心外膜側)から左心室の内側(=心内膜側)に行われます。この
さいかいつう
ため、心内膜側の方が壊死に陥り易いのです。冠動脈が閉塞し、すぐに再開通し
しんないまくそく
た場合、あるいは少しながら血液が流れている場合には、心 内 膜 側 のみの心筋
しんない ま く か こうそく
壊死(=梗塞)になります。このような状態を心 内 膜下 梗 塞 と呼びます。この場
しんきん え し
はんい
合、心 筋 壊死の範囲が狭く、被害は小さいのですが、逆に言えば、これから大
かのうせい
かべかんつうせいこうそく
きな梗塞になる可能性を秘めています。心電図上、下記の壁貫通性梗塞のよう
な 急 性 期 の ST 上 昇 と い う 心 電 図 変 化 が 認 め ら れ ま せ ん の で 、
ひえすてぃーじょうしょうがたこうそく
非 S T 上 昇 型 梗 塞 (Non ST-Elevation Myocardial Infarction: NSTEMI)とも
呼ばれています。
(6)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
へき かんつうせい こうそく
² 壁 貫通性 梗塞
しんがいまくそく
しんないまくがわぜんたい
しんきん え し
おちいり
多くの心筋梗塞は心 外 膜 側 から心 内 膜 側 全 体 で心 筋 壊死に陥 り ます。この
へき かんつうせい こうそく
ような心筋梗塞を壁 貫 通 性 梗 塞 と呼びます。当然心臓の筋肉のダメージが大
しんぞう は れ つ
きいので、当然心臓の働きへのダメージも大きくなり、また 心 臓 破裂 などの
がっぺいしょう
合 併 症 を引き起こすこともあります。心電図上 ST 部分の上昇を伴いますの
えすてぃーじょうしょうがたしんきんこうそく
で、 S T 上 昇 型 心 筋 梗 塞 (ST-Elevation Myocardial Infarction: STEMI)と
も呼ばれます。
つうじょう しんきんこうそく
通常 心筋梗塞と言えば、このタイプのものを指します。
しんぞう
けんさ
n 心臓カテーテル検査とは
て い ぎ
² 心臓カテ ーテル検査の定義
くだ
カテーテルとはラテン語で「管 」を意味する言葉です。直接、心臓の
きのうせい ざいしつ
ないくう
中に各種の管(実際には内腔が機能性 材 質 で詰まっていて管にはなっ
ていないものも多い)を挿入して心臓の働きを調べる検査を心臓カテー
テル検査 (Cardiac Catheterization)と呼びます。この管の太さは、行
う検査や治療によって異なりますが、おおむね 1 から 3mm 程度です。
とうしか
これらの検査はほとんどの場合、レントゲン透視下で(=レントゲンで
見ながら)カテーテル走行を確認しつつ行われます。
れ き し
² 心臓カテ ーテル検査の歴史
1929 年当時 25 歳であったフォルスマン博士(Dr. Werner Forssmann)
ひだりうで
じょうわん
が心臓カテーテル検査の可能性を証明するために、自ら 左 腕 の 上 腕
じょうみゃく
静 脈 からカテーテルを右心系にまで挿入し、歩いてレントゲン
さつえいしつ
おもむき
しょうこ
撮影室まで赴き、証拠の写真を撮影しました。これが人に対する心臓
こうせき
カテーテル検査の最初です。彼はこの功 績 により、 その後心臓カテー
テル検査を更に発展させる功績を挙げられたクールナン博士(Dr.
い がくせい り が く しょう
Cournand)達とともに 1956 年にノーベル医 学 生 理学 賞 を受賞しま
きょうぶ
した。 この時に、実際に撮影された胸 部 レントゲン写真が下の写真で
す。
(7)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
い
ぎ
² 心臓カテ ーテル検査の意義
ひしんしゅうてき が ぞ う しんだんほう
他の非 侵 襲 的 画像 診 断 法 が発達した現在でも、心臓カテーテル検査
しんけっかん ぞうえい
かいぼうがくてき
せい りがくてき じょうたい
はあく
および 心 血 管 造 影 は心臓の 解 剖 学 的 および 生 理学的 状 態 を把握
きじゅん
ひょうじゅんてき
するための Golden Standard(他の検査の基準となる 標 準 的 な検査
法)です。
た い し ょう
し っ か ん
² 心臓カテ ーテル検査が対象 とする疾患
せんてんせいしんしっかん
¨
先天性心疾患
生まれつき、心臓におこる病気です。たくさんの疾患がありますが、
にゅうじ けんしん せ い ど
代表的なものとしては次のようなものがありますが、乳児検診制度が
確立されている現代日本においては、赤ちゃんの段階で診断され、早
てきせつ
ちりょう
くから適切な治療を受けることが可能です。
しんぼうちゅうかくけっそんしょう
心 房 中 隔 欠 損 症 (ASD)
しんしつちゅうかくけっそんしょう
心 室 中 隔 欠 損 症 (VSD)
どうみゃくかんかいぞんしょう
動 脈 管 開 存 症 (PDA)
し ちょうしょう
ファロー四 徴
症 (TOF)
こうてんせいしんしっかん
¨
後天性心疾患
きょけつせいしんしっかん
虚血性心疾患
心疾患の大部分を占める病気。心臓自身に栄養を与える冠状動脈(冠動
(8)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
脈: Coronary artery)に障害が起こった結果、心筋への動脈血供給が不
どうみゃく こ う か
十分となって引き起こされる疾患の総称です。原因としては 動 脈 硬化
かわさきびょう
たかやすびょう
けっかんえん
がもっとも多いのですが、川 崎 病 や 高 安 病 などの血 管 炎 が原因で
きょうしんしょう
も引き起こされます。結果として起こる病気の代表は 狭 心 症 と
しんきんこうそく
心 筋 梗 塞 です。現在では心臓カテーテル検査のほとんどは、虚血性心
せんたくてきかんじょうどうみゃくぞうえい
疾患の診断のために行われる選 択 的 冠 状 動 脈 造 影 です。
しんぞうべんまくしょう
心臓 弁 膜 症
そうぼうべん
だいどうみゃくべん
はいどうみゃくべん
心臓にある四つの弁(僧 帽 弁 、 大 動 脈 弁 、肺 動 脈 弁 、三尖弁)、そ
へ い さ ふぜんしょう
の弁の働きが障害された状態。障害のされかたにより、閉鎖 不 全 症 と
きょうさくしょう
がっぺいれい
狭 窄 症 、あるいはその合併例に大別されます。
ようしょうじ
ようれん きん かんせん
めんえき はんのう
けっか
原因としては、 幼 少 児 の 溶 連 菌 感 染 による 免 疫 反 応 の結果ひきお
こされるリュウマチ熱(Rheumatic fever)が多くを占めます。また、
どうみゃくこうかせい
動 脈 硬化性のものも最近増加してきています。
じゅうしょうだいどうみゃくべんきょうさくしょう
特に 重 症 大 動 脈 弁 狭 窄 症 (AS: Aortic Stenosis)は、平均余命の延
きゅうそくにぞうか
長 に 伴 っ て 日 本 に お い て 急速に増加 し て き て い ま す 。 こ の 病 気 は
どうみゃくこうかがだいどうみゃくべん
動脈硬化が大動脈弁にも起こることにより、大動脈弁が開くべき時に
かいほう
しっしん
も十分に開放しないため、胸痛、心不全、失神などの激しい症状や、
はっしょう
労作に伴う息切れにより発症します。80 歳前後より 発 症 してくること
ずいはん
が多く、これまでは随伴する色々な病気(肺の病気、大動脈の著しい石
のうこうそく
灰 化 、 脳梗塞 な ど な ど ) の た め に 、 人 工 心 肺 を 用 い た
げかてきだいどうみゃくべんちかんじゅつ
外科的大動脈弁置換術が不可能な方がたくさんおられました。しかも、
せいめいよご
がん
この病気は症状が出てきてからの生命予後は、どんな癌よりも悪い、
とも言われている病気です。これまでこのような場合には、
ゆうこうなちりょうしゅだん
有効な治療手段がありませんでしたが、2013 年 10 月より日本国内の
だいどうみゃくべんうえこみじゅつ
限定された病院では、経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI とか
ほけんしんりょうか
TAVR とも呼ばれます)による治療を保険診療下で行うことが出来るよ
に ほ ん の せ ん く
うになりました。湘南鎌倉総合病院循環器内科も日本の先駆けとして
ちりょう
この治療を盛んに行っております。
だいどうみゃく かいり
大 動 脈 解離
ないまく
ちゅうまく
かいりせい
大動脈の壁を形作る 内 膜 と 中 膜 が裂けて、解離する病気。解離性
だいどうみゃくりゅう
きゅうせいだいどうみゃく か い り
大 動 脈 瘤 とも呼ばれていましたが、現在では 急 性 大 動 脈 解離と
(9)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
じょうこう
いう呼び名の方が正しいとされています。解離する場所が 上 行
だいどうみゃく
ちしてき
大 動 脈 であれば、致死的 な合併症を併発する可能性が高いため、
きんきゅうしゅじゅつ
緊 急 手 術 が必要な場合もあります。
はいそくせんしょう
肺 塞 栓 症
しょうこうぐん
最近、エコノミー・クラス 症 候 群 としても有名な病気ですね。主と
か し し ん ぶ じょうみゃく
こつばんくうないしゅ りゅう
して下肢深部 静 脈 、あるいは 骨 盤 腔 内 腫 瘤 などに伴って骨盤腔
けっせん
はいどうみゃく
内の静脈に血栓が形成され、それが流れて肺 動 脈 に詰まってしまった
こきゅうこんなん
そくせん
ために、呼吸困難などが起こります。塞栓(=流れて詰まった物:ここで
ちめいてき
まんせいてき
は血栓ですね)が大きい場合、一瞬で致命的になりますが、慢性的にゆ
こきゅうこんなん
っくり起こり徐々に呼吸困難が強くなってくる場合もあり、時に診断
が困難です。
しんきんしょう
心 筋 症
しんぞういしょく
たいしょう
う る かくちょうがたしんきんしょう
きょうつう
進行すると心 臓 移 植 の 対 象 ともなり得る 拡 張 型 心 筋 症 、胸 痛
しっしん ほ っ さ
ひ き お こ す ひ だいがた しんきんしょう
や 失 神 発作 を引き起こす 肥 大 型 心 筋 症 などの原因不明の疾患があ
ります。
しんまくえん しんのうえん
心 膜 炎(心 嚢 炎)
こうげんびょう
けっかく
がん
しんぞう
つつんで
ウィルス感染、膠 原 病 、結 核 あるいは癌 などにより心 臓 を包んでい
しん まく しんぞう
がいそく
つつんで
まく
えんしょう
お こ し
けっか
る 心 膜 ( 心 臓 の 外 側 を包んで いる 膜 )に 炎 症 を起こし 、この結果
しんのうくう
えんしょうえき
ちょりゅう
心 嚢 腔 (心臓の心膜の間)に血液や 炎 症 液 が 貯 留 することがありま
す。
しんぞうしゅよう
心臓腫瘍
はっせい
さぼうねんえきしゅ
左心房内に発 生 する左房粘液腫という腫瘍が知られています。
せんたくてき かんじょう どうみゃく ぞうえい
かん どうみゃく ぞうえい
² 選択的 冠 状 動 脈 造影 (冠 動 脈 造影 : CAG = Coronary
Angiography)
先にも述べましたように、現在行われている心臓カテーテル検査の多くは、こ
かんどうみゃくぞうえい
きょけつせいしんしっかん
の冠 動 脈 造影です。その理由は勿論、心疾患の最大の原因が虚血性心疾患だか
らです。
冠動脈造影はソーンズ博士(Dr. Mason Sones)により 1955 年に初めて行われま
はくどう
しんぞうひょうめん
した。冠状動脈は常に拍動している心臓 表 面 を走行しているため、ソーンズ博
士が選択的造影法を開発する以前には、綺麗な写真が撮れませんでした。
どうがぞう
ソーンズ博士は 35mm のシネ・フィルム上に秒 30 コマの動画像として冠動脈
(10)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
造影を記録しました。これによって動画像として多方向からの記録が可能とな
け い ひ て き かんどうみゃく
り、その後の虚血性心疾患治療法としての冠動脈バイパス手術や経皮的冠 動 脈
ふうせん
かなあみじょう
インターベンション(メスを用いないで血管の中から 風 船 や 金 網 状 のステン
げかしゅじゅつ
トなどを用いて虚血性心疾患を治療する方法のことです。医学では外科手術の
ひ ふ
せっかい
けっかん
とお
たいない
ちりょう
しゅぎ
けいひてき
ように皮膚を切 開 せずに、血 管 を通 して体 内 を治 療 する手技のことを”経皮的”
はつめい
はってん
こうけん
と、呼びます)の発明および発展に貢献することとなりました。
でんしてき
現在はデジタル処理された鮮明な画像を、フィルムを使用しないで電子的に記
録するようになっていますし、その電子的に CD/DVD などに記録された画像を
世界中どこの病院でも見ることができるように、世界共通の規格を用いて記録
されています(この規格を DICOM: Digital Imaging and Communication in
Medicine と呼びます)。このことは、他の病院の医師にセカンド・オピニオンを
求める時などに非常に重要ですので、皆様方も、是非 DICOM (ダイコム)とい
う言葉を覚えておいて下さい。他の医師に相談するために、資料作成を依頼さ
れる時には、必ず DICOM での作成をお願いして下さい。
かんけつりゅうよびりょうひ
² 冠血流予 備量比 (FFR: Fractional Flow Reserve)
冠動脈狭窄の診断には、狭窄の有無や重症度を形態学的に判定する解剖学的(見
た目の細さ)評価のための選択的冠動脈造影(CAG)や冠動脈内超音波診断装
置 ( IVUS : Intra-Vascular UltraSound )、 光 干 渉 断 層 法 ( OCT : Optical
Coherence Tomography)などがありますが、一方でその狭窄に起因する心筋虚
血の有無やその程度を客観的に診断する生理学的評価としての冠動脈内圧測定
があります。中でも冠血流予備量比(FFR: Fractional Flow Reserve)が現在ス
タンダードに使用されている測定方法です。
選択的冠動脈造影検査に引き続き、冠動脈拡張剤(ATP: アデノシンやパパベリ
ン)を点滴もしくは冠動脈内に注入しながらプレッシャーワイヤー(外径約
0.36mm)を冠動脈に挿入して、冠動脈狭窄の手前の圧(Pa)と奥の圧 (Pd)を
測定し、その比を算出します。
(11)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
]
例えば FFR が 0.70 の場合は通常得られる最大血流量の 70%しか流れていない
ことを示唆しています。
FAME2 臨床研究 (De Bruyne B et al. N Engl J Med. 2012 年)では FFR が 0.8
より大きい場合は適正な内服薬の方がカテーテル治療より優れている可能性が
あり、また 0.8 以下の場合は適正な内服薬に加えてカテーテル治療をすることに
より緊急治療が減る可能性が示されています。
通常の選択的冠動脈病変に加えて下記の注意点があります。
1)冠動脈拡張剤によって喘息発作が誘発されることがあるため、喘息の既往をお
持ちの方は事前に申し出るようお願いします。
2)カフェインによって冠動脈拡張剤の効果が減少してしまうため、検査、治療の
少なくとも 12 時間前からはカフェインの摂取を控えるよう御願いします。
3)冠動脈拡張剤による血圧低下や不整脈、喘息発作の可能性があります
4)プレッシャーワイヤーによる冠動脈損傷の可能性があります。
(12)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
じっさい
おこな
² 心 臓カ テ ー テル 検 査は 実際 に どの よ う に 行 わ れる の で
しつもん
すか? (良くある ご質問 )
¨
心臓カテーテル検査前日と当日の準備は?
普通、検査前日には特別な準備は必要ありません。検査の当日は、直
しょくじ
ひか
前の食事を控えて頂くことが多いですが、間違って食事を摂られたと
ぞうえいざい
じんぞう
しても検査を行うことは可能です。検査で用いられる造影剤は腎臓か
にょう
ま
じ
っ
て からだ
そと
はいしゅつ
ぞうえいざい はいしゅつ
ら 尿 に混じって 体 の外に 排 出 されます。このため、造影剤 排 出 を
うながす
せっきょくてき
と
る
促すために、お茶や水などは積 極 的 に摂るようにしましょう。検査の
せいしんあんていざい
直前には軽い精神安定剤を服用して頂くことがあります。いつも服用
ないふくやく
か ん し て
か ん ご し
い
し
し
じ
されている内服薬に関しては、看護師や医師の指示に従って下さい。
検査前にこれまでと異なる体の異常を感じられた場合には、看護師や
医師にお申し出下さい。
とうにょうびょうちりょう
糖 尿 病 治療のためにインスリン治療されている方は検査直前の絶食
げんりょう
に伴って、インスリンの投与量を 減 量 する必要があります。これに関
か ん ご し
い
し
し
じ
しても、看護師や医師の指示に従って下さい。
¨
カテーテル検査は苦しいですか?
きょくしょ ま す い
い た み ど め
カテーテル検査は 局 所 麻酔(=痛み止め)のみによって行われます。従い
い ち ぶ しじゅう
じっし
かんじゃ
まして、検査の一部始終は患者さんに分かる状態で実施されます。
いた
ど
ほとんどの場合、患者さんは痛み止めの注射をする時だけに、チクリ
とした軽い痛みを感じるのみです。普通は血管の中や心臓の中では痛
えんりょ
みは感じません。検査中に痛みを感じられた場合には、ご遠慮せずに
か ん ご し
すぐに術者や看護師にお申しでて下さい。
¨
カテーテルはどこから入れるのですか?
カテーテルを心臓周辺まで持ち込むためには、まず動脈や静脈にカテ
ーテルを入れる必要があります。カテーテルを動脈に入れる場所は主
だいたいどうみゃく
に3ヵ所あります。それは足の付け根の動脈(= 大 腿 動 脈 )、肘の部分
ちゅうどうみゃく
てくび
じょうわん
とうこつどうみゃく
の動脈(= 肘 動 脈 、上 腕 動脈)そして手首の動脈(= 橈 骨 動 脈 あるい
しゃっこつ
は 尺 骨動脈)です。また、カテーテルを静脈に入れる場所としては、腕
じょうわん
ないけい じょうみゃく
さ こ つ しゅうへん
じょうみゃく
の静脈(= 上 腕 静脈)、首の静脈(=内頚 静 脈 )、鎖骨 周 辺 の 静 脈 (=
(13)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
さ こ つ か じょうみゃく
だいたいじょうみゃく
鎖骨下 静 脈 )そして足の付け根の静脈(=大腿 静 脈 )が用いられます。
¨
どうして足からカテーテル検査をする時があるのですか?
足からカテーテル検査を行った場合、検査後の出血を防ぐために数時
間ベッドの上に寝ている必要があります。このため、患者さんへのご
ふたん
ていげん
負担を低減させるために 私たちはなるべく上肢から検査を行うよう
かいぼうがくてき
にしています。しかし、冠動脈以外の動脈も検査する場合には解剖学的
りゆう
りょうしょう
な理由により足から検査を行わせて頂く場合がありますのでご 了 承
下さい。
¨
カテーテルが心臓の中にある時は、何か感じますか?
き が い しゅうしゅく ふせいみゃく
カテーテルの刺激によって期外 収 縮 ( 不 整 脈 の一種)がおこること
どうき
があります。この時、軽い動悸を感じますが痛みは感じません。また、
造影剤を注入した時には、体が熱く感じることがありますが、数秒間
しょうさんやく
のことです。冠動脈を拡張するために 硝 酸 薬 を注入すると、口の中
がスーッとすることがあります。
けいれん ほ っ さ
れんしゅく
えいご
す
ぱ
す
む
狭心症の一種で冠動脈の痙 攣 発作(=攣 縮 、英語の spasm、スパスムと
よ
び
ま
す
かんれんしゅくせいきょうしんしょう
も呼びます)によっておこる冠攣 縮 性 狭 心 症 を診断するためには、冠
ほっさ
ゆうはつ
動脈造影の最中に薬物を用いて発作を誘 発 する必要があります。この
きょうしんつう
ほっさ
かん
ばあい
した
みぎ
時には、発作がおこるため、狭 心 痛 を感 ずる場合があります。下 の右
しゃしん
かんれんしゅく ほ っ さ
さいちゅう
の写 真 は冠 攣 縮 発作の 最 中 です。このようにひどい冠攣縮が続く
しぜんほっさ
ていし
さいちゅう
と、1 分以内に心臓は停止してしまいます。実際に、自然発作の 最 中 に
とつぜんし
げんいん
も同様の強い発作が起こることがあり、突然死の原因ともなります。
かん
この写真は、冠動脈造影で確認しながら行われていますので、 冠
どうみゃくない
しょうさん やく
ちゅうにゅう
動 脈 内 にすぐに 硝 酸 薬 (ニトロと呼ばれる薬)を 注 入 することに
よって、速やかに発作は解除されました。
(14)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
¨
カテーテルは体の中に残るのですか?
そんなことはありません。検査が終わればカテーテルは全てからだか
そうにゅう
ら抜いてしまいます。カテーテルを血管に 挿 入 するために、以前はメ
せっかい
ろしゅつ
スを用いて皮膚を 1~2 CM切 開 して、血管を露 出 させて挿入してい
せっかい
ました。しかし、最近はほとんどの場合、皮膚を 1 mm 程度しか切 開
せんし
しないで、針で穿刺することにより血管内に挿入します。カテーテル
あっぱく
しゅっけつ
を抜いた後は、その部位を数時間圧 迫 して 出 血 を止めます。
¨
カテーテル検査にかかる時間はどれくらいですか?
カテーテルに要する時間は、検査の種類や患者さんの状態により異な
かんどうみゃくぞうえい
ります。一般的な冠 動 脈 造 影 の場合には 30 分以内で終了すること
がほとんどです。
¨
カテーテル検査が終わった後はどのようにすれば良いです
か?
せん し ぶ
かんごし
穿 刺部からの出血や強い痛みがあれば、すぐに看護師にお申し出下さ
い。検査が腕から行われたのであれば、すぐにベッドの上に座って頂
いて結構です。また、看護師や医師の許可があれば、トイレに歩かれ
ても結構です。
か し
検査が下肢(足)から行われたのであれば、数時間はベッドの上に寝て頂
だいたいせん し ぶ
く必要があります。これは大 腿 穿 刺部からの出血を予防するためです。
検査の後は、造影剤の腎臓からの排出を促すために点滴を行います。
スタッフの許可があり、吐き気が無いようでしたらば、飲み物を飲ん
で頂いたり、食事を摂って頂いたりしても結構です。
(15)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
い
¨
つ
検査の後は何時 、自宅に帰れますか?
ごじたく
な ん じ ごろ
病院と御自宅との距離、病気の状態、検査結果、何時 頃 に検査が終了
がっぺいしょう
いぞん
したか、あるいは全身の 合 併 症 の有無などに依存しますが、検査当
日自宅にお帰り頂くことも可能です。
¨
自宅に帰った後に気をつけることはありますか?
腕から検査が行われた場合には、その腕に二日間ぐらいは強い力を入
こうしゅっけつ
れないで下さい。これは、穿刺部からの後 出 血 を予防するためです。
ふちょう
お食事は普通の通りで結構です。体に何らかの不 調 を感じられた場合
えんりょ
しょうなんかまくらそうごうびょういんじゅんかんきびょうとう
には、ご遠 慮 なく 湘 南 鎌 倉 総 合 病 院 循 環 器 病 棟 (0467-46-1717
内線 1322)にご連絡下さい。看護師ないし担当医師が対応させて頂きま
す。
ふく
時に、穿刺部から遅れて出血することがあります。穿刺部の痛みや膨ら
みを感じた時にもご相談下さい。
い
¨
つ
仕事には何時 から戻れますか?
腕に強い力を入れる仕事でなければ、ご自宅に帰られた当日からお仕
事を始めて頂いて結構です。強い力を入れる必要がある仕事の場合に
は、申し訳ありませんが二日間ぐらいは軽い仕事にのみついて頂いて
下さい。
¨
検査が終わってから数日して穿刺部の皮膚が青くなってき
ました、大丈夫でしょうか?
カテーテルを血管から抜いた後、圧迫によって止血します。この時に、
ひ か そしき
も れ る
ふつう
しょうりょう
多少の血液が皮下 組織 に漏れる ことがあります。普通 この 少 量
しゅっけつ
う ち み
出 血 は、何ら問題ありません。しかし、打ち身と同じで、時間と共
’ ’
ひ ふ
にあざ のように皮膚 が青ずんでくることがあります。この皮膚の
’’’’
青ずみは時間と共に吸収され、消失します。痛みが続いていなければ
ご心配ありません。痛みが続いている場合や、そうでなくともご心配
の時には、ご遠慮なくご相談下さい。
けんこう ほ け ん
¨
カテーテル検査に健康 保険 はききますか?
もちろん、健康保険が有効な検査です。
¨
友人がカテーテル検査を受けたのですが、その病院では
(16)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
しんきん
心筋 シ ン チ グ ラ フ ィ ー と い う 検 査 を し て か ら カ テ ー テ ル
検査を受けた、ということですが、私はその検査をしない
のですか?
心筋シンチグラフィーも心臓に悪い場所があるかどうかを調べるため
ゆうこう
に有効な検査です。しかし、心臓に悪い場所がある可能性が高い場合
じかんてき
にくたいてき
けいざいてき
ふたん
ていげん
には患者さんへの時間的、肉体的そして経済的なご負担を低減するた
はぶく
めにこれらの検査を省く場合があります。
ちょうおんぱ
¨
心電図、超音波 、CT あるいは MRI では分からないのです
か?
残念ながら現在の技術では、心臓カテーテル検査から得られるような
しょうさい
じょうほう
詳 細 な 情 報 は心電図からは得られません。また、超音波検査は
しんぞうべんまくしょうやせんてんせいしんしっかん
心臓弁膜症や先天性心疾患あるいは心臓の動きを見たり、心臓の中の
けっせんやしゅよう
血栓や腫瘍を診断したりするには非常に有効な検査法ですが、残念な
かわさきびょう
かんむりどうみゃくりゅう
がら川 崎 病 による 冠 動 脈 瘤 などの一部の例外を除けば、冠動脈そ
じぜんけんさのいっかん
のものの診断には無力です。もちろん、事前検査の一環としてこれら
けんさ
の検査を行って頂きます。
りゅうい
CT あるいは MRI については以下の点にご留意下さい。
こうれい
既 に 冠 動 脈 に ス テ ン ト が 入 っ て い る 場 合 や 、 ご 高齢 あ る い は
まんせいけつえきとうせき
慢性血液透析を受けておられるため、冠動脈の石灰化が強い場合には、
きゅうしゅうど
X 線がこれらの X 線吸 収 度 の高い部分に影響され、CT 冠動脈造影の
しんだんのうりょく
診 断 能 力 は著しく低下します。
ぜったいせいふせいみゃく
また、心房細動のような絶対性不整脈がある場合、あるいは期外収縮
が頻発する場合、あるいはもともとの心拍数が多い場合には、CT 冠動
こころはくどう
脈造影画像に 心 拍 動 に伴うブレが入るため CT 冠動脈造影画像の
せいみつど
精密度が低下します。
当院で用いている 320 列 CT による CT 冠動脈造影の場合には、
さつぞうじかん
撮像時間が例えば 64 列 CT よりも短く、この分 心拍動に伴うブレは
ひばくせんりょう
小さく、X 線被曝線量も少なく、造影剤使用量も少ないのですが、そ
かんどうみゃくぞうえい
れでも一回 CT冠動脈造影 を行えば、100 枚以上の胸部レントゲン写
ひばく
真を撮影したのと同じぐらいの被曝をしますし、造影剤も 60ml 程度
必要です。
りんしょうしょうじょう
このため、私達は 臨 床 症 状 などから冠動脈病変の存在が強く疑われ
(17)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
せんたくてき
る場合には、CT 冠動脈造影を行わずに選択的冠動脈造影を行うほうが
良いと考えます。
また、MRI では現在の最先端の機械を用いて行っても検査時間が 1 時
ぞうえいざい
間ぐらいかかり、場合によっては MRI 用造影剤を使用する必要があり
せんめい
ます。また、残念ながら得られる画像も CT 冠動脈造影ほどには鮮明で
きゅうせいきびょういん
ありませんし、何より当院のような急性期病院 では、MRI 検査は、他
のう、ふくぶぞうき、ふじんかりょういき、せきつい、かんせつ
の臓器(脳、腹部臓器、婦人科領域、脊椎、関節 など)の重要な検査法
よやく
として使用されますので、検査予約も取りづらい状況にあり、実際に
しんぞうびょうがしんこうするきけん
検査をお待ち頂く間に心臓病が進行する危険もあります。
うつ
¨
悪いところがあったら、そのまま治療に移 ってはもらえな
いのですか?
私たちは、ご自身の心臓の状況を、ご本人とご家族に良くご理解して
なっとく
頂いてからご納得の上で治療を行いたいと思っております。従いまし
きんきゅう
じたい
て、緊 急 の事態を除き、検査と治療は分けて行いたいと思っています。
¨
検査を受けなければ、もう診察してくれませんか?
そんなことはありません。検査を受けられるか否かはご自身の意思で
すし、診察・治療を行うのは医師の義務です。しかしながら、必要と
考えられる検査が無い状況で診察・治療を続けることには、医師とし
て不安ですし、また十分な責任を果たせないということはお分かり下
さい。
(18)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
きけんせい
² 心臓カテ ーテル検査には、 危険性 は無いの ですか?
せんたくてきかんじょうどうみゃくぞうえい
心臓カテーテル検査や選 択 的 冠 状 動 脈 造 影 はそれぞれ、先にも書
はかせ
きましたように、1929 年にフォルスマン博士、1955 年にソーンズ博
け ん さ せいせき
たいする
士により初めて行われまた。そして、それ以来、検査 成 績 に対する
かがくてき
けんとう
けんさほう
かいりょう
がっぺいしょう
かがくてき かいめい
科学的 な 検 討 、 検査法 の 改 良 と 合 併 症 の 科学的 解 明 、 そ れ に
もとづいた
きょういく
たずさわる
基づいた 医師および検査に携わる スタッフに対する 教 育 、そして
ぎじゅつかくしん
かいりょう
技 術 革 新 によるさまざまな 改 良 が行われてきました。この結果、検
くつう
いちじるしくげんしょう
査が患者さんに及ぼす苦痛は著 し く 減 少 しました。それと共に検査
ともなうきけんせい
ひやくてき
ていか
え ら れ る
に伴 う 危険性は飛躍的に低下してきました。さらに、検査から得られる
じょうほうりょう
情 報 量 も格段に増加してきました。しかしこのような時代になって
ともなうきけんせい
も心臓カテーテル検査や選択的冠状動脈造影に伴 う 危険性をゼロにす
ることは残念ながら出来ません。患者さんおよびご家族の方々もこの
のぞんで
危険性を良くご理解の上で検査に臨んで下さい。私たち医療サイドは
つ ね に きけんせい
さいしょう
つとめて
常に危険性を 最 小 にするべく努めています。患者さん方から、より
いっそう
一 層 のご理解を頂くことにより、これらの危険性をより少なくするこ
とが可能であると私たちは信じています。
ひじょう
¨
じゅうだい
がっぺしょう
非常に 重 大 な合併症
①死 亡 : 既に病気のために障害を受けている心臓に対して検査を行
はっせい ひ ん ど
うために、どうしてもその発生頻度をゼロにすることはまだ出来ませ
ん。一般的に心臓カテーテルや選択的冠状動脈造影を受けられる患者
みまん
ひんど
さんの 0.02%未満の頻度(5000 人に 1 人の割合未満)で死に至ることが
あるとされています。
しんきんこうそく
はっせい
かん どうみゃく
へいそく
お こ し て
②心 筋 梗 塞 の 発 生 : 冠 動 脈 の 閉 塞 を起こして 心筋梗塞になって
しまうこともあります。心筋梗塞を起こせば、強い痛みが起こるだけ
でなく、最悪の場合には死に至ることもあります。また、最悪の事態
きんきゅうかんどうみゃくばいぱすしゅじゅつ
を避けるために 緊 急 冠動脈バイパス手術を行わねばならない事態に
なることもあります。
③緊急冠動脈バイパス手術: やむを得ずに緊急で冠動脈バイパス手
ゆけつ
術が必要となることがあります。この手術は輸血も必要ですし、手術
ぜんしんますい
いちじてき
ていし
は 全身麻酔 の 下 で 行 わ れ 、 胸 を 開 い て 心 臓 を 一時的 に 停止 さ せ 、
(19)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
じんこうしんぱい
人 工 心 肺 を用いる必要があります。
じゅうだい
¨
がっぺしょう
重 大 な合併症
上で述べましたような非常に重大な合併症以外にも重大な合併症が起
こりえます。
しん まく しんのう
ふくろ
①心 タ ン ポ ナ ー デ : 心臓は心膜( 心 嚢 )という 袋 で取り囲まれてい
ます。カテーテルが心臓の壁を突き抜けることによってこの袋の中に
けつえき
じゅうまん
血 液 が 充 満 し、その結果心臓が外から圧迫されて十分に血液を送り
出せなくなる事態を心タンポナーデと呼びます。心タンポナーデが発
しんのうせん し
た
けつえき
はいじょ
生すれば、すぐに心 嚢 穿 刺を行い、貯まった血 液 を排 除 せねばなり
かいきょうしゅじゅつ
ません。また、場合によっては出血を止めるために開 胸 手 術 が必要
となる場合もあります。希には、弁の障害を来すこともあります。
ぞうえいざい
しよう
しんけっかんぞうえい
②造 影 剤 の使用 に伴う合併症: 心 血 管 造 影 では、造影剤という薬
かんどうみゃく
しんぞう だいけっかん
物を用いてレントゲンで冠 動 脈 や心 臓・大 血 管 の状態が見えるよう
まれ
にします。残念ながらこの造影剤は多くの改良がなされた現在でも、希
じんしょうがい ぞうえいざいじんしょう
にアレルギー反応や 腎 障 害 (造 影 剤 腎 症 )を引き起こすことがあり
し ようりょう
ます。このため、私たちは造影剤の使 用 量 が可能な限り少なくなるよ
ひしん
しゅつげん
うに努力しています。ひどいアレルギー反応の場合には、皮疹の 出 現
けつあつ
ていか
せいもん ふ し ゅ
まれ
だけでなく、血 圧 が低下したり、声 門 浮腫を起こしたりして、ごく希
ですが、最悪の場合死亡につながることもあります。
ほうしゃせん
しょうがい
③放 射 線 による 障 害 : レントゲンを用いることが検査を行うため
に必要です。しかしながらレントゲンは放射線の一種ですので多量の
ほうしゃせんしょうがい
レントゲン線を浴びてしまうと放 射 線 障 害 が起こることがあります。
ほう しゃ せん しょうがい
ちくせき
ちくせき せんりょう
皮膚に対する 放 射 線 障 害 は 蓄 積 していきます。この 蓄 積 線 量 が
おおく
ほうしゃ せん ひ ふ しょうがい
けっか
ひ ふ いしょく
ひつよう
じたい
多くなると、 放 射 線 皮膚 障 害 の結果、皮膚 移 植 が 必 要 な事態に陥
ることもあります。他の施設で時として報告されているこのような
ひ ふ がっぺしょう
皮膚 合 併 症 を私たちは未だ引き起こしたことはありません。私たちは、
ひばく
い つ も どりょく
患者さんのレントゲン被爆が少なくするように何時も 努 力 しています。
しゅっけつ せいがっぺしょう
④ 出 血 性 合 併 症 : 検査に際しては血管からカテーテルを入れる必
どうみゃく
あつりょく
つよい
要があります。特に 動 脈 はその 圧 力 が強いので出血が起こりやすい
さいちゅう
けっせん
血管です。また、検査の 最 中 にはヘパリンという薬を用いて血 栓 が
(20)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
で き に く く
ぎゃく
しゅっけつ
ゆうはつ
出来にくくなるような状態にしています。これは 逆 に 出 血 を 誘 発
きょくど
することになります。このような背景がありますので、 極 度 の
こうけつあつしょう
ふ り
じょうけん
そろう
のうしゅっけつ
高 血 圧 症 があるなどの不利な 条 件 が揃うと 脳 出 血 などがおこる
ぶ い
しゅっけつ
のち
こともあります。また、カテーテルを入れた部位から 出 血 し、後 に
ゆけつ
しゅじゅつ
ひつよう
輸血や 手 術 が必 要 となることもあります。
そくせんしょう
はっせい
⑤ 塞 栓 症 の 発 生 : 検査に当たってはカテーテルを心臓にまで持ち
だいどうみゃく
どうみゃく こ う か びょうそう
込む必要があります。冠動脈だけでなく 大 動 脈 にも 動 脈 硬化 病 巣
どうみゃく こ う か
がたくさんあります。カテーテルの通過に伴ってこれらの 動 脈 硬化の
かたまり
は が れ て
塊 が剥がれて、それが動脈血流に沿って流れ、体の一部につまって
どうみゃくけつりゅう
とぜつ
しまい、動 脈 血 流 が途絶してしまうことがあります。また、カテー
けっせん
テルの一部に形成された血栓がはがれてつまってしまうこともありま
じょうたい
そくせんしょう
よ び ま す
のう
どうみゃく
す。これらの 状 態 を 塞 栓 症 と呼びます。例えば、 脳 の 動 脈 につ
のうそくせんしょう
のうこうそく
まれば 脳 塞 栓 症 が起こり、その結果 脳梗塞となることがあります
ちょう
どうみゃく
ちょうかん どうみゃくそくせんしょう
し、 腸 の 動 脈 につまれば 腸 間 動 脈 塞 栓 症 を引き起こします。
このような事態が起こらないように私たちはカテーテルの操作は、
い
つ
も しんちょう
じんそく
おこなう
何時も 慎 重 にかつ迅速に行 う ようにしています。 しかしながら、そ
かんぜん
はっせい
ふせぐ
こんなん
れでも完 全 にその発 生 を防ぐことは困 難 です。
とくしゅ
どうみゃくそくせんしょう
そくせんしょう
特 殊 な 動 脈 塞 栓 症 としてコレステロール 塞 栓 症 が希にあります。
ふ く ぶ だいどうみゃく
けっしょう
お お く ふ く む どうみゃく
これは、腹部 大 動 脈 などからコレステロール 結 晶 を多く含む 動 脈
こうか
ちょうかん どうみゃく
か し どうみゃく まっしょう
そくせん
硬化プラークが 腸 管 動 脈 や下肢 動 脈 末 梢 に 塞 栓 したためにお
そくせんはっせいごすうしゅうかん
まんせいえんしょう
こります。塞 栓 発生後 数 週 間 の間にアレルギー反応を伴う慢性 炎 症
が起こります。
か し じょうみゃく
けっせん
また、特に下肢からのカテーテル検査の後では、下肢 静 脈 に血 栓 が
けいせい
けっせん
りしょうご
ながれ
はい どうみゃく
はい
形 成 さ れ 、 そ の 血 栓 が 離床後 に 流れ 、 肺 動 脈 に ひ っ か か る 肺
そくせんしょう
塞 栓 症 が起こることがあります。
くうき
あるいは、カテーテル内に少量の空気が混入することによる空気
そくせんしょう
塞 栓 症 も起こりえます。
そくせんしょう はっせい ひ ん ど
いずれにしてもこれら 塞 栓 症 発生 頻度 は検査時間が長くなる程起こ
がっぺしょう はっせい
りやすいと言われています。従って、これらの合併症発生を予防する
(21)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
そうさ
こんなん
ために、カテーテル操作が困難で検査に時間がかかる場合には、私達
ちゅうだん え ん き
は検査途中で検査を 中 断 延期する場合もあります。
かんせんしょう
ゆうはつ
いぶつ
⑥ 感 染 症 の 誘 発 : 体の中に一時的にせよ異物を入れるため、それに
伴って感染症が起こることがあります。私たちはこのような事態を予
じゅつぜん け ん さ
ばんぜん
き た
しゅぎじかん
かのう
かぎり
防するために、 術 前 検査には万 全 を来たし、手技時間を可能な限り
みじかく
いぶつ
せっしょく じ か ん
たんしゅく
つ ね に せいけつ
たもつ
短 く して異物との 接 触 時間を 短 縮 し、常に 清 潔 を保つようにして
います。しかし、完全に防ぐことは困難です。
せん し ぶ しゅうへん
しんけいそんしょう
⑦穿 刺部 周 辺 の 神 経 損 傷 : 穿刺の際に、血管と併走している神経
を穿刺針で損傷することがあります。また、検査終了後の出血によっ
あっぱく そんしょう
けっか
つよい いたみ
て神経を 圧 迫 損 傷 することもあります。この結果 、強い 痛み が
のこったり
ゆび
て
あし
きんにく いしゅく
残ったり、 指 が動きにくくなる、あるいは手や 足 の 筋 肉 萎 縮 を来た
まれ
がっぺいしょう
すことがあります。これらの希な合 併 症 に対しては早い処置が効果的
ですので、ご相談下さい。
ききょう
さこつかじょうみゃくせん し みゃく ないけいじょうみゃくせん し
いちぶ
⑧気 胸 : 鎖 骨 下 静 脈 穿 刺 や 内 頚 静 脈 穿 刺 に伴って、肺の一部
あな
あ け て
はい
くうき
きょうくう
に穴 を開けてしまって肺 の空気が 胸 腔 にもれてしまい、結果的に肺
を圧迫してしまうことがあります。この状態は気胸と呼ばれます。適
切な処置により改善します。
じゅうとく
ふせいみゃく
⑨ 重 篤 な 不 整 脈 の 出 現 : カテーテルによる心臓に対する機械的刺
しんしつせいきがい
激、あるいは造影剤注入による化学的刺激などにより、心室性期外
しゅうしゅく
じょうしつせいきがいしゅうしゅく
しんぼうさいどう
収 縮 や上 室 性 期 外 収 縮 、あるいは心 房 細 動 などの不整脈が誘
発されることがあります。多くの場合、これらの不整脈は一過性で何
しんしつせいひんぱくしょう
こういしょう
しんしつさいどう
の後遺症も残しません。しかし、希に心 室 性 頻 拍 症 、心 室 細 動 、
じょみゃく
しん て い し
じゅうとく
ふせいみゃく
徐 脈 あるいは 心 停止 などの 重 篤 な 不 整 脈 が出現することがあり
ます。これらの事態に対応して、当院の心臓カテーテル検査室では、
きんきゅう
でんきてきじょさいどう
だいどうみゃくない
緊 急 で心臓マッサージ、心臓ペーシング、電気的除細動 、大 動 脈 内
けいひてきじんこうしんぱい ほ じ ょ そ う ち そうちゃく
バルーン・パンピング挿入あるいは経皮的 人 工 心 肺 補助装置 装 着 を
行えるように常時準備し、また訓練しております。
かんせん
⑩発熱: アレルギー反応や感 染 に伴って発熱することがあります。
ふ そ く の がっぺしょう
⑪その他、不測の 合 併 症 が起こることがあり得ます。
私たち湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル室は
じゅうぶん
けいけん
つ ん だ い し
十 分 な経 験 を積んだ医師とコ・メディカル(医療の現場で医師と共同
(22)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
ほうしゃせん
で患者様の治療にあたるスタッフのこと。具体的には看護師、放 射 線
ぎ し
りんしょうこう が く し
けんさ ぎ し
やくざいし
かんごじょしゅ
りがくりょうほうし
技師、 臨 床 工 学士、検査技師、薬剤師、理学療法士、看護助手 など
しょくしゅ
そうび
多くの 職 種 の人々が相当します)によって運営され、また装備されて
ききるい
ちりょう
いる機器類も最新のものを多く取り揃えています。また、行われた治 療
せいか
えいぶん ろんぶん
べいこく
がくじゅつし
せっきょくてき
とうこう
などの成果 は 英 文 論 文 として 米 国 の 学 術 誌 に 積 極 的 に 投 稿 ・
しゅっぱん
はってん
こうけん
出 版 され、医学全体の発展に貢献し、これによって世界中の患者さん
かんせつてき
を間接的に助けている、と考えています。私たちの心臓カテーテル室
けんさ
ちりょう こ う い
もっともあんぜん
での検査および治 療 行為は日本あるいは世界の中で、最も安全に行わ
れるものと考えています。
し ん ぞ う け っ か ん げ か ・ け っ か ん げ か ・ ま す い か い し
さらに心臓血管外科・血管外科・麻酔科医師 との合同カンファランス
だいどうみゃくべんうえこみじゅつ
(TAVI[経カテーテル的大動脈弁植え込み術]カンファランス)そして、
じんぞうないか・とうにょうびょうないか・けいせいげか・せいけいげかいし
腎臓内科・糖尿病内科・形成外科・整形外科医師 との合同カンファラ
まいしゅういっかい
ンス(フットケア・カンファランス)をそれぞれ毎 週 一 回 行うことによ
れんけい
り、診療科を越えた連携を名実ともに行っています。
がっぺしょう
はっせい
一般的に言いまして、上に述べました大小さまざまな 合 併 症 の 発 生
ひんど
ごうけい
ていど
頻度は合 計 で 1%程度とされています。
う
け
る
² 心 臓 カ テ ー テ ル 検 査 や 選 択 的 冠 状 動 脈 造 影 を 受ける こ
かんじゃ
り え き
とによる 患者 さんの利益
ひしんしゅう てき けんさほう
医学の発展によってさまざまな 非 侵 襲 的 検査法 が開発されてきまし
しんけっかん
た。しかし、現在でも心臓カテーテルや選択的冠状動脈造影・心 血 管
ぞうえい
しんぞうびょうしんだん
きじゅん
造 影 は 心 臓 病 診 断 のための基 準 となる検査法です。
たんきてき
¨
り え き
短期的 な利益
せいかく
はあく
現在の心臓・大血管・冠状動脈の状態を正 確 に把握することによって
さいてき
ちりょうほう
その患者さんにとっての 最 適 な 治 療 法 を選択することが可能となり
ます。また、患者さんおよびご家族の病気に対するご理解も深まり、
にちじょうせいかつ
しゃかいせいかつ
かいぜん
日 常 生 活 、社 会 生 活 の改 善 につながります。
せっぱく
せいめい
き き
また、切 迫 した生 命 の危機に対しても適切な対応を採ることが可能と
なります。
(23)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
ちょうきてき
¨
り え き
長期的 な利益
さいてき
ちりょうほう
せんたく
そ の ご
かんじゃ
せいめい
最 適 な治 療 法 が選 択 されることによって、その後の患 者 さんの生 命
よ ご
かいぜん
しょうじょう
うんどうのうりょく
予後が改 善 するのみでなく、 症 状 や運 動 能 力 も改善されます。
きょうしんしょう
しんきんこうそく
狭 心 症 や心 筋 梗 塞 を例に取れば、選択的冠状動脈造影を行うこと
けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ
かんどうみゃく
によって、経皮的 冠 動 脈 形 成 術 (PCI あるいは PTCA)や冠 動 脈
ば い ぱ す しゅじゅつ
しんしゅう てき ちりょうほう
バイパス 手 術 (CABG)などの 侵 襲 的 治 療 法 を適切に行うことが可
た し びょうへん
能となります。これらの侵襲的治療を行うことによって、他枝 病 変
なんほん
かん どうみゃく
びょうへん
じょうたい
ばあい
びょうき
しぜん
( 何 本 もの 冠 動 脈 に 病 変 がある 状 態 )の場合 には、 病 気 の自然
けいか
やくぶつ りょうほう
し ん じ こ はっせいりつ しぼうりつ
しんきんこうそく はっせい
経過や 薬 物 療 法 よりも心事故 発 生 率 (死亡率や、 心 筋 梗 塞 発 生 あ
さいちりょう
ひつようりつ
るいは再 治 療 の必 要 率 など)が低下することが分かっています。そし
はんとし
すうねんいじょう
じぞく
いっしびょうへん
て、この効果は半 年 から数 年 以 上 にわたり持続します。一 枝 病 変 (一
しぜん けいか
本の冠動脈にのみ病変がある状態)の場合には、もともと自然 経過 の
せいめいよご
しぼうりつ
さ
はんとし
生命予後が良いために、死亡率では差がでません。しかし、半 年 から
すうねん
やくぶつ りょうほう
きかん
しぜん けいか
しょうじょう
数 年 といった期間 で見ると 薬 物 療 法 や自然 経過 よりも 症 状 や
うんどうのうりょく
かいぜん
はんめい
運 動 能 力 が改 善 されることが判 明 しています。
ちょうきてき り え き
すうねんいじょう
じぞく
これらの長 期 的 利益は数 年 以 上 にわたり持続することが分かってい
ちりょうほう
かいはつ
ますが、もともと治 療 法 が開 発 されてから 30 年あまりしか経過して
とうぜん
なんじゅうねん
ちょうきてき り え き
いませんので、当 然 のことながら 何 十 年 にもわたって長 期 的 利益が
わ
あるかどうかはまだ分かりません。
う
け
ら
れ
な
い ば あ い
かんじゃ
² 心 臓 カ テ ー テ ル 検 査 を 受けられ ない 場合 の 患者 さ ん の
ふ り え き
不利益
こうむるさいだい
ふりえき
検査を受けられない場合に患者さんが被 る 最 大 の不利益は、この検査
りえき
きょうじゅ
を受けることによって得られる利益を 享 受 できないことです。
たんきてき
¨
ふ り え き
短期的 な不利益
きゅうせいしんきんこうそく
ばあい
急 性 心 筋 梗 塞 の場合には選択的冠状動脈造影を行わなければ、結果
さいかんりゅう りょうほう
的に経皮的冠動脈形成術による再 灌 流 療 法 を受けることができませ
(24)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
しぼうりつ
さいほっさ
かくりつ
あきらか
ぞうか
ん。この場合には死亡率や再発作の確 率 が明らかに増加します。狭心
ほっさ
よくせい
たりょう
おくすり
ひつよう
症の場合には、発作を抑 制 するために多 量 のお 薬 が必 要 となります。
ちょうきてき
¨
ふ り え き
長期的 な不利益
いたづら
びょうたい は あ く な し
やくぶつ りょうほう
たよ
正確な 病 態 把握 無し に、 徒 に 薬 物 療 法 のみに 頼 っていると
いんきんこうそく
じゅうしょう
ふせいみゃく
ゆうき
心 筋 梗 塞 や 重 症 の不 整 脈 などを誘起する可能性があるばかりか、
やくぶつ
ぞうか
ふくさよう
薬 物 による副作用の発生が増加することも考えられます。
つ ね に しんぞう
た い し て ふあん
か か え た せいかつ
おく
しごと
また、常に 心 臓 に対して不安を抱えた 生 活 を送 られることは仕事をす
うえ
へいおん
よせい
お く ら れ る ばあい
けっして よ い
る上 でも、あるいは平 穏 な余生を送られる場合にも決して良いことと
いかが
は私は思いませんが、如何でしょうか? むしろ、ご自身の心臓の状
ゆういぎ
態を正確に把握して頂いて、その後の人生をより有意義なものにされ
ていあん
ることを私は提案いたします。
な
い
n 心臓カテーテル検査以外の検査法は無いので
しょうか?
たくさんの検査法が開発されています。しかしながら、それでも最終的な Golden
ひょうじゅんてき
けんさほう
Standard (もっとも 標 準 的 な検査法 )と言える検査法は心臓カテーテル検
査・心血管造影・選択的冠状動脈造影です。心臓カテーテル検査は技術的に非
はってん
常に発展しましたので、以下の多くの検査法に比べれば、検査に要する時間も
けんさせいど
コストも少なく済み、さらに検査精度もはるかに高いのが現状です。
うんどう ふ
か
しんでんず
² (運動 負荷 )心電図
心電図検査はあくまでも基本的な検査法です。心臓カテーテル検査を
ひつよう ふ か け つ
行うとしても心電図は必要不可欠な検査です。
虚血性心疾患の診断のためには安静時心電図の測定のみでは不完全で
かいだんしょうこう
に だんかい ふ か し け ん
す。階 段 昇 降 (マスター二 段 階 負荷試験)や、ベルトコンベア(トレッ
ふ
か しけん
ドミル負荷試験)、あるいは自転車(エルゴメーター負荷試験)を用いて
うんどう ふ
か
運動負荷をかける、あるいは薬物により負荷をかけることによって、
せいど
心電図検査の精度が高まります。
(25)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
² ホルター 心電図
たまにしか起こらない発作を特定するためには非常に有益な検査法で
す。また、不整脈の発見、検出のために必要です。
しんぞう ちょうおんぱ け ん さ ほ う
² 心エコー (心臓 超音波 検査法 )
しん き の う
べん き の う
心機能の評価、弁機能の評価には非常に有益な検査法です。
² シンチグ ラム
え し
心筋の虚血状態、心筋細胞の壊死の程度、あるいは心臓の働き具合を
ゆうえき
評価するためには非常に有益な検査法です。しかしながら、冠動脈の
ちょくせつ み
状態を 直 接 見ることは不可能です。
² CT スキャン
高性能の CT スキャンと造影剤を用いることにより、冠動脈狭窄を検出
がぞう
することが次第にできるようになってきました。しかし、未だ画像
さいごうせい
ほうしゃせん
じかん
ひばく
たいりょう
再 合 成 に時間がかかる、レントゲン線という放射線に被曝する、大 量
ぞうえいざい
きゅうそく
たいない
ちゅうにゅう
ふせいみゃく
の造 影 剤 を 急 速 に体 内 に 注 入 せねばならない、不 整 脈 があると
けんさ
おこなう
ぎ ようせい
がぞう
かいぞうど
かんどうみゃく
検査を行 う ことができない、擬 陽 性 がある、画像の解像度が冠 動 脈
ぞうえい
ずいぶん
さいしんがた
おとる
造 影 よりも随 分 と劣る、などの多くの欠点があります。当院には最新型
せかい
のシーメンス社製 64 列マルチスライス CT スキャンのみならず世界
さいしん
とうしばせい
どうにゅう
最新の東芝製320 列マルチスライス CT スキャンが 導 入 されていて、
かんじょうどうみゃく
しゅつ
冠 状 動 脈 の描 出 を、従来の CT スキャンと比べて より美しく、
ほうしゃ せん ひ ば く せんりょう
ぞうえいざい
また少ない放射線被爆 線 量 で、より少ない造影剤を用いて行うことが
わる
けっか
かのうせい
可能です。現在、当院ではスクリーニング検査(悪 い結果となる可能性が
ひく
とき
ねん
ほかん
低い時 に、念 のため行う検査)として、CT スキャンが冠動脈造影を補完
い
み
する意味で用いられています。
ぞうえいざい
大切なことですが、造影剤を用いずに CT スキャンを行っても、冠動脈
ひょうか
の十分な評価はできません。
² MRI
びりょう
あくえいきょう
体に微量ではあれ、悪 影 響 を及ぼす可能性のある放射線を用いず、か
つよい じ ば
わりに強い磁場を用いる MRI も将来的には有望な検査法の一つです。
ぎゃくりゅう
ていど
強力な磁場を用いる MRI を使えば、現在でも弁の 逆 流 の程度をある
しんきん
程度定量的に計測できますし、心 筋 のダメージの程度も分かります。ま
(26)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
じっけんてき
かんどうみゃくきょうさく
た、実験的には 冠 動 脈 狭 窄 もある程度、分かることができます。しか
せいど
し、未だに心臓カテーテル検査と比べると、検査時間はかかり、精度も
おと
劣 りますし、現在の機械では不整脈があると正確な検査を行うことが困
難です。
² その他
いりょうようげんしろ
PET という医療用原子炉を用いる大がかりな検査法も、心筋のダメージ
判定に有用です。これらの他にも検査法があります。
(27)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
きょうしんしょう
狭
しんきん こうそく
きょ けつせい しん しっかん
症 や 心 筋 梗 塞 などの 虚 血 性 心 疾 患 に対する、
心
ちりょうほう
治 療 法 について知らせて下さい。
きょうしんしょう
け い ひ て き かんどうみゃく
しんきんこうそく
狭 心 症 や心筋梗塞に対してはカテーテルを用いた治療法である、経皮的冠 動 脈
けいせいじゅつ
形 成 術 (PTCA とか PCI とも呼ばれます)が有名です。しかし、カテーテル治療
以外にも多くの治療法があります。これらの治療法についても良くご理解して
下さい。また、そもそも治療を受けられるか受けないで放っておくかは患者さ
そうだん
いりょう
んご本人がご家族と良くご相談されて決められることであり、私たち医療サイ
きょうせい
ドから治療や検査を 強 制 することは出来ません。私たちは、治療や検査を受け
じゆう い
し
けってい
けんり
られるか否かは 患者さんご自身が自由意志で決定される権利があると考えて
じんけん
います。そして、そのような患者さんの人 権 を とても大切なものと考えます。
たちば
しかしながら、私たちはプロフェッショナルとしての立場から、患者さんが検
ゆうこう
ちりょう
つよ
すす
査を受けられ、その結果何らかの有効な治療を受けられることを強く勧めます。
ことがら
すべて
きょけつせいしんしっかん
かんじゃ
じゅうよう
また、以下に述べます事 柄 は全ての虚 血 性 心 疾 患 の患 者 さんにとって 重 要
ぜ
ひ みなさまがたぜんいん い ち ど
お
め
と お し て くだ
なことですので、是非皆様方全員一度はお目を通して下さい。
にちじょう せいかつ
かいぜん
² 日 常 生活 の改善
どうみゃく こ う か
ねんれい
動 脈 硬化は生まれたての赤ちゃんには存在しません。しかし、年 齢 を
へ る
したがって だれ
お
経るに従って 誰 にでも動脈硬化は起こってきます。このため、動脈硬
せいじんびょう
化に伴う虚血性心疾患などは 成 人 病 の一つともされています。成人
にちじょうせいかつ
ちがい
はっせい ひ ん ど
病は 日 常 生 活 の違いなどによりその 発 生 頻度は大きく変化します。
かん どうみゃく き け ん い ん し
¨
じょきょ
冠 動 脈 危険因子 の除去
べいこくみん
しぼうげんいん
だいたすう
し め
心筋梗塞などの虚血性心疾患が 米 国 民 の死亡原因 の大多数 を占め て
べいこく せ い ふ
かたいなか
いることを問題視した米 国 政府は 1950 年代から米国の片田舎である
フラミンガムという人口数万人の町の全町民を、もちろん同意の上で
とうろくかんさつ
20 年間にわたって登 録 観 察 しました。これはフラミンガム研究と呼
りんしょうえきがく
きんじとう
ばれ、 臨 床 疫 学 の金字塔とされている研究です。この結果、心筋梗
いんし
塞を引き起こしやすい因子が幾つか分かりました。
こう
けっしょう
しんきんこうそく
①高 コ レ ス テ ロ ー ル 血 症 : コレステロールが高い人は 心 筋 梗 塞
を起こしやすいことが分かりました。日本人で、どの程度のコレステ
(28)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
じょうげんち
ロール値が上 限 値 として適当かについては、多くの議論が為されてき
じょうげんち
ました。現在一般的に考えられているコレステロールの 上 限 値 は、
しんぞう ほ っ さ
心 臓 発作を既に起こしたことのある人では 200~220 mg/dl です。コ
あくだま
レステロールの中でもいわゆる 悪 玉 コレステロールと呼ばれる LDL
しんぞう ほ っ さ
コレステロールの値が重要です。既に心 臓 発作を起こしたことのある
患者さんでは、LDL コレステロール値が 100 mg/dl 以下になることが
目標です
とうにょうびょう
② 糖 尿 病 : 糖尿病の定義としては色々ありますが、現在広く用い
ていぎ
られている定義としては、HbA1C (ヘモグロビン A1C)が 5.8%以上と
せいしき
いうものです。 HbA1C とは、正 式 にはグリコ・ヘモグロビン A1C
へいきんけっとうち
のことであり、一ヶ月間の平 均 血糖値の良い指標とされています。こ
しょくじせいげん
けんさち
の値は、直前に食 事 制 限 をして検査値を良くしようとしてもそう簡単
とうにょうびょう
きょけつせいしんしっかん
には改善しません。糖 尿 病 があれば虚 血 性 心 疾 患 になりやすいこ
みまん
とが分かっています。高くとも、HbA1C が 7.0%未満とならなくては
いけません。
こうけつあつしょう
おちいり や す い
③ 高 血 圧 症 : 高血圧症があれば虚血性心疾患に 陥 り 易いことが分
もくひょうけつあつち
さいこうけつあつ
さいていけつあつ
かっています。 目 標 血圧値は最 高 血 圧 150 mmHg 以下、最 低 血 圧
みまん
ただし
じゃくねんしゃ
ちゅうねんしゃ
とうにょうびょう
90 mmHg未満です。但し、
「 若 年 者 、中 年 者 あるいは 糖 尿 病 を
ゆ う す る かんじゃ
きょ けつせい しん しっかん
へいはつ
きけんせい
有する 患 者 さん」においては、 虚 血 性 心 疾 患 を 併 発 する危険性 が
たかい
もくひょうけつあつち
高いため、目 標 血圧値は 140/90mmHg 未満とすべきだとの意見も強
くあります。
きつえん
④喫煙 : タバコが肺がんを引き起こす危険性については皆様方もご
存知だと思います。しかし、それ以上にタバコを吸うことによって虚
はっせいきけんせい
血性心疾患の発 生 危険性が 10 倍以上も増加することをご存知でしょ
ぜ
ひ
うか? タバコは最も心臓に悪いものです。是非、タバコは辞めて下
さい。ちなみに、私自身 昔はたくさんタバコを吸っていましたが、
もうすっかり辞めて 20 年以上になります。
ひまん
⑤肥満 : 肥満があると明らかに狭心症や心筋梗塞に陥り易いことも
が ん ば っ て ひょうじゅんたいじゅう
い
じ
判明しました。頑張って 標 準 体 重 を維持するように心がけましょう。
こうにょうさんけっしょう つうふう
どうみゃく こ う か
⑥ 高 尿 酸 血 症 ( 痛 風 ): 高尿酸血症を放置していると、 動 脈 硬化
しんこう
そくしん
しょくじりょうほう
やくぶつりょうほう
の進 行 を促 進 してしまいます。このため、食 餌 療 法 や薬 物 療 法 に
(29)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
より治療する必要があります。
かぞくれき
にくしん
かたがた
⑦虚血 性 心 疾 患 の 家族歴 : 肉 親 の 方 々 に虚血性心疾患になってい
る方がおられると心筋梗塞や狭心症になりやすいことも分かっていま
す。残念ながらこの因子はご本人の努力では如何ともしがたいものが
あります。
⑧メタボ: メタボという言葉は多くの方が聞かれているでしょう。正
しょうこうぐん
確には、メタボリック・シンドローム( = 症 候 群 )のことです。これは
しんだんきじゅん
ていしょう
日本で見いだされた概念です。色々な診断基準が 提 唱 されていますが、
ないぞう し ぼ う
ふくい
腹部の内臓脂肪が増加している状態です。このため、腹囲が増加して
いる方々は、メタボの可能性があります。メタボになると、色々な病
気になる可能性が高くなります。
うんどう ぶ そ く
¨
かいしょう
運動 不足 の 解 消
ひごろ
てきど
うんどう
つづける
日頃、適度に運 動 を続けることが大切です。重いものを持ち上げるよ
き
ば
る
む さ ん そ うんどう
うな、気張るような運動、これを無酸素運動と呼びますが、このよう
きんにく
にゅうさんたいしゃ
な運動は筋肉の 乳 酸 代謝に結びつき、心臓に強い負荷を与えます。そ
し ぼ う さん
のような運動ではなく、空気を吸い込んで体内のブドウ糖や脂肪酸を
こ う き せ い たいしゃ
ゆう さ ん そ うんどう
好気性代謝に結びつけるような有酸素運動(エアロビクスとも呼びます
はげしい
ね)を行うことが心臓に対して良い、とされています。ですから、激しい
うんどう
へいちほこう
運 動 をする必要はありません。毎日 1 時間程度の平地歩行を続けるこ
じどうしゃ
うんてん
とが重要です。私は、自動車を運転することを止めました。そして、
つうきん
さい
可能な時には自転車に乗るようにしています。通勤の際にはなるべく
歩くようにしましょう。
かいしょう
¨
ストレスの 解 消
しごと
しゃかい
うけながす
気持ちをゆったりと持ち、仕事や社 会 の中でのストレスを受け流すよ
しゅみ
あせったり
う に し ま し ょ う 。 趣味 を 持 つ こ と も 大 切 で す 。 そ し て 、 焦ったり
い ら だ っ た り
苛立ったりしないようにしましょう。
む こ き ゅ う しょうこうぐん
¨
かいぜん
無呼吸 症 候 群 の改善
睡眠中に大きないびきと共に呼吸が数秒間、時には 10 秒間以上も止ま
む こ き ゅ う しょうこうぐん
る方がおられます。このような呼吸は無呼吸 症 候 群 と呼ばれ、色々な
(30)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
ひまん
原因で起こる、とされています。しかし、現代で最も多い原因は、肥満
ひろう
ちくせき
や疲労の蓄積とされています。最近、この呼吸をする方には虚血性心
せんもんい
疾患の合併が多い、とされています。専門医にご相談されることも必
たいじゅう
げんりょう
せいかつしゅうかん
かいぜん
つと
要ですが、まずは 体 重 の 減 量 と生活 習 慣 の改善に努めましょう。
やくぶつ りょうほう
² 薬物 療 法
昔から狭心症に対する薬物療法としてはニトログリセリンが有名です。
のーべるしょう
そうせつ
ニトログリセリンはあのノーベル賞を創 設 したノーベル博士がダイナ
げんりょう
マイトの 原 料 として発明した物質です。この結果、ノーベル博士は膨
りえき
きぞう
ざいだん
げんし
大な利益をあげ、後にその利益を寄贈しこれがノーベル財 団 の原資と
ふ し ぎ
げんしょう
はっけん
なりました。このダイナマイト工場で不思議な 現 象 が発 見 されまし
こういん
た。狭心症のためにいつも胸を痛がっている工 員 の 1 人が、ダイナマ
な ぜ か むね
らく
イト工場の中で働いている時には何故か 胸 が楽 になることが分かりま
とっこうやく
した。このことから、ニトログリセリンが狭心症に対する特 効 薬 であ
はっけん
きょうしんしょう
とっこうやく
ることが発 見 されました。ノーベル賞と 狭 心 症 の特 効 薬 との関係、
きょうみ
なかなか興 味 をそそるものがありますね。
か が く こうぞうじょう しょうさんき
ぶ ん し はいれつ
ニトログリセリンは化学 構 造 上 、硝 酸 基 と呼ばれる分子 配 列 を持っ
ばくはつりょく
みなもと
かんどうみゃく
ています。この硝酸基は、 爆 発 力 の 源 であると同時に、冠 動 脈
ちょくせつかくちょう
さよう
を 直 接 拡 張 させる作用を持っているのです。この事実から、ニトロ
しょうさんやく
そうしょう
グリセリンなどの薬物は 硝 酸 薬 と、 総 称 されています。
しょうさんやく
¨
な か ま
硝 酸 薬 の仲間
ニトログリセリン、ニトロペン®、ニトロール®、アイトロール®、バソ
しょうさんやく
レータ ® 、ニトロダーム ® 、ニトロール・スプレー ® などは 硝 酸 薬 と
い わ れ る
なかま
きょうしんしょうほっさ
よぼう
かいぜん
げきてき
こうか
言われるものの仲間です。 狭 心 症 発 作 の予防と 改 善 に 劇 的 に効果
ただし
きょうしんしょう
びょうき
しんこう
たいして
よぼうこうか
があります(但し、狭 心 症 という病 気 の進 行 に対しての予防効果は
こんぽんてき
かいけつほう
たとえ
わるい
ありませんし、根 本 的 な解 決 法 ともなりません。例えは悪いですが、
たん
いたみどめ
おもわれる
ぶなん
単 なる痛み止め と思われる のが無難 です)。このニトログリセリンの
こうか
げきてき
効果は劇 的 ですので、胸の痛みがニトログリセリンによっておさまれ
(31)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
しんだん
くだせる
ば、それだけで狭心症という診 断 が下せるほどです。副作用として脳
ずつう
の血管が拡張することによる頭痛が起こることがあります。
ぜ っ か とうよほう
早い効果を期待するニトログリセリンは舌下投与法が用いられます。
ほっさ ど め
こうくうない
ふんむ
また、同様に発作止めのためのニトロール・スプレーも口 腔 内 に噴霧
こうくうねんまく
きゅうしゅう
やくぶつ
かんぞう
ぶんかい
します。口 腔 粘 膜 から 吸 収 された薬 物 は肝 臓 で分 解 されること
すみやか
かんどうみゃく
とうたつ
ぜっか
なく速やかに冠 動 脈 まで到 達 することができます。このための、舌下
とうよ
こうくうない ふ ん む
投与や口 腔 内 噴霧なのです。
こうかんしんけい しゃだんやく
¨
ベータ交感神経 遮断薬
しんぞう
かじょう
うごき
おさ
ベータ交感神経遮断薬は心 臓 の過 剰 な動きを抑 えます。これによって
さんそ
えいよう
しょうひりょう
おさえ
心臓の酸素と栄 養 の 消 費 量 が抑えられます。この結果、狭心症発作
き き す ぎ る
みゃくはく
おそく
が起こりにくくなります。薬が効きすぎると 脈 拍 が遅くなりすぎるこ
とがあります。
きっこうやく
¨
カルシウム拮抗薬
アダラート®、アムロジン®、ノルバスク®、ヘルベッサー®などの薬で
ちょくせつ どうみゃく
かくちょう
やっこう
はっき
す。 直 接 動 脈 を 拡 張 することによって薬 効 を発揮します。狭心
かん どうみゃく
けいれん
いけいきょうしんしょう
症の中でも特に、 冠 動 脈 の 痙 攣 を伴う狭心症( 異 型 狭 心 症 とか
あんせいじ きょうしんしょう
かんれんしゅくせい きょうしんしょう
安静時 狭 心 症 、あるいは 冠 攣 縮 性 狭 心 症 などと呼ばれます)
とっこうやく
きっこうやく
くだもの
に対しては特 効 薬 とも言われます。カルシウム拮 抗 薬 の中には、果 物
いっしょ
ふくよう
さよう
つよく
のグレープフルーツなどと 一 緒 に 服 用 すると、その作用 が強く なり
ふくさよう
あらわし や す く
やくぶつ
副作用を現 し 易くなる薬 物 もありますので、注意が必要です。アダラ
えいきょう
ート、カルスロットなどは 影 響 を強く受けますが、アムロジン、ノル
バスクなどは影響を受けにくいと言われています。
¨
アスピリン
ほんらい
ねつ
バッファリン 81 錠®やバイアスピリン®のことです。本 来 、熱 さまし
くすり
どうみゃく こ う か
よぼう
どうみゃく こ う か
けっか
の 薬 であったアスピリンが、 動 脈 硬化 の予防 や 動 脈 硬化 の結果
お こ る のうそくせん
のうこうそく
しんきんこうそく
きょうしんしょう
よぼう
ゆうこう
起こる 脳 塞 栓 、脳 梗 塞 、心 筋 梗 塞 あるいは 狭 心 症 の予防に有 効
こうけっしょうばん
であることが分かりました。この作用は、アスピリンの持つ抗 血 小 板
(32)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
さよう
けっしょうばん
にんげん
からだ
なか
しゅっけつ
作用 によるとされています。 血 小 板 は 人 間 の 体 の 中 で 出 血 を
と め る たいせつ
はたらき
になって
いっぽう
どうみゃく こ う か
止める 大 切 な働 き を担っています。しかし、その一 方 で 動 脈 硬化を
お こ し て
どうみゃく
たいして
わるい さよう
起こして いる 動 脈 に対して は時として悪い 作用 をします。これを
あ す ぴ り ん
そ し
ばんのう
ひやく
アスピリンが阻止するのです。アスピリンは今や万 能 の秘薬とまで言
ふくようりょう
おおすぎる
ぎゃくこうか
われるくらいです。但し、 服 用 量 が多すぎると逆 効 果 だとも言われ
いちにち いちじょう
にじょう
さいてき
ます。 一 日 一 錠 から 二 錠 が 最 適 とされています。アスピリンは
いかいよう
ゆうはつ
い
いたみ
おぼえ
胃潰瘍を誘 発 することがありますので、胃の痛みを覚えられたならば
まれ
ぜんそく
よ ば れ る
すぐに医師に報告して下さい。また、希 にアスピリン喘 息 と呼ばれる
ぜんそくよう
こきゅうこんなん
はつ
喘 息 様 の呼 吸 困 難 が誘発 される場合もあります。
そ
¨
の
た
こう けっしょうばん やく
その他 の抗 血 小 板 薬
チクロピジン(パナルジン®とかチクピロン®)とかシロスタゾール(プレ
きょうりょく
こうけっしょうばん さ よ う
タール®)などです。特にパナルジンは 強 力 な抗 血 小 板 作用を有し
けっせんへいそく よ ぼ う
ているため、冠動脈内ステント植え込み後のステント血 栓 閉 塞 予防の
も ち い ら れ ま す
やくざい
のう こうそく
よ ぼ う やく
ために用いられます。また、これらの 薬 剤 は、 脳 梗 塞 の予防 薬 とし
へいそくせい か し どうみゃくこうかしょう
ちりょう
て、あるいは閉 塞 性 下肢 動 脈 硬 化 症 の治 療 薬としても用いられま
す。
じゅうとく
ふくさよう
チクロピジンはとても大切な薬ですが、残念ながら 重 篤 な副作用が
はつげん
じゅうとく
ふくさよう
じゅうだい
発 現 することもあります。これらの 重 篤 な副作用としては、重 大 な
かん き の う しょうがい
けっしょうばんげんしょうしょう
はっけっきゅうげんしょうしょう
肝 機能 障 害 、白 血 球 減 少 症 あるいは 血 小 板 減 少 症 などが
ひしん
知られています。また、それ以外にも皮疹が出現することもあります。
このため、チクロピジンを服用してから少なくとも最初の 2 ヶ月間は 2
ぎ む づ
週間に一回の血液検査をすることが義務付けられていますので、どう
きょうりょくくだ
ぞご 協 力 下さい。
わずら
このように 煩 わしい合併症のある抗血小板薬でしたが、現在では、日
ふくさよう
本で開発され、日本人に対して副作用が少なく、しかも有効性が高い
やくざい
よう
すぐれた薬剤であるプラスグレル(エフィエント®)が用いられるように
かいはつ
なっています。また、フランスで開発されたクロピドグレル(プラビッ
もち
クス®)という抗血小板薬も以前は良く用いられていましたが、現在はエ
お
き
か
わ
り
フィエント置き換わりつつあります。
(33)
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こうけっしょうばんやく
いっしょ
ふくやく
また、アスピリンとこれらの抗 血 小 板 薬を一緒に服薬すると、胃潰瘍
しゅっけつ
などに伴う胃からの 出 血 を起こすこともあります。これに対して、タ
いかいよう
ふ せ ぐ やくざい
けんこう ほ け ん
ケプロン OD という胃潰瘍を防ぐ薬剤を併用することが、健康保険で
みと
も認められています。
さようきじょ
なお、アスピリンと、プラスグレル(エフィエント®)は、別々の作用機序
こうけっしょうばんさようをはっき
により抗血小板作用を発揮します。このため、十分な抗血小板作用を
たんどく
期待する時には、どちらか単独ということよりも、両者同時に服薬す
ふたえこうけっしょうばんりょうほう
ることが必要です。このことを二重抗血小板療法 と呼びます。
¨
ワーファリン
こうぎょうこやく
ワーファリンは抗 凝 固 薬 と呼ばれています。体の中の血液を固める作
用をブロックします。この薬物は非常に強力な薬剤ですので、血液検
とうやくりょう
けってい
査によって効き具合をチェックしながら 投 薬 量 を 決 定 します。
りそうてき
こくさい ひょうじゅんか
理想的 に は INR(=International Normalized Ratio: 国 際 標 準 化
ひりつ
比率)という値が 2.0 前後にあることが良いとされています。
ききぐあい
たいちょう
しょくもつせっしゅ
ワーファリンの効き具合は 体 調 や 食 物 摂 取 によって大きく影響さ
なっとう
きょくたん
おおく
おうりょくしょく や さ い
せっしゅ
れます。特に、納 豆 や 極 端 に多くの 黄 緑 色 野菜の摂 取 によって、
その効果は失われます。従って、ワーファリンを服用している時には、
なっとう
特に納豆 は残念ながら食べることが出来ません。ワーファリンは
しんぼうさいどう
じんこうべん ち か ん ご
こうはん
しんきんこうそくご
し ん き のう
心 房 細 動 や人 工 弁 置換後、あるいは広 範 な心 筋 梗塞後、また心機 能
ていか じ
のうこうそく よ ぼ う
低下時などの脳 梗 塞 予防に対して用いられることがあります。ワーフ
せつじょ
ァリンを服用している時に行われる何らかの手術、ポリープ切 除 ある
ばっし
げんじゅう
かんり
ちゅうい
ひつよう
いは抜歯などには 厳 重 な管理と注 意 が必 要 です。ワーファリンはと
き
き
す
ぎ
る
ても大切な薬ですが、利き過ぎると出血を起こす危険があります。こ
はぐき
しゅっけつ し ぎ ん しゅっけつ
び しゅっけつ
ひ か しゅっけつ
かんせつ
の中には、歯茎からの 出 血 (歯齦 出 血 )、鼻 出 血 、皮下 出 血 や関 節
ないしゅっけつ
じゅうとく
のうないしゅっけつ
しょうかかんしゅっけつ
内 出 血 などだけでなく、重 篤 な脳 内 出 血 や消 化 管 出 血 なども
ていきてき
あります。従いまして、ワーファリン服用中は定期的な INR のチェッ
ひつよう
クを必ず行って頂く必 要 があります。
ち
は
話しはかわりますが、心房細動があれば、心臓の中で血液が固まり、
けつりゅうしゃだん
これが動脈血にのって全身に飛び、動脈にひっかかり 血 流 遮 断 をお
(34)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
そくせんしょう
こすことがあります。この状況を 塞 栓 症 と呼びます。これを予防す
こうぎょうこりょうほう
るためには、ワーファリンによる抗 凝 固 療 法 が有効です。しかしな
しゅっけつ
がっぺいしょう
がら、抗凝固療法には 出 血 の 合 併 症 があります。ワーファリンを
はんてい
服用するべきか否かの判 定 には、CHADS2 スコアというものが簡単で
ゆうこう
うっけつせい しん ふ ぜ ん
有 効 です。C = Congestive heart failure ( 鬱 血 性 心 不全 )、H =
ねんれい75さい
Hypertension (高血圧症)、A = Aged (年 齢 75 歳 以上)、D = Diabetes
のうそっちゅう
きおう
mellitus (糖尿病)、S2 = Stroke (脳 卒 中 の既往) の各項目が有るか
あ れ
無いかをまずリストアップして下さい。有れば 1 点としますが、S の
こうもく
ごうけいてん
項 目 のみ有れば 2 点とカウントして、その合 計 点 を求めます。この合
こうぎょうこりょうほう
かいし
しんけん
こうりょ
計点が 1 点であれば、抗 凝 固 療 法 の開始を真 剣 に考 慮 すべきです。
こうぎょうこりょうほう
かいし
2 点以上であれば、抗 凝 固 療 法 を開始すべきとされています。
ちょくせつ
¨
そがいざい
だ い 十 い ん しそがいやく
直 接 トロンビン阻害剤 と第十因子 阻害薬 (Xa 因子阻害薬)
こうぎょうこやく
プラザキサ® (ダビガトロン)という新しい抗凝固薬が 2011 年 4 月より
ぎょうこけい
認可されました。この薬は、凝固系の引き金を引くトロンビンの働き
ちょくせつ そ が い
を 直 接 阻害することによって、血栓の形成を抑制します。
そがいやく
プラザキサに引き続いて使われるようになったのが、第 Xa 因子阻害薬
四しゅるい
です。現在プラザキサと合わせると四種類ありますが、これらの薬剤
しんきけいこうこうぎょうこやく
をまとめて、NOAC (Novel Oral Anti-Coagulants: 新規経口抗凝固薬)
と呼ばれます。
プラザキサ® (ダビガトロン)は血液凝固の引き金となるトロンビンとい
そがい
う物質の働きを阻害する薬剤でしたが、トロンビンができることに関
やくざい
与する第 Xa 因子の働きをブロックする薬剤です。
この仲間には、イグザレルト® (リバロキサバン)、リクシアナ® (エドキ
サバン)、エリキュース® (アピキサバン)があります。ワーファリンとこ
りんしょう し け ん
の薬剤を比較する 臨 床 試験の結果は、脳卒中や全身の塞栓(血栓が飛ん
きけんせい
できて詰まること)を起こす危険性を減らしただけでなく、ワーファリ
きけんせい
さようきじょ
ンの危険な合併症である出血の危険性も減らしました。また、作用機序
がワーファリンと全く異なりますので、INR 検査の必要性はありませ
なっとう
おうりょくしょく や さ い
んし、納豆や 黄 緑 色 野菜を食べて頂いても結構です。
かっきてき
けいざいてき
このため、(この画期的な新薬は高価なので)経 済 的 なことを考えねば、
(35)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
も ち い る ひつよう
やくざい
今後はワーファリンを用いる 必 要 のある患者さんの多くに、この薬 剤
もち
がとってかわって用 いられていくものと思われます。但し、重要なこ
じんこうべんうえこみかんじゃ
しんぞうべんまくしょう
とは、人工弁植え込み患者さんや、心臓弁膜症 を伴う心房細動患者さ
ゆうこうせいがひくい
んです、このお薬は、ワーファリンに比べて、有効性が低いため、服
きけん
薬するのは危険です。
やくざい
¨
ARB と呼ばれる薬剤
どうみゃく
きんちょう じょうたい
かいじょ
ディオバン®、ブロプレス®などです。 動 脈 の 緊 張 状 態 を解 除 し
ます。
な か ま
¨
スタチンの仲間
クレストール®、メバロチン®、ローコール®、リピトール®、リポバス®
かんぞう
ごうせい
おさえる
などです。コレステロールの肝 臓 での合 成 を抑えることによってコレ
にじてき
ステロール値を下げます。これによって二次的に狭心症や心筋梗塞を
あくだま
抑えることができます。特に悪玉コレステロールと呼ばれる LDL コレ
ていか
ステロールを低下させることができます。
またスタチンではありませんが、ゼチーア®と呼ばれる薬もあります。
ちょうかん
さいきゅうしゅう
この薬剤は、 腸 管 でのコレステロール 再 吸 収 を抑えることにより、
あくだま
悪玉コレステロールを低下させます。
た
¨
やくぶつ
その他 の薬物
とうにょうびょう
こうけつあつ
こうにょうさんけっしょう
りにょうざい
糖 尿 病 、 高 血 圧 や 高 尿 酸 血 症 に対する薬、 利 尿 剤 あるいは
きょうしんやく
ふくよう
強 心 薬 なども必要に応じて服 用 する必要があります。
だ い き ぼ りんしょう
これらの薬物の中で、今まで世界じゅうで行われてきた大規模 臨 床
しけん
にじてき
よぼうこうか
試験によって虚血性心疾患に対する二次的な予防効果(=その後に急性
しょうめい
心筋梗塞や突然死が起こる可能性が低下する)が 証 明 されている
やくぶつ
こうかんしんけいしゃだんやく
いちぶ
薬 物 としては、アスピリン、ベータ交 感 神 経 遮 断 薬 、一部のカルシ
きっこうやく
そがいやく
しょうさんやく
ウム 拮 抗 薬 、ACE阻害薬 そしてスタチンがあります。 硝 酸 薬 は
しょうじょう
げきてき
かいぜん
ざんねん
よぼうこうか
しょうめい
症 状 を劇 的 に改 善 しますが、残 念 ながら予防効果は 証 明 されて
いません。
(36)
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かんどうみゃくばいぱすしゅじゅつ
² 冠動脈バ イパス手術
冠動脈バイパス手術は 1950 年代の昔に米国で開発された手術法です。
詰まったり狭くなったりした冠動脈の先に、新たに血管をつないで
わきみち
脇 道 (バイパス)を通して血液を流す手術法です。このバイパスとして
あし
じょうみゃく だいふくざいじょうみゃく
むね
うちがわ
用いる血管には、足 の 静 脈 ( 大 伏 在 静 脈 )、胸 の内 側 を走ってい
どうみゃく ないきょうどうみゃく
る 動 脈 ( 内 胸 動 脈 )その他の動脈が用いられます。
これまでに多くの人々の命を救ってきた手術ですが、やはり心臓に対
じゅうだい
しゅじゅつがっぺしょう
する手術ですので 1~2%程度の 重 大 な 手 術 合 併 症 を伴います。心
ぎじゅつてきしゅうれん
臓外科医はこの合併症を少しでも低下させるために、技 術 的 修 練 を
つづける
しゅじゅつほう
かいりょう
続けるだけでなく 手 術 法 の 改 良 を常に行っています。
きょうしんしょうやしんきんこうそく
² 狭心症や 心筋梗塞 に対する カテーテル治療
きょうがわてきかんどうみゃくけいせいじゅつ
これは現在では PTCA(経 皮 的 冠 動 脈 形 成 術 )とか PCI(経皮的冠動脈
ちりょうほう
インターベンション)と呼ばれる治療法であり、1977 年に世界で第一例
しょうめい
目の治療が開始されて以来その効果は 証 明 されている治療法です。日
げんていされたしせつ
本においても、1981 年頃より限定された施設において開始されました
ほけんしんりょうか
が、その後 保険診療下でも行うことのできる正式に認可された治療
さ
い
と
う
法です。湘南鎌倉総合病院循環器内科 齋藤 滋は、この治療に 1981
年より取り組んでいる日本のみならず世界をリードしている医師です。
この治療法についての詳しい説明は、次に述べます。その前にここま
りかい
での説明をご理解頂けましたでしょうか?
(37)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
お
よ
み
n これまでお読みになり、心臓カテーテル検査
せんたくてき かんじょう どうみゃく ぞうえい
あるいは選択的 冠 状 動 脈 造影というものに
り か い いただ
ついてご理解 頂 けましたか?
むずかしい ないよう
いちど
こんなん
しつもん
難しい 内 容 なので一度でご理解して頂くのは困 難 かも知れません。ご質 問 な
い し
かんごし かんごふ
どがございましたならば医師や看護師(看護婦)にご質問ください。そして、患者
ないよう
う け る りえき
さんとご家族が病気について、検査法の内 容 について、検査から受ける利益と
こうむるかのうせい
ふりえき
被 る 可能性のある不利益について十分にご理解して頂くことをお願いします。
しょうなんかまくらそうごうびょういん しんぞう
じゅんかんきか
そして、私たち 湘 南 鎌 倉 総 合 病 院 心 臓 センター循環器内科 のスタッフ、
しょくいんいちどう
びょうき
ちりょう
職 員 一 同 と一緒になって病 気 を治 療 していきましょう。
きょけつせいしんしっかん
ちりょう
私たち、湘南鎌倉総合病院心臓センター 循環器内科は虚 血 性 心 疾 患 の治 療
せかい
せいか
においてこれまでにも世界をリードする成果をあげてきました。これらの成果
べいこくゆうめい い が く せんもんし
ろんぶん
を過去 10 数年間にわたり、米 国 有 名 医学専門誌に 40 本以上の論 文 として
はっぴょう
ろんぶん
ぜんせかい
じゅんかんきか い し
よ
発 表 してきました。これらの論 文 は全世界の循環器内科医師に読まれてきま
せかいじゅう
きょけつせいしんしっかん
た い す る ちりょうせいせき
いちじるしくこうじょう
した。これにより世 界 中 で虚 血 性 心 疾 患 に対する 治 療 成 績 が著 し く 向 上
かんじゃ
ごかぞく
かたがた
ぜんせかい
ひとびと
してきました。私たちは患 者 さんおよびご家族の方 々 とともに全世界の人 々
いのち
すく
じ ふ
も
こんご
どりょく
の 命 を救 っているという自負を持って今後とも努 力 していきます。
こ の 文 章 の 内 容 に つ い て 、 ご 意 見 ・ ご 指 摘 な ど が ご ざ い ま す れ ば 、
[email protected] まで電子メールをお送り頂ければ幸です。あるいは、文責
を 担 っ て お り ま す 湘 南 鎌 倉 総 合 病 院 心 臓 セ ン タ ー 循 環 器 内 科 部 長 齋 藤 滋 ま で 直 接
ご指摘下さい。皆様方の貴重なご意見により、この説明文をより良いものに改善してい
きたいと存じます。
(38)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
けいひてきかんどうみゃく
n 経皮的冠動脈インターベンション ( =
けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ
経皮的冠動脈形成術)とは
れ き し
けいひてきかんど うみゃく
² 経皮的冠 動脈 インター ベンション の歴史
けいかんてき
経皮的(経 管 的 )冠動脈形成術(PTCA = Percutaneous Transluminal
だいがく
Coronary Angioplasty)は、1977 年に当時スイスのチューリッヒ大 学
ふ ぞ く びょういん
きんむ
はかせ
かいし
付属 病 院 に勤務していたグルンツィッヒ(Gruentzig)博士により開始
かっきてき
ちりょうほう
むずかしい な ま え
された画期的な治 療 法 です。一見すると難しい名前がつけられていま
ごげん
ひ ふ
けいひてき
すが、その語源は皮膚を大きく切らずに(=経皮的)、血管の中からカテ
ひろ
けいかんてき
くだ
けいせいじゅつ
ーテルという管を用いて(=経管的)冠動脈を拡 げる(= 形 成 術 )という
ぞく
ふうせんりょうほう
意味です。風船による血管の拡張術ですので、俗 に風 船 療 法 とも呼
どうみゃくこうか
ばれています。グルンツィッヒ博士は動脈硬化で冠動脈が詰まってき
ふうせん
じたく
たならば中から風 船 で拡げれば良いのでは? と考え、自宅のガレージ
の中で友人たちと一緒に、冠動脈の中に入れることのできる小さな
どうぶつじっけん
ふうせん
風船を作りました。そして、その風船を用いて、動 物 実 験 を行いまし
じっさい
た。その成功に自信を持ってから実際の狭心症の患者さんに対して用
すうねんご
いました。これは 1977 年 9 月 16 日のことでした。ちなみにその数年後
ふこう
ひこうき じ こ
(1985 年)に、グルンツィッヒ博士は不幸な飛行機事故で亡くなられま
だいいちれいめ
かんじゃ
かん
したが、この第一例目の患 者 さんはそれから 20 年後の 1997 年に冠
どうみゃくぞうえい
さいきょうさく
ち
せ
も
に
動 脈 造影を受けられ、再 狭 窄 も無く、狭心症や心筋梗塞も無くお元
気でお過ごしになっておられることが公表されました。この成功した
さいしょ
いちれいほうこく
べいこくじゅんかんきがっかい
最 初 の一 例 報 告 はその年の米 国 循 環 器 学 会 において発表され、当
しんぞうびょうがく
かみさま
時も今も 心 臓 病 学 の神 様 とも呼ばれているブラウンワルド
ちゅうもく
べいこく
(Braunwald)博士の 注 目 を集めました。ブラウンワルド博士は米 国
せいふ
べいこく い し めんきょ
政府に働きかけ、特別にグルンツィッヒ博士に対して米 国 医師 免 許 を
きょうじゅ
発行してもらいアトランタの名門、エモリー大学に 教 授 として招きま
した。グルンツィッヒ博士はエモリー大学でその後も自分の作成した
ふうせん
じゅんかんきか
風船(=バルーン)の改良を続けるとともに世界中から循環器科の医師を
じっちしどう
招いてどのようにこの新しい治療を行うべきかを実地指導しました。
(39)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
せんじん
どりょく
ゆうこう
あんぜん
ちりょうほう
これらの先 人 の努 力 により、PTCA は有 効 で安 全 な治 療 法 として全
世界で行われるようになりました。
けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ
経 皮 的 冠 動 脈 形 成 術 はその後どんどん改良発展が行われました。
ふうせんちりょう い が い
この結果、グルンツィッヒ博士が考案した風 船 治 療 以外にも次に述べ
ことば
こんらん
ます色々な治療法が開発されてきました。現在では、言葉の混 乱 を
さ け る
けいひてきかんどうみゃく
避ける意味でも全世界的に経皮的冠動脈インターベンション(PCI =
Percutaneous Coronary Intervention)と呼ばれるようになってきてい
ます。ちなみにインターベンションという言葉は医学の世界ではレン
ちりょう
トゲンで見ながら切らずに行う治療を指す言葉として使われています。
かいにゅう
インターベンションという言葉の正式な日本語訳は「 介 入 」ではが、
ふさわしくないいんしょう
何となく相応しくない印象があるため、多くの場面でインターベンシ
ョンというカタカナが用いられています。
ブラウンワ ルド博士と齋藤 滋 (1999 年北京
で)
(40)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
けいひてきかんど うみゃく
² 経皮的冠 動脈 インター ベンション (経皮的冠 動脈形成
ぶんるい
術 )の分類
ふうせんちりょう
¨
風船治療 (POBA = Plain Old Balloon Angioplasty)
かんどうみゃく
最初にグルンツィッヒ博士が考案したバルーン(=風船)による冠 動 脈
かくちょうじゅつ
拡 張 術 です。現在ではグルンツィッヒ博士が考案した最初のバルー
ンよりも多くの改良が加えられ、性能・品質・安全性ともに著しく向
りんしょうけんきゅう
上しています。これまでの 臨 床 研 究 の結果、風船治療の有効性と安
全性は確認されています。このように風船治療は冠動脈形成術として
現在でも基本的な治療法です。
しかし一方で、風船治療に
はいくつかの重大な欠点
があることが分かってい
ます。その欠点としては、
さいきょうさく
かん
① 再 狭 窄 の存在、②冠
どうみゃくないまくかいり
動 脈 内膜解離や
きゅうせいかんへいそく
かくちょう ふ の う びょうへん
急 性 冠 閉 塞 の存在、そして③ 拡 張 不能 病 変 の存在が挙げられま
す。
さいきょうさく
ふうせんちりょう
① 再 狭 窄 : 風 船 治 療 によって狭くなった冠動脈がうまく拡がった
としても、半年以内にまた狭くなってしまうことがあります。この
げんしょう
現 象 を再狭窄と呼びます。これまでの研究で、風船治療の後に再狭窄
を起こす可能性は 40~50%あります。再狭窄のメカニズムとしては、
ち ぢ ま る だんせいしゅうしゅく
血管が拡げられたゴムが自然に戻るように縮まる 弾 性 収 縮 、新たに
さいぼうぞうしょく
ないくう
ないまくぞうしょく
細 胞 増 殖 が起こり血管の内 腔 のみが縮まる内 膜 増 殖 、そして血管
けっかんいんせいさいこうちく
そのものが縮んでくる血 管 陰 性 再 構 築 の三つが挙げられています。
これらのメカニズムによる再狭窄は風船治療の後、半年を過ぎればま
ず起こらない、とされています。このため、経皮的冠動脈形成術の半
かんどうみゃくぞうえい
年後に確認の 冠 動 脈 造 影 が行われます。また再狭窄を起こしやすい
(41)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
びょうへん
病 変 と起こしにくい病変があることも分かっています。
かんどうみゃくないまくかいり
きゅうせいかんへいそく
②冠 動 脈 内膜解離と 急 性 冠 閉 塞 : 風船治療によって狭くなった
ないまく
は
冠動脈が拡がったとしても、冠動脈の内側の壁(=内 膜 )が剥がれてしま
い、結果的に冠動脈が詰まってしまうことがあります。経皮的冠動脈
がっぺいしょう
形成術の中に風船治療しか無い時代には非常に怖い 合 併 症 でした。
ぜんしょうれい
はっせい
さいあく
しぼう
そのような時代には 全 症 例 の 2~5%で発 生 し、最 悪 の場合には死亡
がっぺいしょう
につながる 合 併 症 です。現在では、色々な治療法が開発されたため
にこのような合併症が起こったとしても多くの場合、安全に治療でき
ることが出来るようになっています。
かくちょう ふ の う びょうへん
きあつ
③ 拡 張 不能 病 変 : 現在用いられている風船は 20気圧ぐらいの
こうあつ
ひろげて
はれつ
ざいしつ
高 圧 で拡げても破裂しないような材 質 が用いられています。しかし、
かた
中には動脈硬化の結果狭い部分が非常に硬 くなり、20 気圧以上の圧力
をかけて拡げようとしても拡がらないことがあります。このような場
合には風船治療は全く歯が立ちません。
ぐたいてき
以前 具体的には 1977 年から 1993 年頃までですが、この間には臨床
ちりょうきぐ
使用できる治療器具としてはこの POBA しかありませんでした。今か
あんこくじだい
ら思えばこの時代は暗黒時代のようでしたね。しかし、その時代の医
こんなんなじょうきょう
師は、困難な状況 の中からひたすら高い技術を習得し、患者さんの治
療にあたってきました。時は経ち、その時代を知っていて
いまなおげんえきだいいっせん
今なお現役第一線で患者さんの治療に携わっている医師は日本全国で
かたてのゆびでかんじょう
も僕を含め片手の指で勘定しても余るぐらい少なくなってきました。
それを思えば、
「あーーー 歳とったなあ」と思います。でも、根がポ
ジティブですから、「いや、それだけ豊富な経験を積んだ医師なのだ」
と考えるようにしています。
かんどうみゃくない
¨
う え こ み じ ゅ つ
冠 動 脈 内 ステント植え込み術
き
ことば
ステントというのは聴きなれない言葉だと思います。ステントという
し か い
言葉はアメリカの歯科医であったステント(Stent)博士にちなんで名づ
はならび
きょうせい
けられた言葉です。ステント博士は歯並びの 矯 正 などを行うために
きんぞく
ささえ
こうあん
金 属 でできた支えとなるものを考 案 しました。これ以来、医学の世界
ではこのように支えとして用いる器具のことをステントと呼ぶことに
なりました。
冠動脈にステントが用いられるようになったのは 1986 年頃からです。
さいきょうさく
きゅうせいかんへいそく
風船治療に伴う欠点の中で、 再 狭 窄 と 急 性 冠 閉 塞 を治療するため
(42)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
いりょうよう
に考案されました。316L ステンレスと呼ばれる医療用に用いられてい
せいみつ か こ う ぎじゅつ
るステンレスのチューブをレーザーなどの精 密 加工 技 術 を用いて
あみじょう
かこう
かくちょうよう
ふうせん
そうてん
網 状 に加工し、 拡 張 用 の風 船 に装 填 した状態で供給されます。
さいきょうさくりつ
ステントを植え込むことによって、再 狭 窄 率 を 10~30%程度にまで低
かんどうみゃくないまくかいり
下させることができるようになりました。また、冠動脈内膜解離がお
きゅうせいかんへいそく
こってもステントを植え込むことにより急性冠閉塞 にならずに安全
ちりょう
に治療することも可能となりました。これらのステント植え込みによ
ぜんせかい
かんどうみゃくけいせいじゅつ
る多くの利点のために、全世界で冠 動 脈 形 成 術 の中でステント植え
込みが占める割合は 90%以上になっています。
このように良いことずくめのように思えるステントですが、血管の中
けっせん ち
かたまる
に金属を植え込むために、そこに血 栓 (血が固まること)ができて詰ま
う
こ
ご
ってしまわないように、植え込み後4 週間はアスピリン(バッファリン
81 とかバイアスピリン)とチクロピジン(バナルジン)あるいはプラビッ
クスやシロスタゾール(プ
レタール)などの
こうけっしょうばんやく
抗 血 小 板 薬 と呼ばれる
やくぶつ
ふくよう
ひつよう
薬 物 を服 用 する必 要 があ
ります。このように薬物を
服用していても、植え込み
後 4 週間以内に血栓によっ
て詰まってしまうこともわ
ずかですが報告されていま
す て ん と
す。このことをステント
けっせんへいそくしょう
血 栓 閉 塞 症 、あるいは
あきゅうせい す て ん と けっせんしょう
はっせい ひ ん ど
亜 急 性 ステント 血 栓 症 と呼びます。その発 生 頻度はステント植え込
ていど
み後の 0.1~0.2%程度とされています。
きんぞく
かたい
もくひょう
びょうへん
ステントは金 属 で出来ていて風船よりも硬いため、 目 標 の 病 変 ま
も ち こ も う
で持ち込もうとしても
も ち こ め な い ばあい
持ち込めない場合もあります。ス
そざい
こうひんしつ
テントの素材としては高 品 質 な
いりょうよう
医 療 用 ステンレスが用いられて
(43)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
こうせいせいぶん
います。ステンレスの構 成 成 分 の一つとしてニッケルという金属があ
きんぞく
りますが、このニッケルに対する金属アレルギーを強く持っている人
まれ
の中には、希 にステント植え込み後、色々なアレルギー性反応が起こ
かのうせい
してき
る可能性も指摘されています。
さいきょうさくりつ
ふうせんちりょう
ていか
ステントは 再 狭 窄 率 を風 船 治 療 よりも低下させますが、それでも
さいきょうさくりつ
0%にすることは出来ません(実際には 30%前後の再 狭 窄 率 がありま
そしき
ぞうしょく
す)。ステントの内側に新しい組織が 増 殖 してくるため、ステントの
ないくう
内腔が植え込み後半年ぐらいで狭くなることがあります。この現象を
せいのう
さいきょうさく
ステント内再 狭 窄 (In-Stent Restenosis)と呼びます。ステントの性 能
こうじょう
いろいろ
ほうほう
けんきゅう
をもっと 向 上 させるために色 々 な方 法 が 研 究 されてきました。現
ごうきん
在ではニッケルをステンレスよりも少量しか含まないクロム合金や白
金合金を用いたステントも使用されています。ここまでご説明したス
ろしゅつ
テントは金属がそのまま露出していますので、”裸の金属”ステント =
りゃく
Bare-Metal Stent 略 して BMS とも呼ばれています。
や く ざ い ようしゅつせい
¨
薬剤溶出性ステント(DES: Drug-Eluting Stent)
冠動脈インターベンションにおける大きな進歩である冠動脈内ステン
ないさいきょうさく
ト植え込みにも、ステント内 再 狭 窄 (ISR: In-Stent Restenosis)とい
う欠点があります。これに対して、DES と呼ばれる新しいステントが
用いられるようになってきました。
やくぶつ
ぬ
DES とはステントの表面に再狭窄を防ぐ薬物を塗ってあるステントの
かんどうみゃくない
ことです。これらの薬物は冠 動 脈 内 に植え込まれてから徐々に冠動脈
しんせいないまく
局所に作用し、ステント内再狭窄の原因であるステント内新生内膜
ぞうしょく
よくせい
増 殖 を抑制し、これによってステント内再狭窄を予防します。現在ま
りんしょう げ ん ば
でに世界の中の 臨 床 現場で用いられている DES としては、Cypher (サ
イファー)と呼ばれるものと、TAXUS (タクサス)と呼ばれるものがあり
めんえきよくせいざい
ます。前者は薬剤として免疫抑制剤である Sirolimus (シロリムス)が用
こうがんざい
いられ、後者のものは抗癌剤の一種である Paclitaxel (パクリタキセル)
が用いられています。世界的にこれらのステントの効果を検定するた
だ い き ぼ りんしょう し け ん
めに、大規模 臨 床 試験がたくさん行われてきました。その結果、これ
はだか
きんぞく
らの DES はこれまでのステント(” 裸 の金属”ステント = Bare-Metal
(44)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
きょういてき
さいきょうさく
よくせい
ちりょうご
しんじ こ
Stent : BMS)に比較して、驚異的に再 狭 窄 を抑制し、治療後の心事故
しぼう
かん
さいけいひてきかんどうみゃく
(死亡、心筋梗塞、冠動脈バイパス手術あるいは再経皮的冠動脈インタ
ーベンションなどのこと)を減らすことが証明されました。DES が初め
て患者さんに用いられたのは、1999 年ブラジル・サンパウロ(ダンチ・
パザネーゼ心臓病センター: Instituto Dante Pazzanese de
りんしょう
Cardiologia)でのことでした。この時の患者さんたちはその後も 臨 床
けいか
げんじゅう
かんさつ
べいこく
経過が 厳 重 に観察されて、世界に報告されています。2004 年の米国
しんぞうびょうがっかい
心 臓 病 学会(ACC: American College of Cardiology)において、これら
さいしょ
う え こ み
の患者さん達(現在では、
「人間における最初の植え込み」ということか
かしらもじ
りんしょうせいせき
ら、First-In-Man の頭文字をとり、これらの患者さん達の 臨 床 成績
りんしょう け い か
は”FIM”と呼ばれています)の 4 年後の 臨 床 経過が報告されました。こ
の報告では、4 年間が経過しても DES の再狭窄率は 0%であった、と
きょういてき
けっか
いう驚異的な結果が明らかにされました。
ちみなに、私 齋藤 滋は 2007 年 6 月 18 日にこのダンチ・パザネー
ゼ心臓病センターにおいて日本人医師として初めて経皮的冠動脈イン
ターベンションをデモしました。この日は、日本人最初の移民が 1908
かさ ど ま る
くなん
こうかい
年に神戸港を笠戸丸で出航し、苦難の航海の後にサントス港に着いて
きねん
から、ちょうど 99 年目に当たる記念すべき日でした。
現在では、世界中で DES が用いられており、場所によっては全ステン
ト植え込みの 90%が BMS でなく、DES が使われている国もあります。
かくめいてき
す ぐ れ た りんしょうせいせき
このように革命的に優れた 臨 床 成績を有する DES ですが、いくつか
の問題点が存在すると言われています。それらは、
けっせんへいそくしょう
こうけっしょうばんやく
① ステント血栓 閉 塞 症 を予防するために 2 種類の抗 血 小 板 薬を最低
かんこく
3 ヶ月から 6 ヶ月服用せねばならない(現在の勧告では最低 1 年間)。
これは、DES においては塗られている薬物の作用によりいつまでも
きんぞくひょうめん
かんどうみゃくない
ろしゅつ
金属表 面が冠動 脈 内に露出し、このために血栓が出来ることがあ
りえるからです。
② DES の価格が BMS よりも非常に高価であるので、用いることので
こすう
せいげん
きるステント個数に制限がある。
かんじん
③ ステントそのものとしての性能が必ずしも良くないので、肝腎の
びょうへん
病 変 にまで DES を持ち込むことができない場合がある(新しい
DES ではステントそのものの性能も非常に優れたものになってい
ます)。
りんしょうしけん
などです。これらの欠点に関してはその後、臨床試験および日本国内
(45)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
ちけん
治験を経て、数々の改良された薬剤溶出性ステントが使われるように
なってきました。
し
ょ
う
か
ま
じ
ゅ
ん
か
ん
き
か
ちなみに湘南鎌倉総合病院循環器科では次世代の薬剤溶出性ステント
ゆうこうせい
あんぜんせい
けんしょう
の日本人の患者さんに対する有効性と安全性を 検 証 するための厚生
ちけん
こくさいきょうどうりんしょうしけん
労働省監督下の日本国内治験や国際共同臨床試験 を数多く行ってい
しゅようけんきゅうしゃ
ますし、齋藤 滋はそれらの治験の日本における主要研究者 になって
おります。
こくさいきょうどうりんしょうしけん
これまでたくさんの患者さんのご協力の下で国際共同臨床試験 と日
こくないちけん
本国内治験の結果、現在では エンデバー(Endeavor)、ザイエンス
(Xience)、プロムス(Promus)、ノボリ(Nobori)、リゾルート(Resolute)、
ザイエンス・エクスペディション(Xience Xpedition)、プロムス・プレ
せかいさいしん
ミア(Promus Premier)といった世界最新の薬剤溶出性ステントも日本
ほけんしんりょうか
国内において保険診療下で使用できるようになっています。
これら新しい薬剤溶出性ステントでは金属ステントの表面に薬剤を制
御された期間のみ貼付しておくためにポリマーが金属ステント表面に
塗ってあり、そのポリマーに薬剤が埋め込まれているのが一般的です
が、新しい薬剤溶出性ステントでは、薬剤として、シロリムスのみな
らず、エバロリムス、ゾタロリムス、バイオリムスなどの他の薬剤が
用いられたり、ポリマーが生体吸収性であり、ポリマーや薬剤が九州
された後では、金属製ステントそのものになったりするようにもなっ
ています。
さらに、ステント本体が金属でなく、2 年ぐらいの経過で完全に吸収さ
こうぶんしかごうぶつ
かんぜんせいたいきゅうしゅうせい
れて無くなってしまう材料(高分子化合物)を用いた完 全 生 体 吸 収 性
やくざいようしゅつせい
薬剤溶出性 ステントも使えるようになります。
恐らく 2016 年から日本でも一般的に臨床使用できる完全生体吸収性
薬剤溶出性ステントとしては、BVS (Bioresorbable Vascular
Scaffolding)があります。湘南鎌倉総合病院循環器内科では 2011 年 6
こくさいりんしょうしけん
月に日本国内では第一例目の植え込みを国際臨床試験の一環として行
にほんこくないちけん
い、その後日本国内治験でも植え込みを行い、これまでに合計 40 人の
患者さんに対して植え込みを行っています。
ほうこうせいかんどうみゃくないけっせんせつじょじゅつ
¨
方向性冠動脈内血栓切除術 (DCA)
こうせいろうどうしょう
いりょう よ う ぐ
日本では風船治療に次いで、1993 年に厚生 労 働 省 より医療用具とし
ちりょう き ぐ
ての認可が降りた治 療 器具です。英語で Directional Coronary
かしらもじ
Atherectomy と呼ばれ、その頭文字をとり DCA と簡単に呼ばれます。
(46)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
ほうこうせいかんどうみゃくない あ て ろ ー む せつじょじゅつ
直訳すると方 向 性 冠 動 脈 内 アテローム 切 除 術 ということになり
どうみゃく こ う か
かたまり
さ
し
ます。アテロームというのは医学用語で 動 脈 硬化の 塊 のことを指し、
ことば
わ
か
る
に ほ ん ご
おおやけ
さ
だ
め
この言葉からも分かるように日本語で 公 に定められた血栓切除術と
は
いう言葉は正しくはありません。文字通り DCA ではカンナのような刃
かんどうみゃくない
け ず り と り
かいしゅう
で冠 動 脈 内 のアテロームを削り取り、それを 回 収 してきます。この
りそうてき
治療法は悪い部分のみを切除できるので理想的に思えますが、欠点と
き ぐ
ふとく
ひかくてき か た い
しては、器具が太くしかも比較的硬いために限られた病変しか対象と
ならないことです。また、治療に要す
る時間も長くかかります。また、再狭
窄率も 20%以上になります。このよう
に DCA は欠点が多い器具であるため、
その使用は限られた症例のみというこ
とになります。2008 年になって、この
ちりょうきぐ
せいさん
かいしゃ
治療器具を生産していた会社は
せいさんちゅうし
生産中止を全世界に発表しました。
りんしょうのばめん
DCA はその後臨床の場面で使用されな
くなり、これを生産していたメーカー
も生産を中止したため、全世界におい
て使用できなくなっていましたが、限
びょうへん
定された 病 変 に対しては非常に有用
な器具でありますので、その後日本の
メーカーが再開発を行い、今後再び
りんしょうしよう
臨床使用できるようになります。
ロータブレーター
(Rotablator)
¨
ロータブレーター(Rotablator)は風船、
ステントあるいは DCA とは異なり、
せんたん
ふんまつ
こ ま か い
先端に細かいダイヤモンド粉 末 が
ぬ ら れ た きんぞくきゅう
塗られた 金 属 球 を一分間に 150,000
回転以上で高速に回転させることによ
か た い せいぶん
こなごな
くだいて
り、硬い 成 分 を粉 々 に砕いていく治療
しかよう
法です。ちょうど、歯医者さんで使われる歯科用ドリルを思い浮かべ
て下さい。歯科用ドリルも先端にダイヤモンド粉末が塗られた金属ド
かたい か る し う む
しゅせいぶん
リルを高速で回転させることにより非常に硬いカルシウムを主 成 分
(47)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
し が
かくちょう
とする歯牙を削ることができます。先に、風船治療の欠点として 拡 張
ふ の う びょうへん
不能 病 変 が存在することを述べましたが、まさしくロータブレーター
ちんちゃく
はこのような硬い病変に対して用いられます。カルシウムが 沈 着 して、
ほね
骨 のようにとても硬くなった病変もロータブレーターを用いることに
かたいぶぶん
ふんさい
より硬い部分を粉 砕 し、充分に拡張することができるようになります。
せっけっきゅう
ち い さ い かたまり
粉砕されたアテロームは 赤 血 球 よりも小さい 塊 となるために冠動
かんじょうみゃく
ひぞう
ほそく
しょり
脈から冠 静 脈 に入り、やがて脾臓などで捕捉されて処理されてしま
います。
じゅくれん
この治療法は非常に強力なものですが、それだけにその使用には 熟 練
けいけん
ひつよう
と経 験 が必 要 です。このため、日本においては全国 200 余りの病院で
しか用いることができないように定められています。もちろん、湘南
鎌倉総合病院心臓センター 循環器科では当初から用いることができ
ます。
¨
カッティング・バルーンとその仲間
たんじゅん
ひろげ
通常の風船治療では、狭くなった病変を中から 単 純 に拡げます。その
びょうへん
さ け め
はいります
かって
結果、病 変 には裂け目が入りますが、この裂け目は勝手に入ってしま
います。これに対して、カッティング・バルーン(Cutting Balloon)で
びさい
は
は風船の表面 3 方向に微細な刃がついています。これによって、病変
に対して裂け目をその 3 方向のみに入れることができます。こうする
ゆうこう
かくちょう
ことによって、ある種の病変に対しては有 効 に 拡 張 することが可能
となります。
びさい
現在では金属製の微細な歯を合成樹脂に置き換え、柔軟性を増したデ
きんぞくせいのは
ィバイス(NSE)や、金属製の歯の代わりに、バルーンの周囲にワイヤー
へいこう
を巻きつけたもの、さらにはワイヤーそのものをバルーンに平行する
歯として利用するものなども使用されています。
かんどうみゃくまっしょう ほ
¨
ご
冠 動 脈 末 梢 保護システム
きゅうせい しんきん こうそく
ふあんてい きょうしんしょう
きゅうそく
急 性 心 筋 梗 塞 や不安定 狭 心 症 、あるいは 急 速 に進行してきた
(48)
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びょうへん
じょうみゃく
病 変 や、 静 脈 バイパス血管などに対して、ステント植え込みやバル
かくちょう
しぼう
かたまり
けっせん
ーン 拡 張 を行った場合、時として病変部から脂肪の固まりや血 栓 その
ぶっしつ
かん どうみゃく まっしょう
他の 物 質 が 冠 動 脈 末 梢 に流れることがあります。こうなると、
びょうへんぶ
きれい
ひろがって
ぶっしつ
かんどうみゃくまっしょう
病 変 部 は綺麗に拡がっているのに、これらの物 質 が冠 動 脈 末 梢 の
ほ そ い どうみゃく
つ
まったくけつえき
ながれない
じたい
おちいる
細い 動 脈 に詰まり、全 く 血 液 が流れないという事態に陥 る ことがあ
ながれ
な い
ります。この現象は、
「流れが無い」、という英語から”No flow”と呼ばれ
ます。
これは、非常に怖い合併症です。この合併症を予防するために、場合に
よっては、冠動脈末梢保護システム(パークサージ: PercuSurge)という
システムを用いることがあります。
もっともこのシステムは未だ不完全であり、全例に対して用いる訳には
かんどうみゃくけつりゅう
いきません。また、このシステムを用いている間は、冠 動 脈 血 流 が
かんぜん
すうふんかん と ぜ つ
完 全 に数 分 間 途絶しますので、通常の PCI に対して用いるには問題が
あります。
そくせんぶっしつ
またこれとは別に先端に目の細かい網が拡がり塞栓物質 をトラップす
るようにできたフィルターワイヤーというものも使われます。
ほじょてき
¨
も ち い ら れ る き
ぐ
補助的に用いられる器具
経皮的冠動脈形成術をより安全に、より確実に行うために各種の補助
的な器具を用いることがあります。
かんどうみゃくないちょうおんぱしんだん そ う ち
①冠 動 脈 内 超 音 波 診 断 装置 : IVUS (Intra-Vascular
びさい
ちょうおんぱかんさつ
UltraSound)とも呼ばれます。冠動脈内に挿入した微細な超 音 波 観 察
(49)
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そうち
装置によって冠動脈の中から病変の様子を観察する装置です。
だんめんをかんさつ
これにより冠動脈の断面を観察することが可能です。冠動脈造影のみ
ひょうかこんなん
りょうやせいじょう
では評価困難な冠動脈壁内のプラークの量 や 性 状 などを正確に観察
かくちょうのていど
することができ(図)、かつ治療時のステントの拡張の程度なども観察
てきせつなちりょう
することが可能です。この結果、必要な病変に対して適切な治療を行
さいきょうさくやけっせんしょう
うことが可能となり、ステントの再狭窄や血栓症 などを減らすなど安
そしきせいじょう
全性を高めることが証明されています。さらに、プラークの組織性状を
しょうらいてきなかんどうみゃくのぞうあくをよち
評価することも可能となり、将来的な冠動脈の増悪を予知することが
期待されています。
きんせきがいせんぶんこうけい
また、近赤外線分光計(Near-Infrared Spectroscopy, NIRS)が 2015
年に導入予定されています。IVUS と同様に冠動脈内に持ち込み可能で、
きんせきがいせん
近赤外線を用いて冠動脈内のプラークを化学的に検出します。IVUS と
し し つ に と ん だ ふ あ ん て い
一つのシステムで併用することが可能で、脂質に富んだ不安定プラー
かんどうみゃくぷらーくぞうあくのそうきはっけん
クの検出に優れており、冠動脈プラーク増悪の早期発見が期待されて
います。
かんどうみゃくないけつりゅうそくてい そ う ち
ちょうおんぱ
②冠 動 脈 内 血 流 測 定 装置 : やはり超 音 波 を冠動脈内で発射す
ることによってドップラー効果を利用して冠動脈内の血流を測定する
装置です。
かんどうみゃくないあつそくてい そ う ち
きょくしょけつあつ
③冠 動 脈 内 圧 測 定 装置 : 冠動脈内の 局 所 血 圧 を測定すること
かんけつりゅうよびりょうひ
ができます。これにより FFR (冠血流予備量比)を測定することができ、
(50)
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ひつようせいはんてい
治療の必要性判定が可能です。
ひかりかんしょうだんそうほう
④光 干 渉 断 層 法 (OCT: Optical Coherence Tomography)
しょうさいにかんさつ
OCT は、IVUS と同様に、冠動脈内の状態を詳細に観察するため、約
そうにゅう
1mm 弱の細いカテーテルを冠動脈に 挿 入 して行う検査です。OCT は
きんせきがいせんひかり
しょうしゃ
えいぞうか
プローブから近赤外線光 を生体に 照 射 して映像化する技術であり,
せんく
日本から世界に先駆けて 1990 年に考案されました(1)。その後,
Massachusetts Institute of Technology の Huang らが,
もうまくとかんどうみゃく
網膜と冠動脈を in vitro で観察した例を報告して,まず、眼科の分野
はってんをすい
を中心に目覚しい発展を遂げました(2)。冠動脈の分野では 2000 年よ
りんしょうけんきゅうがほうこく
りヒトに対して使用した臨床研究が報告 されており,2002 年頃から
りんしょうげんば
臨床現場で使用され始めました。
かんさつかのうはんい
OCT の観察可能範囲は最大で 10mm と IVUS よりは劣るものの、解像
しょうさいにかんさつ
度は 10 倍を有し、数秒で冠動脈全体を詳細に観察する事が可能です。
ぞうえいざい
手技は短時間で安全性が示されていますが、IVUS と異なり、造影剤な
どで冠動脈内を満たす必要があります。しかしながら、プラークの
せいじょうどうてい
せんいせいひまく
性 状 同 定 や線維性被膜の厚さ計測,そしてステント留置後の詳細な観
しょうれい
察などは OCT 以外の検査では得られない情報であり、 症 例 によって
じゅうようなけんさ
は今後の治療方針が決まる重要な検査と考えられています(3-5)。
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(51)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
かんどうみゃくないけっかんないしきょう
びさい
ないしきょう
⑤冠 動 脈 内 血 管 内 視 鏡 : 微細な内 視 鏡 を用いることによって病
変の性状を詳しく観察することができます。
いちじてき
はくどう
⑥一時的 ペースメーカー: 心臓の拍 動 がゆっくりとなることがあ
ります。このような場合には、一時的ペースメーカーを用いて心臓を
しげき
みゃくはくすう
電気で刺激して 脈 拍 数 を保つようにします。
だいどうみゃくない
⑦ 大 動 脈 内 バルーン・パンピング: IABP (Intra-Aortic Balloon
Pumping)とも呼ばれます。心臓のポンプとしての働きが弱っている時、
冠動脈の血流を増加させたい時、あるいは予防的に用いられます。足
つ け ね
どうみゃく だいたいどうみゃく
の付け根の 動 脈 ( 大 腿 動 脈 )から 30~40CC の細長い風船を
だいどうみゃく
大 動 脈 に入れます。この風船を心電図と同期させながらヘリウム・
かくちょうき
ふくらませ
ガスによって心臓の拡 張 期 に膨らませます。これにより、心臓が休む
時にかわりに全身に血液を送り出します。
け い ひ て き じんこうしんぱい
け い ひ て き しんぱい ほ じ ょ
⑧経皮的 人 工 心 肺 あるいは経皮的 心 肺 補助 : PCPS
(Percutaneous Cardio-Pulmonary Support)とも呼ばれます。心臓の働
きが極度に低下した時に、足の付け根の動脈と静脈から管を心臓の近
じゅんかん
くまで挿入し、体の外に置かれたポンプを用いて血液を全身に 循 環 さ
さんそ
てんか
せます。この時に、血液に十分な酸素を添加させます。
さいしんいりょう き ぐ
⑧その他状況に応じて各種の最 新 医 療 器具を用いることがあります。
けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ
じっさい
お こ な わ れ る
² 経皮的冠 動脈形成術 は実際 にどのよ うに行われる の
でしょう ?
かんどうみゃくない
ふうせん
ちりょう き
ぐ
冠 動 脈 内 に風船などの治療器具を持ち込むためには、まず動脈にカテ
ーテルと呼ばれる管を入れる必要があります。カテーテルを動脈に入
あし
つ
け
ね
どうみゃく
れる場所は主に3ヵ所あります。それは足の付け根の 動 脈 (=
だいたいどうみゃく
ちゅうどうみゃく
てくび
大 腿 動 脈 )、肘の部分の動脈(= 肘 動 脈 )そして手首の動脈(=
とうこつどうみゃく
橈 骨 動 脈 )です。この3ヵ所の中で大腿動脈と橈骨動脈が良く用いら
れます。
だいたいどうみゃく
¨
かんどうみゃくけいせいじゅつ
大 腿 動 脈 よりの冠 動 脈 形 成 術
昔から良く行われている方法です。利点としては、術者にとって行い
ふとい き
ぐ
そうにゅう
やすい点と、DCA などの太い器具も 挿 入 できるという点が挙げられ
しゅぎ
ます。しかし、一般的に大腿動脈からの手技の後にはベッドの上での
あんせい
しゅっけつ
長い安 静 が必要であり、また足の付け根部分での 出 血 などの合併症
(52)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
も起こりえます。
このため、Perclose とか Angioseal と呼ばれる特殊な止血のための器
じゅつご
あんせいじあいだ
たんしゅく
具も用いられます。これらの器具を用いれば術後の安静時間を 短 縮 で
きます。
とうこつどうみゃく
¨
かんどうみゃくけいせいじゅつ
橈 骨 動 脈 からの冠 動 脈 形 成 術
これは現在、世界中で TRI (=TransRadial coronary Intervention)と呼
とういん
ばれています。何を隠しましょうか、この言葉は当 院 で最初に用いら
れ、全世界に広がった言葉なのです。この事実からも分かるように当
ぜんせかい
院は TRI においては全世界をリードする病院として有名です。
さいだい
りてん
らく
TRI の最 大 の利点は、患者さんが楽 だ、という点です。手技終了後の
つらい
患者さんにとっては辛いベッドの上での安静が必要でなく、また出血
がっぺいしょう
による合 併 症 はほとんど起こりません。しかし、医者から見れば TRI
ぎじゅつ
こうど
じっし
じゅくれん
ひつよう
はその技 術 が高度であり、その実施には 熟 練 が必 要 です。また、
とうこつどうみゃく
ひかくてき ほ そ い どうみゃく
ふとい き ぐ
橈 骨 動 脈 は比較的細い 動 脈 なので太い器具を用いた治療を行うこ
とはできません。また、治療の後にカテーテルを入れた側の手首の
みゃくはく
ふ れ な く
脈 拍 が触れなくなることもあります。脈拍が触れないよりも触れるに
じっさい
こしたことはないですが、実際には脈拍が触れなくなったとしても、
とくしゅ
ばあい
非常に特殊な場合を除けば何ら問題はありません。
がっぺしょう
治療が終了し、明らかな合併症が無ければ TRI では数時間の軽い安静
よくよくじつ
の後で自由に体を動かすことができます。そして普通は長くて翌々日、
はげしい
早くて治療当日に退院することができます。退院後、翌日からは激しい
にくたいろうどう
肉 体 労 働 でない限り、いつもの仕事をすることが許可されます。激し
い運動は 2 週間ぐらい避けるようにして下さい。また、特にステント
か ど
だっすい
を植え込んだ後 4 週間は、過度な脱 水 は避けるようにしましょう。
えんてんか
すいぶん
ほきゅう
せ り あ う
炎天下で水 分 を補 給 せずにゴルフで競り合う、などというのはもって
か
ど
だっすい
のほかです。過度な脱水になると血液が固まりやすくなり、ステント
きけんせい
の部分で血栓が出来る危険性があります。また、医師から指示のあっ
かくじつ
ふくよう
たお薬は確実に服用するようにして下さい。もしも、お薬が体に合わ
ないと感じられたならば、すぐに私たちに相談の電話を入れて下さい。
いちねんじゅう
じ か ん たいせい
い し
たいき
循環器科では深夜でも 一 年 中 24時間 体 制 で医師が待機しています
からだ
へんちょう
ので、ご遠慮なされずにお電話下さい。また、何らかの 体 の 変 調 を
(53)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
れんらく
来たした場合にもご連絡下さい。
けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ
ともなう き け ん せ い
² 経皮的冠 動脈形成術 に伴う 危険性
はかせ
経皮的冠動脈形成術はグルンツィッヒ博士によって 1977 年に初めて
ちりょうせいせき
た い す る かがくてき
けんとう
もとづいた
行われて以来、治 療 成 績 に対する科学的な検 討 、それに基づいた
きょういく
ぎじゅつかくしん
かいりょう
教 育 、そして技 術 革 新 によるさまざまな 改 良 などが行われてきま
ちりょうせいこうりつ
いちじるしくこうじょう
はんたい
ちりょう
ともなう
した。この結果、治 療 成 功 率 は著 し く 向 上 し、反 対 に治 療 に伴 う
きけんせい
ひやくてき
ていか
危険性は飛躍的に低下してきました。しかしこのような時代になって
ちりょう
ともなうきけんせい
も治 療 に伴 う 危険性をゼロにすることは残念ながら出来ません。患者
ちりょう
さんおよびご家族の方々もこの危険性を良くご理解の上で治 療 に
のぞんで
つ ね に きけんせい
さいしょう
臨んで下さい。私たち医療サイドは常に危険性を 最 小 にするべく
つとめて
努めています。患者さん方のご理解を得ることにより、これらの危険
性をより少なくすることが可能であると私たちは信じています。
ひじょう
¨
じゅうだい
がっぺしょう
非常に 重 大 な合併症
①死亡: 既に病気のために障害を受けている心臓に対して治療を行
うために、どうしてもその発生頻度をゼロにすることはまだ出来ませ
ん。一般的に経皮的冠動脈形成術を受けられる患者さんの 0.1%(1000
人に 1 人の割合)で死に至ることがあるとされています。
しんきんこうそく
はっせい
かんどうみゃく
へいそく
お こ し て
②心 筋 梗 塞 の 発 生 : 冠 動 脈 の閉 塞 を起こして心筋梗塞になって
しまうこともあります。心筋梗塞を起こせば、強い痛みが起こるだけ
でなく、最悪の場合には死に至ることもあります。また、最悪の事態
きんきゅうかんどうみゃくばいぱすしゅじゅつ
を避けるために 緊 急 冠動脈バイパス手術を行わねばならない事態に
なることもあります。
③緊急冠動脈バイパス手術: やむを得ずに緊急で冠動脈バイパス手
ゆけつ
術が必要となることがあります。この手術は輸血も必要ですし、手術
ぜんしんますい
いちじてき
ていし
は全身麻酔の下で行われ、胸を開いて心臓を一時的に停止させ、
じんこうしんぱい
人 工 心 肺 を用いる必要があります。
じゅうだい
¨
がっぺしょう
重 大 な合併症
上で述べましたような非常に重大な合併症以外にも重大な合併症が起
こりえます。
かんどうみゃく は れ つ
まれ
①冠 動 脈 破裂 : 希 にですが、病変を拡げた時に冠動脈が破裂してし
まうことがあります。
(54)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
しんのう
ふくろ
②心タンポナーデ: 心臓は心 嚢 という 袋 で取り囲まれています。
けつえき
じゅうまん
この袋の中に血 液 が 充 満 し、その結果心臓が外から圧迫されて十分
じたい
に血液を送り出せなくなる事態を心タンポナーデと呼びます。心タン
しんのうせん し
た
けつえき
はいじょ
ポナーデが発生すれば、すぐに心 嚢 穿 刺を行い、貯まった血 液 を排 除
かいきょう
せねばなりません。また、場合によっては出血を止めるために開 胸
しゅじゅつ
手 術 が必要となる場合もあります。
ぞうえいざい
しよう
③造 影 剤 の使用 に伴う合併症: 経皮的冠動脈形成術を行うために
は造影剤という薬物を用いてレントゲンで冠動脈の状態が見えるよう
にせねばなりません。残念ながらこの造影剤は多くの改良がなされた
じんしょうがい
現在でも、希にアレルギー反応や 腎 障 害 を引き起こすことがありま
す。このため、私たちは造影剤の使用量が可能な限り少なくなるよう
に努力しています。
ひしん
ひどいアレルギー反応の場合には、皮疹の出現だけでなく、血圧が低
せいもん ふ し ゅ
下したり、声門浮腫を起こしたりして、最悪の場合死亡につながるこ
ともあります。
ほうしゃせん
しょうがい
④放 射 線 による 障 害 : レントゲンを用いることが治療上必要です。
しかしながらレントゲンは放射線の一種ですので多量のレントゲン線
ほうしゃせんしょうがい
を浴びてしまうと放 射 線 障 害 が起こることがあります。皮膚に対す
ほうしゃせんしょうがい
ちくせき
ちくせきせんりょう
おおく
ほうしゃ
る放射線 障 害 は蓄積していきます。この蓄積 線 量 が多くなると、放射
せん ひ
ふ しょうがい
けっか
ひ
ふ いしょく
ひつよう
じたい
線皮膚 障 害 の結果、皮膚移植が必要な事態に陥ることもあります。他
ひ
ふ がっぺしょう
の施設で時として報告されているこのような皮膚合併症を私たちは未
だ引き起こしたことはありません。私たちは、患者さんのレントゲン
ひばく
い つ も どりょく
被爆が少なくするように何時も 努 力 しています。
しゅっけつせいがっぺしょう
⑤ 出 血 性 合 併 症 : 治療に際しては動脈からカテーテルを入れる必
どうみゃく
あつりょく
つよい
要があります。動 脈 はその 圧 力 が強いので出血が起こりやすい血管
ちりょう
さいちゅう
けっせん
です。また、治 療 の 最 中 はヘパリンという薬を用いて血 栓 が
で き に く く
ぎゃく
しゅっけつ
ゆうはつ
出来にくくなるような状態にしています。これは 逆 に 出 血 を誘 発
きょくど
することになります。このような背景がありますので、極 度 の
こうけつあつしょう
ふ り
じょうけん
そろう
のうしゅっけつ
高 血 圧 症 があるなどの不利な 条 件 が揃うと 脳 出 血 などがおこる
ぶ い
しゅっけつ
ご
ゆけつ
こともあります。また、カテーテルを入れた部位から 出 血 し、後に輸血
しゅじゅつ
ひつよう
や 手 術 が必 要 となることもあります。
(55)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
そくせんしょう
はっせい
⑥ 塞 栓 症 の 発 生 : 治療に当たってはカテーテルを冠動脈まで持ち
だいどうみゃく
どうみゃく こ う か びょうそう
込む必要があります。冠動脈だけでなく 大 動 脈 にも 動 脈 硬化 病 巣
どうみゃく こ う か
がたくさんあります。カテーテルの通過に伴ってこれらの 動 脈 硬化の
かたまり
は が れ て
塊 が剥がれて、それが動脈血流に沿って流れ、体の一部にひっかか
どうみゃくけつりゅう
とぜつ
って 動 脈 血 流 が途絶してしまうことがあります。また、カテーテル
けっせん
の一部に形成された血栓がはがれてひっかかることもあります。これ
じょうたい
そくせんしょう
よ び ま す
のう
どうみゃく
らの 状 態 を 塞 栓 症 と呼びます。例えば、 脳 の 動 脈 にひっかかれ
のうそくせんしょう
ちょう
どうみゃく
ちょうかん
ば 脳 塞 栓 症 が起こりますし、 腸 の 動 脈 にひっかかれば 腸 間
どうみゃくそくせんしょう
動 脈 塞 栓 症 を引き起こします。このような事態が起こらないよう
に私たちはカテーテルの操作は何時も慎重に行うようにしていますが、
それでも完全にその発生を防ぐことは困難です。
とくしゅ
どうみゃく そくせんしょう
特殊な 動 脈 塞 栓 症 としてコレステロール塞栓症が希にあります。こ
ふ く ぶ だいどうみゃく
けっしょう
どうみゃく こ う か
れは、腹部 大 動 脈 などからコレステロール 結 晶 を多く含む 動 脈 硬化
ちょうかん どうみゃく
か
し どうみゃく まっしょう
そくせん
プラークが 腸 管 動 脈 や下肢 動 脈 末 梢 に塞栓したためにおこります。
そくせん は っ せ い ご すうしゅうかん
あいだ
あ
れ
る
ぎ
ー はんのう
ともなう まんせい えんしょう
塞栓 発生後 数 週 間 の 間 にアレルギー 反応 を伴う 慢性 炎 症 が起こり
ます。
か
し じょうみゃく
けっせん
また、特に下肢からのカテーテル検査の後では、下肢 静 脈 に血栓が
けいせい
けっせん
りしょうご
ながれ
はいそくせんしょう
はいどうみゃく
形成され、その血栓が離床後に流れ、肺 動 脈 にひっかかる肺 塞 栓 症 が
起こることがあります。
くうき
あるいは、カテーテル内に少量の空気が混入することによる空気
そくせんしょう
塞 栓 症 も起こりえます。
そくせんしょう はっせい ひ ん ど
いずれにしてもこれら 塞 栓 症 発生 頻度 は検査時間が長くなる程起こ
がっぺしょう はっせい
りやすいと言われています。従って、これらの合併症発生を予防する
そうさ
こんなん
ために、カテーテル操作が困難で検査に時間がかかる場合には、私達
ちゅうだん え ん き
は検査途中で検査を 中 断 延期する場合もあります。
かんせんしょう
ゆうはつ
いぶつ
⑦ 感 染 症 の 誘 発 : 体の中に一時的にせよ異物を入れるため、それに
伴って感染症が起こることがあります。私たちはこのような事態を予
じゅつぜん け ん さ
ばんぜん
き た
しゅぎじかん
かのう
かぎり
防するために、 術 前 検査には万 全 を来たし、手技時間を可能な限り
みじかく
いぶつ
せっしょく じ か ん
たんしゅく
つ ね に せいけつ
たもつ
短 く して異物との 接 触 時間を 短 縮 するとともに、常に 清 潔 を保つ
ようにしています。しかし、完全に防ぐことは困難です。
せん し
ぶ しゅうへん
しんけい そんしょう
⑧穿 刺部 周 辺 の神経 損 傷 : 穿刺の際に、血管と併走している神経を
(56)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
け ん さ しゅうりょうご
しゅっけつ
穿刺針で損傷することがあります。また、検査 終 了 後 の 出 血 によっ
あっぱくそんしょう
て神経を圧迫 損 傷 することもあります。この結果、強い痛みが残った
きんにく いしゅく
り、指が動きにくくなったり、あるいは手や足の筋肉萎縮を来すこと
はんしゃせいこうかんしんけい
があります。特に”反射性交感神経ジストロフィー”と呼ばれるものがあ
しょうこうぐん
ります。これは”カウザルギー症 候 群 ”とも呼ばれるものですが、何か
しんけいそんしょう
らの神 経 損 傷 は引き金として、耐え難い持続性の痛みや損傷部位末梢
まれ
きんいしゅく
がっぺいしょう
の筋萎縮を来たすものが有名です。これらの希な合 併 症 に対しては、
ちんつうざい と う よ
こう せいしん やく
とうよ
はやい しょち
リハビリや鎮痛剤 投与 、あるいは向 精神 薬 の投与 などの早い 処置 が
ひじょう
こうかてき
ごえんりょ
非常に効果的ですので、御遠慮せずにご相談下さい。
ききょう
さこつかじょうみゃくせん し みゃくないけいじょうみゃくせん し
⑨気胸 : 鎖骨下静脈穿刺 や 内 頚 静 脈 穿 刺に伴って、肺の一部に穴を
きょうくう
開けてしまって肺の空気が 胸 腔 にもれてしまい、結果的に肺を圧迫し
てしまうことがあります。この状態は気胸と呼ばれます。適切な処置
により改善します。
じゅうとく
ふせいみゃく
⑩ 重 篤 な 不 整 脈 の 出 現 : カテーテルによる心臓に対する機械的刺
しんしつせいきがい
激、あるいは造影剤注入による化学的刺激などにより、心室性期外
しゅうしゅく
じょうしつせいきがいしゅうしゅく
しんぼうさいどう
収 縮 や上 室 性 期 外 収 縮 、あるいは心 房 細 動 などの不整脈が誘
発されることがあります。多くの場合、これらの不整脈は一過性で何
しんしつせいひんぱくしょう
こういしょう
しんしつさいどう
の後遺症も残しません。しかし、希に心 室 性 頻 拍 症 、心 室 細 動 、
じょみゃく
しん て い し
じゅうとく
ふせいみゃく
徐 脈 あるいは 心 停止 などの 重 篤 な 不 整 脈 が出現することがあり
ます。これらの事態に対応して、当院の心臓カテーテル検査室では、
きんきゅう
でんきてきじょさいどう
だいどうみゃくない
緊 急 で心臓マッサージ、心臓ペーシング、電気的除細動 、大 動 脈 内
けいひてきじんこうしんぱい ほ じ ょ そ う ち そうちゃく
バルーン・パンピング挿入あるいは経皮的 人 工 心 肺 補助装置 装 着 を
行えるように常時準備し、また訓練しております。
⑪発熱: アレルギー反応や感染に伴って発熱することがあります。
⑫その他、不測の合併症が起こることがあり得ます。
私たち湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器科心臓カテーテル室は
じゅうぶん
けいけん
つ ん だ い し
十 分 な経 験 を積んだ医師とコ・メディカルによって運営され、また
そうび
ききるい
装備されている機器類も最新のものを多く取り揃えています。また、
ちりょう
せいか
えいぶんろんぶん
べいこく
がくじゅつし
行われた治 療 などの成果は英 文 論 文 として米 国 の学 術 誌 に
せっきょくてき
とうこう
しゅっぱん
しんぞう
積 極 的 に投 稿 、 出 版 されています。このため、私たちの心 臓
か て ー て る し つ
ちりょう こ う い
カテーテル室での治 療 行為は日本あるいは世界の中で、最も安全に行
(57)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
いっぱんてき
われるものと考えています。一般的に言って、上に述べました大小さ
がっぺしょう
はっせい ひ ん ど
ごうけい
ていど
まざまな合 併 症 の発 生 頻度は合 計 で 1%程度とされています。ちなみ
にほんしんけっかん
がくじゅつ い い ん か い
さいとう
しげる
に日本心血管インターベンション学会 学 術 委員会(私、齋藤 滋 はこ
ふくりじちょう
がくじゅつ い い ん か い いいんちょう
の学会の副理事長であり、かつ 学 術 委員会委員長でありました)が毎年
ちょうさ
行っておりました調査によれば 2002 年一年間に行われた 75,399 例の
きんきゅう
PCI において死亡率は 0.36%、緊 急 冠動脈バイパス手術となったのは
しんきんこうそく
0.28%、心筋梗塞を併発したのは 0.42%でした。
ちりょう
こんなん
じゅうしょう
私たちの病院には他の病院では治 療 することが困 難 な 重 症 の
かんじゃ
患 者 さんが紹介されて治療を受けられます。ちなみに当院において、
2001 年一年間に治療を行いました経皮的冠動脈形成術施行例 1,070 例
しゅようがっぺしょうはっせいりつ
の中では、主 要 合 併 症 発 生 率 は、死亡 0.1%、緊急冠動脈バイパス術
無し、軽度な心筋梗塞併発 1%という成績でした。
(58)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ
う
け
る
かんじゃ
² 経皮的冠 動脈形成術 を受ける ことによ る患者 さんの
り え き
利益
せまく
つ
どうみゃく こ う か
虚血性心疾患は冠動脈に狭くなったり、詰まったりする 動 脈 硬化
びょうへん
病 変 ができることによって引き起こされます。経皮的冠動脈形成術は
かいはつ
ちりょうほう
ことなり
今まで開 発 されたどの治 療 法 とも異なり、この動脈硬化病変そのもの
ちょくせつちりょう
おこない
い み
に対して 直 接 治 療 を行 い ます。この意味で経皮的冠動脈形成術は虚
こんぽんてき
ちりょうほう
血性心疾患に対する根 本 的 な治 療 法 と言うこともできます。経皮的
こうか
かずおおく
りんしょうけんきゅう
冠動脈形成術の効果についてはこれまでに数多くの 臨 床 研 究 によ
がくもんてき
ちょうさ
けんきゅう
おこなわ
って学 問 的 に調 査 ・ 研 究 が行 わ れてきました。
たんきてき
¨
りえき
短期的な利益
しょうじょう
げきてき
かいぜん
強い狭心症の症状があれば、その 症 状 は劇 的 に改 善 します。また、
きゅうせいしんきんこうそく
先に述べましたように 急 性 心 筋 梗 塞 の場合には経皮的冠動脈形成
しぼうりつ
さいほっさ
かくりつ
ていか
術を受けられることによって死亡率と再発作をおこす確 率 が低下しま
す。
ちょうきてき
¨
りえき
長期的な利益
た し びょうへん なんほん
かんどうみゃく
びょうへん
じょうたい
ばあい
他枝 病 変 (何 本 もの冠 動 脈 に 病 変 がある 状 態 )の場合には、
びょうき
しぜんけいか
やくぶつりょうほう
し ん じ こ はっせいりつ しぼうりつ
病 気 の自然経過や薬 物 療 法 よりも心事故 発 生 率 (死亡率や、
しんきんこうそくはっせい
さいちりょう
ひつようりつ
心 筋 梗 塞 発 生 あるいは再 治 療 の必 要 率 など)が低下することが分か
はんとし
すうねんいじょう
じぞく
っています。そして、この効果は半 年 から数 年 以 上 にわたり持続し
いっしびょうへん
ます。一 枝 病 変 (一本の冠動脈にのみ病変がある状態)の場合には、も
しぜんけいか
せいめいよご
しぼうりつ
さ
ともと自然経過の生命予後が良いために、死亡率では差がでません。
はんとし
すうねん
やくぶつりょうほう
しぜんけいか
しかし、半 年 から数 年 にわたって薬 物 療 法 や自然経過よりも
しょうじょう
うんどうのうりょく
かいぜん
はんめい
症 状 や運 動 能 力 が改 善 されることが判 明 しています。
ちょうきてき り え き
すうねんいじょう
じぞく
これらの長 期 的 利益は数 年 以 上 にわたり持続することが分かってい
ちりょうほう
かいはつ
ますが、もともと治 療 法 が開 発 されてから 30 数年間しか経過してい
とうぜん
なんじゅうねん
ちょうきてき り え き
ませんので、当 然 のことながら 何 十 年 にもわたって長 期 的 利益があ
わ
るかどうかはまだ分かりません。
(59)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ
う
け
ら
れ
な
い ば あ い
かんじゃ
² 経皮的冠 動脈形成術 を受けられ ない 場合 の患者 さん
ふ り え き
の 不利益
こうむるさいだい
ふりえき
治療を受けられない場合に患者さんが被 る 最 大 の不利益は、治療を受
りえき
きょうじゅ
けることによる利益を 享 受 できないことです。
たんきてき
¨
ふ り え き
短期的な不利益
きゅうせいしんきんこうそく
ばあい
急 性 心 筋 梗 塞 の場合には経皮的冠動脈形成術を受けられない場合
しぼうりつ
さいほっさ
かくりつ
あきらか
ぞうか
には死亡率や再発作の確 率 が明らかに増加します。狭心症の場合には、
ほっさ
よくせい
たりょう
おくすり
ひつよう
発作を抑 制 するために多 量 のお 薬 が必 要 となります。
ちょうきてき
¨
ふ り え き
長期的な不利益
いたづら
やくぶつりょうほう
たよ
いんきんこうそく
じゅうしょう
徒 に薬 物 療 法 にのみに頼 っていると心 筋 梗 塞 や 重 症 の
ふせいみゃく
お こ し て いのち
お と す かのうせい
ぞうか
不 整 脈 などを起こして 命 を落とす可能性が増加します。
つ ね に しんぞう
た い し て ふあん
か か え た せいかつ
おく
しごと
また、常に 心 臓 に対して不安を抱えた 生 活 を送 られることは仕事をす
うえ
へいおん
よせい
お く ら れ る ばあい
けっして よ い
る上 でも、あるいは平 穏 な余生を送られる場合にも決して良いことと
いかが
は私は思いませんが、如何でしょうか?
きょけつせいしんしっかん
た い し て
い が い
な
けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ
n 虚血性心疾患に対しては経皮的冠動脈形成術
ちりょうほう
い
以外の治療法は無いのですか?
きょうしんしょう
け い ひ て き かんどうみゃく
しんきんこうそく
狭 心 症 や心筋梗塞に対してはカテーテルを用いた治療法である、経皮的冠 動 脈
けいせいじゅつ
形 成 術 (PTCA とか PCI とも呼ばれます)が有名です。しかし、カテーテル治療
以外にも多くの治療法があります。これらの治療法についても良くご理解して
下さい。また、そもそも治療を受けられるか受けないで放っておくかは患者さ
そうだん
いりょう
んご本人がご家族と良くご相談されて決められることであり、私たち医療サイ
きょうせい
ドから治療や検査を 強 制 することは出来ません。私たちは、治療や検査を受け
じゆう い
し
けってい
けんり
られるか否かは 患者さんご自身が自由意志で決定される権利があると考えて
じんけん
います。そして、そのような患者さんの人 権 を とても大切なものと考えます。
たちば
しかしながら、私たちはプロフェッショナルとしての立場から、患者さんが検
ゆうこう
ちりょう
つよ
すす
査を受けられ、その結果何らかの有効な治療を受けられることを強く勧めます。
(60)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
ことがら
すべて
きょけつせいしんしっかん
かんじゃ
じゅうよう
また、以下に述べます事 柄 は全ての虚 血 性 心 疾 患 の患 者 さんにとって 重 要
ぜ
ひ みなさまがたぜんいん い ち ど
お
め
と お し て くだ
なことですので、是非皆様方全員一度はお目を通して下さい。
にちじょう せいかつ
かいぜん
² 日 常 生活 の 改善
どうみゃく こ う か
ねんれい
動 脈 硬化は生まれたての赤ちゃんには存在しません。しかし、年 齢 を
へ る
したがって だれ
お
経るに従って 誰 にでも動脈硬化は起こってきます。このため、動脈硬
せいじんびょう
化に伴う虚血性心疾患などは 成 人 病 の一つともされています。成人
にちじょうせいかつ
ちがい
はっせい ひ ん ど
病は 日 常 生 活 の違いなどによりその 発 生 頻度は大きく変化します。
かん どうみゃく き け ん い ん し
¨
じょきょ
冠 動 脈 危険因子 の除去
べいこくみん
しぼうげんいん
だいたすう
し め
心筋梗塞などの虚血性心疾患が 米 国 民 の死亡原因 の大多数 を占め て
べいこく せ い ふ
かたいなか
いることを問題視した米 国 政府は 1950 年代から米国の片田舎である
フラミンガムという人口数万人の町の全町民を、もちろん同意の上で
とうろくかんさつ
20 年間にわたって登 録 観 察 しました。これはフラミンガム研究と呼
りんしょうえきがく
きんじとう
ばれ、 臨 床 疫 学 の金字塔とされている研究です。この結果、心筋梗
いんし
塞を引き起こしやすい因子が幾つか分かりました。
けっしょう
こう
しんきんこうそく
①高 コ レ ス テ ロ ー ル 血 症 : コレステロールが高い人は 心 筋 梗 塞
を起こしやすいことが分かりました。日本人で、どの程度のコレステ
じょうげんち
ロール値が上 限 値 として適当かについては、多くの議論が為されてき
じょうげんち
ました。現在一般的に考えられているコレステロールの 上 限 値 は、
しんぞう ほ っ さ
心 臓 発作を既に起こしたことのある人では 200~220 mg/dl です。コ
あくだま
レステロールの中でもいわゆる 悪 玉 コレステロールと呼ばれる LDL
しんぞう ほ っ さ
コレステロールの値が重要です。既に心 臓 発作を起こしたことのある
患者さんでは、LDL コレステロール値が 100 mg/dl 以下になることが
目標です
とうにょうびょう
とうにょうびょう
きょけつせいしんしっかん
② 糖 尿 病 : 糖 尿 病 があれば 虚 血 性 心 疾 患 になりやすいこと
へいきんけっとうち
が分かっています。具体的には一ヶ月間の平 均 血糖値の良い指標とさ
れているヘモグロビン A1C(正式にはグリコ・ヘモグロビン A1C です)
が 7.0%未満となることが目標です。
こうけつあつしょう
おちいり や す い
③ 高 血 圧 症 : 高血圧症があれば虚血性心疾患に 陥 り 易いことが分
(61)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
もくひょうけつあつち
さいこうけつあつ
さいていけつあつ
かっています。 目 標 血圧値は最 高 血 圧 150 mmHg 以下、最 低 血 圧
みまん
ただし
じゃくねんしゃ
ちゅうねんしゃ
とうにょうびょう
90 mmHg未満です。但し、
「 若 年 者 、中 年 者 あるいは 糖 尿 病 を
ゆ う す る かんじゃ
きょ けつせい しん しっかん
へいはつ
きけんせい
有する 患 者 さん」においては、 虚 血 性 心 疾 患 を 併 発 する危険性 が
たかい
もくひょうけつあつち
高いため、目 標 血圧値は 140/90mmHg 未満とすべきだとの意見も強
くあります。
きつえん
④喫煙 : タバコが肺がんを引き起こす危険性については皆様方もご
存知だと思います。しかし、それ以上にタバコを吸うことによって虚
はっせいきけんせい
血性心疾患の発 生 危険性が 10 倍以上も増加することをご存知でしょ
ぜ
ひ
うか? タバコは最も心臓に悪いものです。是非、タバコは辞めて下
さい。ちなみに、私自身 昔はたくさんタバコを吸っていましたが、
もうすっかり辞めて 20 年以上になります。
ひまん
⑤肥満 : 肥満があると明らかに狭心症や心筋梗塞に陥り易いことも
が ん ば っ て ひょうじゅんたいじゅう
い
じ
判明しました。頑張って 標 準 体 重 を維持するように心がけましょう。
こうにょうさんけっしょう つうふう
どうみゃく こ う か
⑦ 高 尿 酸 血 症 ( 痛 風 ): 高尿酸血症を放置していると、 動 脈 硬化
しんこう
そくしん
しょくじりょうほう
やくぶつりょうほう
の進 行 を促 進 してしまいます。このため、食 餌 療 法 や薬 物 療 法 に
より治療する必要があります。
かぞくれき
にくしん
かたがた
⑧虚血 性 心 疾 患 の 家族歴 : 肉 親 の 方 々 に虚血性心疾患になってい
る方がおられると心筋梗塞や狭心症になりやすいことも分かっていま
す。残念ながらこの因子はご本人の努力では如何ともしがたいものが
あります。
⑨メタボ: メタボという言葉は多くの方が聞かれているでしょう。正
しょうこうぐん
確には、メタボリック・シンドローム( = 症 候 群 )のことです。これは
しんだんきじゅん
ていしょう
日本で見いだされた概念です。色々な診断基準が 提 唱 されていますが、
ないぞう し ぼ う
ふくい
腹部の内臓脂肪が増加している状態です。このため、腹囲が増加して
いる方々は、メタボの可能性があります。メタボになると、色々な病
気になる可能性が高くなります。
うんどう ぶ そ く
¨
かいしょう
運動 不足 の 解 消
ひごろ
てきど
うんどう
つづける
日頃、適度に運 動 を続けることが大切です。重いものを持ち上げるよ
き
ば
る
む さ ん そ うんどう
うな、気張るような運動、これを無酸素運動と呼びますが、このよう
きんにく
にゅうさんたいしゃ
な運動は筋肉の 乳 酸 代謝に結びつき、心臓に強い負荷を与えます。そ
し ぼ う さん
のような運動ではなく、空気を吸い込んで体内のブドウ糖や脂肪酸を
(62)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
こ う き せ い たいしゃ
ゆう さ ん そ うんどう
好気性代謝に結びつけるような有酸素運動(エアロビクスとも呼びます
はげしい
ね)を行うことが心臓に対して良い、とされています。ですから、激しい
うんどう
へいちほこう
運 動 をする必要はありません。毎日 1 時間程度の平地歩行を続けるこ
じどうしゃ
うんてん
とが重要です。私は、自動車を運転することを止めました。そして、
つうきん
さい
可能な時には自転車に乗るようにしています。通勤の際にはなるべく
歩くようにしましょう。
かいしょう
¨
ストレスの 解 消
しごと
しゃかい
うけながす
気持ちをゆったりと持ち、仕事や社 会 の中でのストレスを受け流すよ
しゅみ
あせ
いらだ
うにしましょう。趣味を持つことも大切です。そして、焦ったり苛立っ
たりしないようにしましょう。
む こ き ゅ う しょうこうぐん
¨
かいぜん
無呼吸 症 候 群 の改善
睡眠中に大きないびきと共に呼吸が数秒間、時には 10 秒間以上も止ま
む こ き ゅ う しょうこうぐん
る方がおられます。このような呼吸は無呼吸 症 候 群 と呼ばれ、色々な
ひまん
原因で起こる、とされています。しかし、現代で最も多い原因は、肥満
ひろう
ちくせき
や疲労の蓄積とされています。最近、この呼吸をする方には虚血性心
せんもんい
疾患の合併が多い、とされています。専門医にご相談されることも必
たいじゅう
げんりょう
せいかつしゅうかん
かいぜん
つと
要ですが、まずは 体 重 の 減 量 と生活 習 慣 の改善に努めましょう。
やくぶつ りょうほう
² 薬物 療 法
昔から狭心症に対する薬物療法としてはニトログリセリンが有名です。
のーべるしょう
そうせつ
ニトログリセリンはあのノーベル賞を創 設 したノーベル博士がダイナ
げんりょう
マイトの 原 料 として発明した物質です。この結果、ノーベル博士は膨
りえき
きぞう
ざいだん
げんし
大な利益をあげ、後にその利益を寄贈しこれがノーベル財 団 の原資と
ふ し ぎ
げんしょう
はっけん
なりました。このダイナマイト工場で不思議な 現 象 が発 見 されまし
こういん
た。狭心症のためにいつも胸を痛がっている工 員 の 1 人が、ダイナマ
な ぜ か むね
らく
イト工場の中で働いている時には何故か 胸 が楽 になることが分かりま
とっこうやく
した。このことから、ニトログリセリンが狭心症に対する特 効 薬 であ
はっけん
きょうしんしょう
とっこうやく
ることが発 見 されました。ノーベル賞と 狭 心 症 の特 効 薬 との関係、
(63)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
きょうみ
なかなか興 味 をそそるものがありますね。
か が く こうぞうじょう しょうさんき
ぶ ん し はいれつ
ニトログリセリンは化学 構 造 上 、硝 酸 基 と呼ばれる分子 配 列 を持っ
ばくはつりょく
みなもと
かんどうみゃく
ています。この硝酸基は、 爆 発 力 の 源 であると同時に、冠 動 脈
ちょくせつかくちょう
さよう
を 直 接 拡 張 させる作用を持っているのです。この事実から、ニトロ
しょうさんやく
そうしょう
グリセリンなどの薬物は 硝 酸 薬 と、 総 称 されています。
しょうさんやく
¨
な か ま
硝 酸 薬 の仲間
ニトログリセリン、ニトロペン®、ニトロール®、アイトロール®、バソ
しょうさんやく
レータ ® 、ニトロダーム ® 、ニトロール・スプレー ® などは
い わ れ る
なかま
きょうしんしょうほっさ
よぼう
かいぜん
硝 酸 薬と
げきてき
こうか
言われるものの仲間です。 狭 心 症 発 作 の予防と 改 善 に 劇 的 に効果
ただし
きょうしんしょう
びょうき
しんこう
たいして
よぼうこうか
があります(但し、狭 心 症 という病 気 の進 行 に対しての予防効果は
こんぽんてき
かいけつほう
たとえ
わるい
ありませんし、根 本 的 な解 決 法 ともなりません。例えは悪いですが、
たん
いたみどめ
おもわれる
ぶなん
単 なる痛み止め と思われる のが無難 です)。このニトログリセリンの
こうか
げきてき
効果は劇 的 ですので、胸の痛みがニトログリセリンによっておさまれ
しんだん
くだせる
ば、それだけで狭心症という診 断 が下せるほどです。副作用として脳
ずつう
の血管が拡張することによる頭痛が起こることがあります。
ぜ っ か とうよほう
早い効果を期待するニトログリセリンは舌下投与法が用いられます。
ほっさ ど め
こうくうない
ふんむ
また、同様に発作止めのためのニトロール・スプレーも口 腔 内 に噴霧
こうくうねんまく
きゅうしゅう
やくぶつ
かんぞう
ぶんかい
します。口 腔 粘 膜 から 吸 収 された薬 物 は肝 臓 で分 解 されること
すみやか
かんどうみゃく
とうたつ
ぜっか
なく速やかに冠 動 脈 まで到 達 することができます。このための、舌下
とうよ
こうくうない ふ ん む
投与や口 腔 内 噴霧なのです。
こうかんしんけい しゃだんやく
¨
ベータ交感神経 遮断薬
しんぞう
かじょう
うごき
おさ
ベータ交感神経遮断薬は心 臓 の過 剰 な動きを抑 えます。これによって
さんそ
えいよう
しょうひりょう
おさえ
心臓の酸素と栄 養 の 消 費 量 が抑えられます。この結果、狭心症発作
き き す ぎ る
みゃくはく
おそく
が起こりにくくなります。薬が効きすぎると 脈 拍 が遅くなりすぎるこ
とがあります。
きっこうやく
¨
カルシウム拮抗薬
アダラート®、アムロジン®、ノルバスク®、ヘルベッサー®などの薬で
(64)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
ちょくせつ どうみゃく
かくちょう
やっこう
はっき
す。 直 接 動 脈 を 拡 張 することによって薬 効 を発揮します。狭心
かん どうみゃく
けいれん
いけいきょうしんしょう
症の中でも特に、 冠 動 脈 の 痙 攣 を伴う狭心症( 異 型 狭 心 症 とか
あんせいじ きょうしんしょう
かんれんしゅくせい きょうしんしょう
安静時 狭 心 症 、あるいは 冠 攣 縮 性 狭 心 症 などと呼ばれます)
とっこうやく
きっこうやく
くだもの
に対しては特 効 薬 とも言われます。カルシウム拮 抗 薬 の中には、果 物
いっしょ
ふくよう
さよう
つよく
のグレープフルーツなどと 一 緒 に 服 用 すると、その作用 が強く なり
ふくさよう
あらわし や す く
やくぶつ
副作用を現 し 易くなる薬 物 もありますので、注意が必要です。アダラ
えいきょう
ート、カルスロットなどは 影 響 を強く受けますが、アムロジン、ノル
バスクなどは影響を受けにくいと言われています。
¨
アスピリン
ほんらい
ねつ
バッファリン 81 錠®やバイアスピリン®のことです。本 来 、熱 さまし
くすり
どうみゃく こ う か
よぼう
どうみゃく こ う か
けっか
の 薬 であったアスピリンが、 動 脈 硬化 の予防 や 動 脈 硬化 の結果
お こ る のうそくせん
のうこうそく
しんきんこうそく
きょうしんしょう
よぼう
ゆうこう
起こる 脳 塞 栓 、脳 梗 塞 、心 筋 梗 塞 あるいは 狭 心 症 の予防に有 効
こうけっしょうばん
であることが分かりました。この作用は、アスピリンの持つ抗 血 小 板
さよう
けっしょうばん
にんげん
からだ
なか
しゅっけつ
作用 によるとされています。 血 小 板 は 人 間 の 体 の 中 で 出 血 を
と め る たいせつ
はたらき
になって
いっぽう
どうみゃく こ う か
止める 大 切 な働 き を担っています。しかし、その一 方 で 動 脈 硬化を
お こ し て
どうみゃく
たいして
わるい さよう
起こして いる 動 脈 に対して は時として悪い 作用 をします。これを
あ す ぴ り ん
そ し
ばんのう
ひやく
アスピリンが阻止するのです。アスピリンは今や万 能 の秘薬とまで言
ふくようりょう
おおすぎる
ぎゃくこうか
われるくらいです。但し、 服 用 量 が多すぎると逆 効 果 だとも言われ
いちにち いちじょう
にじょう
さいてき
ます。 一 日 一 錠 から 二 錠 が 最 適 とされています。アスピリンは
いかいよう
ゆうはつ
い
いたみ
おぼえ
胃潰瘍を誘 発 することがありますので、胃の痛みを覚えられたならば
まれ
ぜんそく
よ ば れ る
すぐに医師に報告して下さい。また、希 にアスピリン喘 息 と呼ばれる
ぜんそくよう
こきゅうこんなん
はつ
喘 息 様 の呼 吸 困 難 が誘発 される場合もあります。
そ
¨
の
た
こう けっしょうばん やく
その他 の抗 血 小 板 薬
パナルジンやプラビックス、そしてシロスタゾールなどです。ステン
トの部分でも述べましたように、特にパナルジンは強力な抗血小板作
けっせん
用を有しているため、冠動脈内ステント植え込み後のステント血 栓
へいそく よ ぼ う
も ち い ら れ ま す
やくざい
のうこうそく
閉 塞 予防のために用いられます。また、これらの薬 剤 は、脳 梗 塞 の
よ ぼ う やく
へいそくせい か し どうみゃくこうかしょう
ちりょう
予防 薬 として、あるいは閉 塞 性 下肢 動 脈 硬 化 症 の治 療 薬としても
(65)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
用いられます。
じゅうとく
かんしょうがい
けっきゅうげんしょうしょう
パナルジンは時に 重 篤 な肝 障 害 や 血 球 減 少 症 を起すことがあり
がっぺしょう
ふくようかいしご
ます。これらの重篤な合併症は服用開始後2 ヶ月以内に起こるので、は
しゅうかん
いっかい
けつえきけんさ
じめて服用された場合には最初の 2 ヶ月間は 2 週 間 に一回の血液検査
ぎ
む
づ
さいきん
がっぺしょうはつげんひんど
が義務付けられています。また、最近ではこれらの合併症発現頻度が
少ないプラビックスも用いられるようになっています。
ちはつせい
けっせんしょう
薬剤溶出性ステントが植え込まれた場合には遅発性ステント血 栓 症
けっせん
(植え込み後半年以上してから血栓がステント部に形成され突然冠動脈
きゅうせいしんきんこうそく
とつぜんし
が閉塞し、急性心筋梗塞 や突然死に結びつく危険性が指摘されていま
す)を予防するためにアスピリン+パナルジン(プラビックス)の
にじゅうこうけっしょうばんりょうほう
すいしょう
二 重 抗 血 小 板 療 法 を最低でも一年間は続けることが 推 奨 されてい
ます。
こうけっしょうばんやくふくようちゅう
これらの抗 血 小 板 薬 服 用 中 に止むを得ぬ事情で服用を休まれる場合
には、必ず主治医に連絡して下さい。
¨
ワーファリン
こうぎょうこやく
ワーファリンは抗 凝 固 薬 と呼ばれています。体の中の血液を固める作
用をブロックします。この薬物は非常に強力な薬剤ですので、血液検
とうやくりょう
けってい
査によって効き具合をチェックしながら 投 薬 量 を 決 定 します。
りそうてき
こくさい ひょうじゅんか
理想的 に は INR(=International Normalized Ratio: 国 際 標 準 化
ひりつ
比率)という値が 2.0 前後にあることが良いとされています。もちろん
びょうたい
もくひょうち
じょうげ
のことながら、その患者さんの 病 態 によってこの目 標 値 は上 下 しま
とうよりょう
せいかく
す (この INR という値を用いることが、ワーファリン投 与 量 の正 確 な
こくさいてき
すいしょう
ふせいかく
決定を行う上で、国際的に 推 奨 されています。しかし未だに不正確な
あなた
古い TT という検査値が用いられている場合もあります。もしも貴方が
ふくよう
ワーファリンを服用されているにもかかわらず、INR という検査を受
たんとう い
し
けていないのであれば、担当 医師 にご相談下さい)。ワーファリンの
ききぐあい
たいちょう
しょくもつせっしゅ
効き具合は 体 調 や 食 物 摂 取 によって大きく影響されます。特に、
なっとう
きょくたん
おおく
おうりょくしょく や さ い
せっしゅ
納 豆 や 極 端 に多くの 黄 緑 色 野菜の摂 取 によって、その効果は失
なっとう
われます。従って、ワーファリンを服用している時には、特に納豆は
しんぼうさいどう
残念ながら食べることが出来ません。ワーファリンは 心 房 細 動 や
じんこうべん ち か ん ご
こうはん
しんきんこうそくご
し ん き のう て い か じ
人 工 弁 置換後、あるいは広 範 な心 筋 梗塞後、また心機 能 低下時など
(66)
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のうこうそく よ ぼ う
の脳 梗 塞 予防に対して用いられることがあります。ワーファリンを服
せつじょ
ばっし
用している時に行われる何らかの手術、ポリープ切 除 あるいは抜歯な
げんじゅう
かんり
ちゅうい
ひつよう
どには 厳 重 な管理と注 意 が必 要 です。ワーファリンはとても大切な
き
き
す
ぎ
る
薬ですが、利き過ぎると出血を起こす危険があります。この中には、
はぐき
しゅっけつ し ぎ ん しゅっけつ
び しゅっけつ
ひ か しゅっけつ
かんせつないしゅっけつ
歯茎からの 出 血 (歯齦 出 血 )、鼻 出 血 、皮下 出 血 や関 節 内 出 血
じゅうとく
のうないしゅっけつ
しょうかかんしゅっけつ
などだけでなく、重 篤 な脳 内 出 血 や消 化 管 出 血 などもあります。
ていきてき
従いまして、ワーファリン服用中は定期的な INR のチェックを必ず行
ひつよう
って頂く必 要 があります。
そがいやく
¨
ACE阻害薬
どうみゃく
きんちょうじょうたい
レニベース®、カプトリル®、チバセン®などです。動 脈 の 緊 張 状 態
かいじょ
を解 除 します。
やくざい
¨
ARB と呼ばれる薬剤
どうみゃく
きんちょう じょうたい
かいじょ
ディオバン®、ブロプレス®などです。 動 脈 の 緊 張 状 態 を解 除 し
ます。
な か ま
¨
スタチンの仲間
メバロチン®、ローコール®、リピトール®、リポバス®などです。コレ
かんぞう
ごうせい
おさえる
ステロールの 肝 臓 での 合 成 を抑える ことによってコレステロール値
にじてき
を下げます。これによって二次的に狭心症や心筋梗塞を抑えることが
できます。
た
¨
やくぶつ
その他 の薬物
とうにょうびょう
こうけつあつ
こうにょうさんけっしょう
りにょうざい
糖 尿 病 、 高 血 圧 や 高 尿 酸 血 症 に対する薬、 利 尿 剤 あるいは
きょうしんやく
ふくよう
強 心 薬 なども必要に応じて服 用 する必要があります。
だ い き ぼ りんしょう
これらの薬物の中で、今まで世界じゅうで行われてきた大規模 臨 床
しけん
にじてき
よぼうこうか
試験によって虚血性心疾患に対する二次的な予防効果(=その後に急性
しょうめい
心筋梗塞や突然死が起こる可能性が低下する)が 証 明 されている
やくぶつ
こうかんしんけいしゃだんやく
いちぶ
薬 物 としては、アスピリン、ベータ交 感 神 経 遮 断 薬 、一部のカルシ
(67)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
きっこうやく
そがいやく
しょうさんやく
ウム 拮 抗 薬 、ACE阻害薬 そしてスタチンがあります。 硝 酸 薬 は
しょうじょう
げきてき
かいぜん
ざんねん
よぼうこうか
しょうめい
症 状 を劇 的 に改 善 しますが、残 念 ながら予防効果は 証 明 されて
いません。
かんどうみゃくばいぱすしゅじゅつ
² 冠動脈バ イパス手術
冠動脈バイパス手術は 1950 年代の昔に米国で開発された手術法です。
詰まったり狭くなったりした冠動脈の先に、新たに血管をつないで
わきみち
脇 道 (バイパス)を通して血液を流す手術法です。このバイパスとして
あし
じょうみゃく だいふくざいじょうみゃく
むね
ないそく
どうみゃく
用いる血管には、足 の 静 脈 ( 大 伏 在 静 脈 )、胸 の内 側 の 動 脈
ないきょうどうみゃく
( 内 胸 動 脈 )その他の動脈が用いられます。
ひとびと
いのち
これまでに多くの人々の 命 を救ってきた手術ですが、やはり心臓に対
じゅうだい
しゅじゅつがっぺしょう
する手術ですので 1~2%程度の 重 大 な 手 術 合 併 症 を伴います。心
ぎじゅつてきしゅうれん
臓外科医はこの合併症を少しでも低下させるために、技 術 的 修 練 を
つづける
しゅじゅつほう
かいりょう
続けるだけでなく 手 術 法 の 改 良 を常に行っています。
(68)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
お
よ
み
け い ひ て き かん どうみゃく
n こ れ ま で お読み に な り 、 経皮的 冠 動 脈
けいせいじゅつ
けいひてきかんどうみゃく
形 成 術 ・経皮的冠動脈インターベンション
きょけつせいしんしっかん
について、そして虚血性心疾患というものに
り か い いただ
ついてご理解 頂 けましたか?
むずかしい ないよう
いちど
こんなん
しつもん
難しい 内 容 なので一度でご理解して頂くのは困 難 かも知れません。ご質 問 な
い し
かんごし かんごふ
どがございましたならば医師や看護師(看護婦)にご質問ください。そして、患者
ちりょうほう
ないよう
ちりょうほう
う け る りえき
さんとご家族が病気について、治 療 法 の内 容 について、治 療 法 から受ける利益
こうむるかのうせい
ふりえき
と被 る 可能性のある不利益について十分にご理解して頂くことをお願いします。
しょうなんかまくらそうごうびょういん しんぞう
じゅんかんきか
そして、私たち 湘 南 鎌 倉 総 合 病 院 心 臓 センター循環器科 のスタッフ、
しょくいんいちどう
びょうき
ちりょう
職 員 一 同 と一緒になって病 気 を治 療 していきましょう。
きょけつせいしんしっかん
ちりょう
私たち、湘南鎌倉総合病院心臓センター 循環器科は虚 血 性 心 疾 患 の治 療 に
せかい
せいか
おいてこれまでにも世界をリードする成果をあげてきました。これらの成果を
べいこくゆうめい い が く せんもんし
ろんぶん
はっぴょう
過去 10 年間にわたり、20 本以上の米 国 有 名 医学専門誌に論 文 として 発 表 し
ろんぶん
ぜんせかい
じゅんかんきか い し
よ
てきました。これらの論 文 は全世界の循環器科医師に読まれてきました。これ
せかいじゅう
きょけつせいしんしっかん
た い す る ちりょう せいせき
いちじるしく こうじょう
により 世 界 中 で 虚 血 性 心 疾 患 に対する 治 療 成 績 が 著 し く 向 上 してきま
かんじゃ
ごかぞく
かたがた
ぜんせかい
ひとびと
いのち
すく
した。私たちは患 者 さんおよびご家族の方 々 とともに全世界の人 々 の 命 を救
じ ふ
も
こんご
どりょく
っているという自負を持って今後とも努 力 していきます。
(69)
湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
カテーテル検査説明書、同意書
1.診断名(疑い病名を含む):狭心症・陳旧性心筋梗塞・無症候性心筋虚血・
不安定狭心症・急性心筋梗塞・末梢動脈閉塞症・その他( )
2.術 式:冠動脈造影・左室造影・その他( )
手首・肘・鼠径部(大腿部の付け根)を局所麻酔し、カテーテルを血管内へ
と挿入します。レントゲンで確認しながら、冠動脈などの血管を撮影し、診断
や病気の重症度の評価を行います。時間は難易度にもよりますが、15 分から 1
時間程度です。
3.他に取りうる方法:心電図、ホルタ―心電図、超音波、CT、MRI、シンチ
グラム
4.成功の可能性:99%以上
5.起こり得る合併症とその対処法:
死亡、緊急冠動脈バイパス手術・開胸手術、心筋梗塞など、極めて重大な合
併症の可能性は 0.02%(5000 人に 1 人)以下の頻度です。また、血管損傷、心
タンポナーデ、造影剤アレルギー、造影剤腎症、出血、脳梗塞を含む塞栓症、
感染症、穿刺部周囲の神経損傷、不整脈などの合併症の可能性があります。重
篤な場合は、生命に危険を及ぼすこともあり、薬物治療の他、経皮的心肺補助
装置、大動脈内バルーンパンピング、緊急手術などの治療が必要なこともあり
ます。なお、これらの合併症の発生頻度は、大小さまざまなものの合計で 1%程
度とされています。
6.カテーテル検査を行わなかった場合の不利益
心臓、大血管、冠動脈などの状態を正確な把握ができないため、最適な治療
を行えない可能性があります。生命の危険が増大する可能性もあります。
7.同意の撤回について
いったん同意された後でも、いつでも撤回することができます。同意を撤回
されても、不利な扱いを受けたりすることはありません。
8. 治療する責任医師:齋藤 滋、 9. 説明医師 年 月 日 医師名 私は、別紙説明書および上記項目について、十分な説明を受けました。 この検査の内容を理解し、同意します。 年 月 日 患者氏名: 住所: 保証人氏名: 住所: (70)
印 印 湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器内科心臓カテーテル同意説明書
けい
ひ
てき
かん
どう
みゃく
けい
せい
じゅつ
どう
い
しょ
経皮的冠動脈形成術同意書
わ
た
し
しょう なんかまくら そうごう びょういん
しんぞう
じゅんかんきか
かんじゃ
き ほ ん て き じんけん
まもり
ご か ぞ く
私たち、湘 南鎌倉総合 病 院 心臓センター循環器科は患者さんの基本的人権を守り、ご家族と
あんしん
あんぜん
ちりょう
けんさ
もっとも たいせつ
か
ん
が
き ほ ん ほうしん
もども安心して安全な治療・検査を、お受け頂くことを最も大切に考えております。この基本方針
じっせん
かんじゃ
う
けんさ
ちりょう
まえ
かんじゃ
わたしども
ないよう
を実践するために、患者さんが受けられる検査・治療の前に、患者さんが私どもよりその内容、
い
ぎ
か
ん
か
ん
が
がっぺしょう
じゅうぶん
せつめい
り
か
い
う
な
に
じゅうよう
意義 、考えられる 合併症 について 十 分 な説明 とご理解 を受けられる ことを何より も 重 要 と
が
ひつよう
けんさ
ちりょう
か
ん
じゅうぶん
な っ と く
い
か
考えていますし、必要です。この検査および治療に関して、十 分 にご納得されたならば、以下の
しょめいらん
し ょ め い
たんとう い
し
ほんどういしょ て い し ゅ つ ご
けんさ
署名欄にご署名の上、担当医師にお渡し頂きたく存じます。本同意書ご提出後であっても、検査・
ちりょう
じっし
とき
ど
う
い
て っ か い
じ
ゆ
う
治療 の実施 までいかなる時 にもご同意 をご撤回 されることはご自由 であります。そしてそのご
てっかい
いこう
た
い
しんりょう
か
ん
ほんけんさ
ちりょう
う
撤回によって、それ以降のあなたさまに対する 診 療 に関して、本検査・治療をお受けにならな
こうむる
いがい
ふ り え き
いことにより被る可能性のあること以外のいかなる不利益を受けられることはありません。
わたくし
い し
せつめい い
し
しょめい
ひつよう
私 は医師( [説明医師の署名が必要])か
びょうめい
たいして
ら 、 病 名 ( ) に 対して
けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ
ひつようせい
りえき
経 皮 的 冠 動 脈 形 成 術 の必 要 性 、その治療により得られる考えられる利益と
ふりえき
きけんせい
がっぺいしょうなど
せつめい
う
不利益、あるいは危険性、そして 合 併 症 等 についての説 明 を、受けました。
せつめいぶん
よ く よ み ぎもんてん
い し
むんてら
う け なっとく
また、説 明 文 を良く読み疑問点については医師からの説 明 を受け 納 得 しまし
じょうき
りょうしょう
うえ
けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ
う け る
しょうだく
た。 上 記 を 了 承 の 上 で、 経 皮 的 冠 動 脈 形 成 術 を受けることを 承 諾 す
きんきゅう
さい
たんとうい
はんだん
しょうだく
るとともに、緊 急 の際 には担当医の判 断 にゆだねることを 承 諾 いたします。
へいせい
平 成 年 月 日
かんじゃ
じゅうしょ
患 者様 住 所
かんじゃ
しめい
患 者 様氏名 印
だいりにん
じゅうしょ
代理人 様 住 所
だいりにん
しめい
代理人 様氏名 印
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