中国子会社再編の基本(4)清算

浜銀総合研究所 中国ビジネスサテライト「中国コラム」 2015 年 2 月号 http://www.yokohama-ri.co.jp
中国子会社再編の基本(4)清算
チャイナ・インフォメーション 21 筧武雄
1. 概要
「清算」とは、その名のとおり会社を清算し、企業登記を抹消することである。基本的な規
定は「中国公司法」(2006 年 1 月改正施行)第 10 章のほか、企業形態別に「外資企業法実施細
則」第 12 章、「中外合資経営企業実施細則」第 14 章等にも関連の細則が定められている。
2. 清算の種類
外資を含め、有限責任会社は事前の期限延長申請が政府に承認されない限り、経営期限日に
は必ず企業清算しなければならない。また期限到来前でも、企業定款と董事会(以下、出資者
経営会議という)の全員一致重要事項決議にもとづく自主的な中途解散も可能であり、そのほ
か裁判所や工商行政管理局による閉鎖清算命令、あるいは債務超過・経営難に至った場合の出
資者訴訟や自己破産申請(裁判所所轄)等のケースもある。
3. 税務処理
経営期限日もしくは政府審査認可当局(工商部門)の認可を受けて董事会を解散する日をも
って企業活動を終了し、財務会計帳簿を閉じ、期中での最終決算と確定申告を行うことになる。
翌日以降は「清算期間」に入り、企業清算委員会1が組織され実際の清算処理手続きを進める
ことになる。この際に所轄の中国税務局、税関等による清算監査が実施される。
(1) 清算・撤退に対する税務監査
清算・外資撤退に伴い、経営期間の最終決算の確定申告内容と清算会計処理に対する税務監
査が実施される。日本とは異なり中国の課税遡及期間には時効が無く、たとえ過去に申告納税
済みの所得であっても、清算監査の過程で帳簿不備、領収書・請求書(発票)等の証拠紛失や
偽造変造、隠滅が発見されれば再課税(二重課税)されるリスクもある。そのため十分な事前
準備が求められる。
財産処分(廃棄、売却、分配等)は譲渡益課税の対象とされ、納税後の最終決算の配当可能
利益と清算所得分配金に対して親会社に対する源泉所得税が源泉徴収される。
・みなし配当所得=最終決算の配当可能利益
・清算所得分配金=全財産時価評価−簿価−清算費用−関連税金−債務処理損益等
(2) 中途撤退に伴う企業所得税等優遇措置の取消
企業設立当初、中国政府の優遇政策にもとづいて所得税の免税・優遇措置、あるいは地方政
府の増値税や土地使用権譲渡代金の一部還付など各種の優遇措置を受けていた場合、中途撤退
に伴って「優遇資格喪失」となり、優遇された所得税、関税、増値税、各種補助金などが追徴
されるリスクがある。
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(3) 関税優遇措置と保税扱いの取消
会社設立当初に中国税関から関税の免税・優遇措置あるいは保税扱いを受けてきた自家用機
械設備、金型、部品、材料等については、所轄税関の検査を受け、必要な関税・増値税を納付
して税関の監督管理から外してもらわなければ清算処分することができない。また、実地検査
で税関が把握する保税監理品目と実際の物品・在庫に相違があった場合、密輸行為とみなされ
処罰の対象とされる。
4. 課題とリスク
(1) 裁判所への破産申請
破産申請は裁判所の所轄で中国弁護士による手続きが必要となるが、多くの場合は出資親会
社に追加増資等の経営支援が求められ、一時の経営難だけを理由に破産申請が直截に受理され
るケースは少ない。万一、合法的手続きを経ずに経営者が国外逃亡(夜逃げ等)した場合は「不
正常な撤退」2とみなされ、中国政府は刑事罰による国際指名手配、関係者の出国停止処分と
氏名・社名の公開、海外親会社に対する責任追及など、厳罰に処する方針を表明している。こ
れは経営期限が到来したにもかかわらず、合法的な清算手続きをせずに剰余利益金を違法に
国外に持ち去る行為等に対しても適用され、この場合は中国子会社の法人登記は経営期限が
到来した後も抹消されることはなく、解決されるまで政府当局のブラックリストに掲載され、
インターネット上で公開されることになる。3
(2) 労働紛争
撤退に伴い発生する労務関連トラブルに対しても、合法的かつ適切な対処が必要とされる。
退職金の支払い、社会保険や奨励福利基金、住宅積立金、未消化有給休暇の清算、社宅等福利
関係施設の処分等が伴う。万一トラブルに至った場合は、ストライキ、デモ、ロックアウト、
器物損壊や備品・車両等の盗難事故、さらには経営者に対する暴行、拉致監禁事件にまで及ん
だケースもあり、労務紛争対策については早期から慎重な準備と、中国法に沿った適切な対応
が求められる。
(3) 周辺関係者・住民からの嫌がらせ
外資が撤退を表明すると周辺関係者、住民等が難色を示す場合もある。合弁企業の場合は合
弁パートナー役員全員の同意が無ければ法律上も中途撤退は不可能であり、撤退後の経営権や
買収をめぐって中国企業同士でトラブルが発生する場合もある。また、過去の環境問題や製造
責任問題等のトラブルを抱えたまま撤退を表明したり、多人数を雇用していた場合の失業問題、
連鎖倒産や不良債権増加を恐れる現地金融機関、ビジネス機会を失う地域企業や調達先を失う
顧客の反対運動、賃貸工場・店舗・社宅の家主との立ち退きをめぐるトラブルなど様々な周辺
との利害調整が必要となる場合もある。
(4) コピー工場化のリスク回避
撤退完了後、閉鎖したはずの工場がライバル企業など他社に買収されたり、勤務していた技
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術者、製造管理者、労働者がライバルへの転職や自主経営を始めたりして、勝手に同等コピー
品を製造し始めるケースがある。中国法には競業避止義務、守秘義務も定められており、訴訟
も可能とはされているが、当社撤退後のことでもあり実効性に乏しい。撤退前に現地関係者と
提携関係を結んでおく、グループ企業化しておくなど、後日にトラブルを残さないための対応
措置も必要と思われる。
以上
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通常は董事会と同一メンバーで清算委員会を設置するが、日本側・日本人董事が清算委員会の主席に就くこともできる。
「不正常な撤退」については次回詳細解説。
3 裁判所管理下に移された建物・施設・設備等の清算財産は立入禁止、移動禁止となり、後日関係責任者が入国した後に
出国停止処分となってしまうリスクもある。事後整理のためには、まず中国の法律弁護士による正当な法手続きが必要。
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