「イスラーム国」の生態 中東調査会イスラーム過激派モニター班 はじめに 2014 年の中東における重大事件のひとつに、 「イスラーム国」とそれにまつわる様々なで きごとが挙げられるのは衆目の一致するところであろう。 「イスラーム国」については、2014 年 6 月に突如姿を現して「国家」の樹立を宣言した、或いは中東における現行の国際秩序に 対する挑戦者である、中東における宗派紛争の代表者である、との極端に単純化した論評も 見られた。また、国家観や世界観のような「イスラーム国」の思想信条をイスラーム法学や 思想研究の様々な業績を遡って論じる努力も見られた。これらは、「イスラーム国」につい て何らかの説明を行う営みの一端であるが、分析の視角や時間的な幅があまりにも広がり すぎることにより「イスラーム国」についての情報が過多となり、かえって理解が妨げられ るような状況さえ招いている。また、2015 年 1 月に発生した日本人 2 名の誘拐・殺害事件 を契機に、 「イスラーム国」についての様々な憶測や推測が流布し、 「イスラーム国」が今後 も日本人を攻撃すると脅迫したことについて過剰とも言える反応が見られた。このような 反応は、粘り強い観察を通じて「イスラーム国」の生態を明らかにすることにより、相当程 度抑制できたものであろう。言い換えれば、 「イスラーム国」の思考や行動の様式を事前に 知ってさえいれば、彼らが発する脅迫や、彼らが引き起こす事件についても適切な分析や反 応をすることが可能となるはずだということである。本稿は、「イスラーム国」についての 情報過多状態を整理し、 「イスラーム国」について抱かれる様々な疑問に簡潔に答えること を目標とするものである。 目次 第一部: 「イスラーム国」の自然環境 二大河の国 シャーム 天然資源の分布 モスル ラッカ ダイル・ザウル アブー・カマール アンバール県 シンジャール山地 第二部: 「イスラーム国」の歴史 アブー・ムスアブ・ザルカーウィー イラク・イスラーム国 アル=カーイダ シリア紛争 ヌスラ戦線: 「イスラーム国」の敵対者 「良い」武装勢力、 「悪い」武装勢力 アブー・バクル・バグダーディー 第三部: 「イスラーム国」の思想 カリフ制 サイクス・ピコ協定 他宗教・他宗派 欧米観 民主主義観 「イスラーム国」とイスラエル 第四部: 「イスラーム国」の行動様式 自爆 斬首(斬首映像発展史) 外国人の潜入 広報活動 国際的展開 経済活動:財源や支出 武装 戦闘員の待遇 第五部: 「イスラーム国」の日常 “国民” (家族ぐるみのヒジュラ) 刑罰 「イスラーム国」と女性 その 1:性奴隷、結婚ジハード 「イスラーム国」と女性 その 2:戦闘員の結婚 「イスラーム国」と女性 その 3:女性戦闘員 歌 教育 通貨 食生活 娯楽 第六部: 「イスラーム国」と日本 「イスラーム国」に惹かれる人々 「イスラーム国」にとっての日本 参考書籍
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