薬 、 サ プ リ … … な る た け 介 入 し な い

精神神経科医
石川憲彦
special issue
肥満、自閉症、アレルギーに関係?
腸内バランスが乱れて起こること
に
イイネ!
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私が抗生物質を控えるわけ
私が小児科になった、いまから四〇年くら
い前は、抗生物質が急激に普及した時代でし
た。そんな風潮のなかにあって、私が抗生物
質を厳密にしか使わなくなったのは、ある微
生物研究者に『腸内細菌の話』
(光岡知足/岩
波新書)という本をすすめられたのがきっか
けです。そこには、当時のパプアニューギニ
ア人の腸内細菌をめぐる話がのっていました。
か い つ ま ん で 説 明 す る と、「パ プ ア ニ ュ ー
ギニア人の食事は、ほとんどイモ類(炭水化
物)が中心で、いつもたんぱく質欠乏の状態
で生きている。それなのに、健康状態がよく、
骨も筋肉も発達しているのはなぜか。それは、
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本誌編集委員。林試の森クリニッ
ク 院 長。著 書に『思 春 期・反 抗 期
になってもいつまでもいつまでも text by Ishikawa Norihiko
みまもることば』(小社刊)
など
薬、
サプリ……
なるたけ
介入しない
腸内細菌
変えているのが原因であろう。腸内の空気の
彼らの腸内細菌が、炭水化物をたんぱく質に
は神罰だと信じられていたが、じつは腸内細
食べる。すると、命を落とす人がでる。それ
「彼らは年に一度のお祭りで豚肉をたらふく
化物を栄養とする腸内細菌が主。その細菌に
中の窒素と炭水化物を組みあわせることで、
その話は、すっと理解できました。田んぼ
とって、豚肉(たんぱく質)は自分が出す老
菌の反応だった」。どういうことかというと、
のまわりに菜の花を植えるのは、人工肥料な
廃物のようなもの。老廃物が増え、主なる菌
腸内細菌がたんぱく質をつくり出していると
しでも自然と土が豊かになるからだと、かつ
が死に、腸内のバランスが乱れたことで、雑
イモばかり食べている彼らの腸の中は、炭水
て小学校でどの子も学んでいたからです。菜
菌が混入したり、感染症を防げなくなると推
考えられる」というのです。
の花の根には「根粒バクテリア」という細菌
さて、当時の産院では、赤ちゃんを同じベ
測されるのです。
れ、自然肥料をつくってくれる。なるほど、
ッドに寝かせないよう指導されていました。
がすんでいて、それが空気中の窒素をとりい
根粒バクテリアと同じような細菌を、人間も
母親はそれぞれもっている菌種がちがい、赤
ペ ー ジ に く わ し く)。 赤
ちゃんはお産の際にそれぞれの母親からその
菌 を も ら い ま す(
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腸に飼っているのかと。
パプアニューギニア人の話には続きがあり
ます。
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ころが、ほかの母親のもつ細菌は、赤ちゃん
受け入れる免疫上の契約ができています。と
ちゃんと母親の菌はほとんど同じですから、
係を強めていくのが生き残りのひけつです。
入によって腸内細菌たちが活性化し、同盟関
けでのりきれる。薬に頼るより、病原菌の侵
せんが、そのほとんどは免疫力と守護霊の助
なるたけ自然に、
〝守護神〟と生きる
にとってみれば未知のものがまざっている。
だから、ある赤ちゃんには問題のない菌でも、
べつの赤ちゃんにはなんらかの反応を起こす
ことがありえるといわれていたのです。
う守護霊をあたえた。この霊は、先祖伝来ど
私たちにひとり一人異なる「腸内細菌」とい
うまく調和できるといいけれど、宗教戦争が
いろんな文化を持つ神々の霊が入ってきた。
た。長く同盟の契りを強めてきた守護霊に、
日本人の食生活は近年がらりとかわりまし
んな食べ物をとり、どう生きてきたかによっ
起こるとたいへんなことになる。そういった
マンガ風にいえば、自然を創造した神様は、
て、母親からこどもに受け継がれ、命を守っ
ミスマッチが、アレルギーなどいくつかの病
ここで、お話を精神科の問題にも広げまし
です。
因のひとつといわれるのは、ご存知のとおり
てきたのです。
抗生物質は、そんな守護霊たちを、敵も味
方も見境なく殺してしまいます。こどもの病
気は微生物が引き起こすものも少なくありま
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ょう。
人 が 自 然 と と も に す ん で い た と き は、
「自
然淘汰」といって、自然環境の変化に対応す
ることで私たちは生きのびてきた。腸内細菌
たちもまたしかりです。ところが、人間が自
然を支配し始めると「社会淘汰」が生まれま
した。とくに近代化は、いわば科学宗教や資
本主義宗教という新しい「人為的な神様」を
産み出し、淘汰を強めました。
新しい神々は「かしこさ」や「じょうぶさ」
な ど を、 土 着 の 神 の「筋 肉 隆 々」 か ら、
「学
歴」や「健康」
、最近では「鈍感力」なんて言
葉を産むほどに、次々とすり替えようとして
います。人がつくり出した神様は、社会権力
の求めにしたがい都合よくあらゆる言葉をつ
くり変えるのです。人間の都合で進化の方向
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もになにかいいことをしたくなりがちです。
と思うもの。でも、それはその子のもつ守護
がゆがみ始め、いまでは、お金を効率よく、
人為的な神様は、今後ますますころころと
神と、これからやって来る新しい神様との相
腸内細菌の話にもどせば、腸内バランスによ
変わるでしょう。いまよしとされる価値観が
性の問題で、人為的にあやつることはむずか
パソコンひとつで稼げるようなこどもが生き
いつまで続くか、保証などまったくありませ
しいのです。だから、なるべく、なにもしな
さそうな食品や製剤があると聞けば試したい
ん。一方、どんなときもブレがないのは「自
いこと。かといって自然を主張して昔ながら
残りやすくなってきました。
然 の 神 様」
。 だ か ら、 先 の 見 え な い 社 会 淘 汰
の生活を送ろうとしすぎるのも、残念ながら
偽神様がいっぱいいるような社会ではなく
にそなえるよりも、自然環境を大事にするこ
ると、土や虫に触れ、大人が介入することな
て、守護神を生かせる社会をとりもどす。そ
あっさり社会淘汰されるでしょう。
く、なるたけ自然に暮らしているこどもたち
のためには、美化された自然だけでなく、弱
とのほうがよっぽど大事。世界的な視野で見
のほうが、次の時代の主役になる可能性が高
さや貧しさ、病気までも、大切な宝として受
(まとめ/編集部)
けとめていかないとと思います。
いでしょう。
私たちは、うつろいやすい神々の「じょう
ぶ」や「たくましさ」にこだわり、ついこど
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